説明

ガスケット構造体

【課題】高圧縮が要求される部位に特に有効であり、且つ長寿命化にも寄与する新規なガスケット構造体を提供する。
【解決手段】シール対象基材2の所定部位に接着剤層4を介してゴム製ガスケット3が一体固着されたガスケット構造体1であって、上記ガスケット3は、ビード状に連なるガスケット本体部3aと、該ガスケット本体部3aの側部に沿って形成された鍔部3bとを備え、上記接着剤層4は、鍔部3bとシール対象基材2との間で、且つガスケット本体部3aと鍔部3bとの境界部3cより反ガスケット本体部3a側に0.1mm以上の幅3dを隔てた帯域3eに形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール対象基材の所定部位に接着剤層を介してゴム製ガスケットが一体固着されたガスケット構造体、例えば、燃料電池のスタックを構成するセパレータの全周囲及び媒体用開口部周りにガスケットを一体に備えるガスケット構造体、或いは、ハードディスク装置等におけるカバーとガスケットとが一体とされたガスケット構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように、シール対象基材とガスケットとが一体とされたガスケット構造体の例としては、特許文献1或いは特許文献2に示される先行技術を挙げることができる。これら特許文献に開示されたガスケット構造体は、上記燃料電池のセパレータ或いはハードディスク装置等におけるカバーをシール対象基材とし、この基材の所定部位に対してゴム材を一体に加硫成型してゴム製ガスケットを固着形成したものである。このように、基材に対してガスケットが一体に固着されていると、そのまま燃料電池やハードディスク装置等の組立工場に持込んで製造に供することができるから、極めて効率的である。しかし、基材とガスケットとは、ゴム材の加硫成型によって一体とされたものであるから、相互の固着力は左程強くなく、その為、組立工場への持込過程での梱包や輸送時に両者が剥がれるといった事態が生じることがある。
【0003】
上記のような観点から、基材の所定部位に接着剤を介しゴム材を加硫成型してガスケットを一体固着形成し、或いは、事前に加硫成型したゴム成型体を接着剤によって基材の所定部位に固着してガスケットを形成することがなされている。このような接着剤層を介してガスケットが基材に固着一体とされたガスケット構造体の例を図8に示す。図8における(a)は、該ガスケット構造体を概念的に示す部分拡大断面図であり、(b)は他方のシール対象基材を合体締結した状態であり、ガスケットが圧縮変形した状態示す断面図である。
【0004】
図8に示すガスケット構造体50は、シール対象基材51の所定部位に接着剤層52を介してゴム製ガスケット53が固着一体に形成されたものである。ガスケット53は、断面が山形でビード状に連なるガスケット本体部53aと、該ガスケット本体部53aの両側部に沿って形成された鍔部53b、53bとよりなり、ガスケット本体部53aと両側部の鍔部53b、53bとは、ゴム材の加硫成型により一体に形成されている。また、シール対象基材51とガスケット53との固着一体化は、前記にように、ゴム材の加硫成型時に接着剤を介してシール対象基材51に加硫接着する方法、或いは、事前に加硫成型したゴム成型体を接着剤によりシール対象基材51に接着する方法によりなされる。そして、接着剤層52はガスケット53の下面全面に亘っている。特許文献3には、ガスケットの一部を接着剤によって基材に固着することが開示されている。
【特許文献1】特開2004−76877号公報
【特許文献2】特開2008−1002号公報
