説明

ガス処理方法、ガス処理装置、微粉末の形成方法及び微粉末形成装置

【課題】コストの上昇を抑えつつ、従来よりも簡便に、ケイ素の水素化物を含む気体中からケイ素の水素化物を除去する。
【解決手段】ケイ素の水素化物を含む気体中から前記ケイ素の水素化物を除去するガス処理方法であって、ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡と水とを接触させることを特徴とするガス処理方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス処理方法、ガス処理装置、微粉末の形成方法及び微粉末形成装置に関するものであり、特に水に対して反応性の低い有害ガスを水中で反応させて無害化するための処理方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶パネルあるいは太陽電池の製造工程において、モノシラン(SiH)等のケイ素の水素化物ガスが使用されている。ケイ素の水素化物等のような有毒ガスを使用する場合、製造プロセスにおいてシリンダー(ボンベ)を使用し終わった後、ガスを再充填する前に、シリンダー内に残留した不要なガスをシリンダーから排出してシリンダー内を空の状態にする。その際、有毒ガスを無害化するために除害化処理を施す必要がある。
【0003】
モノシラン等のケイ素の水素化物ガスの除害化処理として、例えば、特許文献1には燃焼式の除害化処理方法が、特許文献2には除害剤による乾式吸着式の除害化処理方法がそれぞれ開示されている。
【0004】
ところで、ケイ素の水素化物であるモノシランは水との反応性が低いため、下記式(A)に示すような、モノシランと水とを反応させて酸化ケイ素と水素とを生成させる無害化が困難である。
SiH + HO → SiO +4H ・・・(A)
【0005】
これに対して、特許文献3には、水に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムといった薬剤を加えた塩基性水溶液に、気泡状にしたモノシランを接触、反応させて無害化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−110926号公報
【特許文献2】特開2002−355529号公報
【特許文献3】特開2002−102646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された燃焼式の除害化処理方法では、被処理ガス中の可燃成分を燃焼させるためにプロパンガス(LPG)等の燃料ガスが定常的に必要となる。また、特許文献2に記載された除害剤による乾式吸着式の除害処理方法では、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)等の金属酸化物を含む除害剤を用いるため、定期的な交換が必要となる。また、特許文献3に記載された塩基性水溶液等を用いる無害化方法についても、塩基性水溶液を調製するための薬剤が別途必要となる。
【0008】
このように、特許文献1〜3に開示されたモノシラン等のケイ素の水素化物の除害方法では、いずれも消耗品に対してコストが嵩むことが懸念されているのが実情であった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、コストの上昇を抑えつつ、従来よりも簡便に、ケイ素の水素化物を含む気体中からケイ素の水素化物を除去することが可能なガス処理方法及びガス処理装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、ケイ素の水素化物を含む気体中から酸化ケイ素の微粉末を生成することが可能な微粉末の形成方法及び微粉末形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、ケイ素の水素化物を含む気体中から前記ケイ素の水素化物を除去するガス処理方法であって、
ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡と水とを接触させることを特徴とするガス処理方法である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記気泡は、水中で発生させることを特徴とする請求項1に記載のガス処理方法である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、酸素元素を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を前記水中に存在させることを特徴とする請求項2に記載のガス処理方法である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記酸素元素を含む気体が、空気、酸素及びオゾンのうち、少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項3に記載のガス処理方法である。
