説明

ガス吸収液、フィルタ、ガスセンサ、ガス濃度測定装置、空調機器及びガス除去方法

【課題】 取り扱いが容易であって、しかも、ガス除去能力を向上できるガス吸収液、フィルタ、ガスセンサ、ガス濃度測定装置、空調機器及びガス除去方法を提供する。また、特定ガスを吸収した際に呈色を示すことができるガス吸収液、フィルタ、ガスセンサ、ガス濃度測定装置、空調機器及びガス除去方法を提供する。
【解決手段】 吸収液は、イオン性液体と、イオン性液体に溶解した特定ガスと反応して、呈色を示す反応物質とからなる。又は、吸収液は、イオン性液体、特定ガスと反応する反応物質、及び反応物質と特定ガスとの反応による反応生成物と呈色反応する指示薬からなる。吸収液と特定ガスを含む気体を接触させると、溶解した特定ガスと反応物質等とが反応し、吸収液の色が変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸収液、フィルタ、ガスセンサ、ガス濃度測定装置、空調機器及びガス除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、大気中の窒素酸化物、硫化水素などの有害、臭気性の特定ガスの定量では、所定の条件下で水に捕集させ、得られる溶液を対象として通常の化学分析を行なう(例えば、非特許文献1参照)。また、気相中の有害物質、臭気性物質等の特定ガスを除去する方法としても、ガス吸収液に特定ガスを吸収させて除去する方法が知られている。具体的には、繊維質材料、又は多孔質材料等の基材に、酸性又はアルカリ性水溶液、有機溶媒等からなるガス吸収液を含浸又は担持させ、特定ガスを含む空気をガス吸収液に接触させることによって吸収除去する。これらの方法の中には、吸収液の中にpH指示薬等を混合し、呈色反応によって吸収液のガス除去能力を識別するガス除去方法もある(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【非特許文献1】衛生試験法4.4.1(空気試験法の試料採取法)
【特許文献1】特開平6−285140号公報
【特許文献2】特表平11−509780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、これらの方法は水などの揮発しやすい溶媒を用いるため室内空気を対象として連続して分析する用途には向かず、また、除去法としても、ガス吸収液を長期間使用する場合には、溶媒を補充する必要がある。さらに、ガス吸収液によって吸収除去した特定ガスが、ガス吸収液から揮発してしまう可能性もある。また、蒸気圧の低い有機溶媒自体をガス吸収液に使用する方法も提案されているが、除去能力が低かったり、化学的熱安定性を含めた安全性の点などから一般ユーザが使用する空調機器、ガスセンサへの具体化が難しい。また、溶媒の極性が低く、試薬および反応生成物の溶解性の点でも問題があり、その応用性は乏しい。
【0004】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、取り扱いが容易で安全性が高く、しかも、ガス除去能力を向上できるガス吸収液、フィルタ、ガスセンサ、ガス濃度測定装置、空調機器及びガス除去方法を提供することにある。
【0005】
本発明の別の目的は、特定ガスを除去した際に呈色を示すことができるガス吸収液、フィルタ、ガスセンサ、ガス濃度測定装置、空調機器及びガス除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、イオン性液体と、同イオン性液体に溶解した特定ガスと反応する反応物質とを含むことを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のガス吸収液において、前記特定ガス及び前記反応物質の反応による反応生成物と呈色反応する指示薬、又は前記特定ガスと呈色反応する前記反応物質を含むことを要旨とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、イオン性液体と、同イオン性液体に溶解した特定ガスと反応する反応物質とを含むガス吸収液を含浸したことを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のガス吸収液を含浸したフィルタにおいて、前記特定ガス及び前記反応物質の反応による反応生成物と呈色反応する指示薬、又は前記特定ガスと呈色反応する前記反応物質を含むガス吸収液を含浸したことを要旨とする。
【0008】
