説明

ガスセンサ

【課題】水素濃度を感度良く検知できる水素センサを提供する。
【解決手段】水素センサ10は、水晶基板のカット角がIEEE表示のYXltφ/θで表される四角形平板の振動部21と、振動部21を支持する支持腕部22,23と、振動部21の表裏両主面それぞれに設けられる励振電極40,50と、からなる輪郭振動子20と、少なくとも励振電極40,50の表面に設けられる水素反応触媒膜60,61を備え、水素ガスと水素反応触媒膜60,61による触媒効果で発熱した熱が振動部21に伝達し、振動部21に温度上昇を生じさせ、温度上昇に伴う輪郭振動子20の固有振動数の変化を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスの濃度を、ガスと触媒媒質による発熱による温度上昇に伴う輪郭振動子の固有周波数変化として検出するガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、用途に応じたガスを検出するガスセンサが実用化されている。特に可燃性ガスを検出するガスセンサは、使用上の安全性を確保する上での重要なセンサと位置付けられている。
例えば近年、環境負荷を低減するために自動車用、家庭用として燃料電池の開発が進んでいる。燃料電池は水素を燃料とするため、水素ガスのガス漏れを検知することが燃料電池を安全に使用する際の重要な事項である。このガス漏れの検知は水素センサによって行われ、水素ガスだけに応答し、約0.05%から5%程度の水素濃度を定量的に検知する水素センサが必要とされる。
【0003】
現在、水素センサとしては、金属酸化物焼結体型半導体センサ、接触燃焼式センサなどが知られている。
金属酸化物焼結体型半導体センサは、半導体表面のガスの吸着現象による電気抵抗の変化を利用し、固定抵抗と対にしたブリッジ回路を構成して、この電気抵抗の変化を電圧として検出するものである。
また、接触燃焼式センサは、ガスの検出機能を持つ物質の表面での接触燃焼現象による発熱を利用し、この温度変化から電気抵抗の変化を固定抵抗と対にしたブリッジ回路から電圧として検出するものである。
【0004】
例えば、接触燃焼式センサの一例としては、触媒媒質としての水素反応触媒層と該水素反応触媒層の発熱温度を検知する薄膜サーミスタが絶縁層を介して積層され、この素子を用いてブリッジ回路を構成し、ブリッジ電圧を検出することで水素濃度を検知可能としている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、非特許文献1では、輪郭振動子としてラーメモード水晶振動子のカット角と一次温度係数の関係が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−98742号公報
【非特許文献1】第24回EMシンポジウム、11頁〜16頁、「エッチング法によって形成されたラーメモード水晶振動子」、川島宏文、松山勝
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の水素センサなどのガスセンサはブリッジ回路などから検出される電圧が微小なため、ガス濃度を感度良く検知できないという問題があった。
また、ブリッジ回路を用いないガスセンサとして、機械振動子に触媒媒質を設けて発熱に伴う機械振動子の固有周波数の変化を検出するものも考えられる。しかし、機械振動子としてAT振動子を用いる場合には、検出感度を高めるために厚さを薄くすると、周波数が高くなってしまい、検出感度を容易に高めることができない。
【0008】
また、機械振動子としてSAW共振子を用いることも考えられるが、SAW共振子は元来、高周波領域の振動子であり、高周波領域では、発信回路を含む回路側の負担が大きくなってしまうというような課題を有している。
【0009】
本発明の目的は、ガス濃度を感度良く検知できるガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のガスセンサは、水晶基板のカット角がIEEE表示のYXltφ/θで表される四角形平板の振動部と、前記振動部を支持する支持腕部と、前記振動部の表裏両主面のそれぞれに設けられる励振電極と、からなる輪郭振動子と、少なくとも前記励振電極の表面に設けられる触媒媒質膜を備え、検出対象ガスと前記触媒媒質膜による触媒効果で発熱した熱が前記振動部に伝達し、前記振動部に温度上昇を生じさせ、温度上昇に伴う前記輪郭振動子の固有振動数の変化を検出することを特徴とする。