【0015】
請求項5に記載の発明は、ケイ素の水素化物を含む気体中から前記ケイ素の水素化物を除去するガス処理装置であって、
内部に水を貯留することが可能な容器と、
前記容器内に水を供給する水導入管と、
前記容器内にケイ素の水素化物を含む気体を供給する気体導入管と、
前記ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を発生させる気泡発生手段と、を備えることを特徴とするガス処理装置である。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記気泡発生手段は、前記水導入管から供給する水と前記気体導入管から供給するケイ素の水素化物を含む気体との気泡流を前記容器内の水中に噴射するノズルであることを特徴とする請求項5に記載のガス処理装置である。
【0017】
請求項7に記載の発明は、前記ノズルが、当該ノズルの内径を漸次縮小する漸縮部と、当該内径を漸次拡大する漸拡部と、前記漸縮部と前記漸拡部とを仕切る喉部とを有するベンチュリ構造部を含み、
前記ベンチュリ構造部が、前記喉部における前記気泡流の流速を音速以上とするものであることを特徴とする請求項6に記載のガス処理装置である。
【0018】
請求項8に記載の発明は、前記容器に貯留された水中に、酸素元素を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を導入する気泡導入手段を備えることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載のガス処理装置である。
【0019】
請求項9に記載の発明は、前記容器は、当該容器内に希釈ガスを導入する希釈ガス導入口を有することを特徴とする請求項5乃至8のいずれか一項に記載のガス処理装置である。
【0020】
請求項10に記載の発明は、ケイ素の水素化物を含む気体と水とを反応させて酸化ケイ素の微粉末を形成する方法であって、
ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡と水とを接触させることを特徴とする微粉末の形成方法である。
【0021】
請求項11に記載の発明は、前記気泡は、水中で発生させることを特徴とする請求項10に記載の微粉末の形成方法である。
【0022】
請求項12に記載の発明は、ケイ素の水素化物を含む気体と水とを反応させて酸化ケイ素の微粉末を形成する装置であって、
内部に水を貯留することが可能な容器と、
前記容器内に水を供給する水導入管と、
前記容器内にケイ素の水素化物を含む気体を供給する気体導入管と、
前記ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を発生させる気泡発生手段と、を備えることを特徴とする微粉末形成装置である。
【0023】
請求項13に記載の発明は、前記気泡発生手段は、前記水導入管から供給する水と前記気体導入管から供給するケイ素の水素化物を含む気体との気泡流を前記容器内の水中に噴射するノズルであることを特徴とする請求項12に記載の微粉末形成装置である。
【0024】
請求項14に記載の発明は、前記ノズルが、当該ノズルの内径を漸次縮小する漸縮部と、当該内径を漸次拡大する漸拡部と、前記漸縮部と前記漸拡部とを仕切る喉部とを有するベンチュリ構造部を含み、
前記ベンチュリ構造部が、前記喉部における前記気泡流の流速を音速以上とするものであることを特徴とする請求項13に記載の微粉末形成装置である。
【発明の効果】
【0025】
本発明のガス処理方法によれば、ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡と水とを接触させる構成となっている。気泡径が10μm以下にすることにより、水圧によって更に気泡は収縮し、それに伴って気泡内部の圧力が上昇して気泡の温度が上昇するため、ケイ素の水素化物と水とを反応させることができる。したがって、コストの上昇を抑えつつ、従来よりも簡便に、ケイ素の水素化物を含む気体中からケイ素の水素化物を除去することができる。
【0026】
また、本発明のガス処理装置によれば、ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を発生させる気泡発生手段を設けているため、本発明のガス処理方法を実施することができる。
【0027】
本発明の微粉末の形成方法及び微粉末形成装置によれば、ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡と水とを接触させることにより、ケイ素の水素化物を含む気体と水とを反応させて酸化ケイ素の微粉末を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を適用した実施の形態であるガス処理装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明を適用した実施形態の一例であるガス処理装置に用いるノズルにおけるベンチュリ構造部の拡大図である。
