説明

ガス分析装置

【課題】金属中のガス成分の分析精度をより高めたガス分析装置を提案する。
【解決手段】鋳造品2中のガス成分に含まれる所定の組成成分を分析するガス分析装置1において、鋳造品2を減圧加熱して鋳造品2中のガス成分を抽出するガス抽出部3と、ガス抽出部3にて抽出されたガス成分のガス量を検出するガス量検出部4と、ガス成分に含まれる水蒸気ガスとその他の一般組成成分とを並行して検出する組成成分検出部5と、ガス量検出部4により検出されたガス量、及び組成成分検出部5により検出された検出値に基づいて所定の演算処理を行って、ガス成分に含まれる所定の組成成分に関する定量評価値を演算する演算処理部6と、を具備してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析装置の技術に関し、より詳細には、金属中のガス成分に含まれる所定の組成成分を分析するガス分析装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト鋳造法は、高圧・高速でアルミニウム、マグネシウム若しくは亜鉛又はこれらの合金等の溶融金属を金型内に射出し、充填成形することにより金属成形品(鋳造品)を製造する鋳造法である。しかし、かかる鋳造法は、溶湯の高速充填により周囲のガスが溶湯内に巻き込まれて、鋳造品中に保持炉の溶湯中のガス量に比べて多量のガス(気泡)が含有されてしまい、また、かかるガスと金属との反応によりできた酸化物等の介在物が鋳造品中に介在してしまうという問題がある。そのため、ダイカスト鋳造法により製造される鋳造品は、高温に保持されると、鋳造品中の圧縮ガスが膨張して鋳造品の表面にブリスターとして表出し、その結果、鋳造品の機械強度が著しく低減して、品質の信頼性が劣っていた。
【0003】
そこで、これまでにも、今日の厳しい品質要求に応じて高品質で信頼性の高い鋳造品を提供すべく、鋳造品のガス量を低減するための新たなダイカスト鋳造法が提案されているところである(例えば、特許文献1又は特許文献2参照)。そして、そのような新たなダイカスト鋳造法を開発するに当たって重要な品質評価手段の一つとして、金属中のガス成分に含まれる所定の組成成分を分析するためのガス分析装置に関する技術も幾つか提案されてきている(例えば、特許文献3又は特許文献4参照)。
【0004】
通常、鋳造品などの金属中に含まれる所定の組成成分を分析するガス分析装置としては、ランズレー式ガス分析装置や、極微量の水素元素や窒素元素に対するガス分析装置、又はこれら多元素の同時ガス分析装置などが提案されている。特に、従来アルミ鋳物用分析装置としては、上述したランズレー式ガス分析装置のように再溶解にてガス総量を測定する方法と、水素ガス分析装置のように電気伝導度変化率を用いて測定する方法とが知られている。
【0005】
このような従来のガス分析装置では、主に、金属中に含まれる所定の組成成分を検出する検出手段として、ガス成分から所定の組成成分を分離して各組成成分を検出するガスクロマトグラフが用いられている。そして、この従来のガス分析装置のガスクロマトグラフでは、予め分析対象として所定の組成成分(ガス)が設定されており、分析時には、この設定された組成成分のみが分離検出され、定量分析されるように構成されている。
【0006】
ところで、従来、金属中に内在するガス成分としては、大気成分の他、プランジャ用の潤滑剤や金型キャビティ用の離型剤等から生じる燃焼ガスが含まれ、その組成成分としては、具体的には、水素、酸素、窒素、メタン、一酸化炭素、及び二酸化炭素の無機系ガスの他、せいぜいメタン及びエタンの有機系ガスのみが含まれると考えられていた。そのため、従来のガス分析装置のガスクロマトグラフでは、これらの無機系ガスや有機系ガスのみが分析対象の組成成分として予め指定され、例えば、これらの指定された組成成分の総量に基づいてガス成分中の各組成成分の相対濃度などが演算され、かかる演算結果としての相対濃度が金属成形品(鋳造品)の評価に用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、従来のガス分析装置のように、上述した無機系ガスや有機系ガスだけを指定して演算された定量評価値としての相対濃度を用いて、金属成形品(鋳造品)の品質評価を行うと、例えば、異なる離型剤を用いた金属成形品(鋳造品)の品質評価を行った場合などでは、かかる品質評価の結果と金属成形品(鋳造品)の実性能や品質などの間で評価が異なり、品質評価にて良と評価されても、実際の金属成形品(鋳造品)の品質に問題がある場合などが発生していた。そのため、ガス分析装置における分析精度のさらなる向上が待望されているところであった。