請求項5に記載の発明は、イオン性液体と、同イオン性液体に溶解した特定ガス及び反応物質の反応による反応生成物と呈色反応する指示薬、又は同特定ガスと呈色反応する反応物質を含むガス吸収液を塗布したことを要旨とする。
【0009】
請求項6に記載の発明は、イオン性液体と、同イオン性液体に溶解した特定ガス及び反応物質の反応による反応生成物と呈色反応する指示薬、又は同特定ガスと呈色反応する反応物質とを含むガス吸収液の呈色を測定する光学色測定手段を備えたことを要旨とする。
【0010】
請求項7に記載の発明は、イオン性液体と、同イオン性液体に溶解した特定ガスと反応する反応物質とを含むガス吸収液中において、前記特定ガス及び前記反応物質の反応による反応生成物の濃度を測定する電気化学的測定手段を備えたことを要旨とする。
【0011】
請求項8に記載の発明は、イオン性液体と、同イオン性液体に溶解した特定ガス及び反応物質の反応による反応生成物と呈色反応する指示薬、又は同特定ガスと呈色反応する反応物質とを含むガス吸収液を含浸させたフィルタを備えたことを要旨とする。
【0012】
請求項9に記載の発明は、イオン性液体に特定ガスを溶解させ、溶解した特定ガスと同イオン性液体に含まれる反応物質を反応させて、気相中の特定ガスを除去することを要旨とする。
【0013】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載のガス除去方法において、前記特定ガスと反応物質との反応、又は前記特定ガス及び反応物質との反応による反応生成物と指示薬との反応を呈色により検知しながら、前記特定ガスを除去することを要旨とする。
【0014】
(作用)
請求項1又は9の発明によれば、ガス吸収液に溶解した特定ガスは、反応物質と反応する。このため、吸収液に溶解した特定ガスは、反応物質との定量的な反応によって消費されるので、反応物質を含まない吸収液よりも、より効率的に特定ガスを吸収液に吸収し、除去することができる。また、特定ガスと反応物質とを反応させることにより、一度吸収した特定ガスが吸収液から再放出するのを防止できる。さらに、ガス吸収液には不揮発性のイオン性液体を用いているので、吸収液の補充を行う必要がない。
【0015】
請求項2又は10の発明によれば、特定ガス及び反応物質の反応により生成された反応生成物と指示薬とが呈色反応するか、あるいは特定ガスと反応物質とが反応して呈色を示す。このため、吸収液の変色を視認することにより、特定ガスがガス吸収液に吸収されたことを簡単に確認することができるとともに、吸収液のガス除去能力を識別することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、フィルタには、イオン性液体及び反応物質からなるガス吸収液が含浸されている。このため、フィルタの特定ガス除去能力を向上させることができる。また、イオン性液体は不揮発性のため、ガス吸収液を補充するためのフィルタ交換回数を減少させることができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、フィルタには、イオン性液体と、イオン性液体に溶解した特定ガス及び反応物質の反応による反応生成物と反応して呈色を示す指示薬、又は特定ガスと反応して呈色を示す反応物質とを含むガス吸収液が含浸されている。このため、特定ガ
スを吸収除去し、しかも特定ガスの除去をフィルタの色の変化で確認することができる。また、フィルタのガス除去能力の限界、つまり交換時期を色の変化で示すことができる。
【0018】
請求項5の発明によれば、ガスセンサは、イオン性液体と、イオン性液体に溶解した特定ガス及び反応物質の反応による反応生成物と反応して呈色を示す指示薬、又は特定ガスと反応して呈色を示す反応物質とを含むガス吸収液が塗布されている。このため、ガス吸収液の色の変化を視認することにより、特定ガスが吸収されたことを確認することができる。また、ガス吸収液の色の濃淡を視認することで、特定ガスの吸収濃度の目安を知ることができる。また、イオン性液体は不揮発性であるため、溶媒の濃度変化による呈色のばらつきがなく、信頼性を向上できる。
【0019】
請求項6の発明によれば、ガス濃度測定装置は、イオン性液体と、イオン性液体に溶解した特定ガス及び反応物質の反応による反応生成物と反応して呈色を示す指示薬、又は特定ガスと反応して呈色を示す反応物質とを含むガス吸収液の呈色を測定する光学色測定装置を備えている。このため、光学色測定装置により、例えば、ガス吸収液の吸光度を測定して、吸収した特定ガスを定量化することができる。また、イオン性液体は不揮発性であるため、溶媒の濃度変化による呈色のばらつきがなく、信頼性を向上できる。