【図3】本発明を適用した実施形態であるガス処理装置の他の例を示す模式図である。
【図4】本発明を適用した実施形態であるガス処理装置の他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を適用した一実施形態であるガス処理方法について、これに用いるガス処理装置とともに図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0030】
<第1の実施形態>
先ず、本発明を適用した一実施形態であるガス処理装置の構成について図1を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施形態のガス処理装置1は、ケイ素の水素化物を含むガス(気体)中から当該ケイ素の水素化物を除去するための装置であり、その内部に水層2Aと気層2Bとを有する容器2と、上記容器2内に水を供給する水導入管3と、上記容器2内にケイ素の水素化物を含む気体を供給する気体導入管4と、ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を発生させるノズル(気泡発生手段)5と、を備えて概略構成されている。
【0031】
容器2は、その内部に水を貯留することが可能な容器であれば、形状や容量は特に限定されるものではない。
容器2の側面には、図1に示すように、上面と底面との間のほぼ中間の高さから当該中間よりもやや上面側の高さの位置に排水口2aが設けられている。この排水口2aにはボール弁等の開閉弁6aを備えた配水管6が接続されており、容器2内の水層2Aの水位が上昇した際に、容器2外へ排水可能とされている。これにより、容器2内の水層2Aの水位を所定の位置に維持することができるとともに、容器2内からの水の漏出の可能性を排除することができる。
【0032】
また、容器2の上面側の側面であって、排水口2aよりも高い位置には、排気口2bが設けられている。この排気口2bには排気管7が接続されており、容器2内の気層2Bからケイ素の水素化物が除去された後の処理済ガスを容器2外へ排気可能とされている。
【0033】
また、排気管7にはグローブ弁等の開閉弁8aを備えた分岐管8の一端が接続されている。分岐管8の他端は、FT−IR等の分析装置(図示略)に接続されている。これにより、分岐管8の開閉弁8aを開状態とすることで、排気管7から容器2外へと排気される処理済ガスの一部を分析装置へと送ることができるため、当該処理済ガスの成分を分析することができる。
【0034】
容器2には、ボール弁等の開閉弁9aを備えた予備ドレイン9が設けられている。また、容器2には、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン)等の希釈ガスを容器2内の気層2Bに導入するための希釈ガス導入口2cが設けられている。希釈ガス導入口2cには、グローブ弁等の開閉弁10aを備えた希釈ガス導入管10が接続されている。
【0035】
水導入管3は、容器2内の水層2Aにノズル5を介して水を供給するために容器2を貫通するようにして設けられている。また、水導入管3は、その一端が図示略の水供給源と接続されており、他端がノズル5の流入側端部と接続されている。また、水導入管3には、流量及び圧力を調節するためのポンプ11とボール弁等の開閉弁3aとが設けられている。
【0036】
水導入管3の管径は、必要な流量と圧力との関係に基づいて定められており、具体的には、例えば管内径が5〜30mmの範囲であることが好ましい。
【0037】
ポンプ11は、ノズル5の流入側端部に所定の流量及び圧力で水を供給することができるものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、ポンプ11の能力としては、例えばノズル5の流入側端部の管内径が15mmである場合に、流量10〜30(l/min)、流入側端部の圧力が150〜350kPaであることが好ましい。
【0038】
気体導入管4は、容器2内の水層2Aにノズル5を介してケイ素の水素化物を含む気体を供給するために容器2を貫通するようにして設けられている。この気体導入管4は、その一端がケイ素の水素化物を服務気体の供給源(例えば、使用済みのボンベ)と接続されており、他端がノズル5と接続される手前の水導入管3と接続されている。これにより、液体(水)と気体(ケイ素の水素化物を含む気体)とからなる気液二相流をノズル5の流入側端部に供給することができる。また、気体導入管4には、グローブ弁等の開閉弁4aが設けられている。
【0039】
ここで、本実施形態のガス処理装置1における処理対象であるケイ素の水素化物としては、例えば、モノシラン(SiH)、ジシラン(Si)等が挙げられる。また、ケイ素の水素化物を含む気体としては、当該ケイ素の水素化物単体であってもよいし、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスによって希釈された混合ガスであってもよい。
