説明

ガスバリア性フィルム、包装袋及びガスバリア性フィルムの製造方法

【課題】ポリエチレンやポリプロピレンなどの熱融着性を有するポリオレフィンフィルムの酸素バリア性を改善することにより、熱融着性を有しており、燃焼廃棄物の残渣が少なく環境に対する負荷が小さいと共に、透明性に優れたガスバリア性フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】熱融着性を有するポリオレフィンからなる基材2の少なくとも一方の面に、プラズマCVDによる炭素を含む珪素酸化物薄膜3のガスバリア層が形成され、該珪素酸化物薄膜3の上にガスバリア性を有しない樹脂組成物のコーティング層からなる保護層4を有するガスバリア性フィルム1である。前記樹脂組成物は、塩化ビニリデン系共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、及びポリビニルアルコールを実質的に含まない樹脂組成物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性フィルムに関するものであり、さらに詳細には、熱融着性(ヒートシール性とも呼ぶこともある)を有しており、燃焼廃棄物の残渣が少なく環境に対する負荷が小さいと共に、透明性に優れたガスバリア性フィルムとそれを用いた包装袋及びガスバリア性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品、医薬品、化学薬品、医療器具、電子部品などの包装には、水蒸気や酸素の透過を防止して内部の雰囲気を一定に保持するためのガスバリア性フィルムが使用されている。
ガスバリア性フィルムとしては、次の(1)から(3)の方法によるものが広く用いられている。
(1)基材フィルムに、アルミニウムなどの金属箔を貼り合せて積層したもの。
(2)基材フィルムに、金属や金属酸化物の薄膜を、真空蒸着法やスパッタリング法にて形成した蒸着膜によるもの。
(3)基材フィルムに、塩化ビニリデン系共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、又はポリビニルアルコールなどのガスバリア性を有する樹脂組成物をコーティングしたガスバリア性樹脂によるもの。
【0003】
しかし、従来から使用されているこれらのガスバリア性フィルムには、次のような欠点を有している。
(1)の金属箔によるものは、水蒸気や酸素に対する優れたバリア性を有しているが、使用後の廃棄物を焼却すると焼却残渣が多くて環境に対して負荷が掛かるという問題がある。また、透視性がなく内容物を目視確認できないという使用上の問題がある。
【0004】
(2)の蒸着膜によるものは、製造設備に大規模な蒸着装置を必要とするので簡単には実施することができないという問題がある。また、ガスバリア層としての金属酸化物の蒸着膜が可撓性に欠け、揉みや折り曲げにより、ひび割れを起してガスバリア性が低下してしまうという問題がある。
【0005】
(3)のガスバリア性樹脂によるものは、塩化ビニリデン系共重合体に関しては燃焼させると塩素が発生するという廃棄物処理における環境上の問題があり、エチレン−ビニルアルコール共重合体及びポリビニルアルコールに関しては高湿度下または高温下では酸素バリア性が著しく低下するという問題がある。
【0006】
このような種々の欠点を解消するため、金属箔を用いないで、真空蒸着法、スパッタ法、プラズマCVDなどの方法を用いて、透明な金属酸化物の薄膜を基材フィルムの上に形成することが提案されている(特許文献1〜6)。
一方、包装用の資材として使用されている代表的な合成樹脂である、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレートについて、ガスバリア性を比較すると表1のようになる(非特許文献1から抜粋)。
【0007】
【表1】

【0008】
上記の表1によると、ポリエチレン及びポリプロピレンは、ポリエチレンテレフタレートに比べて、水蒸気透過率においては遜色がないが、酸素透過率が非常に高い。
このため、ガスバリア性を付与したガスバリア性フィルムの製造では、汎用樹脂であるポリエチレン及びポリプロピレンを基材フィルムに使用しないで、ガスバリア性に基本的に優れ、水蒸気透過率と酸素透過率が共に低いポリエチレンテレフタレート(PET)を基材フィルムとして用いて、透明な金属酸化物の蒸着膜を基材フィルムの上に形成するのが一般的である(特許文献1〜4の実施例を参照)。
【特許文献1】特公昭51−48511号公報
【特許文献2】特開昭62−103139号公報
