説明

カーボンブラック樹脂粉砕組成物、カーボンブラック樹脂組成物及びこれを用いたオフセット印刷インキ

【課題】 貯蔵安定性とインキ生産性の向上を共に有するオフセット印刷インキを提供すること。
【解決手段】 ジブチルフタレート吸油量が60〜105ml/100gである酸化処理されていないカーボンブラックに、印刷インキ用常温固体樹脂を加えて乾式粉砕することにより得られるカーボンブラック樹脂粉砕組成物。カーボンブラック100重量部に対して印刷インキ用常温固体樹脂が1〜100重量部である上記記載のカーボンブラック樹脂粉砕組成物。これを用いて得られるカーボンブラック樹脂組成物及びオフセット印刷インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性が良好なカーボンブラック樹脂粉砕組成物及びカーボンブラック樹脂組成物、並びにインキ品質及び貯蔵安定性が良好なオフセット印刷インキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常オフセット印刷における墨インキは、カーボンブラックを印刷インキ用溶剤及びワニス混合物中に混合、分散することにより製造されている。そしてこのインキを基材に印刷することによりオフセット印刷物を得ている。
【0003】
上記オフセット印刷インキが光沢や着色度等のインキ特性を発揮するために、カーボンブラックが印刷インキ用溶剤及びワニス混合物中に良好に分散されていることが必要である。しかし高分散には長時間を要するため、インキ製造工程における多大な時間と労力を費やしていた。
【0004】
この改善策として、カーボンブラックと印刷インキ用常温固体樹脂とを乾式粉砕し、得られたカーボンブラック樹脂粉砕組成物を印刷インキ用溶剤及びワニス混合物中に混合、分散することによって、カーボンブラックが上記混合物中に良好に分散されたカーボンブラック樹脂組成物の製造方法が開示されている(特許文献1〜3参照)が、これは貯蔵安定性に劣るため改善が必要であった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−322407号公報
【特許文献2】特開2002−327143号公報
【特許文献3】特開2002−322408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明において解決しようとする課題は、従来のオフセット印刷用墨インキで得られていた以上の分散性や光学適性等のインキ品質と従来のカーボンブラックと樹脂との乾式粉砕で得られた樹脂粉砕組成物より得られた印刷インキでは実現できなかった貯蔵安定性の向上を実現させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、ジブチルフタレート吸油量が60〜105ml/100gである酸化処理されていないカーボンブラックに、印刷インキ用常温固体樹脂を加えて乾式粉砕して得られるカーボンブラック樹脂粉砕組成物である。
【0008】
第2の発明は、カーボンブラック100重量部に対して印刷インキ用常温固体樹脂が1〜100重量部である第1の発明に記載のカーボンブラック樹脂粉砕組成物である。
【0009】
第3の発明は、印刷インキ用固体樹脂がロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、石油樹脂、アルキッド樹脂から選ばれる1種以上である第1又は第2の発明に記載のカーボンブラック樹脂粉砕組成物である。
【0010】
第4の発明は、第1〜第3の発明いずれか記載のカーボンブラック樹脂粉砕組成物を、印刷インキ用溶剤及びワニス混合物に混合、分散して得られるカーボンブラック樹脂組成物である。
【0011】
第5の発明は、第4の発明に記載のカーボンブラック樹脂組成物を用いて得られるオフセット印刷インキである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカーボンブラック樹脂粉砕組成物は、ジブチルフタレート吸油量が60〜105ml/100gである酸化処理されていないカーボンブラックに、印刷インキ用常温固体樹脂を加えて乾式粉砕して得られるので、カーボンブラックの分散性が良好である。
【0013】
本発明のカーボンブラック樹脂粉砕組成物は、カーボンブラック100重量部に対して印刷インキ用常温固体樹脂が1〜100重量部なので、乾式粉砕器内部で樹脂の付着、固着が生じる危険性が少なく粉砕工程が円滑に行なえ分散性が良好である。