【0040】
ノズル(気泡発生手段)5は、水導入管3から供給する水と気体導入管4から供給するケイ素の水素化物を含む気体との気液二相流からケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を発生させるとともに、この気泡流を水中に噴射するために、容器2内の水層2A中に設けられている。なお、本明細書中では、後述するベンチュリ構造部5Bの喉部5cを通過する前の状態を「気液二相流」、喉部5cを通過した後の気泡発生状態を「気泡流」という。
【0041】
ノズル5は、ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下のマイクロバブル状あるいはナノバブル状の気泡を発生させるものであれば、特に限定されるものではない。このようなノズル5としては、例えば、図2に示すように、流入側直管部5Aと、ベンチュリ構造部5Bと、流出側直管部5Cとから構成されたノズルが挙げられる。
【0042】
流入側直管部5Aは、当該ノズル5の流入側端部に設けられており、一端が水導入管4と連接され、他端がベンチュリ構造部5Bと連接されている。また、流出側直管部5Cは、当該ノズル5の流出側端部に設けられており、一端がベンチュリ構造部5Bと連接され、他端が噴射口とされている。
【0043】
ベンチュリ構造部5Bは、ノズル5の内径を漸次縮小する漸縮部5aと、当該内径を漸次拡大する漸拡部5bと、漸縮部5aと漸拡部5bとを仕切る喉部5cとを有している。
【0044】
ここで、ベンチュリ構造部5Bは、喉部5cにおいて、ケイ素の水素化物を含む気体と水とが共に流れる気泡流の流速を音速以上となるように、その形状を最適化する。これにより、ノズル5は、ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を発生させることが可能となり、本実施形態のガス処理装置1に適用することが可能となる。
【0045】
喉部5cにおいて気泡流の流速を音速以上とすることが可能なベンチュリ構造部5Bとしては、例えば、流入側直管部5A及び流出側直管部5Cの管径が16mmである場合に、漸縮部5aの軸方向の長さが20mm、漸拡部5bの軸方向の長さが95.4mm、喉部5cの管径が6mmとしたものが挙げられる(図2を参照)。なお、流入側直管部5A及び流出側直管部5Cならびにベンチュリ構造部5Bの態様は、上記例に限定されるものではなく、管径、テーパ角度等を適宜最適化することができる。
【0046】
次に、上述したガス処理装置1を用いた本実施形態のガス処理方法について説明する。
本実施形態のガス処理方法は、ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡と水とを接触させることにより、ケイ素の水素化物を含む気体中からケイ素の水素化物を除去するものである。以下に、ケイ素の水素化物を含む気体が、100%のモノシラン(SiH)である場合を例として説明する。
【0047】
本実施形態のガス処理方法は、水のみを用いて、下記式(A)に示す反応を促進する。これにより、従来よりも簡便な方法でモノシランの無害化を可能とすることができる。
SiH + HO → SiO +4H ・・・(A)
【0048】
ところで、ケイ素の水素化物であるモノシランは水との反応性が低いため、上記式(A)に示すように、モノシランと水とを反応させて酸化ケイ素と水素とを生成させる無害化が困難であった。
【0049】
例えば、上記特許文献3に示したように、水溶液あるいは水にガスを接触させる場合、気液二相流がしばしば用いられ、ガスは気泡の形で水溶液中あるいは水中に導入される。この場合、気泡の大きさは、ほとんどが100μm以上となっており、薬剤を含まない水に接触させたとしても、上記式(A)に示すような反応はほとんど進行しない。
【0050】
これに対して、本実施形態のガス処理方法では、処理対象となるモノシランを含む気体(以下、被処理ガスという)を直径10μm以下のマイクロバブル状やナノバブル状の気泡として水と接触させる。このように、被処理ガスを気泡径10μm以下のマイクロバブル状やナノバブル状の気泡とすることで、水圧により気泡内の圧力を上昇させることができ、それに伴う圧力上昇や温度上昇等によって上記式(1)の反応を促進することが可能となる。したがって、薬剤を含まない水に被処理ガスを接触させるという勘弁な方法によって、モノシランの無害化を行うことができる。
【0051】
被処理ガスの気泡径を10μm以下にするには、例えば、図1及び図2に示すようなベンチュリ構造部5Bを有するノズル5を用い、その喉部5cにおいて、被処理ガスと水とが共に流れる気泡流の流速が音速を超える条件とする必要がある。
【0052】
ここで、液体中の音速cは、下記式(1)のように示される(「マイクロバブル最前線(機械工学最前線3)、共立出版」を参照)。
