ガス吸着材
【課題】繊維表面に固着されたガス吸着性フィラーの脱落を防止し、かつガス吸着性フィラーの比表面積の減少を抑制することができるガス吸着材を提供する。
【解決手段】本発明のガス吸着材は、繊維と、その表面のバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に固着されたガス吸着性フィラーとを含み、前記バインダー樹脂は、湿熱ゲル化樹脂であり、前記ガス吸着性フィラーは、前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されている。例えば、熱可塑性合成繊維成分としてポリプロピレンを芯成分(2)とし、湿熱ゲル化繊維成分としてエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を鞘成分(1)とした複合繊維(5)の鞘成分(1)にガス吸着性フィラー(3)を有効に固着させる。
【解決手段】本発明のガス吸着材は、繊維と、その表面のバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に固着されたガス吸着性フィラーとを含み、前記バインダー樹脂は、湿熱ゲル化樹脂であり、前記ガス吸着性フィラーは、前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されている。例えば、熱可塑性合成繊維成分としてポリプロピレンを芯成分(2)とし、湿熱ゲル化繊維成分としてエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を鞘成分(1)とした複合繊維(5)の鞘成分(1)にガス吸着性フィラー(3)を有効に固着させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸着性フィラーを繊維表面に固着したフィラー固着繊維を有するガス吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、揮発性有機化合物(以下、VOCと略称する)の吸入によるシックハウス症候群等のアレルギー症状の発生が増加しているため、VOCガス等の有害ガスを吸着するガス吸着材が要望されている。前記ガス吸着材としては、例えば特許文献1に、VOCガス全般に対して吸着効果を有するガス吸着シートが提案されている。
【0003】
特許文献1に提案されたガス吸着シートは、2枚のシート材の間に活性炭粒子を挟持させ固定化させるとともに、前記シート材のうち少なくとも一方のシート材に吸着剤粒子を固定化させている。吸着剤粒子の固定化方法としては、1)バインダー樹脂溶液に吸着剤粒子を混合して一方のシート材にコーティングし、その上に他方のシート材を重ねる方法や、2)予め一方のシート材にホットメルト剤等をコーティングし、その上に吸着剤粒子を散布し、更にその上に、他方のシート材を重ねる方法等が例示されている。
【特許文献1】特開2000−246827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記1)の固定化方法では、吸着剤粒子がバインダー樹脂溶液に埋没してしまい、充分なガス吸着効果が得られなくなるおそれがあった。また、前記2)の固定化方法では、ホットメルト剤と吸着剤粒子との接触面積が少ないため、吸着剤粒子が脱落するおそれがあった。また、特許文献1に提案されたガス吸着シートは、通気性を高めるために、前記2枚のシート材のうち、少なくとも一方に多孔質シート材を使用しているが、前記2枚のシート材の間に活性炭粒子を挟持させる際、活性炭粒子が脱落しないように、活性炭粒子の粒子径を多孔質シート材の最大孔径より大きくする必要があった。そのため、活性炭粒子には、100μm〜1000μmの粒子径のものが使用されており、活性炭粒子の比表面積が小さいために充分なガス吸着効果が得られなくなることがあった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、繊維表面に固着されたガス吸着性フィラーの脱落を防止し、かつガス吸着性フィラーの比表面積の減少を抑制することができるガス吸着材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のガス吸着材は、繊維と、その表面のバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に固着されたガス吸着性フィラーとを含むフィラー固着繊維を有するガス吸着材であって、前記バインダー樹脂は、湿熱ゲル化樹脂であり、前記ガス吸着性フィラーは、前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のガス吸着材によれば、ガス吸着性フィラーが、繊維の表面に固着された湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されているため、ガス吸着性フィラーを表面に露出させた状態で固着することができる。これにより、繊維表面に固着されたガス吸着性フィラーの脱落を防止し、かつガス吸着性フィラーの比表面積の減少を抑制することができるため、従来のガス吸着材に比べて、ガスの吸着性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のガス吸着材において、湿熱ゲル化樹脂とは、水分存在下で加熱することによってゲル化し得る樹脂のことをいう。「ゲル化し得る樹脂」とは、50℃以上の温度でゲル化することによって膨潤し、この膨潤したゲル化物により、本発明のガス吸着材(繊維構造物)の構成繊維を固定することができる樹脂のことをいう。湿熱ゲル化樹脂の形態は、パウダー状、チップ状、繊維状等が挙げられる。特に、湿熱ゲル化樹脂は、繊維状であることが好ましい。繊維状の湿熱ゲル化樹脂(以下、「湿熱ゲル化繊維」という)としては、湿熱ゲル化樹脂を含む繊維か、又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分と、他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維(以下、「湿熱ゲル化複合繊維」という。)を用いる。これにより、他の繊維又は少なくとも他の熱可塑性合成繊維成分は、繊維の形態を保ち、かつ湿熱ゲル化樹脂がゲル化されてガス吸着性フィラーを固着させるバインダーとしての作用機能を発揮する。そして、ガス吸着性フィラーは、湿熱ゲル化樹脂繊維成分又は繊維の表面に接着された湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されている。好ましくは、ガス吸着性フィラーは、露出して固着されている。また、湿熱ゲル化樹脂繊維成分又は繊維の表面に接着された湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって、湿熱ゲル化繊維同士、及び/又は湿熱ゲル化繊維と他の繊維とは、接着されている。
【0009】
前記繊維構造物は、前記繊維及び前記バインダー樹脂を含むものである。ここでいう繊維構造物とは、繊維束、糸、繊維塊、不織布、織編物、ネット等の繊維により形成されたものをいう。特に、不織布は、加工性が高いため、様々な用途へ適用することができる。
【0010】
前記湿熱ゲル化樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂であることが好ましい。湿熱によってゲル化でき、他の繊維及び/又は他の熱可塑性合成繊維成分を変質させないからである。
【0011】
エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂とは、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を鹸化することによって得られる樹脂であり、その鹸化度は95%以上が好ましい。より好ましい鹸化度は、98%以上である。また、好ましいエチレン含有率は、20モル%以上である。好ましいエチレン含有率は、50モル%以下である。より好ましいエチレン含有率は、25モル%以上である。より好ましいエチレン含有率は、45モル%以下である。鹸化度が95%未満ではゲル加工の際、ロール等への粘着により繊維構造物の生産が難しくなる場合がある。また、エチレン含有率が20モル%未満の場合も同様に、ゲル加工の際、ロール等への粘着により繊維構造物の生産が難しくなる場合がある。一方、エチレン含有率が50モル%を超えると、湿熱ゲル化温度が高くなり、加工温度を融点近傍まで上げざるを得なくなり、その結果、繊維構造物の寸法安定性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0012】
前記湿熱ゲル化樹脂の好ましいゲル化温度は、50℃以上である。より好ましいゲル化温度は、80℃以上である。50℃未満でゲル化し得る樹脂を用いると、ゲル加工の際、ロール等への粘着が激しくなって繊維構造物の生産が難しくなるか、夏場や高温環境下での使用ができなくなる場合がある。なお、「ゲル加工」とは、湿熱ゲル化樹脂をゲル化させる加工のことをいう。
【0013】
前記繊維及び前記バインダー樹脂の好ましい組み合わせとしては、
(I)湿熱ゲル化樹脂繊維成分と他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維、
(II)前記複合繊維と他の繊維を混合したもの、
(III)前記複合繊維と湿熱ゲル化樹脂を混合したもの、及び
(IV)湿熱ゲル化樹脂と他の繊維を混合したもの
から選ばれる少なくとも一つが挙げられる(以下、「形態(I)〜(IV)」という。)。前記形態(I)は、「バインダー樹脂」を湿熱ゲル化樹脂繊維成分とし、「繊維」を他の熱可塑性合成繊維成分とした湿熱ゲル化複合繊維である。前記形態(II)は、「バインダー樹脂」を湿熱ゲル化複合繊維とし、「繊維」を他の繊維としこれを混合したものである。前記形態(III)は、「繊維」を湿熱ゲル化複合繊維とし、さらに「バインダー樹脂」を湿熱ゲル化樹脂としこれを混合したものである。前記形態(IV)は、「バインダー樹脂」を前記湿熱ゲル化複合繊維以外の形態を採る湿熱ゲル化樹脂(例えば、湿熱ゲル化樹脂単独の繊維、パウダー状、チップ状)とし、「繊維」を他の繊維としこれを混合したものである。
【0014】
前記形態(I)〜(III)に用いられる湿熱ゲル化複合繊維は、湿熱ゲル化樹脂繊維成分が露出しているか、または部分的に区分されている複合繊維であることが好ましい。その複合形状は、同心円芯鞘型、偏心芯鞘型、並列型、分割型、海島型等を指す。特に同心円芯鞘型はガス吸着性フィラーが繊維表面に固着しやすいので好ましい。また、その断面形状は、円形、中空、異型、楕円形、星形、偏平形等いずれであってもよいが、繊維製造の容易さから円形であることが好ましい。分割型複合繊維はあらかじめ高圧水流等を噴射して部分的に分割しておくのが好ましい。このようにすると、分割された湿熱ゲル化樹脂繊維成分は、湿熱処理によりゲル化し、ゲル化物を形成して他の繊維の表面に付着し、ガス吸着性フィラーを固着する。すなわち、バインダーとして機能する。
【0015】
前記湿熱ゲル化複合繊維に占める湿熱ゲル化樹脂繊維成分の割合は、10mass%以上90mass%以下の範囲内であることが好ましい。より好ましい湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量は、30mass%以上である。より好ましい湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量は、70mass%以下である。湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量が10mass%未満であると、ガス吸着性フィラーが固着しにくくなる傾向にある。湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量が90mass%を超えると、複合繊維の繊維形成性が低下する傾向にある。
【0016】
前記湿熱ゲル化複合繊維における他の熱可塑性合成繊維成分は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等いかなるものであってもよいが、好ましくはポリオレフィンである。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン等が挙げられる。湿熱ゲル化樹脂繊維成分としてエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を使用した場合、溶融紡糸による複合繊維(コンジュゲート繊維)を形成しやすい。
【0017】
また、他の熱可塑性合成繊維成分として、湿熱ゲル化樹脂繊維成分をゲル化させる温度よりも高い融点を有する熱可塑性合成繊維成分を用いることが好ましい。他の熱可塑性合成繊維成分がゲル化物を形成させる温度よりも低い融点を有する熱可塑性合成繊維成分であると、他の熱可塑性合成繊維成分自体が溶融して硬くなる傾向にあり、例えば不織布にしたときに収縮を伴って不均一になることがある。
【0018】
前記湿熱ゲル化複合繊維が繊維構造物に占める割合は、ガス吸着性フィラーを固着することのできる量であれば特に限定されないが、ゲル化物によって繊維を固着する及び/又はガス吸着性フィラーを有効に固着するのに要する複合繊維の割合は、10mass%以上であることが好ましい。より好ましい複合繊維の割合は、30mass%以上である。さらに好ましい複合繊維の割合は、50mass%以上である。この場合の「複合繊維の割合」とは、例えば、繊維構造物において、複合繊維を含むウェブが両表面に存在し、内部に他の繊維が存在している場合、複合繊維を含むウェブにおける含有量のことを指す。
【0019】
前記形態(III)では、前記湿熱ゲル化複合繊維に、さらに湿熱ゲル化樹脂を含有させて複合繊維の表面にゲル化物を形成させることも可能である。これにより、ガス吸着性フィラーの固着効果をより向上させることができる。
【0020】
前記形態(II)または前記形態(IV)に用いられる他の繊維としては、レーヨン等の化学繊維、コットン、麻、ウール等の天然繊維等、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等の合成樹脂を単独成分又は複数成分とする合成繊維等、任意なものを選択して使用できる。
【0021】
前記形態(IV)において、湿熱ゲル化樹脂は、繊維構造物に対して1mass%以上90mass%以下の範囲内で含有させるのが好ましい。より好ましい含有量は、3mass%以上である。より好ましい含有量は、70mass%以下である。湿熱ゲル化樹脂の含有量が1mass%未満であると、ゲル化物によって他の繊維を固着することが困難となるか、あるいはガス吸着性フィラーを固着しにくくなる傾向にある。湿熱ゲル化樹脂の含有量が90mass%を超えると、繊維形状が消失してフィルム状になるか、あるいはガス吸着性フィラーがゲル化物に埋没することがある。
【0022】
前記ガス吸着性フィラーは、空気中の気体物質を吸着する機能を有するものであれば特に限定されないが、活性炭粒子、ゼオライト、シリカゲル、活性白土、層状リン酸塩等の多孔質粒子、これらの多孔質粒子に酸性物質やホルムアルデヒド吸着剤等のガス吸着性化合物を含ませた多孔質粒子等が好ましい。多孔質粒子の中では、活性炭粒子が特に好ましい。
【0023】
活性炭の種類は特に限定されないが、例えば、原材料としてヤシガラや木質などを用いたものが挙げられ、その賦活方法は、水蒸気による方法や薬品による方法などが挙げられる。
