説明

ガス感知体及びガスセンサ

【課題】高感度、長寿命、低抵抗という優れた特性を有し、しかも製造が容易で量産性に優れ、さらには、ガス選択性を容易に付与することが可能なガス感知体及びガスセンサを提供する。
【解決手段】本発明のガス感知体1は、半導体微粒子2及び貴金属微粒子3が互いに接触した状態で略格子状の3次元の複合構造体4とされ、この複合構造体4内に3次元の網目状に張り巡らされた空隙部分は互いに連通する気孔5とされ、半導体微粒子2と貴金属微粒子3の組成を選択するとともに、これら半導体微粒子2と貴金属微粒子3との比率を変えることにより、ガス感知体1にガス選択性を持たせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス感知体及びガスセンサに関し、更に詳しくは、高感度、長寿命でガス選択性を有するという優れた特徴を有し、さらには製造が容易で量産性に優れたガス感知体、及び、このガス感知体を備えたガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、取り扱いが容易で、小型化が可能なガスセンサとして、ガス感知体に半導体を用いたガスセンサが提案され、実用に供されている。
このガスセンサは、ガス感知体を構成する半導体ガス検出部を被検知ガスに接触させたときに、このガス検出部の電気抵抗が被検知ガスの濃度に比例して変化することを利用してガス濃度を測定するものであり、ガス検出部としては、一般に、半導体である金属酸化物の焼結体が使用されている。
このガスセンサは、従来より簡単な操作でガス濃度を測定することができるという特長を生かして、一般用のガス漏れ検知の用途に使用されている。近年では、新たな用途として、空気汚染ガス、口臭原因物質、水素ガスの検知等への適用が行なわれている。このような新たな用途分野への普及を促進するためには、高感度化、低消費電力化、ガス選択性の付与等が課題とされており、検討が進められている。
【0003】
ガス検出部の感度やガス選択性を向上させる方法としては、半導体である金属酸化物粒子の表面に貴金属微粒子を担持させる方法が知られている。
ここで、担持させる貴金属微粒子としては、被検知ガスまたは空気中の酸素ガスと金属酸化物粒子との間の作用効果を高める触媒効果を有するものが好ましく、例えば、金属酸化物粒子として酸化スズ粒子を用いる場合、パラジウム、白金、金等が好適に用いられる。この貴金属微粒子は、触媒として添加されるものであるから、その添加量は、金属酸化物粒子の質量の高々数%程度である。
このような触媒効果を有する貴金属微粒子を担持させた金属酸化物粒子を作製する方法としては、金属酸化物粒子と貴金属微粒子の前駆体とを含む原料を高温高圧下で水熱反応させることにより、金属酸化物粒子の表面に微細な貴金属微粒子を担持させる方法等が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、ガスセンサの感度を向上させるためには、ガス検出部を構成する金属酸化物粒子を小さくすることが有効であることが知られている(例えば、非特許文献1、2)。この金属酸化物粒子が酸化スズ粒子の場合には、粒子の直径が約10nm以下で増感効果が現れ、特に、約5nm以下で顕著な効果がある(非特許文献2)。
このように、粒子が小さくなることにより感度が向上する理由は、次のように説明することができる。まず、半導体ガス検出部が被検知ガスに接触した際に電気抵抗が変化する理由は、被検知ガスが金属酸化物粒子の表面層や粒子間結合部に結合している酸素を除去することにより、この金属酸化物粒子の表面層や結合部の導電率(電気抵抗)が変化するからである。この表面層や結合部表面層の厚みは、金属酸化物粒子の粒子径に依らず一定であるから、粒子径が縮小するに伴い、金属酸化物粒子や粒子間結合部全体に対する表面層の割合が増加する。したがって、導電率が変化する表面層の割合が増加し、感度が向上すると考えられる。
【0005】
一方、ガス感知体の感度を向上させるためには、ガス感知体に取り付ける測定電極の間隔を1μmないしはそれ以下のオーダーにまで狭くすることが有効であるとの報告がある。これは、マイクロギャップ効果と称されており、例えば、ガス検出部として用いる金属酸化物粒子として、酸化タングステン(非特許文献3、4)、酸化インジウム(非特許文献5)、酸化スズ(非特許文献6、7)を用いたものが報告されている。また、従来の電極間隔を有するガス感知体に上記のマイクロギャップ効果を適用するために、ガス感知体の金属酸化物微粒子中に貴金属の2次粒子を分散させ、この貴金属2次粒子の間に1μm以下の微小なギャップを形成させ、この微小なギャップの部分を検知領域とすることで、感度を向上させたガスセンサが提案されている(特許文献2)。
【0006】
さらに、絶縁基板上に1対の膜状電極及びヒータを設け、これら膜状電極の上に酸化スズ等の金属酸化物からなるガス検出部を形成した半導体式ガスセンサも提案されている(特許文献3)。この半導体式ガスセンサでは、ガス検出部の膜厚寸法と膜状電極の間隔寸法との相対比率を変えることにより、最大感度を示すガス種を調整することができ、被検知ガスの選択性を持たせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−20411号公報
【特許文献2】特開2007−78513号公報
【特許文献3】特開平7−140102号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】軽部征夫監修、「バイオセンサ・ケミカル辞典」、テクノシステム、2007年8月発行、475頁
【非特許文献2】「DENKI KAGAKU」、電気化学会、1990年12月発行、58巻、12号、1143頁
【非特許文献3】TAMAKI Jun, MIYAJI Akira, MAKINODAN Jiro, OGURA Shunsuke, KONISHI Satoshi,「WO3薄膜微小センサを利用する希釈NO2の検出に及ぼす微小間隙電極の効果」(Effect of micro-gap electrode on detection of dilute NO2 using WO3 thin film microsensors), Sensors and Actuators B, Vol.108, No.1-2, Page.202 (2005.07)
【非特許文献4】鵜野雄大、橋新剛、ダオ ズンベト、杉山進、玉置純、「ナノギャップ櫛型電極を用いた高感度二酸化窒素センサの構築」、電気化学会 化学センサ研究会、第43回化学センサ研究発表会、No.36、2007年3月発行
【非特許文献5】TAMAKI Jun, NIIMI Jun, OGURA Shunsuke, KONISHI Satoshi,「希薄塩素ガスに対する酸化インジウム薄膜マイクロセンサの感知特性へのマイクロギャップ電極の影響」(Effect of micro-gap electrode on sensing properties to dilute chlorine gas of indium oxide thin film microsensors), Sensors and Actuators B, Vol.117, No.2, Page.353 (2006.10)
【非特許文献6】大谷哲史、玉置純、「複素インピーダンス法による酸化スズマイクロガスセンサの粒界および界面抵抗の評価」、電気化学会 化学センサ研究会、第43回化学センサ研究発表会、No.34、2007年3月発行
【非特許文献7】中田中昌徳、小西聡、玉置純、「酸化スズ薄膜マイクロガスセンサの可燃性ガス検知特性に及ぼすマイクロギャップの効果粒界および界面抵抗の評価」、電気化学会 化学センサ研究会、第43回化学センサ研究発表会、No.35、2007年3月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、従来の金属酸化物粒子の表面に貴金属微粒子を担持させたガス感知体では、貴金属微粒子を触媒として有効に作用させるためには、貴金属を超微粒子化して金属酸化物粒子の表面に担持させる必要がある。しかしながら、超微粒子化した貴金属を担持させるための工程が複雑で厳密な制御が必要となることから、貴金属超微粒子を金属酸化物粒子の表面に担持させたガス感知体を量産することが難しいという問題点があった。
【0010】
また、ガス感知体に取り付ける測定電極を、1μmないしはそれ以下のオーダーの間隔で形成するためには、フォトリソグラフィーや収束イオンビーム加工等の半導体技術やMEMS技術が必要となるが、これらの微細加工技術に用いられる設備や装置は非常に高価であり、コストアップを避けることができないという問題点があった。
【0011】
また、金属酸化物微粒子中に貴金属の2次粒子を分散させて微小なギャップを形成したガスセンサでは、貴金属の2次粒子の添加量が少ない場合には、貴金属の2次粒子間隔が広く、特性があまり改善されないという問題点があり、一方、貴金属の2次粒子の添加量を増加させると、貴金属の2次粒子間に微小なギャップが形成されず、いわゆる導電パスが形成されることから、測定電極間が完全に短絡してしまい、測定不能になる等の問題点があった。
このように、このガスセンサでは、貴金属の2次粒子の添加量と分散状態を厳密に制御する必要があり、また、これらを制御したとしても得られるガス感知体の特性にバラツキが生じ易く、やはり量産には適さないという問題点があった。
さらに、このガスセンサは感度の向上を図ることはできるが、ガス選択性に対しては何等の効果をも有していない。
【0012】