【0020】
請求項7の発明によれば、ガス濃度測定装置は、イオン性液体に溶解した特定ガス及び反応物質の反応による反応生成物の濃度変化による電気信号の変化を測定する電気化学的測定手段を備えている。このため、電気化学的測定手段により、例えば、ガス吸収液と電極間の定電位電解電流を測定して、吸収した特定ガスを定量化することができる。また、イオン性液体は不揮発性であるため、電解質条件の濃度変化による電気信号のばらつきがなく、信頼性を向上できる。
【0021】
請求項8の発明によれば、空調機器のフィルタには、イオン性液体と、イオン性液体に溶解した特定ガス及び反応物質の反応による反応生成物と反応して呈色を示す指示薬、又は特定ガスと反応して呈色を示す反応物質とを含むガス吸収液が含浸されている。このため、空調機器の特定ガスの除去能力を向上させることができるとともに、ガスの除去をフィルタの色の変化で確認することができる。また、イオン性液体は不揮発性のため、ガス吸収液を補充するためのフィルタ交換回数を減少させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、取り扱いが容易で安全性が高く、しかも、ガス除去能力を向上できるガス吸収液、フィルタ、ガスセンサ、ガス濃度測定装置、空調機器及びガス除去方法を提供することができる。また、特定ガスを除去した際に呈色を示すことができるガス吸収液、フィルタ、ガスセンサ、ガス濃度測定装置、空調機器及びガス除去方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を説明する。
本実施形態では、気相中の有害物質、臭気性物質等のガス状の特定ガスを吸収する、吸収液(ガス吸収液)は、イオン性液体及び反応物質を含む。又は、吸収液は、イオン性液体、反応物質及び指示薬を含む。
【0024】
特定ガスとしては、脂肪酸(揮発性有機酸)、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、揮発性アミン、チオール類、アルデヒド類、揮発性有機化合物(VOC)、一酸化炭素等、屋内又は屋外の除去すべきガスが対象となる。
【0025】
イオン性液体(常温溶融塩)は、常温で液体の塩であって、蒸気圧がほぼ0である不揮発性の液体である。さらに、イオン性液体は、一般に、不燃性、熱安定性、化学的安定性が高く、取り扱いが容易である。また、イオン性液体は一般に水とは混じり合わず、非水溶媒としての性質を持ち、水よりも上記特定ガスの吸収には有利とみなせる。吸収液には、このようなイオン性液体であれば、どのような材料でも使用することができるが、フィルタ基材等への含浸、担持を目的とする場合、粘性が比較的高いものが望ましい。また、環境に対する安全性の点で、ハロゲンを含まないものが望ましい。具体的には、カチオンとして下記の一般式(1)に示すテトラオクチルアンモニウムやベンジルジメチルアルキルアンモニウム(図示せず)、アニオンとして一般式(2)に示すドデシル硫酸、一般式(3)に示すドデシルベンゼンスルホン酸、一般式(4)に示すスルホコハク酸オクチル等が使用できる。
【0026】
【化1】

【0027】
【化2】

【0028】
【化3】

【0029】
【化4】

反応物質は、吸収液に溶解した特定ガスと反応する試薬であって、この試薬が反応前と反応後とで色の変化を生じるものであればよい。又は、この反応物質と特定ガスとの反応により生成した反応生成物が、吸収液に含まれる指示薬と反応して色の変化を生じるものであればよい。イオン性液体に溶解した脂肪酸と反応するものとして、例えば、テトラブチルアンモニウムモノニトロフェノラートが使用できる。この反応物質は、反応前は黄色を呈し、脂肪酸と反応すると無色に変化する呈色反応を起こす。
【0030】
イオン性液体及び反応物質、又はイオン性液体、反応物質及び指示薬からなる吸収液に、特定ガスを含むガス(空気)を接触させると、特定ガス等が気液分配平衡により吸収液に溶解する。例えば、脂肪酸を含むガスを、イオン性液体及び前述した反応物質等から構成した吸収液と接触させると、脂肪酸が吸収液に溶解する。脂肪酸が吸収液に吸収される前は、吸収液は黄色を呈している。そして、脂肪酸が吸収液に吸収されると、脂肪酸及びテトラブチルアンモニウムモノニトロフェノラートとの反応により、吸収液は退色する。この吸収液の色は、常温・常圧で少なくとも一ヶ月は退色したままであり、実質上不加逆反応とみなせ、脂肪酸は吸収液から再放出されにくい。
【0031】