ここで、輪郭振動子としては、例えば、ラーメモード振動子、輪郭滑り振動子、エッジモード振動子等を用いることができる。
【0011】
この発明によれば、輪郭振動子に備えられた触媒媒質膜と検出対象ガスの接触による触媒効果によって発熱した熱が振動部に伝わり、振動部の温度を上昇させる。輪郭振動子は温度により固有振動数が変化する特性を有しているため、輪郭振動子の温度上昇に伴い固有振動数が変化し、この固有振動数の変化を検知することで、ガスの存在またはガスの濃度を検知することが可能となる。
従って、従来のブリッジ回路の電圧変化を検出してガスを検知する方法に比べて、ガス濃度を固有振動数の変化として検出するため、ガス濃度を感度良く検知できるガスセンサを実現できる。
【0012】
また、輪郭振動子は、平面サイズによって固有振動数が律せられることから、振動部の厚さを薄くしても固有周波数は変動しない。振動部の厚さを薄くして表裏両主面に設けられる励振電極間の距離を小さくすることで電界効率を高め、さらに、触媒媒質の表裏両面からの発熱を素早く振動部全体に伝え、温度感度を高め、ガスの検出感度を高めることができる。
【0013】
また、本発明では、前記振動部の表裏両主面に設けられる励振電極のうちの少なくとも一方が、前記振動部の表面に穿設された凹部の底面に設けられていることが好ましい。
【0014】
先述したように、輪郭振動子において、振動部の厚さは薄いほど検出感度を高めることができる。そこで、振動部のうち、励振電極を形成する部分のみを薄くする、つまり、励振電極の周縁部は厚くしておくことで、構造的強度を維持しながら検出感度を高めることができる。
【0015】
また、前記支持腕部に対して前記振動部が薄く形成されていることが望ましい。
【0016】
このように、振動部全体を薄くすることで検出感度をさらに高めることができ、且つ、支持腕部の構造的強度は維持できる。
【0017】
また、前記水晶基板のカット角がIEEE表示のYXltφ/θで表され、カット角φが、0≦φ≦30(°)、または42≦φ≦115(°)、または143≦φ≦180(°)で表される範囲に設定されていることが好ましい。
【0018】
詳しくは、実施の形態にて後述するが、温度上昇に伴う固有周波数の変化の検出には、温度感度係数の絶対値が30ppm/℃以上であることが望ましく、カット角φを、0≦φ≦30(°)、または42≦φ≦115(°)、または143≦φ≦180(°)の各範囲内に設定すれば、温度感度係数の絶対値30ppm/℃以上を確保することができる。このことにより、適正なガス単位濃度あたりの周波数変化量を得ることができる。
【0019】
また、前記水晶基板のカット角がIEEE表示のYXltφ/θで表され、カット角φが、23≦φ≦30(°)、または42≦φ≦49(°)、または99≦φ≦115(°)、または143≦φ≦156(°)で表される範囲に設定されていることが好ましい。
【0020】
検出感度を高めるためには、上述したように温度感度係数が大きいほどよい。しかし、温度感度係数が大きくなると周波数の変動も大きくなり、スプリアスとの結合も予測される。そこで、温度感度係数の絶対値を30〜60ppm/℃の範囲内に設定することで、ガス検出に要する温度範囲において、スプリアスを回避しながら適正なガス単位濃度あたりの周波数変化量が得られる。
【0021】
また、本発明は、前記検出対象ガスが水素ガスを主体とするガスあって、前記触媒媒質膜が、水素ガスに反応して発熱する水素反応触媒膜であることを要旨とする。
ここで、水晶反応触媒膜としては、例えば、白金(Pt)またはパラジウム(Pd)から選択される。
【0022】
