説明

ガス拡散層前駆体の製造方法及び装置、並びにガス拡散層の製造方法及び装置

【課題】量産化に適したガス拡散層前駆体の製造方法及び装置、並びにガス拡散層の製造方法及び装置を提供することを課題とする。
【解決手段】長尺の基材Aを巻き出すステップと、熱硬化性樹脂、及び溶剤を含むガス拡散層用ペーストを基材A上に塗布するステップと、基材A上に塗布されたガス拡散層用ペーストを加熱して、熱硬化性樹脂の硬化温度未満の温度で溶剤を乾燥させるステップと、ガス拡散層用ペーストを乾燥させることにより形成されたガス拡散層前駆体Bを巻き取るステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス拡散層前駆体の製造方法及び装置、並びにガス拡散層の製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質の両面に電極が配置され、水素と酸素の電気化学反応により発電する電池であり、発電時に発生するのは水のみである。このように従来の内燃機関と異なり、二酸化炭素等の環境負荷ガスを発生しないために次世代のクリーンエネルギーシステムとして普及が見込まれている。その中でも特に固体高分子形燃料電池(PEFC)は、作動温度が低く、電解質の抵抗が少ないことに加え、活性の高い触媒を用いるので小型でも高出力を得ることができ、家庭用コージェネレーションシステム等の用途として早期の実用化が見込まれている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒層が形成されており、この各触媒層上にガス拡散層が配置された構造となっている。このガス拡散層は、従来、炭素繊維を抄紙したシートに樹脂を含浸し、これを加熱して樹脂を炭化させて製造されていた(例えば、特許文献1参照)。これに対して、近年、基材上に少なくとも炭素材料と樹脂からなるガス拡散層用ペーストを塗布して焼成することによりガス拡散層を形成した後に基材を剥離する製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−167855号公報
【特許文献2】特開2006−228514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したガス拡散層に関して、量産化に適応した製造方法は未だ提案されておらず、固体高分子形燃料電池の普及が期待される中、効率的に量産化が可能なガス拡散層製造方法が要望されていた。そこで、本発明は、量産化に適したガス拡散層前駆体の製造方法及び装置、並びにガス拡散層の製造方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るガス拡散層前駆体の製造方法は、長尺の基材を巻き出すステップと、熱硬化性樹脂、及び溶剤を含むガス拡散層用ペーストを前記巻き出された基材上に塗布するステップと、前記基材上に塗布されたガス拡散層用ペーストを加熱して、前記熱硬化性樹脂の硬化温度未満の温度で前記溶剤を乾燥させるステップと、前記ガス拡散層用ペーストを乾燥させることにより形成されたガス拡散層前駆体を巻き取るステップと、を含んでいる。
【0007】
この製造方法によれば、ガス拡散層前駆体を巻き取ってガス拡散層前駆体のロール体を得ることができるため、ガス拡散層を製造する際には、このロール状のガス拡散層前駆体を連続的に巻き出しながら供給し、熱硬化性樹脂を硬化させるだけでガス拡散層が製造できる。これによって、生産効率が高まり、量産に適している。また、基材上に塗布されたガス拡散層用ペーストの溶剤を乾燥させてガス拡散層前駆体を形成してから巻き取るために、巻き取りの際に基材の裏面にガス拡散層用ペーストが付着するといった問題を防ぐことができるとともに、ガス拡散層を製造する際において基材を剥離してもガス拡散層前駆体を単独で搬送させることができる。また、この乾燥において、その乾燥温度を熱硬化性樹脂の硬化温度未満としているため、ガス拡散層前駆体は完全に硬化しておらず屈曲性を有しており、ロール状に巻き取ることが可能となる。なお、上記溶剤を乾燥させるステップにおいては、ガス拡散層前駆体が基材を剥離しても自立できる程度であれば溶剤が完全に乾燥している必要はなく、溶剤が一部残っていてもよい。