【特許文献3】特開平7−304127号公報
【特許文献4】特開平7−80986号公報
【特許文献5】特開平10−329286号公報
【特許文献6】特開平11−105188号公報
【非特許文献1】瓜生敏之,堀江一之,白石振作共著、「ポリマー材料(材料テクノロジー16)」、東京大学出版会、1984年、p.110−111
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、基材フィルムに、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いて、透明な金属酸化物の蒸着膜を基材フィルムの上に形成したガスバリア性フィルムは、基材フィルムが熱融着性を有していないため、包装袋の資材として用いる場合は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱融着性を有するポリオレフィン樹脂フィルムを、接着剤を介して積層するか、又は、これらの熱融着性を有するポリオレフィン樹脂を押出ラミネートして積層する必要があった。
【0010】
例えば、特許文献1においては、実施例2に、ポリエステルフィルムの片面に一酸化珪素を真空蒸着し、その蒸着面に低密度ポリエチレンを押出ラミネートすることが開示されている。
また、特許文献2においては、実施例1に、ポリエステルフィルムの片面に一酸化珪素を真空蒸着し、その蒸着面にポリウレタン接着剤を介してポリプロピレンフィルムを積層した包装材を得て、ポリプロピレンフィルムを内側にしてヒートシールを行い、レトルトパウチを作製することが開示されている。
【0011】
また、プラズマCVDを用いて酸化ケイ素の薄膜を形成することは知られており、例えば、特許文献3においては、プラスチック基材の少なくとも片面に酸化ケイ素の薄膜が形成されたガスバリア性包装材料が開示されている。
特許文献3の実施例では、高周波プラズマCVDを用いて、材料ガスをヘキサメチルジシロキサンと酸素ガス、不活性ガスを用い、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを基材として、酸化ケイ素の薄膜を形成している。
【0012】
また、特許文献4には、高温において高いガスバリア性を有するとした、基材フィルム層の少なくとも一方の面が、透明性を有する無機質層(ケイ素酸化物)を介して、ガスバリア性樹脂コーティング層(塩化ビニリデン系共重合体又はエチレン−ビニルアルコール共重合体)で被覆されているガスバリア性フィルムが開示されているが、実施例では、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いている。
【0013】
このように、従来技術においては、蒸着法やプラズマCVD法にて基材フィルムに金属酸化物の薄膜を形成する場合、基材フィルムには、水蒸気透過率と酸素透過率が共に優れているポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用するのが一般的であり、汎用樹脂のポリエチレンやポリプロピレンを基材フィルムに用いることは行なわれていなかった。
【0014】
わずかに、特許文献5、6において、ポリプロピレンを基材フィルムに金属酸化物の蒸着膜を形成する技術が開示されているが、特殊なポリプロピレンフィルムを使用するものであって、汎用の熱融着性を有するポリプロピレンフィルムに関するものではない。
【0015】
例えば、特許文献5では、一般に市販されていない極めて特殊なポリプロピレンフィルムを用いたものである。特許文献5では、シンジオタクチックポリプロピレン層を有するポリプロピレンフィルム基材上に金属蒸着膜又は金属酸化物蒸着膜からなるガスバリア層が形成され、ガスバリア層上に保護層が形成されたポリプロピレン複合フィルムである。
【0016】
この保護層は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びアルギン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種である水溶性高分子と、金属アルコキシド及びその加水分解物並びに塩化錫からなる群から選択される少なくとも一種とを含有する水性塗料を塗布し乾燥することにより成膜されたものである。
また、このガスバリア層の上に形成された保護層は、ポリプロピレン複合フィルム材料のガスバリア性をより高めるために積層するものであって、単なる保護層ではない。
【0017】