【0053】
【数1】

【0054】
なお、上記式(1)中の記号は、下記の通りである。
c:音速
κ:ポリトロープ係数(等温変化:1.0、断熱変化:1.4)
ρ:気泡流圧力
α:ボイド率(全体積に占める気相体積割合)
ρ:液相密度
ρ:気相密度
【0055】
したがって、気泡流の流速が、この音速cよりも大きくなるように、被処理ガスと水との流量を調整する。ベンチュリ構造部5Bの喉部5cにおいて音速を超える流速となった気泡流は、当該喉部5cを通過したところで圧力が低下し、気泡が膨張する。その後、漸拡部5bを通過する際に圧力が急激に上昇し、それにより気泡が急激に収縮するとともに崩壊する。このようにして、気泡の微細化が生じることとなる。
【0056】
また、気泡径が10μm以下となることで、水圧により、更に気泡は収縮し、それに伴って気泡内部の圧力も上昇する。ここで、膨張時気泡内圧力(ρb1)、収縮時気泡内圧力(ρb2)は、それぞれ、下記式(2)及び(3)のように示される。
【0057】
【数2】

【0058】
【数3】

【0059】
なお、上記式(2)及び(3)中の記号は、下記の通りである。
σ:表面張力係数(0.072N/m)
ρ:膨張時気泡流圧力、d:膨張時気泡径
ρ:収縮時気泡流圧力、d:収縮時気泡径
【0060】
さらに、断熱変化における気泡内の状態方程式は、下記式(4)のように示される。
【0061】
【数4】

【0062】
なお、上記式(4)中の記号は、下記の通りである。
b1:膨張時気泡内温度、Tb2:収縮時気泡内温度
【0063】
したがって、図1に示すガス処理装置1を用いる際に、たとえば、水導入管3からノズル5への水の流量、気体導入管5から供給するモノシラン含有ガスの流量といった各条件を調整して、上記式(4)に示す収縮時気泡内温度Tb2を、上記反応式(A)の反応が進む温度(具体的には、230℃以上)とすることで、モノシランの無害化が可能となる。なお、気泡内の水(HO)は、液相(気泡と接している水)から気相内飽和蒸気圧分が常に供給されるものとすることができる。
【0064】
具体的には、本実施形態のガス処理装置1において、図2に示すノズル5を用いる際に、例えば、水を25(l/min)、100%モノシランを250(ml/min)の流量とした場合、ベンチュリ構造部5Bの喉部5cにおいて気泡流の流速を音速に十分達することができる。これにより、気泡は粉砕され、大半が直径10μm以下の気泡となる。
【0065】
このように、ベンチュリ構造部5Bの喉部5cにおける気泡流の流速を音速以上とすることによって、当該喉部5cの通過直後の気泡膨張時と、その後の圧力が上昇する漸拡部5bでの気泡収縮時での圧力及び気泡径の実測値と、上記式(2)〜(4)とから、例えば、直径1μmに収縮された気泡内の温度が約400℃程度に達する。これにより、上記反応式(A)の反応が進行し、大半のモノシランが酸化ケイ素となって無害化される。
【0066】
ところで、ノズル5から容器2内の水層2Aに噴出される実際の気泡は、気泡径分布を持つ。このため、気泡径10μm以上の大きな気泡がわずかに発生し、上記反応式(A)に示す反応が進行しきれずに排出されるモノシランが若干ながら存在する場合が生じる。
【0067】
このように、モノシランが反応しきれずに容器2内の気層2Bに残留したとしても、希釈ガス導入口2cから希釈窒素等を容器2内に導入することにより、排気管7から排出される排気中のモノシラン濃度を排出規定濃度以下に容易に低減することができる。具体的には、例えば、全モノシラン量の0.1%となる0.25(ml/min)が処理しきれない場合であっても、気層2Bに排気として出てきたところで、希釈ガス導入口2cから50(l/min)以上の窒素を導入することで、容易に規定値の5ppm以下に低減することができる。
【0068】
また、上記反応式(A)に示す反応により生じた水素は、大半は容器2内の水層A中に溶出するが、水上に排気として出てきた場合であっても、希釈ガスによって容易に排出規定濃度以下に低減することができる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態のガス処理装置1によれば、ベンチュリ構造部5Bを有するノズル5を備える構成とされており、このベンチュリ構造部5Bが、喉部5cにおいて、ケイ素の水素化物を含む気体と水とが共に流れる気泡流の流速を音速以上となるように、その形状が最適化されている。したがって、ノズル5は、ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下のマイクロバブル状あるいはナノバブル状の気泡を発生させることができる。
【0070】
本実施形態のガス処理方法によれば、図1及び図2に示すガス処理装置を用いることで、モノシラン等のケイ素の水素化物等を含む気体を直径10μm以下のマイクロバブルあるいはナノバブル(気泡)とすることができ、この気泡と薬剤を含まない水とを接触させることで反応させて、被処理ガスの無害化を容易に行うことが可能となる。