【0008】
このようにガス分析装置が分析精度に劣る要因としては、従来のガス分析装置では、過去の知見に基づいて、分析対象である組成成分において一部の無機系ガスや有機系ガスの組成成分のみが設定されていたが、そもそも、金属中のガス成分にこれらの組成成分以外のその他の組成成分が含まれている場合には、これらの組成成分だけを指定して演算された相対濃度の相対誤差が自ずと大きくなる。つまり、従来のガス分析装置では、金属中のガス成分に含まれる組成成分を網羅して分析するものでないため、ガス成分の正確な全ガス量を確定することができず、その結果分析精度が劣ることになると考えられる。
【0009】
なお、このような視点から、上述した特許文献3又は特許文献4に示したようなガス分析装置においても、新たな組成成分をこのような金属中のガス成分の全ガス量、すなわちガス成分に含まれる組成成分について詳細に検討したものではなく、上述したような分析精度の問題は依然として解消されていないままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2004/058434号
【特許文献2】特開2004−91818号公報
【特許文献3】特開平1−308939号公報
【特許文献4】実公平6−5627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明では、ガス分析装置に関し、前記従来の課題を解決するもので、金属中のガス成分の分析精度をより高めたガス分析装置を提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0013】
発明者らは、金属中のガス成分に含まれる所定の組成成分を分析するガス分析装置に関する多様な研究を進めるうちに、ガス成分に含まれる所定の組成成分の構成に着目して鋭意検討を行った結果、そもそも金属中のガス成分には、これまでに検討されていなかった組成成分として特に水蒸気ガス(HO)が多く含まれていることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0014】
すなわち、請求項1においては、金属中のガス成分に含まれる所定の組成成分を分析するガス分析装置において、金属を減圧加熱して金属中のガス成分を抽出するガス抽出部と、前記ガス抽出部にて抽出されたガス成分のガス量を検出するガス量検出部と、前記ガス成分に含まれる水蒸気ガスとその他の一般組成成分とを並行して検出する組成成分検出部と、前記ガス量検出部により検出されたガス量、及び前記組成成分検出部により検出された検出値に基づいて所定の演算処理を行って、前記ガス成分に含まれる所定の組成成分に関する定量評価値を演算する演算処理部と、を具備してなるものである。
【0015】
請求項2においては、前記組成成分検出部は、前記ガス成分のうち一般組成成分を分離して検出する第一組成成分検出部と、前記ガス成分のうち水蒸気ガスを分離して検出する第二組成成分検出部と、を有するものである。
【0016】
請求項3においては、前記組成成分検出部は、前記第一組成成分検出部及び第二組成成分検出部にそれぞれ前記ガス成分を導入するガス導入系を有し、前記ガス導入系に対して前記第一組成成分検出部及び第二組成成分検出部の順にそれぞれ直列に配設されるものである。
【0017】
請求項4においては、前記ガス量検出部は、前記ガス抽出部にて抽出された前記ガス成分のガス圧を検出する第一ガス量検出部と、前記組成成分検出部を介して機外に排出される前記ガス成分のガス流量を検出する第二ガス量検出部と、を有するものである。
【0018】
請求項5においては、前記組成成分検出部は、前記ガス成分から所定の組成成分を分離する分離用カラムと、該分離用カラムで分離された組成成分を検出する検出器を備えるガスクロマトグラフであるものである。
【0019】
請求項6においては、前記金属は、鋳造品であるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の効果として、金属中のガス成分の分析精度をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例に係るガス分析装置の全体的な構成を示したブロック図。
【図2】組成成分検出部の流路構成図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず、本実施例のガス分析装置1の全体構成について、以下に概説する。