また、特許文献6には、二軸延伸ポリプロピレンフィルム基材の一方の面に、少なくとも2種以上の無機酸化物が設けられ、第1の薄膜が、物理蒸着法による無機酸化物の蒸着膜であり、第2の薄膜が、プラズマ化学蒸着法による無機酸化物の蒸着膜である、透明バリア性ポリプロピレンフィルムが開示されている。
しかし、この場合、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを基材フィルムに使用しているため、熱融着性に欠け、別途、熱融着性を有するポリオレフィン系樹脂層を、接着剤層を介して積層する必要があった。
【0018】
このため、従来技術では提供できないガスバリア性フィルムであって、汎用樹脂であるポリエチレン及びポリプロピレンなどの熱融着性を有するポリオレフィンフィルムに、直接、透明性を有するガスバリア層が形成されており、焼却残渣が少なく環境に対する負荷が小さいと共に、透明性に優れたガスバリア性フィルムが望まれている。
【0019】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、汎用樹脂であるポリエチレン及びポリプロピレンなどの熱融着性を有するポリオレフィンフィルムの酸素バリア性を改善することにより、熱融着性を有しており、燃焼廃棄物の残渣が少なく環境に対する負荷が小さいと共に、透明性に優れたガスバリア性フィルムとそれを用いた包装袋及びガスバリア性フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するため、本発明は、熱融着性を有するポリオレフィンからなる基材の少なくとも一方の面に、プラズマCVDによる炭素を含む珪素酸化物薄膜のガスバリア層が形成され、該珪素酸化物薄膜の上に実質的にガスバリア性を有しない樹脂組成物のコーティング層からなる保護層を有することを特徴とするガスバリア性フィルムを提供する。
また、前記樹脂組成物は、塩化ビニリデン系共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、及びポリビニルアルコールを実質的に含まない樹脂組成物であることが好ましい。
また、前記樹脂組成物は、非水溶性であることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、包装袋を構成する包装材料が、上記のガスバリア性フィルムを、少なくとも一部として含んでなることを特徴とする包装袋を提供する。
また、本発明は、熱融着性を有するポリオレフィンからなる基材の少なくとも一方の面に、有機金属珪素と酸素とを、不活性ガス中、真空グロー放電または大気圧グロー放電にて、プラズマ反応させて生成した炭素を含む珪素酸化物薄膜のガスバリア層を形成した後、該珪素酸化物薄膜の上に実質的にガスバリア性を有しない樹脂組成物のコーティング層からなる保護層を形成することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、熱融着性を有しており、焼却廃棄物の残渣が少なく環境に対する負荷が小さいと共に、透明性に優れたガスバリア性フィルム及びその製造方法を提供することができる。
【0023】
また、本発明によれば、基材フィルムに熱融着性のポリオレフィンフィルムを使用しているので、ヒートシール性を付与するために熱融着性を有するポリオレフィンフィルムを改めて積層する必要が無く、本発明のガスバリア性フィルムを包装材として使用するのに便利であり、包装袋の製造工程数及び製造コストを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、最良の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1は、本発明のガスバリア性フィルムを示す模式的断面図である。図2は、本発明の実施例1に示すガスバリア性フィルムであって、プラズマCVDによる珪素酸化物薄膜に保護層を形成したフィルムの表面を観察した走査型電子顕微鏡写真である。図3は、本発明の比較例3に示す、プラズマCVDによる珪素酸化物薄膜のみであって、保護層が形成されていないフィルムの表面を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【0025】
まず、本発明のガスバリア性フィルムの構成について、図1を参照して説明する。
本発明のガスバリア性フィルム1は、熱融着性を有するポリオレフィンからなる基材2に、珪素酸化物薄膜3のガスバリア層が形成され、該珪素酸化物薄膜の上に実質的にガスバリア性を有しない樹脂組成物のコーティング層からなる保護層4が形成されている。
【0026】