【0008】
上記ガス拡散層前駆体の曲げ弾性率を100〜5000MPaとすることで、ガス拡散層前駆体に好ましい屈曲性を付与することができ、容易に巻き取ることができる。
【0009】
また、上記ガス拡散層前駆体の曲げ強度を0.1〜50MPaとすることで、巻き取る際にガス拡散層前駆体が損傷することを防止できる。
【0010】
また、上記ガス拡散層前駆体と基材との剥離強度を0.01〜1N/mm程度とすることにより、ガス拡散層前駆体を基材に十分に支持させることができるとともに、ガス拡散層前駆体を損傷させることなく基材から剥離させることができる。
【0011】
また、ガス拡散層前駆体の引張強さを、ガス拡散層前駆体と基材との剥離強度よりも、0.05N/mm以上大きくすることによって、ガス拡散層前駆体から基材を剥離するときにガス拡散層前駆体が損傷することをより確実に防ぐことができる。
【0012】
また、上記基材は、ガス拡散層用ペーストが塗布される面に離型層を有していることが好ましい。
【0013】
本発明に係るガス拡散層の製造方法は、上記いずれかのガス拡散層前駆体の製造方法と、前記基材とともに巻き取られたガス拡散層前駆体を巻き出すステップと、前記ガス拡散層前駆体から基材を剥離するステップと、前記基材が剥離されたガス拡散層前駆体を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させるステップと、を含んでいる。
【0014】
このガス拡散層の製造方法によれば、上記ガス拡散層前駆体の製造方法を含んでいるため、上述した効果を奏するとともに、基材を剥離してからガス拡散層前駆体を加熱しているため、熱硬化性樹脂が硬化するように加熱したときの温度に耐えられずに基材が熱収縮するという問題を防ぐことができる。
【0015】
上記ガス拡散層用ペーストは、熱硬化性樹脂とは別に炭素材料を決着させるバインダーを含んでいても良い。上記バインダーとして用いる樹脂は特に限定されてないが、撥水性を有していることが好ましい。撥水性を有する樹脂をバインダーとして用いることで、ガス拡散層内に水が溜まることを防止できる。
【0016】
本発明に係るガス拡散層前駆体製造装置は、長尺の基材を巻き出す第1の巻出し部と、熱硬化性樹脂及び溶剤を含むガス拡散層用ペーストを前記巻き出された基材上に塗布する塗布部と、前記塗布部の下流側に設置され、前記ガス拡散層用ペーストを加熱して、前記熱硬化性樹脂の硬化温度未満の温度で前記溶剤を乾燥させるための乾燥部と、前記ガス拡散層用ペーストを乾燥させることにより形成されたガス拡散層前駆体を巻き取る第1の巻取り部と、を備えている。
【0017】
このガス拡散層前駆体製造装置によれば、ガス拡散層前駆体のロール体を得ることができるため、ガス拡散層を製造する際には、このガス拡散層前駆体のロール体を連続的に巻き出しながら供給して熱硬化性樹脂を硬化させるだけでガス拡散層が製造できる。これによって生産効率が高まり、量産に適している。また、乾燥部にてガス拡散層ペーストを加熱して溶剤を乾燥させてガス拡散層前駆体としてからガス拡散層前駆体を巻き取っているため、巻き取った際に基材の裏面にガス拡散層用ペーストが付着するといった問題を防ぐことができるとともに、ガス拡散層を製造する際において基材を剥離してもガス拡散層前駆体を単独で搬送させることができる。また、この乾燥部では、その乾燥温度を熱硬化性樹脂の硬化温度未満としているため、ガス拡散層前駆体は完全に硬化しておらず屈曲性を有しており、ロール体として巻き取ることが可能である。
【0018】
本発明に係るガス拡散層製造装置は、長尺の基材上に形成されたガス拡散層前駆体を巻き出す第2の巻出し部と、前記ガス拡散層前駆体から前記基材を剥離する剥離部と、前記剥離部の下流側に設置され、前記ガス拡散層前駆体を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させる加熱部と、を備えている。
【0019】
このガス拡散層製造装置によれば、剥離部の下流に加熱部が設置されているため、基材が剥離された後にガス拡散層前駆体が加熱されて熱硬化性樹脂が硬化してガス拡散層が形成される。このように、熱硬化性樹脂を硬化させるための高温が基材に加わることがないため、基材に高温で加熱されて熱収縮してしまうといった問題を防ぐことができる。
