説明

ガスケット

【課題】熱膨張係数が異なる部材間に装着された場合であっても、ガスケットの突起に倒れが誘起されることがなく、接触面圧の低下によるシール性能が低下しないガスケットを提供する。
【解決手段】溝21が設けられた一の部材2に装着され、一の部材2と熱膨張が異なる他の部材3の平坦面31に密接し、両部材(2,3)の上下方向の隙間をシールするガスケット1であって、少なくとも他の部材3に密接する接触面12に二の突起5を幅方向Yに形成し、突起5の断面形状を台形形状41とした。更に突起5の台形形状41を、交差角αを50乃至75度の範囲内に、突起幅Waをガスケット幅Wbの5乃至15%の範囲内に、突起の中心間距離Wcをガスケット幅の25乃至50%の範囲内にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載されるエンジンのインレットマニホールド用、フィルターブランケット用、シリンダーヘッドカバー用及びタイミングベルトカバー用等に用いられるガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載されるエンジンのインレットマニホールド用、フィルターブランケット用、シリンダーヘッドカバー用及びタイミングベルトカバー用等にゴム状弾性体等のガスケットが用いられており、このガスケットは、溝が設けられた一の部材に装着され、他の部材の平坦面に密接し、両部材の上下方向の隙間をシールする構成となっている。
【0003】
近年、軽量化の狙いから部材の樹脂化が進んでいるが、カバー部材のみを樹脂化することが行われているので、熱膨張係数の異なる部材間をガスケットでシールすることが要請される。一般に、シール性能は、接触面圧を大きくすることで向上するため、下記特許文献1及び2には、相手部材との接触面に先端が円弧形状の突起を設けることが開示されている。
【0004】
しかしながら、図7に示すように、熱膨張係数が異なる材質で両部材が成形されると(例えば、シリンダーヘッド101がアルミニウムで、シリンダーヘッドカムカバー102が樹脂である場合)、高温若しくは低温下で伸縮量の差異に伴う相対的横変位が生じ、高低温下においてシリンダーヘッド101に密接しているガスケット103の突起104が相対的横変位(図においては、シリンダーヘッド101がカムカバー102に対し左方向に変位している場合を示している。)に追随し、突起104に倒れが誘起されるので、接触面圧の低下を招き、シール性能の低下が懸念された。
【0005】
【特許文献1】特開2002−364753公報
【特許文献2】特開2003−329139公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、熱膨張係数が異なる部材間に装着された場合であっても、ガスケットの突起に倒れが誘起されることがなく、接触面圧の低下によるシール性能が低下しないガスケットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係るガスケットは、溝が設けられた一の部材に装着され、該一の部材と熱膨張が異なる他の部材の平坦面に密接し、前記両部材の上下方向の隙間をシールするガスケットであって、前記部材に密接する接触面に二の突起が前記上下方向と交差する幅方向に形成され、前記突起の断面形状が台形形状であることを特徴とするものである。
【0008】
更に、本発明の請求項2に係るガスケットは、請求項1に記載のガスケットであって、前記突起の台形形状は、前記部材に密接する上辺と交差する両斜辺がなす交差角度が50乃至75度であり、上記上辺の突起幅がガスケット幅の5乃至15%であり、前記両突起の中心間距離がガスケット幅の25乃至50%であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0010】
上記構成を備えた本発明の請求項1に記載のガスケットは、少なくとも他の部材に密接する接触面に二の突起が形成されており、その突起の断面形状が台形形状であるので、熱膨張係数の異なる材質で成形されている両部材の隙間をシールするとき、雰囲気温度の変化で両部材の伸縮量の差異に伴う相対的横変位が生じてもガスケットの突起の倒れが抑制され、高い接触面圧が確保されるので、高いシール性を確保することができる。
【0011】
更に、突起の台形形状は、請求項2に記載のように上辺と交差する両斜辺がなす交差角度を50乃至75度の範囲とし、上辺の突起幅をガスケット幅の5乃至15%の範囲とし、両突起の中心間距離をガスケット幅の25乃至50%の範囲とするとよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示して説明する。ただし、この発明の範囲は、特に限定的記載がないかぎりは、この実施の形態に記載されている内容に限定する趣旨のものではない。
【0013】
図1に示す通り、本実施形態に係るガスケット1は、一の部材であるカバー部材のシリンダーヘッドカムカバー2と、他の部材である本体のシリンダーヘッド3との上下方向Yの隙間をシールするために装着される。
