説明

ガスレーザ発振装置

【課題】前記ガス合流部において、ガス流を安定させ、より安定したレーザ出力または経時変化の少ないレーザビームモードが得られるガスレーザ発振装置を提供する。
【解決手段】第1励起部3a及び第2励起部3bを通過したレーザガスは、それぞれテーパ状の第1及び第2ガス流路61a及び61b内に導かれ、ガス合流部23の中央点51付近にて合流し、1つの流れとなってガス流路62内に進む。ここで、励起部3aからのガス流はガス流路61a内の偏向子70aによって矢印80aのように偏向されてガス合流部23内の−X方向寄りを通り、励起部3bからのガス流はガス流路61b内の偏向子70bによって矢印80bのように偏向されて+X方向寄りを通る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスレーザ発振装置に関し、特には合流部を有するガス流路を備えたガスレーザ発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ媒体であるレーザガスを励起部に流し、放電や光、化学反応によりレーザ光を発生させる軸流型ガスレーザ発振装置においては、ガス流路に種々の工夫や改良がなされている。例えば特許文献1には、ガス流路の圧力損失を減らすためにレーザガスの導入部及び排出部にテーパを設ける構成が開示されている。また特許文献2には、励起部の前段のガス流路形状を工夫して放電の安定のために放電管内のレーザガス流を旋回流にする構成が開示されている。
【0003】
またさらに、例えば特許文献3又は4に示すような、2つの励起部を同一レーザ光軸上に配置し、双方の励起部の間のガス合流部でガス流を正面衝突させて合流させる構成が採用されている。2つの励起部からのガス流を合流させることは、2つの流れを分離する場合に比べて、流路の部品数を削減できる、あるいは非励起部分の長さを短縮できるという長所を有する。流路の部品数が減ることによりレーザ発振器のコストを抑えることができ、また非励起部分の長さを短縮することにより損失を抑えて発振効率を高くすることができるという効果が得られる。
【0004】
【特許文献1】特開平6−326379号公報
【特許文献2】特開平9−199772号公報
【特許文献3】特開2003−283008号公報
【特許文献4】特開2004−235517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5及び図6は、特許文献3又は4に示すような軸流型ガスレーザ発振装置が有するガス合流部の構造を示す斜視図である。従来は、励起部103a及び103bと合流部123との間の対向する2つのテーパ状ガス流路、すなわちガス流路161a及び161bは、ガス合流部の中央点151を通りレーザ光軸104に垂直な対称軸152について互いに左右対称、換言すれば対称軸152を含みレーザ光軸104に垂直な平面について面対称の構造となっていた。
【0006】
このため、2つのガス流は各ガス流路内を同様に(同流量、同線速で)流れ、中央点151近傍で正面衝突する。この場合、合流部123でのガス流の状態は不安定すなわち遷移しやすい。例えば、ある時刻t1でのガス流が図5のようであるのに対し、別のある時刻t2ではガス流が図6のように変化することがある。詳細には、図5では励起部3aからのガス流180aが−X方向寄りを通り、励起部3bからのガス流180bが+X方向寄りを通って合流するのに対し、図6では励起部3aからのガス流180aは+X方向寄りを通り、励起部3bからのガス流180bは−X方向寄りを通って合流している。なお図5及び図6に示すように、X方向はレーザ光軸に平行な軸(Y軸)及び合流後のガス流路162の長手軸(Z軸)の双方に垂直な軸方向とする。この例では、時刻t1からt2の間にガス流の状態が遷移しており、ガス流が不安定であることを示している。以上のように、対向する2つのガス流路が互いに面対称の構造である場合にガス流が不安定になることは、ガス流の有限要素法による数値解析からも確認されている。
【0007】
励起部を通って活性化されたレーザガスはレーザ光を吸収する性質を有するため、ガス流が不安定になるとレーザ出力やビームモード形状が変動することがあり、例えばレーザ加工における切断時の切断面質の悪化や光源に使用した場合の光量の変動、さらには物質の処理に用いた場合の処理品質の低下を招いていた。
【0008】
上述の特許文献1又は2のように、ガス流路の改良を図る試みはいくつかなされているが、いずれも特許文献3又は4のような対向するガス流路を備えたガスレーザ発振装置においてガス流の正面衝突を避ける技術に関するものではない。
【0009】
そこで本発明は、前記ガス合流部において、ガス流を安定させ、より安定したレーザ出力または経時変化の少ないレーザビームモードが得られるガスレーザ発振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、レーザ発振用の媒質ガスを流すための第1及び第2のガス流路と、前記第1及び第2のガス流路が合流するガス合流部と、前記第1及び第2のガス流路にそれぞれ設けられるとともに、同一のレーザ光軸に沿って配置されて前記媒質ガスを励起する第1励起部及び第2励起部と、を有するガスレーザ発振装置において、前記第1励起部から前記ガス合流部までの前記第1ガス流路と、前記第2励起部から前記ガス合流部までの前記第2ガス流路とが、互いに非面対称の構造を有することを特徴とする、ガスレーザ発振装置を提供する。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のガスレーザ発振装置において、前記第1励起部から前記ガス合流部までの前記第1ガス流路と、前記第2励起部から前記ガス合流部までの前記第2ガス流路とが、前記ガス合流部の中央点を通り前記レーザ光軸に垂直な中央軸を中心として、互いに180度の回転対称性を備えた構造を有することを特徴とする、ガスレーザ発振装置を提供する。