図1に示すように、本実施例のガス分析装置1は、金属成形品としての鋳造品2中のガス成分に含まれる所定の組成成分を分析するための分析装置であって、具体的には、ガス抽出部3と、ガス量検出部4と、組成成分検出部5と、演算処理部6と、制御部7等とで構成されている。鋳造品2としては、ダイカスト鋳造法により鋳造されたアルミニウム合金などが用いられる。
【0023】
ガス抽出部3は、鋳造品2を減圧加熱して鋳造品2中のガス成分を抽出するための減圧加熱炉30として構成されており、この減圧加熱炉30には炉内を所定の圧力まで減圧する減圧ポンプ31と、炉内温度を所定の温度まで加熱する加熱ヒータ32等が設けられている。減圧加熱炉30内には、上述した鋳造品2が配設されるが、かかる際には、減圧加熱炉30内及び鋳造品2に対してそれぞれ表面洗浄が十分に行われる。なお、減圧ポンプ31及び加熱ヒータ32は、後述する制御部7に接続され、所定の減圧状態(〜10Torr程度)や加熱状態(100℃〜800℃程度)となるように制御される。
【0024】
ガス抽出部3には、鋳造品2から抽出されたガス成分を減圧加熱炉30から排出し、後述するガス量検出部4や組成成分検出部5等を介して機外に排出するためのガス成分導出管33が設けられており、このガス成分導出管33に対する各部の取付位置としては、ガス成分の移送方向に沿って上流側から順に、減圧加熱炉30→ガス量検出部4(第一ガス量検出部40)→組成成分検出部5→ガス量検出部4(第二ガス量検出部41)が配設されている。
【0025】
ガス抽出部3では、減圧加熱炉30内に鋳造品2を載置させた状態で、減圧ポンプ31及び加熱ヒータ32が作動されることで、かかる鋳造品2が加熱溶融されて鋳造品2中のガス成分が抽出される。そして、このようにして抽出されたガス成分が、ガス成分導出管33を介してガス量検出部4や組成成分検出部5に移送された後に、機外へと排出される。
【0026】
ガス量検出部4は、ガス抽出部3にて抽出されたガス成分のガス圧を検出する第一ガス量検出部40としての圧力センサ及び電磁弁(図略)と、組成成分検出部5を介して機外に排出されるガス成分のガス流量を検出する第二ガス量検出部41としての流量センサとで構成されている。
【0027】
このうち、第一ガス量検出部40としての圧力センサ及び電磁弁は、減圧加熱炉30と組成成分検出部5との間に配設されている。圧力センサは、後述する演算処理部6に接続され、減圧加熱炉30よりガス成分導出管33内に導出されたガス成分のガス圧が検出されるとともに、電磁弁は、制御部7に接続され、制御部7により電磁弁が開閉制御されることでガス成分導出管33内へのガス成分の導出が制御される。
【0028】
本実施例では、後述する演算処理部6にて、圧力センサにより検出されたガス圧に基づいて、電磁弁による開放前後での減圧加熱炉30内のガス圧の差が演算され、ガス成分の全ガス量が演算される。つまり、電磁弁を閉じた状態で、減圧加熱炉30が減圧ポンプ31により所定の圧力にまで減圧されて、かかる状態で鋳造品2が加熱溶融されると、所定の圧力下で減圧加熱炉30内にガス成分が充満し、その後電磁弁が開放されて、減圧加熱炉30内からガス成分がガス成分導出管33へと導出されると、減圧加熱炉30内の圧力は増加したガス成分の全ガス量に対応する分だけ増加する。そのため、第一ガス量検出部40により検出された減圧加熱炉30内のガス圧を演算することで、かかる演算値から減圧加熱炉30にて抽出されたガス成分の全ガス量を算出することができるのである。
【0029】
また、第二ガス量検出部41としての流量センサは、ガス成分導出管33において組成成分検出部5の下流側に配設され、後述する演算処理部6に接続されており、ガス成分導出管33を流れるガス流量(ガス成分導出管33より機外に排出されるガス流量)が検出される。本実施例では、後述する演算処理部6にて、第二ガス量検出部41により検出されたガス流量に基づいて、ガス成分導出管33を流れるガス量の変化を演算して、ガス成分の全ガス量が変化することなく組成成分検出部5より排出されているか否かが確認(チェック)される。
【0030】
図2に示すように、組成成分検出部5は、ガス成分に含まれる水蒸気ガスとその他の一般組成成分とを並行して検出するように構成されており、具体的には、ガス成分のうち一般組成成分を分離して検出する第一組成成分検出部50と、ガス成分のうち水蒸気ガスを分離して検出する第二組成成分検出部51と、第一組成成分検出部50及び第二組成成分検出部51にそれぞれガス成分を導入するガス導入系5a等とを有している。特に、本実施例の第一組成成分検出部50及び第二組成成分検出部51は、ガス成分から所定の組成成分を分離する分離用のメインカラムMC1〜MC4と、メインカラムMC1〜MC4で分離された組成成分を検出する検出器55・58とを備えるガスクロマトグラフとして構成されている。