【0014】
シリンダーヘッドカムカバー2は樹脂で成形されており、一方シリンダーヘッド3はアルミニウムで成形されているので、熱膨張係数が異なり、雰囲気温度の変化で両部材の伸縮量に差異が生じ、相対的横変位が発生する。
【0015】
シリンダーヘッドカムカバー2には溝21が設けられており、この溝21にガスケット1が装着され、溝底底面22に密接するカバー側接触面11が形成されると共に、シリンダーヘッド3の平坦面31に密接する本体側接触面12が形成され、これにより両部材(2,3)間の上下方向Yの隙間をシールしている。
【0016】
ガスケット1は、図2に示す通り、カバー側接触面11に断面形状が台形形状41の突起4が上下方向Yと交差する幅方向Xに2つ形成されていると共に、本体側接触面12にも台形形状41の突起5が幅方向Xに2つ形成されている。また、側面13の上下方向Yの略中央両側に、倒れ防止用に凸部14が設けられている。
【0017】
突起(4,5)の台形形状41は、カバー側接触面11に形成されている突起4と本体側接触面12に形成されている突起5とは同一形状であるので、本体側接触面12に形成されている突起5の台形形状41について以下詳述する。図3に示す通り、この台形形状41の突起5は、シリンダーヘッド3に密接する突起5の上辺51と交差する両斜辺(52,53)の交差角度αは、50乃至75度の範囲内で、突起5の上辺51の突起幅Waは、ガスケット1の幅Wbの5乃至15%の範囲内で、本体側接触面12の幅方向Xに形成されている2つの突起(5a,5b)の中で一方の突起5aの中心μ1と他方の突起5bの中心μ2との中心間距離Wcは、ガスケット1の幅Wbの25乃至50%の範囲内で、各々適宜設定される。なお、ガスケット1の幅Wbとは、突起5を形成する外側斜辺52の根本部分54間におけるガスケットの幅をいう。
【0018】
上述のように、交差角度αを50乃至70度の範囲で設定するのは、交差角度αがこれ以下の角度では、シリンダーヘッド3が相対的横変位したとき突起5の倒れが生じ、逆にこれ以上の角度では、反発力の増加、面圧の低下を招くためである。また、突起幅Waをガスケット幅Wbの5乃至15%の範囲で設定するのは、突起幅Waがこれ以下の幅では、シリンダーヘッド3が相対的横変位したとき突起5の倒れが生じ、逆にこれ以上の幅では、反発力の増加、面圧の低下を招くためである。また、両突起の中心間距離Wcをガスケット幅Wbの25乃至50%の範囲で設定するのは、中心間距離Wcがこれ以下の幅では、2つの突起5が恰も一体となり広い突起幅である1つの突起のように振る舞い、面圧の低下を招くためであり、逆にこれ以上の幅では、お互いの突起5の倒れを抑止する効果が小さくなり、倒れが生じるためである。
【0019】
ガスケット1はゴム状弾性体若しくは樹脂で成形されている。ゴム状弾性体の場合、ゴム硬度が40乃至70のアクリル系ゴム、ニトリル系ゴム及びフッ素系ゴムなどが用いられ、樹脂では、熱可塑性エラストマーなどが用いられる。
【0020】
以上のように構成されたガスケット1は、樹脂で成形されているシリンダーヘッドカムカバー2の溝21の溝底底面22にカバー側接触面11が密接するように装着されて2つの台形形状突起4がシリンダーヘッドカムカバー2に密接し、アルミニウムで成形されているシリンダーヘッド3の平坦面31に本体側接触面12に形成された2つの台形形状突起5が密接し、シリンダーヘッドカムカバー2とシリンダーヘッド3との上下方向Yの隙間をシールしている。この場合にシリンダーヘッドカムカバー2とシリンダーヘッド3とは熱膨張係数が異なるため、雰囲気温度が変化するとシリンダーヘッドカムカバー2とシリンダーヘッド3との伸縮量に差異に伴う相対的横変位が生じ、シリンダーヘッド3の平坦面31に密接している本体側接触面12に形成されている突起5がそれに追随する。しかし、突起5の断面形状が台形形状41であるので、突起5の倒れを防止することが可能となり、また突起5が2つ形成されているので互いの突起5の倒れを防止することが可能となる。したがって、高い接触面圧を確保することができ、高いシール性を確保することが可能となる。
【0021】
図4の実施形態2、及び図5の実施形態3は、上述の実施形態1と異なり、2つの台形形状の突起5が本体側接触面12にのみ形成されている場合である。実施形態2は、カバー側接触面11に1つの突起4が形成されており、その突起4の形状は先端が丸みを有した三角形状42であり、略中央に形成されている凸部14からカバー側接触面11寄りの側面13aは、両側ともテーパ面43を形成している。
【0022】
また、実施形態3は、カバー側接触面11の突起4が1つで先端が丸みを有した三角形状42である点は実施形態2と同じであるが、略中央に形成されている凸部14からカバー側接触面11寄りの側面13aに、両側ともくびれ部44を有している。
【0023】
