説明

ガス分解素子およびガス分解方法

【課題】 多くの種類の悪臭ガスを分解するために、比較的高い電圧をアノード−カソード間に印加しながら、安全性に問題のないガス分解素子およびガス分解方法を提供する。
【解決手段】 触媒を含む多孔質の触媒電極6と、触媒電極と対をなす対向電極7と、触媒電極と対向電極とに挟まれたイオン導電性の電解質15とを備え、触媒は、導電性材料の担体に担持されて触媒電極に保持されているか、または触媒電極に、直接、担持されており、触媒電極における触媒と接する導電性材料が、非共有結合の炭素材でないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分解素子およびガス分解方法に関し、より具体的には、臭気ガスを電気化学反応によって分解し、無臭化するためのガス分解素子およびガス分解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気中に含まれる臭気成分を電気エネルギーによって分解するために、水素イオン導電性の電解質層をはさむ一方の電極(アノード)にガス導入経路を設け、アノード−カソード電極間に電圧を印加することで臭気ガスを分解する臭気除去装置の提案がなされている(特許文献1)。上記の臭気除去装置によれば、両電極間に電圧を印加して、アノード反応によって、アセトアルデヒド等の臭気ガスを分解して無臭化することができる。この臭気除去装置において、電解質として、硫酸を用いた例や、水素イオン(プロトン)伝導性のイオン伝導性樹脂を用いた例が、開示されている。ここで、電極は、多孔質炭素基板上に、炭素粉末に担持された白金、ルテニウム、イリジウム等の触媒微粒子を塗布し、焼成することによって形成されている。これによって、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、エタノール、メタノールなどの悪臭ガスを分解することができる。
【0003】
上記の硫酸は周知の電解液であり、またイオン伝導性樹脂は、「パーフルオロカーボン系(PFC系)陽イオン交換性ポリマー」の一般名で呼ばれる周知の高分子樹脂である。イオン交換基にスルホン酸基やカルボン酸基を用いたPFC系ポリマー膜として、デュポン社製の商品名(登録商標)「ナフィオン」等が知られている。これらPFC系ポリマーは、湿分がないとイオン導電性が失われることから、湿分は必須である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2701923号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の場合、電解質は、硫酸またはPFC系ポリマーを用いて、両電極間に0.8Vの電圧を印加する。この程度の電圧を電極間に印加することによって、上記ガス分解素子において、電解質の硫酸およびPFC系ポリマーは安定状態を維持し、悪臭ガスのアセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、エタノールおよびメタノールを分解することができる。上記の臭気除去装置によって分解されるエタノールは、その分解電圧は1.3Vであるが、上記のように、0.8Vの電圧印加によって分解が進行する。どの程度の電圧をアノード−カソード間に印加すれば対象ガスが分解するかは、対象ガスの種類によって変わり、電極や電解質の種類にも依存し、未だ完全に解明されていない。
【0006】
悪臭ガスのなかには、ベンゼンやトルエンなど芳香族化合物の気体のように分解電圧がより高いものがあり、これら芳香族化合物の悪臭ガスは、より高い電圧を電極間に印加しなければ分解が進行しない。たとえばトルエンの分解電圧は2.5Vである。しかし、より高い電圧を電極間に印加した場合、どのような問題が生じるか、知られていない。ガス分解素子が電気エネルギーの投入であるのに対して燃料電池が電気エネルギーの抽出であるという点で相違しながら、基本的な化学反応が同じである燃料電池については、これまで多くの研究開発がなされてきたが、ガス分解素子については未知の問題が多く残されている。ガス分解素子は、人が多く集まる場所、空気循環がそれほど期待できない室内などで用いられるケースがほとんどであるため、上記の高い電圧の電極間印加において生じる可能性のある安全性に関連した問題には、周到に対処しておく必要がある。
【0007】
本発明は、多くの種類の悪臭ガスを分解するために、比較的高い電圧をアノード−カソード間に印加しながら、安全性に問題のないガス分解素子およびガス分解方法を提供することを目的とする。ここで比較的高い電圧とは、あとで説明する一酸化炭素濃度と電圧との関係(図2参照)から、0.8V〜1V程度以上とするのが妥当である。この場合の電圧0.8V〜1V程度以上は、実験方法より、電圧源の出力電圧、すなわち電池でいえば公称電圧に相当する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガス分解素子は、触媒を含む、多孔質の触媒電極と、触媒電極と対をなす対向電極と、触媒電極と対向電極とに挟まれたイオン導電性の電解質とを備える。触媒は、導電性材料の担体に担持されて触媒電極に保持されているか、または触媒電極に、直接、担持されている。そして、触媒電極における触媒と接する導電性材料が、非共有結合の炭素材でないことを特徴とする。
【0009】
上記の構成によって、触媒電極と対向電極との間に芳香族化合物のガスを分解するほどの高電圧を印加しても、触媒に非共有結合のカーボンが接触していないので、一酸化炭素を発生することがない。このため芳香族化合物を迅速に分解しながら一酸化炭素の発生なしという安全性を確保することができる。また、たとえば分解電圧の低い悪臭ガスについては、上記高電圧を印加することによって大きな分解速度を得ることができ、ガス分解素子の稼動開始から短時間で悪臭ガスを分解することができる。非共有結合の導電性の炭素材とは、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材(上記特許文献1に開示の多孔質炭素基板や炭素粉末が該当する)をいい、これら非共有結合の炭素材では炭素原子が非共有結合で結合されており、触媒の下で、あとのデータで示されるように出力電圧0.8V〜1V以上の電圧源の使用によって結合が破壊され、酸化反応が進行する材料をいう。「非共有結合の導電性の炭素材ではない導電性材料」には、すべての金属材、不純物を高濃度に含む共有結合の炭素材(たとえば導電性ダイヤモンド等)が該当する。この程度の出力電圧の電圧源は、異常に高いとはいえない。これまで、このような電圧源を用いて、カーボンブラック等の炭素材を触媒電極とすることが問題とならなかったのは、次の理由にとると考えられる。
(1)これまで一酸化炭素の発生に着目したことがなかったからと考えられる。すなわち、一酸化炭素中毒が発生してもおかしくなかったが、気づかなかった。