【特許文献3】特開2005−98476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図8に示すようなガスケット構造体50を、他方のシール対象基材(例えば、高分子電解質膜と触媒電極層とを積層一体としたMEA)54と合体締結した場合、この締結力によりガスケット53が図8(b)に示すように圧縮され変形する。この場合、ガスケット53は、接着剤層52によってその下面全面がシール対象基材51に強固に固着されているから、圧縮の際のガスケット53の横流れ及び横方向への膨出が抑制され、これにより他方のシール対象基材54に対して大きな反力が作用する。この大きな反力により、他方のシール対象基材54が変形を来すことがある。特に、燃料電池のように、層厚が薄いMEAを他方のシール対象基材とし、高圧縮下でセパレータと締結される場合は、このような現象を生じ易いという点が指摘されている。また、圧縮力によりガスケット53の内部応力が高くなる為、経時的に、ガスケット53の所謂へたりが促進され、或いは、ガスケット53に亀裂を生じることもあり、更に、接着剤層52にせん断応力がかかる為に、接着耐久性が低下することもある。これらは、シール性に影響を及ぼすことになるので、その改善が望まれるところであった。
【0006】
特許文献3に開示されたガスケットは、背面シール部(ガスケット本体部)に対して密封対象空間とは反対側となる位置において接着剤によって基材に接着されている。このように、接着部を密封対象空間から離間させる目的は、接着剤が密封対象空間に溶出することを防止することであり、上述のような反力、内部応力、更には接着剤層のせん断応力等が原因の不具合の発生を防止することを意図するものでない。
【0007】
本発明は、上記の実情に鑑み、反力、内部応力、更には接着剤層のせん断応力等が原因の不具合の発生と、ガスケット本体に対する接着剤層の形成位置との関係について着目し検証した結果なされたもので、高圧縮が要求される部位に特に有効であり、且つ長寿命化にも寄与する新規なガスケット構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るガスケット構造体は、シール対象基材の所定部位に接着剤層を介してゴム製ガスケットが一体固着されたガスケット構造体であって、上記ガスケットは、ビード状に連なるガスケット本体部と、該ガスケット本体部の側部に沿って形成された鍔部とを備え、上記接着剤層は、鍔部とシール対象基材との間で、且つガスケット本体部と鍔部との境界部より反ガスケット本体部側に0.1mm以上の幅を隔てた帯域に形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明のガスケット構造体において、前記ゴム製ガスケットとしては、所定形状のキャビティを備えた金型内に配置されたシール対象基材の前記帯域に対応する部位に接着剤を塗布した状態で未加硫ゴム材を加硫成型し、シール対象基材に一体固着することによって形成されたものとしても良い。或いは、所定形状のキャビティを備えた金型を用いて加硫成型されたゴム成型体を、前記シール対象基材の前記帯域に対応する部位に塗布された接着剤を介してシール対象基材に一体固着することによって形成されたものとしても良い。後者の場合、前記金型におけるキャビティの前記帯域に対応する面には粗面化処理が施され、前記ガスケットの鍔部における接着剤層との界面には、該金型の粗面化処理面による粗面が形成されているものとすることができる。
【0010】
また、本発明のガスケット構造体においては、前記鍔部が、シール対象媒体の流通域とは反対側のガスケット本体部の側部に沿って形成されているものとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るガスケット構造体は、シール対象基材の所定部位に接着剤層を介してゴム製ガスケットが一体固着されたものであるから、このガスケット構造体が、梱包や搬送等の流通におかれてもシール対象基材とガスケットとが分離することがない。そして、本ガスケット構造体は、燃料電池やハードディスク装置等の組立工場にそのまま持ち込まれ、他のシール対象基材と締結一体とすることにより、当該シール対象基材と他のシール対象基材との間にゴム製ガスケットが圧縮状態で挟圧され、両者間のシールがなされる。従って、上記の組立工場では、別途準備したガスケットをシール対象基材間に介装する作業が不要とされ、組立て作業の効率化が図られる。
【0012】