【0024】
本発明のガス吸着材は、ガス吸着性化合物を更に含んでいてもよい。前記ガス吸着性化合物としては、リン酸、スルファニル酸、アクリル酸、ポリフェノールなどの酸性物質、ヒドラジド化合物、あるいは芳香族ポリアミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミンなどのポリアミン化合物などが挙げられる。尚、ここで言うガス吸着性化合物とは、液状のものをいい、例えば水などの溶媒に溶解あるいは分散し易いものをいう。ガス吸着性化合物として液状のものを使用することにより、前記ガス吸着性化合物が繊維構造物中に均一に分散されるので都合がよい。ガス吸着材が酸性物質を含んでいるとアンモニアガスなどの吸着に優れた効果を発揮し、ヒドラジド化合物、ポリアミン化合物などを含んでいるとホルムアルデヒドなどの吸着に優れた性能を発揮する。
【0025】
前記ガス吸着性フィラーは、例えば粒子状や短繊維状のものをいう。前記ガス吸着性フィラーが粒子状の場合、前記ガス吸着性フィラーの平均粒子径は、0.01〜1000μmの範囲であることが好ましい。より好ましい平均粒子径は、0.1μm以上であり、さらにより好ましい平均粒子径は、1μm以上である。より好ましい平均粒子径は、100μm以下であり、更により好ましい平均粒子径は、80μm以下である。平均粒子径が0.01μm未満では、ガス吸着性フィラーがゲル化物に埋没することがある。一方、平均粒子径が1000μmを超える場合は、ガス吸着性フィラーの比表面積が小さくなり、ガス吸着性フィラーの効果(例えばガス吸着効果)が充分に得られなくなる場合がある。本発明のガス吸着性フィラー固着繊維構造物(ガス吸着材)は、ガス吸着性フィラーの粒子径が小さくても、繊維表面に露出した状態で固着するので、少量のガス吸着性フィラーで優れた効果を発揮する。特に、ガス吸着性フィラーの平均粒子径が100μm以下の場合は、比表面積が大きくなるので、少量のガス吸着性フィラーでも優れた効果を発揮する。
【0026】
前記ガス吸着性フィラーが短繊維状の場合、その繊維長または繊維断面長のうち大きい方の長さ(以下、「短繊維長さ」という)は、0.1〜1000μmの範囲が好ましく、10〜500μmの範囲がより好ましい。短繊維長さが0.1μm未満では、ガス吸着性フィラーがゲル化物に埋没することがある。1000μmを超える場合は、繊維長が長いため、分散液に均一に分散せず、また、ガス吸着性フィラーの比表面積が小さくなり、ガス吸着性フィラーの効果が充分に得られなくなる場合がある。
【0027】
本発明のガス吸着性フィラーを用いたガス吸着材は、前記ガス吸着性フィラー固着繊維を複数束ねて形成した繊維束をガス吸着部とするガス吸着モジュールとしてもよい。また前記ガス吸着性フィラー固着繊維の集合物を円筒状に巻きつけたものや、プリーツ状に成形したものを、ガス吸着フィルターとして用いることもできる。
【0028】
前記繊維構造物は、ガス吸着性フィラーの機能を効率良く発揮させるために、前記ガス吸着性フィラーの固着量が繊維構造物1m2あたり2g以上であることが好ましく、10g以上であることがより好ましく、20g以上であることがとくに好ましい。また、ガス吸着性フィラーの固着量の上限は、繊維構造物の質量に対して5倍程度が好ましい。
【0029】
次に、上記ガス吸着性フィラー固着繊維及び上記繊維構造物(ガス吸着材)の製造方法について説明する。以下の説明における湿熱処理は、湿熱雰囲気で施される。ここでいう「湿熱雰囲気」とは、水分を含み、かつ加熱された雰囲気のことをいう。前記湿熱処理とは、バインダー樹脂を付与した繊維、湿熱ゲル化繊維成分を含む繊維、又はこれらの繊維を含む処理前の繊維構造物(以下、「被処理繊維構造物」ともいう)に、例えばガス吸着性フィラーを含むガス吸着性フィラー分散溶液(以下、フィラー分散溶液という)を付与した後に加熱する処理や、前記ガス吸着性フィラー分散溶液を付与しながら加熱する処理のことをいう。加熱の方法は、加熱雰囲気中へ晒す方法、加熱空気中を貫通させる方法、及び加熱体へ接触させる方法等が挙げられる。また、別の方法としては、被処理繊維構造物上にガス吸着性フィラーを散布した後、水分を付与し、加熱処理する方法や、予め水分を付与した被処理繊維構造物上にガス吸着性フィラーを散布した後、加熱処理する方法もある。前記散布の方法については特に限定されず、例えば篩による方法や噴射による方法や、電気的に行う方法などがある。
【0030】
前記被処理繊維構造物の製法は、特に限定されるものではないが、ニードルパンチ法、水流交絡法、エアレイド法、スパンボンド法、メルトブロー法、湿式法などの方法から選ばれる少なくとも1種類の方法を使用するのが好ましい。
【0031】
前記被処理繊維構造物には、親水処理を施してもよい。親水処理を施すと、被処理繊維構造物が疎水性繊維を含む場合に、被処理繊維構造物に略均一に水分を付与することができる。その結果、複合繊維が略均一に湿熱ゲル化され、ガス吸着性フィラーが固着しやすくなるため好ましい。親水処理としては、界面活性剤処理、コロナ放電法、グロー放電法、プラズマ処理法、電子線照射法、紫外線照射法、γ線照射法、フォトン法、フレーム法、フッ素処理法、グラフト処理法、スルホン化処理法等が挙げられる。
【0032】
前記被処理繊維構造物の好ましい目付の範囲は、10〜1000g/m2であり、より好ましい目付の範囲は、30〜200g/m2であり、更に好ましい目付の範囲は、40〜80g/m2である。目付が10g/m2よりも低いと、湿熱処理後に固着するガス吸着性フィラーの量が少なくなり、機能を充分に発揮できない場合がある。目付が1000g/m2よりも高いと、ガス吸着性フィラーを付与する際に、ガス吸着性フィラーが被処理繊維構造物の内部に入り込みにくくなる恐れがある。
【0033】
前記被処理繊維構造物は、その片面あるいは両面に、他の繊維構造物が積層されていても良い。他の繊維構造物を積層する場合、例えば、ガス吸着性フィラーを付与する前に積層しても良いし、ガス吸着性フィラーを付与した後、湿熱処理前に積層しても良いし、湿熱処理によりガス吸着性フィラーを固着した後に積層しても良い。前記被処理繊維構造物の片面に積層した場合、他の繊維構造物の機能を付与することができ、例えば成型性や接着性を向上させることができる。例えば本発明のガス吸着材の強度を上げる場合は、補強材となるスパンボンドの両表面に前記被処理繊維構造物を配置すればよいし、本発明のガス吸着材に親水性を持たせたい場合は、親水性の繊維層の両表面に前記被処理繊維構造物を配置すればよい。また、前記被処理繊維構造物の両面に他の繊維構造物を積層した場合、例えばガス吸着性フィラーの固着が不十分であったときでも、ガス吸着性フィラーの脱落を抑制したり、用途によりガス吸着性フィラーの色を隠蔽する効果を与えたりすることができる。また、ガス吸着性フィラーの脱落を抑制することで製造工程の清掃作業の効率化が図れる場合もある。さらに、他の繊維構造物の機能を付与することができ、例えば成型性や接着性を向上させることができる。例えば、ガス吸着材フィラーの脱落やガス吸着材フィラーの色が懸念される用途においては、前記被処理繊維構造物の両面に熱接着性繊維を含んだ不織布を熱ロール加工することが好ましい。
【0034】
ガス吸着性フィラーを付与した後の繊維構造物についても、前述と同じ理由により、その片面あるいは両面に、他の繊維構造物を積層し、一体化することができる。より好ましい形態は、ガス吸着材フィラーを付与した後の繊維構造物の両面に、熱接着性繊維を含んだ繊維構造物を熱処理により一体化したものである。
【0035】
上述した他の繊維構造物としては、例えば、スパンボンドや水流交絡不織布、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布などが挙げられる。他の繊維構造物の目付の範囲は、例えば脱落を防ぐ効果や、ガス吸着性フィラーの色を隠蔽する効果等を有していれば特に限定されるものではないが、好ましい目付の範囲は15〜300g/m2であり、より好ましい目付の範囲は20〜100g/m2である。
【0036】
前記フィラー分散溶液を付与した後に加熱する場合は、湿熱処理における繊維または被処理繊維構造物に付与する水分の割合が(以下、「水分率」という)、20mass%〜1500mass%であることが好ましい。より好ましい水分率は、30mass%以上である。より好ましい水分率は、1000mass%以下である。さらにより好ましい水分率は、40mass%以上である。さらにより好ましい水分率は、900mass%以下である。水分率が20mass%未満であると、湿熱ゲル化が充分に起こらないことがある。一方、水分率が1500mass%を超えると、湿熱処理が被処理繊維構造物の表面と内部との間で均一に行われず、湿熱ゲル化の度合いが不均一となる傾向にある。なお、水分の付与方法としては、スプレー法、水槽への浸漬法等公知の方法で行うことができる。特に、ガス吸着性フィラー分散溶液を被処理繊維構造物に含浸させる方法は、被処理繊維構造物内にガス吸着性フィラーを多く取り込みやすいため、好ましい。水分が付与された繊維又は被処理繊維構造物は、絞りロール等で圧搾する等の方法で所定の水分率に調整することができる。
【0037】
前記フィラー分散溶液を付与した後に加熱する場合は、湿熱処理における繊維または被処理繊維構造物に付与するフィラー分散溶液の割合(以下、「ピックアップ率」という)が、20mass%〜1500mass%であることが好ましい。より好ましいピックアップ率は、30mass%以上である。より好ましいピックアップ率は、1000mass%以下である。さらにより好ましいピックアップ率は、40mass%以上である。さらにより好ましいピックアップ率は、900mass%以下である。ピックアップ率が20mass%未満であると、湿熱ゲル化が充分に起こらないことがある。一方、ピックアップ率が1500mass%を超えると、湿熱処理が被処理繊維構造物の表面と内部との間で均一に行われず、湿熱ゲル化の度合いが不均一となる傾向にある。なお、水分の付与方法としては、スプレー、水槽への浸漬等公知の方法で行うことができる。
【0038】
前記フィラー分散溶液中のガス吸着性フィラーの濃度は、使用する被処理繊維構造物の目付や固着量、あるいは、フィラー分散溶液の温度や粘度などにより、適宜設定すればよいが、好ましい範囲は0.1〜75mass%であり、より好ましい範囲は、1〜50mass%である。ガス吸着性フィラーの濃度が0.1mass%よりも低いと、ガス吸着性フィラーの効果が充分に得られなくなる場合がある。ガス吸着性フィラーの濃度が75mass%よりも高いと、加工性が悪くなるため、ガス吸着性フィラーが均一に付着されない場合がある。
【0039】
前記ガス吸着性フィラーの粒子径は、特に限定されないが、本発明のガス吸着性フィラー固着繊維構造物は、ガス吸着性フィラーの粒子径が小さくても、繊維表面に露出した状態で固着するので、少量のガス吸着性フィラーで優れた効果を発揮する。
【0040】
前記フィラー分散溶液は、ガス吸着性化合物を更に含んでいることが好ましい。ガス吸着性化合物の濃度については、特に限定されるものではなく、被処理繊維構造物の目付や固着量により適宜設定すればよいが、好ましい範囲は、0.1〜10mass%である。ガス吸着性化合物の濃度が0.1mass%よりも低いと、ガス吸着性フィラーの効果が充分に得られなくなる場合がある。ガス吸着性化合物の濃度が10mass%よりも高いと、加工性が悪くなる場合がある。また、ガス吸着性化合物の濃度が10mass%よりも高い場合は、濃度の増加に見合う効果が得られなくなる場合もある。
【0041】
前記湿熱処理における湿熱処理温度は、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分(以下、両者を併せて「バインダー樹脂」ともいう。)のゲル化温度以上融点−20℃以下であることが好ましい。より好ましい湿熱処理温度は、50℃以上である。さらにより好ましい湿熱処理温度は、80℃以上である。一方、より好ましい湿熱処理温度は、バインダー樹脂の融点−30℃以下である。さらにより好ましい湿熱処理温度は、バインダー樹脂の融点−40℃以下である。湿熱処理温度がバインダー樹脂のゲル化温度未満であると、ガス吸着性フィラーを有効に固着することができない場合がある。湿熱処理温度がバインダー樹脂の融点−20℃を超えると、バインダー樹脂の融点に近くなるため、ガス吸着性フィラー固着繊維構造物にしたときに収縮を引き起こすことがある。
【0042】
前記湿熱処理を施した繊維構造物は、1)そのまま乾燥処理を行ってもよいし、2)一旦水洗を行った後、乾燥処理を行っても良いし、3)一旦乾燥させた後、水洗を行いその後で乾燥処理を行っても良い。水洗を行う場合は、上記3)の方法が、ガス吸着性フィラーの固着量が多くなるので都合がよい。
【0043】
前記乾燥処理温度は、ガス吸着性フィラー固着繊維構造物が乾燥する温度であれば、特に限定されない。また、この乾燥処理時においては、場合によりガス吸着性フィラー固着繊維構造物を、幅方向(機台に垂直な方向)に拡幅しながら乾燥処理を行っても良い。幅方向に拡幅することにより、目付の調整や、長さ方向と幅方向の寸法安定性が図れる。
【0044】
湿熱処理の方法としては例えば以下の方法があり、それぞれの製造方法について説明する。
(1)被処理繊維構造物に、フィラー分散溶液を付与した後、スチーム処理する方法(以下、スチーム処理法という)
(2)被処理繊維構造物に、フィラー分散溶液を付与した後、加熱体に接触させる方法(以下、加熱体接触法という)
(3)被処理繊維構造物を、加熱したフィラー分散溶液に接触させる方法(以下、加熱液接触法という)
前記スチーム処理法は、得られるガス吸着性フィラー固着繊維構造物に嵩高性及び/又は柔軟性を与える場合に適しており、前記繊維及び前記湿熱ゲル化樹脂を含むウェブからなる被処理繊維構造物に、フィラー分散溶液を付与した後に、所定の水分率に調整後、スチーム処理することによって、湿熱ゲル化樹脂がゲル化されたゲル化物を形成してガス吸着性フィラーを固着する。スチーム処理の方法としては、例えば、所定の水分率に調整した被処理繊維構造物の上及び/又は下からスチームを吹き付ける方法、スチームを充満させたチャンバー内で被処理繊維構造物にスチームを接触させる方法(パッドスチーマー法)、オートクレーブ等を用いて被処理繊維構造物をスチームに晒す方法などが挙げられる。かかる方法によれば、ゲル加工時において必要以上に被処理繊維構造物に圧力が加わらない。その結果、被処理繊維構造物の繊維形態を維持しながら、ガス吸着性フィラーを被処理繊維構造物の繊維表面に露出させた状態で固着することができる。更に、被処理繊維構造物が繊維間の交絡部において膜状に拡がったゲル化物(以下、膜状ゲル化物という)で覆われるため、ガス吸着性フィラーを固着する有効面積が増大し、ガス吸着性能をより向上させることが出来る。パッドスチーマー法は、蒸気吹き出し口より吐出された蒸気が直接被処理繊維構造物に接触することなく、均一な蒸気雰囲気中でスチーム処理することによって、湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化され、均一なゲル化物を形成することができるので、特に好ましい。また、連続運転をする上でも都合がよい。更に、パッドスチーマー法によれば、温度のコントロールが容易なので、ガス吸着性フィラーの機能を維持したまま、目的に応じて繊維構造物の強度や通気度などをコントロールすることができ、様々な形の膜状に拡がったゲル化物も形成できるので、特に好ましい。例えば、繊維形状を維持したゲル化樹脂上のガス吸着性フィラーの固着が不充分な場合は、パッドスチーマーの温度を上げることにより、ゲル化樹脂の流動性が向上し、ガス吸着性フィラーを強固に固着させることができる。また、パッドスチーマー法は、ゲル加工と同時に、乾燥工程の予備処理的な役割も果たすため、乾燥工程の効率化も図れる。