【0020】
上記剥離部は、ガス拡散層前駆体から剥離された基材を巻き取る第2の巻取り部とすることもできる。
【0021】
また、加熱部よりも上流側において、ガス拡散層前駆体を枚葉シート状に切断する切断部をさらに備えていてもよく、この切断部は、剥離部の上流・下流のどちらに配置されていてもよい。また、切断部は、加熱部よりも下流側に設置されており、ガス拡散層を枚葉シート状に切断するように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、量産化に適したガス拡散層前駆体の製造方法及び装置、並びにガス拡散層の製造方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は本実施形態に係るガス拡散層前駆体の製造装置の概略を示す側面図である。
【図2】図2は本実施形態に係るガス拡散層の製造装置の概略を示す側面図である。
【図3】図3は本実施形態に係るガス拡散層の製造装置の変形例を示す側面図である。
【図4】図4は本実施形態に係るガス拡散層の製造装置の変形例を示す側面図である。
【図5】図5は本実施形態に係るガス拡散層の製造装置の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るガス拡散層前駆体の製造装置及び方法の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面の左側を「上流側」、右側を「下流側」とする。
【0025】
図1に示すように、ガス拡散層前駆体の製造装置は、基材Aを巻き出す第1の巻出し部1と、基材A上にガス拡散層用ペーストを塗布する塗布部2と、塗布部2の下流に設置された乾燥部3と、ガス拡散層前駆体を巻き取る第1の巻取り部4とから主に構成されている。
【0026】
第1の巻出し部1は、長尺の基材Aをロール状に巻いたものがセットされており、回転駆動モータ(図示省略)によって回転させられることにより基材Aを下流側へと巻き出す。基材Aとしては、例えばポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン等の高分子フィルムを挙げることができる。また、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を用いることができる。これらの中でも、加工適性や入手のしやすい高分子フィルムが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレートやポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミドのフィルムなどを挙げることができ、その厚さは5〜200μmとすることが好ましい。基材Aを巻き出す速度は、特に限定されるものではないが、1〜100m/min程度とすることができる。また、基材Aの上面に離型層が形成されていてもよい。上記離型層は特に限定されるものではなく、基材上にプラズマ処理、シリコンコーティング、フッ素コーティング等を行うことで得られる。また、上記離型層は基材Aの下面に形成されていてもよい。
【0027】
第1の巻出し部1の下流側には、塗布部2が設置されている。この塗布部2は、第1の巻出し部1によって巻き出された基材A上にガス拡散層用ペーストを塗布するためのものであり、具体的にはダイを挙げることができる。このダイ2は、基材Aの幅方向に吐出口が延びており、ガス拡散層用ペースト供給源(図示省略)から送られてきたガス拡散層用ペーストを基材A上に塗布する。このダイ2によるペースト厚みは50〜500μmとすることができる。
【0028】
なお、塗布部2によって塗布されるガス拡散層用ペーストは、導電性炭素粒子や導電性炭素繊維などの炭素材料、熱硬化性樹脂、バインダー、及び溶剤を含むものとすることができる。導電性炭素粒子としては、導電性を有する炭素材であれば特に限定されず、公知又は市販のものを使用できる。例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック;黒鉛;活性炭等が挙げられる。また、導電性炭素繊維としては、例えば、気相成長法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、ワイヤーカップ、ワイヤーウォール等が挙げられる。これらは、1種単独又は2種以上で用いることができる。これらの導電性炭素粒子を含有することにより、ガス拡散層の導電性を向上させることができる。