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のガスレーザ発振装置において、前記第1励起部から前記ガス合流部までの前記第1ガス流路内、及び前記第2励起部から前記ガス合流部までの前記第2ガス流路内にそれぞれ、ガス流の方向を変える偏向子が配置されることを特徴とする、ガスレーザ発振装置を提供する。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のガスレーザ発振装置において、前記偏向子は板状の部材であることを特徴とする、ガスレーザ発振装置を提供する。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1又は2に記載のガスレーザ発振装置において、前記第1励起部から前記ガス合流部までの前記第1ガス流路の流路形状と、前記第2励起部から前記ガス合流部までの前記第2ガス流路の流路形状とが、互いに非面対称であることを特徴とする、ガスレーザ発振装置を提供する。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガスレーザ発振装置において、前記励起部は放電によってレーザ光を発生させる放電管である、ガスレーザ発振装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るガスレーザ発振装置によれば、対向する2つのガス流路を互いに非面対称に構成することにより、対向する2つのガス流の主流を互いにずらして正面衝突を避けることができる。従って、ガス合流部でのガス流の不安定性が解消され、より安定したレーザ出力又は経時変化の少ないレーザビームモードが得られる。
【0017】
また第1励起部からガス合流部までの第1ガス流路と、第2励起部からガス合流部までの第2ガス流路とを、ガス合流部の中央点を通りレーザ光軸に垂直な中央軸を中心として、互いに180度の回転対称性を備えた構造とを有することにより、レーザ発振器の製造に関して部品を共通化できるという利点が得られ、管理及びコストの面で有利となる。
【0018】
非面対称性を実現する具体的構成としては、第1及び第2ガス流路内に設けられる板状部材等の偏向子、あるいはレーザ光軸について回転対称でない形状の第1及び第2ガス流路等が可能であり、いずれも簡易な構成で本願の目的を達することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。図1は、本発明に係るガス合流部を備えたガスレーザ発振装置の概略構成を示す図である。炭酸ガス、窒素ガス等のレーザ媒体を含んだレーザ発振用の媒質ガス(以下、レーザガスと称する)は、送風機11より送り出され、熱交換器10dで冷却された後にガス分岐点20にて二手に分岐する。ここで、この熱交換器10d及び後述する熱交換器10cは、例えば、レーザガスと冷却水との間で熱交換を行う熱交換器である。二手に分岐したガスの一方はガス流路60aに導かれて第1励起部3aを通り、他方はガス流路60bに導かれて第2励起部3bを通る。この第1励起部3a及び第2励起部3bを通過中に、レーザガスは励起されてレーザ活性状態となる。これらの励起部は例えば、レーザ電源30より電力供給されレーザガスに放電する放電管であるが、光、化学反応による励起方式のものであってもよい。
【0020】
第1励起部3a及び第2励起部3bは、出力鏡1とリア鏡2との間に挟まれて配置されているため、第1励起部3a及び第2励起部3bより生じた光は出力鏡1とリア鏡2との間で増幅され、レーザ発振し、発振器内レーザ光路4上にレーザ光が発生する。出力鏡1は部分透過鏡であり、出力鏡1を透過したレーザ光は出力レーザ光40となって出力される。第1励起部3a及び第2励起部3bを通過したレーザガスは、それぞれテーパ状の第1及び第2ガス流路61a及び61bを通り、さらにガス合流部23にて合流し、1つの流れとなってガス流路62内に進み、その後熱交換器10cで冷却され、送風機11に戻る。
【0021】
ここまで説明したガスレーザ発振装置の基本的構成は、従来と同様でよい。また、ガス流路中の送風機及び熱交換器は必須の要素ではない。さらに、図1のガスレーザ発振装置は2つの励起部及び1つの合流部を有するが、例えば4つの励起部及び2つの合流部を有するガスレーザ発振装置であっても本発明は適用可能である。
【0022】
図2は、本発明の第1の実施形態に係るガス流合流部23近傍の拡大斜視図である。同図に示すように本発明は、第1励起部3aとガス合流部23との間の第1偏向子70aを含む第1ガス流路61aと、第2励起部とガス合流部23との間の第2偏向子70bを含む第2ガス流路61bとが、ガス合流部23の中央点51を通りレーザ光軸4に垂直すなわちZ軸方向に延びる中央軸52について左右対称でなく、換言すれば中央軸52を含みレーザ光軸4に垂直な平面について非面対称の構造とすることを特徴とする。
【0023】
第1励起部3a及び第2励起部3bを通過したレーザガスは、それぞれテーパ状の第1及び第2ガス流路61a及び61b内に導かれ、ガス合流部23の中央点51付近にて合流し、1つの流れとなってガス流路62内に進む。ここで、励起部3aからのガス流はガス流路61a内の偏向子70aによって矢印80aのように偏向されてガス合流部23内の−X方向寄りを通り、一方励起部3bからのガス流はガス流路61b内の偏向子70bによって矢印80bのように偏向されて+X方向寄りを通る。なお図2に示すように、X方向はレーザ光軸に平行な軸(Y軸)及び合流後のガス流路62の長手軸(Z軸)の双方に垂直な軸方向とする。このような構成によれば、対向するガス流路から流れてくるレーザガスが、従来のように合流部の中央点付近で正面衝突して不安定な遷移現象を起こすことがないので、結果として安定したレーザ光が得られる。