(2)もともと汎用的な装置ではなく、数少ない実施において、公称電圧の印加は、そのとおりの電圧が対象箇所にかかるわけではなく、個別の電気化学系、内部抵抗等によって大きく変動する。このため、その数少ない実施装置において、触媒電極に用いた非共有結合の炭素材に、実際のところ比較的高い電圧がかかっていなかった。
【0010】
触媒電極の導電性材料が多孔質金属であり、該多孔質金属の少なくとも一部が、めっき法で形成されているものとすることができる。これにより、気孔部の比率を大きく、金属めっき部を小さくできるので、気孔率の大きい範囲を選んで広くとれる。このため、分解対象のガスを比較的スムースに(低い圧力損失で)触媒電極内を通すことができる。このとき、ガスは触媒電極の表層に停滞するような流れ(層流)とならず、触媒電極の表面から剥離しながら新たなガスを触媒電極の表面に供給するような流れ(乱流)となる。このため、より高電圧を印加することで、より効率よく分解を遂行することができる。すなわち、全てめっき法で作製された多孔質金属を通すことで、高電圧の印加により分解能率を向上できるガス流れを得ることができる。この結果、一酸化炭素の発生を防止しながら、より高い電圧を印加して、より高い分解速度でガス成分を分解することができる。とくに、あとで説明するように、燃料電池のように高濃度のガスを分解して発電するのと異なり、低濃度のガス成分を効率よく分解するのに有用である。
なお、多孔質金属が、めっき法で形成されているか否かの判定は、光学顕微鏡を用いた断面組織の観察、および、各種固体スペクトロスコピーを用いた微量成分の組成分析等により、遂行できる。とくに、機械加工による塑性流れが生じる粉体の圧縮焼結によらないこと、温度勾配が避けられない鋳造によらないこと、等との区別は非常に容易である。
【0011】
触媒は、プロトン透過性を有する樹脂によって多孔質金属に担持されるようにできる。これによれば、触媒微粒子または触媒微粒子を担持する粉体を、プロトン透過性のあるバインダー樹脂に混合して、この混合したバインダー樹脂を多孔質金属に塗布し、乾燥することで、触媒電極であるアノードを作製することができる。これによれば、電解質との電気的またはイオン導電的な連続性がよく、内部抵抗の低いガス分解素子を製造することができる。
【0012】
多孔質金属における気孔率を、0.6以上0.98以下とすることができる。これによって、分解対象のガス成分を比較的スムースに触媒電極内を通して、触媒電極の表面から剥離しつつ新たなガス成分を触媒電極の表面に供給するような流れを得ることができる。このため、より高い電圧を印加することで高い分解速度が得られるガス流れとすることができる。この結果、一酸化炭素の発生を防止しながら、より高い電圧を印加して、ガス成分の分解効率を向上させることができる。気孔率が0.6未満では、スムースな流れが妨げられ、ガスの通過に多くのエネルギーを必要とする。また、気孔率が0.98超では、分解反応しないで素通りするガスが増え、再度、吸入して分解しなければ対象空間の悪臭成分濃度を低下させることができない。
【0013】
多孔質金属を、樹脂中に無数の泡を形成する発泡処理と、その泡を連続化させて開口する連続開口処理とを経て形成された当該樹脂に、めっきすることで形成されたものとすることができる。これによって、ウレタンやメラミン等の樹脂を用いて、簡単に、多孔質金属を能率よく得ることができる。発泡−連続開口の処理をされた樹脂へのめっきによって形成された多孔質金属は、気孔および骨格を細かくできる。このため、上述の、触媒電極表面での剥離−新たなガスの供給という流れを、微小な範囲で局所的に起こすことができる。すなわち乱流の単位を局所的に小さくして高密度に生成することができる。この結果、高密度に配置された触媒のうち、高能率で作動状態にあるものの比率を高くすることができる。このような作用は、燃料電池と異なり、低濃度の臭気成分を効率よく分解することが求められるガス分解素子にとって非常に有用である。
また、樹脂にウレタンを用いた場合において、多孔質金属の、孔径をx(mm)、比表面積をy(m/m)とするとき、400≦(x−0.3)y、を満たすことができる。これによって、ガス流れをスムースにして、かつ反応効率のよい流れの状態を徹底するができる。
【0014】
0.8V以上の電圧を印加することが可能な電圧源を備えることができる。本発明者らの実験によれば、出力電圧0.8Vの電圧源と、非共有結合の炭素材を主構成材とする触媒電極とを用いたとき、厳格な安全基準にしたがうと、一酸化炭素の危険性に備える必要がある。このため、出力電圧0.8V以上の電圧源を用いるとき、本ガス分解素子は安心、安全という有用性を発揮することができる。たとえば公称電圧0.8V程度以上の電池を用いた場合に有用である。
【0015】
触媒電極/対向電極間に0.8V以上の電圧を印加することが可能な電圧源を備え、該電圧源によって触媒電極/対向電極間に0.8V以上の電圧を印加した状態で一酸化炭素の発生がないようにできる。これによって、0.8V以上の電圧を用いて、一酸化炭素のおそれなく、分解電圧が低い悪臭ガスを高い分解速度で分解を遂行することができる。なお、電圧源によって触媒電極/対向電極間に0.8V以上の電圧を印加した状態において、必ずしも、触媒電極/対向電極間に真に0.8V以上かからなくてもよい。上記の電圧の印加は、0.8V以上の出力電圧を持つ電圧源によって、触媒電極/対向電極間に電圧を印加するという操作をさすと解するのが妥当である。
【0016】
1.5V以上の電圧を印加することが可能な電圧源を備えることができる。これによって、一酸化炭素の発生のおそれなく、より多くの種類の悪臭成分を分解することができ、また分解電圧がそれほど高くない悪臭成分を高い分解速度で分解することができる。
【0017】
上記の触媒電極/対向電極間に1.5V以上の電圧を印加することが可能な電圧源を備え、その電圧源によって触媒電極/対向電極間に1.5V以上の電圧を印加した状態で一酸化炭素の発生がないようにできる。これによって、1.5V以上の高電圧を用いて、分解電圧が高い芳香族化合物の分解を迅速に行うことができ、かつ分解電圧が低い悪臭ガスについても高い分解速度で分解を遂行することができる。より迅速に、かつ分解電圧が比較的高い悪臭ガスまで含めて確実に分解するためには、上記電圧源の電圧を2.0V以上とするのがよい。なお、電圧源によって触媒電極/対向電極間に1.5V以上の電圧を印加した状態において、必ずしも、触媒電極/対向電極間に真に1.5V以上かからなくてもよい。上記の電圧の印加は、1.5V以上の出力電圧を持つ電圧源によって、触媒電極/対向電極間に電圧を印加するという操作をさすと解するのが妥当である。このような理解は、この分野では周知である。ガス分解素子では、電解質の電気抵抗、触媒電極/電解質/対向電極の各界面における電気抵抗は、大きく変動する。同じ製品であっても、製造の機会(chance)、ロット間で変動する。電圧源の公称電圧が1.5V以上あっても、電圧印加したとき、触媒電極/対向電極間に真に印加される電圧は、各種の要因により、低くなることが知られている。