【0045】
前記フィラー分散溶液の温度は、湿熱ゲル化樹脂がゲル化しない温度であっても、ゲル化を開始する温度であっても良く、ガス吸着性フィラーやガス吸着性化合物の種類、粒子径、短繊維長さ、あるいはフィラー分散溶液の濃度や粘度などにより、適宜設定すればよい。例えば被処理繊維構造物の水分率が多い場合には、湿熱処理時に湿熱ゲル化樹脂がゲル化し易いように、被処理繊維構造物がゲル化しない温度範囲で加熱しても良い。なお、湿熱ゲル化樹脂がゲル化を開始する温度以上であれば、後述する加熱液接触法と組み合わせた方法となり、ガス吸着性フィラーをより強固に固着させる場合に有効である。
【0046】
前記スチーム処理温度は、被処理繊維構造物付近の温度が、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分のゲル化温度以上融点−20℃以下であれば、特に限定されるものではないが、好ましい温度範囲は、80〜120℃であり、より好ましい温度範囲は90〜110℃である。
【0047】
スチーム処理により、ガス吸着性フィラーは、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面に露出した状態で固着されるので、少量のガス吸着性フィラーで優れた効果を発揮する。また、フィラー分散溶液がガス吸着性化合物を更に含んでいる場合は、前記ガス吸着性化合物がガス吸着性フィラーの表面だけではなく、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面にも固着されるので、ガス吸着性化合物だけをガス吸着成分として使用した場合に比べて、更に優れた効果を発揮する。そのため、例えば従来のガス吸着材において、特に除去しにくかったホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のガスに対しても格段の効果を発揮する。
【0048】
前記乾燥処理後のガス吸着性フィラー固着繊維構造物は、その乾燥処理後の出口部において、一対のプレスロールに通してプレス加工を行っても良い。乾燥処理後の出口部においてプレス加工を行うことで、ガス吸着性フィラーが柔軟性を維持したまま、強固に固着される。
【0049】
次に、前記加熱体接触法について説明する。前記加熱体接触法は、ガス吸着性フィラーをより強固に固着させる場合、前記繊維及び前記湿熱ゲル化樹脂を含むウェブからなる被処理繊維構造物にフィラー分散溶液を付与した後に、所定の水分率に調整し、これを加熱体に接触させることによって、湿熱ゲル化樹脂がゲル化されたゲル化物を形成してガス吸着性フィラーを固着する。被処理繊維構造物を加熱体に接触させる方法としては、例えば熱ロールに接触させる方法、熱プレス板に接触させる方法などが挙げられる。かかる方法によれば、瞬時に湿熱ゲル化樹脂繊維成分を湿熱ゲル化することができると同時にゲル化物を押し拡げることができるので、広い面積にわたりガス吸着性フィラーを固着することができる。また、かかる方法によれば、湿熱ゲル化したときに、ガス吸着性フィラーがゲル化物に押し込まれて、繊維表面にガス吸着性フィラーを更に強固に固着させることができる。
【0050】
前記加熱体が熱プレス板のような面状のものである場合、被処理繊維構造物を接触させる際の面圧が0.01〜3MPaであることが好ましい。より好ましい面圧の下限は、0.02MPaである。より好ましい面圧の上限は、2.5MPaである。面厚が0.01Mpa未満の場合、ガス吸着性フィラーの固着が充分でない場合があり、面厚が3Mpaを超えると、風合いが堅くなる場合がある。
【0051】
また、前記加熱体接触法が熱ロールによって圧縮成形処理する方法である場合、熱ロールの線圧は、10〜400N/cmであることが好ましい。より好ましい熱ロールの線圧の下限は、50N/cmである。より好ましい熱ロールの線圧の上限は、200N/cmである。線圧が10N/cm未満の場合、ガス吸着性フィラーの固着が充分でない場合があり、線圧が400N/cmを超えると、風合いが堅くなる場合がある。
【0052】
前記加熱体の設定温度(例えば湿熱処理機の設定温度)は、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分のゲル化温度以上融点−20℃以下であれば、特に限定されるものではないが、好ましい温度範囲は、50〜160℃であり、より好ましい温度範囲は80〜150℃である。なお、水分を含んだ被処理繊維構造物をゲル加工するために前記設定温度を100℃以上にすると、まず被処理繊維構造物内の水分が蒸発する。そのとき、湿熱ゲル化樹脂のゲル化が進行するので、ゲル加工の実温度は前記設定温度よりも低くなる傾向にある。従って、他の繊維の融点が前記設定温度よりも低い場合でも、実質的に溶融しないか、あるいは実質的に収縮しないことがあり、ゲル加工温度は、他の繊維が実質的に収縮しない温度で処理することが好ましい。
【0053】
加熱体を用いて処理することにより、ガス吸着性フィラーは、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面に露出した状態で、強固に固着されるので、ガス吸着性フィラーを少量使用する場合は、確実に固着でき、ガス吸着性フィラーを多量に使用する場合でも、その大半のガス吸着性フィラーを強固に固着できるので、ガス吸着性フィラーの脱落量が少なくて済み、その効果も優れている。また、フィラー分散溶液がガス吸着性化合物を更に含んでいる場合は、前記ガス吸着性化合物がガス吸着性フィラーの表面だけでなく、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面にも固着されるので、ガス吸着性化合物だけをガス吸着成分として使用した場合に比べて、更に優れた効果を発揮する。そのため、例えば従来のガス吸着材において、特に除去しにくかったホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のガスに対しても格段の効果を発揮する。
【0054】
次に、前記加熱液接触法について説明する。前記加熱液接触法は、被処理繊維構造物を加熱したフィラー分散溶液に接触させることにより、湿熱ゲル化樹脂がゲル化されたゲル化物を形成して、ガス吸着性フィラーを固着する。被処理繊維構造物を加熱液に接触させる方法としては、例えば、加熱したフィラー分散溶液中に浸漬する方法、加熱したフィラー分散溶液を被処理繊維構造物に噴霧する方法などが挙げられる。かかる方法によれば、ゲル化工時に被処理繊維構造物に対して、必要以上に面圧が加わらないため、ゲル化した湿熱ゲル化繊維の流動性が少なくなり、被処理繊維構造物の繊維形態を維持しつつ繊維同士の交絡部においてゲル化物が膜状に拡げられることなく接着し、かつガス吸着性フィラーを繊維表面に露出させた状態で固着することができる上、得られるガス吸着性フィラー固着繊維構造物に嵩高性及び/又は柔軟性を与えることができる。また、湿熱ゲル化樹脂がゲル化する際は、水分の付与と同時に湿熱ゲル化繊維のゲル化が進行するので、前記フィラー分散溶液中のガス吸着性フィラーの濃度と、前記フィラー分散溶液の温度を調整して、ガス吸着性フィラーの固着量を調整すればよい。具体的には、ガス吸着性フィラーを含む熱水中(85℃以上)に繊維又は被処理繊維構造物を含浸することにより、ガス吸着性フィラーを繊維表面に固着することができる。特に加熱したフィラー分散溶液中に浸漬する方法は、湿熱ゲル化繊維を均一にゲル化することができ、好ましい。
【0055】
前記加熱液接触法のゲル加工温度は、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分のゲル化温度以上融点−20℃以下であれば、特に限定されるものではないが、好ましい温度範囲は、85〜120℃であり、より好ましい温度範囲は90〜100℃である。温度が85℃よりも低いと、フィラーの固着が充分になされない場合があり、120℃よりも高いと、風合いが堅くなり、フィルム状になる場合がある。
【0056】
前記加熱液接触法におけるフィラー分散溶液のフィラー濃度は、使用する被処理繊維構造物の目付や固着量、フィラー分散溶液の温度や粘度により適宜設定すればよいが、好ましい範囲は0.1〜75mass%であり、より好ましい範囲は、1〜50mass%である。
【0057】
前記加熱液接触法では、加熱したフィラー分散溶液中に被処理繊維構造物を浸漬することにより、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維のゲル化と、ガス吸着性フィラーの固着が同時に液中で行われる。これにより、ガス吸着性フィラーを付与した後にゲル化する場合に比べ、ガス吸着性フィラーをより均一に、繊維表面に露出した状態で固着することができるため、少量のガス吸着性フィラーで優れた効果を発揮する。また、フィラー分散溶液がガス吸着性化合物を更に含んでいる場合は、ガス吸着性化合物がガス吸着性フィラーの表面だけではなく、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面にも固着されるので、ガス吸着性化合物だけをガス吸着成分として使用した場合に比べて、更に優れた効果を発揮する。そのため、例えば従来のガス吸着材において、特に除去しにくかったホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のガスに対しても格段の効果を発揮する。
【0058】
なお、前記被処理繊維構造物の湿熱処理方法は、前述したようにスチーム処理法、加熱体接触法、加熱液接触法等があるが、同じ処理を繰り返し行っても良いし、他の処理方法と組み合わせて行っても良い。
【0059】
次に、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0060】
図1A〜Cは、本発明の一実施形態に係るガス吸着材を構成するガス吸着性フィラー固着繊維の断面図である。図1Aは、ポリプロピレンを芯成分2とし、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を鞘成分1とした複合繊維5であって、鞘成分1の中にガス吸着性フィラー3を固着させた例である。この場合、鞘成分1はバインダー樹脂として機能する。図1Bは、ポリプロピレンを芯成分2とし、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を鞘成分1とした複合繊維6であって、複合繊維6の外側にエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂をバインダー4として付着させ、このバインダー4中にガス吸着性フィラー3を混合させた例である。図1Cは、ポリプロピレン8とエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂7を多分割に配置した複合繊維9とし、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂7の周辺部内にガス吸着性フィラー3を固着させた例である。この場合、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂7はバインダー樹脂として機能する。
【0061】
図2は、本発明の一実施形態に係る3層構造のガス吸着材(繊維構造物)の断面図で、外側にポリエステル繊維とPP/PE芯鞘型複合繊維とを混綿した繊維層11,11を配置し、内側にガス吸着性フィラー固着繊維層12を配置させた例である。
【0062】
図3は、本発明の一実施形態に係るガス吸着材の製造方法(加熱体接触法)の一例工程図である。繊維31(又は被処理繊維構造物31)を、槽32内のガス吸着性フィラーを含むガス吸着性フィラー分散溶液33(又はガス吸着性フィラーとエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を含むガス吸着性フィラー分散溶液33)に含浸し、絞りロール34で絞り、スチーマー35とサクション36の間で湿熱処理し、そのまま巻き取るか、又は被処理繊維構造物を湿熱処理した場合は、一対の加熱ロール37,37にかけたパターニング用キャンバスロール38,38により圧縮成形し、ガス吸着性フィラー固着繊維構造物の表面に所定のパターン模様を付与し、その後、巻き取り機39に巻き取る。スチーマー35とサクション36に代えて、上下の熱板を用いて例えば温度150℃、5分間の加圧処理を行ってもよい。他の実施形態としては、スチーマー35なしに一対の加熱ロールのみで圧縮成形する方法、スチーマー35なしに一対の加熱ロール37,37にかけたパターニング用キャンバスロール38,38のみで圧縮成形する方法もある。
【0063】
図4は、本発明の一実施形態に係るガス吸着材の製造方法(スチーム処理法)の一例工程図である。繊維31(又は被処理繊維構造物31)を、槽32内のガス吸着性フィラーを含むフィラー分散溶液33(又はガス吸着性フィラーとガス吸着性化合物とを含むフィラー分散溶液33)に含浸し、絞りロール34で絞り、下から蒸気が吹き出してチャンバー内に蒸気が均一に充満しているパッドスチーマー35でスチーム処理し、必要により乾燥、水洗、脱水処理(図示せず)したものを、乾燥機41で乾燥させて巻き取り機39で巻き取る。なお、パッドスチーマー35でスチーム処理する際、繊維31(又は被処理繊維構造物31)には、吹き出した蒸気は直接当たらない。
【0064】
図5は、本発明の一実施形態に係るガス吸着材の製造方法(加熱液接触法)の一例工程図である。繊維31(又は被処理繊維構造物31)を、槽32内のガス吸着性フィラーを含む加熱されたガス吸着性フィラー分散溶液33に含浸し、乾燥機41で乾燥させて巻き取り機39で巻き取る。なお、ガス吸着性フィラー分散溶液33の加熱は、例えばヒーター(図示せず)等の加熱手段により行えばよい。
【0065】
図6〜8に上記加熱体接触法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す。このうち、図6は不織布を示す走査電子顕微鏡平面写真(倍率100)、図7は同断面写真(倍率100)、図8は同不織布表面の繊維表面拡大写真(倍率1000)である。
【0066】
図9〜11に上記スチーム処理法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す。このうち、図9は不織布を示す走査電子顕微鏡平面写真(倍率200)、図10は同断面写真(倍率200)、図11は同不織布表面の繊維表面拡大写真(倍率2000)である。
【0067】
図12,13に上記加熱液接触法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す。このうち、図12は不織布を示す走査電子顕微鏡平面写真(倍率200)、図13は同断面写真(倍率200)である。
【実施例】
【0068】
[実施例1〜4]
ガス吸着材として、以下のものを準備した。
【0069】
(不織布原反の作製)
鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH、エチレン含有量38モル%、融点176℃)であり、芯成分がポリプロピレン(PP、融点161℃)であり、EVOH:PPが50:50の割合(容積比)である芯鞘型複合繊維(繊度2.8dtex、繊維長51mm)を準備した。
【0070】
前記芯鞘型複合繊維をセミランダムカード機で開繊し、表1に示す目付を有するカードウェブを作製した。次いで、前記カードウェブを90メッシュの平織り支持体に載置し、前記カードウェブの幅方向に一列にオリフィス(径:0.12mm、ピッチ:0.6mm)が配置されたノズルから前記カードウェブに向けて水流を水圧3MPaで噴射した後、更に水圧4MPaで噴射した。続いて、前記カードウェブを裏返して、前記ノズルから水圧4MPaで水流を噴射して、実施例1〜4に使用される水流交絡不織布原反を作製した。
【0071】
(ガス吸着性フィラーの準備)
ガス吸着性フィラーとしては、活性炭粒子:「クラレコール PL−D」(クラレケミカル製、ヤシガラ炭、平均粒子径40〜50μm)を使用した。
【0072】
(ガス吸着性フィラー固着繊維を含有する不織布の作製)
前記不織布原反を、10mass%の前記活性炭粒子を含む水分散液(20℃)に浸漬し、マングルロールの絞り圧力で表1に示す数値になるようにピックアップ率を調整した。次いで、水分散液を含浸させた前記不織布原反を、線径:0.3mm、メッシュ数:縦30本/inch×横25本/inchの2枚の平織りのプラスチックネット(縦40cm×横40cm)で挟持して、150℃に加熱したホットプレート上に載置し、更に、上側の前記プラスチックネットをアルミニウムシート(1g/cm2)で覆って15分間湿熱処理をした。得られた不織布を水洗し、熱風ドライヤー(100℃)で乾燥して、本発明の実施例である実施例1〜4の不織布(ガス吸着材)を得た。
【0073】
[実施例5]
実施例1に使用される水流交絡不織布原反と同じ不織布原反を、5mass%の前記活性炭粒子を含む水分散液(95℃)に30秒間浸漬した後、引き上げた。そして、前記不織布原反の温度が50℃になるまで前記不織布原反を釣支した。その後、前記不織布原反を水洗し、熱風ドライヤー(100℃)で乾燥して、本発明の実施例である実施例5の不織布(ガス吸着材)を得た。
【0074】
[比較例1]
自己架橋型アクリル酸エステルエマルジョン(日本カーバイド工業製、商品名「ニカゾールFX−555A」)を15mass%と、前記活性炭粒子を10mass%含有した配合液を準備した。次に、前記配合液に前述した実施例1に使用される水流交絡不織布原反と同じ不織布原反を浸漬し、マングルロールで絞り、熱風乾燥機を用いて温度140℃、処理時間15分で乾燥させるとともに硬化させ、活性炭粒子の固着量が38g/m2のケミカルボンド不織布(比較例1)を得た。
【0075】
[比較例2]
比較例2として、表面に消臭剤が固着された2枚のスパンボンド不織布間に、活性炭粒子がホットメルト剤で固着されたVOCガス吸着シート(旭化成せんい製、商品名「セミアV」、目付134g/m2、活性炭粒子の固着量約40g/m2)を用意した。
【0076】
表1に、実施例1〜5及び比較例1,2の不織布(ガス吸着材)について、不織布原反の目付、活性炭粒子の固着量、活性炭粒子の固着率及び不織布(ガス吸着材)の目付を示した。
【0077】
【表1】
【0078】
[実施例6〜9]
ガス吸着材として以下のものを準備した。
【0079】
(ガス吸着性化合物の準備)
ガス吸着性化合物としては、ポリアリルアミン10mass%水溶液を使用した。
【0080】
(ガス吸着性フィラー固着繊維を含有する不織布の作製)
表2に示す目付を有するカードウェブを用いたこと以外は実施例1に使用される水流交絡不織布原反と同じ方法で作製した不織布原反を、16mass%の前記活性炭粒子を含む水分散液(20℃)に浸漬し、マングルロールの絞り圧力でピックアップ率を調整して、前記活性炭粒子の固着量を表2に示す数値となるように調整した。次いで、不織布原反付近の温度が100℃になるように調整したスチームを充満させたパッドスチーマー内で湿熱処理を行った。滞留時間は20秒であった。次に、熱風循環式の乾燥機内に湿熱処理後の不織布を通して乾燥させ、更に水洗槽で水洗を行った後、温度140℃に調整したテンター方式の乾燥機内で乾燥させ、本発明の実施例である実施例6の不織布(ガス吸着材)を得た。
【0081】
表2に示す目付を有するカードウェブを用いたこと以外は実施例1に使用される水流交絡不織布原反と同じ方法で作製した不織布原反を、16mass%の前記活性炭粒子と1mass%になるように調整した前記ガス吸着性化合物を含む水分散液(20℃)に浸漬し、ピックアップ率を調整したこと以外は、実施例6と同様の方法により実施例7の不織布(ガス吸着材)を得た。
【0082】
テンター方式の乾燥機内で、拡幅しながら乾燥させたこと以外は、実施例7と同様の方法により実施例8の不織布(ガス吸着材)を得た。なお、使用した不織布原反の目付は、46g/m2であった。
【0083】
繊度が1.45dtexで繊維長が38mmのポリエステル繊維(東レ株式会社製、商品名「403」)70mass%と、繊度が2.2dtexで繊維長が51mmのPP/PE芯鞘型複合繊維(大和紡績株式会社製、商品名「NBF(H)」)30mass%を使用して、30g/m2の水流交絡不織布を作製した。続いて、実施例8の不織布(ガス吸着材)の上下に前記水流交絡不織布を載置し、135℃の熱処理温度のヒートエンボスロールを用いてロール加工を施し、実施例9の不織布(ガス吸着材)を得た。
【0084】
[比較例3]
前記ポリアリルアミン10mass%水溶液を1mass%の濃度になるように希釈した配合液を準備した。次に、前記配合液に前述した実施例6に使用される水流交絡不織布原反と同じ不織布原反を浸漬し、マングルロールの絞り圧力でピックアップ率を調整して、ガス吸着性化合物の固着量を表2に示す数値となるように調整したこと以外は実施例6の不織布と同様の方法により比較例3の不織布を得た。
【0085】
表2に、実施例6〜9及び比較例3の不織布(ガス吸着材)について、不織布原反の目付、ガス吸着成分(活性炭粒子及び/又はガス吸着性化合物)の固着量、ガス吸着成分の固着率及び不織布(ガス吸着材)の目付を示した。
【0086】
【表2】
【0087】
[実施例10〜12]
ガス吸着材として更に以下のものを準備した。
【0088】
表3に示す目付を有するカードウェブを用いたこと以外は実施例1に使用される水流交絡不織布原反と同じ方法で作製した不織布原反を、16mass%の前記活性炭粒子を含む水分散液(95℃)に1分間浸漬した後、熱風循環式の乾燥機内に通して乾燥させ、水洗槽で水洗を行った後、温度140℃に調整したテンター方式の乾燥機内で乾燥させ、本発明の実施例である実施例10及び実施例12の不織布(ガス吸着材)を得た。
【0089】
表3に示す目付を有するカードウェブを用いたこと以外は実施例1に使用される水流交絡不織布原反と同じ方法で作製した不織布原反を、16mass%の前記活性炭粒子を含む水分散液(95℃)に1分間浸漬した後、温度140℃に調整したテンター方式の乾燥機内で乾燥させ、本発明の実施例である実施例11の不織布(ガス吸着材)を得た。
【0090】
表3に、実施例10〜12の不織布(ガス吸着材)について、不織布原反の目付、活性炭粒子の固着量、活性炭粒子の固着率及び不織布(ガス吸着材)の目付を示した。
【0091】
【表3】
【0092】
[VOCガス吸着試験方法−1]
実施例1〜5、10〜12及び比較例1,2のガス吸着材シートを、それぞれ縦10cm×横10cmの大きさに切断し、容量が5リットルの公害分析用バッグ(商品名「テドラーバッグ」)に入れ、表4〜7に示す初期濃度となるように空気と調合された各VOCガスを注入した。そして、注入時点を開始時間とし、経時毎にガス検知管でバッグ内の各VOCガスの濃度を測定した。結果を表4〜7に示す。なお、表4〜7において、「ND」とは、各VOCガスの濃度が、それぞれ使用したガス検知管の測定限界(トルエン:0.5ppm、キシレン:2ppm)未満となった場合を示す。
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】
【0096】
【表7】
【0097】
表4〜6に示すように、実施例1〜4の不織布を使用した場合は、比較例1,2に比べ、各VOCガスの濃度の減少速度が速く、ガスの吸着性能が向上した。また、表4に示すように、実施例5は、比較例1に比べ活性炭粒子の固着量が少ないにもかかわらず、比較例1と同等のホルムアルデヒドの吸着性能を示した。更に、表5,6に示すように、実施例5は、比較例2に比べ活性炭粒子の固着量が少ないにもかかわらず、ガスの吸着性能が向上した。これは、実施例1〜5の不織布中の活性炭粒子(ガス吸着性フィラー)が、繊維の表面に固着された湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されているため、ガス吸着性フィラーが表面に露出した状態で固着され、比較例1,2に比べ、ガス吸着性フィラーの比表面積の減少が抑制されたことによるものと考えられる。なお、実施例1〜5の不織布は、繊維形状を保持しており、ゲル加工時に不織布が収縮することはなかった。また、実施例1〜5の不織布は、ガス吸着性フィラーの脱落がなかった。
【0098】
また、表7に示すとおり、実施例10〜12の不織布を使用した場合は、比較例2に比べ、各VOCガスの濃度の減少速度が速く、ガスの吸着性能が向上した。
【0099】
[VOCガス吸着試験方法−2]
実施例6〜9及び比較例1〜3のガス吸着材シートを、それぞれ縦28cm×横17.6cmの大きさ(B5サイズ)に切断し、容量が5リットルの公害分析用バッグ(商品名「テドラーバッグ」)に入れ、表8〜10に示す初期濃度となるように空気と調合された各VOCガスを注入した。そして、注入時点を開始時間とし、経時毎にガス検知管でバッグ内の各VOCガスの濃度を測定した。結果を表8〜10に示す。なお、表10の実施例7については、公害分析用バッグ内の温度(測定温度)を25℃に保持した場合と、80℃に保持した場合の2通りのデータを示した。なお、表8,9において、「ND」とは、各VOCガスの濃度が、それぞれ使用したガス検知管の測定限界(ホルムアルデヒド:0.05ppm、トルエン:0.5ppm、キシレン:2ppm、エチルベンゼン、スチレン及びパラジクロロベンセン:1ppm)未満となった場合を示す。
【0100】
【表8】
【0101】
【表9】
【0102】
【表10】
【0103】
表8に示すように、実施例6〜9の不織布を使用した場合は、比較例3に比べ、アセトアルデヒドガスの濃度減少速度が速く、ガスの吸着性能が向上した。また、表9に示すように、実施例7の不織布は、VOCガスの中でも除去しにくいアセトアルデヒドガスに対して、濃度減少速度が速く、優れた効果を発揮した。また、表10に示すように、従来除去しにくかったVOCガスが低濃度で存在する場合でも、実施例7〜9の不織布を使用した場合は、VOCガスを充分に除去できた。これは、実施例7〜9の不織布中のガス吸着性フィラーが、繊維の表面に固着された湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されているため、ガス吸着性フィラーが表面に露出した状態で固着され、ガス吸着性フィラーの比表面積の減少が抑制されたことによるものと考えられる。なお、実施例7〜9の不織布は、繊維形状を保持しており、ゲル加工時に不織布が収縮することはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のガス吸着材は、車輌用内装材、建材の養生シート、壁紙、マスク、マット、カーペット、フィルター等に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】A〜Cは、本発明の一実施形態に係るガス吸着材を構成するガス吸着性フィラー固着繊維の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る3層構造のガス吸着材(繊維構造物)の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るガス吸着材の製造方法(加熱体接触法)の一例工程図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るガス吸着材の製造方法(スチーム処理法)の一例工程図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るガス吸着材の製造方法(加熱液接触法)の一例工程図である。
【図6】加熱体接触法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図7】加熱体接触法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図8】加熱体接触法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図9】スチーム処理法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図10】スチーム処理法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図11】スチーム処理法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図12】加熱液接触法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図13】加熱液接触法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0106】
1 鞘成分
2 芯成分
3 ガス吸着性フィラー
4 バインダー
5,6,9 複合繊維
7 エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂
8 ポリプロピレン
11 繊維層
12 ガス吸着性フィラー固着繊維層
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸着性フィラーを繊維表面に固着したフィラー固着繊維を有するガス吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、揮発性有機化合物(以下、VOCと略称する)の吸入によるシックハウス症候群等のアレルギー症状の発生が増加しているため、VOCガス等の有害ガスを吸着するガス吸着材が要望されている。前記ガス吸着材としては、例えば特許文献1に、VOCガス全般に対して吸着効果を有するガス吸着シートが提案されている。
【0003】
特許文献1に提案されたガス吸着シートは、2枚のシート材の間に活性炭粒子を挟持させ固定化させるとともに、前記シート材のうち少なくとも一方のシート材に吸着剤粒子を固定化させている。吸着剤粒子の固定化方法としては、1)バインダー樹脂溶液に吸着剤粒子を混合して一方のシート材にコーティングし、その上に他方のシート材を重ねる方法や、2)予め一方のシート材にホットメルト剤等をコーティングし、その上に吸着剤粒子を散布し、更にその上に、他方のシート材を重ねる方法等が例示されている。