輪郭振動子は、周波数温度特性をもち、温度に応じた周波数を発振する。そして、水素反応触媒膜に水素を含む空気を接触させると触媒燃焼が生じ発熱する。この発熱量は水素濃度に比例している。これらの特性および性質を利用して、本発明のガスセンサ、つまり水素センサが構成されている。このように、本発明のガスセンサは輪郭振動子の温度に起因する周波数信号を検出して水素ガスの濃度を検知することができることから、従来の電圧を検出して水素ガスの濃度を検知する方法に比べて、水素濃度を感度良く検知できる水素センサを提供することができる。
【0023】
また、水素反応触媒膜として白金またはパラジウムを利用することで高い水素選択性を持ち、他の可燃性ガスにほとんど応答しない水素反応触媒膜を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図5は実施形態1に係るガスセンサの構造及び特性を示す、図6,7は実施形態2及びその変形例、図8は実施形態3、図9は水素濃度検出システムの構成の1例を示している。
なお、以下の説明で参照する図は、図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。
(実施形態1)
【0025】
図1は、本発明の実施形態1に係るガスセンサの構成を示す平面図、図2は、図1におけるA−A切断面を示す断面図である。なお、本実施形態では、検出対象ガスを水素ガスを主成分とする水素センサを例示して説明する。図1,2において、ガスセンサとしての水素センサ10は、圧電振動子としての輪郭振動子20と、輪郭振動子20をパッケージ(図示せず)に支持する支持体30とを含んで構成されている。
【0026】
輪郭振動子20は、水晶基板のカット角がIEEE表示のYXltφ/θで表される正方形の振動部21と、振動部21の対向する2隅からそれぞれ対角方向に延在され、振動部21を支持する支持腕部22,23と、支持腕部22,23とを振動部21から離間した位置で連結する支持部24とから構成される。
【0027】
振動部21の表裏両主面のそれぞれには励振電極40,50が設けられている。励振電極40と励振電極50とは、互いに正方形であり、振動部21を挟んで対向するように形成される。励振電極40は、支持腕部22の表面側の接続電極41を介して支持部24表面のリード接続電極42に接続されている。
一方、励振電極50は、支持腕部23の裏面側の接続電極51を介して支持部24表面のリード接続電極52に接続されている。
【0028】
励振電極40,50、接続電極41,51、及びリード接続電極42,52は、Crなどの下地膜(図示せず)とAu,Ag,Cu,Alなどの電気抵抗の小さい電極膜から構成され、真空蒸着あるいはスパッタなどの手法により形成されている。
さらに、励振電極40,50それぞれの表面には白金(Pt)またはパラジウム(Pd)からなる触媒媒質膜としての水素反応触媒膜60,61が300nm〜600nmの厚さで、真空蒸着あるいはスパッタなどの手法により形成されている。
【0029】
そして、支持体30にはリードが貫通し、支持体30の一方から伸びるインナーリード31,32と輪郭振動子20のリード接続電極42,52とが、導電性接着剤71を介して接着固定されている。また、支持体30の他方から伸びるアウターリード33,34は、輪郭振動子20を励振させる発振回路(図示せず)に接続されている。
【0030】
ここで、輪郭振動子20のカット角(切断方位)について説明する。水晶にはカット角に依存する周波数温度特性があり、このカット角を適宜選択することで所望の温度感度係数が得られる。本実施形態では輪郭振動を励振する水晶基板を用いる。この理由は、水素センサ10が常圧中に配置されるため、屈曲振動を励振する水晶振動片では空気抵抗が振動に影響を及ぼし、抵抗値が高くなり良好な振動を保てないためである。
【0031】
他の理由としては、ラーメモード振動に代表される輪郭振動子は、その板厚を薄くしても固有周波数が変化せず、薄くできることから、触媒効果による発熱を素早く振動部21に伝達することができるためである。
【0032】
図3は、本実施形態に用いる水晶基板のカット角(切断方位)を説明する説明図である。
α水晶である水晶原石1のそれぞれ直交する3つの結晶軸において、電気軸をx軸、機械軸をy軸、光学軸をz軸とする。
