説明

ガスレーザ発振装置

【課題】送風機によるガス循環冷却を行わないガスレーザ発振装置において、スラブ方式でなく、安定型共振器によるレーザビーム生成実現のためのガス冷却手段の開発が大きな課題となっていた。
【解決手段】レーザガスを励起する放電手段と、レーザガスを内部に配置して放電を行う放電管1と、放電管1を光軸方向に配置し対向する全反射鏡6、部分反射鏡7によって挟むことで形成された光共振器と、放電管1の円周上に複数個の電磁石12を備え、放電管1に接する冷媒手段をもち、光軸と一致した回転軸を中心として回転可能な構造とし、電磁石12と、冷媒を回転させる駆動手段を設け、この複数個の電磁石12を順番にON・OFFすることにより放電管1内部のガス分子が移動し、冷媒により冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスレーザ発振装置に関する物であり、送風機によるレーザガス循環を行わずに大出力かつ高い光品質を実現できるガスレーザ発振装置およびガスレーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の気体レーザ装置について図面とともに説明する。
【0003】
図3(a)は従来の気体レーザ装置の斜視図、図3(b)は同気体レーザ装置の概略平面図、図3(c)は同従来の気体レーザ装置の概略側面図である。これは送風機によるガス循環冷却を行わずにガスレーザの大出力化を行う方法として一般的に用いられている、いわゆるスラブ式共振器を示しており、以下図3(a)〜(c)を参照しながら従来のスラブ式ガスレーザ発振装置を説明する。
【0004】
図3に示すように、従来の気体レーザ装置は、凹面鏡で構成された全反射鏡50、同じく凹面鏡で構成された出口側の全反射鏡51、および放電空間67を有する。この放電空間67はレーザ光軸方向に垂直な断面の縦Aと横Bの寸法が異なる偏平なスラブ状に形成されている。また本図には省略されているが放電空間67は2枚の電極で構成されており、この電極は水冷などの冷却手段も兼ね備えている。
【0005】
そして放電空間67を構成する電極間にあらかじめ封入されたレーザガスに対して放電が行われる。放電により励起されたレーザガスは全反射鏡50,51により増幅され、その一部がレーザビーム取り出し部51aよりレーザビーム8として取り出される。このレーザビーム8がレーザ加工等の用途に用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
図4は従来のレーザ加工装置の概略構成の一例を示す。以下、図4を参照しながら従来のレーザ加工装置を説明する。
【0007】
この図において、レーザビーム8は、反射鏡31にて反射され、加工ワーク32近傍へ導かれる。レーザビーム8は、トーチ36内部に備えられた集光レンズ35によって高密度のエネルギビームに集光され、加工ワーク32に照射され、加工が行われる。
【0008】
加工ワーク32は加工テーブル37上に固定されており、トーチ36は、加工テーブル37を移動させるX軸モータあるいはY軸モータなどの駆動部33と数値制御装置34によって、加工ワーク32に対して相対的に移動する事で、所定の形状の加工が行われる。
【0009】
一般的な板金切断用COレーザにおいて、レーザ出力は数kWクラスが良く用いられており、レーザ発振装置から取り出されるレーザビーム8のサイズは、約15〜25mm程度であり、形状は真円形状が求められている。ビーム形状が、真円で無い場合、ワーク加工時にX方向とY方向とで切断幅が異なる現象が発生する。この切断方向性の発生を避けるため、ビーム形状は真円であることが必須である。
【0010】
レーザ発振を行うためには放電空間67内のレーザガス温度が一定温度以下である必要がある。COレーザの場合はこの温度は200℃であり、ガス温度が200℃を越えると、電気入力に対するレーザ出力の比である発振効率が急激に低下し、所定のレーザ出力が得られなくなる。
【0011】
上記不安定共振器の放電空間67のギャップは1〜3mm程度となっていることが多い。これは、ガス冷却の限界のためである。放電開始前のレーザガス温度は約30℃以下であるが、放電エネルギーによりレーザガス温度は上昇する。放電空間67のレーザガスは分子運動により電極壁面に衝突し、いわゆる拡散冷却により熱交換が行われる。この熱交換により放電による温度ガスは約200℃以上へ上がること無く、レーザ発振を維持することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平3−155684号公報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この様な従来のスラブ構造のガスレーザ発振装置は、下記課題を有している。
【0014】
前述の通り、拡散冷却による熱交換は放電空間のギャップに制限があるためレーザの光の質低下という致命的な欠点がある。平行平板間の距離の1〜3mmはすなわち共振空間が1〜3mmであることを示し、前述の加工に最適な15〜25mmの真円形状のレーザビームには程遠い。