特定ガスと反応物質との反応により、吸収液中の化学反応が進行するため、より効率良く特定ガスが吸蔵され、しかも前記したように再放出されない。また、特定ガスの吸収が進むと、吸収液は、さらに退色し無色に変化する。
【0032】
次に、この吸収液の具体的な使用方法について説明する。前述した吸収液を、繊維などの基材に含浸させると、特定ガスの除去を行うフィルタとして使用することができる。具体的には、例えば、イオン性液体と前述した反応物質等とを含み、特定ガスを吸収する吸収液を基材に含浸させたフィルタを空気清浄機等の空調機器に設け、室内の空気がフィルタによって濾過されるようにする。すると、フィルタの吸収液により、特定ガスが吸収除去される。また、反応物質と選択的に反応する特定ガスの吸収量の増加に伴い、フィルタの色が変化する。このため、フィルタのガス除去能力を識別できる。また、フィルタの色の変化は、フィルタの交換時期の目安とすることができる。
【0033】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、吸収液を、イオン性液体と、イオン性液体に溶解した特定ガスと反応する反応物質とから構成した。又は、吸収液を、イオン性液体、イオン性液体に溶解した特定ガスと反応する反応物質、特定ガス及び反応物質の反応による反応生成物と呈色反応する指示薬から構成した。このため、特定ガスと反応物質とが反応することにより、より効率良く特定ガスを吸蔵し、ガス吸収液から特定ガスが再放出されるのを防止できる。さらに、吸収液の溶媒には、不揮発性のイオン性液体を使用しているので、長期間使用する場合にも吸収液を補充しなくてもよい。このため、吸収液を空調機器等に使用した場合にも、吸収液補充のためのメンテナンスの手間が省略される。
【0034】
(2)上記実施形態では、吸収液に含まれる反応物質が、特定ガスとの反応により呈色を示すようにした。又は、吸収液に溶解した特定ガス及び反応物質の反応によって生じる反応生成物と、吸収液に含まれる指示薬とが呈色反応するようにした。このため、吸収液の変色を視認することにより、特定ガスが除去されたことを簡単に確認することができる。また、吸収液の色の濃淡により、吸収液が吸収除去した特定ガスの濃度を確認できる。
【0035】
(3)上記実施形態では、繊維などの基材に吸収液を含浸させてフィルタを作製した。このため、特定ガスを含む気体をフィルタによって濾過させることにより、簡単に特定ガスを除去することができる。また、イオン性液体は不揮発性のため、吸収液を補充するためのフィルタ交換が不要である。また、フィルタは、特定ガスの吸収により呈色するので、ガス除去能力の限界、つまり交換時期を色の変化で確認できる。
【0036】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について図1に従って説明する。なお、第2の実施形態は、第1の実施形態の吸収液の具体例を変更したのみの構成であるため、同様の部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0037】
第1の実施形態に記載した吸収液は、ガスセンサにも応用することができる。図1に示すガスセンサ10は、紙、樹脂板等の板状の基材11に、複数の検出部12を備えている。検出部12は、第1の実施形態に記載の各吸収液を塗布した箇所である。イオン性液体は、粘性が大きいので、垂下せずに基材11上に付着する。また、検出部12の隣りには、「始期色」を示すサンプルS1、「終期色」を示すサンプルS2がそれぞれ貼付されている。
【0038】
各検出部12に塗布された吸収液は、特定ガス自体とそれぞれ反応して、色の変化を生じる反応物質を含む。又は、吸収液は、特定ガスと反応する反応物質と、特定ガス及び反応物質の反応による反応生成物と呈色反応する指示薬とを含む。例えば、一方の検出部12の吸収液は、脂肪酸の吸収を検出する反応物質等、他方の検出部12の吸収液は、NOxを検出する反応物質等が含まれている。
【0039】
このようなガスセンサ10を、例えば室内の空気に曝すように設置する。すると、各検出部12に塗布された吸収液は、空気中の特定ガスを吸収する。吸収された特定ガスは、反応物質等と反応し、呈色を示す。また、吸収液は、吸収した特定ガスの濃度によって色の濃度(吸光度)が変化するので、検出部12の色の濃淡は、空気中の特定ガスの濃度の目安となる。
【0040】
例えば、ガスセンサ10を数時間室内に設置した後に、脂肪酸を検出する検出部12の色が、サンプルS1の「始期色」から、サンプルS2の「終期色」に近づいている場合には、室内空気には、脂肪酸が含まれていることが確認できる。