【0071】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0072】
例えば、本発明のガス処理装置は、図3に示すように、上述したガス処理装置1が、容器2に貯留された水(水層2A)中に、酸素元素を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を導入する気泡導入手段21を備える構成としても良い。
【0073】
ここで、酸素元素とは、空気、酸素及びオゾンのうち、いずれか単体の気体(ガス)又は少なくともいずれか1つを含む混合ガスを示す。
【0074】
気泡導入手段21は、図3に示す例では、水を貯留して水層22Aを有する容器22と、容器22に水を供給する水導入管23と、容器22に酸素元素を含む気体を供給する気体導入管24と、酸素元素を含む気体からなる直径10μm以下の気泡(マイクロバブルあるいはナノバブル)を発生させるノズル25と、から概略構成されている。
【0075】
なお、水導入管23、気体導入管24及びノズル25の構成については、ガス処理装置1本体の水導入管3、気体導入管4及びノズル5の構成とほぼ同一である。
【0076】
図3に示す例では、気泡導入手段21を、ガス処理装置1を構成する水導入管3の基端側に設けることにより、酸素元素を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を含む水を、水導入管3を介して容器2の水(水層2A)中に存在させることができる。
【0077】
このように、予め水中に酸素(O)やオゾン(O)や空気のマイクロバブルあるいはナノバブルを発生させて、これらのマイクロバブルあるいはナノバブルと上述したモノシランの気泡とを反応させることで、上記反応式(A)に示す反応と同時に下記反応式(B)に示す反応も進行させることができる。したがって、ケイ素の水素化物を含む気体中からケイ素の水素化物を除去することができるため、無害化の効率をより向上させることができる。
SiH + O → SiO +2H ・・・(B)
【0078】
また、本発明のガス処理装置1は、図3に示した気泡導入手段21に代えて、図4に示すような気泡導入手段31を備える構成としても良い。
【0079】
図4に示す気泡手段31は、容器2に水を供給する水導入管33と、容器2に酸素元素を含む気体を供給する気体導入管34と、酸素元素を含む気体からなる直径10μm以下の気泡(マイクロバブルあるいはナノバブル)を発生させるノズル35と、から概略構成されている。
【0080】
図4に示す例では、気泡導入手段21がガス処理装置1を構成する水導入管3の前段に直列的に設けるのに対し、気泡導入手段31が、酸素元素を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を含む水を、ノズル35から直接容器2の水(水層2A)中に導入するように構成されている。
【0081】
これにより、図3に示す例と同様に、図4に示す例においても上記反応式(A)及び(B)に示す反応を同時に進行させることができる。したがって、ケイ素の水素化物を含む気体中からケイ素の水素化物をより効果的に除去することができるため、無害化の効率をより向上させることができる。
【0082】
なお、上記反応式(A)及び(B)は、例えばモノシラン等のケイ素の水素化物を含むガスを無害化する反応を示しているが、当該反応式(A)及び(B)に示す反応で生成した酸化ケイ素(SiO)は、形状も揃い純度も高いものとなる。
【0083】
このため、図1、図3及び図4に示す、本発明を適用した一実施形態であるガス処理装置1の容器2から水層2Aを分離して生成した酸化ケイ素(SiO)を取り出し、更に大きさを分球することにより、ナノシリカのような微粉末として用いることも可能である。
【0084】
ナノシリカとしての取り出しは、別途、酸化ケイ素の微粉末を水に沈殿させた後、水を蒸発させることで可能である。また、図1、図3及び図4に示す、本発明を適用した一実施形態であるガス処理装置1に導入するモノシラン等のケイ素の水素化物を含む気体(ガス)を窒素、アルゴン、ヘリウム等の希釈ガスで希釈することにより、生成する酸化ケイ素(SiO)の微粉末の径を制御することも可能である。
【0085】
このように、図1、図3及び図4に示す、本発明を適用した一実施形態であるガス処理装置1は、微粉末形成装置との側面を併せ持つ装置である。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明を用いることにより、燃焼させるために用いる燃料ガス、吸着させるために用いる除害材といった高価な消耗品が不要となるため、モノシランを無害化の際のコストを削減することが可能となる。また、形成された酸化ケイ素を微粉末として取り出すことができるため、当該微粉末の酸化ケイ素を有効に活用することもできる。
【符号の説明】
【0087】