さらに、膜状電極上にガス検出部を形成した半導体式ガスセンサでは、ガス検出部の膜厚寸法と膜状電極の間隔寸法との相対比率を変えることで被検知ガスの選択性を持たせているので、被検知ガスの種類毎に、間隔寸法の異なる複数種のガスセンサを準備したり、あるいはガス感知体の膜厚を調整する等が必要であり、量産には不向きであった。
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、高感度、長寿命、低抵抗という優れた特性を有し、しかも製造が容易で量産性に優れ、さらには、ガス選択性を容易に付与することが可能なガス感知体及びガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題を解決するためにガス感知体のガス検出部に用いられる半導体微粒子と貴金属微粒子の分散・接触状態に着目して鋭意検討を行った結果、ガス感知体を形成するガス検出部中に、このガス検出部を構成する半導体微粒子と平均粒子径が略同一または近似した貴金属微粒子を分散させることにより、高感度及び長寿命であり、抵抗が小さく、製造が容易で量産性に優れたガス感知体が得られることを見出し、さらには、半導体微粒子と貴金属微粒子との体積比率を変えることにより、ガス選択性を容易に付与することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明のガス感知体は、ガス検出部の電気抵抗の変化を利用して被検知ガスの濃度を測定するガス感知体において、前記ガス検出部は、半導体微粒子及び貴金属微粒子を含み、前記貴金属微粒子の平均粒子径は、前記半導体微粒子の平均粒子径の0.5倍以上かつ2倍以下であり、前記貴金属微粒子の該貴金属微粒子と前記半導体微粒子との合計量に対する体積比率は、0.5体積%以上かつ40体積%以下であることを特徴とする。
【0016】
前記半導体微粒子自体、前記半導体微粒子同士の結合面ないしは接触面、前記半導体微粒子自体及び前記半導体微粒子同士の結合面ないしは接触面、のうちいずれか1種がガス検知機能を有するとともに、前記貴金属微粒子と前記半導体微粒子との結合面ないしは接触面は、金属−半導体接合効果を有することが好ましい。
前記半導体微粒子と前記貴金属微粒子との体積比率を変えることにより、前記ガス検出部にガス選択性を持たせることが好ましい。
【0017】
本発明のガスセンサは、本発明のガス感知体を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガス感知体によれば、ガス検出部を、半導体微粒子及び貴金属微粒子を含むものとし、この貴金属微粒子の平均粒子径を、半導体微粒子の平均粒子径の0.5倍以上かつ2倍以下とし、この貴金属微粒子の貴金属微粒子と半導体微粒子との合計量に対する体積比率を0.5体積%以上かつ40体積%以下としたので、高感度、長寿命という優れた特徴を有することができる。
また、このガス感知体は、製造が容易で量産性に優れている。
さらに、半導体微粒子と貴金属微粒子との体積比率を変えることにより、ガス感知体にガス選択性を持たせるので、ガス選択性を容易に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態のガス感知体の基本構造の一例を示す模式図である。
【図2】半導体微粒子と貴金属微粒子との体積比率と導電率との関係を示す図である。
【図3】半導体微粒子と貴金属微粒子との体積比率と被検知ガス感度との関係を示す図である。
【図4】ガス感知体の抵抗値を測定するための測定回路を示す回路図である。
【図5】ガス感知体の感度を測定するための測定装置の一例を示す概略構成図である。
【図6】ガス感知体の感度を測定するための測定装置の他の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のガス感知体及びガスセンサを実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0021】
[ガス検出部]
(ガス検出部の基本構造及び測定原理)
本実施形態のガス感知体におけるガス検出部の基本構造及び測定原理について説明する。
このガス検出部の基本構造は、平均粒子径が略同一または近似した半導体微粒子及び貴金属微粒子が互いに分散しかつ接触するように略格子状に配列された、3次元の複合構造体である。
【0022】
図1は、本実施形態のガス感知体におけるガス検出部の基本構造の一例を示す模式図であり、このガス検出部1は、半導体の電気抵抗(または導電率)の変化を利用して被検知ガスの濃度を測定するガス感知体を構成するものであり、平均粒子径が略同一または近似した半導体微粒子2及び貴金属微粒子3が互いに分散した状態で、半導体微粒子2同士、貴金属微粒子3同士、及び半導体微粒子2と貴金属微粒子3が互いに結合ないしは接触した状態で略格子状の3次元の複合構造体4とされている。
なお、以下の表記では、「半導体微粒子2同士、貴金属微粒子3同士、及び半導体微粒子2と貴金属微粒子3」を「半導体微粒子2及び貴金属微粒子3からなる各々の微粒子同士」と略記し、「結合ないしは接触」を「結合(接触)」と略記する。
【0023】
そして、この複合構造体4中の半導体微粒子2及び貴金属微粒子3からなる各々の微粒子同士の空隙部分は、互いに連通する気孔5とされているので、この気孔5は複合構造体4内に3次元の網目状に張り巡らされていることになる。
【0024】
(ガス検出部におけるガスの検出原理及びガス選択性)
本実施形態のガス検出部1は、半導体微粒子2と貴金属微粒子3との体積比率を変えることにより、ガス選択性を持たせることができる。すなわち、貴金属微粒子3と半導体微粒子2の合計量に対する貴金属微粒子3の分率を貴金属微粒子3の濃度とすれば、貴金属微粒子3の濃度が5体積%以下の場合と、5体積%を越える場合で、被測定ガスの種類を変えることができる。
そこで、まずこのガス選択性の発現理由とその範囲について、ガスの検出原理に基づき説明する。
【0025】
まず、本実施形態のガス検出部1の構造において、貴金属微粒子3の量を増して行った場合、ガス検出部1内において増加するものは、半導体微粒子2と貴金属微粒子3間の結合(接触)面である。ここで、半導体微粒子2と貴金属微粒子3とが共に球状で同一の粒子径を有しており、かつこれらの粒子が均一に分散しているとすれば、半導体微粒子2と貴金属微粒子3との間の結合(接触)面量が最大となるのは、貴金属微粒子の濃度が50体積%の場合である。
【0026】
そこで、金属と半導体の界面に着目すると、金属と半導体の界面では、金属の仕事関数と半導体の持つ電子親和力との差により、ショットキー接合効果のような金属−半導体間の接合効果が発現することが知られている。
これらの接合効果が発現した場合、金属と半導体との間には整流作用が生じる。すなわち、金属から半導体へは容易に電流が流れるが、半導体から金属へは電流が流れ難くなる状態、あるいはその逆に、半導体から金属へは容易に電流が流れるが、金属から半導体へは電流が流れ難くなる状態、となる。
【0027】
ここで、ショットキー接合効果のような金属−半導体間の接合効果は、金属と半導体の双方の特性により発現するものであるから、その発現度合いや発現量は、金属と半導体の種類や組み合わせ、さらには金属や半導体の状態などにより変化することが知られている。そこで、金属として特定ガスにより特性変化を生じさせるものを選択し、この金属と半導体を組み合わせる、あるいは半導体として特定ガスにより特性変化を生じさせるものを選択し、この半導体と金属を組み合わせれば、この金属と半導体の界面に発現する金属−半導体間の接合効果の発現量は、特定ガスの有無や量に対応して変化することになる。なお、金属と半導体の双方とも特定ガスにより特性変化を生じさせるものを選択し、組み合わせることとしても、もちろん良い。
【0028】
このように、半導体と金属の種類及び組み合わせを選択し、選択した半導体からなる基板上に、選択した金属からなる電極を設け、基板−電極間の電気的特性(整流性、電気伝導性、増幅感度等)を測定すれば、特定ガスの有無や量に対応して電気的特性が変化するガス検知体を形成することができる。
このようなガス検知体の特許文献としては、例えば、特開2001−281213号公報、特開2008−145128号公報等がある。
【0029】
このように、上記の特許文献に記載された金属−半導体間の接合効果を用いて作製されたガス検知体は、1つの半導体基板上に面状の電極を形成するという、ICチップと同様のモノリシックな構造であり、また基板−電極間の電気的特性である整流性、電気伝導性、増幅感度等を測定するのに、比較的複雑な回路を用いている。
【0030】
一方、本実施形態のガス検出部1は、半導体微粒子2及び貴金属微粒子3からなる各々の微粒子同士が互いに均一に分散した状態で結合ないしは接触し、略格子状の3次元の複合構造体4を形成したものであるから、半導体微粒子2と貴金属微粒子3間の結合(接触)面において金属−半導体間の接合効果が発現し、整流作用や増幅作用が生じても、ガス検出部1全体として見た場合には作用の方向が全方位に分散して平均化されてしまい、整流作用や増幅作用は発現しない。したがって、整流状態や増幅作用の測定といった、従来の金属−半導体間の接合効果を用いたガス検知体に使用される測定方法では、検出が難しい。
【0031】
ここで、本実施形態のガス検出部1では、整流作用の方向が全方位に分散するので、逆整流作用の方向(電流が流れにくくなる作用の方向)も全方位に分散する。したがって、ガス検出部1全体として見た場合には、金属−半導体間の接合効果が発現すれば、ガス検出部1の抵抗値も増加する。すなわち、本実施形態のガス検出部1における金属−半導体間の接合効果を検出するには、ガス検知体1自体の抵抗値を測定すればよく、特定ガスを検出するには、ガス検知体1の抵抗値変化を測定すればよい。
【0032】