【0031】
ここで、本実施例では、組成成分検出部5における分析対象の組成成分として、鋳造品2中のガス成分に含まれる全ての組成成分を指定することが可能となるように構成されており、特に、第一組成成分検出部50では、一般組成成分としての無機系ガスや有機系ガスが分析対象の組成成分とされ、第二組成成分検出部51では、水蒸気ガスが分析対象の組成成分とされる点が特徴である。つまり、従来では、かかるガス成分には少なくとも水蒸気ガスが含まれると認識されていなかったため、組成成分検出部5での分析対象の組成成分として指定されることはなかったところ、本実施例では、ガス成分から水蒸気ガスを分離して検出する構成を備えているところが特徴となっている。
【0032】
第一組成成分検出部50及び第二組成成分検出部51は、組成成分検出部5に設けられたガス導入系5aにおいて、ガス導入系5aを流れるガス成分の上流側から下流側に向けて、第一組成成分検出部50及び第二組成成分検出部51の順にそれぞれ直列に配設されている。すなわち、組成成分検出部5では、上述したガス成分導出管33よりガス導入系5aに導入されたガス成分は、まず第一組成成分検出部50に移送され、次いでその下流側に配設される第二組成成分検出部51に移送されるように構成されている。そして、各第一組成成分検出部50及び第二組成成分検出部51には、それぞれ分離用のメインカラムMC1〜MC4と、メインカラムMC1〜MC4で分離された組成成分を検出する検出器55・58が設けられているため、各第一組成成分検出部50及び第二組成成分検出部51において、ガス成分に含まれる水蒸気ガスとその他の一般組成成分とが並行して検出されるのである。
【0033】
第一組成成分検出部50では、鋳造品2中のガス成分に含まれる鋳造品2中のガス成分に含まれる組成成分として、水素、酸素、窒素、メタン、一酸化炭素、及び二酸化炭素などの無機系ガスと、炭化水素類として炭素数が1〜6までの成分を含む有機系ガスとが分離して検出される。炭素数nの炭化水素類をCnと表すとすると、有機系ガスとしては、例えば、C1成分(メタン)、C2成分(エタン、エチレン)、C3成分(プロパン、プロピレンなど)、C4成分(n−ブタン、i−ブタンなど)、C5成分(n−ペンタン、i−ペンタンなど)、C6成分(ベンゼンなど)が挙げられる。
【0034】
なお、第一組成成分検出部50にて分析対象となる組成成分としては、有機系ガスであれば、C3成分〜C6成分は、ガス成分に極微量程度(〜十数ppm)しか含まれないため、少なくとも、C1成分(メタン)及びC2成分(エタン)が設定されることが好ましい。ただし、第一組成成分検出部50を構成するメインカラムMC1〜MC3の分離性能や検出器55の検出精度を考慮して、他のC3成分〜C6成分を分析対象とすることは何ら差し支えない。
【0035】
具体的に、図2に示す第一組成成分検出部50の流路構成図を概説すると、ガス抽出部3より延出されたガス成分導出管33が実線及び点線で示す二つの接続状態に切り替え可能な第一切替バルブV1のポートaと接続されており、第一切替バルブV1のポートcには、キャリブレーションのための標準ガスが供給される標準ガス供給口が接続されている。また、第一切替バルブV1のポートbは、サンプリングバルブである第二切替バルブV2のポートaと接続されている。
【0036】
第二切替バルブV2においても、同様に実線及び点線で示す二つの接続状態に切り替え可能とされており、第二切替バルブV2のポートaはポートjと接続されており、ポートjとポートcとの間には、第一計量管53が接続されている。また、第二切替バルブV2のポートeとポートiの間には第一プレカラムPC1が接続され、ポートhは第一チョークカラムCC1を介して排気口(VENT)に連通されている。さらに、ポートgには第一ダミーカラムDC1が接続され、その第一ダミーカラムDC1の他端とポートdとは共にキャリアガスの供給圧を制御しながら供給するキャリアガス供給口54に接続されている。
【0037】