1・・・ガス処理装置(微粉末形成装置)
2・・・容器
2A・・・水槽
2B・・・気層
2a・・・排水口
3,23,33・・・水導入管
4,24,34・・・気体導入管
5,25,35・・・ノズル(気泡発生手段)
5A・・・流入側直管部
5B・・・ベンチュリ構造部
5a・・・漸縮部
5b・・・漸拡部
5c・・・喉部
5C・・・流出側直管部
6・・・配水管
7・・・排気管
8・・・分岐管
9・・・予備ドレイン
10・・・希釈ガス導入管
11・・・ポンプ
21,31・・・気泡導入手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素の水素化物を含む気体中から前記ケイ素の水素化物を除去するガス処理方法であって、
ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡と水とを接触させることを特徴とするガス処理方法。
【請求項2】
前記気泡は、水中で発生させることを特徴とする請求項1に記載のガス処理方法。
【請求項3】
酸素元素を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を前記水中に存在させることを特徴とする請求項2に記載のガス処理方法。
【請求項4】
前記酸素元素を含む気体が、空気、酸素及びオゾンのうち、少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項3に記載のガス処理方法。
【請求項5】
ケイ素の水素化物を含む気体中から前記ケイ素の水素化物を除去するガス処理装置であって、
内部に水を貯留することが可能な容器と、
前記容器内に水を供給する水導入管と、
前記容器内にケイ素の水素化物を含む気体を供給する気体導入管と、
前記ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を発生させる気泡発生手段と、を備えることを特徴とするガス処理装置。
【請求項6】
前記気泡発生手段は、前記水導入管から供給する水と前記気体導入管から供給するケイ素の水素化物を含む気体との気泡流を前記容器内の水中に噴射するノズルであることを特徴とする請求項5に記載のガス処理装置。
【請求項7】
前記ノズルが、当該ノズルの内径を漸次縮小する漸縮部と、当該内径を漸次拡大する漸拡部と、前記漸縮部と前記漸拡部とを仕切る喉部とを有するベンチュリ構造部を含み、
前記ベンチュリ構造部が、前記喉部における前記気泡流の流速を音速以上とするものであることを特徴とする請求項6に記載のガス処理装置。
【請求項8】
前記容器に貯留された水中に、酸素元素を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を導入する気泡導入手段を備えることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載のガス処理装置。
【請求項9】
前記容器は、当該容器内に希釈ガスを導入する希釈ガス導入口を有することを特徴とする請求項5乃至8のいずれか一項に記載のガス処理装置。
【請求項10】
ケイ素の水素化物を含む気体と水とを反応させて酸化ケイ素の微粉末を形成する方法であって、
ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡と水とを接触させることを特徴とする微粉末の形成方法。
【請求項11】
前記気泡は、水中で発生させることを特徴とする請求項10に記載の微粉末の形成方法。
【請求項12】
ケイ素の水素化物を含む気体と水とを反応させて酸化ケイ素の微粉末を形成する装置であって、
内部に水を貯留することが可能な容器と、
前記容器内に水を供給する水導入管と、
前記容器内にケイ素の水素化物を含む気体を供給する気体導入管と、
前記ケイ素の水素化物を含む気体からなる直径10μm以下の気泡を発生させる気泡発生手段と、を備えることを特徴とする微粉末形成装置。
【請求項13】
前記気泡発生手段は、前記水導入管から供給する水と前記気体導入管から供給するケイ素の水素化物を含む気体との気泡流を前記容器内の水中に噴射するノズルであることを特徴とする請求項12に記載の微粉末形成装置。
【請求項14】
前記ノズルが、当該ノズルの内径を漸次縮小する漸縮部と、当該内径を漸次拡大する漸拡部と、前記漸縮部と前記漸拡部とを仕切る喉部とを有するベンチュリ構造部を含み、
前記ベンチュリ構造部が、前記喉部における前記気泡流の流速を音速以上とするものであることを特徴とする請求項13に記載の微粉末形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−39521(P2013−39521A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177432(P2011−177432)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】