次に、本実施形態のガス検出部1における抵抗値の変化について説明する。
本実施形態のガス検出部1においては、貴金属微粒子3の濃度を0.5体積%以上40体積%以下の範囲内で増加させると、ガス検出部1の抵抗値も増加している。このように、半導体微粒子2に比べて電気抵抗の小さい貴金属微粒子3の量が増加しているにもかかわらず、抵抗値が増加しているということは、何等かの効果が発生しているからと考えられる。
【0033】
この効果として、本実施形態のガス検出部1における半導体微粒子2と貴金属微粒子3間の結合(接触)面において、ショットキー接合効果等の金属−半導体間の接合効果が発現している場合を考える。
上記のように、本実施形態では、これらの金属−半導体間の接合効果は、ガス検出部1の抵抗値として捉えることができる。
ここで、貴金属微粒子3を増加させると、半導体微粒子2と貴金属微粒子3間の結合(接触)面が増加することにより、上記結合効果の発現量が多くなり、その結果、ガス検出部1の抵抗値がより増加すると考えられる。
【0034】
これらの結果は、本実施形態のガス検出部1における半導体微粒子2と貴金属微粒子3間の結合(接触)面においても、ショットキー接合効果等が発現していると考えられる。
【0035】
次に、本実施形態のガス検出部1における、ガス選択性の発現理由について説明する。
まず、本実施形態のガス検出部1について、貴金属微粒子の濃度が0.5体積%以上かつ5体積%以下の場合について説明する。
この範囲内における被測定ガスの種類を第1の被測定ガスとすると、この第1の被測定ガスの種類は、半導体微粒子2をガス検出部1に用いた従来の半導体ガスセンサと同一である。
【0036】
ここで、貴金属微粒子3の濃度が0.5体積%以上かつ5体積%以下の場合については、従来の「貴金属触媒添加半導体ガスセンサ」と全く同一の検出原理によるガス検出部1の抵抗値変化が主要因となり、被測定ガスの検知を行っていると考えられる。
すなわち、半導体微粒子2同士の結合(接触)領域および半導体微粒子2において、これらの表面層に被測定ガスが吸着する、あるいはあらかじめ吸着している酸素が被検知ガスにより脱着除去されることにより、表面層の電気抵抗が低減(導電率が向上)する。一方、貴金属微粒子3は、これら被測定ガスや酸素の吸・脱着作用に対して触媒効果を有するものであるから、被測定ガスの検出方法としては、ガス検出部1の抵抗値変化を測定することにより行われる。
【0037】
この領域、すなわち貴金属微粒子3の濃度が0.5体積%以上かつ5体積%以下の場合においても、半導体微粒子2と貴金属微粒子3間の結合(接触)面においては、上述のような、ショットキー接合効果等の金属−半導体間の接合効果が発生していると考えられる。しかし、貴金属微粒子3の濃度が低いために発生量が少ないことから、その作用や効果は顕在化せず、金属−半導体間の接合効果に起因するガス検出部1の抵抗値変化は無視できる範囲になっていると考えられる。
なお、貴金属微粒子3の濃度が0.5体積%未満の場合であっても、被測定ガスの検知を行うことはできるが、貴金属微粒子3の触媒効果がほとんど無くなるので、貴金属微粒子3の濃度下限値を0.5体積%としている。
【0038】
次に、貴金属微粒子の濃度が10体積%以上の場合について説明する。
貴金属微粒子の濃度が10体積%以上の場合における被測定ガスを第2の被測定ガスとすると、この第2の被測定ガスの種類は、第1の被測定ガスの種類と同一の場合もあるが、通常は異なっている。
【0039】
上記のように、本実施形態では、ショットキー接合効果のような金属−半導体間の接合効果は、ガス検出部1の抵抗値として捉えることができ、また特定ガス、すなわち第2の被測定ガスの検出は、ガス検知体1の抵抗値変化を測定することで行うことができる。
【0040】
ここで、貴金属微粒子3の濃度が5体積%を越えた場合、半導体微粒子2と貴金属微粒子3間の結合(接触)面の量が増大することにより、これらの金属−半導体間の接合効果が顕在化してくると考えられる。特に、貴金属微粒子3の濃度が10体積%以上の場合には、金属−半導体間の接合効果の影響が非常に大きくなり、この状態のガス検知体では、その抵抗値変化の主要因は金属−半導体間の接合効果によるものになると考えられる。
なお、この領域においても、半導体微粒子2同士の結合(接触)領域および半導体微粒子の表面層において電気抵抗(導電性)変化が発生していると考えられるが、金属−半導体間の接合効果に起因する抵抗値変化量が大きいために、半導体微粒子のみに起因する抵抗値変化量は顕在化せず、無視できる範囲になっていると考えられる。
【0041】
このように、ガス検知体1の抵抗値変化を同一の測定方法により測定しても、貴金属微粒子3の濃度によりガス検知体1における抵抗値変化の主要因が変わることで、検出原理や検出対象が全く異なってくるので、異なるガスの測定が可能となる。
【0042】
まず、貴金属微粒子3の濃度が5体積%以下のガス検知体における抵抗値変化の主要因は、半導体微粒子2同士の結合(接触)領域および半導体微粒子の表面層の電気抵抗(導電性)変化によるものであり、半導体微粒子2単独の特性変化である。
この領域おいても、金属−半導体間の接合効果は発生していると考えられるが、貴金属微粒子3の濃度が低いためにその作用による抵抗値変化量は微少で顕在化せず、無視できる範囲になっていると考えられる。
【0043】
一方、貴金属微粒子3の濃度が10体積%以上のガス検知体では、その抵抗値変化の主要因は金属−半導体間の接合効果によるものであり、貴金属微粒子3と半導体微粒子2の相互の関係における特性変化が検出される。
この領域おいても、半導体微粒子2同士の結合(接触)領域および半導体微粒子の表面層の電気抵抗(導電性)変化は発生していると考えられるが、金属−半導体間の接合効果に起因する抵抗値変化量が大きいために、半導体微粒子のみに起因する抵抗値変化量は顕在化せず、無視できる範囲になっていると考えられる。
【0044】
なお、貴金属微粒子3の濃度が5体積%を越えかつ10体積%未満の領域では、ガス検知体1の抵抗値変化の主要因として、半導体微粒子2同士の結合(接触)領域および半導体微粒子の表面層の電気抵抗(導電性)変化によるものと、金属−半導体間の接合効果によるものとが並立しているために、ガス検知体1の抵抗値変化量を特定のガスの測定・検知に結びつけることが難しく、ガス選択性が得られない。そこで、この領域は測定可能領域から外してある。
ただし、ガス検知体1の抵抗値変化量自体は測定することができるので、半導体や貴金属の種類を変更したり、他の測定法と組み合わせたりすることでガス選択性が得られれば、この領域においても特定ガスの測定・検出は可能である。
【0045】
さらに、貴金属微粒子3の濃度が40体積%が上限となる理由を説明する。
まず、貴金属微粒子3の濃度を5体積%から増加させることに伴い、被測定ガスの測定感度も向上する。これは、半導体微粒子2と貴金属微粒子3間の結合(接触)面量の増大により、金属−半導体間の接合効果が増大すると考えられる。
【0046】
しかしながら、貴金属微粒子3同士の結合(接触)面が連続した状態、すなわち導電路(導電パス)が形成された場合には、測定用の電流のほとんどはこの導電路を通過してしまい、実質的に感度が無くなる。この場合、ガス検出部1は金属としての特性を示すようになる。逆に言えば、ガス検出部1においては、貴金属微粒子3同士の接触が半導体微粒子2によって妨げられ、導電路が形成されず、半導体としての性質を示すことが必要になる。
【0047】
ここで、ガス検出部1が、半導体微粒子2及び貴金属微粒子3が共に粒子径が等しい球状であり、かつ半導体微粒子2及び貴金属微粒子3が均一に混合している場合に、このガス検出部1に有効媒質近似法を適用すると、このガス検出部1が金属と半導体の特性変化を示す臨界濃度は50体積%となる。
ただし、臨界濃度近傍では、たとえ半導体の特性であったとしても貴金属微粒子3の効果が大きくなり過ぎてしまうこと、また、実際のガス検出部1では、半導体微粒子2及び貴金属微粒子3の粒子形状は完全な球状ではない上に、半導体微粒子2及び貴金属微粒子3それぞれの粒子径が一定の分布を有しており、これらの平均粒子径も同一ではないこと、さらには、半導体微粒子2及び貴金属微粒子3の分散状態には不均一な部分が存在する可能性があること、等を考慮すると、実際の臨界濃度は50体積%より小さくなる。
【0048】
ここで、臨界濃度を40体積%以上かつ60体積%以下の範囲内に収めるためには、ガス検出部1における貴金属微粒子3の平均粒子径を、半導体微粒子2の平均粒子径の0.5倍以上かつ2倍以下とする必要があり、さらに、ガス検出部1の感度を、ガス検出部1を半導体微粒子2のみで構成した場合と比べて概ね2倍以上向上させるためには、貴金属微粒子3と半導体微粒子2の合計に対する、貴金属微粒子3の体積分率を0.5体積%以上かつ40体積%以下の範囲内とする必要がある。
これは、本発明者が、上記の各点を考慮して実際に検証を行った結果、見出したものであり、この結果から、ガス検出部1における貴金属微粒子3の濃度は40体積%が上限と結論付けられる。
【0049】
図2は、本実施形態のガス検出部1の特性の一例を示す図であって、半導体微粒子と貴金属微粒子との体積比率と、ガス検出部1の導電率との関係を示す図である。
ここで、ガス検出部1の抵抗値は、貴金属微粒子3の濃度が高くなるにしたがって増加するが、臨界濃度を越えると急激に減少し、金属並みの抵抗値まで低下する。なお、この図では、一例として、臨界濃度を約50体積%としているが、この値に限定されるものでは無い。
このように、貴金属微粒子3の濃度が臨界濃度より低い範囲では、貴金属微粒子3の濃度が高まるにしたがってガス検出部1の抵抗値も増加しており、本実施形態のガス検出部1における半導体微粒子2と貴金属微粒子3間の結合(接触)面において、ショットキー接合効果等が発現していると考えられる。