上記のガスバリア層は、プラズマCVDにより形成された炭素を含む珪素酸化物薄膜からなる。また、上記の実質的にガスバリア性を有しない樹脂組成物のコーティング層からなる保護層は、塩化ビニリデン系共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、及びポリビニルアルコールを実質的に含まない樹脂組成物をコーティングしてなるものであることが好ましい。
また、前記樹脂組成物は、非水溶性であることが好ましい。
【0027】
上記の基材2の形態としては、シート状またはフィルム状が挙げられる。また、該基材2の熱融着性を有するポリオレフィンは、具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン、ポリブチレン、エチレン−プロピレン共重合体などであって、通常の包装材料として使用し得る樹脂であれば特に制限はない。ポリプロピレンとしては、汎用されるアイソタクチック(isotactic)ポリプロピレンが好ましい。
本発明において、ポリオレフィンが熱融着性を有するかどうかは、少なくとも同一材料同士の熱融着が可能であれば、当該ポリオレフィンは熱融着性を有するものとする。また、目的に応じて使用可能な他の材料とポリオレフィンとが熱融着可能であれば、当該ポリオレフィンは当該他の材料に対する熱融着性を有するものとする。
【0028】
基材2の形状には、特に制限はないが、ロール状の長尺フィルムであるのが好ましい。
基材2のフィルムの厚みには特に制限はないが、一般的には5μm〜200μmの厚みとするのが取扱いの上で便利であり、より好ましくは10μm〜100μm程度である。基材フィルムの厚みが5μmよりも薄いとシワに成り易く、又、200μmよりも厚いとロール体に巻き取るのが困難である。
【0029】
本発明の熱融着性を有するポリオレフィンからなる基材2は、熱融着性に優れている未延伸(無延伸と呼ぶこともある)の樹脂フィルムであることが好ましい。一軸延伸、または二軸延伸させた樹脂フィルムでは、熱融着性、特に熱融着強度が低下しているからである。
基材フィルムは、慣用の成型方法にて作製される。樹脂フィルムの成型方法としては、例えば、インフレーション法やTダイ法などの溶融押出成型法や、溶融樹脂を表面が平滑なドラムやステンレス製の平滑ベルト上に流し込んで付着させ、これを加熱する工程に通して溶媒を蒸発させてフィルムを成型する溶液流延法などが挙げられる。ポリオレフィンの場合は、主に溶融押出成型法により基材フィルムが作製される。
【0030】
また、この基材2のフィルムには、公知の帯電防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、着色剤などの添加剤を加えたり、基材とガスバリア層との密着性を高めるためにコロナ処理、大気圧プラズマ処理などの公知の表面処理を施してもよい。
【0031】
本発明において、ガスバリア層として機能する珪素酸化物薄膜は、プラズマCVDにより形成される。熱融着性を有するポリオレフィンからなる基材の少なくとも一方の面に、有機金属珪素と酸素とを、不活性ガス中、真空グロー放電または大気圧グロー放電にて、プラズマ反応させて生成した炭素を含む珪素酸化物薄膜のガスバリア層が形成される。
大気圧グロー放電にてプラズマ反応させる、いわゆる大気圧プラズマ反応装置は、大気圧下で操作され、真空排気設備を必要としないことから取扱いが比較的に簡便となる。
このため、珪素酸化物薄膜を形成するための設備としては、大気圧グロー放電によるプラズマ反応装置が、真空グロー放電によるプラズマ反応装置に比べてより好適に用いられる。
【0032】
本発明において、有機金属珪素としては、プラズマCVDにおいて珪素酸化物薄膜を形成するための原料として使用される珪素化合物の1種または2種以上を特に制限なく使用できるが、取り扱い上の簡便さ及び室温での安定性等の観点から、常温で液体状である珪素アルコキシドあるいは有機シロキサンを用いることが好ましい。
より具体的には、珪素アルコキシドとしては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルメトキシシラン、エチルトリメトキシシランなどが使用できる。
また、有機シロキサンとしては、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、オクタメチルテトラシロキサン、ジビニルヘキサメチルトリシロキサン、ジビニルテトラメチルジシロキサン、トリビニルペンタメチルトリシロキサンなどが使用できる。
【0033】