【0029】
導電性炭素粒子としてカーボンブラックを使用する場合には、カーボンブラックの平均粒子径(算術平均粒子径)は限定的でなく、通常5〜200nm程度、好ましくは5〜100nm程度とすればよい。またカーボンブラックの凝集体を使用する場合は、10〜600nm程度、好ましくは50〜500nm程度とすればよい。また、黒鉛、活性炭等を使用する場合は、平均粒子径は500nm〜40μm程度、好ましくは1〜35μm程度とすれば良い。この導電性炭素粒子の平均粒子径は、例えば、粒子径分布測定装置LA−920:(株)堀場製作所製等により測定できる。また導電性炭素繊維を使用する場合には、導電性炭素繊維の平均繊維径は限定的でなく、50〜400nm、好ましくは100〜250nm程度とすればよい。導電性炭素繊維の平均繊維長も限定的でなく、5〜50μm、好ましくは10〜20μm程度とすればよい。導電性炭素繊維の平均アスペクト比は、10〜500程度である。なお、導電性炭素繊維の平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)等により測定した画像等により測定できる。
【0030】
熱硬化性樹脂は、ガス拡散層に強度を付与して細孔を潰れにくくするために添加されている。この熱硬化性樹脂は、特に限定されるものではないが、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラニン樹脂、シリコーン樹脂等を適宜選択できる。これらの樹脂は耐熱性、機械的強度、柔軟性等を考慮して用途に応じて選択されるが、例えば、機械的強度及び耐熱性の観点ではフェノール樹脂が好ましい。
【0031】
バインダーは、ガス拡散層前駆体中の炭素材料を決着するためにあり、特に限定されるものではないが、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂等を適宜使用できる。特にフッ素系樹脂は撥水性があるため、ガス拡散層からの水の排出の点で好ましい。このフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、フッ化エチレンプロピレン樹脂(FEP)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、フルオロオレフィンと炭化水素との共重合体等が挙げられる。
【0032】
溶剤としては、特に限定されるものではなく、水やアルコール、有機溶剤などを挙げることができ、アルコールとしては、特に限定されることはなく、公知又は市販のものを使用すればよく、例えば、炭素数1〜5程度の1価又は多価のアルコールが挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール等が挙げられる。また、有機溶剤としてはアセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエンやこれらの混合溶剤等が挙げられる。
【0033】
以上説明したようなガス拡散層用ペーストを塗布する塗布部2の下流側には乾燥部3が設置されている。この乾燥部3は、ガス拡散層用ペーストを加熱できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、加熱炉や、加熱ヒータ、温風乾燥、赤外線ヒータなどを挙げることができる。乾燥部3における加熱温度は、ガス拡散層用ペースト中の熱硬化性樹脂が硬化しない温度であり、且つガス拡散層用ペースト中の溶剤を乾燥できる程度の温度である。このように、乾燥部3によってガス拡散層用ペースト中の溶剤を乾燥できる程度の温度でガス拡散層用ペーストを加熱することにより、ガス拡散層前駆体Bを巻き取ったときに、基材Aの裏面にガス拡散層前駆体が付着することを防止することができ、また、基材Aを剥離したときに、ガス拡散層前駆体Bを単独で搬送させることができる。また、乾燥部3による加熱温度を、ガス拡散層用ペースト中の熱硬化性樹脂が硬化しない程度の温度とすることによって、ガス拡散層前駆体Bに屈曲性をもたせることができ、第1の巻取り部4においてガス拡散層前駆体Bを巻き取ることが可能となる。なお、この乾燥部3による加熱温度は、ガス拡散層用ペースト中の熱硬化性樹脂や溶剤の種類によっても変わってくるが、一般的には、40〜150℃程度とすることができる。