まず、x軸を軸として反時計方向(矢印方向)に所定の角度φ(°)回転させてy’、z’とする。さらにy’軸を軸にして時計方向(矢印方向)に所定の角度θ(°)回転させる。このように切り出される水晶基板2は、IEEE表示のYXltφ/θで表される水晶基板のカット角の座標系x’,y’,z”で表されるy板であって、この水晶基板2からフォトリソグラフィ技術を用いて輪郭振動子20が形成される。
【0033】
次に、上述したように形成された輪郭振動子20の振動姿態について図面を参照して説明する。図2も参照する。
図4(a),(b)は、本実施形態による輪郭振動子の振動姿態を模式的に示す平面図である。まず、図4(a)は、励振電極40に+電位、励振電極50に−電位を印加したときを表す。このとき、振動部21は、4隅を振動の節として二点差線Rで示すような面内振動をする。
【0034】
また、(b)は、(a)とは逆位相の信号を印加したときを表している。つまり、励振電極40に−電位、励振電極50に+電位を印加する。すると、振動部21は、4隅を振動の節として二点差線R’で示すような面内振動をする。このようにして、(a)と(b)の振動姿態を所定の周波数にて繰り返し、継続する。
このような面内振動はラーメモード振動であり、このような振動モードを有する輪郭振動子をラーメモード水晶振動子と呼ぶ。
【0035】
なお、本実施形態では、輪郭振動子20は、IEEE表示のYXltφ/θで表され、カット角φが、0≦φ≦30(°)、または42≦φ≦115(°)、または143≦φ≦180(°)で表される範囲で切り出された水晶基板2から形成されている。このようにカット角φを設定した経緯について説明する。
本発明の水素センサは接触燃焼式であることから、水素反応触媒膜60,61に空気を含む水素ガスが接触した際に生ずる触媒効果による発熱を利用している。この発熱により発生する熱量は微量であるため、温度変化を効率よく検出する必要があり、周波数における温度依存性の高い水晶基板2(輪郭振動子20)が望まれる。
【0036】
輪郭振動子における固有周波数の温度依存性は、輪郭振動子の形状の熱膨張による変化、弾性定数の温度依存性、熱膨張による密度変化に関係し、これらを考慮して水晶基板2のカット角を選択することにより決定した。
【0037】
さらに、水晶のカット角を選定するにあたり以下の点について考慮した。まず、水素濃度の検出感度を0.1%以下とした場合、水素濃度5%を検出する際の温度変化は2℃〜3℃であり、水素濃度0.1%あたり0.04℃〜0.06℃の温度変化となる。ここで、周波数の検出限界は1ppm程度であり、輪郭振動子の温度感度(温度感度係数)の絶対値が30ppm/℃以上あれば、水素濃度0.1%あたり1.2ppm以上の周波数変化を得ることができる。なお、1℃の温度変化における周波数変化を周波数偏差で表した値を温度感度係数(ppm/℃)と呼ぶ。
【0038】
ここで、温度感度係数30ppm/℃以上となるカット角φが、0≦φ≦30(°)、または42≦φ≦115(°)、または143≦φ≦180(°)で表される範囲である。
【0039】
また一方、この温度感度係数を大きくすることは、水素濃度の検出感度を向上させるが、温度感度係数が大きいと周波数の変動も大きくなり、スプリアスとの結合が心配される。一般に、主振動に対して±5000ppm程度の変動であればスプリアスを回避できる設計が可能であり、水素センサの使用温度範囲を50℃〜220℃とすると、170℃の温度変化で約10000ppmの周波数変動の得られる温度感度係数60ppm/℃が上限であると考えられる。
このことから、温度感度係数が30〜60ppm/℃となる水晶のカット角を選ぶことが、水素センサに用いる輪郭振動子に適しているといえる。
【0040】
従って、水素濃度0.1%あたり1.2ppm以上の周波数変化を得ることができる温度感度係数30ppm/℃からスプリアスを回避できる温度感度係数60ppm/℃までの範囲となるカット角φを設定することが重要であり、そのカット角φが、23≦φ≦30(°)、または42≦φ≦49(°)、または99≦φ≦115(°)、143≦φ≦157(°)で表される範囲である。
【0041】