【0015】
これらを解決する手段として1〜3mmのギャップを保ったまま円筒形にする手段もとられているが、ドーナツ状の中抜けのレーザビームとなることから、解決手段として有効なものになっていない。
【0016】
レーザ光共振器の理想形は、基本的に向かい合った1対のミラー表面での反射で光の定在波を形成する方式であり、軸対象で真円形状の最も良質な光を取り出すことができる。いわゆる安定型共振器と呼ばれるものである。しかし板金切断用COレーザの数kWクラスにおいて、安定型共振器を用いているものは送風機と熱交換器を用いたガスフロー型のみであるが、高額でかつ消費電力の大きい送風機を用いざるを得ないことから、イニシャルおよびランニングコスト面で課題を抱えている。すなわち送風機によるガス循環冷却を行わないガスレーザ発振装置において、スラブ方式でなく、安定型共振器によるレーザビーム生成実現のためのガス冷却手段の開発が大きな課題となっていた。
【0017】
本発明は上記課題を解決するものであり、送風機によるガス循環冷却を行わないガスレーザ発振装置において、安定型共振器のガス冷却手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記課題を解決するために、レーザガスを励起する放電手段と、前記レーザガスを内部に配置して放電を行う放電管と、前記放電管を光軸方向に配置し対向するミラーによって挟む事で形成された光共振器と、前記放電管の円周上に複数個の電磁石を備え、前記放電管に接する冷媒手段をもち、光軸と一致した回転軸を中心として回転可能な構造とし、前記電磁石と冷媒を回転させる駆動手段を設け、この複数個の電磁石を順番にON・OFFすることにより放電管内部のガス分子が移動し、冷媒により冷却されることを特徴としたガスレーザ発振装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、上記構成により送風機によるガス循環冷却を行わないガスレーザ発振装置において、ガス分子を移動させることにより安定型共振器のガス冷却手段を供えたガスレーザ発振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は本発明の実施の形態1におけるガスレーザ発振装置の構成図、(b)は(a)のA−A断面図
【図2】本発明の実施の形態2におけるガスレーザ発振装置の構成図
【図3】(a)は従来の気体レーザ装置の斜視図、(b)は同概略平面図、(c)は同概略側面図
【図4】従来のレーザ加工装置の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施の形態1)
以下に本発明の実施の形態1におけるガスレーザ発振装置について図面とともに説明する。
【0022】
図1は本発明の実施の形態1におけるガスレーザ発振装置の構成図である。
【0023】
図1において、放電管1にはレーザガスが封入され、その両端には電極2,3が設けられて電極2、3間に挟まれた放電管1内を放電空間5とし、電極2,3には電源4が接続されている。
【0024】
放電管1に封入されたレーザガスのレーザガス圧は減圧され、100〜200Torr程度である。また、放電管1の内径は約15〜28mm程度である。
【0025】
放電空間5の両両端には全反射鏡6および部分反射鏡7が固定配置され、光共振器を形成し、レーザビーム8は部分反射鏡7より出力される。
【0026】
放電管1内にはポンプ9で循環させる冷媒が流路10を介して流入し、放電管1は冷媒によって冷却される。冷媒は冷却効率を高めるために水冷が好ましいが、ドライエアなどの気体でもかまわない。
【0027】
放電管1の端部に設けられた電極2,3間の電流の流れ11は図示する方向であり、放電管1の外周にはON・OFFを制御する磁界制御手段20に接続された複数個の電磁石12が設けられている。
【0028】
図1(b)には、電磁石12の磁力線13、およびガス分子の移動方向14を示している。
【0029】
次に本装置の動作について説明する。
【0030】
放電管1内部へ放電をさせた状態で、電磁石12の1つに電力を与えると図1(b)に示す磁力線13のように磁力が発生する。すると放電励起されたプラズマ分子はローレンツ力により移動方向14の方へ動作を開始し放電管1の壁面へ押し出される。
【0031】
放電管1は冷媒により冷却されており、放電によって温度の上昇したレーザガスは放電管1の内壁との衝突により熱交換が行われ、レーザガスの冷却が行われる。次に先ほど動作させた電磁石12の電力をOFFとし、放電管1の中心を対称とした電磁石12を磁界制御手段20によりONさせるとガス分子の移動方向14は先ほどとは逆となり、レーザガスは反対側へ移動し、レーザ出力を得るために必要なガス温度となった分子は放電管中心部へ移動する。
【0032】