【0034】
乾燥部3の下流側には第1の巻取り部4が設置されている。第1の巻取り部4は、回転駆動モータ(図示省略)を駆動源として回転することにより、乾燥部3によって乾燥することにより形成されたガス拡散層前駆体Bを巻き取る。ここで、乾燥後のガス拡散層前駆体Bの曲げ弾性率を100〜5000MPaとすることにより、ガス拡散層前駆体Bに適度な屈曲性を与えて容易に巻き取ることができる。また、乾燥後のガス拡散層前駆体Bの曲げ強度を0.1〜50MPaとすることにより、ガス拡散層前駆体Bを巻き取る際に損傷が生じることを防ぐことができる。また、ガス拡散層前駆体Bと基材Aとの剥離強度は、0.01〜1N/mm程度とすることが好ましい。剥離強度を0.01N/mm以上とすることでガス拡散層前駆体Bを巻き取った場合にガス拡散層前駆体Bが基材Aから剥離することを防止することができ、また、剥離強度を1N/mm以下とすることで後述するように基材Aをガス拡散層前駆体Bから剥離するときにガス拡散層前駆体Bを損傷させることなく基材Aをスムーズに剥離することができる。さらには、基材Aを剥離する際にガス拡散層前駆体Bが損傷しないよう、ガス拡散層前駆体Bの引張強さは、ガス拡散層前駆体Bと基材Aとの剥離強度よりも0.05N/mm以上大きいことが好ましい。
【0035】
以上のように構成されたガス拡散層前駆体の製造装置によるガス拡散層前駆体の製造方法について説明すると、まず、第1の巻出し部1から基材Aが巻き出され、この巻き出された基材A上にダイ2によってガス拡散層用ペーストが塗布される。塗布されたガス拡散層用ペーストは、続いて乾燥部3によって加熱されることで溶剤が飛ばされて屈曲性を有するガス拡散層前駆体Bとなる。なお、このときの乾燥条件は、ガス拡散層用ペースト中の熱硬化性樹脂や溶剤の種類によっても変わってくるが、一般的には、40〜150℃程度の加熱温度で、1〜20分程度加熱することが好ましい。その後、第1の巻取り部4によってガス拡散層前駆体Bが基材Aとともに巻き取られて、ガス拡散層前駆体のロール体が完成する。
【0036】
このように製造したガス拡散層前駆体Bを使用したガス拡散層の製造装置及び製造方法について説明する。
【0037】
ガス拡散層の製造装置は、図2に示すように、第2の巻出し部5、第2の巻取り部(剥離部)6、切断部7、搬送部8、加熱部9を主な構成としている。
【0038】
第2の巻出し部5は、第1の巻取り部4によって巻き取られた基材A付きのガス拡散層前駆体Bがセットされ、この基材A付きのガス拡散層前駆体Bを下流側へと巻き出す。この巻出し速度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.5〜10m/min程度にすることができる。
【0039】
第2の巻取り部6は、回転駆動モータ(図示省略)によって回転し、第2の巻出し部5から巻き出された基材A付きのガス拡散層前駆体Bから剥離した基材Aを巻き取るように構成されている。
【0040】
切断部7は、基材Aが剥離された後のガス拡散層前駆体Bを所望の長さに切断して枚葉状とするためのものであり、切断カッターなどのような公知の切断手段を用いることができる。
【0041】
搬送部8は、切断部7によって枚葉シート状に切断されたガス拡散層前駆体Bを所定の場所へと搬送するためのものであり、例えば一対の回転駆動部に無端ベルトが架け渡されたベルトコンベアなどによって構成することができる。
【0042】
加熱部9では、ガス拡散層前駆体Bを加熱してガス拡散層前駆体Bをガス拡散層Cとする。具体的には、ガス拡散層前駆体B中の熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度でガス拡散層前駆体Bを加熱して熱硬化性樹脂を硬化させて、ガス拡散層前駆体Bからガス拡散層Cを形成する。この加熱部9における加熱温度は、熱硬化性樹脂の種類によっても異なってくるが、例えば、50〜500℃程度とすることができる。