上記締結一体の際には、ガスケットのガスケット本体部に大きな圧縮力が作用する。而して、ガスケット本体部とシール対象基材との界面には接着剤層が存在しないから、ガスケット本体部に対する横流れ或いは横方向への膨出抑制作用が小さく、これにより圧縮力が横方向にも分散して、上記他のシール対象基材に対する反力が緩和される。また、この反力が緩和される結果、ガスケットの内部応力も小さくなる。更には、ガスケット本体部を介した圧縮力が接着剤層には作用しないから接着剤層にせん断応力がかかることもない。しかも、接着剤層は、ガスケット本体部と鍔部との境界部より反ガスケット本体部側に0.1mm以上の幅を隔てた鍔部と基材との間の帯域に形成されているから、ガスケット本体部と接着剤層が存在する接着部間の干渉で、ガスケット本体部の内部応力が不均一となり、接着部にせん断応力が発生することによる上記影響を完全に回避することができる。
【0013】
従って、他のシール対象基材に対する反力が緩和されることによって、当該シール対象基材の変形を抑制することができる。また、ガスケットの内部応力が小さくなる結果、ガスケットの経時的なへたりや亀裂の発生が抑制され、シール機能の信頼性が向上する。更に、接着剤層にせん断応力がかからないので、接着耐久性も向上する。このような特性は、高圧縮が要求される部位のシールに特に有効であり、この種のガスケット構造体の長寿命化に寄与する。接着剤層が、ガスケット本体部と鍔部との境界部より反ガスケット本体部側に0.1mm以上の幅を隔てた帯域に形成されていない場合、即ち、当該幅が0.1mm未満の場合、上記ガスケット本体部と接着剤層が存在する接着部間の干渉で、ガスケット本体部の内部応力が不均一となり、接着部にせん断応力が発生する傾向となり、上記反力や内部応力による上記不具合の発生が懸念されることになる。また、接着剤層に対するせん断応力もかかる傾向となる。なお、当該幅の上限は、前記シール対象基材における所定部位の幅の制限条件に基づき設定される。
【0014】
本発明のガスケット構造体が、ゴム製ガスケットをゴム材の加硫成型と共に、接着剤層を介してシール対象基材に一体固着して得たものとした場合、極めて効率的に製せられる。また、事前に加硫成型されたゴム成型体を接着剤を介してシール対象基材に一体固着することによって得たものとした場合、成型時の金型におけるキャビティの前記帯域に対応する面には粗面化処理が施されたものとすれば、前記ガスケットの鍔部における接着剤層との界面に粗面が形成されるから、この粗面によるアンカー効果により、接着剤層とガスケットとの強固な一体固着化が図られる。
【0015】
前記鍔部が、シール対象媒体の流通域とは反対側のガスケット本体部の側部に沿って形成されているものとすれば、接着剤層の接着剤がシール対象媒体の流通域へ溶出する懸念がなく、また、シール対象媒体の接着剤層に対する影響も懸念されることがない。
【0016】
本発明において、ガスケットを構成するゴム材としては、NBR、H−NBR、ACM、AEM、FKM、EPDM、VMQ等から選ばれたいずれかのゴム材が望ましく採用される。また、接着剤層を構成する接着剤としては、熱硬化性の接着剤が用いられ、具体的には、エポキシ系、フェノール系、カップリング剤系、ポリイミド系、ゴム糊系の接着剤が望ましく採用される。この接着剤は、上記ゴム材の加硫成型時にガスケットを基材に一体固着してガスケット構造体を形成する場合は、加硫温度で硬化し、この硬化の際にゴム材及びシール対象基材の界面において化学反応を起こし、両被接着部材を強固に一体とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の最良の実施の形態について図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1の実施形態のガスケット構造体を燃料電池のセパレータに適用した例を示す平面図、図2(a)は図1におけるX−X線矢視拡大断面図であり、(b)は他方のシール対象基材を合体締結しガスケットが圧縮変形した状態を示す断面図である。図3は図2におけるY−Y線矢視拡大断面図、図4は第2の実施形態のガスケット構造体の図2(a)と同様図、図5はガスケット構造体を製造する要領を示す断面図、図6はガスケット構造体を製造する要領の別例を示す断面図、図7(a)(b)(c)はガスケット構造体の他の実施形態の図2(a)と同様図である。