【特許文献1】特開2000−246827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記1)の固定化方法では、吸着剤粒子がバインダー樹脂溶液に埋没してしまい、充分なガス吸着効果が得られなくなるおそれがあった。また、前記2)の固定化方法では、ホットメルト剤と吸着剤粒子との接触面積が少ないため、吸着剤粒子が脱落するおそれがあった。また、特許文献1に提案されたガス吸着シートは、通気性を高めるために、前記2枚のシート材のうち、少なくとも一方に多孔質シート材を使用しているが、前記2枚のシート材の間に活性炭粒子を挟持させる際、活性炭粒子が脱落しないように、活性炭粒子の粒子径を多孔質シート材の最大孔径より大きくする必要があった。そのため、活性炭粒子には、100μm〜1000μmの粒子径のものが使用されており、活性炭粒子の比表面積が小さいために充分なガス吸着効果が得られなくなることがあった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、繊維表面に固着されたガス吸着性フィラーの脱落を防止し、かつガス吸着性フィラーの比表面積の減少を抑制することができるガス吸着材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のガス吸着材は、繊維と、その表面のバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に固着されたガス吸着性フィラーとを含むフィラー固着繊維を有するガス吸着材であって、前記バインダー樹脂は、湿熱ゲル化樹脂であり、前記ガス吸着性フィラーは、前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のガス吸着材によれば、ガス吸着性フィラーが、繊維の表面に固着された湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されているため、ガス吸着性フィラーを表面に露出させた状態で固着することができる。これにより、繊維表面に固着されたガス吸着性フィラーの脱落を防止し、かつガス吸着性フィラーの比表面積の減少を抑制することができるため、従来のガス吸着材に比べて、ガスの吸着性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のガス吸着材において、湿熱ゲル化樹脂とは、水分存在下で加熱することによってゲル化し得る樹脂のことをいう。「ゲル化し得る樹脂」とは、50℃以上の温度でゲル化することによって膨潤し、この膨潤したゲル化物により、本発明のガス吸着材(繊維構造物)の構成繊維を固定することができる樹脂のことをいう。湿熱ゲル化樹脂の形態は、パウダー状、チップ状、繊維状等が挙げられる。特に、湿熱ゲル化樹脂は、繊維状であることが好ましい。繊維状の湿熱ゲル化樹脂(以下、「湿熱ゲル化繊維」という)としては、湿熱ゲル化樹脂を含む繊維か、又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分と、他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維(以下、「湿熱ゲル化複合繊維」という。)を用いる。これにより、他の繊維又は少なくとも他の熱可塑性合成繊維成分は、繊維の形態を保ち、かつ湿熱ゲル化樹脂がゲル化されてガス吸着性フィラーを固着させるバインダーとしての作用機能を発揮する。そして、ガス吸着性フィラーは、湿熱ゲル化樹脂繊維成分又は繊維の表面に接着された湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されている。好ましくは、ガス吸着性フィラーは、露出して固着されている。また、湿熱ゲル化樹脂繊維成分又は繊維の表面に接着された湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって、湿熱ゲル化繊維同士、及び/又は湿熱ゲル化繊維と他の繊維とは、接着されている。
【0009】
前記繊維構造物は、前記繊維及び前記バインダー樹脂を含むものである。ここでいう繊維構造物とは、繊維束、糸、繊維塊、不織布、織編物、ネット等の繊維により形成されたものをいう。特に、不織布は、加工性が高いため、様々な用途へ適用することができる。
【0010】
前記湿熱ゲル化樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂であることが好ましい。湿熱によってゲル化でき、他の繊維及び/又は他の熱可塑性合成繊維成分を変質させないからである。
【0011】
エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂とは、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を鹸化することによって得られる樹脂であり、その鹸化度は95%以上が好ましい。より好ましい鹸化度は、98%以上である。また、好ましいエチレン含有率は、20モル%以上である。好ましいエチレン含有率は、50モル%以下である。より好ましいエチレン含有率は、25モル%以上である。より好ましいエチレン含有率は、45モル%以下である。鹸化度が95%未満ではゲル加工の際、ロール等への粘着により繊維構造物の生産が難しくなる場合がある。また、エチレン含有率が20モル%未満の場合も同様に、ゲル加工の際、ロール等への粘着により繊維構造物の生産が難しくなる場合がある。一方、エチレン含有率が50モル%を超えると、湿熱ゲル化温度が高くなり、加工温度を融点近傍まで上げざるを得なくなり、その結果、繊維構造物の寸法安定性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0012】
前記湿熱ゲル化樹脂の好ましいゲル化温度は、50℃以上である。より好ましいゲル化温度は、80℃以上である。50℃未満でゲル化し得る樹脂を用いると、ゲル加工の際、ロール等への粘着が激しくなって繊維構造物の生産が難しくなるか、夏場や高温環境下での使用ができなくなる場合がある。なお、「ゲル加工」とは、湿熱ゲル化樹脂をゲル化させる加工のことをいう。
【0013】
前記繊維及び前記バインダー樹脂の好ましい組み合わせとしては、
(I)湿熱ゲル化樹脂繊維成分と他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維、
(II)前記複合繊維と他の繊維を混合したもの、
(III)前記複合繊維と湿熱ゲル化樹脂を混合したもの、及び
(IV)湿熱ゲル化樹脂と他の繊維を混合したもの
から選ばれる少なくとも一つが挙げられる(以下、「形態(I)〜(IV)」という。)。前記形態(I)は、「バインダー樹脂」を湿熱ゲル化樹脂繊維成分とし、「繊維」を他の熱可塑性合成繊維成分とした湿熱ゲル化複合繊維である。前記形態(II)は、「バインダー樹脂」を湿熱ゲル化複合繊維とし、「繊維」を他の繊維としこれを混合したものである。前記形態(III)は、「繊維」を湿熱ゲル化複合繊維とし、さらに「バインダー樹脂」を湿熱ゲル化樹脂としこれを混合したものである。前記形態(IV)は、「バインダー樹脂」を前記湿熱ゲル化複合繊維以外の形態を採る湿熱ゲル化樹脂(例えば、湿熱ゲル化樹脂単独の繊維、パウダー状、チップ状)とし、「繊維」を他の繊維としこれを混合したものである。
【0014】
前記形態(I)〜(III)に用いられる湿熱ゲル化複合繊維は、湿熱ゲル化樹脂繊維成分が露出しているか、または部分的に区分されている複合繊維であることが好ましい。その複合形状は、同心円芯鞘型、偏心芯鞘型、並列型、分割型、海島型等を指す。特に同心円芯鞘型はガス吸着性フィラーが繊維表面に固着しやすいので好ましい。また、その断面形状は、円形、中空、異型、楕円形、星形、偏平形等いずれであってもよいが、繊維製造の容易さから円形であることが好ましい。分割型複合繊維はあらかじめ高圧水流等を噴射して部分的に分割しておくのが好ましい。このようにすると、分割された湿熱ゲル化樹脂繊維成分は、湿熱処理によりゲル化し、ゲル化物を形成して他の繊維の表面に付着し、ガス吸着性フィラーを固着する。すなわち、バインダーとして機能する。
【0015】
前記湿熱ゲル化複合繊維に占める湿熱ゲル化樹脂繊維成分の割合は、10mass%以上90mass%以下の範囲内であることが好ましい。より好ましい湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量は、30mass%以上である。より好ましい湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量は、70mass%以下である。湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量が10mass%未満であると、ガス吸着性フィラーが固着しにくくなる傾向にある。湿熱ゲル化樹脂繊維成分の含有量が90mass%を超えると、複合繊維の繊維形成性が低下する傾向にある。
【0016】
前記湿熱ゲル化複合繊維における他の熱可塑性合成繊維成分は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等いかなるものであってもよいが、好ましくはポリオレフィンである。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン等が挙げられる。湿熱ゲル化樹脂繊維成分としてエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を使用した場合、溶融紡糸による複合繊維(コンジュゲート繊維)を形成しやすい。
【0017】
また、他の熱可塑性合成繊維成分として、湿熱ゲル化樹脂繊維成分をゲル化させる温度よりも高い融点を有する熱可塑性合成繊維成分を用いることが好ましい。他の熱可塑性合成繊維成分がゲル化物を形成させる温度よりも低い融点を有する熱可塑性合成繊維成分であると、他の熱可塑性合成繊維成分自体が溶融して硬くなる傾向にあり、例えば不織布にしたときに収縮を伴って不均一になることがある。
【0018】
前記湿熱ゲル化複合繊維が繊維構造物に占める割合は、ガス吸着性フィラーを固着することのできる量であれば特に限定されないが、ゲル化物によって繊維を固着する及び/又はガス吸着性フィラーを有効に固着するのに要する複合繊維の割合は、10mass%以上であることが好ましい。より好ましい複合繊維の割合は、30mass%以上である。さらに好ましい複合繊維の割合は、50mass%以上である。この場合の「複合繊維の割合」とは、例えば、繊維構造物において、複合繊維を含むウェブが両表面に存在し、内部に他の繊維が存在している場合、複合繊維を含むウェブにおける含有量のことを指す。
【0019】
前記形態(III)では、前記湿熱ゲル化複合繊維に、さらに湿熱ゲル化樹脂を含有させて複合繊維の表面にゲル化物を形成させることも可能である。これにより、ガス吸着性フィラーの固着効果をより向上させることができる。
【0020】
前記形態(II)または前記形態(IV)に用いられる他の繊維としては、レーヨン等の化学繊維、コットン、麻、ウール等の天然繊維等、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等の合成樹脂を単独成分又は複数成分とする合成繊維等、任意なものを選択して使用できる。
【0021】
前記形態(IV)において、湿熱ゲル化樹脂は、繊維構造物に対して1mass%以上90mass%以下の範囲内で含有させるのが好ましい。より好ましい含有量は、3mass%以上である。より好ましい含有量は、70mass%以下である。湿熱ゲル化樹脂の含有量が1mass%未満であると、ゲル化物によって他の繊維を固着することが困難となるか、あるいはガス吸着性フィラーを固着しにくくなる傾向にある。湿熱ゲル化樹脂の含有量が90mass%を超えると、繊維形状が消失してフィルム状になるか、あるいはガス吸着性フィラーがゲル化物に埋没することがある。
【0022】
前記ガス吸着性フィラーは、空気中の気体物質を吸着する機能を有するものであれば特に限定されないが、活性炭粒子、ゼオライト、シリカゲル、活性白土、層状リン酸塩等の多孔質粒子、これらの多孔質粒子に酸性物質やホルムアルデヒド吸着剤等のガス吸着性化合物を含ませた多孔質粒子等が好ましい。多孔質粒子の中では、活性炭粒子が特に好ましい。
【0023】
活性炭の種類は特に限定されないが、例えば、原材料としてヤシガラや木質などを用いたものが挙げられ、その賦活方法は、水蒸気による方法や薬品による方法などが挙げられる。
【0024】
本発明のガス吸着材は、ガス吸着性化合物を更に含んでいてもよい。前記ガス吸着性化合物としては、リン酸、スルファニル酸、アクリル酸、ポリフェノールなどの酸性物質、ヒドラジド化合物、あるいは芳香族ポリアミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミンなどのポリアミン化合物などが挙げられる。尚、ここで言うガス吸着性化合物とは、液状のものをいい、例えば水などの溶媒に溶解あるいは分散し易いものをいう。ガス吸着性化合物として液状のものを使用することにより、前記ガス吸着性化合物が繊維構造物中に均一に分散されるので都合がよい。ガス吸着材が酸性物質を含んでいるとアンモニアガスなどの吸着に優れた効果を発揮し、ヒドラジド化合物、ポリアミン化合物などを含んでいるとホルムアルデヒドなどの吸着に優れた性能を発揮する。
【0025】
前記ガス吸着性フィラーは、例えば粒子状や短繊維状のものをいう。前記ガス吸着性フィラーが粒子状の場合、前記ガス吸着性フィラーの平均粒子径は、0.01〜1000μmの範囲であることが好ましい。より好ましい平均粒子径は、0.1μm以上であり、さらにより好ましい平均粒子径は、1μm以上である。より好ましい平均粒子径は、100μm以下であり、更により好ましい平均粒子径は、80μm以下である。平均粒子径が0.01μm未満では、ガス吸着性フィラーがゲル化物に埋没することがある。一方、平均粒子径が1000μmを超える場合は、ガス吸着性フィラーの比表面積が小さくなり、ガス吸着性フィラーの効果(例えばガス吸着効果)が充分に得られなくなる場合がある。本発明のガス吸着性フィラー固着繊維構造物(ガス吸着材)は、ガス吸着性フィラーの粒子径が小さくても、繊維表面に露出した状態で固着するので、少量のガス吸着性フィラーで優れた効果を発揮する。特に、ガス吸着性フィラーの平均粒子径が100μm以下の場合は、比表面積が大きくなるので、少量のガス吸着性フィラーでも優れた効果を発揮する。
【0026】
前記ガス吸着性フィラーが短繊維状の場合、その繊維長または繊維断面長のうち大きい方の長さ(以下、「短繊維長さ」という)は、0.1〜1000μmの範囲が好ましく、10〜500μmの範囲がより好ましい。短繊維長さが0.1μm未満では、ガス吸着性フィラーがゲル化物に埋没することがある。1000μmを超える場合は、繊維長が長いため、分散液に均一に分散せず、また、ガス吸着性フィラーの比表面積が小さくなり、ガス吸着性フィラーの効果が充分に得られなくなる場合がある。
【0027】
本発明のガス吸着性フィラーを用いたガス吸着材は、前記ガス吸着性フィラー固着繊維を複数束ねて形成した繊維束をガス吸着部とするガス吸着モジュールとしてもよい。また前記ガス吸着性フィラー固着繊維の集合物を円筒状に巻きつけたものや、プリーツ状に成形したものを、ガス吸着フィルターとして用いることもできる。
【0028】
前記繊維構造物は、ガス吸着性フィラーの機能を効率良く発揮させるために、前記ガス吸着性フィラーの固着量が繊維構造物1m2あたり2g以上であることが好ましく、10g以上であることがより好ましく、20g以上であることがとくに好ましい。また、ガス吸着性フィラーの固着量の上限は、繊維構造物の質量に対して5倍程度が好ましい。
【0029】