【0043】
このように構成されるガス拡散層製造装置を使用したガス拡散層の製造方法について説明すると、まず、第2の巻出し部5から基材A付きのガス拡散層前駆体Bが巻き出され、ガス拡散層前駆体Bから剥離された基材Aが第2の巻取り部6によって巻き取られる。基材Aが剥離されたガス拡散層前駆体Bは切断部7において所望の長さに切断されて、搬送部8を搬送される間に加熱部9において加熱される。この加熱部9で加熱されることで、ガス拡散層前駆体B中の熱硬化性樹脂が硬化する。このように加熱部9を通過することでガス拡散層前駆体Bはガス拡散層Cとなって所望の位置へと搬送される。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0045】
例えば、上記実施形態では、ガス拡散層用ペーストを塗布する塗布部としてダイを例に挙げていたが、この他にもガス拡散層用ペーストを塗布する手法として、ナイフコーティング、バーコーティング、ブレードコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、カーテンコーティング、スピンコーティング、スクリーン印刷などの手法を挙げることができる。
【0046】
また、上記実施形態では、切断部7の下流に加熱部9が設置されていた、すなわち、ガス拡散層前駆体Bを切断した後に、加熱してガス拡散層Cとしていたが、切断する前にガス拡散層前駆体Bを加熱してガス拡散層Cとし、その後に切断してもよい。すなわち、図3に示すように、加熱部9の下流側に切断部7を設置してもよい。
【0047】
その他にも、図4に示すように、ガス拡散層前駆体Bを切断した後に基材Aを剥離する、すなわち、切断部7の後に剥離部6を設置することもできる。また、図5に示すように、第2の巻出し部5から巻き出されたガス拡散層前駆体Bを切断し、基材Aを剥離した後、複数のガス拡散層前駆体Bを加熱部9により一度にバッチ式で加熱するような構成とすることもできる。
【0048】
実施例1
導電性炭素繊維(VGCF(登録商標)(標準品)昭和電工(株)製、平均繊維径150nm、平均繊維長10〜20μm、平均アスペクト比10〜500)100重量部、バインダーとしてフルオロオレフィン共重合体(フルオネート(登録商標)K−703、DIC(株)製)50重量部、フェノール樹脂(PR50781、住友ベークライト(株)製)100重量部、及びトルエン−メチルエチルケトン(1:1)混合溶剤350重量部をメディア分散により分散させることによりガス拡散層用ペーストを調合した。このガス拡散層用ペーストを、第1の巻出し部より巻き出された、離型層(シリコーンコート層)が形成されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(SP−PET PET−O2−BU、三井化学東セロ(株)製、厚み:38μm)上にナイフコーティングを用いて約200μmの厚みとなるように塗布した。その後、95℃に設定した乾燥部で15分乾燥させた後、第1の巻取り部にて、内径3インチ、肉厚10mmの巻き芯を用いて巻き取り、基材付きのガス拡散層前駆体を作製した。このとき、巻き取られたガス拡散層前駆体には目立った巻きジワや巻きズレ、割れの発生は確認されなかった。
【0049】
作製した基材付きのガス拡散層前駆体を第2の巻出し部より巻き出し、第2の巻取り部で基材を剥離した後、250℃に設定された加熱部で40分加熱処理を行った。その後、一定の間隔で切断し、ガス拡散層を作製した。このとき、ガス拡散層前駆体と基材との剥離性は良好であり、剥離不良の発生は無かった。
【0050】
実施例2