【0018】
図1に示すガスケット構造体1は、燃料電池のセパレータであって、不図示の高分子電解質膜(MEA)等と合体されて燃料電池構成用スタック(不図示)が構成されるものである。このガスケット構造体としてのセパレータ1は、カーボンプレート或はメタルプレート等をシール対象基材2とし、このシール対象基材2の所定部位2cに接着剤層(図2参照)4を介してゴム製のガスケット3が一体固着されたものである。シール対象基材2は、適所に冷媒、水素及び酸素等の媒体流通用の開口部(シール対象媒体の流通域)2a…を複数備え、また、シール対象基材2の板面にはこれら開口部2aのいずれかと連通する媒体流通路帯(シール対象媒体の流通域)2bが形成されている。これら開口部2a…及び媒体流通路帯2bの周りが所定部位2cとされ、この所定部位2cにガスケット3が一体固着され、上記スタックの複数が締結合体されて燃料電池が構成された際に、上記媒体の漏出の防止が図られる。
【0019】
上記ゴム製ガスケット3は、断面山形のビード状に連なるガスケット本体部3aと、該ガスケット本体部3aの前記流通域2a,2bとは反対側の側部(裾部)に沿って形成された鍔部3bとよりなる。上記接着剤層4は、ガスケット本体部3aと鍔部3bとの境界部3cより反ガスケット本体部3a側に0.1mm以上の幅(以下、緩衝域と言う)3dを隔てた帯域3eとシール対象基材2との間に介在され、ガスケット3とシール対象基材2とを固着一体化している。ガスケット構造体1が図示のような燃料電池のセパレータである場合、ガスケット3の全体幅は1〜2mm、ガスケット本体部3aの高さは1〜1.3mm、ガスケット本体部3aの中央から鍔部3bの外側端部までの長さは0.8〜1.2mmとされる。また、帯域3eの幅は0.5mm程度とされる。
【0020】
上記構成のセパレータとしてのガスケット構造体1は2枚で対をなし、該対間に、前記MEAを挟装して1個の単位セル(不図示)を構成し、この単位セルを多数重ね合わさせて燃料電池本体、即ち、スタック(不図示)が形成される。このスタックの両端に集電板(不図示)を配しこれらをボルト(不図示)で締結一体として燃料電池が構成される。図2(b)は、このボルトでの締結の際に、セパレータ1のシール対象基材2と、他方のシール対象基材であるMEA5との間でガスケット3が圧縮変形した状態を示す。このような締結状態では、ガスケット3がシール対象基材2とMEA5との間で圧縮変形した状態で介在するから、シール対象基材2とMEA5との間がシールされ、媒体流通路帯2bを流通する媒体(不図示)の外部への漏出が阻止される。
【0021】
図2の例では、鍔部3bが、媒体流通路帯2bとは反対側のガスケット本体部3aの側部に沿って形成されており、接着剤層4がこの鍔部3bとシール対象基材2との間に介在されている。従って、接着剤層4が媒体流通路帯2bを流通する媒体に接触することがなく、接着剤層4の接着剤が媒体に溶出したり、媒体のアタックを受ける懸念がない。
尚、ガスケット本体部3aにおける媒体流通路帯2b側の側部にも鍔部を形成することは、前記所定部位2cの制約された幅の範囲内で可能であり、設計的事項として適宜採択される。
【0022】
図2(b)に示すように、上記締結時の圧縮力はガスケット3のガスケット本体部3aに負荷される。この時、ガスケット本体部3aとシール対象基材2との界面には接着剤層4が存在せず、しかも接着剤層4は前記境界部3cから緩衝域3dを介して隔てた位置にあるから、接着剤層4のガスケット本体部3aに対する抑制力は小さく、ガスケット本体部3aにおける横流れ及び横方向への膨出自由度が、図8(b)の場合と比べて大となる。このように、横流れ及び横方向への膨出自由度が大となることにより、上記圧縮力が分散し、MEA5に対する反力が小さくなる。従って、MEA5のガスケット3の反力による変形が抑制される。また、反力が小さくなることにより、ガスケット3の内部応力も小さくなり、ガスケット3の経時的なへたりや亀裂の発生が懸念されず、シール機能の信頼性が高められる。更に、上記圧縮力は、接着剤層4に直接的に負荷されないから、接着剤層4に対してせん断応力がかからず、接着耐久性も向上する。そして、緩衝域3dの幅を0.1mm以上としているから、前述のとおり、これらの機能が有効且つ的確に発現される。