次に、上記ガス吸着性フィラー固着繊維及び上記繊維構造物(ガス吸着材)の製造方法について説明する。以下の説明における湿熱処理は、湿熱雰囲気で施される。ここでいう「湿熱雰囲気」とは、水分を含み、かつ加熱された雰囲気のことをいう。前記湿熱処理とは、バインダー樹脂を付与した繊維、湿熱ゲル化繊維成分を含む繊維、又はこれらの繊維を含む処理前の繊維構造物(以下、「被処理繊維構造物」ともいう)に、例えばガス吸着性フィラーを含むガス吸着性フィラー分散溶液(以下、フィラー分散溶液という)を付与した後に加熱する処理や、前記ガス吸着性フィラー分散溶液を付与しながら加熱する処理のことをいう。加熱の方法は、加熱雰囲気中へ晒す方法、加熱空気中を貫通させる方法、及び加熱体へ接触させる方法等が挙げられる。また、別の方法としては、被処理繊維構造物上にガス吸着性フィラーを散布した後、水分を付与し、加熱処理する方法や、予め水分を付与した被処理繊維構造物上にガス吸着性フィラーを散布した後、加熱処理する方法もある。前記散布の方法については特に限定されず、例えば篩による方法や噴射による方法や、電気的に行う方法などがある。
【0030】
前記被処理繊維構造物の製法は、特に限定されるものではないが、ニードルパンチ法、水流交絡法、エアレイド法、スパンボンド法、メルトブロー法、湿式法などの方法から選ばれる少なくとも1種類の方法を使用するのが好ましい。
【0031】
前記被処理繊維構造物には、親水処理を施してもよい。親水処理を施すと、被処理繊維構造物が疎水性繊維を含む場合に、被処理繊維構造物に略均一に水分を付与することができる。その結果、複合繊維が略均一に湿熱ゲル化され、ガス吸着性フィラーが固着しやすくなるため好ましい。親水処理としては、界面活性剤処理、コロナ放電法、グロー放電法、プラズマ処理法、電子線照射法、紫外線照射法、γ線照射法、フォトン法、フレーム法、フッ素処理法、グラフト処理法、スルホン化処理法等が挙げられる。
【0032】
前記被処理繊維構造物の好ましい目付の範囲は、10〜1000g/m2であり、より好ましい目付の範囲は、30〜200g/m2であり、更に好ましい目付の範囲は、40〜80g/m2である。目付が10g/m2よりも低いと、湿熱処理後に固着するガス吸着性フィラーの量が少なくなり、機能を充分に発揮できない場合がある。目付が1000g/m2よりも高いと、ガス吸着性フィラーを付与する際に、ガス吸着性フィラーが被処理繊維構造物の内部に入り込みにくくなる恐れがある。
【0033】
前記被処理繊維構造物は、その片面あるいは両面に、他の繊維構造物が積層されていても良い。他の繊維構造物を積層する場合、例えば、ガス吸着性フィラーを付与する前に積層しても良いし、ガス吸着性フィラーを付与した後、湿熱処理前に積層しても良いし、湿熱処理によりガス吸着性フィラーを固着した後に積層しても良い。前記被処理繊維構造物の片面に積層した場合、他の繊維構造物の機能を付与することができ、例えば成型性や接着性を向上させることができる。例えば本発明のガス吸着材の強度を上げる場合は、補強材となるスパンボンドの両表面に前記被処理繊維構造物を配置すればよいし、本発明のガス吸着材に親水性を持たせたい場合は、親水性の繊維層の両表面に前記被処理繊維構造物を配置すればよい。また、前記被処理繊維構造物の両面に他の繊維構造物を積層した場合、例えばガス吸着性フィラーの固着が不十分であったときでも、ガス吸着性フィラーの脱落を抑制したり、用途によりガス吸着性フィラーの色を隠蔽する効果を与えたりすることができる。また、ガス吸着性フィラーの脱落を抑制することで製造工程の清掃作業の効率化が図れる場合もある。さらに、他の繊維構造物の機能を付与することができ、例えば成型性や接着性を向上させることができる。例えば、ガス吸着材フィラーの脱落やガス吸着材フィラーの色が懸念される用途においては、前記被処理繊維構造物の両面に熱接着性繊維を含んだ不織布を熱ロール加工することが好ましい。
【0034】
ガス吸着性フィラーを付与した後の繊維構造物についても、前述と同じ理由により、その片面あるいは両面に、他の繊維構造物を積層し、一体化することができる。より好ましい形態は、ガス吸着材フィラーを付与した後の繊維構造物の両面に、熱接着性繊維を含んだ繊維構造物を熱処理により一体化したものである。
【0035】
上述した他の繊維構造物としては、例えば、スパンボンドや水流交絡不織布、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布などが挙げられる。他の繊維構造物の目付の範囲は、例えば脱落を防ぐ効果や、ガス吸着性フィラーの色を隠蔽する効果等を有していれば特に限定されるものではないが、好ましい目付の範囲は15〜300g/m2であり、より好ましい目付の範囲は20〜100g/m2である。
【0036】
前記フィラー分散溶液を付与した後に加熱する場合は、湿熱処理における繊維または被処理繊維構造物に付与する水分の割合が(以下、「水分率」という)、20mass%〜1500mass%であることが好ましい。より好ましい水分率は、30mass%以上である。より好ましい水分率は、1000mass%以下である。さらにより好ましい水分率は、40mass%以上である。さらにより好ましい水分率は、900mass%以下である。水分率が20mass%未満であると、湿熱ゲル化が充分に起こらないことがある。一方、水分率が1500mass%を超えると、湿熱処理が被処理繊維構造物の表面と内部との間で均一に行われず、湿熱ゲル化の度合いが不均一となる傾向にある。なお、水分の付与方法としては、スプレー法、水槽への浸漬法等公知の方法で行うことができる。特に、ガス吸着性フィラー分散溶液を被処理繊維構造物に含浸させる方法は、被処理繊維構造物内にガス吸着性フィラーを多く取り込みやすいため、好ましい。水分が付与された繊維又は被処理繊維構造物は、絞りロール等で圧搾する等の方法で所定の水分率に調整することができる。
【0037】
前記フィラー分散溶液を付与した後に加熱する場合は、湿熱処理における繊維または被処理繊維構造物に付与するフィラー分散溶液の割合(以下、「ピックアップ率」という)が、20mass%〜1500mass%であることが好ましい。より好ましいピックアップ率は、30mass%以上である。より好ましいピックアップ率は、1000mass%以下である。さらにより好ましいピックアップ率は、40mass%以上である。さらにより好ましいピックアップ率は、900mass%以下である。ピックアップ率が20mass%未満であると、湿熱ゲル化が充分に起こらないことがある。一方、ピックアップ率が1500mass%を超えると、湿熱処理が被処理繊維構造物の表面と内部との間で均一に行われず、湿熱ゲル化の度合いが不均一となる傾向にある。なお、水分の付与方法としては、スプレー、水槽への浸漬等公知の方法で行うことができる。
【0038】
前記フィラー分散溶液中のガス吸着性フィラーの濃度は、使用する被処理繊維構造物の目付や固着量、あるいは、フィラー分散溶液の温度や粘度などにより、適宜設定すればよいが、好ましい範囲は0.1〜75mass%であり、より好ましい範囲は、1〜50mass%である。ガス吸着性フィラーの濃度が0.1mass%よりも低いと、ガス吸着性フィラーの効果が充分に得られなくなる場合がある。ガス吸着性フィラーの濃度が75mass%よりも高いと、加工性が悪くなるため、ガス吸着性フィラーが均一に付着されない場合がある。
【0039】
前記ガス吸着性フィラーの粒子径は、特に限定されないが、本発明のガス吸着性フィラー固着繊維構造物は、ガス吸着性フィラーの粒子径が小さくても、繊維表面に露出した状態で固着するので、少量のガス吸着性フィラーで優れた効果を発揮する。
【0040】
前記フィラー分散溶液は、ガス吸着性化合物を更に含んでいることが好ましい。ガス吸着性化合物の濃度については、特に限定されるものではなく、被処理繊維構造物の目付や固着量により適宜設定すればよいが、好ましい範囲は、0.1〜10mass%である。ガス吸着性化合物の濃度が0.1mass%よりも低いと、ガス吸着性フィラーの効果が充分に得られなくなる場合がある。ガス吸着性化合物の濃度が10mass%よりも高いと、加工性が悪くなる場合がある。また、ガス吸着性化合物の濃度が10mass%よりも高い場合は、濃度の増加に見合う効果が得られなくなる場合もある。
【0041】
前記湿熱処理における湿熱処理温度は、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分(以下、両者を併せて「バインダー樹脂」ともいう。)のゲル化温度以上融点−20℃以下であることが好ましい。より好ましい湿熱処理温度は、50℃以上である。さらにより好ましい湿熱処理温度は、80℃以上である。一方、より好ましい湿熱処理温度は、バインダー樹脂の融点−30℃以下である。さらにより好ましい湿熱処理温度は、バインダー樹脂の融点−40℃以下である。湿熱処理温度がバインダー樹脂のゲル化温度未満であると、ガス吸着性フィラーを有効に固着することができない場合がある。湿熱処理温度がバインダー樹脂の融点−20℃を超えると、バインダー樹脂の融点に近くなるため、ガス吸着性フィラー固着繊維構造物にしたときに収縮を引き起こすことがある。
【0042】
前記湿熱処理を施した繊維構造物は、1)そのまま乾燥処理を行ってもよいし、2)一旦水洗を行った後、乾燥処理を行っても良いし、3)一旦乾燥させた後、水洗を行いその後で乾燥処理を行っても良い。水洗を行う場合は、上記3)の方法が、ガス吸着性フィラーの固着量が多くなるので都合がよい。
【0043】
前記乾燥処理温度は、ガス吸着性フィラー固着繊維構造物が乾燥する温度であれば、特に限定されない。また、この乾燥処理時においては、場合によりガス吸着性フィラー固着繊維構造物を、幅方向(機台に垂直な方向)に拡幅しながら乾燥処理を行っても良い。幅方向に拡幅することにより、目付の調整や、長さ方向と幅方向の寸法安定性が図れる。
【0044】
湿熱処理の方法としては例えば以下の方法があり、それぞれの製造方法について説明する。
(1)被処理繊維構造物に、フィラー分散溶液を付与した後、スチーム処理する方法(以下、スチーム処理法という)
(2)被処理繊維構造物に、フィラー分散溶液を付与した後、加熱体に接触させる方法(以下、加熱体接触法という)
(3)被処理繊維構造物を、加熱したフィラー分散溶液に接触させる方法(以下、加熱液接触法という)
前記スチーム処理法は、得られるガス吸着性フィラー固着繊維構造物に嵩高性及び/又は柔軟性を与える場合に適しており、前記繊維及び前記湿熱ゲル化樹脂を含むウェブからなる被処理繊維構造物に、フィラー分散溶液を付与した後に、所定の水分率に調整後、スチーム処理することによって、湿熱ゲル化樹脂がゲル化されたゲル化物を形成してガス吸着性フィラーを固着する。スチーム処理の方法としては、例えば、所定の水分率に調整した被処理繊維構造物の上及び/又は下からスチームを吹き付ける方法、スチームを充満させたチャンバー内で被処理繊維構造物にスチームを接触させる方法(パッドスチーマー法)、オートクレーブ等を用いて被処理繊維構造物をスチームに晒す方法などが挙げられる。かかる方法によれば、ゲル加工時において必要以上に被処理繊維構造物に圧力が加わらない。その結果、被処理繊維構造物の繊維形態を維持しながら、ガス吸着性フィラーを被処理繊維構造物の繊維表面に露出させた状態で固着することができる。更に、被処理繊維構造物が繊維間の交絡部において膜状に拡がったゲル化物(以下、膜状ゲル化物という)で覆われるため、ガス吸着性フィラーを固着する有効面積が増大し、ガス吸着性能をより向上させることが出来る。パッドスチーマー法は、蒸気吹き出し口より吐出された蒸気が直接被処理繊維構造物に接触することなく、均一な蒸気雰囲気中でスチーム処理することによって、湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化され、均一なゲル化物を形成することができるので、特に好ましい。また、連続運転をする上でも都合がよい。更に、パッドスチーマー法によれば、温度のコントロールが容易なので、ガス吸着性フィラーの機能を維持したまま、目的に応じて繊維構造物の強度や通気度などをコントロールすることができ、様々な形の膜状に拡がったゲル化物も形成できるので、特に好ましい。例えば、繊維形状を維持したゲル化樹脂上のガス吸着性フィラーの固着が不充分な場合は、パッドスチーマーの温度を上げることにより、ゲル化樹脂の流動性が向上し、ガス吸着性フィラーを強固に固着させることができる。また、パッドスチーマー法は、ゲル加工と同時に、乾燥工程の予備処理的な役割も果たすため、乾燥工程の効率化も図れる。
【0045】
前記フィラー分散溶液の温度は、湿熱ゲル化樹脂がゲル化しない温度であっても、ゲル化を開始する温度であっても良く、ガス吸着性フィラーやガス吸着性化合物の種類、粒子径、短繊維長さ、あるいはフィラー分散溶液の濃度や粘度などにより、適宜設定すればよい。例えば被処理繊維構造物の水分率が多い場合には、湿熱処理時に湿熱ゲル化樹脂がゲル化し易いように、被処理繊維構造物がゲル化しない温度範囲で加熱しても良い。なお、湿熱ゲル化樹脂がゲル化を開始する温度以上であれば、後述する加熱液接触法と組み合わせた方法となり、ガス吸着性フィラーをより強固に固着させる場合に有効である。
【0046】
前記スチーム処理温度は、被処理繊維構造物付近の温度が、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分のゲル化温度以上融点−20℃以下であれば、特に限定されるものではないが、好ましい温度範囲は、80〜120℃であり、より好ましい温度範囲は90〜110℃である。
【0047】
スチーム処理により、ガス吸着性フィラーは、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面に露出した状態で固着されるので、少量のガス吸着性フィラーで優れた効果を発揮する。また、フィラー分散溶液がガス吸着性化合物を更に含んでいる場合は、前記ガス吸着性化合物がガス吸着性フィラーの表面だけではなく、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面にも固着されるので、ガス吸着性化合物だけをガス吸着成分として使用した場合に比べて、更に優れた効果を発揮する。そのため、例えば従来のガス吸着材において、特に除去しにくかったホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のガスに対しても格段の効果を発揮する。
【0048】
前記乾燥処理後のガス吸着性フィラー固着繊維構造物は、その乾燥処理後の出口部において、一対のプレスロールに通してプレス加工を行っても良い。乾燥処理後の出口部においてプレス加工を行うことで、ガス吸着性フィラーが柔軟性を維持したまま、強固に固着される。
【0049】
次に、前記加熱体接触法について説明する。前記加熱体接触法は、ガス吸着性フィラーをより強固に固着させる場合、前記繊維及び前記湿熱ゲル化樹脂を含むウェブからなる被処理繊維構造物にフィラー分散溶液を付与した後に、所定の水分率に調整し、これを加熱体に接触させることによって、湿熱ゲル化樹脂がゲル化されたゲル化物を形成してガス吸着性フィラーを固着する。被処理繊維構造物を加熱体に接触させる方法としては、例えば熱ロールに接触させる方法、熱プレス板に接触させる方法などが挙げられる。かかる方法によれば、瞬時に湿熱ゲル化樹脂繊維成分を湿熱ゲル化することができると同時にゲル化物を押し拡げることができるので、広い面積にわたりガス吸着性フィラーを固着することができる。また、かかる方法によれば、湿熱ゲル化したときに、ガス吸着性フィラーがゲル化物に押し込まれて、繊維表面にガス吸着性フィラーを更に強固に固着させることができる。