以上のような構成の水素センサ10において、水素反応触媒膜60,61に水素を含む空気が接触して発熱し、その熱が振動部21に伝わり、振動部21の温度が上昇する。発振回路により励振された輪郭振動子20はこの温度に対応する周波数を発振する。そして、例えば、この検出された周波数と水素が存在しない状態で励振された周波数との差(周波数シフトから水素濃度を検知することが可能となる。
図5は、輪郭振動子20の周波数シフトと水素濃度の相関を説明する説明図であり、図5(a)は動作温度29℃の場合であり、図5(b)は動作温度100℃の場合である。この図5では輪郭振動子20の温度感度係数が40ppm/℃のときの一例を示している。
【0042】
従って、上述した実施形態1によれば、輪郭振動子20に備えられた水素反応触媒膜60,61と水素ガスによって発熱した熱が振動部21に伝わり、振動部21の温度が上昇する。輪郭振動子20は温度により固有振動数が変化する特性を有しているため、輪郭振動子20の温度上昇に伴い固有振動数が変化し、この固有振動数の変化を検知することで水素ガスの存在、または水素ガスの濃度を検知することが可能となる。
従って、従来のブリッジ回路の電圧変化を検出してガスを検知する方法に比べて、ガス濃度を感度良く検知できるガスセンサを提供することができる。
【0043】
また、輪郭振動子20は、平面サイズによって固有振動数が律せられることから、振動部21の厚さを薄くしても固有周波数は変動しない。振動部21の厚さを薄くして表裏両主面に設けられる励振電極40,50間の距離を小さくすることで電界効率を高め、さらに、水素反応触媒膜60,61が振動部21の表裏両主面に設けられているため、水素反応触媒膜60,61の発熱を素早く振動部21全体に伝え温度感度を高めることにより、水素ガスの検出感度を高めることができる。
【0044】
温度上昇に伴う固有周波数の変化の検出には、温度感度係数の絶対値が30ppm/℃以上であることが望ましく、カット角φを、0≦φ≦30(°)、または42≦φ≦115(°)、または143≦φ≦180(°)の各範囲内に設定すれば、温度感度係数の絶対値を30ppm/℃を確保することができる。このことにより、水素濃度0.1%あたり1.2ppm以上の周波数変化を得ることができる。
【0045】
また、カット角φを、23≦φ≦30(°)、または42≦φ≦49(°)、または99≦φ≦115(°)、または143≦φ≦156(°)で表される範囲に設定することにより温度感度係数の絶対値を30ppm/℃〜60ppm/℃の範囲に抑え、スプリアスを回避しながら水素濃度0.1%あたり1.2ppm以上の周波数変化を得ることができる。
【0046】
さらに水素反応触媒膜60,61として白金(Pt)またはパラジウム(Pd)を利用することで高い水素選択性を持ち、他の可燃性ガスにほとんど応答しない水素反応触媒膜を構成することができる。
(実施形態2)
【0047】
続いて、本発明の実施形態2に係るガスセンサの構造について図面を参照して説明する。実施形態2は、検出感度をさらに高めるために輪郭振動子の振動部の一部を薄くしているところに特徴を有する。従って、前述した実施形態1との相違個所を中心に説明する。
図6は、実施形態2に係る輪郭振動子の一部を示し、(a)は振動部の部分平面図、(b)は(a)のA−A切断面を示す断面図である。図6(a),(b)において、振動部21の表裏両主面の励振電極形成領域に凹部20a,20bを穿設し、この凹部20a,20bそれぞれの底面に励振電極40,50が設けられている。そして、励振電極40,50の上面に触媒媒質膜としての水素反応触媒膜60,61が形成されている。
【0048】
従って、振動部21では、励振電極40,50が形成される部分のみが薄く、励振電極40,50の周縁部が厚い(水晶基板2の厚さのまま)構造となる。
【0049】
輪郭振動子20において、振動部21の厚さは薄いほど電界効率が高く、また、水素ガスによって発熱した熱が振動部21に素早く伝わり、振動部21の温度が素早く上昇することから検出感度を高めることができる。また、振動部21の周縁部を厚くしておくことで構造的強度を維持することができる。
【0050】
なお、振動部21に穿設する凹部は、表面主面または裏面主面側のどちらか一方に設ける構造としてもよく、これを実施形態2の変形例として図面を参照して説明する。