【0023】
図3は、前記所定部位3cの両側にシール対象媒体の流通域が存在する場合を示している。即ち、図1のY−Y線で破断する部位に相当する所定部位2cでは、媒体流通用の開口部2aと、媒体流通路帯2bとが隣接し、これら流通域2a,2bの周りを取り囲む2条のガスケット3が近接した状態で形成されている。各ガスケット3は、鍔部3bが、夫々流通域2a,2bとは反対側のガスケット本体部3aの側部に沿って形成されているから、図示の所定部位2cでは、2条のガスケット3が左右対称な状態で一体固着されている。この部分でも、図2(b)のようにMEA5と合体されて締結された時には、各ガスケット3が同様に機能する。
尚、図示の所定部位2cでは、左右のガスケット3が互いに近接はするが分離した状態で形成されているが、この所定部位2cでの両ガスケット3を一体とし、各鍔部3b及び接着剤層4を共通のものとしても良い。その他の構成は上記と同様であるので、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0024】
図4は、ガスケット構造体の他の実施形態を示している。当該ガスケット構造体1Aは、上記同様燃料電池のセパレータであって、前記と同様の鍔部3bにおける帯域3eの接着剤層4との界面には粗面3fが形成されている。この粗面3fは、後記するガスケット3の成型時(図6参照)に、金型によって形成されるものである。この例の場合、ガスケット3が事前に加硫成型され、接着剤によってシール対象基材2に接着一体とされるが、粗面3fと接着剤層4とのアンカー効果により、鍔部3bと接着剤層4との強固な一体化が図られる。
【0025】
この例においても、図2(b)に示すようにMEA5と合体されて締結された時には、ガスケット3が上記と同様に機能する。この場合、上記アンカー効果によって、鍔部3bと接着剤層4とが強固に一体化しているから、締結時の圧縮力がこの接着層4に及んでせん断応力が作用したとしても、この強固な一体化により、接着耐久性が低下することを阻止することができる。
その他の構成は上記と同様であるので、共通部分に同一の符号を付し、ここでもその説明を割愛する。
【0026】
ここで、上記ガスケット構造体(セパレータ)1、1Aを製造する方法の例を、図5及び図6を参照して説明する。図5は、ガスケット3をゴム材の加硫成型時にシール対象基材2に接着剤を介して一体固着する例を、図6は事前にガスケット3を加硫成型し、接着剤によってシール対象基材2に一体固着する例を、夫々示している。
【0027】
図5は、射出成型法或いはトランスファー成型法に適用される金型6の一部を示しており、該金型6は、下金型7及び上金型8よりなる。下金型7は上記シール対象基材2を収容し得るキャビティ7aを備える。また、上金型8は、上記ガスケット3のガスケット本体部3a及び鍔部3bの形状に対応するよう形成された環状のキャビティ8aと、未加硫ゴム材3Rの注入ゲート8bとを備える。
【0028】
上記金型6において、先ず、下金型7に形成されたキャビティ7a内に上記シール対象基材2を配置し、該シール対象基材2の所定部位2cにおける前記帯域3eに対応する部位2dに接着剤4Rを塗布した上で下金型7に上金型8を型締め合体させる。帯域3eに対応する部位2dは、キャビティ8aにおけるガスケット本体部対応部8aa及び鍔部対応部8abの境界部8acから、前記緩衝域3dに対応した幅8adを隔てて設定される。尚、この場合、キャビティ7a内に上記シール対象基材2を配置する前に、上記所定部位2cの前記帯域3eに対応する部位2dに接着剤4Rを塗布しておいても良い。そして、注入装置(不図示)から注入ゲート8bに未加硫ゴム材3Rを注入し、注入されたゴム材3Rは、注入圧により逐次キャビティ8a内に至る。
【0029】