【0018】
上記の触媒と接する導電性材料を、金属および/または導電性ダイヤモンドに限ることができる。非共有結合のカーボン繊維等を用いることなく、多孔質の金属や、多孔質体に導電性ダイヤモンド薄膜を形成した多孔質材料によって、ガス分解作用を得ながら一酸化炭素発生のおそれを排除することができる。非共有結合のカーボンペーパーやアセチレンブラックを用いても、導電性ダイヤモンド薄膜が表面に形成されていれば、一酸化炭素の発生はないので、芯材には非共有結合の炭素材を用いてもよい。上記の導電性ダイヤモンドは、不純物を高濃度に含むために導電性を有し、炭素原子どうしの結合が非共有結合でなければどのような形態であってもよい。不純物を高濃度に含む、共有結合のダイヤモンド、大筋で共有結合とみることができるダイヤモンドライクと呼ばれる炭素材の薄膜であってもよいが、とくに好ましくはホウ素をドープした導電性のダイヤモンドである。
【0019】
上記担体を、粉末に導電性ダイヤモンド被覆した導電性ダイヤモンド被覆粉末、または金属粉末とすることができる。これによって、担体を一酸化炭素の炭素源とする反応はなくなり、一酸化炭素の発生なく、高い電圧を用いて芳香族化合物を分解することができる。ここで分解電圧の高いガス状化合物として芳香族化合物を挙げているが、分解電圧が水の分解電圧より大きく、白金属触媒存在下のカーボン電極でCOが発生しうる電圧を印加しなければ分解しない、分解電圧の高いガスであれば芳香族化合物に限らない。
【0020】
上記触媒電極が、多孔質材料に導電性ダイヤモンド被覆した導電性ダイヤモンド被覆多孔質シート、または多孔質金属シートを備えるようにできる。これによって、触媒電極のシート材を一酸化炭素の炭素源とする反応はなくなる。
【0021】
上記の触媒を、白金族触媒とすることができる。これによって、酸化反応に優れた触媒作用を得ることができ、ガス分解を促進することができる。一方で、一酸化炭素の発生に対する触媒作用も有するが、上記のように、非共有結合の炭素材を触媒に接触させないので、一酸化炭素の発生は抑えられる。白金族触媒は、白金族元素(ルテニウムRu、ロジウムRh、パラジウムPd、オスミウムOs、イリジウムIr、白金Pt)の一種以上を含むものである。
【0022】
電解質が、一軸または二軸延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜と、そのPTFE膜の多孔質の間隙を充填して触媒電極および対向電極へと連続するパーフルオロカーボン系イオン交換性高分子(PFC系高分子)とで主構成されるようにできる。これによって、両電極間のイオン伝導を確保した上でPFC系高分子を薄膜化することにより、湿分を確保し易くし、かつイオン導電性を向上し、電気抵抗を低下させても、PTFE膜で補強されているので、湿潤下での強度を高めることができる。またピンホールについては、PTFE膜のフッ素樹脂繊維によってピンホールが分断または完全に分断されないまでも彎曲または迂回されるので、半径の小さい水素ガスと異なり、平均径の大きい臭気ガス分子の通過をブロックし易くなる。このため、ピンホールを素通りするため、再度、吸入→分解をすることになり、臭気ガスの分解に長時間を要するなどの問題を克服することができる。なお、対向電極は、触媒機能をもつ金属微粒子を担持させた電極層としてもよいし、そのような触媒機能を奏しない電極層としてもよい。一軸または二軸延伸多孔質PTFE膜には、たとえば孔径5μm以下、かつ気孔率50%以上95%以下のものを用いるのがよい。
二軸延伸多孔質PTFEは、より高密度で微細な繊維が微小結節から延び出ている。PFC系高分子の補強は、一軸延伸多孔質PTFEでも可能であるが、二軸延伸多孔質PTFEにおける微小結節とそこから延び出る繊維の密度は、一軸延伸多孔質PTFEに比べて格段に高いので、その補強作用も格段に増大する。その結果、湿分を確保しやすく、かつイオン導電性を向上し電気抵抗を減らすために薄膜化することが可能となる。すなわち、薄膜、湿潤下での強度低下、ピンホールに対する耐性を大きく向上することができる。この結果、能率の確保と、耐久性向上の両方を得ることが可能となる。
多孔質PTFE膜の気孔率が50%未満では、イオン伝導を担うPFC系高分子の量が不足して電解質の電気抵抗が増大し、能率低下を緩和するために両電極間に印加する電圧の増大を招き、好ましくない。また、気孔率が95%を超えると、多孔質PTFE膜による補強が不十分になり、たとえばピンホールを経由する悪臭ガスの洩れが増大し、悪臭除去の能率低下を招く。
【0023】
電解質の厚みが50μm以下であるようにできる。多孔質PTFE膜とPFC系高分子とで構成される電解質の厚みを小さくすることは、上述のように、能率確保の上から非常に好ましい。厚みが50μmを超えると、電解質の電気抵抗が高くなり、必要な印加電圧を高くしなければならず、ガス分解素子の能率、小型化、軽量化、経済性を阻害する。しかし、電解質の厚みが100nm(0.1μm)未満の場合、大きな径のピンホールが固体電解質層を容易に貫通し、臭気ガスのリークを生じやすく、また多孔質PTFE膜で補強しても湿潤下での耐久性の確保が難しい。このため下限は100nm程度とするのがよい。より好ましくは下限は50nmとする。さらに好ましくは下限30nmとする。
【0024】
多孔質PTFEの繊維の表面を、親水性樹脂膜に被覆されたものとすることができる。PTFEは、本来、撥水性であり水をはじく。このため、保水性のあるPFC系高分子とのなじみがよくなく、使用中の劣化の要因となる。しかし、上記のように親水性樹脂膜を形成することにより、無数の微小結節およびその間に張り巡らされた繊維と、PFC系高分子とのなじみがよくなり、すなわち両者の接触抵抗が増し、PTFEによる補強作用は格段に強化される。また、無数にある微小結節および繊維が水溜として機能するので、湿分枯渇時には湿分をPFC系高分子に供給し、水分過剰時には水分を吸収することができる。このため、PFC系高分子層のイオン伝導作用の円滑な発現を可能にすることができる。この結果、薄膜状態において湿潤環境を確保して、イオン伝導度を高め、電気抵抗を低下させ、その結果、能率を確保しながら、強度を確保することができる。
【0025】
本発明のガス分解方法は、触媒を含む触媒電極と対向電極との間に電圧を印加してガスを分解する方法である。この方法では、触媒電極における触媒と接する部分の導電性材料を、非共有結合の炭素材で構成しないMEA(Membrane Electrode Assembly)構造を準備し、触媒電極と対向電極との間に電圧を印加してガスを分解しながら一酸化炭素の発生を防止することを特徴とする。
【0026】
この方法によって、分解電圧の高い悪臭ガスを迅速に分解しながら一酸化炭素の発生なしという安全性を確保することができる。さらに迅速に、かつ分解電圧が比較的高い悪臭ガスまで含めて確実に分解するためには、より高い出力電圧を印加するのがよい。