第二切替バルブV2のポートfは、第一メインカラムMC1を介して同様に実線及び点線で示す二つの接続状態に切り替え可能な第三切替バルブV3のポートaに接続されており、第三切替バルブV3のポートc及びポートeはそれぞれ第二メインカラムMC2及び第三メインカラムMC3を介して熱伝導度検出器(TCD)の第一検出器55のサンプル側流路へと延出されている。また、第三切替バルブV3のポートbとポートfとは直結されており、ポートdは第二ダミーカラムDC2に接続されている。そして、この第二ダミーカラムDC2の他端には、上述したキャリアガス供給口54が接続されると共に、第一リファレンスカラムRC1を介して第一検出器55のリファレンス側流路に接続されている。
【0038】
図2に示すように、第二組成成分検出部51では、鋳造品2中のガス成分に含まれる鋳造品2中のガス成分に含まれる組成成分として、水蒸気(水蒸気ガス、HO)が分離されて検出される。すなわち、組成成分検出部5(第二組成成分検出部51)にて、ガス成分に含まれる水蒸気ガスを分離して検出することで、後述するように、ガス成分に含まれる組成成分の分析精度を向上することができる。
【0039】
具体的に、図2に示す第二組成成分検出部51の流路構成図を概説すると、第一組成成分検出部50の第二切替バルブV2のポートbが第四切替バルブV4のポートaに接続されており、この第四切替バルブV4においても、同様に実線及び点線で示す二つの接続状態に切り替え可能とされており、第四切替バルブV4のポートeとポートfとの間には第二計量管56が接続されている。ポートcはキャリアガスの供給圧を制御しながら供給するキャリアガス供給口57に接続されており、ポートdは第四メインカラムMC4を介して熱伝導度検出器(TCD)としての第二検出器58のサンプル側流路へと延出されるとともに、第二リファレンスカラムRC2を介して第二検出器58のリファレンス側流路に接続されている。そして、ポートeがポートbに接続されて、このポートbにガス成分導出管33の下流側が接続されている。
【0040】
なお、切替バルブV1〜V4は、後述する制御部7に接続されており、その切り替え動作は図示しない制御回路によって自動的に制御される。また、第一検出器55及び第二検出器58は、後述する演算処理部6に接続されており、各検出器55・58の出力信号が演算処理部6に入力され、演算処理部6において所定の演算処理やデータ処理などが行われる。
【0041】
図1に戻って、演算処理部6は、パーソナルコンピュータなどで具現化され、図示せぬキーボードなどの操作部や、ディスプレイやプリンタなどの出力部等が付設されている。本実施例の演算処理部6では、ガス量検出部4により検出されたガス量、及び組成成分検出部5により検出された検出値に基づいて所定の演算処理を行って、ガス成分に含まれる所定の組成成分に関する定量評価値が演算される。
【0042】
演算処理部6にて演算される「定量評価値」としては、ガス成分に含まれる組成成分の定量評価に関する所定の値を採用することができ、例えば、所定の組成成分の濃度や、組成成分ごとの相対濃度や、ガス成分の全ガス圧・全ガス量や、各組成成分のガス発生量や、単位重量当たりのガス量や、全ガス圧/組成成分の濃度の比や、ガス成分のガス流量などが演算される。
【0043】
演算処理部6における所定の演算処理の具体的内容としては、「所定の組成成分の濃度」は、上述した第一検出器55及び第二検出器58より入力された検出信号(分析値)に基づいて、時間経過に伴って順次得られる検出信号によりクロマトグラムが作成され、そのクロマトグラムに現れたピークの面積から所定の組成成分の濃度が演算される。
また、「組成成分ごとの相対濃度」は、予め分析対象として設定された組成成分の濃度が全て演算された後に、組成成分ごとの相対濃度が演算される。
【0044】
「ガス成分の全ガス圧」は、上述したガス量検出部4を構成する第一ガス量検出部40より入力された検出信号に基づいて、例えば、減圧加熱炉30の容量や温度に基づいて演算される。このガス成分の全ガス圧は、組成成分の濃度と相関があり、全ガス圧/組成成分の濃度の比が演算されることで、ガス成分が確実に組成成分検出部5にて検出されているか否かを定量的に評価することができる。
【0045】
「ガス成分のガス流量」は、上述したガス量検出部4を構成する第二ガス量検出部41により入力された検出信号に基づいて、一定のガス成分が組成成分検出部5を通過して機外に排出されるガス成分の流量が演算される。特に、このガス成分の流量は、経時変化(変化量)を演算することで、組成成分検出部5などでガス成分の反応や結露による欠損を把握することができる。
【0046】
図1に戻って、制御部7は、上述した組成成分検出部5を構成する、切替バルブV1〜V4の電磁解放弁などを制御するものであって、上述した演算処理部6と同一のパーソナルコンピュータにて具現化することができる。この制御部7では、所定の制御プログラムによって各部の動作が制御されて、ガス成分のチャージングやサンプリングなどが実行される。