全キャビティ8a内がゴム材3Rで充分に充填されると保圧状態に保ち、ゴム材3Rを加硫する。この加硫は、金型を加熱するか、未加硫ゴム材3Rの保有する熱によってなされ、この加硫に伴い接着剤4Rの硬化が促進される。その後、脱型し、注入ゲート8bに残存するゴム材を切除すれば、図1乃至図3に示すように、シール対象基材2の所定部位2cに接着剤層4を介してゴム製のガスケット3が一体固着されたセパレータ(ガスケット構造体)1が得られる。このように、未加硫ゴム材3Rの成型と同時に、接着剤層4を介したガスケット3のシール対象基材2との一体固着がなされるから、極めて効率的にガスケット構造体1を製造することができる。
【0030】
図6は、上記と同様射出成型法或いはトランスファー成型法に適用される金型9の一部を示しており、該金型9は、下金型10及び上金型11よりなる。下金型10は、上記ガスケット3の底面形状に対応する環状のキャビティ10aを備える。また、上金型11は、上記ガスケット3のガスケット本体部3a及び鍔部3bの形状に対応するよう形成された環状のキャビティ11aと、未加硫ゴム材3Rの注入ゲート11bとを備える。下金型10のキャビティ10aにおける前記帯域3eに対応する部位が粗面化処理面10bとされている。上金型11aは、ガスケット本体部対応部11aa及び鍔部対応部11abを有している。上記粗面化処理面10bは、下金型10及び上金型11の合体状態で、該ガスケット本体部対応部11aa及び鍔部対応部11abの境界部11acから、前記緩衝域3dに対応した幅11adを隔てた位置になるよう形成される。
【0031】
下金型10及び上金型11を型締めして上記金型9を構成し、注入装置(不図示)から注入ゲート11bに未加硫ゴム材3Rを注入し、注入されたゴム材3Rは、注入圧により逐次キャビティ10a、11a内に至る。全キャビティ10a、11a内がゴム材3Rで充分に充填されると保圧状態に保ち、ゴム材3Rを加硫成型する。その後、脱型し、注入ゲート11bに残存するゴム材を切除すれば、図4に示すようなガスケット3が成型体として得られる。そして、この成型体の上記粗面化処理面10bに対応する部位は粗面3fとされ、該粗面3fが鍔部3bにおける前記帯域3eの下面に相当し、該粗面3fに接着剤を塗布し、シール対象基材2の所定部位2cに接着一体とすることによって、図4に示すようにガスケットが接着剤層4を介してシール対象基材2に固着一体とされたセパレータ(ガスケット構造体)1Aを得る。
【0032】
図7(a)〜(c)に他の実施形態の種々の態様を示す。これらは典型的な例を示すもので、ガスケット3が、鍔部3bにおける前記緩衝域3dを隔てた帯域3eにおいて接着剤層4を介してシール対象基材2に固着一体とされているものであれば、他の形態のものも採用することができる。
【0033】
図7(a)のセパレータ(ガスケット構造体)1Bは、ガスケット本体部3aにおける媒体の流通域2b(2a)側の側部に沿って、小幅の鍔部3gが形成されており、これによりガスケット3とシール対象基材2との圧接面が大きくなり、シール機能が向上する。また、図7(b)のセパレータ(ガスケット構造体)1Cは、ガスケット本体部3aの断面形状が円形とされたものである。この例の場合は、締結時の圧縮力が負荷された際のガスケット本体部3aの横流れ及び横方向への膨出が多様化し、その結果横流れ及び膨出自由度が大となり、上記圧縮力の分散がより効果的になされる。図7(c)のセパレータ(ガスケット構造体)1Dは、ガスケット本体部3aの断面形状が半円形状部と方形状部とが複合された形状とされたものである。この例の場合は、圧縮力の過度の分散を抑え、適正な横流れ及び膨出自由度と、シール性が低下しない程度の反力を確保するのに有効である。これらガスケット本体部3aの形状は、ゴム材の性状や締結力等を勘案して適宜選択採用される。図7(a)〜(c)に示す実施形態のセパレータ(ガスケット構造体)1B〜1Dも、図5或いは図6に示す方法によって製造される。
これらセパレータ(ガスケット構造体)1B〜1Dの他の構成は、上記実施形態と同様であるので共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0034】