それと同時に放電によって温度の上昇した放電管1の中心にあったレーザガスは反対側の放電管1の管壁へ押し出され、放電管1の内壁との衝突により熱交換が行われる。
【0033】
以上のように電磁石12のON,OFFを繰り返すことにより、放電管1内のレーザガスは常に冷却され、送風機によるガス循環冷却を行わないガスレーザ発振装置において、ガス分子を移動させることにより安定型共振器のガス冷却が可能となる。
【0034】
また送風機によるガス循環冷却を行わないため、外部よりの常時レーザガス供給および排出を行わない、いわゆる封じ切り動作も可能である。この場合でも、従来のスラブ型同様に、放電によるレーザガス劣化分を補うために、一定周期毎にガスを入れ替える必要性はあるが、送風機を用いる場合に比べて、極めて少量のレーザガス消費量に抑えることが可能である。
(実施の形態2)
図2は本発明の実施の形態2におけるガスレーザ発振装置の構成図である。
【0035】
実施の形態2におけるガスレーザ発振装置では、磁界を変化させる手段として実施の形態1におけるガスレーザ発振装置の電磁石12を永久磁石18に置き換えて、ベアリングなどの回転機構15に取り付けて回転させるものである。
【0036】
図2に示すように、モータなどからなる回転力発生装置16の回転をベルトなどからなる伝達手段17を介して回転機構15に伝えることによって、回転機構15に装着された永久磁石18が回転し、(実施の形態1)で述べたローレンツ力が発生し、実施の形態1におけるガスレーザ発振装置における電磁石12および磁界制御手段20と同様の作用を行なう。
【0037】
なお、実施の形態2におけるガスレーザ発振装置では、放電管1の冷却手段として、放電管1の周囲に配置する冷却ジャケット19も設けている。
【0038】
以上のように永久磁石18の回転を繰り返すことにより、放電管1内のレーザガスは常に冷却され、送風機によるガス循環冷却を行わないガスレーザ発振装置において、ガス分子を移動させることにより安定型共振器のガス冷却が可能となる。
【0039】
また、実施の形態1におけるガスレーザ発振装置と同様に、送風機によるガス循環冷却を行わないため、外部よりの常時レーザガス供給および排出を行わない、いわゆる封じ切り動作も可能である。この場合でも、従来のスラブ型同様に、放電によるレーザガス劣化分を補うために、一定周期毎にガスを入れ替える必要性はあるが、送風機を用いる場合に比べて、極めて少量のレーザガス消費量に抑える事が可能である。
【0040】
なお、実施の形態2におけるガスレーザ発振装置の構成において、永久磁石18に代えて電磁石12を設けることも可能でる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によって、従来不可能となっていた安定型共振器におけるガスレーザの冷却を容易に実現でき、送風機によるガス循環冷却を行わない発振器を可能とするため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0042】
1 放電管
2,3 電極
4 電源
5 放電空間
6 全反射鏡
7 部分反射鏡
8 レーザビーム
9 ポンプ
10 流路
11 電流の方向
12 電磁石
13 磁力線
14 移動方向
15 回転機構
16 回転力発生装置
17 伝達手段
18 永久磁石
19 冷却ジャケット
20 磁界制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ媒質を内部に配置した放電管を備え、前記放電管の外周に沿って複数の磁石を配置し、前記複数の磁石による磁界を前記放電管に対して変化させる磁界変化手段を設けたガスレーザ発振装置。
【請求項2】
前記磁界変化手段として、前記複数の磁石を前記放電管の外周に沿って回転させる回転手段を設けた請求項1記載のガスレーザ発振装置。
【請求項3】
前記複数の磁石として電磁石を用い、前記磁界変化手段として前記各電磁石への通電を制御する磁界制御手段を設けた請求項1記載のガスレーザ発振装置。
【請求項4】
前記磁界制御手段は、前記各電磁石を前記放電管の外周に沿って磁極が直接または間接的に交互となり、かつ、その時極が切り替わるように通電を制御する請求項3記載のガスレーザ発振装置。
【請求項5】
前記放電管と複数の磁石の間に、前記放電管の外周の少なくとも一部を覆うように冷媒通路を設けた請求項1〜4のいずれか1項に記載のガスレーザ発振装置。
【請求項6】
前記放電管を構成する管壁内に冷媒通路を設けた請求項1〜4のいずれか1項に記載のガスレーザ発振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−129795(P2011−129795A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288588(P2009−288588)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】