【0027】
上記の分解するガスの中に、芳香族化合物のガスを含むことができる。これによって、トルエン、ベンゼンなどの芳香族化合物のガスを迅速に分解しながら、一酸化炭素の発生をなくすことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のガス分解素子およびガス分解方法によれば、多くの種類の悪臭ガスを分解するために、比較的高い電圧をアノード−カソード間に印加しながら一酸化炭素の発生なし、という安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態1におけるガス分解素子を示す断面図である。
【図2】従来のガス分解素子を用いたときの一酸化炭素の発生に及ぼす印加電圧および温度の影響を示す図である。
【図3】図2における実験と同じガス分解素子を用いたアセトアルデヒドの分解速度に及ぼす印加電圧の影響を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1のガス分解素子の触媒電極と電解質との界面付近を示す断面図である。
【図5】図4のガス分解素子の変形例のガス分解素子の触媒電極と電解質との界面付近を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2のガス分解素子の触媒電極の電解質側の部分を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態3のガス分解素子の触媒電極を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態3のガス分解素子の触媒電極において担体を用いた例を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態4におけるガス分解素子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるガス分解素子10を示す図である。このガス分解素子10は、固体電解質15を挟んで、触媒電極層6と対向電極層7とが配置されている。触媒電極層6および対向電極層7は、ともに白金等の触媒微粒子を含んでいる。触媒微粒子は、導電性の粉末(担体)に担持された形態で、上記の両電極に含まれていてもよいし、担体なしに、電極を形成する導電性基体である電極シートにめっき等によって、直接、付着(担持)させてもよい。触媒電極層6には、分解対象の臭気ガスが導入され、また分解反応(アノード反応または酸化反応)後の臭気ガスが排出される、多孔質のガス拡散層8が設けられる。多孔質のガス拡散層8は、住友電気工業株式会社製の多孔質金属であるセルメット(登録商標)などの導電性のものを用いるのがよい。また対向電極層7にも、酸素をカソード反応に与らせるために空気を導入して、カソード反応(還元反応)によって生じる水分を排出するために、やはりセルメットなどによる多孔質のガス拡散層9が設けられる。
【0031】
本発明のガス分解素子の構造について説明する前に、その構造を採用する基になった実験結果について説明する。図2は、従来のガス分解素子についての実験結果を示す図である。このガス分解素子は、触媒に白金を、触媒担体にカーボンブラックを、触媒電極の導電性基体または多孔質シートにカーボンペーパーを、そして電解質にナフィオン(PFC系ポリマー)を用いている。試験環境は、温度が室温であり、30〜50%程度の常湿であるが、高温で高湿になればなるほど一酸化炭素が発生しやすくなる。テストは電極面積が3.5cm角のセルで、所定濃度のガスを3Lのテトラバックにいれ、定量ポンプでセルにガスを0.5L/minで循環させ、適宜循環を停止し、セル出口側でCOなどのガス濃度を測定することで行った。触媒担体のカーボンブラックおよび電極シートのカーボンペーパーは、上述のように、いずれも非共有結合である。図2によれば、80℃において1.5Vの電圧を両電極間に印加すると、少なくとも30分後には一酸化炭素が発生することを示している。また、常温においては電圧を2V印加すると少なくとも30分後には一酸化炭素が発生する。一酸化炭素の発生の空気以外の原料は、上記の非共有結合の炭素材のカーボンブラックおよびカーボンペーパーである。炭化水素に限らずガス分解が生じるのは、触媒微粒子11と、電極6(触媒担体を用いる場合は触媒担体21)と、電解質15とが、会合する箇所である。そして一酸化炭素が発生するのは、その会合する箇所に非共有結合のカーボンブラックまたはカーボンペーパーが位置する場合である。
【0032】
図3は、図2に述べたガス分解素子を用い、アセトアルデヒドの分解速度に及ぼすアノード−カソード間の電圧の影響を示す図である。図3によれば、両電極間の電圧が、1V→1.5V→2Vと上昇するにつれて、アセトアルデヒドの濃度がより早期に減少することが分かる。したがって、芳香族化合物のガスではなく、より分解電圧の低いガスを分解する場合、両電極間に印加する電圧を高くすることによって分解速度を高めることができる。
【0033】
(本実施の形態における特徴)
本発明のガス分解素子10の特徴は、触媒微粒子が接触する導電性材料に、カーボン繊維のシート、カーボンブラックなどの非共有結合の炭素材を用いない点にある。とくに本実施の形態では、触媒電極6を形成する多孔質導電シートを金属で形成し、かつ担体に触媒を担持させる場合は担体を金属で形成している点に特徴がある。金属の多孔質導電シートは、多孔質であるため、触媒微粒子を、直接、担持させることができるので、別に粉末等の担体を用意する必要がないが、担体に触媒微粒子を担持させてそれを電極の多孔質シートに保持させてもよい。「粉末」の語は、製品の分類名称でもあるが、製品の分類名称から離れて触媒微粒子より確実に大きいサイズの粒子体という意味でも用いる。電解質は、どのような電解質でもよく、たとえば常温で作動するナフィオン等のPFC系ポリマーや、任意の非水系電解質たとえばイオン液体であってもよい。非水系電解質としては、イオン液体の他に、加熱して作動させる、CsHSO、(NH1−xPOなどのリン酸系プロトン伝導体、溶融塩、もしくは固体酸化物電解質、を用いることができる。また、リン酸を電解質に用いることも可能である。これによって、ガス分解素子の使用環境、要求される性能、要求される経済性などに応じて、電解質の選択肢を拡大することができる。たとえばCsHSOは100℃程度の低温で作動できるので、経済性と大きな分解能力が求められる用途に適している。イオン液体は、経済性よりも小型化、低電力などが重視される用途に適している。また、固体酸化物電解質は、300℃以上の高温に加熱することが必要であるが、大きな分解能力、耐久性、使用実績、経済性等が重視される用途に向いている。
【0034】
触媒微粒子を含む触媒電極には、次のような構造を採用することができる。(1)図4に示すように、上記の多孔質の金属6mの表面に、直接、触媒微粒子11を担持させる。金属6mは、ニッケル細線、ニオビウム細線、チタン細線などを繊維状に加工した金属繊維、セルメット等の金属多孔体、金属粉末を焼結した金属焼結など、多孔質の金属であれば何でもよい。