図7は、実施形態2の変形例を示す断面図である。図7において、振動部21の表主面側に凹部20aが穿設され、この凹部20aの底面に励振電極40、励振電極40の上面に水素反応触媒膜60が形成されている。
振動部21の裏主面側は凹部はなく、同一平面上に励振電極50が形成され、励振電極50の上面に水素反応触媒膜61が形成されている。
【0051】
凹部20a底部の残り厚さは、図6(b)にて示した凹部20aと凹部20bとの交差部の残り厚さとほぼ同じにすることができることから、この変形例においても、先述した実施形態2と同様な効果を奏することができる。
(実施形態3)
【0052】
続いて、本発明の実施形態3に係るガスセンサの構造について図面を参照して説明する。実施形態3は、検出感度をさらに高めるために輪郭振動子の振動部全体の厚さを薄くしているところに特徴を有する。従って、前述した実施形態2との相違個所を中心に説明する。
図8は、実施形態3に係る輪郭振動子の一部を示し、(a)は振動部の部分平面図、(b)は(a)のA−A切断面を示す断面図である。図8(a),(b)において、振動部21の表主面側全体が支持腕部22,23よりも薄く形成されている。
【0053】
そして、振動部21の薄くなっている面20cに励振電極40、励振電極40の上面に水素反応触媒膜60が形成されている。
なお、振動部21は、支持腕部22,23に対して、表裏両面側から薄くする構造としてもよい。
【0054】
このように、振動部21全体を薄くすることで、電界効率をさらに高めるとともに、水素ガスによって発熱した熱が振動部21に素早く伝わり、振動部21の温度が素早く上昇することから検出感度を高めることができる。
(水素濃度検出システム)
【0055】
次に、前述した実施形態による水素センサを用いた水素濃度検出システムの一例を説明する。
図9は水素センサを用いた水素濃度検出システムの構成を示す概略構成図である。図9において、水素センサ10は水素反応検出素子としての輪郭振動子20と発振回路80を備えている。輪郭振動子20には帰還抵抗6、インバータ7が並列に接続され、ゲート側にはゲート容量8、ドレイン側にはドレイン容量9が接続され、輪郭振動子20を励振させる発振回路80を構成している。
【0056】
発振回路80は整流器81に接続され、整流器81は周波数カウンタ82に接続されている。さらに、周波数カウンタ82は演算器83に接続され、演算器83から所望の信号を出力する。
【0057】
このような構成の水素濃度検出システムにおいて、発振回路80により輪郭振動子20の周波数信号が整流器81に出力される。整流器81において周波数信号が整流され、周波数カウンタ82に出力される。周波数カウンタ82にて周波数が計測され演算器83に出力される。演算器83では、例えば、計測された周波数と基準となる周波数とから水素濃度を演算し、水素濃度の値、規格値を超えた場合のアラーム信号、電磁弁制御の信号などを生成して出力する。
【0058】
このように、水素濃度検出システムでは、水素センサ10から出力される周波数信号を用いて水素濃度を検知することができ、この得られた水素濃度を基に様々な機器へ制御信号などを出力することができる。
【0059】
なお、上記の回路のうち一部をIC化することも可能であり、周波数カウンタ82、演算器83を1チップマイコンとして構成することもできる。また、信号処理はアナログ処理、ディジタル処理のどちらを用いても実施は可能である。
【0060】
なお、本実施形態の水素センサにおいて、輪郭振動子と水素反応触媒膜の温度を制御する温度制御手段を備えていても良い。例えば、水素反応触媒膜を振動部の励振電極以外の部分に設け、この水素反応触媒膜に通電することにより発熱が生じ振動部の温度が上昇することから、適宜電流の大きさ、通電時間を制御することで輪郭振動子の温度をガス雰囲気温度よりも高い温度で制御することができる。
このようにすれば、ガス雰囲気温度の変化、またはガスと反応して触媒媒質が発熱の際に生じる水の影響を排除することができ、感度に優れたガスセンサを提供することができる。
【0061】
なお、本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前述した実施形態では、輪郭振動子としてラーメモード振動子を例示して説明したが、輪郭滑りモード振動子にも適合できる。
