説明

ガスタービン用SiMoダクタイル鋳鉄

【課題】 ガスタービンケーシング用途に適したダクタイル鋳鉄の提供。
【解決手段】 ダクタイル鉄は、約2.8〜3.7重量%の炭素、約3.0〜3.5重量%のケイ素、0.8〜1.5重量%のモリブデン、約0.025〜0.60重量%のマグネシウム、0.01重量%未満のイオウ、約0.0〜1.3重量%のニッケル、及び残部の鉄を含む。その鋳造品はガスタービンケーシングに適している。鋳造品の製造方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経済性とサプライヤー選択性に優れたガスタービン用ダクタイル鉄に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高温(370℃超)で作動するガスタービンケーシングは合金鋼の鋳造品又は製品に限られている。ガスタービンは、ピーク負荷をカバーするため非定常運転に耐えなければならない。そのため、ガスタービン部品には熱応力及び機械的応力が加わる。従って、ガスタービンケーシングは高温環境及び繰返し温度サイクルに耐えることができなければならない。高温でのガスタービンケーシング材料の強度は高くなければならない。現在、ガスタービンケーシング用の合金鋼鋳造品はこれらの要件を満足する。しかし、合金鋼製のガスタービンケーシングは製造コストがかかり、サプライヤーの数も限られている。
【0003】
従来のフェライト系ダクタイル鉄は合金鋼よりも安価であるが、特性の組合せが適切でなく、最新ガスタービン圧縮機排気及びタービンシェルケーシングには使用されていない。ケイ素及びモリブデン含有量の高い鉄が、ある種の自動車用途、典型的には排気マニホルドに使用されている。これらの鉄はSiMo鉄と呼ばれる。しかし、これらの鉄は概して低温で脆性であり、割れを起こし易い。さらに、これらの材料は高温で所要の靱性を有していない。かかる材料の具体例は、米国特許出願公開第2008/0092995号、国際公開第2006/121826号、米国特許第6508981号及び欧州特許出願公開第1724370号に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0092995号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/121826号
【特許文献3】米国特許第6508981号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1724370号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ケーシングの大きさが増すと、鋼鋳造物からのガスタービンケーシングの製造コストは増す。さらに、こうした大きな鋼鋳造物を製造できる現在の供給元は小さい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態には、ダクタイル鉄製のガスタービンケーシングであって、ダクタイル鉄が、約2.8〜3.7重量%の炭素、約3.0〜3.5重量%のケイ素、約0.8〜1.5重量%のモリブデン、約0.025〜0.60重量%のマグネシウム、約0.01重量%未満のイオウ、約0.0〜1.3重量%のニッケル、及び残部の鉄を含むガスタービンケーシングが包含される。
【0007】
本発明の実施形態には、ダクタイル鉄製のガスタービンケーシングであって、ダクタイル鉄が、約2.8〜3.7重量%の炭素、約3.0〜3.5重量%のケイ素、約0.8〜1.5重量%のモリブデン、約0.025〜0.60重量%のマグネシウム、0.01重量%未満のイオウ、約0.0〜1.3重量%のニッケル、0.05重量%未満のリン、0.05重量%未満のチタン、約0.05重量%未満のバナジウム、0.05重量%未満のスズ、約0.10重量%未満のアルミニウム、約0.10重量%未満の銅、約0.10重量%未満のクロム、約0.15重量%未満のマンガン、及び残部の鉄を含むガスタービンケーシングも包含される。
【0008】
また、本発明の実施形態には、部品の製造方法も包含される。本方法は、炭素、ケイ素、マグネシウム、イオウ、ニッケル、及び残部の鉄を含むダクタイル鉄を溶融して溶湯を形成することを含む。溶湯に、接種剤及び処理合金を加える。モリブデンを溶湯に加える。溶湯を鋳造して部品を形成する。部品は、約2.8〜3.7重量%の炭素、約3.0〜3.5重量%のケイ素、約0.8〜1.5重量%のモリブデン、約0.025〜0.60重量%のマグネシウム、約0.01重量%未満のイオウ、約0.0〜1.3重量%のニッケル、及び残部の鉄を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施形態を実施するための例示的な方法のブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点については、図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって理解を深めることができるであろう。
【0011】
ケイ素及びモリブデンを大量に合金添加することによって、ダクタイル鉄の高温強度、疲労及びクリープ挙動を改良することができる。これらの鉄は一般にSiMo鉄として分類され、ターボチャージャーハウジング及び排気マニホルドのような自動車用途に広く使用されている。
【0012】
ダクタイル鉄は、通常は、圧縮機排気ケーシング又はタービンシェルのような高温ガスタービンケーシング用途の設計要件を満足しない。ガスタービンケーシングには一般に合金鋼が使用される。
【0013】
モリブデン及びケイ素の合金添加によって従来のフェライト系ダクタイル鉄よりも高温性能の向上したダクタイル鉄が提供される。ケイ素及びモリブデン添加量は、十分な低温靭性を保持したまま、妥当な高温特性が達成されるように調和される。
【0014】