(2)図5に示すように、触媒微粒子11を、たとえばニッケル、コバルト、銀、モリブデン等の導電性粉末(担体)21mの表面に担持させたものを、プロトン透過性をもつバインダー樹脂中に分散させ、多孔質金属6mの表面に配設したもの、を用いることができる。
【0035】
上記の(1)の触媒電極層6(「触媒を含む対向電極7」も含まれるが、簡単化のために省略する)は、たとえば触媒微粒子11を構成する金属のイオンを含む溶液中に、多孔質金属6mを浸漬した状態で、還元剤を用いて金属イオンを還元させて、当該金属から形成される触媒微粒子11を当該多孔質金属6mに析出させる。上述のように導電性基体に多孔質金属シートを用いた場合には、多孔質の孔の内表面にも、触媒微粒子は析出する。このような析出において、触媒微粒子は多孔質金属6mに担持される。
【0036】
上記の(2)の触媒電極層は、次のように形成される。たとえば、ニッケル、銀等の金属粉末21mを準備する。そして、上記と同様に、これら金属粉末21mを、触媒微粒子を形成する金属のイオンを含む溶液中に浸漬して、還元剤を用いて、当該金属粉末の表面に触媒を微粒子状に析出させる。この触媒担持粉末21m,11を、イオン透過性を有するバインダー樹脂の液中に配合して塗布液を調製した後、その塗布液を多孔質金属シート6mの表面に塗布し、乾燥させて、上記の担体金属粉末21m,11が分散されたバインダー樹脂の膜を形成する。上記(2)の触媒電極層においては、導電性基体として、上述のように、ニッケル繊維、ニオビウム繊維、チタン細線等の多孔質の金属繊維、セルメット等の金属多孔体、焼結金属等を用い、かつ上記バインダー樹脂の膜は、電解質と接するように積層されている。
【0037】
上記の積層状態においては、多孔質の導電性基体によって、触媒微粒子と臭気成分との接触を維持しながら、触媒担持粉末を、プロトン透過性を有するバインダー樹脂からなる膜中に分散させて、その膜を導電性基体と固体電解質とで挟む。このため、触媒微粒子の脱落等を防止して、より長期にわたって触媒作用を確保することができる。
【0038】
触媒微粒子には、白金、ルテニウム、パラジウム、イリジウム、オスミウム等の白金族元素、鉄、コバルト、ニッケル等の鉄族金属、またはバナジウム、マンガン、銀、金等の貴金属を用いるのがよい。なかでも白金族元素は酸化反応に対して優れた触媒作用を及ぼすので、推奨される。また、特殊な機能を向上させるために、これらの金属を合金化した触媒微粒子であってもよい。たとえば、触媒機能の触媒毒に対する耐性を高めるために、白金とパラジウムの質量比Pt/Pd=7/3〜9/1程度の合金としてもよい。
【0039】
上記のガス分解素子10では、たとえば1.5〜2V以上の電圧を両電極間に印加することによって、一酸化炭素の発生のおそれなく芳香族化合物のガスを迅速に分解することができる。また、上記の高電圧を印加することによって、芳香族化合物に限らず、分解電圧の低いアセトアルデヒド、エタノール等の臭気ガスを、迅速に分解することができる。
【0040】
(実施の形態2)
図6は本発明の実施の形態2におけるガス分解素子の触媒電極の電解質側の部分を示す図である。本実施の形態では、触媒11を担持する担体に導電性ダイヤモンド30の薄膜を被覆したものを用い、触媒電極の多孔質シートに金属6mを用いる点に特徴がある。担体の芯21は、どのような粉末でもよく、金属、絶縁体、カーボンブラック等の非共有結合の炭素材を用いることができる。本実施の形態では、図1に示すガス分解素子10の構成を用い、触媒電極6のシート材には多孔質の金属6mを用いる。触媒電極6のシート材の多孔質金属6mは、ニッケル細線、ニオビウム細線などを繊維状に加工した金属繊維、セルメット等の金属多孔体、金属粉末を焼結した金属焼結など、多孔質の金属であれば何でもよい。また、電解質は、PFC系ポリマーでも、任意の非水系電解質でもよく、たとえばイオン液体でもよい。触媒には、白金族触媒を用いるのが、ガスの分解反応を促進する上で好ましいが、その他の触媒であってもよい。
【0041】
触媒電極6の触媒については、図6に示すように、触媒微粒子11を、粉末(芯)21に導電性ダイヤモンド薄膜30を形成した担体に担持させたものを用いる。すなわち上記の触媒担持担体21,30,11を、プロトン透過性をもつバインダー樹脂中に分散させ、金属多孔質6mの表面に配設したもの、を用いることができる。粉末21には、金属粉末、絶縁粉末、またはカーボンブラック、アセチレンブラックなどの導電性炭素粉末でもよい。芯が絶縁体であっても、導電性は、粉末21を被覆する導電性ダイヤモンド薄膜30で確保できる。導電性ダイヤモンド30は、炭素原子は共有結合で結合されており、そのままでは導電性は持たないが、ボロン等の不純物を高濃度に含有させることによって導電性を得ることができる。導電性ダイヤモンド30は、芯になる粉末21を浮遊させながらマイクロ波プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法などによって、その上に薄膜状に形成されることができる。このとき、ボロン等のp型不純物を高濃度にドープすることによって導電性を付与する。
【0042】
触媒微粒子を担持する担体は、次のように形成される。たとえば、(イ)ニッケル、銀等の金属粉末、(ロ)金属粉末に導電性ダイヤモンド表層を形成した粉末、(ハ)カーボンブラック等の導電性炭素粉末の表面に導電性ダイヤモンド薄膜を形成した複合炭素粉末、または(ニ)絶縁粉末に導電性ダイヤモンド薄膜を形成した粉末、を準備する。そして、これら粉末21,30,11を、触媒微粒子を形成する金属のイオンを含む溶液中に浸漬して、還元剤を用いて、当該粉末21,30の表面に金属を微粒子状に析出させる(図6参照)。この触媒担持粉末21,30,11を、イオン透過性を有するバインダー樹脂の液中に配合して塗布液を調製した後、その塗布液を多孔質の金属シート6mの表面に塗布し、乾燥させて、上記の担体粉末が分散されたバインダー樹脂の膜を形成する。上記の触媒電極層6においては、導電性基体として、多孔質の金属シート6mを用い、かつ上記バインダー樹脂の膜は、電解質と接するように積層されている。上記の積層状態においては、多孔質の金属シート6mによって、触媒微粒子と臭気成分との接触を維持しながら、触媒担持粉末21,30,11を、プロトン透過性を有するバインダー樹脂からなる膜中に分散させて、その膜を金属シート6mと固体電解質とで挟む。このため、触媒微粒子の脱落等を防止して、より長期にわたって触媒作用を確保することができる。
【0043】
本実施の形態におけるガス分解素子では、粉末21を導電性ダイヤモンド薄膜30によって被覆して、触媒電極6に多孔質の金属シート6mを用いるので、触媒微粒子11が、カーボンブラックやカーボン繊維等の非共有結合の炭素材に接触することはない。このため、アノード−カソード間に、1.5〜2V以上の高電圧を印加しながら一酸化炭素発生のおそれなく、芳香族化合物を迅速に分解し、また分解電圧の低いガスを高い分解速度で分解することができる。