【0014】
本発明のカーボンブラック樹脂粉砕組成物は、印刷インキ用固体樹脂がロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、石油樹脂、アルキッド樹脂から選ばれる1種以上なので、分散性が良好であり、オフセット印刷インキに良好に適用できる。
【0015】
本発明のカーボンブラック樹脂組成物は、上記カーボンブラック樹脂粉砕組成物を使用するため、カーボンブラックの分散性が良好である。
【0016】
本発明のオフセット印刷インキは、上記カーボンブラック樹脂組成物を用いて得られるので、カーボンブラックの分散性が良好であり、着色力及び光沢が優れる。また貯蔵安定性も良好である。また、インキ生産コストが低いので低価格での提供が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<カーボンブラック>
本発明で用いられるカーボンブラックは、酸化処理されていないもの、かつDBP(ジブチルフタレート)吸油量が60〜105ml/100gの範囲のものである。
一般に印刷インキに用いられるカーボンブラックは、樹脂等との相溶性を高めるため酸化処理されている。酸化処理としてはオゾン酸化、高濃度酸素吹き込み、硝酸酸化等が挙げられ、このためコスト高が生じている。本発明においてはこれらの処理が一切されていないカーボンブラックが用いられる。
【0018】
また、本発明で用いられるカーボンブラックのDBP(ジブチルフタレート)吸油量は特に70〜105ml/100gの範囲が好ましい。尚、本発明におけるDBP吸油量とは、JIS K 6217−4(2001年度)に準拠した方法で測定した値である。
上記2つの条件を満たすカーボンブラックで市販されているものとしてニテロン#200LG(新日化カーボン(株)製)、BP4302(キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク製)、HiBlack20B(Degussa製)等が挙げられる。
また、カーボンブラックは、粒状、粉状であれば特に形状を問わない。
【0019】
<印刷インキ用常温固体樹脂>
本発明で用いられる印刷インキ用常温固体樹脂は、印刷インキとしての特性を維持させるために用いられる。具体的にはロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、石油樹脂、アルキッド樹脂等オフセット印刷インキに用いられる公知の常温固体の樹脂が挙げられるが、ロジン変性フェノール樹脂が好ましく、なかでも重量平均分子量1〜12万の範囲が好ましい。
これらの樹脂は単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0020】
<カーボンブラック樹脂粉砕組成物>
カーボンブラック樹脂粉砕組成物は、カーボンブラックに印刷インキ用常温固体樹脂を加え、実質的に液状物質を介在させないでカーボンブラックを粉砕することによって得られる。このとき、金属ボール等の粉砕メディアを用いてもよい。粉砕メディアを用いる場合は、粉砕メディアの衝撃による力を利用してカーボンブラックを粉砕する。粉砕メディアを用いない場合は摩砕力を利用してカーボンブラックを粉砕する。
乾式粉砕機としては乾式のアトライター、ボールミル、振動ミル等を用いることができる。
【0021】
乾式粉砕における各成分の配合量は、カーボンブラック100重量部に対して印刷インキ用常温固体樹脂1〜100重量部の範囲が好ましい。カーボンブラックに対する印刷インキ用常温固体樹脂の添加量が多いと、乾式粉砕機内部で樹脂が付着または固着する危険性が高くなる傾向がある。これは当然のことながら樹脂の軟化点、粉砕温度にも影響されるため、これらの条件を加味しながら最適処理量を決める必要がある。
粉砕時間は、粉砕装置の種類や希望とする粉砕粒径に応じて任意に設定できる。また、乾式粉砕温度は80〜200℃の範囲が好ましい。
【0022】
乾式粉砕機内部の酸素濃度は、粉砕機の種類、粉砕温度などの製造条件と、粉砕するカーボンブラック、印刷インキ用常温固体樹脂などの原料により決定する。乾式粉砕終了時に低酸素濃度であると粉塵爆発防止の安全性の面からも有効である。