尚、上記実施形態では、シール対象基材2のガスケット3が一体固着される所定部位2cが平坦である例について述べたが、所定部位2cをシール対象基材2に形成された環状溝の底部としても良い。また、燃料電池のセパレータに適用した例について述べたが、ハードディスク装置、その他のシール対象基材とガスケットとが一体固着された状態で流通に供せられるものにも、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施形態のガスケット構造体を燃料電池のセパレータに適用した例を示す平面図である。
【図2】(a)は図1におけるX−X線矢視拡大断面図であり、(b)は他方のシール対象基材を合体締結しガスケットが圧縮変形した状態を示す断面図である。
【図3】図2におけるY−Y線矢視拡大断面図である。
【図4】第2の実施形態のガスケット構造体の図2(a)と同様図である。
【図5】ガスケット構造体を製造する要領を示す断面図である。
【図6】ガスケット構造体を製造する要領の別例を示す断面図である。
【図7】(a)(b)(c)はガスケット構造体の他の実施形態の図2(a)と同様図である。
【図8】(a)は、従来のガスケット構造体の図2(a)と同様図であり、(b)は同ガスケット構造体において他方のシール対象基材を合体締結しガスケットが圧縮変形した状態示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1、1A〜1D セパレータ(ガスケット構造体)
2 シール対象基材
2a 媒体流通用の開口部(シール対象媒体の流通域)
2b 媒体流通路帯(シール対象媒体の流通域)
2c 所定部位
3 ガスケット
3a ガスケット本体部
3b 鍔部
3c 境界部
3d 緩衝域(幅)
3e 帯域
3f 粗面
3R 未加硫ゴム材
4 接着剤層
4R 接着剤
6 金型
7a キャビティ
8a キャビティ
9 金型
10a キャビティ
10b 粗面化処理面
11a キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール対象基材の所定部位に接着剤層を介してゴム製ガスケットが一体固着されたガスケット構造体であって、
上記ガスケットは、ビード状に連なるガスケット本体部と、該ガスケット本体部の側部に沿って形成された鍔部とを備え、上記接着剤層は、鍔部とシール対象基材との間で、且つガスケット本体部と鍔部との境界部より反ガスケット本体部側に0.1mm以上の幅を隔てた帯域に形成されていることを特徴とするガスケット構造体。
【請求項2】
請求項1に記載のガスケット構造体において、
前記ゴム製ガスケットが、所定形状のキャビティを備えた金型内に配置されたシール対象基材の前記帯域に対応する部位に接着剤を塗布した状態で未加硫ゴム材を加硫成型し、シール対象基材に一体固着することによって形成されたものであることを特徴とするガスケット構造体。
【請求項3】
請求項1に記載のガスケット構造体において、
前記ゴム製ガスケットが、所定形状のキャビティを備えた金型を用いて加硫成型されたゴム成型体を、前記シール対象基材の前記帯域に対応する部位に塗布された接着剤を介してシール対象基材に一体固着することによって形成されたものであることを特徴とするガスケット構造体。
【請求項4】
請求項3に記載のガスケット構造体において、
前記金型におけるキャビティの前記帯域に対応する面には粗面化処理が施され、前記ガスケットの鍔部における接着剤層との界面には、該金型の粗面化処理面による粗面が形成されていることを特徴とするガスケット構造体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のガスケット構造体において、
前記鍔部は、シール対象媒体の流通域とは反対側のガスケット本体部の側部に沿って形成されていることを特徴とするガスケット構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−151210(P2010−151210A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329163(P2008−329163)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】