【0062】
従って、本発明によれば、触媒媒質膜と検出対象ガスによって発熱した熱が輪郭振動子に伝わり、温度上昇に伴う輪郭振動子の固有振動数の変化を検出するため、ガスの存在またはガスの濃度を感度よく検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態1に係るガスセンサの構成を示す平面図。
【図2】図1におけるA−A切断面を示す断面図。
【図3】本発明の実施形態1に用いる水晶基板のカット角を説明する説明図。
【図4】(a),(b)は、本実施形態による輪郭振動子の振動姿態を模式的に示す平面図。
【図5】本発明の実施形態1に係る輪郭振動子の周波数シフトと水素濃度の相関を説明する説明図、(a)は動作温度29℃の場合、(b)は動作温度100℃の場合を示す説明図。
【図6】本発明の実施形態2に係る輪郭振動子の一部を示し、(a)は振動部の部分平面図、(b)は(a)のA−A切断面を示す断面図。
【図7】本発明の実施形態2の変形例を示す断面図。
【図8】本発明の実施形態3に係る輪郭振動子の一部を示し、(a)は振動部の部分平面図、(b)は(a)のA−A切断面を示す断面図。
【図9】水素センサを用いた水素濃度検出システムの構成を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0064】
10…ガスセンサとしての水素センサ、20…輪郭振動子、21…振動部、22,23…支持腕部、40,50…励振電極、60,61…水素反応触媒膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶基板のカット角がIEEE表示のYXltφ/θで表される四角形平板の振動部と、前記振動部を支持する支持腕部と、前記振動部の表裏両主面のそれぞれに設けられる励振電極と、からなる輪郭振動子と、
少なくとも前記励振電極の表面に設けられる触媒媒質膜を備え、
検出対象ガスと前記触媒媒質膜による触媒効果で発熱した熱が前記振動部に伝達し、前記振動部に温度上昇を生じさせ、
温度上昇に伴う前記輪郭振動子の固有振動数の変化を検出することを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサにおいて、
前記振動部の表裏両主面に設けられる励振電極のうちの少なくとも一方が、前記振動部の表面に穿設された凹部の底面に設けられていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
請求項1に記載のガスセンサにおいて、
前記支持腕部に対して前記振動部が薄く形成されていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のガスセンサにおいて、
前記水晶基板のカット角がIEEE表示のYXltφ/θで表され、
カット角φが、0≦φ≦30(°)、または42≦φ≦115(°)、または143≦φ≦180(°)で表される範囲に設定されていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のガスセンサにおいて、
前記水晶基板のカット角がIEEE表示のYXltφ/θで表され、
カット角φが、23≦φ≦30(°)、または42≦φ≦49(°)、または99≦φ≦115(°)、または143≦φ≦156(°)で表される範囲に設定されていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のガスセンサにおいて、
前記検出対象ガスが水素ガスを主体とするガスあって、
前記触媒媒質膜が、水素ガスに反応して発熱する水素反応触媒膜であることを特徴とするガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−261635(P2008−261635A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102417(P2007−102417)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】