説明

ガスケット

【課題】脱落や倒れ等の抑制効果を維持しつつ充填率が高くなり過ぎてしまうことを抑制することができるガスケットを提供する。
【解決手段】2部材のうちの一方の部材に設けられた溝内に装着され、該溝の溝底面と他方の部材の表面にそれぞれ密着して、これら2部材間の隙間を封止するガスケット1であって、溝底面と他方の部材の表面にそれぞれ密着するガスケット本体部10と、ガスケット本体部10の側面に設けられ溝の側面に当接する突起12と、を備えたガスケット1において、突起12は、ガスケット本体部10が溝底面と他方の部材の表面によって圧縮される方向Pに対して斜めに延びるように設けられることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンのシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーのような2部材間の隙間を封止するためのガスケットは、一般的に、一方の部材に設けられた溝に装着されて使用される。ガスケットは、2部材によって圧縮されることで発生する反発力によって溝の溝底面と他方の部材表面にそれぞれ密着し、上記隙間を封止する。
【0003】
上記のように使用されるガスケットでは、溝からの脱落や溝内での倒れや座屈等を防止するために、ガスケット本体部の側面に突起を設けることがある(例えば、特許文献1参照)。図5を参照して、従来例に係るガスケットについて説明する。図5は、従来例に係るガスケットの構成を示す模式図であり、(A)はガスケットの側面図、(B)は(A)のEE断面図、(C)は(A)のFF断面図である。
【0004】
ガスケット100は、ガスケット本体部101と、ガスケット本体部101の側面に設けられる突起102と、を備える。ガスケット100は、ガスケット本体部101が一方の部材に設けられた溝の溝底面と、他方の部材表面との間で圧縮されることにより、2部材間の隙間を封止する。ガスケット本体部101において他方の部材表面と接触する部分には、ガスケット100の長手方向に沿って張り出し部101aが設けられている。張り出し部101aは、溝開口部周辺において一方の部材表面と他方の部材表面との間に挟まれるように構成されている。突起102は、溝の側面に当接することによりガスケット100の脱落や倒れ等を防止する。
【0005】
上記のように突起102を備えたガスケット100は、突起102を設けた部分において充填率(圧縮方向に沿った断面における装着スペースの断面に対するガスケット断面の大きさ)が局所的に高くなることで、脱落や倒れ等の抑制効果を得ている。しかし、溝の加工精度やガスケット100(突起102)の成形精度、溝の熱や経年による変形などの影響により、この充填率が設計上の値よりも高くなり過ぎてしまうことがある。充填率が高くなりすぎると、その箇所においてガスケット100が溝に固着してしまうことがある。
【0006】
突起102が溝に固着してしまうことで種々の不具合が生じる。例えば、加工精度の影響や溝の変形の影響などによる装着スペースの寸法変動に追随できず、設計通りのつぶし代を得ることができなくなることがある。また、例えば、熱の影響により他方の部材に変形が生じた場合に、他方の部材の変形に合わせてガスケット100が持ち上げられてしまい、他方の部材表面との接触状態が維持できず、ガスケット100と他方の部材との間に隙間が生じてしまうことがある。
【0007】
張り出し部101aを設けたガスケット100では、離型性の観点から突起102を張り出し部101aに対して垂直(ガスケット本体部101が圧縮される方向)に延びる形状としている。このため、突起102を設けた箇所(図5(B))と突起102を設けていない箇所(図5(C))との間で充填率の変化が大きく、上記のような設計値からのずれの影響を受け易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−249096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、脱落や倒れ等の抑制効果を維持しつつ充填率が高くなり過ぎてしまうことを抑制することができるガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明におけるガスケットは、
2部材のうちの一方の部材に設けられた溝内に装着され、該溝の溝底面と他方の部材の表面にそれぞれ密着して、これら2部材間の隙間を封止するガスケットであって、
前記溝底面と他方の部材の表面にそれぞれ密着するガスケット本体部と、
前記ガスケット本体部の側面に設けられ前記溝の側面に当接する突起と、
を備えたガスケットにおいて、
前記突起は、前記ガスケット本体部が前記溝底面と前記他方の部材の表面によって圧縮される方向に対して斜めに延びるように設けられることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、突起をガスケット本体部の圧縮方向に対して斜めに延びるように設けたことで、脱落や倒れ等の抑制効果を維持しつつ、充填率が高くなり過ぎてしまうことを抑制することができる。
【0012】
従来のように突起をガスケット本体部の圧縮方向に沿って設けた構成に対し、突起を圧縮方向に対して斜めに設けることで、充填率を従来よりも低減することができる。すなわち、ガスケットの圧縮方向の断面において、突起を設けた箇所と突起を設けていない箇所との間における充填率の変化を従来よりも小さくすることができる。したがって、溝の加工精度やガスケット(突起)の成形精度、溝の熱や経年による変形などの影響により、ガスケットと溝との寸法関係が設計値からずれたときの影響を小さくすることができる。