また、乾式粉砕の際、窒素などの不活性ガスを流すことにより乾式粉砕機内部の酸素濃度をコントロールしてもよい。
【0023】
乾式粉砕工程によりカーボンブラック表面は酸化されると共に、印刷インキ用固体樹脂と強固に吸着させることができる。これによりカーボンブラック樹脂粉砕組成物におけるカーボンブラックの分散性が向上して、オフセット印刷インキを製造した際に、インキ印刷面における光沢の向上が得られると考えられる。
【0024】
また、流動性・貯蔵安定性に優れたオフセット印刷インキを得るには、印刷インキ用溶剤及びワニス混合物に混合、分散させる際のカーボンブラックのDBP吸油量は60〜70ml/100gが好ましい。
本発明のカーボンブラック樹脂粉砕組成物におけるカーボンブラックのDBP吸油量は上記範囲に収束するので、流動性・貯蔵安定性に優れたオフセット印刷インキが得られる。
【0025】
<カーボンブラック樹脂組成物>
本発明のカーボンブラック樹脂組成物は、カーボンブラック樹脂粉砕組成物を印刷インキ用溶剤及びワニス混合物に混合、分散して得られる。
印刷インキ用溶剤またはワニス中の溶剤としては、高沸点石油系溶剤、脂肪族炭化水素溶剤、高級アルコール系溶剤等オフセット印刷インキに適した溶剤であれば芳香族を含まない溶剤であってもよいし、単独でも2種類以上の組み合わせでも任意に用いることができる。
【0026】
また、印刷インキワニス用樹脂としてはロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、石油樹脂、アルキッド樹脂等の印刷インキに適した公知の樹脂と大豆油、桐油、アマニ油等の印刷インキに適した公知の乾性油や重合乾性油等を、単独または2種類以上組み合わせて使用できる。また、印刷インキ用の添加剤等も添加することができる。
【0027】
カーボンブラック樹脂粉砕組成物を印刷インキ用溶剤及びワニス混合物に混合、分散する際の温度は60〜130℃が好ましく、時間は20〜480分間が好ましい。
【0028】
<オフセット印刷インキ>
本発明のオフセット印刷インキは、カーボンブラック樹脂組成物に適宜印刷インキ用溶剤及びワニス混合物を添加し公知の方法で得られる。
【実施例1】
【0029】
本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。以下の記載において部は重量部を、%は重量%をそれぞれ表す。
【0030】
[実施例1]
乾式アトライタに、DBP吸油量100ml/100gの酸化処理されていないカーボンブラック(ニテロン#200LG、新日化カーボン(株)製)70部と、軟化点160℃、重量平均分子量8万のロジン変性フェノール樹脂11重量部を加え、130℃で1時間粉砕し、カーボンブラック樹脂粉砕組成物を得た。この粉砕条件で得られたカーボンブラックのDBP吸油量は67ml/100gであった。
カーボンブラック樹脂粉砕組成物23部を、印刷インキ用ワニス50部、7号ソルベント(新日本石油(株)製)7部に加え、120℃にて4時間緩やかに撹拌混合した後、3本ロールで分散し、ベースインキ(カーボンブラック樹脂組成物)を得た。
次に、ベースインキにワニス9部、7号ソルベント11部を加え最終インキ(オフセット印刷インキ)を得た。
【0031】
[実施例2]
乾式アトライタに、DBP吸油量75ml/100gの酸化処理されていないカーボンブラック(BP4302、キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク製)70部と、軟化点160℃、重量平均分子量8万のロジン変性フェノール樹脂18部を加え、120℃で1時間粉砕し、カーボンブラック樹脂粉砕組成物を得た。この粉砕条件で得られたカーボンブラックのDBP給油量は62ml/100gであった。
カーボンブラック樹脂粉砕組成物24部を、印刷インキ用ワニス49部、7号ソルベント(新日本石油(株)製)7部に加え、120℃にて4時間緩やかに撹拌混合した後、3本ロールで分散し、ベースインキ(カーボンブラック樹脂組成物)を得た。
次に、ベースインキにワニス11部、7号ソルベント9部を加え最終インキ(オフセット印刷インキ)を得た。
【0032】
[比較例1]
乾式アトライタに、DBP吸油量123ml/100gの酸化処理されていないカーボンブラック(ニテロン#200IS、新日化カーボン(株)製)70部と、軟化点160℃、重量平均分子量8万のロジン変性フェノール樹脂18部を加え、160℃で1時間粉砕し、カーボンブラック樹脂粉砕組成物を得た。この粉砕条件で得られたカーボンブラックのDBP給油量は75ml/100gであった。