そして、これらの常温にて液体である有機金属珪素は、通常、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどの不活性ガスをキャリヤーガスに使用して、グロー放電によるプラズマ反応装置に導入される。なお、有機金属珪素、例えば、テトラメトキシシラン(TMOS)に適量の酸素ガスを添加してプラズマ反応させることにより、酸素ガスバリア性が向上するが、酸素を過剰に添加し過ぎると放電が不安定になり堆積膜が不均一になる。
【0034】
本発明のガスバリア層は、有機金属珪素として、例えばテトラメトキシシラン(TMOS)を用いて、酸素ガス、不活性ガスと共に、大気圧グロー放電によるプラズマ反応装置にて基材表面で反応させ、基材の表面に炭素を含む珪素酸化物薄膜を生成させたものである。X線光電子分光測定装置(XPS)を用いて、基材の表面に堆積した珪素酸化物薄膜の組成を分析した結果は、堆積物が純粋な二酸化珪素(SiO)でなく、炭素成分を少し含んでいるがほぼ珪素酸化物の薄膜であることが判明した(表2を参照)。このため、本発明では、炭素を含む珪素酸化物薄膜からなるガスバリア層と称している。
【0035】
【表2】

【0036】
本発明の炭素を含む珪素酸化物薄膜からなるガスバリア層の厚みは、通常、30〜500nmであることが好ましい、より好ましくは50〜400nm程度である。ガスバリア層の厚みが30nm以下であると、ガスバリア性が劣り、厚みが500nm以上であると不透明となってしまうと共にガスバリア層にクラックが入り易くなるという不都合がある。
【0037】
本発明では、ガスバリア層として機能する珪素酸化物薄膜の上に実質的にガスバリア性を有しない樹脂組成物のコーティング層からなる保護層を形成する。
この保護層の形成に用いる樹脂組成物(以下、保護層形成用樹脂組成物という。)は、塩化ビニリデン系共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、及びポリビニルアルコールを実質的に含まない樹脂組成物であり、ガスバリア性を増加させるために積層するものではない。すなわち、本発明においては、塩化ビニリデン系共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、及びポリビニルアルコールを実質的に含まない樹脂組成物をコーティングすることで、実質的にガスバリア性を有しないコーティング層からなる保護層を形成するのである。
【0038】
保護層の役割は、単に、珪素酸化物薄膜がひび割れしないように外部応力を緩和する緩衝層としての機能を有するのみである。ここで、実質的にガスバリア性を有しない保護層としては、基材層に保護層のみを設けた積層体のガス透過率(以下、Tとする)が、基材層そのもののガス透過率(以下、Tとする)の80%以上であるものが好ましい。より好ましくはTがTの90%以上であり、更に好ましくは、TがTの95%以上である。
【0039】
また、ガスバリア層として機能する珪素酸化物薄膜は、非常に水分に対して脆弱であるため、珪素酸化物薄膜の上にコーティングする保護層の樹脂組成物は、極力、水分を含有していないことが好ましい。
珪素酸化物薄膜の上にコーティングする保護層の樹脂組成物に、水系の樹脂組成物であるポリビニルアルコールを用いて保護層を形成したものは、珪素酸化物薄膜にクラックが入ってしまい、酸素透過率を測定することができなかった。
【0040】
このため、保護層形成用樹脂組成物は、珪素酸化物薄膜が水分に対して脆弱性を有することから非水溶性であることが好ましい。
本発明の実質的にガスバリア性を有しない樹脂組成物のコーティング層からなる保護層を形成するには、有機溶剤に溶解された樹脂溶液であって、水分が含有されない、もしくは水分の含有量が少ない樹脂溶液を用いる。
上記樹脂溶液に用いる樹脂としては、有機溶剤に対する溶解性を有する樹脂を使用することができる。このような樹脂としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エチレン−(メタ)アクリル共重合体樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂などが挙げられ、これらの樹脂を単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
この中では、アクリル系樹脂が、約100℃の高いガラス転移温度を有する点から好適に用いられる。
【0041】