【0044】
(実施の形態3)
図7は本発明の実施の形態3のガス分解素子の触媒電極を示す図である。本実施の形態では、多孔質シート16に導電性ダイヤモンド30の薄膜を被覆したもので触媒電極6を作製する点に特徴がある。触媒電極6の多孔質シート芯材16は、どのような材料でもよく、金属、絶縁体、非共有結合のカーボン繊維等を用いることができる。本実施の形態では、図1に示すガス分解素子10の構成を用いる。また、電解質は、PFC系ポリマーでも、任意の非水系電解質でもよく、たとえばイオン液体でもよい。触媒には、白金族触媒を用いるのが、ガスの分解反応を促進する上で好ましいが、その他の触媒であってもよい。
【0045】
導電性ダイヤモンド薄膜30を被覆した多孔質シートは、繊維状シートの場合は糸の段階で導電性ダイヤモンド薄膜30を形成し、次いでその糸を編むのがよい。またセルメットのような金属多孔体はその金属多孔体を、プラズマCVD室に配置して炭素プラズマを照射し、不純物を高濃度にドープしながら、多孔体の外側表面にも内側表面にも導電性ダイヤモンド薄膜30を形成するのがよい。絶縁体の多孔体でも同様にすることができる。上記のようにして準備した、図7に示す多孔質シートを用いて、触媒電極6を形成する。このとき担体を使用するか否かによって次の構造がとられる。
(1)図7に示すように、触媒電極6を構成する多孔質シート16,30に、直接、触媒微粒子11を担持させる。
(2)または図8に示すように、触媒微粒子11を担持する担体21,30,11を多孔質シート16,30に保持させた例を示す。この触媒担体21,30,11は、芯材21を導電性ダイヤモンド薄膜30で被覆しており、実施の形態2におけるものと同じである。触媒微粒子11を担持する担体には、図8に示すもののほか、実施の形態1の図5に示すように、金属粉末21mに触媒微粒子11を担持させ、これを図7の多孔質シート16,30に保持させてもよい。
【0046】
本実施の形態におけるガス分解素子では、触媒電極6に導電性ダイヤモンド薄膜30で被覆した多孔質シート16,30を用い、直接、触媒微粒子11を担持する。または触媒微粒子の担体を用いる場合には、担体に金属粉末(実施の形態1)か、または粉末を導電性ダイヤモンド薄膜30によって被覆した担体(実施の形態2)を用いる。このため、触媒微粒子11が、カーボンブラックやカーボン繊維等の非共有結合の炭素材に接触することはない。この結果、アノード−カソード間に、1.5〜2V以上の高電圧を印加しながら一酸化炭素発生のおそれなく、芳香族化合物を迅速に分解し、また分解電圧の低いガスを高い分解速度で分解することができる。
【0047】
(実施の形態4)
図9は、本発明の実施の形態4におけるガス分解素子10を示す図である。このガス分解素子10では、電解質15は、プロトン伝導性を有するPFC系高分子のナフィオン5と、このナフィオン5を機械的に補強する二軸延伸多孔質PTFE膜3とで構成されている。また、分解対象のガスを分解する触媒電極6は、めっきで全てが形成された多孔質金属6mと、その多孔質金属6mに担持された触媒微粒子11とで構成される。多孔質金属6mは、実施の形態1のガス拡散層8の材料と区別する必要はなく、同じ材料を用いることができる。触媒微粒子11は他の金属微粒子21mに担持されていてもよい。そして、対向電極7は多孔質カーボンで形成されている。多孔質カーボン7は、触媒微粒子を担持していないが、触媒微粒子を担持していてもよい。対向電極(カソード)7では還元反応が行われるので、非共有結合の炭素材を用いても一酸化炭素が発生するおそれはない。このため、あとで説明する理由により多孔質カーボンを用いるのがよい。
上述のように、めっきで全てが形成された多孔質金属6mは、孔径および気孔率を大きい範囲にとることができる。このため、図9の触媒電極6の多孔質金属6mは、ガス流れを乱して、表層のガスが新しいものとなるように絶えず表層剥離を繰り返すことができる。このため、印加電圧を高めた分、分解反応を促進しやすくなる。この結果、印加電圧を高めながら、一酸化炭素の発生のおそれなく、分解反応を促進することができる。とくに、居住空間の無臭化用のガス分解素子では、臭気ガス濃度は高くなく反応頻度は低くなりがちである。平坦面に沿う場合に生じる層流では、表層に停滞する部分を生じ、その停滞する部分では、空気などの非反応気体が大部分を占める。この結果、低濃度の臭素ガス成分は、その多くの部分が、触媒電極6の表面に接触しないで素通りする。この点が、多量の高濃度ガス成分を分解する燃料電池との基本的な相違である。めっきで全てが形成された多孔質金属6mは、連続した気孔をもつ立体網状の金属体であり、骨格部を細くして気孔を大きくすることができ、かつ気孔率や、比表面積/孔径の関係、などを広い範囲に制御することができる。このため、孔径、気孔率、比表面積を設定して、表面に接する部分を絶えず剥離して新しいガスを接触させる流れを作ることができる。このため、低濃度の臭気ガス成分を効率よく、短時間で分解することができる。また、気孔率を大きくとれるので、ガスをスムースに流すことができる。すべてがめっきで形成され、孔径が大きく、骨格部が細いことで、比表面積、気孔率等を大きくとれる多孔質金属6mとしては、上述のセルメット(登録商標)を用いるのがよい。セルメットは、樹脂の発泡処理→連続開口化処理→無電解Niめっき→Ni電気めっき→樹脂の除去、の工程で製造される。本例は金属多孔体がすべてめっきで形成されるものであるが、すべてがめっきで形成される必要はなく、部分的にめっきで形成されていてもよい。
多孔質金属6mへの触媒粒子11(21m)の固定(担持)は、実施の形態1におけるようにバインダー樹脂の塗布、乾燥によって行うことができる。
【0048】
図9に示すように、電解質層15は、延伸多孔質PTFE膜3と、その多孔質の間隙を充填しながら両電極6,7に、直接、接触するPFC系高分子5とで構成される。PFC系高分子5は、湿潤状態でないとイオン導電性はなくなるが、湿潤状態では強度は非常に小さく脆弱である。とくに、使用と不使用とを繰り返して乾湿を繰り返すと、それだけで破損する場合がある。延伸多孔質PTFE膜3は、そのようなPFC系高分子5を補強して耐久性を向上させることができる。また、多孔質であるため、イオン導電性にはほとんど影響しない。
図9に示す延伸多孔質PTFE3には親水性樹脂を被覆していないが、親水性樹脂を被覆してもよい。親水性樹脂膜を形成することにより、無数の微小結節およびその間に張り巡らされた繊維と、PFC系高分子とのなじみがよくなり、すなわち両者の接触抵抗が増し、PTFEによる補強作用は強化される。
【0049】