【0050】
前記加熱体が熱プレス板のような面状のものである場合、被処理繊維構造物を接触させる際の面圧が0.01〜3MPaであることが好ましい。より好ましい面圧の下限は、0.02MPaである。より好ましい面圧の上限は、2.5MPaである。面厚が0.01Mpa未満の場合、ガス吸着性フィラーの固着が充分でない場合があり、面厚が3Mpaを超えると、風合いが堅くなる場合がある。
【0051】
また、前記加熱体接触法が熱ロールによって圧縮成形処理する方法である場合、熱ロールの線圧は、10〜400N/cmであることが好ましい。より好ましい熱ロールの線圧の下限は、50N/cmである。より好ましい熱ロールの線圧の上限は、200N/cmである。線圧が10N/cm未満の場合、ガス吸着性フィラーの固着が充分でない場合があり、線圧が400N/cmを超えると、風合いが堅くなる場合がある。
【0052】
前記加熱体の設定温度(例えば湿熱処理機の設定温度)は、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分のゲル化温度以上融点−20℃以下であれば、特に限定されるものではないが、好ましい温度範囲は、50〜160℃であり、より好ましい温度範囲は80〜150℃である。なお、水分を含んだ被処理繊維構造物をゲル加工するために前記設定温度を100℃以上にすると、まず被処理繊維構造物内の水分が蒸発する。そのとき、湿熱ゲル化樹脂のゲル化が進行するので、ゲル加工の実温度は前記設定温度よりも低くなる傾向にある。従って、他の繊維の融点が前記設定温度よりも低い場合でも、実質的に溶融しないか、あるいは実質的に収縮しないことがあり、ゲル加工温度は、他の繊維が実質的に収縮しない温度で処理することが好ましい。
【0053】
加熱体を用いて処理することにより、ガス吸着性フィラーは、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面に露出した状態で、強固に固着されるので、ガス吸着性フィラーを少量使用する場合は、確実に固着でき、ガス吸着性フィラーを多量に使用する場合でも、その大半のガス吸着性フィラーを強固に固着できるので、ガス吸着性フィラーの脱落量が少なくて済み、その効果も優れている。また、フィラー分散溶液がガス吸着性化合物を更に含んでいる場合は、前記ガス吸着性化合物がガス吸着性フィラーの表面だけでなく、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面にも固着されるので、ガス吸着性化合物だけをガス吸着成分として使用した場合に比べて、更に優れた効果を発揮する。そのため、例えば従来のガス吸着材において、特に除去しにくかったホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のガスに対しても格段の効果を発揮する。
【0054】
次に、前記加熱液接触法について説明する。前記加熱液接触法は、被処理繊維構造物を加熱したフィラー分散溶液に接触させることにより、湿熱ゲル化樹脂がゲル化されたゲル化物を形成して、ガス吸着性フィラーを固着する。被処理繊維構造物を加熱液に接触させる方法としては、例えば、加熱したフィラー分散溶液中に浸漬する方法、加熱したフィラー分散溶液を被処理繊維構造物に噴霧する方法などが挙げられる。かかる方法によれば、ゲル化工時に被処理繊維構造物に対して、必要以上に面圧が加わらないため、ゲル化した湿熱ゲル化繊維の流動性が少なくなり、被処理繊維構造物の繊維形態を維持しつつ繊維同士の交絡部においてゲル化物が膜状に拡げられることなく接着し、かつガス吸着性フィラーを繊維表面に露出させた状態で固着することができる上、得られるガス吸着性フィラー固着繊維構造物に嵩高性及び/又は柔軟性を与えることができる。また、湿熱ゲル化樹脂がゲル化する際は、水分の付与と同時に湿熱ゲル化繊維のゲル化が進行するので、前記フィラー分散溶液中のガス吸着性フィラーの濃度と、前記フィラー分散溶液の温度を調整して、ガス吸着性フィラーの固着量を調整すればよい。具体的には、ガス吸着性フィラーを含む熱水中(85℃以上)に繊維又は被処理繊維構造物を含浸することにより、ガス吸着性フィラーを繊維表面に固着することができる。特に加熱したフィラー分散溶液中に浸漬する方法は、湿熱ゲル化繊維を均一にゲル化することができ、好ましい。
【0055】
前記加熱液接触法のゲル加工温度は、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維成分のゲル化温度以上融点−20℃以下であれば、特に限定されるものではないが、好ましい温度範囲は、85〜120℃であり、より好ましい温度範囲は90〜100℃である。温度が85℃よりも低いと、フィラーの固着が充分になされない場合があり、120℃よりも高いと、風合いが堅くなり、フィルム状になる場合がある。
【0056】
前記加熱液接触法におけるフィラー分散溶液のフィラー濃度は、使用する被処理繊維構造物の目付や固着量、フィラー分散溶液の温度や粘度により適宜設定すればよいが、好ましい範囲は0.1〜75mass%であり、より好ましい範囲は、1〜50mass%である。
【0057】
前記加熱液接触法では、加熱したフィラー分散溶液中に被処理繊維構造物を浸漬することにより、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維のゲル化と、ガス吸着性フィラーの固着が同時に液中で行われる。これにより、ガス吸着性フィラーを付与した後にゲル化する場合に比べ、ガス吸着性フィラーをより均一に、繊維表面に露出した状態で固着することができるため、少量のガス吸着性フィラーで優れた効果を発揮する。また、フィラー分散溶液がガス吸着性化合物を更に含んでいる場合は、ガス吸着性化合物がガス吸着性フィラーの表面だけではなく、湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化樹脂繊維表面にも固着されるので、ガス吸着性化合物だけをガス吸着成分として使用した場合に比べて、更に優れた効果を発揮する。そのため、例えば従来のガス吸着材において、特に除去しにくかったホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のガスに対しても格段の効果を発揮する。
【0058】
なお、前記被処理繊維構造物の湿熱処理方法は、前述したようにスチーム処理法、加熱体接触法、加熱液接触法等があるが、同じ処理を繰り返し行っても良いし、他の処理方法と組み合わせて行っても良い。
【0059】
次に、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0060】
図1A〜Cは、本発明の一実施形態に係るガス吸着材を構成するガス吸着性フィラー固着繊維の断面図である。図1Aは、ポリプロピレンを芯成分2とし、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を鞘成分1とした複合繊維5であって、鞘成分1の中にガス吸着性フィラー3を固着させた例である。この場合、鞘成分1はバインダー樹脂として機能する。図1Bは、ポリプロピレンを芯成分2とし、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を鞘成分1とした複合繊維6であって、複合繊維6の外側にエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂をバインダー4として付着させ、このバインダー4中にガス吸着性フィラー3を混合させた例である。図1Cは、ポリプロピレン8とエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂7を多分割に配置した複合繊維9とし、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂7の周辺部内にガス吸着性フィラー3を固着させた例である。この場合、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂7はバインダー樹脂として機能する。
【0061】
図2は、本発明の一実施形態に係る3層構造のガス吸着材(繊維構造物)の断面図で、外側にポリエステル繊維とPP/PE芯鞘型複合繊維とを混綿した繊維層11,11を配置し、内側にガス吸着性フィラー固着繊維層12を配置させた例である。
【0062】
図3は、本発明の一実施形態に係るガス吸着材の製造方法(加熱体接触法)の一例工程図である。繊維31(又は被処理繊維構造物31)を、槽32内のガス吸着性フィラーを含むガス吸着性フィラー分散溶液33(又はガス吸着性フィラーとエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を含むガス吸着性フィラー分散溶液33)に含浸し、絞りロール34で絞り、スチーマー35とサクション36の間で湿熱処理し、そのまま巻き取るか、又は被処理繊維構造物を湿熱処理した場合は、一対の加熱ロール37,37にかけたパターニング用キャンバスロール38,38により圧縮成形し、ガス吸着性フィラー固着繊維構造物の表面に所定のパターン模様を付与し、その後、巻き取り機39に巻き取る。スチーマー35とサクション36に代えて、上下の熱板を用いて例えば温度150℃、5分間の加圧処理を行ってもよい。他の実施形態としては、スチーマー35なしに一対の加熱ロールのみで圧縮成形する方法、スチーマー35なしに一対の加熱ロール37,37にかけたパターニング用キャンバスロール38,38のみで圧縮成形する方法もある。
【0063】
図4は、本発明の一実施形態に係るガス吸着材の製造方法(スチーム処理法)の一例工程図である。繊維31(又は被処理繊維構造物31)を、槽32内のガス吸着性フィラーを含むフィラー分散溶液33(又はガス吸着性フィラーとガス吸着性化合物とを含むフィラー分散溶液33)に含浸し、絞りロール34で絞り、下から蒸気が吹き出してチャンバー内に蒸気が均一に充満しているパッドスチーマー35でスチーム処理し、必要により乾燥、水洗、脱水処理(図示せず)したものを、乾燥機41で乾燥させて巻き取り機39で巻き取る。なお、パッドスチーマー35でスチーム処理する際、繊維31(又は被処理繊維構造物31)には、吹き出した蒸気は直接当たらない。
【0064】
図5は、本発明の一実施形態に係るガス吸着材の製造方法(加熱液接触法)の一例工程図である。繊維31(又は被処理繊維構造物31)を、槽32内のガス吸着性フィラーを含む加熱されたガス吸着性フィラー分散溶液33に含浸し、乾燥機41で乾燥させて巻き取り機39で巻き取る。なお、ガス吸着性フィラー分散溶液33の加熱は、例えばヒーター(図示せず)等の加熱手段により行えばよい。
【0065】
図6〜8に上記加熱体接触法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す。このうち、図6は不織布を示す走査電子顕微鏡平面写真(倍率100)、図7は同断面写真(倍率100)、図8は同不織布表面の繊維表面拡大写真(倍率1000)である。
【0066】
図9〜11に上記スチーム処理法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す。このうち、図9は不織布を示す走査電子顕微鏡平面写真(倍率200)、図10は同断面写真(倍率200)、図11は同不織布表面の繊維表面拡大写真(倍率2000)である。
【0067】
図12,13に上記加熱液接触法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す。このうち、図12は不織布を示す走査電子顕微鏡平面写真(倍率200)、図13は同断面写真(倍率200)である。
【実施例】
【0068】
[実施例1〜4]
ガス吸着材として、以下のものを準備した。
【0069】
(不織布原反の作製)
鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH、エチレン含有量38モル%、融点176℃)であり、芯成分がポリプロピレン(PP、融点161℃)であり、EVOH:PPが50:50の割合(容積比)である芯鞘型複合繊維(繊度2.8dtex、繊維長51mm)を準備した。
【0070】
前記芯鞘型複合繊維をセミランダムカード機で開繊し、表1に示す目付を有するカードウェブを作製した。次いで、前記カードウェブを90メッシュの平織り支持体に載置し、前記カードウェブの幅方向に一列にオリフィス(径:0.12mm、ピッチ:0.6mm)が配置されたノズルから前記カードウェブに向けて水流を水圧3MPaで噴射した後、更に水圧4MPaで噴射した。続いて、前記カードウェブを裏返して、前記ノズルから水圧4MPaで水流を噴射して、実施例1〜4に使用される水流交絡不織布原反を作製した。
【0071】
(ガス吸着性フィラーの準備)
ガス吸着性フィラーとしては、活性炭粒子:「クラレコール PL−D」(クラレケミカル製、ヤシガラ炭、平均粒子径40〜50μm)を使用した。
【0072】
(ガス吸着性フィラー固着繊維を含有する不織布の作製)
前記不織布原反を、10mass%の前記活性炭粒子を含む水分散液(20℃)に浸漬し、マングルロールの絞り圧力で表1に示す数値になるようにピックアップ率を調整した。次いで、水分散液を含浸させた前記不織布原反を、線径:0.3mm、メッシュ数:縦30本/inch×横25本/inchの2枚の平織りのプラスチックネット(縦40cm×横40cm)で挟持して、150℃に加熱したホットプレート上に載置し、更に、上側の前記プラスチックネットをアルミニウムシート(1g/cm2)で覆って15分間湿熱処理をした。得られた不織布を水洗し、熱風ドライヤー(100℃)で乾燥して、本発明の実施例である実施例1〜4の不織布(ガス吸着材)を得た。
【0073】
[実施例5]
実施例1に使用される水流交絡不織布原反と同じ不織布原反を、5mass%の前記活性炭粒子を含む水分散液(95℃)に30秒間浸漬した後、引き上げた。そして、前記不織布原反の温度が50℃になるまで前記不織布原反を釣支した。その後、前記不織布原反を水洗し、熱風ドライヤー(100℃)で乾燥して、本発明の実施例である実施例5の不織布(ガス吸着材)を得た。
【0074】
[比較例1]
自己架橋型アクリル酸エステルエマルジョン(日本カーバイド工業製、商品名「ニカゾールFX−555A」)を15mass%と、前記活性炭粒子を10mass%含有した配合液を準備した。次に、前記配合液に前述した実施例1に使用される水流交絡不織布原反と同じ不織布原反を浸漬し、マングルロールで絞り、熱風乾燥機を用いて温度140℃、処理時間15分で乾燥させるとともに硬化させ、活性炭粒子の固着量が38g/m2のケミカルボンド不織布(比較例1)を得た。
【0075】
[比較例2]
比較例2として、表面に消臭剤が固着された2枚のスパンボンド不織布間に、活性炭粒子がホットメルト剤で固着されたVOCガス吸着シート(旭化成せんい製、商品名「セミアV」、目付134g/m2、活性炭粒子の固着量約40g/m2)を用意した。
【0076】
表1に、実施例1〜5及び比較例1,2の不織布(ガス吸着材)について、不織布原反の目付、活性炭粒子の固着量、活性炭粒子の固着率及び不織布(ガス吸着材)の目付を示した。
【0077】
【表1】
【0078】
[実施例6〜9]
ガス吸着材として以下のものを準備した。
【0079】
(ガス吸着性化合物の準備)