【0041】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態の(1)及び(2)に記載の効果に加えて、以下のような効果を得ることができる。
(4)上記実施形態では、ガスセンサ10に、イオン性液体及び反応物質等を含む吸収液を塗布した検出部12を設けた。このため、検出部12を、空気中に曝して、その色の変化を視認することで、空気中の特定ガスの有無を簡単に確認できる。また、検出部12の色の濃淡により、特定ガスの濃度の目安を知ることができる。このとき、吸収液の色の濃度と、色のサンプルとを比較することで、特定ガスの濃度をより正確に判別することができる。さらに、イオン性液体は不揮発性であるため、溶媒の揮発による色濃度のばらつきを防止できる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の効果を示す実施例及び試験例を挙げる。
(ガス除去試験)
吸収液A,Bをそれぞれ5g入れた各容器を、各ガラス製デシケータ(7L)内にそれぞれ設置し、揮発性の特定ガスである酢酸ガスを、酢酸液を封入した試薬瓶の上部からシリンジに採取して、デシケータ内に7ml注入した。以下に、吸収液A,Bの組成を示す。
【0043】
吸収液A:イオン性液体(テトラブチルアンモニウムスルホコハク酸オクチル)5g、反応物質(テトラブチルアンモニウムモノニトロフェノラート)1×10―6mol
吸収液B:イオン性液体(テトラブチルアンモニウムスルホコハク酸オクチル)5g、
反応物質(テトラブチルアンモニウムモノニトロフェノラート)1×10―5mol
また、デシケータ内の空気を拡散するファンを回転させて、デシケータ内の空間に酢酸ガスが濃度の偏りなく充満するようにした。さらに、デシケータ内に、酢酸ガスの濃度を検出する検知管を設置し、デシケータ内の酢酸ガスの濃度を検出するようにした。そして、時間経過に対する検出管の検出濃度を調べ、その結果を吸着剤(吸着材又は吸収液)がない場合と、吸収液を活性炭(5g)に替えた場合とについて比較した。
【0044】
その結果を、図2のグラフに示す。吸着剤がない場合(図2中、曲線d)と比較して、吸収液及び活性炭がある場合(曲線a〜c)は、気相中の酢酸ガスが少ないことがわかる。これにより、吸収液は、酢酸の除去能力を有することが示された。
【0045】
また、吸収液A,Bによって除去能力に違いが見られた。図2のグラフに示すように、反応物質の添加量を酢酸ガスの量よりも多くした吸収液B(図2中曲線b)は、吸収液A(図2中曲線a)よりも、酢酸ガスを吸収除去し、活性炭と同等の除去能力を示した。これにより、反応物質の添加量を、除去する特定ガスの量よりも多くした場合に、除去能力が大きくなることが判る。
【0046】
(定性試験)
上記の試験において、反応物質の添加量が酢酸ガスの注入量よりも少ない吸収液Aの場合には、黄色から無色への変化(呈色)を視認することができた。反応物質の添加量が、酢酸ガスの注入量よりも多い吸収液Bの場合には、黄色から、より薄い黄色への変化を視認することができた。このため、吸収液が、酢酸ガスを除去することにより呈色を示すことが示唆された。
【0047】
(定量試験)
吸収液Bと同じ組成で吸収液Cを作製し、この吸収液Cに、少しずつ酢酸溶液を添加して、添加の度に吸光度を測定した。また、この吸光度に基づいて、酢酸溶液の検量線を作成した。この検量線を図3(a)に示す。
【0048】
さらに、ガス除去能力試験で、ガスを吸収した後の吸収液Bの吸光度を適宜測定し、検量線に基づいて、その吸光度から吸収液中の酢酸濃度を算出した。この結果を図3(b)に示す。吸光度から算出した酢酸濃度は、デシケータ内に設置した検知管の検出に基づく測定結果とほぼ一致した。これにより、吸収液の吸光度に基づいて、特定ガスの吸収量を定量化できることが示された。
【0049】
尚、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態では、吸収液を、イオン性液体と、呈色反応は生じないが特定ガスと選択的に反応する反応物質とから構成し、特定ガスを含むガスを吸収液に溶解させるようにしてもよい。このように呈色反応を生じない場合でも、反応物質を吸収液に含まない場合と比較して、除去能力が高い吸収液を得ることができる。
【0050】
・上記各実施形態では、吸収液を、イオン性液体と、特定ガスと選択的に反応する反応物質と、指示薬とから構成するようにしてもよい。この指示薬は、特定ガスと反応物質との反応により生成した反応生成物と、呈色反応するものである。この場合にも、吸収液の呈色を検知しながら、特定ガスを除去することができる。