【0050】
図3は、本実施形態のガス検出部1の特性の一例を示す図であって、半導体微粒子と貴金属微粒子との体積比率と被検知ガス感度との関係を示す図である。
曲線1は、本実施形態のガス検知部1における、第1の被測定ガスであるトルエンなどの感度を示したものであり、半導体微粒子2同士の結合(接触)領域および半導体微粒子2の表面層における電気抵抗の変化に起因するものである。
貴金属微粒子3の感度は、濃度がゼロの場合でも一定の値を有しているが、濃度が数体積%までは急激に上昇する。これは貴金属微粒子3による触媒効果と考えられる。さらに、濃度が数%を越えると感度は低下していく。これは貴金属微粒子3による触媒効果が飽和する一方、半導体微粒子2の量が低下していくからと考えられる。
【0051】
曲線2は、本実施形態のガス検知部1における、第2の被測定ガスである硫化水素などの感度を示したものであり、金属−半導体間の接合効果による抵抗値変化に起因するものである。
この場合、貴金属微粒子3の濃度がゼロの場合、感度はゼロとなる。そして、貴金属微粒子3の濃度が高くなるにしたがって感度も上昇する。これは貴金属微粒子3と半導体微粒子2の界面が増加していくからと考えられる。なお、臨界濃度の手前で感度が低下するが、これは貴金属微粒子3の影響が過大になるからと考えられる。
【0052】
これら曲線1と曲線2を比較すると、貴金属微粒子3の濃度が0.5体積%以上かつ5体積%以下の領域では、曲線1の感度が高く、したがって、第1の被測定ガスを選択的に検出することができる。また、貴金属微粒子3の濃度が10体積%以上かつ40体積%以下の領域では、曲線2の感度が高く、したがって、第1の被測定ガスとは異なる組成の第2の被測定ガスを選択的に検出することができる。
一方、貴金属微粒子3の濃度が5体積%を越えかつ10体積%未満の領域では、曲線2と曲線3の感度が共に一定程度存在することとなり、したがって、被測定ガスを選択的に検出することは難しい。
【0053】
(ガス検出部の基本構造の詳細な説明)
本実施形態のガス検出部1の基本構造は、上述したように、半導体微粒子2及び貴金属微粒子3からなる各々の微粒子同士が互いに均一に分散した状態で結合(接触)し、略格子状の3次元の複合構造体4を形成したものである。
【0054】
この半導体微粒子2としては、半導体材料であって、少なくとも第1の被測定ガスの存在により抵抗値(または導電率)が変化する必要があることから、無機酸化物微粒子が好適に用いられる。
このような無機酸化物微粒子としては、例えば、スズ、アンチモン、鉄、タングステン、亜鉛、インジウム等の金属を成分とする金属酸化物微粒子が好適に用いられ、特に、酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO)等、被検知ガスに対して感度の高いものを選択すれば良い。
【0055】
これらの金属酸化物微粒子を用いたガス検出部1においては、半導体微粒子2同士の結合(接触)領域および半導体微粒子2において、これら結合(接触)領域及び半導体微粒子2の表面層にあらかじめ吸着している酸素が、被検知ガスにより脱着除去されることにより、表面層の電気抵抗が低下(導電率が上昇)する。
なお、被測定ガス自体が吸着することで、電気抵抗が低下するような金属酸化物微粒子を選択してもよい。
【0056】
また、この半導体微粒子2としては、第1の被測定ガスによる特性変化(抵抗値変化)に加え、第2の被測定ガスにおいても特性変化(抵抗値変化)があってもよい。第2の被測定ガスにおいても特性変化(抵抗値変化)があれば、貴金属微粒子3の組成を任意に選択することが可能となり、選択範囲が広がるので好ましい。
ただし、第2の被測定ガスによる特性変化(抵抗値変化)が、第1の被測定ガスによる特性変化(抵抗値変化)と類似している場合、ガス検出部1における被測定ガスの選択性が悪くなる可能性がある。この点から、半導体微粒子2は、主に第1の被測定ガスにより特性変化(抵抗値変化)が生じるものとし、第2の被測定ガスに対しては特性変化(抵抗値変化)が小さいか、あるいは特性変化(抵抗値変化)が生じない(第2の被測定ガスに対しては、貴金属微粒子3が特性変化(抵抗値変化)する)ことが好ましい。
【0057】
この半導体微粒子2の形状は、球状に近いことが好ましい。球状に近ければ、貴金属微粒子3と互いに分散させた際に、均一に分散し易いからである。また、形状が球状に近ければ、半導体微粒子2及び貴金属微粒子3からなる各々の微粒子同士が接触する部分の面積を、粒子によらず略同一にすることができるので、接触点の感度を均一化することができ、ガス検出部1の特性が安定する。
【0058】
この半導体微粒子2の平均粒子径には特段の制限は無いが、微細であることが好ましく、具体的には3nm以上かつ500nm以下であることが好ましく、より好ましくは3nm以上かつ100nm以下、さらに好ましくは3nm以上かつ30nm以下である。
【0059】
ここで、半導体微粒子2の粒子径が小さいことが好ましい理由としては、次のような点が挙げられる。まず、第1の被測定ガスを検知する場合、半導体微粒子2の粒子径を小さくすることにより、半導体微粒子2全体に対する表面層の割合、すなわち被検知ガスにより抵抗値が変化する領域も相対的に増加するので、半導体微粒子2自体の電気抵抗(導電率)の変化量が増大するからである。また、半導体微粒子2の粒子径が小さくなると、半導体微粒子2及び貴金属微粒子3からなる各々の微粒子同士が接触する面積を小さくすることができるので、接触点の感度が向上する。さらに、ガス感知体1の単位体積当たりの粒子数が増加するので、接触点数も増加する。
【0060】
すなわち、第1の被測定ガスの検知については、半導体微粒子2の粒子径が小さくなると、各接触点や半導体微粒子2自体における電気抵抗(導電率)の変化量が大きくなり、かつ粒子数や接触点数が増加するので、ガス検出部1の感度が向上する。
一方、第2の被測定ガスの検知については、半導体微粒子2の粒子径を小さくすることにより、半導体微粒子2と被測定ガスとの接触面積が増加するので、半導体微粒子2の特性変化が均一かつ迅速に行われるようになり、ガス検出部1の感度が向上し、測定時間も短縮する。
【0061】
次に、貴金属微粒子3としては、まず、常温(25℃)からガスセンサの作動温度以上の温度範囲にて酸化されることなく、また半導体微粒子3と反応することなく、さらには焼結等もされることなく、安定である必要がある。なお、ガスセンサの作動温度とは、ガス検知時にガス感知体1が加熱される温度であり、通常200℃から400℃の範囲内にて、被測定ガスの種類やガス感知体1の特性により選択される。
【0062】
この貴金属微粒子3は、第2の被測定ガスが存在することにより特性変化(抵抗値変化)が生じるものを選択することが好ましい。
上述したとおり、第2の被測定ガスの検出原理は、半導体微粒子2と貴金属微粒子3間の結合(接触)面における金属−半導体間の接合効果の発現と変化である。ここで、既に述べたように、第2の被測定ガスに対しても半導体微粒子2が特性変化を生じた場合、半導体微粒子2の特性変化が、第1の被測定ガスによるものか、あるいは第2の被測定ガスによるものか、の判別が難しくなり、被測定ガスに対する選択性が悪くなる。
【0063】
そこで、第1の被測定ガスを、半導体微粒子2の特性変化(抵抗値変化)により検知し、第2の被測定ガスを、貴金属微粒子3の特性変化(抵抗値変化)により検知するというように、被測定ガスごとに検出対象となる微粒子の種類を選択すれば、測定や結果の解釈が容易になり、好ましい。
なお、半導体微粒子2が、第2の被測定ガスでは特性変化が生じない場合には、貴金属微粒子3は、当然ながら、第2の被測定ガスの存在により特性が変化することが必須である。
【0064】
このような貴金属微粒子3としては、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムの群から選択される1種、または2種以上を含む金属または合金が挙げられる。特に、金、銀、白金、パラジウムは、半導体微粒子2における第1の被測定ガスに対する測定感度を向上させる触媒特性を有しているので好ましい。
【0065】
この貴金属微粒子3の平均粒子径は、半導体微粒子2の平均粒子径の0.5倍以上かつ2倍以下であることが好ましく、より好ましくは0.8倍以上かつ1.25倍以下、さらに好ましくは0.95倍以上かつ1.05倍以下、最も好ましくは半導体微粒子の平均粒子径とほぼ同等の大きさ(略1倍:平均粒子径が略同一)である。また、形状についても、半導体微粒子2と同様、球状に近いことが好ましい。
【0066】
ここで、貴金属微粒子3の平均粒子径や形状が半導体微粒子2のそれと同等であるほど好ましい理由は、貴金属微粒子3及び半導体微粒子2が均一に分散し易くなり、したがって、複合構造体4の被検知ガスに対する感度等の特性のバラツキが小さくなり、その結果、ガス検出部1の特性の安定性及び信頼性が向上するからである。
また、貴金属微粒子3の平均粒子径や形状が半導体微粒子2のそれと同等であれば、半導体微粒子2と貴金属微粒子3との体積比率を調整してガス感知体1の特性を制御することによりガス選択性を持たせる場合においても、実測値と理論値とが近似し、制御が容易となるからである。
【0067】
また、貴金属微粒子3の平均粒子径や形状が半導体微粒子2のそれと同等であれば、後述するように、ガス感知体1の製造時において、これら貴金属微粒子3及び半導体微粒子2を含む混合分散液から貴金属微粒子含有半導体微粒子堆積物を形成する際に、半導体微粒子2と貴金属微粒子3とが均一に分散・混合し易くなり、良好な特性のガス感知体1が得られるので、好ましい。