ガス吸着性化合物としては、ポリアリルアミン10mass%水溶液を使用した。
【0080】
(ガス吸着性フィラー固着繊維を含有する不織布の作製)
表2に示す目付を有するカードウェブを用いたこと以外は実施例1に使用される水流交絡不織布原反と同じ方法で作製した不織布原反を、16mass%の前記活性炭粒子を含む水分散液(20℃)に浸漬し、マングルロールの絞り圧力でピックアップ率を調整して、前記活性炭粒子の固着量を表2に示す数値となるように調整した。次いで、不織布原反付近の温度が100℃になるように調整したスチームを充満させたパッドスチーマー内で湿熱処理を行った。滞留時間は20秒であった。次に、熱風循環式の乾燥機内に湿熱処理後の不織布を通して乾燥させ、更に水洗槽で水洗を行った後、温度140℃に調整したテンター方式の乾燥機内で乾燥させ、本発明の実施例である実施例6の不織布(ガス吸着材)を得た。
【0081】
表2に示す目付を有するカードウェブを用いたこと以外は実施例1に使用される水流交絡不織布原反と同じ方法で作製した不織布原反を、16mass%の前記活性炭粒子と1mass%になるように調整した前記ガス吸着性化合物を含む水分散液(20℃)に浸漬し、ピックアップ率を調整したこと以外は、実施例6と同様の方法により実施例7の不織布(ガス吸着材)を得た。
【0082】
テンター方式の乾燥機内で、拡幅しながら乾燥させたこと以外は、実施例7と同様の方法により実施例8の不織布(ガス吸着材)を得た。なお、使用した不織布原反の目付は、46g/m2であった。
【0083】
繊度が1.45dtexで繊維長が38mmのポリエステル繊維(東レ株式会社製、商品名「403」)70mass%と、繊度が2.2dtexで繊維長が51mmのPP/PE芯鞘型複合繊維(大和紡績株式会社製、商品名「NBF(H)」)30mass%を使用して、30g/m2の水流交絡不織布を作製した。続いて、実施例8の不織布(ガス吸着材)の上下に前記水流交絡不織布を載置し、135℃の熱処理温度のヒートエンボスロールを用いてロール加工を施し、実施例9の不織布(ガス吸着材)を得た。
【0084】
[比較例3]
前記ポリアリルアミン10mass%水溶液を1mass%の濃度になるように希釈した配合液を準備した。次に、前記配合液に前述した実施例6に使用される水流交絡不織布原反と同じ不織布原反を浸漬し、マングルロールの絞り圧力でピックアップ率を調整して、ガス吸着性化合物の固着量を表2に示す数値となるように調整したこと以外は実施例6の不織布と同様の方法により比較例3の不織布を得た。
【0085】
表2に、実施例6〜9及び比較例3の不織布(ガス吸着材)について、不織布原反の目付、ガス吸着成分(活性炭粒子及び/又はガス吸着性化合物)の固着量、ガス吸着成分の固着率及び不織布(ガス吸着材)の目付を示した。
【0086】
【表2】
【0087】
[実施例10〜12]
ガス吸着材として更に以下のものを準備した。
【0088】
表3に示す目付を有するカードウェブを用いたこと以外は実施例1に使用される水流交絡不織布原反と同じ方法で作製した不織布原反を、16mass%の前記活性炭粒子を含む水分散液(95℃)に1分間浸漬した後、熱風循環式の乾燥機内に通して乾燥させ、水洗槽で水洗を行った後、温度140℃に調整したテンター方式の乾燥機内で乾燥させ、本発明の実施例である実施例10及び実施例12の不織布(ガス吸着材)を得た。
【0089】
表3に示す目付を有するカードウェブを用いたこと以外は実施例1に使用される水流交絡不織布原反と同じ方法で作製した不織布原反を、16mass%の前記活性炭粒子を含む水分散液(95℃)に1分間浸漬した後、温度140℃に調整したテンター方式の乾燥機内で乾燥させ、本発明の実施例である実施例11の不織布(ガス吸着材)を得た。
【0090】
表3に、実施例10〜12の不織布(ガス吸着材)について、不織布原反の目付、活性炭粒子の固着量、活性炭粒子の固着率及び不織布(ガス吸着材)の目付を示した。
【0091】
【表3】
【0092】
[VOCガス吸着試験方法−1]
実施例1〜5、10〜12及び比較例1,2のガス吸着材シートを、それぞれ縦10cm×横10cmの大きさに切断し、容量が5リットルの公害分析用バッグ(商品名「テドラーバッグ」)に入れ、表4〜7に示す初期濃度となるように空気と調合された各VOCガスを注入した。そして、注入時点を開始時間とし、経時毎にガス検知管でバッグ内の各VOCガスの濃度を測定した。結果を表4〜7に示す。なお、表4〜7において、「ND」とは、各VOCガスの濃度が、それぞれ使用したガス検知管の測定限界(トルエン:0.5ppm、キシレン:2ppm)未満となった場合を示す。
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】
【0096】
【表7】
【0097】
表4〜6に示すように、実施例1〜4の不織布を使用した場合は、比較例1,2に比べ、各VOCガスの濃度の減少速度が速く、ガスの吸着性能が向上した。また、表4に示すように、実施例5は、比較例1に比べ活性炭粒子の固着量が少ないにもかかわらず、比較例1と同等のホルムアルデヒドの吸着性能を示した。更に、表5,6に示すように、実施例5は、比較例2に比べ活性炭粒子の固着量が少ないにもかかわらず、ガスの吸着性能が向上した。これは、実施例1〜5の不織布中の活性炭粒子(ガス吸着性フィラー)が、繊維の表面に固着された湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されているため、ガス吸着性フィラーが表面に露出した状態で固着され、比較例1,2に比べ、ガス吸着性フィラーの比表面積の減少が抑制されたことによるものと考えられる。なお、実施例1〜5の不織布は、繊維形状を保持しており、ゲル加工時に不織布が収縮することはなかった。また、実施例1〜5の不織布は、ガス吸着性フィラーの脱落がなかった。
【0098】
また、表7に示すとおり、実施例10〜12の不織布を使用した場合は、比較例2に比べ、各VOCガスの濃度の減少速度が速く、ガスの吸着性能が向上した。
【0099】
[VOCガス吸着試験方法−2]
実施例6〜9及び比較例1〜3のガス吸着材シートを、それぞれ縦28cm×横17.6cmの大きさ(B5サイズ)に切断し、容量が5リットルの公害分析用バッグ(商品名「テドラーバッグ」)に入れ、表8〜10に示す初期濃度となるように空気と調合された各VOCガスを注入した。そして、注入時点を開始時間とし、経時毎にガス検知管でバッグ内の各VOCガスの濃度を測定した。結果を表8〜10に示す。なお、表10の実施例7については、公害分析用バッグ内の温度(測定温度)を25℃に保持した場合と、80℃に保持した場合の2通りのデータを示した。なお、表8,9において、「ND」とは、各VOCガスの濃度が、それぞれ使用したガス検知管の測定限界(ホルムアルデヒド:0.05ppm、トルエン:0.5ppm、キシレン:2ppm、エチルベンゼン、スチレン及びパラジクロロベンセン:1ppm)未満となった場合を示す。
【0100】
【表8】
【0101】
【表9】
【0102】
【表10】
【0103】
表8に示すように、実施例6〜9の不織布を使用した場合は、比較例3に比べ、アセトアルデヒドガスの濃度減少速度が速く、ガスの吸着性能が向上した。また、表9に示すように、実施例7の不織布は、VOCガスの中でも除去しにくいアセトアルデヒドガスに対して、濃度減少速度が速く、優れた効果を発揮した。また、表10に示すように、従来除去しにくかったVOCガスが低濃度で存在する場合でも、実施例7〜9の不織布を使用した場合は、VOCガスを充分に除去できた。これは、実施例7〜9の不織布中のガス吸着性フィラーが、繊維の表面に固着された湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されているため、ガス吸着性フィラーが表面に露出した状態で固着され、ガス吸着性フィラーの比表面積の減少が抑制されたことによるものと考えられる。なお、実施例7〜9の不織布は、繊維形状を保持しており、ゲル加工時に不織布が収縮することはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のガス吸着材は、車輌用内装材、建材の養生シート、壁紙、マスク、マット、カーペット、フィルター等に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】A〜Cは、本発明の一実施形態に係るガス吸着材を構成するガス吸着性フィラー固着繊維の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る3層構造のガス吸着材(繊維構造物)の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るガス吸着材の製造方法(加熱体接触法)の一例工程図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るガス吸着材の製造方法(スチーム処理法)の一例工程図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るガス吸着材の製造方法(加熱液接触法)の一例工程図である。
【図6】加熱体接触法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図7】加熱体接触法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図8】加熱体接触法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図9】スチーム処理法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図10】スチーム処理法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図11】スチーム処理法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図12】加熱液接触法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図13】加熱液接触法により得られた本発明の一実施形態に係るガス吸着材(不織布)と、その構成繊維にガス吸着性フィラーが固着している状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0106】
1 鞘成分
2 芯成分
3 ガス吸着性フィラー
4 バインダー
5,6,9 複合繊維
7 エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂
8 ポリプロピレン
11 繊維層
12 ガス吸着性フィラー固着繊維層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と、その表面のバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に固着されたガス吸着性フィラーとを含むフィラー固着繊維を有するガス吸着材であって、
前記バインダー樹脂は、湿熱ゲル化樹脂であり、
前記ガス吸着性フィラーは、前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されていることを特徴とするガス吸着材。
【請求項2】
前記湿熱ゲル化樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂である請求項1に記載のガス吸着材。
【請求項3】
前記ガス吸着性フィラーは、多孔質フィラーを含む請求項1に記載のガス吸着材。
【請求項4】
前記多孔質フィラーは、活性炭粒子である請求項3に記載のガス吸着材。
【請求項5】
前記ガス吸着性フィラーの平均粒子径は、0.01〜100μmの範囲である請求項1又は請求項3に記載のガス吸着材。
【請求項6】
前記繊維及び前記バインダー樹脂は、
(I)湿熱ゲル化樹脂成分と他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維、
(II)前記複合繊維と他の繊維を混合したもの、
(III)前記複合繊維と湿熱ゲル化樹脂を混合したもの、及び
(IV)湿熱ゲル化樹脂と他の繊維を混合したもの
から選ばれる少なくとも一つの組み合わせを有する請求項1に記載のガス吸着材。
【請求項7】
前記ガス吸着材は、他の繊維構造物を更に含み、
前記フィラー固着繊維を含む繊維構造物の少なくとも片面に前記他の繊維構造物が積層されている請求項1に記載のガス吸着材。
【請求項8】
前記ガス吸着材は、ガス吸着性化合物を更に含む請求項1に記載のガス吸着材。
【請求項9】
前記ガス吸着性化合物は、ポリアミン化合物である請求項8に記載のガス吸着材。
【請求項10】
前記ポリアミン化合物は、芳香族ポリアミン、ポリアリルアミン及びポリビニルアミンから選ばれる少なくとも1つである請求項9に記載のガス吸着材。
【請求項1】
繊維と、その表面のバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に固着されたガス吸着性フィラーとを含むフィラー固着繊維を有するガス吸着材であって、
前記バインダー樹脂は、湿熱ゲル化樹脂であり、
前記ガス吸着性フィラーは、前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されていることを特徴とするガス吸着材。
【請求項2】
前記湿熱ゲル化樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂である請求項1に記載のガス吸着材。
【請求項3】
前記ガス吸着性フィラーは、多孔質フィラーを含む請求項1に記載のガス吸着材。
【請求項4】
前記多孔質フィラーは、活性炭粒子である請求項3に記載のガス吸着材。
【請求項5】
前記ガス吸着性フィラーの平均粒子径は、0.01〜100μmの範囲である請求項1又は請求項3に記載のガス吸着材。
【請求項6】
前記繊維及び前記バインダー樹脂は、
(I)湿熱ゲル化樹脂成分と他の熱可塑性合成繊維成分とを含む複合繊維、
(II)前記複合繊維と他の繊維を混合したもの、
(III)前記複合繊維と湿熱ゲル化樹脂を混合したもの、及び
(IV)湿熱ゲル化樹脂と他の繊維を混合したもの
から選ばれる少なくとも一つの組み合わせを有する請求項1に記載のガス吸着材。
【請求項7】
前記ガス吸着材は、他の繊維構造物を更に含み、
前記フィラー固着繊維を含む繊維構造物の少なくとも片面に前記他の繊維構造物が積層されている請求項1に記載のガス吸着材。
【請求項8】
前記ガス吸着材は、ガス吸着性化合物を更に含む請求項1に記載のガス吸着材。
【請求項9】
前記ガス吸着性化合物は、ポリアミン化合物である請求項8に記載のガス吸着材。
【請求項10】
前記ポリアミン化合物は、芳香族ポリアミン、ポリアリルアミン及びポリビニルアミンから選ばれる少なくとも1つである請求項9に記載のガス吸着材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−21189(P2006−21189A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29791(P2005−29791)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】
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