【0047】
ここで、本実施例のガス分析装置1の分析手順を、以下に説明する。
まず、ガス分析装置1を用いて鋳造品2中のガス成分に含まれる所定の組成成分を分析するには、ガス抽出部3内に所定の分析対象となる鋳造品2が載置される。そして、分析が開始されると、ガス抽出部3において減圧ポンプ31及び加熱ヒータ32が作動されてて、鋳造品2が減圧加熱される。このとき、ガス抽出部3は、制御部7により所定の減圧状態(〜10Torr程度)や加熱状態(〜800℃程度)となるように制御される。
【0048】
そして、ガス抽出部3にて鋳造品2が減圧加熱されてガス成分が抽出されると、ガス成分がガス抽出部3からガス成分導出管33を介して組成成分検出部5に移送される。このとき、第一ガス量検出部40において、電磁弁が開放されるとともに、圧力センサによりガス抽出部3より移送された直後のガス成分導出管33内のガス成分のガス圧が検出され、検出された検出信号が演算処理部6に出力される。
【0049】
組成成分検出部5に移送されたガス成分は、第一組成成分検出部50及び第二組成成分検出部51において、次の分析順序にて、ガス成分に含まれる所定の組成成分が分析される。
【0050】
まず、組成成分検出部5では、切替バルブV1〜V4が図2中に実線で示す接続状態に切り替えられている。ガス成分導出管33を介して一定流量で供給されたガス成分は、第一組成成分検出部50の第一計量管53及び第二組成成分検出部51の第二計量管56を通過して、組成成分検出部5よりガス成分導出管33を介して機外に排出されるとともに、第一計量管53及び第二計量管56には所定容量のガス成分が保持される。
【0051】
なお、組成成分検出部5より排出されるガス成分は、第二ガス量検出部41としての流量センサによりガス成分導出管33を流れるガス流量(ガス成分導出管33より機外に排出されるガス流量)が検出され、検出信号が演算処理部6に出力される。
【0052】
このとき、第一組成成分検出部50では、キャリアガス供給口54より供給されるキャリアガス(アルゴンガス)が第一プレカラムPC1及び第一チョークカラムCC1を通過して排出されるとともに、第一ダミーカラムDC1を介して第一メインカラムMC1に流されている。これにより、後述するように第一プレカラムPC1内部に吸着している成分などが運び去られる。
【0053】
次いで、第一組成成分検出部50では、第一、第二切替バルブV1、V2において、図2中に点線で示す接続状態に切り替えられると、第一組成成分検出部50では、キャリアガス供給口54を介して供給されるキャリアガスは第一計量管53を先と逆方向に流れて、ガス成分が押し出される。押し出されたガス成分は、第一プレカラムPC1を通過した後に第一メインカラムMC1に導入され、ガス成分が第一メインカラムMC1を通過する間に、主として、酸素、窒素、メタンを中心とする第一群と、二酸化炭素、エタンを中心とする第二群とに分離される。ガス成分に水素や一酸化炭素が含まれている場合には、これらの成分は第一群に属する。第一メインカラムMC1から流出した第一群に属する各成分は、第三メインカラムMC3に導入され、第三メインカラムMC3を通過する間に組成成分ごとに分離されて第一検出器55へ送られる。
【0054】
そして、所定時間が経過した時点で、第三切替バルブV3が図2中に点線で示す接続状態に切り替えられる。この切り替えのタイミングは第一群に属する成分が第一メインカラムMC1を通過した後、第二群に属する成分が流出し始めるまでの間になるように予め設定される。第一メインカラムMC1から流出するガス成分は、第二メインカラムMC2に導入され、第二メインカラムMC2を通過する間に組成成分ごと分離されて第一検出器55へ送られる。第一検出器55では、始めに第三メインカラムMC3により分離された酸素、窒素、メタンの順に組成成分が検出され、次いで、第二メインカラムMC2により分離された二酸化炭素、エタンの順に組成成分が検出され、組成成分の量に応じた検出信号あ演算処理部6に出力される。
【0055】
一方、第二組成成分検出部51では、第四切替バルブV4が図2中に点線で示す接続状態に切り替えられると、キャリアガス供給口57を介して供給されるキャリアガス(ヘリウムガス)が第二計量管56を先と逆方向に流れ、ガス成分が押し出される。押し出されたガス成分は、第四メインカラムMC4を通過する間に、ガス成分に含まれる水蒸気ガス(HO)と二酸化炭素に分離されて、されて第二検出器58に送られる。第二検出器58では、この組成成分を検出し、その量に応じた検出信号が演算処理部6に出力される。