なお、貴金属微粒子3の平均粒子径が半導体微粒子2の平均粒子径の0.5倍未満の場合、あるいは2倍を超えた場合には、貴金属微粒子3及び半導体微粒子2が均一に分散し難くなり、したがって、複合構造体4の被検知ガスに対する感度等の特性のバラツキが大きくなり、その結果、ガス感知体1の特性の安定性及び信頼性が低下するので好ましくない。
【0068】
これら半導体微粒子2及び貴金属微粒子3は、共に1次粒子であってもよく、一方が1次粒子で他方が2次粒子であってもよく、両者とも2次粒子であってもよい。本実施形態においては、平均粒子径が略同一または近似した半導体微粒子2と貴金属微粒子3とが均一に分散・混合していればよく、それぞれの微粒子が1次粒子であるか2次粒子であるかは問題ではない。
ただし、少なくとも一方が2次粒子の場合、ガス検出部1を製造する工程においては2次粒子の状態を維持する必要があり、一部が解砕されたり、あるいは1次粒子に解砕されることがないように注意する必要がある。なお、一部が解砕されたりした場合には、その粒子径がさらに小さくなり、一方の微粒子の平均粒子径や形状が他方の微粒子のそれと異なってしまい、その結果、半導体微粒子2と貴金属微粒子3とが均一に分散・混合し難くなり、十分な特性が得られなくなるので好ましくない。
【0069】
なお、上述したように、従来のショットキー接合効果のような金属−半導体間の接合効果を用いて作製されたガス検知体は、1つの半導体基板上に面状の貴金属製電極を形成するという、ICチップと同様のモノリシック型構造である。それ故に、電極形状を工夫したり、電極自体を薄くすることにより、電極や半導体基板と被測定ガスが接触しやすい構造としているが、基本的にモノリシック型構造ゆえの限界がある。
【0070】
一方、本実施形態のガス検出部1は、半導体微粒子2及び貴金属微粒子3からなる各々の微粒子同士が互いに均一に分散した状態で結合(接触)し、略格子状の3次元の複合構造体4を形成したものであり、さらに微粒子同士の空隙部分が互いに連通する気孔5とされているので、従来のモノリシック型構造と比べて、被測定ガスと半導体微粒子2及び貴金属微粒子3との接触性が大幅に改善され、被測定ガスに対して半導体微粒子2及び貴金属微粒子3の全体が、均一かつ迅速に特性変化するようになる。その結果、特性変化量が大きくなり、また変化速度も速くなるので、感度が増大し、測定時間の短縮も図ることができる。
【0071】
なお、このガス検出部1は、半導体微粒子2及び貴金属微粒子3からなる各々の微粒子同士が、通常、弱く結合された状態の焼結体であるが、本実施形態におけるこれら微粒子同士の結合や接触は、焼結体に限定されるものではなく、例えば、半導体微粒子2及び貴金属微粒子3からなる各々の微粒子同士は互いに接触するのみの状態(焼結されていない状態)であり、これら微粒子同士を孔質の絶縁性物質により結合した構造としても良い。
【0072】
「ガス検出部の製造方法」
本実施形態のガス検出部の製造方法には、特段の制限はなく、従来より用いられる製造方法を適用することが可能である。
ただし、半導体微粒子を微小化しナノメートルサイズとすることで、感度等の特性向上が得られることから、半導体微粒子及び貴金属微粒子共にナノメートルサイズとすることが好ましい。ここでナノメートルサイズの微小粒子を取り扱う場合、これらの微粒子をあらかじめ分散媒中に分散させた分散液を作製し、この分散液を用いて、微粒子同士を混合・分散させ、塗布・乾燥して製膜を行うことが有効である。
ここでは、半導体微粒子及び貴金属微粒子の分散液を用いたガス検出部の製造方法について、説明する。
【0073】
(半導体微粒子)
半導体微粒子としては、少なくとも第1の被測定ガスの存在により特性(抵抗値)が変化する半導体材料であって、必要に応じて第2の被測定ガスの存在により特性(抵抗値)が変化するものあればよく、従来よりガス検知体として用いられている無機酸化物微粒子が好適である。
この無機酸化物微粒子としては、例えば、スズ、アンチモン、鉄、タングステン、亜鉛、インジウム等の金属を成分とする金属酸化物微粒子が好適に用いられ、特に、センサ材料として広く用いられている酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO)等、被検知ガスに対して感度の高いものを選択すれば良い。
【0074】
この半導体微粒子の形状は、球状に近いことが好ましい。球状に近ければ、貴金属微粒子と互いに分散させた際に、均一に分散しやすいからである。また、形状が球状に近ければ、半導体微粒子及び貴金属微粒子からなる各々の微粒子同士が接触する部分の面積を、粒子によらず略同一にできるので、接触点の感度を均一化することができ、ガス検出部1の特性が安定する。
【0075】
この半導体微粒子の平均粒子径には特段の制限は無いが、微細であることが好ましく、具体的には3nm以上かつ500nm以下であることが好ましく、より好ましくは3nm以上かつ100nm以下、さらに好ましくは3nm以上かつ30nm以下である。
【0076】
ここで、半導体微粒子の粒子径が小さいことが好ましい理由としては、次のような点が挙げられる。まず、第1の被測定ガスを検知する場合、半導体微粒子の粒子径を小さくすることにより、半導体微粒子全体に対する表面層の割合、すなわち被検知ガスにより抵抗値が変化する領域も相対的に増加するので、半導体微粒子自体の電気抵抗(導電率)の変化量が増大するからである。また、半導体微粒子の粒子径が小さくなると、半導体微粒子及び貴金属微粒子からなる各々の微粒子同士が接触する面積を小さくすることができるので、接触点の感度が向上する。さらに、ガス感知体1の単位体積当たりの粒子数が増加するので、接触点数も増加する。
【0077】
すなわち、第1の被測定ガスの検知については、半導体微粒子の粒子径が小さくなると、各接触点や半導体微粒子自体における電気抵抗(導電率)の変化量が大きくなり、かつ粒子数や接触点数が増加するので、ガス検出部1の感度が向上する。
一方、第2の被測定ガスの検知については、半導体微粒子の粒子径を小さくすることにより、半導体微粒子と被測定ガスとの接触面積が増加するので、半導体微粒子の特性変化が均一かつ迅速に行われるようになり、ガス検出部1の感度が向上し、測定時間も短縮する。
【0078】
この半導体微粒子を分散媒中に分散させた分散液が安定に存在するためには、この半導体微粒子の平均分散粒子径が100nm以下であることが好ましい。
ここで、後述する貴金属微粒子の平均分散粒子径も同様に100nm以下であれば、半導体微粒子および貴金属微粒子を同一の分散媒中に均一に分散させた混合分散液を安定して得られ、半導体微粒子および貴金属微粒子からなる複合堆積物を良好な状態で得ることができるので、好ましい。
さらに、形状が球状に近く、平均粒子径が3nm以上かつ100nm以下であれば、本実施形態の製造方法にて得られたガス感知体における微粒子間の空隙の寸法と形状を、被検知ガスが通過するのに適したものとすることができる。
【0079】
この半導体微粒子は、水熱合成法にて得られた金属酸化物微粒子であることが好ましい。
この半導体微粒子は、分散液、特に水系の分散液中に分散させることを考慮すると、表面が親水性であることが好ましいが、水熱合成法を用いれば、表面の親水性が高く、かつ組成や粒子径が均一で微細な金属酸化物微粒子を容易に得ることができるからである。
【0080】
(貴金属微粒子)
貴金属微粒子としては、常温(25℃)からガスセンサの作動温度までの温度範囲にて酸化されず、また無機酸化物微粒子と反応することなく安定であればよく、また、この温度範囲では半導体微粒子と焼結する虞がなければよい。
なお、ガスセンサの作動温度とは、ガス検知時にガス感知体が加熱される温度であり、通常200℃から400℃の温度範囲内にて測定ガスの種類やガス感知体の特性により適宜選択される。
【0081】
また、貴金属微粒子は、第2の被測定ガスの存在により特性が変化する貴金属を選択することが好ましい。これは、第1の被測定ガスによる変化は、半導体微粒子における抵抗値の変化、第2の被測定ガスによる変化は、貴金属微粒子の特性変化に起因する金属−半導体間の接合効果による抵抗値の変化、と、被測定ガスごとに対象となる微粒子を分離させたほうが、測定や結果の解釈が容易になり、好ましいからである。
特に、半導体微粒子が第2の被測定ガスに対して特性変化を生じさせない場合には、貴金属微粒子が、第2の被測定ガスに対して特性変化を生じさせることが必須である。
【0082】
このような貴金属微粒子としては、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムの群から選択される1種または2種以上を用いることができる。特に、金、銀、白金、パラジウムは、測定感度を向上させることが可能な触媒特性を有しているので好適である。なお、2種以上の貴金属を用いる場合には、各貴金属単独の微粒子の混合物でもよく、また合金として用いてもよい。
【0083】
この貴金属微粒子の平均粒子径は、上記の半導体微粒子の平均粒子径の0.5倍以上かつ2倍以下であることが好ましく、より好ましくは半導体微粒子の平均粒子径の0.8倍以上かつ1.25倍以下、さらに好ましくは半導体微粒子の平均粒子径とほぼ同等の大きさである。
また、形状についても、半導体微粒子と同様、球状に近いことが好ましい。
【0084】
この貴金属微粒子においても、分散液が安定に存在するためには、分散粒子の平均分散粒子径が100nm以下であることが好ましい。