【0013】
また、従来の圧縮方向に沿った突起形状の場合、突起には突起の延びる方向に圧縮力が加わることになる。突起は、延びる方向に作用する力に対しては形状安定性が高く変形が生じにくい。そのため、圧縮力を逃がすような変形が生じにくく、密着力が高くなってしまう。一方、本発明のように、突起の延びる方向に対して斜めに力が作用する場合、突起が倒れる方向(突起の延びる方向に直交する方向)にも力が加わり、突起が変形を生じ易くなる。これにより、突起が圧縮力を逃がすような変形を生じ、密着力が高くなり過ぎることを抑制することができる。
【0014】
ガスケット本体部を溝中央に位置決めするために、前記突起は、前記ガスケット本体部の両側面に対で設けられてもよい。また、ガスケット全体において脱落や倒れ等の抑制効果を得ることができるように、前記突起は、前記ガスケット本体部の長手方向に複数設けられてもよい。
【0015】
このような構成においても、上記と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、脱落や倒れ等の抑制効果を維持しつつ充填率が高くなり過ぎてしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例に係るガスケットの側面の一部を示す模式図。
【図2】本発明の実施例に係るガスケットの模式的断面図。
【図3】本発明の実施例に係るガスケットの模式的断面図。
【図4】突起に作用する力の違いを説明する模式図。
【図5】従来例に係るガスケットの構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0019】
(実施例)
図1〜図4を参照して本発明の実施例に係るガスケットについて説明する。図1は、本実施例に係るガスケットの側面の一部を示す模式図である。図2は、本実施例に係るガスケットの模式的断面図であり、(A)は図1のAA断面、(B)は図1のBB断面、(C)は図1のCC断面、(D)は図1のDD断面をそれぞれ示す。図3は、本実施例に係るガスケット1が溝20に装着された状態における模式的断面図であり、一方の部材2と他方の部材3とによって圧縮される前の状態を示している。図4は、突起に作用する力の違いを説明する模式図であり、(A)は従来例の突起に作用する力、(B)は本実施例の突起に作用する力をそれぞれ示す。
【0020】
本実施例に係るガスケット1は、自動車部品や産業機器などの各種機器に用いられる。具体的には、インレットマニホールド用、フィルターブランケット用、シリンダヘッドカバー用、カムカバー用、タイミングベルトカバー用、燃料電池のセパレータ用など、各種用途に用いられる。
【0021】
<ガスケットの概略構成>
ガスケット1は、ゴム状弾性体により構成される。ゴム状弾性体の素材としては、例えば、アクリル系ゴムやニトリル系ゴムやフッ素系ゴムなどのゴム材料や、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。
【0022】
図1及び図2に示すように、ガスケット1は、ガスケット本体部10と、ガスケット本体部10の両側面にそれぞれ一体的に設けられる一対の突起12と、を備える。なお、図1においては、ガスケット1の一部について直線的な部分のみを示している。ガスケット1の全体形状は、使用される箇所に応じた形状となり、一般的には、端部を有しない無端状の形状となる。
【0023】
図3に示すように、ガスケット1は、一方の部材2(例えば、カムカバー)に設けられた溝20内に装着され、溝20の溝底面21と他方の部材3(例えば、ハウジング)の表面31に密着することによって、一方の部材2と他方の部材3との間の隙間を封止する。
【0024】
<ガスケット本体部>
ガスケット本体部10は、溝20の溝底面21と他方の部材3の表面31とによって図の上下方向に圧縮される。ガスケット本体部10は、2部材によって圧縮されることで発生する反発力によって溝20の溝底面21と他方の部材3の表面31にそれぞれ密着してシール性を発揮する。
【0025】
図2及び図3に示すように、ガスケット本体部10における溝20の溝底面21との接触部位は、先細りの断面形状を有する端部10bとなっている。また、ガスケット本体部10における他方の部材3の表面31との接触部位は、溝20の開口部からはみ出るよう
に構成された張り出し部10aとなっている。
【0026】
張り出し部10aは、一方の部材2の表面23と他方の部材3の表面31との間に挟み込まれるように構成されている。また、張り出し部10aは、他方の部材3の表面31との接触面にシール突起11a、11bを備えている。シール突起11a、11bは、張り出し部10aの略中央に設けられたシール突起11aが、その両側に設けられたシール突起11bよりも突出量が大きくなるように構成されている。
【0027】
ガスケット本体部10は、断面の幅寸法が、溝20の幅よりも狭くなるように設定される。一方、ガスケット本体部10の断面の高さ寸法は、溝20の溝底面21と他方の部材3の表面31に対して所望の面圧が得られる程度に圧縮されるように、溝20の深さよりも大きくなるように設定される。したがって、一般的に、ガスケット本体部10は縦長の断面形状を有するように構成される。
【0028】
ガスケット本体部10は、上記のように縦長の断面形状を有するため、仮にガスケット1がガスケット本体部10のみで構成されていると、2部材によって圧縮された際に、溝20内で倒れたり座屈したりして、装着状態が不安定になってしまうおそれがある。そこで、ガスケット本体部10の側面に突起12を設け、突起12が溝20の側面22に当接することにより、ガスケット本体部10の倒れ等を防止するようにしている。