【0056】
なお、本実施例の第二組成成分検出部51では、第四メインカラムMC4にて二酸化炭素を分離して検出するように構成されているが、これは、比較的安定なガスである二酸化炭素を第一組成成分検出部50と同時にダブルチェックすることで、一酸化炭素などの不安定ガスの反応による欠損を把握しようとするものである。
【0057】
このようにして、組成成分検出部5では短時間の間に、第一組成成分検出部50及び第二組成成分検出部51から検出信号が得られ、この検出信号が演算処理部6に出力される。演算処理部6では、ガス量検出部4(第一ガス量検出部40及び第二ガス量検出部41)により検出されたガス量、及び組成成分検出部5により検出された検出値に基づいて所定の演算処理が行われて、ガス成分に含まれる所定の組成成分に関する定量評価値が演算される。
【0058】
表1〜表3は、或る離型剤(水性離型剤及び油性離型剤)を用いた鋳造品2に対して、本実施例のガス分析装置1にて測定した際に描出される定量評価値を示したものである。
なお、各表において、分析対象としての他の組成成分(例えば、C3成分以上の有機系ガスなど)は、各表に記載した組成成分に比べて十分に検出量が小さいため示していない。また、試料1、2、5はブランク試験結果であり、試料5は試料3、4の鋳造品2の分析を行った後のブランク試験結果である。試料3は水性離型剤を用いた鋳造品2に対する分析結果であり、試料4は油性離型剤を用いた鋳造品2に対する分析結果である。
【0059】
表1及び表2は、ガス成分の所定の組成分析を行った結果であり、試料1及び試料2の結果から、酸素と窒素の比率がおおよそ大気中の比率に近いことが確認された。これは、組成成分検出部5での空気の取り込みではなく、減圧加熱炉30での空気の混入が原因であると考えられる。また、試料3及び試料4の結果から、油性離型剤を用いた場合の方が、水性離型剤を用いた場合よりも水蒸気ガス(HO)や水素の濃度が高いことが確認された。
また、表2に示すように、試料3及び試料4においてガス圧/総濃度の比率を比較すると、水性離型剤を用いた場合と油性の離型剤を用いた場合とで近似する値(1.0)となることが確認された。ただし、総濃度において水蒸気ガス(HO)の濃度を考慮しないとすると、水性離型剤を用いた場合(1.4)と油性の離型剤を用いた場合(2.2)とで一致しなくなることが確認された。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
また、表3に、所定の組成成分の相対濃度を示す。このように、ガス成分に含まれる所定の組成成分の相対濃度を比較する際にも、水蒸気ガス(HO)を考慮しないと、他の組成成分において相対濃度の相対誤差が大きくなることが分かる。
【0063】

【0064】
以上のように、本実施例のガス分析装置1は、鋳造品2中のガス成分に含まれる所定の組成成分を分析するガス分析装置1において、鋳造品2を減圧加熱して鋳造品中のガス成分を抽出するガス抽出部3と、ガス抽出部3にて抽出されたガス成分のガス量を検出するガス量検出部4と、ガス成分に含まれる水蒸気ガス(HO)とその他の一般組成成分とを並行して検出する組成成分検出部5と、ガス量検出部4により検出されたガス量、及び組成成分検出部5により検出された検出値に基づいて所定の演算処理を行って、ガス成分に含まれる所定の組成成分に関する定量評価値を演算する演算処理部6とを具備してなるため、鋳造品2中のガス成分の分析精度をより高めることができる。
【0065】
すなわち、本実施例のガス分析装置1は、分析対象である組成成分において一部の無機系ガスや有機系ガスの組成成分のみを設定するだけでなく、特に、分析対象となる組成成分に金属中のガス成分に多く含まれる水蒸気ガス(HO)を設定するものである。そのため、鋳造品2中のガス成分に含まれる組成成分を網羅して分析することができるとともに、ガス成分の正確な全ガス量を確定することができるため、金属中のガス成分の分析精度をより高め、ひいては金属成形品としての鋳造品の品質評価精度を高めることができるのである。
【0066】
また、本実施例のガス分析装置1では、組成成分検出部5は、ガス成分のうち一般組成成分を分離して検出する第一組成成分検出部50と、ガス成分のうち水蒸気ガスを分離して検出する第二組成成分検出部51とを有するため、第二組成成分検出部51において水蒸気ガスの検出感度の調整が容易となる。
【0067】