そして、貴金属微粒子の平均粒子径が上記の半導体微粒子の平均粒子径の0.5倍以上かつ2倍以下であれば、半導体微粒子と貴金属微粒子とは、同一分散媒中にて容易かつ均一に分散させることができ、分散性に優れた分散液とすることができる。このように、半導体微粒子と貴金属微粒子とが同一分散媒中にて均一に分散していれば、この分散液から分散媒を除去することにより得られた貴金属微粒子含有半導体微粒子堆積物においても、半導体微粒子と貴金属微粒子とを均一に分散させることができ、特性のバラツキの無い良好な特性のガス感知体を得ることができる。
【0085】
さらに、貴金属微粒子の平均粒子径や形状が半導体微粒子のそれと同等であるほど、ガス感知体の製造時においては、これら微粒子を含む分散液を作製し、この分散液から貴金属微粒子含有半導体微粒子堆積物を生成する際に、半導体微粒子と貴金属微粒子とが均一に分散し易くなり、良好なガス感知体を得ることができるので好ましい。
また、半導体微粒子と貴金属微粒子との体積比率を調整してガス感知体の特性を制御する場合においても、これら半導体微粒子及び貴金属微粒子の平均粒子径や形状が揃っていれば、理論値との近似性も得られ、制御が容易となるので好ましい。
【0086】
一方、貴金属微粒子の平均粒子径が半導体微粒子の平均粒子径の0.5倍未満であったり、あるいは2倍を超えた場合には、これら半導体微粒子及び貴金属微粒子が均一に分散し難くなり、その結果、特性の実測値が理論値と大きくずれることとなり、特性の制御が難しくなるので好ましくない。
【0087】
この貴金属微粒子の製造方法としては、この貴金属の塩を含む水溶液に還元剤を加えて該水溶液中の貴金属イオンを還元し、析出させる方法が適している。
この貴金属微粒子も、水系の分散液中に分散させることを考慮すると、表面が親水性であることが好ましいが、水溶液中で貴金属微粒子を形成させれば、表面の親水性が高く、微細な貴金属微粒子を容易に得ることができるからである。
【0088】
(分散液)
この分散液は、半導体微粒子及び貴金属微粒子を含む分散液であり、半導体微粒子及び貴金属微粒子が均一に分散されたものであればよく、特に制限はない。
ただし、分散液中に含まれる成分としては、半導体微粒子及び貴金属微粒子を除く固形成分はできるだけ少ないことが好ましく、分散液中の全固形成分中における半導体微粒子及び貴金属微粒子の合計の割合は、95体積%以上である必要がある。
【0089】
その理由は、この分散液から得られる「貴金属微粒子含有半導体微粒子堆積物」においては、半導体微粒子及び貴金属微粒子を除く固形成分はできるだけ少ないことが好ましいからである。
本実施形態のガス検出部においては、第1の被測定ガスの検知においては半導体微粒子同士の結合(接触)領域、第2の被測定ガスの検知においては半導体微粒子と貴金属微粒子との結合(接触)領域が、ガス感知体の感度を左右する。ここで、半導体微粒子及び貴金属微粒子以外の固形成分が半導体微粒子及び貴金属微粒子の表面に被膜等を形成すると、半導体微粒子同士及び半導体微粒子と貴金属微粒子との接触が阻害され、ガス検出部の感度を低下させる虞があるので、好ましくない。特に、半導体微粒子及び貴金属微粒子以外の固形成分量が5体積%を越えると、感度低下等の虞があり、影響が無視できなくなる。
【0090】
この半導体微粒子及び貴金属微粒子を除く固形成分としては、バインダー成分、界面活性剤等が挙げられる。これらは塗膜の作製を容易にする目的等により添加されるものであるが、上述したように分散液中の全固形成分中における割合は、5体積%未満である必要がある。
例えば、無機系のバインダー成分であるトリエトキシシランの加水分解物を添加した場合、この加水分解物から絶縁体であるシリカが生成する。ここで、このトリエトキシシランの加水分解物の全固形成分中における割合(シリカ換算)が5体積%以上となると、ガス感知体の抵抗値が増加したり、感度の低下が生じる虞があるので、好ましくない。
【0091】
このような半導体微粒子及び貴金属微粒子を含む分散液としては、水系分散液が好ましい。
半導体微粒子である無機酸化物微粒子や貴金属微粒子は、本来、表面が親水性であり、水系分散媒中にて安定に分散するという性質を有している。そこで、水系分散媒を用いれば、分散剤や表面処理剤を用いることなく、半導体微粒子及び貴金属微粒子が均一に分散した状態となり、凝集物等の不具合が生じない良好な分散液を得ることができるからである。また、良好な分散液からは、均一性の良好な貴金属微粒子含有半導体微粒子堆積物を得ることができるので、特性の向上したガス感知体を得られるからである。
【0092】
すなわち、半導体微粒子の表面及び貴金属微粒子の表面は親水性を有していることが好ましく、これら微粒子の親水性を維持しつつ安定な分散液を得るという点からも、水系分散媒を用いた水系分散液とすることが好ましい。
特に、上述した通り、水熱合成法にて作製された金属酸化物微粒子や、金属イオンを還元して得られた貴金属微粒子であれば、表面の親水性がより高められているので、水系分散媒との相性が良くより好適である。
【0093】
一方、水系分散媒の替わりに有機系分散媒、特に非極性の分散媒を用いる場合には、半導体微粒子の表面や貴金属微粒子の表面が非極性の分散媒に対して親和性を持たせるようにするために、これらの表面を表面処理剤等にて表面処理し、これらの表面に疎水性の膜を形成する必要がある。しかしながら、表面処理により半導体微粒子の表面や貴金属微粒子の表面に形成された膜は絶縁性であり、さらに、本実施形態の製造方法における熱処理工程が、必ずしも高温を必要としないことから、表面処理剤等が残留し易い。この膜が残留するとガス感知体の特性を劣化させる可能性が高く、好ましくない。
【0094】
これらの半導体微粒子及び貴金属微粒子を水系分散媒に分散させる方法としては、例えば、ボールミル、攪拌ミル、ジェットミル、振動ミル、アトライター、高速ミル、ハンマーミル等による分散を挙げることができる。
なお、上述したように、水熱合成法により得られた半導体微粒子や金属イオンを還元して得られた貴金属微粒子は、製造時点において水系の反応溶液中に存在した状態となっている。そこで、この反応溶液を水と置換して分散液とすれば、微粒子を乾燥させることなく分散液を得ることができ、乾燥による微粒子の凝集を防ぐことができるほか、分散工程を省略することができるので、より好ましい。
以上により、半導体微粒子及び貴金属微粒子を水中に分散させた半導体微粒子及び貴金属微粒子を含む分散液を得ることができる。
【0095】
(貴金属微粒子含有半導体微粒子堆積物の生成)
上記の半導体微粒子及び貴金属微粒子を含む分散液から分散媒を除去することにより、貴金属微粒子含有半導体微粒子堆積物を生成する。
より具体的には、基板上に、上記の半導体微粒子及び貴金属微粒子を含む分散液を塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜を乾燥させることにより、貴金属微粒子含有半導体微粒子堆積物を生成する。
【0096】
基板としては、後述する熱処理工程で用いられる温度以上の耐熱性と電気的絶縁性を有していれば、特段の制限はないが、シリカ、アルミナ等からなるセラミック基板、石英ガラス等からなるガラス基板が好適に用いられる。
塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷法等の各種印刷法が好ましい。さらに、近年におけるガス感知体の小型化、薄膜化への進展に伴い、用いられる分散液(塗料)の使用量も減少しているので、微少量の分散液(塗料)を位置制御性良く塗布することができる装置、例えば、マイクロディスペンサ、インクジェット装置等を用いることが好ましい。
【0097】
このようにして得られた塗布膜を乾燥させて、貴金属微粒子含有半導体微粒子堆積物を生成する。
乾燥方法も特段の制限はなく、通常の加熱乾燥機等を用いればよい。
加熱乾燥する際の加熱温度は、20℃以上かつ300℃以下が好ましく、より好ましくは30℃以上かつ150℃以下である。
なお、300℃を超える高温乾燥や急速な加熱乾燥は、分散媒が急激に蒸発し、塗布膜に膨張や変形を生じさせる虞があるので好ましくない。
特に、水系分散媒を用いた場合、100℃以下にて乾燥もしくは加熱乾燥させることが好ましい。また、乾燥を促進するために、減圧乾燥もしくは減圧加熱乾燥を行っても良い。
以上により、貴金属微粒子含有半導体微粒子堆積物を生成させることができる。
【0098】
(ガス検出部の形成)
・貴金属微粒子含有半導体微粒子堆積物の熱処理
上記のようにして得られた貴金属微粒子含有半導体微粒子堆積物を熱処理し、半導体微粒子及び貴金属微粒子からなる各々の微粒子同士を結合(弱い焼結)して微粒子間を固定することにより、半導体微粒子及び貴金属微粒子を含み安定な構造となったガス検出部を得る。
熱処理温度と時間は、半導体微粒子及び貴金属微粒子同士が結合(弱い焼結)する温度と時間であれば良い。しかしながら、焼結が進むと、半導体微粒子及び貴金属微粒子からなる各々の微粒子同士の接触面(焼結面)が拡大するので、ガス感知体自体の強度は向上するものの、感度が低下するので好ましくない。したがって、熱処理温度と時間は、得られるガス感知体が必要とされる強度、例えば物理的な衝撃により破損や劣化が生じない範囲で可能な限り低温・短時間であることが好ましい。
【0099】
また、熱処理温度としては、これにより得られたガス感知体が適用されるガスセンサの作動温度以上である必要がある。加熱温度がガスセンサの作動温度より低い場合、ガスセンサの動作中に絶縁性物質の状態が変化してしまい、その結果、ガス感知体の特性が変化し、場合によっては劣化してしまうので好ましくない。
これらの点を考慮すると、熱処理温度は400℃から600℃程度、熱処理時間は30分から2時間程度が好適である。
【0100】
なお、加熱雰囲気は、半導体微粒子が酸化物であり、貴金属微粒子が容易に酸化しないことから、大気中で良い。