肉厚ダクタイル鉄における標準的なケイ素レベルは通例2.0〜2.2重量%である。今回、ケイ素含有量を2.8〜3.5重量%に増すと、室温〜約400℃での引張強さが実質的に増大することが判明した。0.5重量%モリブデンのダクタイル鉄の等温クリープ性能は従来のダクタイル鉄よりも実質的に優れている。高温強度はクリープ耐性の指標である。耐クリープ性能の改善は、Mo含有量を0.8〜1.5重量%に増大させたときに最大となる。Si及びMoを上記の重量百分率で使用することによって、ガスタービンケーシングに適した特性を有するダクタイル鉄が得られる。
【0015】
本発明の実施形態で使用するダクタイル鉄は、約2.8〜3.7重量%の炭素、約3.0〜3.5重量%のケイ素、約0.8〜1.5重量%のモリブデン及び約0.0〜1.3重量%のニッケルを含んでおり、残部は鉄である。これらの4成分はガスタービンケーシング要件を満足するダクタイル鉄を得るのに臨界的重要性をもつ。高温での引張強さ及び低サイクル疲労(LCF)性能は、高温脆性の発生によって決定される。0.01重量%未満のイオウで適切な特性を有するSiMoダクタイル鉄を得るため、マグネシウムは0.025〜0.60重量%に保たなければならない。この範囲外のマグネシウム添加量では一般に機械的挙動の不適切な鉄が生ずる。上記成分に加えて、以下の微量成分が許容される。すなわち、0.05重量%未満のリン、0.05重量%未満のチタン、0.05重量%未満のバナジウム、0.05重量%未満のスズ、0.10重量%未満のアルミニウム、0.10重量%未満の銅、0.10重量%未満のクロム及び0.15重量%未満のマンガンである。一実施形態では、SiMoダクタイル鉄のタングステン含有量は0.05重量%未満である。
【0016】
モリブデンに富む共晶相は、機械的性質、特に伸び及び靭性を損なうおそれがある。モリブデンが共晶相、金属間化合物相又は金属炭化物相の形態でセル境界に強く分配されるのは避けられない。しかし、これらの相は、適切な接種及びチル処理その他の鋳造における慣用手段を実施することによって許容レベルまで低減させることができる。
【0017】
SiMoダクタイル鉄の製造方法を図1に示す。段階10では、鉄その他の成分を溶融させる。上記の生成物化学組成は溶湯の化学組成とは同一ではない。初期液体溶湯に付随した損失があるので、最終的な溶湯化学組成は初期溶湯化学組成とは異なる。段階11では、通常の接種剤及び処理合金を溶湯に添加する。段階12では、モリブデン合金を溶湯に添加する。段階13では、溶湯を鋳造して部品を形成する。SiMo鉄では高レベルのドロスが付随ので、鋳造に際してそのレベルを見込んでおく必要がある。また、部材の収縮率が高く、供給特性が低いのが典型的である。靭性を向上させ、鋳造時の取扱いの際の割れ中に亀裂が入るのを防ぐために、段階14の熱処理又はフェライト化焼鈍が概して必要とされる。
【0018】
鋳造材料に対する典型的な熱処理又はフェライト化焼鈍工程は以下の通りである。鋳造部材を少なくとも7時間900℃に保持する。部材を720℃まで冷却して少なくとも2時間保持する。部品を690℃に冷却して少なくとも8時間保持する。
【0019】
フェライト化焼鈍工程ではなく、応力除去焼鈍を鋳造部材に実施することができる。応力除去焼鈍は、約650〜750℃で、肉厚最大の断面の厚さ1インチ当たり1時間行われる。
【0020】
接種剤は、準安定炭化物の代わりにグラファイトの形成を促進するために必要とされる。接種剤は、グラファイト形成のための不均質核生成部位(種晶)となる。接種剤の主要成分はケイ素である。鋳造グレードのフェロシリコン(75重量%Si)が接種剤として多用される。典型的な市販の接種剤は高レベルのケイ素に加えて様々なレベルのカルシウム、ゲルマニウム、ストロンチウム、及び希土類元素(肉厚の鉄での他の有益な特性のためにセリウムが最も一般的である)を含有する。接種剤は、大型ダクタイル鋳鉄の製造では複数回添加されることが多い。適切な接種剤は多くの供給元から入手可能である。
【0021】
図1の段階11で、通常の処理合金が溶湯に添加される。処理(改質ともいう)は、フレークではなく球状グラファイトを生成させるために必要である。処理はほぼ純粋なMgの粉体(George Fischerコンバータ)の形態であってもよいし、多くの場合はMg含有合金(多くの場合ニッケルとの合金)の形態である。
【0022】
凝固中に収縮が起こる。方向性凝固を促進して鋳造物の重要な部分での巨視的な収縮多孔性を制限すべく、チル処理(熱除去用の大きな鋳鉄ブロックの戦略的な配置)を利用する。これらのチルの大きさ、タイプ、数及び配置は、SiMo鉄に付随する低下した供給及び収縮レベルのために、これらの鉄では一段と重要性を増す。
【0023】
重要な部分での大きな収縮孔を防ぐように溶融金属を供給するにはライザー(フィーダー)が必要である。これらのライザーは、収縮を起こし易い領域(例えば、厚肉部から薄肉部への形状移行部への供給は困難である)に配置されることが多い。一般的な鋳造慣行では、鋳造性が減少するとライザー間の距離を減少させる必要がある。また、鋳造性が減少したときには、大型のライザー及びライザー首部が使用されることが多い。合金の鋳造性が低下する場合、鋳込温度の調整も一般的である。
【0024】
本明細書における「第1」、「第2」などの用語は順序、数量又は重要性を意味するものではなく、ある構成要素を他の構成要素から区別するために用いられる。単数形で記載したものであっても、数を限定するものではなく、そのものが少なくとも1つ存在することを意味する。数量に用いられる「約」という修飾語は、記載の数値を含み、文脈毎に決まる意味をもつ(例えば、特定の数量の測定に付随する誤差範囲を含む)。本明細書に開示した範囲はすべてその上下限を含み、独立に結合可能である(例えば、「約25重量%以下、具体的には約5〜約20重量%」という範囲は、「約5〜25重量%」の上下限とその範囲内のすべての中間値を含む)。