導電性炭素繊維(VGCF(登録商標)(標準品)昭和電工(株)製、平均繊維径150nm、平均繊維長10〜20μm、平均アスペクト比10〜500)100重量部、バインダーとして、フルオロオレフィン共重合体(フルオネート(登録商標)K−703、DIC(株)製)200重量部、フェノール樹脂(PR50781、住友ベークライト(株)製)200重量部、及びトルエン−メチルエチルケトン(1:1)混合溶剤350重量部をメディア分散により分散させることによりガス拡散層用ペースト組成物を調合した。このガス拡散層用ペースト組成物を、第1の巻出し部より巻き出された、離型層(シリコーンコート層)が形成されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(SP−PET PET−O2−BU、三井化学東セロ(株)製、厚み:38μm)上にナイフコーティングを用いて約200μmの厚みとなるように塗布した。その後、95℃に設定した乾燥部で15分乾燥させた後、第1の巻取り部にて、内径3インチ、肉厚10mmの巻き芯を用いて巻き取り、基材付きのガス拡散層前駆体を作製した。このとき、巻き取られたガス拡散層前駆体には目立った巻きジワや巻きズレ、割れの発生は確認されなかった。
【0051】
作製した基材付きのガス拡散層前駆体を第2の巻出し部より巻き出し、第2の巻取り部で基材を剥離した後、250℃に設定された加熱部で40分加熱処理を行った。その後、一定の間隔で切断し、ガス拡散層を作製した。このとき、ガス拡散層前駆体と基材との剥離性は良好であり、剥離不良の発生は無かった。
【0052】
実施例3
導電性炭素粒子(ファーネスブラック バルカンxc72R:キャボット社製、重量平均分子量1000〜3000)100重量部、導電性炭素粒子繊維(VGCF(登録商標)(標準品)昭和電工(株)製、平均繊維径150nm、平均繊維長10〜20μm、平均アスペクト比10〜500)100重量部、バインダーとして、フルオロオレフィン共重合体(フルオネート(登録商標)K−703、DIC(株)製)50重量部、フェノール樹脂(PR50781、住友ベークライト(株)製)150重量部、及びトルエン−メチルエチルケトン(1:1)混合溶剤500重量部をメディア分散により分散させることによりガス拡散層用ペースト組成物を調合した。このガス拡散層用ペースト組成物を、第1の巻出し部より巻き出された、離型層(シリコーンコート層)が形成されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(SP−PET PET−O2−BU、三井化学東セロ(株)製、厚み:38μm)上にナイフコーティングを用いて約200μmの厚みとなるように塗布した。その後、95℃に設定した乾燥炉中で15分乾燥させた後、第1の巻取り部にて、内径3インチ、肉厚10mmの巻き芯を用いて巻き取り、基材付きのガス拡散層前駆体を作製した。このとき、巻き取られたガス拡散層前駆体には目立った巻きジワや巻きズレ、割れの発生は確認されなかった。
【0053】
作製した基材付きのガス拡散層前駆体を第2の巻出し部より巻き出し、第2の巻取り部で基材を剥離した後、250℃に設定された加熱部で40分加熱処理を行った。その後、一定の間隔で切断し、ガス拡散層を作製した。このとき、ガス拡散層前駆体と基材との剥離性は良好であり、剥離不良の発生は無かった。
【0054】
<曲げ弾性率および曲げ強度測定>
各実施例で作製したガス拡散層前駆体を基材より剥離し、3点曲げ試験を実施し、曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。その結果を表1に示す。3点曲げ試験は、JIS K6911およびJIS K7171に規定される方法に準拠して行った。このとき、試験片の幅は15mm、長さは40mm、支点間距離は15mmとした。また、支点と圧子の曲率半径は3mm、試験速度は2mm/分とした。
【0055】
<剥離試験>
各実施例で作製したガス拡散層前駆体と基材との剥離試験はJIS K6854−3に規定されたT形剥離接着強さ試験法に準拠して行った。このときの試験片は幅15mm、長さ30mmとし、剥離速度を50mm/分とした。
【0056】
<引張強さ測定>
各実施例で作製したガス拡散層前駆体を基材より剥離し、引張試験を実施し、引張強さを測定した。引張試験は、JIS K7161に規定される方法に準拠して行った。このとき、試験片の幅は15mm、長さは30mm、引張速度は3mm/分とした。
【0057】
【表1】

【符号の説明】
【0058】
1 第1の巻出し部
2 塗布部
3 乾燥部
4 第1の巻取り部