また、有機溶剤としては、例えば、炭化水素(トルエン、n−ヘプタンなど)、ハロゲン化炭化水素(塩化メチレン、クロロホルムなど)、ケトン(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、エステル(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)などの有機溶剤が挙げられ、これらの有機溶媒を単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0042】
本発明では、珪素酸化物薄膜の上に、保護層形成用樹脂組成物をコーティングする方法は、グラビアコート、ロールコート、リバースコート、スピンコート、スプレーコートなどの方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
保護層形成用樹脂組成物のコーティング層の厚みは、ガスバリア性フィルムとしての可撓性を損なわない範囲で適宜選択されるが、通常、0.5〜50μm、より好ましくは1〜30μm程度である。厚みが0.5μm以下では、外部応力を緩和する緩衝層としての機能を充分に発揮することができない。また、厚みが50μm以上であると、逆に可撓性が低下してしまうという不都合がある。
プラズマCVDで作製した珪素酸化物薄膜を保護するため、珪素酸化物薄膜の形成後は、なるべく速やかに保護層形成用樹脂組成物をコーティングすることが好ましい。長尺の基材フィルムを用いてロールtoロールでガスバリア性フィルムを製造する場合は、基材フィルムをロールから繰り出した後、珪素酸化物薄膜の形成、保護層形成用樹脂組成物のコーティングおよび乾燥をして、保護層が完成した後で巻き取りを行なうことが望ましい。
【0044】
保護層の上には、必要に応じて、文字や図柄を印刷した印刷層を積層し、その上に粘着剤を介して表面被覆フィルムを貼り合せても良い。
印刷層は、包装袋などで必要とされる文字や図柄を表示するために用いるものであって、ウレタン系、アクリル系などのインキバインダー樹脂に各種顔料、乾燥剤、安定剤等の添加剤などが添加されたインキを塗布して形成される層である。
印刷層は、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの公知の印刷方法にて形成される。印刷層の厚さは、通常、0.05〜2.0μm程度で良い。
【0045】
本発明の包装袋は、包装袋を構成する包装材料が、本発明のガスバリア性フィルムを、少なくとも一部として含んでなるものである。本発明の包装袋は、本発明のガスバリア性フィルムのみから構成されるものでも、本発明のガスバリア性フィルムを2層以上積層してなるフィルムから構成されるものでも、本発明のガスバリア性フィルムを他の樹脂フィルムと積層してなるフィルムから構成されるものでも、本発明のガスバリア性フィルムをフィルム以外の基材と複合してなる包装材料から構成されるものでもよい。本発明のガスバリア性フィルムは熱融着性を有するポリオレフィンからなる基材を有することから、該フィルムを単独で使用しても熱融着によって包装袋を製造することができる。また、金属箔が複合された包装材料を用いることなく、内容物を透視可能な包装袋を得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例における各物性の測定は、以下の測定方法に基づいて行なった。
【0047】
(酸素透過率の測定方法)
JIS K 7126に準じて、酸素透過率測定装置(Mocon社製、型式OX−TRAN 2/20)を用いて、30℃、70%RHの条件にて測定した。
(基材表面の堆積物の組成分析)
X線光電子分光測定装置(XPS)(アルバック・ファイ株式会社製、型式ESCA−5800ci)を用いて、組成分析を行なった。
(膜の表面状態の観察)
走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製、型式JPS−6100)を用いて、ガスバリア層である珪素酸化物薄膜や、保護層である樹脂コーティング層の表面状態の観察を行なった。
【0048】
(プラズマCVDによる反応生成物の分析)
有機金属珪素としてテトラメトキシシラン(TMOS)を用いて、酸素ガス、不活性ガスと共に、大気圧グロー放電によるプラズマ反応装置にて基材表面で反応させ、基材の表面及び基材表面に生成した堆積物の組成を、XPSにて分析した。
XPSの分析結果は、上記の表2に示すように、堆積物は、炭素成分を少し含んでいるがほぼ珪素酸化物の薄膜であることが判明した。なお、基材はポリオレフィンフィルム(炭素と水素のみからなる)なので、XPSでは炭素のみが検出されている。
【0049】
(プラズマ反応条件)