【0025】
本発明を好ましい実施形態に関して説明してきたが、本発明の範囲を逸脱することなく、その要素を様々に変化させることができ、均等物で置換することができることは当業者には明らかであろう。さらに、特定の状況又は材料に適応させるために、その本質的範囲から逸脱することなく、本発明の教示に多くの修正を行うことができる。したがって、本発明は、本発明を実施するための最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明は特許請求の範囲に属するあらゆる実施形態を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造ダクタイル鉄を含むガスタービンケーシングであって、ダクタイル鉄が、約2.8〜3.7重量%の炭素、約3.0〜3.5重量%のケイ素、約0.8〜1.5重量%のモリブデン、約0.025〜0.60重量%のマグネシウム、約0.01重量%未満のイオウ、約0.0〜1.3重量%のニッケル、及び残部の鉄を含む、ガスタービンケーシング。
【請求項2】
さらに、各々約0.05重量%未満のリン、チタン、バナジウム及びスズを含む、請求項1記載のガスタービンケーシング。
【請求項3】
さらに、各々約0.1重量%未満のアルミニウム、銅及びクロムを含む、請求項1又は請求項2記載のガスタービンケーシング。
【請求項4】
さらに、約0.15重量%未満のマンガンを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のガスタービンケーシング。
【請求項5】
さらに、約0.05重量%未満のタングステンを含む、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のガスタービンケーシング。
【請求項6】
鋳造ダクタイル鉄を含むガスタービンケーシングであって、ダクタイル鉄が、約2.8〜3.7重量%の炭素、約3.0〜3.5重量%のケイ素、約0.8〜1.5重量%のモリブデン、約0.025〜0.60重量%のマグネシウム、0.01重量%未満のイオウ、約0.0〜1.3重量%のニッケル、約0.05重量%未満のリン、約0.05重量%未満のチタン、約0.05重量%未満のバナジウム、約0.05重量%未満のスズ、約0.10重量%未満のアルミニウム、約0.10重量%未満の銅、約0.10重量%未満のクロム、約0.15重量%未満のマンガン、約0.05重量%未満のタングステン、及び残部の鉄を含む、ガスタービンケーシング。
【請求項7】
炭素、マグネシウム、イオウ、ニッケル及び残部の鉄を含むダクタイル鉄を溶融して溶湯を形成し、
接種剤及び処理合金を溶湯に添加し、
モリブデンを溶湯に添加し、
溶湯を鋳造して、約2.8〜3.7重量%の炭素、約3.0〜3.5重量%のケイ素、約0.8〜1.5重量%のモリブデン、約0.025〜0.60重量%のマグネシウム、0.01重量%未満のイオウ、約0.0〜1.3重量%のニッケル及び残部の鉄を含む部品を形成する
ことを含む、部品の製造方法。
【請求項8】
溶湯を鋳造した後、部品を焼鈍することをさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記焼鈍が、
部品を900℃に少なくとも7時間保持し、
部品を720℃に冷却して少なくとも2時間保持し、
部品を690℃に冷却して少なくとも8時間保持する
ことを含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記部品がガスタービンケーシングをなす、請求項7乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記部品が、各々約0.05重量%未満のリン、チタン、バナジウム及びスズを含む、請求項7乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記部品が、各々約0.1重量%未満のアルミニウム、銅及びクロムを含む含む、請求項7乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記部品が、約0.15重量%未満のマンガンを含む、請求項7乃至請求項12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記部品が、約0.05重量%未満のタングステンを含む、請求項7乃至請求項13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記接種剤がフェロシリコンを含む、請求項7乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記接種剤がカルシウム、ゲルマニウム、ストロンチウム及び希土類元素をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記処理合金がマグネシウム及びニッケルを含む、請求項7乃至請求項16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
さらに、約650〜750℃で部品の厚さ1インチ当たり1時間応力除去焼鈍することを含む、請求項7乃至請求項17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記鋳造が、熱を除去するための大型鋳造ブロックを配置することを含む、請求項7乃至請求項18のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−7182(P2011−7182A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138951(P2010−138951)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】