【0029】
<突起>
突起12は、ガスケット本体部10を溝20の中央にバランスよく位置決めするために、ガスケット本体部10の両側面に対で設けられる。また、ガスケット全体において脱落や倒れ等の抑制効果を得ることができるように、一対の突起12はガスケット1の長手方向に複数組設けられている。
【0030】
図1に示すように、突起12は、張り出し部10aの下端面から2部材による圧縮方向(図中矢印P)に対して斜めに延びるように、ガスケット本体部10の側面と張り出し部10aの下端面に一体的に設けられている。突起12が延びる方向の圧縮方向に対する角度は、ガスケット製造時における離型性の観点から適宜設定される。
【0031】
<本実施例の優れた点>
本発明によれば、従来のガスケットよりも装着スペースに対する充填率が低減され、充填率が過度に大きくなってしまうのを抑制することができる。
【0032】
図2(A)〜図2(D)に示すように、本実施例に係るガスケット1は、突起12が圧縮方向に対して斜めに延びることにより、圧縮方向における断面形状が従来のガスケット100(図5(B)、図5(C))とは異なる形状を呈する。
【0033】
本実施例に係るガスケット1の突起12と、従来例に係るガスケット100の突起102とが、同じ幅及び高さを有するものと仮定すると、本実施例に係るガスケット1は、図2(B)に示す断面形状において断面積が最も大きくなるが、この断面積は、従来のガスケット100における最大の断面積(図5(B))よりも小さくなる。
【0034】
また、ガスケットの長手方向において、ガスケットが最大の断面積を呈する範囲は、本実施例に係るガスケット1では、図2(B)に示す断面を含む僅かな範囲であるのに対し、従来のガスケット100では、突起102の幅一杯の範囲で最大の断面積を呈する構成となっている。
【0035】
このように、本実施例によれば、突起をガスケット本体部の圧縮方向に沿って設けた従
来のガスケットに対し、断面積(すなわち、装着スペースに対する充填率)が低減された構成とすることができる。すなわち、ガスケットの圧縮方向の断面において、突起を設けた箇所と突起を設けていない箇所との間における充填率の変化を従来よりも小さくすることができる。これにより、溝の加工精度やガスケット(突起)の成形精度、溝の熱や経年による変形などの影響により、ガスケットと溝との寸法関係が設計値からずれたときの影響(寸法誤差の影響)を小さくすることができる。
【0036】
また、本実施例によれば、ガスケットを溝に装着する際、あるいは、ガスケットを2部材で圧縮する際に突起に作用する力が、従来のガスケットとは異なる構成となり、突起の溝側面に対する密着力が抑制され、ガスケットの溝への固着を抑制することができる。
【0037】
図4(A)に示すように、従来の圧縮方向に沿った突起形状の場合、突起102には突起102の延びる方向に力(図中矢印)が加わることになる。このように縦長に延びる突起は、延びる方向に作用する力に対しては形状安定性が高く変形が生じにくい。そのため、従来のガスケット100の突起102では、圧縮力を逃がすような変形が生じにくく、寸法誤差等の影響を受けることで密着力が高くなり易い。
【0038】
一方、図4(B)に示すように、本実施例に係るガスケット1の突起12のように、突起12の延びる方向に対して斜めに力が作用する場合(図中矢印)、突起12が倒れる方向(突起12の延びる方向に直交する方向)にも力が加わり、突起12が変形を生じ易くなる。したがって、本実施例に係るガスケット1によれば、突起12が圧縮力を逃がすような変形を生じ、寸法誤差が大きいような場合において密着力が高くなり過ぎることを効果的に抑制することができる。
【0039】
すなわち、本実施例によれば、突起による脱落や倒れ等の抑制効果を維持しつつ、充填率が高くなり過ぎてしまうことを効果的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 ガスケット
10 ガスケット本体部
10a 張り出し部
11a、11b シール突起
12 突起
2 一方の部材
20 溝
21 溝底面
22 溝側面
23 表面
3 他方の部材
31 表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2部材のうちの一方の部材に設けられた溝内に装着され、該溝の溝底面と他方の部材の表面にそれぞれ密着して、これら2部材間の隙間を封止するガスケットであって、
前記溝底面と他方の部材の表面にそれぞれ密着するガスケット本体部と、
前記ガスケット本体部の側面に設けられ前記溝の側面に当接する突起と、
を備えたガスケットにおいて、
前記突起は、前記ガスケット本体部が前記溝底面と前記他方の部材の表面によって圧縮される方向に対して斜めに延びるように設けられることを特徴とするガスケット。
【請求項2】
前記突起は、前記ガスケット本体部の両側面に対で設けられることを特徴とする請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
前記突起は、前記ガスケット本体部の長手方向に複数設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−72882(P2012−72882A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219792(P2010−219792)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】