大気圧グロー放電によるプラズマ反応装置を用いて、基材フィルムに珪素酸化物薄膜を堆積させた。テトラメトキシシラン(TMOS)に酸素ガスを添加してプラズマ反応させることにより、酸素ガスバリア性が向上するが、酸素を過剰に添加しすぎると放電が不安定になり堆積膜が不均一になる。
安定に放電できる条件としては、TMOS流量1.6mg/min、酸素ガス流量1cm/minが最良であることを見出し、以下の実施例におけるプラズマ反応条件とした。
【0050】
(実施例1)
厚みが100μmの未延伸高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム(タマポリ株式会社製、銘柄HD)を、下記の大気圧グロー放電によるプラズマ反応条件にて処理を行ない、厚みが400nmの炭素を含む珪素酸化物薄膜を形成させた。
【0051】
(大気圧グロー放電によるプラズマ反応条件)
電源周波数 13.56MHz
パルス変調モード ON
パルス周波数 10kHz[パルス変調モードがONの場合に適用する条件]
Duty比 20%
He流量 4000cm/min
TMOS流量 0.7〜7.2mg/min
流量 1〜7cm/min
放電時間 60min
電極間距離 2mm
放電出力 100W
堆積膜厚み 400〜500nm
【0052】
次に、基材の片面に形成した珪素酸化物薄膜の上に、保護層形成用樹脂組成物として、アクリル系樹脂塗料(日本触媒製、ポリメントNK−380(Tg=100℃))を、有機溶媒(トルエン/メチルイソブチルケトン=3/1)にて10〜100%の範囲で希釈した塗布液を調製し、乾燥温度40℃にて5秒間、乾燥させて厚み5μmの保護層を形成させたものを実施例1とした。
【0053】
(実施例2)
実施例1において、その他の処理条件を同じとし、保護層の厚みを20μmとしたものを実施例2とした。
【0054】
(比較例1)
厚みが100μmの未延伸高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム(株式会社タマポリ製、銘柄HD)を、熱融着性を有するポリオレフィンからなる基材とし、珪素酸化物薄膜及び保護層を設けないで基材そのままのものを比較例1とした。
【0055】
(比較例2)
比較例1の基材の上に、保護層形成用樹脂組成物として、アクリル系樹脂塗料(日本触媒製、ポリメントNK−380(Tg=100℃))を、有機溶媒(トルエン/メチルイソブチルケトン=3/1)にて10〜100%の範囲で希釈した塗布液を調製し、乾燥温度40℃にて5秒間、乾燥させて厚み20μmの保護層を形成させたものを比較例2とした。
【0056】
(比較例3)
実施例1において、基材の片面に珪素酸化物薄膜を400nmの厚みで形成し、保護層を設けないものを比較例3とした。
【0057】
(比較例4)
実施例1において、基材の片面に珪素酸化物薄膜を400nmの厚みで形成した後、水系の樹脂組成物(ポリビニルアルコール10%水溶液)を塗布して厚み1μmの水系樹脂組成物の保護層を形成し、比較例4とした。比較例4では、保護層の効果がなくて珪素酸化物薄膜にクラックが入ったために、酸素透過率の測定が不能であった。
【0058】
実施例1,2及び比較例1〜4の酸素透過率の測定値を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
表3の測定結果によると、珪素酸化物薄膜と保護層の両方を有する、本発明によるガスバリア性フィルムに係わる実施例1及び2においては、基材フィルムそのままの比較例1と比べると、いずれも酸素透過率が15分の1以下に低下しており、酸素ガスバリア性が改善されていることが分かる。
【0061】
また、表3の酸素透過率の測定結果によると、基材の片面にガスバリア性を有しない保護層を設けた比較例2と、基材そのままの比較例1とを比べると、酸素透過率が略同じであり、この保護層が全くガスバリア性を有していないことが分かる。
【0062】
また、基材の片面に珪素酸化物薄膜のみを形成し、保護層を設けなかった比較例3と、基材そのままの比較例1とを比べると、酸素透過率が半減しているが、珪素酸化物薄膜のみではガスバリア性の改善効果が低いことが分かる。
【0063】
また、珪素酸化物薄膜の上に保護層を有する本発明の実施例1と、珪素酸化物薄膜の上に保護層を設けなかった比較例3とを、フィルムの表面を観察した走査型電子顕微鏡写真によって比べると、比較例3では図3の写真に示すようにクラック(図3の略横方向に現れる、白みを帯びた細線)が確認されたのに対して、実施例1では表面はほぼ均質であり、クラックは確認されなかった。このことから、比較例3ではクラックを通じたガスの透過によってガスバリア性が低下しているのに対し、実施例1では珪素酸化物薄膜のガスバリア性がクラックで損なわれることなく発揮されているものと考えられる。