【0051】
・上記各実施形態に記載の吸収液を、吸収液の色の濃淡を測定する光学色測定手段を備えたガス濃度測定装置に使用するようにしてもよい。具体的には、イオン性液体及び反応物質を含む吸収液、又は、イオン性液体、反応物質及び指示薬を含む吸収液を、セル等に貯留して、測定装置内に設置する。そして、このセル内の吸収液に、特定ガスを含む気体
を接触させて、溶解するように構成する。光学色測定手段は、例えば、ランプ、光強度検出器等を備える吸光度測定機構であって、ランプから投射された光を、セル内に通過させ、検出器によってその吸光度を測定する。従って、特定ガスをより正確に定量することができる。
【0052】
・上記各実施形態に記載の吸収液に、固体電極を挿入し、電気信号を測定する電気化学的測定手段を備えたガス濃度測定装置に使用するようにしてもよい。具体的には、イオン性液体及び反応物質を含む吸収液、又は、イオン性液体、反応物質及び指示薬を含む吸収液をセル等に貯留して、このセル内に作用電極と参照電極を挿入する。そして、このセル内の吸収液に、特定ガスを含む気体を接触させて、溶解するように構成する。電気化学的測定手段は、例えば、参照電極に対する作用電極の電圧を規制し、作用電極と溶液の間で起こる酸化還元反応による電流として測定する。従って、特定ガスをより正確に定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のガスセンサの正面図。
【図2】実施例のグラフを示す説明図。
【図3】実施例の説明図であって、(a)は検量線のグラフを示し、(b)は検量線から求めた濃度と検知管による濃度とを対照するための表を示す。
【符号の説明】
【0054】
10…ガスセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性液体と、同イオン性液体に溶解した特定ガスと反応する反応物質とを含むガス吸収液。
【請求項2】
請求項1に記載のガス吸収液において、
前記特定ガス及び前記反応物質の反応による反応生成物と呈色反応する指示薬、又は前記特定ガスと呈色反応する前記反応物質を含むことを特徴とするガス吸収液。
【請求項3】
イオン性液体と、同イオン性液体に溶解した特定ガスと反応する反応物質とを含むガス吸収液を含浸したフィルタ。
【請求項4】
請求項3に記載のガス吸収液を含浸したフィルタにおいて、
前記特定ガス及び前記反応物質の反応による反応生成物と呈色反応する指示薬、又は前記特定ガスと呈色反応する前記反応物質を含むガス吸収液を含浸したフィルタ。
【請求項5】
イオン性液体と、同イオン性液体に溶解した特定ガス及び反応物質の反応による反応生成物と呈色反応する指示薬、又は同特定ガスと呈色反応する反応物質を含むガス吸収液を塗布したガスセンサ。
【請求項6】
イオン性液体と、同イオン性液体に溶解した特定ガス及び反応物質の反応による反応生成物と呈色反応する指示薬、又は同特定ガスと呈色反応する反応物質とを含むガス吸収液の呈色を測定する光学色測定手段を備えたガス濃度測定装置。
【請求項7】
イオン性液体と、同イオン性液体に溶解した特定ガスと反応する反応物質とを含むガス吸収液中において、前記特定ガス及び前記反応物質の反応による反応生成物の濃度を測定する電気化学的測定手段を備えたガス濃度測定装置。
【請求項8】
イオン性液体と、同イオン性液体に溶解した特定ガス及び反応物質の反応による反応生成物と呈色反応する指示薬、又は同特定ガスと呈色反応する反応物質とを含むガス吸収液を含浸させたフィルタを備えた空調機器。
【請求項9】
イオン性液体に特定ガスを溶解させ、溶解した特定ガスと同イオン性液体に含まれる反応物質を反応させて、気相中の特定ガスを除去するガス除去方法。
【請求項10】
請求項9に記載のガス除去方法において、
前記特定ガスと反応物質との反応、又は前記特定ガス及び反応物質との反応による反応生成物と指示薬との反応を呈色により検知しながら、前記特定ガスを除去するガス除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−116459(P2006−116459A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308118(P2004−308118)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】