以下、実施例2と同様にしてベースインキ及び最終インキを得た。
【0033】
[比較例2]
DBP吸油量64ml/100gの酸化処理カーボンブラック(MA11、三菱化学(株)製)19部と、印刷インキ用ワニス61部を120℃にて4時間緩やかに攪拌した後、3本ロールで分散し、ベースインキを得た。
次に、ベースインキにワニス12部、7号ソルベント8部を加え最終インキを得た。
【0034】
[比較例3]
乾式アトライタに、DBP吸油量64ml/100gの酸化処理カーボンブラック(MA11、三菱化学(株)製)88部を加え、120℃で1時間粉砕し、カーボンブラック粉砕組成物を得た。この粉砕条件で得られたカーボンブラックのDBP給油量は61ml/100gであった。
カーボンブラック粉砕組成物19部を、印刷インキ用ワニス61部に加え、120℃にて4時間緩やかに撹拌混合した後、3本ロールで分散し、ベースインキを得た。
次に、ベースインキにワニス12部、7号ソルベント8部を加え最終インキを得た。
【0035】
[評価]
以下の評価を行い、結果を表1に示した。
(1)DBP吸油量
JIS K 6217−4(2001年度)に準拠した方法で測定した。
【0036】
(2)貯蔵安定性
得られた最終インキを常温及び70℃で15時間貯蔵した。
各温度で貯蔵後のインキの流動性を、静置流動性試験器((株)豊栄精工製)を用いて常温下で測定し、比較例2で得られたインキの流動性を標準(1.00)として比較した。数字が大きくなるほど良好な貯蔵安定性を示す。
【0037】
(3)インキ品質
(3−1)分散性
3本ロールを用いてロール間圧力10bar、温度60℃の条件下で一定重量のベースインキをロール間に通して分散させた。グラインドゲージ7.5μmになるまでのロールパス回数を分散性の指標とした。数字が小さくなるほど高分散性を示す。
【0038】
(3−2)光学適正
三菱商業用オフセット輪転機 LITHOPIA BT2−800NEO(三菱重工業(株)製)により、最終インキをコート紙に展色した。その展色紙を高速測色分光光度計 Spectro Photo MasterCMS−35SP((株)村上彩技術研究所製)を用いて着色力L*の測定を行い、比較例2で得られた値を基準として比較した。
また、同様にその展色紙をグロスメーター GM−26D((株)村上彩技術研究所製)を用いて光沢値を測定した。数字が大きくなるほど高光沢を表す。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のカーボンブラック樹脂粉砕組成物及び組成物は、オフセット印刷インキ以外のインキや塗料、樹脂成形品等にも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジブチルフタレート吸油量が60〜105ml/100gである、酸化処理されていないカーボンブラックに、印刷インキ用常温固体樹脂を加えて乾式粉砕して得られるカーボンブラック樹脂粉砕組成物。
【請求項2】
カーボンブラック100重量部に対して印刷インキ用常温固体樹脂が1〜100重量部である請求項1に記載のカーボンブラック樹脂粉砕組成物。
【請求項3】
印刷インキ用固体樹脂がロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、石油樹脂、アルキッド樹脂から選ばれる1種以上である請求項1又は2に記載のカーボンブラック樹脂粉砕組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載のカーボンブラック樹脂粉砕組成物を、印刷インキ用溶剤及びワニス混合物に混合、分散して得られるカーボンブラック樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のカーボンブラック樹脂組成物を用いて得られるオフセット印刷インキ。

【公開番号】特開2006−16514(P2006−16514A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196381(P2004−196381)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】