特に、この組成成分検出部5は、第一組成成分検出部50及び第二組成成分検出部51にそれぞれガス成分を導入するガス導入系52を有し、ガス導入系52に対して第一組成成分検出部50及び第二組成成分検出部51の順にそれぞれ直列に配設されるため、第二組成成分検出部51がガス導入系52の下流側に配設されることで、第二組成成分検出部51に導入されるガス成分の温度プロファイルの調整が容易となり、水蒸気ガスの検出感度をより向上させることができる。すなわち、組成成分検出部5に導入されるガス成分は、高温状態(数百℃)にあるが、ガス導入系52中を移送される間に、第二組成成分検出部51にて水蒸気ガスを検出するための最適温度となるように容易に調整することができる。
【0068】
また、ガス量検出部4は、ガス抽出部3にて抽出されたガス成分のガス圧を検出する第一ガス量検出部40と、組成成分検出部5を介して機外に排出されるガス成分のガス流量を検出する第二ガス量検出部41と、を有するため、ガス成分のより正確な全ガス量を精度よく確定することができるため、定量評価値の信頼性をより高めることができる。
【0069】
また、上述した実施例において組成成分検出部5は、ガスクロマトグラフとして構成されているが、かかる組成成分検出部5の構成としては、各種のものが考えられるが、金属中のガス成分に含まれる組成成分を検出できるものとしては、典型的な構成として、ガスクロマトグラフが好ましく用いられる。
【0070】
なお、本実施例のガス分析装置1の構成としては、上述した実施例に限定されず、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 ガス分析装置
2 鋳造品
3 ガス抽出部
4 ガス量検出部
5 組成成分検出部
6 演算処理部
7 制御部
40 第一ガス量検出部
41 第二ガス量検出部
50 第一組成成分検出部
51 第二組成成分検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属中のガス成分に含まれる所定の組成成分を分析するガス分析装置において、
金属を減圧加熱して金属中のガス成分を抽出するガス抽出部と、
前記ガス抽出部にて抽出されたガス成分のガス量を検出するガス量検出部と、
前記ガス成分に含まれる水蒸気ガスとその他の一般組成成分とを並行して検出する組成成分検出部と、
前記ガス量検出部により検出されたガス量、及び前記組成成分検出部により検出された検出値に基づいて所定の演算処理を行って、前記ガス成分に含まれる所定の組成成分に関する定量評価値を演算する演算処理部と、
を具備してなることを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
前記組成成分検出部は、
前記ガス成分のうち一般組成成分を分離して検出する第一組成成分検出部と、
前記ガス成分のうち水蒸気ガスを分離して検出する第二組成成分検出部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記組成成分検出部は、
前記第一組成成分検出部及び第二組成成分検出部にそれぞれ前記ガス成分を導入するガス導入系を有し、
前記ガス導入系に対して前記第一組成成分検出部及び第二組成成分検出部の順にそれぞれ直列に配設されることを特徴とする請求項2に記載のガス分析装置。
【請求項4】
前記ガス量検出部は、
前記ガス抽出部にて抽出された前記ガス成分のガス圧を検出する第一ガス量検出部と、
前記組成成分検出部を介して機外に排出される前記ガス成分のガス流量を検出する第二ガス量検出部と、
を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のガス分析装置。
【請求項5】
前記組成成分検出部は、前記ガス成分から所定の組成成分を分離する分離用カラムと、該分離用カラムで分離された組成成分を検出する検出器を備えるガスクロマトグラフであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のガス分析装置。
【請求項6】
前記金属は、鋳造品であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のガス分析装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−210266(P2010−210266A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53755(P2009−53755)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】