【0024】
図3は、偏向子70a及び70bを上から(Z軸方向に)見た図である。偏向子70a及び70bは、レーザガスの流れを変える例えば板状の要素であり、金属、セラミックス又は樹脂等から作製される。図2及び図3に示すように、偏向子70a及び70bは、レーザ光路4に干渉しない位置でかつ、互いに中央点51を通りレーザ光軸4に垂直すなわちZ軸方向に延びる中央軸52について180度の回転対称性を有するように構成され配置される。また、各偏向子は公知の方法でガス流路内に取り付け可能であるが、偏向子70a及び70bはそれぞれ、ガス流路61a及び61bと一体の部品であってもよい。また本実施形態では偏向子は板状の部材として図示されているが、2つのガス流路の非面対称性を実現できるものであればどのような形状でもよい。
【0025】
図2及び図3を用いて説明した実施形態のように、偏向子を含むガス流路61a及び61bが互いに対称軸52を中心として180度の回転対称性を備えた構造を有することは、レーザ発振器の製造に関して部品共通化等の点で有利である。しかし本発明の主たる効果は、対向するガス流路が回転対称でなくとも、互いに非面対称の構造であれば得られることは明らかである。
【0026】
図4は、本発明の第2の実施形態に係るガス合流部23近傍を上から(Z軸方向に)見た図である。本実施形態では、図2及び図3に示すような偏向子が設けられず、代わりにガス流路61a及び61bがそれぞれやや歪なテーパ形状(すなわちレーザ光軸4についていくらか非回転対称)であり、かつ対称軸52を中心として180度の回転対称性を有する。このような構成によっても対向するガス流路61a及び61bを互いに非面対称の構造とすることができ、それによりガス流は、ガス合流部61a内ではいくらか−X方向に偏向され、逆にガス合流部61b内ではいくらか+X方向に偏向される。従ってこの構成でも第1の実施形態と同様に、ガス合流部におけるガス流安定の効果が得られる。
【0027】
以上のように、対向する流路が互いに非面対称の構造であると、面対称の構造である場合に比べてガス合流部でのガス流状態の遷移は少なくなりガス流が安定する。このことは、ガス流の有限要素法による数値解析によっても確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るガスレーザ発振装置の基本構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るガスレーザ発振装置のガス合流部近傍の拡大斜視図である。
【図3】図2のガス合流部近傍を上方からみた図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るガスレーザ発振装置のガス合流部近傍の拡大斜視図である。
【図5】従来のガスレーザ発振装置のガス合流部における、ある時点でのガス流を示す図である。
【図6】図5とは異なる時点でのガス流を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 出力鏡
2 リア鏡
3a、3b 励起部
4 レーザ光軸
20 ガス分岐部
23 ガス合流部
61a、61b ガス流路
70a、70b 偏向子
10c、10d 熱交換器
11 送風機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振用の媒質ガスを流すための第1及び第2のガス流路と、
前記第1及び第2のガス流路が合流するガス合流部と、
前記第1及び第2のガス流路にそれぞれ設けられるとともに、同一のレーザ光軸に沿って配置されて前記媒質ガスを励起する第1励起部及び第2励起部と、を有するガスレーザ発振装置において、
前記第1励起部から前記ガス合流部までの前記第1ガス流路と、前記第2励起部から前記ガス合流部までの前記第2ガス流路とが、互いに非面対称の構造を有することを特徴とする、ガスレーザ発振装置。
【請求項2】
前記第1励起部から前記ガス合流部までの前記第1ガス流路と、前記第2励起部から前記ガス合流部までの前記第2ガス流路とが、前記ガス合流部の中央点を通り前記レーザ光軸に垂直な中央軸を中心として、互いに180度の回転対称性を備えた構造を有することを特徴とする、請求項1に記載のガスレーザ発振装置。
【請求項3】
前記第1励起部から前記ガス合流部までの前記第1ガス流路内、及び前記第2励起部から前記ガス合流部までの前記第2ガス流路内にそれぞれ、ガス流の方向を変える偏向子が配置されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のガスレーザ発振装置。
【請求項4】
前記偏向子は板状の部材であることを特徴とする、請求項3に記載のガスレーザ発振装置。
【請求項5】
前記第1励起部から前記ガス合流部までの前記第1ガス流路の流路形状と、前記第2励起部から前記ガス合流部までの前記第2ガス流路の流路形状とが、互いに非面対称であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のガスレーザ発振装置。
【請求項6】
前記励起部は放電によってレーザ光を発生させる放電管である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガスレーザ発振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−21854(P2008−21854A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192929(P2006−192929)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】