また、この熱処理工程は、前工程である加熱乾燥と連続させて行ってもよく、例えば、貴金属微粒子含有半導体微粒子堆積物を100℃で乾燥させた後、そのまま400℃まで昇温して熱処理工程を行ってもよい。
【0101】
以上により、半導体微粒子及び貴金属微粒子からなる各々の微粒子同士が相互に結合ないしは固定化されて安定な構造となった、本実施形態のガス検出部を得ることができる。
このようにして得られたガス検出部に対して、測定用の電極や加熱用ヒータを取り付け、必要なパッケージングやケーシングを行うことにより、高感度で高耐久性のガスセンサを得ることができる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0103】
[実施例1、2及び比較例1]
実施例1、2及び比較例1にて用いられるガス感知体用基板Aは、下記のようにして作製した。
縦1.5mm、横1.5mm、厚み0.2mmのアルミナ基板の表面に、金(Au)からなる縦0.6mm、横0.5mm、電極幅0.15mmの櫛形電極を間隔0.1mmにて対向させた検出用電極を、スクリーン印刷法により形成した。次いで、この電極を形成したアルミナ基板の裏面にガス感知体加熱用のヒータを形成し、ガス感知体用基板Aとした。
【0104】
また、実施例1、2及び比較例1のガス感知体の抵抗値は、図3に示す測定回路を用いて測定した。
この測定回路11では、ガス感知体12と固定抵抗器13とを直列に接続し、ガス感知体12の入力側端子14と固定抵抗器13の出力側端子16との間に1Vの電圧を印加したときの固定抵抗器13の入力側端子15と出力側端子16との間の電圧をデジタルマルチメーターで測定し、印加電圧(1V)と固定抵抗器13の両端の電圧および固定抵抗器13の抵抗値から、ガス感知体12の抵抗値を算出した。
【0105】
また、実施例1、2及び比較例1のガス感知体の感度は、図4に示す測定装置を用いて測定した。
この測定装置21は、ガス感知体12を収納し保持する内径30mmの石英製ガラス菅22と、ガス感知体12の抵抗値を測定する測定回路(図示略)と、ガス感知体12に形成されたヒータに通電してガス感知体12を動作温度まで加熱する加熱回路(図示略)とから構成され、このガラス管22内に標準ガス23及びサンプルガス24をそれぞれ導入したときのガス感知体12の抵抗値を測定する装置である。
【0106】
「実施例1」
塩化第二スズ(SnCl・5HO)670質量部を6mol/Lの塩酸3000質量部に溶解し、得られた水溶液に25%のアンモニア水溶液200質量部を混合しながら添加した。得られた沈殿物を濾過し、脱イオン水で洗浄後、脱イオン水を加えて1質量%の濃度に調整し、水熱合成用原料とした。
この水熱合成用原料をオートクレーブに入れて350℃にて5時間加熱し、得られた水熱合成生成物を含む反応液をエバポレータで濃縮し、酸化スズ微粒子を含む水溶液を得た。
【0107】
水熱合成により得られた酸化スズ微粒子の粒子径を透過型電子顕微鏡により測定した結果、平均一次粒子径は約10nmであった。
得られた酸化スズ微粒子を脱イオン水で洗浄後、脱イオン水中に0.2質量%の濃度になるように分散させて酸化スズ微粒子分散液Aとした。
【0108】
一方、0.15mmol/Lの塩化金酸を含有しpHを5.7に調整した水溶液と、0.15mmol/Lの水素化ホウ素ナトリウムを含有する水溶液を等量、20℃に保持しながら混合し、得られたコロイド状分散液を限外濾過法により濃縮、精製して、分散濃度が30質量%の金微粒子を含む水溶液を得た。
得られた金微粒子の粒子径を透過型電子顕微鏡により測定した結果、平均一次粒子径は約10nmであった。
得られた金微粒子を脱イオン水で洗浄後、脱イオン水中に0.2質量%の濃度になるように分散させて金微粒子分散液Aとした。
【0109】
次いで、酸化スズ微粒子分散液Aを99mL、金微粒子分散液Aを1mL、それぞれ採取して混合し、混合液Aを得た。
次いで、この混合液Aを5μL採取し、ガス感知体用基板Aの櫛形電極上に滴下した後、60℃にて3時間加熱し、ガス感知体用基板A上に金微粒子含有酸化スズ微粒子堆積物Aを形成した。
次いで、この金微粒子含有酸化スズ微粒子堆積物Aが形成されたガス感知体用基板Aを、大気雰囲気中、400℃にて1時間加熱し、実施例1のガス感知体Aを得た。
【0110】
次いで、このガス感知体Aの抵抗値を、図3に示す測定回路11を用いて測定した。
まず、ガス感知体Aと固定抵抗器13とを直列に接続し、ガス感知体Aの入力側端子14と固定抵抗器13の出力側端子16との間に1Vの電圧を印加したときの固定抵抗器13の入力側端子15と出力側端子16との間の電圧をデジタルマルチメーターで測定し、印加電圧(1V)と固定抵抗器13の両端の電圧および固定抵抗器13の抵抗値から、ガス感知体Aの抵抗値を算出した。
測定の結果、このガス感知体Aの抵抗値は267kΩであった。
【0111】
次いで、このガス感知体Aの感度を、図4に示す測定装置21を用いて測定した。
まず、ガラス管22内にガス感知体Aを固定し、必要な回路を結線した後、ガス感知体Aに形成したヒータに通電してガス感知体Aを動作温度である300℃まで昇温して保持した。この状態で、このガラス管22内に標準ガス23を10mL/秒にて導入し、このガス感知体Aの抵抗値Raを測定した。標準ガス23としては、酸素を20体積%、窒素を80体制%含有し、温度25℃における相対湿度が40%に制御された混合ガスを用いた。
【0112】
次いで、このガラス管22内にサンプルガス24を10mL/秒にて導入し、抵抗値が安定する250秒後のガス感知体Aの抵抗値Rgを測定し、次いで、これらの抵抗値Ra及び抵抗値Rgの比Ra/Rgを求め、この比Ra/Rgをガス感知体Aの感度とした。サンプルガス24としては、標準ガス23に、硫化水素(HS)、水素(H)、トルエン(C−CH)を各3ppmづつ混合したものを用いた。
【0113】
最後に、再び標準ガス23を導入し、ガス感知体Aの抵抗値が回復し、測定に異常がないことを確認した。
測定の結果、このガス感知体Aの感度は、硫化水素が33、トルエンが37、水素が4.3であった。
【0114】
「実施例2」
実施例1と同様にして作製された酸化スズ微粒子分散液Aを7mL、及び金微粒子分散液Aを3mL、それぞれ採取して混合し、混合液Bを得た。
次いで、この混合液Bを用いて、実施例1と同様にして実施例2のガス感知体Bを得た。
【0115】
次いで、この実施例2のガス感知体Bの抵抗値及び感度を、実施例1と同様の方法により測定した。
測定の結果、このガス感知体Bの抵抗値は1000kΩであった。
また、このガス感知体Bの感度は、硫化水素が100、トルエンが6.7、水素が16.7であった。
【0116】
「比較例1」
実施例1と同様にして作製された酸化スズ微粒子分散液Aのみを用いて、実施例1と同様にして比較例1のガス感知体Cを得た。このガス感知体Cには、金微粒子は含まれていない。
【0117】
次いで、この比較例1のガス感知体Cの抵抗値及び感度を、実施例1と同様の方法により測定した。
測定の結果、このガス感知体Cの抵抗値は90kΩであった。
また、このガス感知体Cの感度は、硫化水素が9.1、トルエンが4.2、水素が6.3であった。
実施例1、2及び比較例1の結果を表1に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
実施例1、2と比較例1とを比較すると、実施例1では、金微粒子を1体積%含んでいるので、ガス検出部が酸化スズのみで形成されている比較例1に対して、トルエンの感度が向上していることが分かる。これは、金微粒子の触媒効果によるものと考えられる。一方、硫化水素及び水素は、さほどの感度向上は示していない。
実施例2では、金微粒子を30体積%含んでいるので、ガス検出部が酸化スズのみで形成されている比較例1に対して、トルエンの感度の向上は認められないものの、硫化水素及び水素に対する感度が向上していることが分かる。
以上により、実施例1、2によれば、微粒子中の金微粒子の割合(比率)を変えることにより、被測定ガスの選択が可能であることが分かった。
【0120】
また、実施例1、2と比較例1の抵抗値を比較すると、金微粒子を含まない比較例1が最も低く、続いて実施例1、実施例2の順に高くなっており、金微粒子量の増加に伴い抵抗値も増加している。これは、ガス検出部における酸化スズ微粒子と金微粒子間の結合(接触)面において、ショットキー接合効果等が発現していることを裏付けている。
【0121】
[実施例3〜9及び比較例2、3]
実施例3〜9及び比較例2、3にて用いられるガス感知体用基板Bは、下記のようにして作製した。
縦10mm、横10mm、厚み0.2mmの石英基板の表面に、金(Au)からなる縦6mm、横4mm、電極幅1mmの櫛形電極を間隔0.5mmにて対向させた検出用電極を蒸着法により形成し、ガス感知体用基板Bとした。
なお、このガス感知体用基板Bでは、ガス感知体の加熱を外部ヒータにより行ったため、ヒータの形成は行なっていない。
【0122】
実施例3〜9及び比較例2、3のガス感知体の感度は、図5に示す測定装置を用いて測定した。
この測定装置31は、ガス感知体12を収納し保持する内径30mmの石英製ガラス菅32と、ガス感知体12を動作温度まで加熱するヒータ部33とからなる環状電気炉34と、ガス感知体12の抵抗値を測定する測定回路(図示略)とから構成され、この環状電気炉34内に標準ガス23及びサンプルガス24をそれぞれ導入したときのガス感知体12の抵抗値を測定する装置である。なお、ガス感知体の抵抗値測定回路は、実施例1と同様である。
【0123】
「実施例3」
実施例1と同様にして作製された酸化スズ微粒子分散液Aを99.5mL、及び金微粒子分散液Aを0.5mL、それぞれ採取し、これらを混合して混合液Dを得た。