延伸多孔質PTFE膜3は、たとえば住友電工ファインポリマー株式会社製のポアフロン(登録商標)を用いるのがよい。通常、一軸および二軸延伸(標準:二軸延伸)、孔径0.2μm〜1μm(標準:0.2μm)、厚み10μm〜25μm(標準:20μm)、気孔率60%(標準:70%)を用いるのがよい。これらポアフロンのなかでも、孔径30nm(0.03μm)程度のポアフロンは、微細な孔径と薄い厚み1μm以下、さらには0.1μm以下が可能なので、電解質15を薄くする上で、非常に有益である。電解質15を薄くすることで、次のような大きな利点を得ることができる。
(1)対向電極(カソード)7で発生する水分をナフィオン5の全体に行き渡らせやすい。上述のように、ナフィオン5は水分がないとプロトン導電性を発揮できない。カソード7と電解質15の界面で発生した水分は、電解質15が薄ければ、触媒電極(アノード)6と電解質15との界面まで容易に潤すことができる。
(2)電解質は全体の等価電気回路において内部抵抗の大きな部分を占める。電解質を薄くすることで、電流値を高めることができ、分解反応の促進に有益である。
(3)強度的にも十分確保される。上記の孔径30nmのポアフロンは、厚み1μm〜2μmであり、これに厚み10μm程度の補強膜をつけた状態で用いられることで、薄くても強度的な補強は十分である。
【0050】
図9のガス分解素子10では、空気に混入しているエタノール、メタノール、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等の臭気ガスを分解することを目的とする。このため、触媒電極層(アノード)6と、対向電極(カソード)7とには、触媒電極6において臭気ガスが酸化反応によって分解するように電位が印加される。すなわち触媒電極6からプロトンが電解質15のPFC系高分子5に送り出され、外部配線に電子が放出される。このときアノード6には、臭気ガスを含む空気が図示しないポンプなどでから導入され、上記アノード反応によって分解したガスを含む空気(除害された空気)が、出口から周囲環境に排出される。電解質15のPFC系高分子5を伝導したプロトンは、対向電極7において、空気と、対向電極(カソード)7に配線から流入する電子と還元反応して、水を生成する。対向電極7への空気の供給のために、多孔質カーボン7には、外部から空気が導入される。カソード7で生成した水は、上述のように、PFC系高分子5を潤すことができる。
【0051】
対向電極7での水生成反応の水を電解質15に有効に行き渡らせるためには、上述のように電解質15は薄いほうが好ましい。とくに、居住空間の無臭化用のガス分解素子では、臭気ガス濃度は高くなく反応頻度は低く、生成する水分レベルは低いので、電解質15またはPFC系高分子5の薄膜化は重要な要素である。さらに、電解質15は、上記のガス分解素子10のなかで、上述のように、電気抵抗として位置づけられるが、この電解質15を薄くすることで電気抵抗は低くなる。したがってイオン伝導度は高く、ガス分解効率を高めることができる。
【0052】
本実施の形態におけるガス分解素子10における電解質15は、延伸多孔質PTFE膜3を準備して、所定厚みにするように、予め溶媒に溶かしたPFC系高分子溶液に浸漬し、その溶媒を除去して乾燥させることにより、製造される。その際に、アノード6と、カソード7と電気的コンタクトがとれるよう、電解質15の表裏面にPFC系高分子層5が露出するようにする。アノード6は、上述のように、多孔質金属6mに触媒微粒子11を担持した導電粒子21mを、導電接触を確保しながら分散・保持させるのがよい。カソード7については、このあと説明する。出来上がった電解質15を表裏面からはさむようにアノード6およびカソード7を配置して、120℃程度に加熱してホットプレスにより接合して積層体のMEA(Membrane Electrode Assembly)を形成する。この製造方法以外にも、電解質15を電極6,7上に積み上げながら製造する方法など、多くの変形された製造方法を用いることができる。
【0053】
対向電極(カソード)7は、上述のように還元反応が行われ、炭素が酸化されることはないので、導電性でかつ導電粒子を分散保持できる層状多孔質体がよい。たとえばカーボンペーパーやカーボンフェルト等の、カーボン繊維からなる多孔質のシートが好ましい。とくにカーボン繊維の多孔質のシートは、分解反応によって発生するプロトン起因の強酸性雰囲気に対する耐性に優れている上、多孔質ゆえに、多数の触媒微粒子11(21m)を担持することができるため、臭気ガスを分解する効率を、さらに向上できるという利点を有している。
カーボンペーパーは、たとえば、単繊維状のカーボン繊維を、湿式または乾式抄紙等により製造されて、任意の厚みや坪量を有するものであってよい。また、カーボンフェルトとしては、単繊維状のカーボン繊維をカーディング等し、積層し、ニードルパンチ加工等によって互いに結合させる等して製造される。任意の平均繊維径や目付け量を有するものが、使用可能である。ただし、ガス分解素子を、できるだけ薄型化することを考慮すると、基体としてはカーボンペーパーが好適に使用される。
【0054】
前記カーボンペーパー等の導電性基体に触媒微粒子を分散保持させたカソード7としては、種々の構造を有するものを採用することができる。すなわち、カソード7としては、(1)導電性基体の表面に、直接に、触媒微粒子を担持させたもののほか、(2)前記触媒微粒子を、例えばカーボンブラック等の導電性粉末の表面に担持させた複合粒子を、プロトン透過性を有するバインダー樹脂中に分散させた膜を、導電性基体の表面に積層してもよい。上記(1)の触媒電極層は、例えば、触媒微粒子のもとになる金属のイオンを含む溶液中に、導電性基体を浸漬した状態で、還元剤の作用によって、前記金属のイオンを還元させて、微粒子状に析出させるとともに、導電性基体の表面(多孔質導電性基体の場合は、孔の内表面も含む)に直接に担持させることによって構成される。
【0055】
(電圧印加または電位について)
図9に示すように、電圧源の電圧Vをガス分解素子10に印加しても、アノード6とカソード7との間に、そのまま電圧Vがかかるわけではない。このことは繰り返し説明してきた。(アノード6/電解質15/カソード7)を一つの電気化学系10とみたとき、この電気化学系10には内部抵抗Rinがあり、電気化学系10を稼働させて電流Iを流したとき、内部抵抗RinにおいてRin×Iの電圧降下を生じる。通常、内部抵抗となる箇所は複数あるので、それぞれの箇所で電圧降下を生じ、それらを全て加算したものが、Rin×Iである。この結果、電気化学系10に実効的にかかる電圧Vefは、Vef=V−Rin×Iとなる。内部抵抗Rinは、電解質の材料、電解質の厚み、アノード6およびカソード7と電解質15との接触状態などによって大きく変動する。一つの型式の電気化学系であっても、製造の機会(chance)、ロットごとに変動することもある。