【0064】
本発明は、上述のように、熱融着性を有するポリオレフィンからなる基材の少なくとも一方の面に、プラズマCVDによる炭素を含む珪素酸化物薄膜のガスバリア層を形成し、該珪素酸化物薄膜の上にガスバリア性を有しない樹脂組成物のコーティング層からなる保護層を形成することによってのみ、優れた酸素ガスバリア性の改善ができることを見出したことによって成されたものである。
【0065】
以上、本発明を好適な実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の形態例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
例えば、基材フィルムのガスバリア層が形成されていない側の面に、粘着剤を介して剥離処理を施した剥離フィルムを積層してもよい。
また、本発明の珪素酸化物薄膜の上に形成した保護層の上に、文字や図柄を印刷した印刷層と表面被覆層とを積層したフィルムを貼り合せて包装袋の表示層を設けることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のガスバリア性フィルムは、前述のように透明性を有する珪素酸化物薄膜からなるガスバリア層を用いており、金属箔や金属蒸着膜を使用していないため、焼却廃棄物の残渣が少なく、また、焼却しても塩素ガスなどの有害ガスの発生が無いので、環境に対する負荷が小さいことから、食品、医薬品、化学薬品、医療器具、電子部品などの包装材料として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明のガスバリア性フィルムを示す模式的断面図である。
【図2】本発明の実施例1に示すガスバリア性フィルムであって、プラズマCVDによる珪素酸化物薄膜に保護層を形成したフィルムの表面を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の比較例3に示す、プラズマCVDによる珪素酸化物薄膜のみであって、保護層が形成されていないフィルムの表面を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0068】
1…ガスバリア性フィルム、2…基材、3…珪素酸化物薄膜、4…保護層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱融着性を有するポリオレフィンからなる基材の少なくとも一方の面に、プラズマCVDによる炭素を含む珪素酸化物薄膜のガスバリア層が形成され、該珪素酸化物薄膜の上に実質的にガスバリア性を有しない樹脂組成物のコーティング層からなる保護層を有することを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、塩化ビニリデン系共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、及びポリビニルアルコールを実質的に含まない樹脂組成物であることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、非水溶性であることを特徴とする請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
包装袋を構成する包装材料が、請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性フィルムを、少なくとも一部として含んでなることを特徴とする包装袋。
【請求項5】
熱融着性を有するポリオレフィンからなる基材の少なくとも一方の面に、有機金属珪素と酸素とを、不活性ガス中、真空グロー放電または大気圧グロー放電にて、プラズマ反応させて生成した炭素を含む珪素酸化物薄膜のガスバリア層を形成した後、該珪素酸化物薄膜の上に実質的にガスバリア性を有しない樹脂組成物のコーティング層からなる保護層を形成することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−166329(P2009−166329A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5994(P2008−5994)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【出願人】(390035932)
【出願人】(508014969)
【Fターム(参考)】