実施形態2及び実施形態3の場合においても、本体側接触面12には突起5が二つ形成されていて、その突起5の断面形状が台形形状41であるので、相対的横変位が生じたときでも、突起5の倒れを防止して高い接触面圧を確保することができ、高いシール性を確保することが可能となる。
【0024】
なお、本実施形態1乃至3では、側面13に凸部14を設けたものについて説明したが、凸部を設けない場合であってもよい。凸部14を設けると、ガスケット1の溝21内への装着時、及び装着されたガスケット1の圧縮時、ガスケット1の姿勢を垂直に保持する機能を有する。
【0025】
[実施例]
上述の実施形態1の効果を確認するため下記ガスケットでの評価を行った。評価したガスケットは、図2に示す形状のJIS硬度60であるゴム状弾性体で成形されたものであって、ガスケット高さH1を8.9mm、ガスケット幅Wbを2.3mmとし、交差角αを45度・60度・90度の3水準、突起幅Waをガスケット幅Wbの2%・9%・22%の3水準、中心間距離Wcをガスケット幅Wbの22%・35%・74%の3水準で変化させた図6の7種類である。なお、評価する7種類の全てのガスケットには、側面に凸部が形成されている。また、ガスケット高さH1とは、図2に示すカバー側接触面11に形成されている突起4の上辺から本体側接触面12に形成されている突起5の上辺までの距離H1をいう。
【0026】
評価方法は、溝が形成されているカバー部材にガスケットを装着し、本体部材である平坦面でガスケットを2.4mm圧縮し、両部材の熱膨張係数が異なるため雰囲気温度の変化で生じる伸縮の差異に伴う相対的横変位に相当する変位0.7mmを平坦部材に付与したときの、突起の倒れ、面圧、反発力について評価を行い、その結果を同じく図6に記載した。
【0027】
評価結果より、突起の交差角αについては、図6のNo.1、No.2、No.3より、交差角αが45度では突起に倒れが生じ、90度では60度と同様に突起の倒れは生じないが、90度の場合には面圧、反発力の点で好ましくない。突起幅については、同じくNo.1、No.4、No.5より、突起幅Waが2%では突起に倒れが生じ、22%では9%と同様に突起の倒れは生じないが、22%の場合には面圧、反発力の点で好ましくない。突起の中心間距離Wcについては、同じくNo.1、No.6、No.7より、中心間距離Wcが74%では突起に倒れが生じ、22%では35%と同様に突起の倒れは生じないが、22%の場合には面圧の点で好ましくない。
【0028】
以上のとおり、交差角αが50乃至75度の範囲内である60度であり、突起幅Waがガスケット幅Wbの5乃至15%の範囲内である9%であり、中心間距離Wcがガスケット幅Wbの25乃至50%の範囲内の35%であるNo.1の場合に、突起の倒れが発生せず、耐倒れ性・耐シール性で優れていることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態1のガスケットを両部材間に装着した状態の断面図
【図2】本発明の実施形態1のガスケットを示す断面図
【図3】図2のガスケットの突起部分の拡大図
【図4】本発明の実施形態2のガスケットを示す断面図
【図5】本発明の実施形態3のガスケットを示す断面図
【図6】本発明の実施例を比較例と対比して評価した表
【図7】従来例のガスケットを両部材間に装着した状態を示す説明図
【符号の説明】
【0030】
1 ガスケット
2 シリンダーヘッドカムカバー(一の部材)
3 シリンダーヘッド(他の部材)
4,5,5a,5b 突起
11,12 接触面
13,13a 側面
14 凸部
21 溝
22 溝底底面
31 平坦面
41 台形形状
42 三角形状
43 テーパ面
51 上辺
52,53 斜辺
54 根本部
Wa 突起幅
Wb ガスケット幅
Wc 中心間距離
α 交差角
μ1,μ2 中心
X 幅方向
Y 上下方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝が設けられた一の部材に装着され、該一の部材と熱膨張が異なる他の部材の平坦面に密接し、前記両部材の上下方向の隙間をシールするガスケットであって、
前記部材に密接する接触面に二の突起が前記上下方向と交差する幅方向に形成され、前記突起の断面形状が台形形状であることを特徴とするガスケット。
【請求項2】
前記突起の台形形状は、前記部材に密接する上辺と交差する両斜辺がなす交差角度が50乃至75度であり、上記上辺の突起幅がガスケット幅の5乃至15%であり、前記両突起の中心間距離がガスケット幅の25乃至50%であることを特徴とする請求項1に記載のガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−232014(P2007−232014A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52420(P2006−52420)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】