5 第2の巻出し部
6 剥離部(第2の巻取り部)
7 切断部
8 搬送部
9 加熱部
A 基材
B ガス拡散層前駆体
C ガス拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の基材を巻き出すステップと、
熱硬化性樹脂、及び溶剤を含むガス拡散層用ペーストを前記巻き出された基材上に塗布するステップと、
前記基材上に塗布されたガス拡散層用ペーストを加熱して、前記熱硬化性樹脂の硬化温度未満の温度で前記溶剤を乾燥させるステップと、
前記ガス拡散層用ペーストを乾燥させることにより形成されたガス拡散層前駆体を巻き取るステップと、
を含む、ガス拡散層前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記ガス拡散層前駆体は、曲げ弾性率が100〜5000MPaである、請求項1に記載のガス拡散層前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記ガス拡散層前駆体は、曲げ強度が0.1〜50MPaである、請求項1又は2に記載のガス拡散層前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記ガス拡散層前駆体と前記基材との剥離強度は、0.01〜1N/mmである、請求項1〜3のいずれかに記載のガス拡散層前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記ガス拡散層前駆体の引張強さは、前記ガス拡散層前駆体と前記基材との剥離強度よりも、0.05N/mm以上大きい、請求項1〜4のいずれかに記載のガス拡散層前駆体の製造方法。
【請求項6】
前記基材は、前記ガス拡散層用ペーストが塗布される面に離型層を有する、請求項1〜5のいずれかに記載のガス拡散層前駆体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載されたガス拡散層前駆体の製造方法と、
前記基材とともに巻き取られたガス拡散層前駆体を巻き出すステップと、
前記ガス拡散層前駆体から基材を剥離するステップと、
前記基材が剥離されたガス拡散層前駆体を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させるステップと、
を含む、ガス拡散層の製造方法。
【請求項8】
長尺の基材を巻き出す第1の巻出し部と、
熱硬化性樹脂及び溶剤を含むガス拡散層用ペーストを前記巻き出された基材上に塗布する塗布部と、
前記塗布部の下流側に設置され、前記ガス拡散層用ペーストを加熱して、前記熱硬化性樹脂の硬化温度未満の温度で前記溶剤を乾燥させるための乾燥部と、
前記ガス拡散層用ペーストを乾燥させることにより形成されたガス拡散層前駆体を巻き取る第1の巻取り部と、
を備えた、ガス拡散層前駆体製造装置。
【請求項9】
長尺の基材上に形成されたガス拡散層前駆体を巻き出す第2の巻出し部と、
前記ガス拡散層前駆体から前記基材を剥離する剥離部と、
前記剥離部の下流側に設置され、前記ガス拡散層前駆体を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させる加熱部と、
を備えた、ガス拡散層製造装置。
【請求項10】
前記剥離部は、前記ガス拡散層前駆体から剥離された前記基材を巻き取る第2の巻取り部である、請求項9に記載のガス拡散層製造装置。
【請求項11】
前記加熱部よりも上流側において、前記ガス拡散層前駆体を枚葉シート状に切断する切断部をさらに備えた、請求項9又は10に記載のガス拡散層製造装置。
【請求項12】
前記加熱部よりも下流側において前記ガス拡散層を枚葉シート状に切断する切断部をさらに備えた、請求項9又は10に記載のガス拡散層製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−77422(P2013−77422A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216112(P2011−216112)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】