(アノード6/電解質15/カソード7)の各部における電位を測定することによって、すなわち電位分布を得ることによって、各部分の内部抵抗寄与分を知ることができる。また、電気化学系10の電気化学反応に実効的に寄与する電圧Vefを知ることができる。電位の測定では、白金(Pt)または銀(Ag)などの参照電極を含んだポテンショスタットを用いる。さらに温度などの影響因子を標準条件に揃える必要がある。これによって、はじめて、他の測定データ(電位値)と比較して意味のある結果を得ることができる。したがって、「ガス分解素子10に印加されている電圧」などは、軽々に、他の同様のデータと比較されるべきでない。これに対して、電源電圧Vは、少なくとも実用上、明確である。そして電圧源は、内部抵抗が法外に変動しない限り、電気化学系10の実際の稼働を可能にすることを前提に、所定の性能(公称電圧)のものが備えられる。このため、電圧源の出力電圧または公称電圧は、他と比較する際、実用上、問題の少ない指標ということができる。
【0056】
上記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のガス分解素子およびガス分解方法によれば、芳香族化合物などの分解電圧の高いガスを一酸化炭素の発生のおそれなく迅速に分解でき、かつ分解電圧の低いガスを高い分解速度で分解することができる。このため、人の集まる場所や室内等における急速な悪臭分解に寄与することが期待される。
【符号の説明】
【0058】
3 延伸多孔質PTFE膜、5 PFC系高分子、6 触媒電極層、6m 多孔質金属シート、7 対向電極層、8,9 ガス拡散層、10 ガス分解素子、11 触媒微粒子、15 電解質層、16 多孔質シート、21 担体(粉末)、21m 金属粉末、30 導電性ダイヤモンド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を含む、多孔質の触媒電極と、
前記触媒電極と対をなす対向電極と、
前記触媒電極と前記対向電極とに挟まれたイオン導電性の電解質とを備え、
前記触媒は、導電性材料の担体に担持されて前記触媒電極に保持されているか、または前記触媒電極に、直接、担持されており、
前記触媒電極における前記触媒と接する導電性材料が、非共有結合の炭素材でないことを特徴とする、ガス分解素子。
【請求項2】
前記触媒電極の導電性材料が多孔質金属であり、該多孔質金属の少なくとも一部が、めっき法で形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のガス分解素子。
【請求項3】
前記触媒は、プロトン透過性を有する樹脂によって前記多孔質金属に担持されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のガス分解複合素子。
【請求項4】
前記多孔質金属における気孔率が、0.6以上0.98以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス分解複合素子。
【請求項5】
前記多孔質金属が、樹脂中に無数の泡を形成する発泡処理と、その泡を連続化させて開口する連続開口処理とを経て形成された当該樹脂に、めっきすることで形成されたものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス分解複合素子。
【請求項6】
0.8V以上の電圧を印加することが可能な電圧源を備えることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項7】
前記触媒電極/対向電極間に0.8V以上の電圧を印加することが可能な電圧源を備え、該電圧源によって前記触媒電極/対向電極間に0.8V以上の電圧を印加した状態で一酸化炭素の発生がないことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項8】
1.5V以上の電圧を印加することが可能な電圧源を備えることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項9】
前記触媒電極/対向電極間に1.5V以上の電圧を印加することが可能な電圧源を備え、該電圧源によって前記触媒電極/対向電極間に1.5V以上の電圧を印加した状態で一酸化炭素の発生がないことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項10】
前記触媒と接する導電性材料が、金属および/または導電性ダイヤモンドに限られることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項11】
前記担体が、粉末に導電性ダイヤモンド被覆した導電性ダイヤモンド被覆粉末、または金属粉末であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項12】
前記触媒電極が、多孔質材料に導電性ダイヤモンド被覆した導電性ダイヤモンド被覆多孔質シート、または多孔質金属シートを備えることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項13】
前記触媒が、白金族触媒であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項14】
前記電解質が、一軸または二軸延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜と、そのPTFE膜の多孔質の間隙を充填して前記触媒電極および前記対向電極へと連続するパーフルオロカーボン系イオン交換性高分子とで主構成されていることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項15】
前記電解質の厚みが50μm以下であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項16】
前記多孔質PTFEの繊維の表面が、親水性樹脂膜に被覆されていることを特徴とする、請求項14または15に記載のガス分解素子。
【請求項17】
触媒を含む触媒電極と対向電極との間に電圧を印加してガスを分解する方法であって、
前記触媒電極における前記触媒と接する部分の導電性材料を、非共有結合の炭素材で構成しないMEA(Membrane Electrode Assembly)構造を準備し、
前記触媒電極と対向電極との間に電圧を印加して前記ガスを分解しながら一酸化炭素の発生を防止することを特徴とする、ガス分解方法。
【請求項18】
前記分解するガスの中に、芳香族化合物のガスを含むことを特徴とする、請求項17に記載のガス分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−269021(P2009−269021A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91108(P2009−91108)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】