次いで、この混合液Dを30μL採取し、ガス感知体用基板Bの櫛形電極上に滴下した後、60℃にて3時間加熱し、ガス感知体用基板B上に金微粒子含有酸化スズ微粒子堆積物Dを形成した。
次いで、この金微粒子含有酸化スズ微粒子堆積物Dが形成されたガス感知体用基板Bを、大気雰囲気中、400℃にて1時間加熱し、実施例3のガス感知体Dを得た。
【0124】
次いで、このガス感知体Dの感度を、図5に示す測定装置31を用いて測定した。
まず、環状電気炉34のガラス菅32内にガス感知体Dを固定し、必要な回路を結線した後、ヒータ部33に通電してガス感知体Dを動作温度である300℃まで昇温して保持した。この状態で、このガラス管32内に標準ガス23を10mL/秒にて導入し、このガス感知体Bの抵抗値Raを測定した。標準ガス23は、実施例1と同様のガスを用いた。
【0125】
次いで、このガラス管32内にサンプルガス24を10mL/秒にて導入し、抵抗値が安定する250秒後のガス感知体Dの抵抗値Rgを測定し、次いで、これらの抵抗値Ra及び抵抗値Rgの比Ra/Rgを求め、この比Ra/Rgをガス感知体Dの感度とした。サンプルガス24としては、標準ガス23に、硫化水素(HS)を3ppm、トルエン(C−CH)を50ppb混合したものを用いた。
【0126】
最後に、再び標準ガス23を導入し、ガス感知体Dの抵抗値が回復し、測定に異常がないことを確認した。
測定の結果、このガス感知体Dの感度は、硫化水素が420、トルエンが10.1であった。
【0127】
「実施例4」
実施例1と同様にして作製された酸化スズ微粒子分散液Aを99mL、及び金微粒子分散液Aを1mL、それぞれ採取し、これらを混合して混合液Eを得た。
次いで、この混合液Eを用いて、実施例3と同様にして実施例4のガス感知体Eを得た。
【0128】
次いで、この実施例4のガス感知体Eの感度を、実施例3と同様の方法により測定した。その結果、このガス感知体Eの感度は、硫化水素が534、トルエンが16.6であった。
また、このガス感知体Eの感度を、動作温度を350℃としたこと以外は実施例3と同様の方法により測定した結果、このガス感知体Eの感度は、硫化水素が122、トルエンが6.4であった。
【0129】
「実施例5」
実施例1と同様にして作製された酸化スズ微粒子分散液Aを98.5mL、及び金微粒子分散液Aを1.5mL、それぞれ採取し、これらを混合して混合液Fを得た。
次いで、この混合液Fを用いて、実施例3と同様にして実施例5のガス感知体Fを得た。
次いで、この実施例5のガス感知体Fの感度を、実施例3と同様の方法により測定した結果、このガス感知体Fの感度は、硫化水素が560、トルエンが13.2であった。
【0130】
「実施例6」
実施例1と同様にして作製された酸化スズ微粒子分散液Aを96mL、及び金微粒子分散液Aを4mL、それぞれ採取し、これらを混合して混合液Gを得た。
次いで、この混合液Gを用いて、実施例3と同様にして実施例6のガス感知体Gを得た。
次いで、この実施例6のガス感知体Gの感度を、実施例3と同様の方法により測定した結果、このガス感知体Gの感度は、硫化水素が820、トルエンが10.8であった。
【0131】
「実施例7」
実施例1と同様にして作製された酸化スズ微粒子分散液Aを9mL、及び金微粒子分散液Aを1mL、それぞれ採取し、これらを混合して混合液Hを得た。
次いで、この混合液Hを用いて、実施例3と同様にして実施例7のガス感知体Hを得た。
【0132】
次いで、この実施例7のガス感知体Hの感度を、実施例3と同様の方法により測定した。その結果、このガス感知体Hの感度は、硫化水素が1815、トルエンが2.9であった。
また、このガス感知体Hの感度を、動作温度を350℃としたこと以外は実施例3と同様の方法により測定した結果、このガス感知体Hの感度は、硫化水素が101、トルエンが1.3であった。
【0133】
「実施例8」
実施例1と同様にして作製された酸化スズ微粒子分散液Aを7mL、及び金微粒子分散液Aを3mL、それぞれ採取し、これらを混合して混合液Iを得た。
次いで、この混合液Iを用いて、実施例3と同様にして実施例8のガス感知体Iを得た。
【0134】
次いで、この実施例8のガス感知体Iの感度を、実施例3と同様の方法により測定した。その結果、このガス感知体Iの感度は、硫化水素が10716、トルエンが1.8であった。
また、このガス感知体Iの感度を、動作温度を350℃としたこと以外は実施例3と同様の方法により測定した結果、このガス感知体Iの感度は、硫化水素が732、トルエンが1.2であった。
【0135】
「実施例9」
実施例1と同様にして作製された酸化スズ微粒子分散液Aを6mL、及び金微粒子分散液Aを4mL、それぞれ採取し、これらを混合して混合液Jを得た。
次いで、この混合液Jを用いて、実施例3と同様にして実施例9のガス感知体Jを得た。
【0136】
次いで、この実施例9のガス感知体Jの感度を、実施例3と同様の方法により測定した。その結果、このガス感知体Jの感度は、硫化水素が2506、トルエンが1.8であった。
また、このガス感知体Jの感度を、動作温度を350℃としたこと以外は実施例3と同様の方法により測定した結果、このガス感知体Jの感度は、硫化水素が145、トルエンが1.1であった。
【0137】
また、このガス感知体Jの抵抗値は366Ωしかなく、他の実施例の抵抗値がkΩオーダーからMΩオーダーの範囲であるのと比べて大幅に低下していた。これは、貴金属微粒子の量が臨界濃度に近い状態であることを示しており、金微粒子の量が多いために硫化水素の感度が低下したものと考えられる。
【0138】
「比較例2」
実施例1と同様にして作製された酸化スズ微粒子分散液Aのみを用いて、実施例3と同様にして比較例2のガス感知体Kを得た。このガス感知体Kには、金微粒子は含まれていない。
次いで、この比較例2のガス感知体Kの感度を、実施例3と同様の方法により測定した。その結果、このガス感知体Kの感度は、硫化水素が85、トルエンが1.9であった。
【0139】
「比較例3」
実施例1と同様にして作製された酸化スズ微粒子分散液Aを5mL、及び金微粒子分散液Aを5mL、それぞれ採取し、これらを混合して混合液Lを得た。
次いで、この混合液Lを用いて、実施例3と同様にして比較例3のガス感知体Lを得た。
【0140】
次いで、この比較例3のガス感知体Lの感度を、実施例3と同様の方法により測定した。その結果、このガス感知体Lの感度は、硫化水素が25、トルエンが0.9であった。
このガス感知体Lの抵抗値は10Ω以下しかなく、金属としての特性を示していた。これは、貴金属微粒子の量が臨界濃度を超えた状態であることを示しており、ガス感知体としては不適当であった。
実施例3〜9及び比較例2、3の抵抗値及び動作温度300℃におけるガス感度の測定結果を表2に、実施例4、7〜9の動作温度350℃におけるガス感度の測定結果を表3に、それぞれ示す。
【0141】
【表2】

【0142】
【表3】

【0143】
実施例3〜9と比較例2、3とを比較すると、実施例3〜6では、金微粒子を0.5体積%〜4体積%含んでいるので、ガス検出部が酸化スズのみで形成されている比較例2に対して、トルエンの感度が向上していることが分かる。これは、金微粒子の触媒効果によるものと考えられる。一方、硫化水素に対しては、さほどの感度向上は示していない。
【0144】
実施例7〜9では、金微粒子を10体積%〜40体積%含んでいるので、トルエンに対しての感度向上は認められないものの、硫化水素に対しては感度が向上していることが分かる。
すなわち、半導体微粒子中に、半導体微粒子の粒子径と略同一の粒子径を有する貴金属微粒子を分散させることにより、感度の向上が図られており、さらに半導体微粒子と貴金属微粒子との比率を調整することにより、ガス選択性を有することが分かる。
【符号の説明】
【0145】
1 ガス感知体
2 半導体微粒子
3 貴金属微粒子
4 3次元の複合構造体
5 気孔
11 測定回路
12 ガス感知体
13 固定抵抗器
14 入力側端子
15 入力側端子
16 出力側端子
21 測定装置
22 石英製ガラス菅
23 標準ガス
24 サンプルガス
31 測定装置
32 石英製ガラス菅
33 ヒータ部
34 環状電気炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス検出部の電気抵抗の変化を利用して被検知ガスの濃度を測定するガス感知体において、
前記ガス検出部は、半導体微粒子及び貴金属微粒子を含み、
前記貴金属微粒子の平均粒子径は、前記半導体微粒子の平均粒子径の0.5倍以上かつ2倍以下であり、
前記貴金属微粒子の該貴金属微粒子と前記半導体微粒子との合計量に対する体積比率は、0.5体積%以上かつ40体積%以下であることを特徴とするガス感知体。
【請求項2】
前記半導体微粒子自体、前記半導体微粒子同士の結合面ないしは接触面、前記半導体微粒子自体及び前記半導体微粒子同士の結合面ないしは接触面、のうちいずれか1種がガス検知機能を有するとともに、
前記貴金属微粒子と前記半導体微粒子との結合面ないしは接触面は、金属−半導体接合効果を有することを特徴とする請求項1記載のガス感知体。
【請求項3】
前記半導体微粒子と前記貴金属微粒子との体積比率を変えることにより、前記ガス検出部にガス選択性を持たせることを特徴とする請求項1または2記載のガス感知体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載のガス感知体を備えてなることを特徴とするガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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