説明

ガス拡散電極基材の製造方法

【課題】排水性が良好で、ガス拡散性に優れ、なおかつ、曲げ強度等の機械特性に優れる燃料電池ガス拡散電極基材を、容易に、安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維を含む抄紙体に樹脂組成物を含浸させた後、炭素化してガス拡散電極基材を製造する方法において、前記樹脂組成物に、炭化収率が20質量%未満であり、かつ架橋ポリマーからなる有機粒子および/または有機繊維を混合してから前記抄紙体に含浸させることを特徴とするガス拡散電極基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、特に固体高分子型燃料電池のガス拡散層に好適に用いられるガス拡散電極基材の製造方法に関する。より詳しくは、排水性が良好で、ガス拡散性に優れる、なおかつ、曲げ強度等の機械特性に優れるガス拡散電極基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を含むガス拡散電極基材(以降、電極基材と記載)は、電気伝導性、熱伝導性に優れ、ガス拡散性に優れ、なおかつ、機械特性に優れることから、燃料電池のガス拡散層に広く用いられている。しかしながら、固体高分子型燃料電池を80℃未満の比較的低い温度で作動させる場合、高電流密度ではカソード側の電極基材に反応により発生する水が充満し、ガス拡散性が低下する結果、発電性能が低下する問題(フラッディング)が知られている。フラッディングを解消するために、制御した細孔構造を形成する方法が試みられている。
【0003】
特許文献1〜3では、電極基材の厚さ方向に貫通孔を形成する方法が開示されている。この方法では貫通孔が排水パスとしてはたらくことにより、フラッディングが改善される。しかしながら、この方法では、樹脂組成物の炭化部分、いわゆる水かき部分が形成され、排水、ガス拡散が阻害されるため、発電性能が依然として不十分であった。また、貫通孔形成により電極基材の曲げ弾性率、曲げ強度等の機械特性が損なわれるという問題が残されていた。
【0004】
特許文献4では、未架橋ポリマーの有機繊維のフィブリル状物を、炭素繊維とともに抄紙した後、樹脂組成物を含浸し、炭素化して電極基材を製造する方法が開示されている。この方法ではフィブリル状物のまわりに付着した樹脂組成物が網状の炭化物として残り、直径10μm程度の小さな細孔と直径30μm程度の大きな細孔を有する電極基材が製造できる。このようにふた山の細孔径分布を有することにより、排水パスとガスの供給経路が分離でき、フラッディングが改善される。また、特許文献1の方法で問題であった機械特性の低下を抑えることができる。しかしながら、この方法では、樹脂組成物の炭化部分、いわゆる水かき部分が形成され、排水、ガス拡散が阻害されるため、発電性能が依然として不十分であった。また、抄紙の際に有機繊維のフィブリル状物の広がり具合を制御するのが困難であり、同一の電極基材を製造するのが難しい。また、炭素繊維と、有機繊維のフィブリル状物の比重差が大きく、抄紙の際に厚さ方向に不均一になりやすいという問題が残されていた。
【0005】
特許文献5では、未架橋ポリマーの有機繊維を、炭素繊維、熱硬化性樹脂とともに抄紙した後、炭化して電極基材を製造する方法が開示されている。この方法では炭化の際に有機繊維が消失し、平均直径1〜20μmの細孔を有する電極基材が比較的安定して製造できる。しかしながら、平均直径1〜20μmの細孔は排水能力が低く、加えて、有機繊維が面方向に配向する結果、消失した後に形成される気孔は面方向に配向するために排水能力が低い。加えて、特許文献4の方法で見られた細孔径のふた山の分布が形成できない。このため、フラッディングの改善効果は不十分であった。また、この方法では、炭素繊維と、有機繊維、熱硬化性樹脂の比重差が大きく、抄紙の際に厚さ方向に不均一になりやすいという問題が残されていた。
【0006】
特許文献6では、未架橋ポリマーの有機粒子を、炭素繊維、熱硬化性樹脂とともに混合し、プレス成形した後、炭素化して電極基材を製造する方法が開示されている。この方法では炭化の際に有機粒子が消失し、細孔を有する電極基材が比較的安定して製造できる。しかしながら、この方法では厚み方向に貫通したパスを形成するのが難しく、排水能力が低く、ガス拡散性も低い。加えて、特許文献4の方法で見られた細孔径のふた山の分布が形成できない。このため、フラッディングの改善効果は不十分であった。また、有機粒子、炭素繊維、熱硬化性樹脂を混合する際に炭素繊維に大きな負荷がかかるため、炭素繊維が破断し、加えて、有機粒子が炭素繊維間に入り込むため、炭素繊維間の接触が妨げられ、電極基材の機械特性、導電性、熱伝導性が低下しやすいという問題が残されていた。
【0007】
特許文献7では、平均粒径10nm〜2μmの未架橋ポリマーの有機粒子を、熱硬化性樹脂とともに炭素繊維を含む抄紙体に付与し、熱硬化性樹脂を硬化した後、炭素化して電極基材を製造する方法が開示されている。この方法では、炭素繊維を含む抄紙体由来の大きな細孔に加えて、水かき部分に有機粒子が消失して有機粒子の平均粒径に依存した直径10nm〜2μm程度の小さな細孔が形成される。固体高分子型燃料電池を80℃以上の高い温度で作動させる場合、特に低電流密度では膜が乾燥し、プロトン伝導性が低下する結果、発電性能が低下する問題(ドライアップ)が知られているが、この方法では、小さな細孔により保水性が向上することにより、ドライアップが改善される。しかしながら、この方法では、水かき部分を貫通する細孔の形成が不十分であり、加えて、直径10nm〜2μmの小さな細孔は水を保持する傾向にある。このため、水かき部分により排水、ガス拡散が阻害されるため、フラッディングの改善効果は見られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08-111226号公報
【特許文献2】特開2002−110182号公報
【特許文献3】特開2005−038738号公報
【特許文献4】特開2006−040886号公報
【特許文献5】特開平09−278558号公報
【特許文献6】特公平01−036670号公報
【特許文献7】特開2010−095419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、かかる従来技術の背景に鑑み、排水性が良好で、ガス拡散性に優れ、なおかつ、曲げ強度等の機械特性に優れる燃料電池ガス拡散電極基材を、容易に、安定して製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、炭素繊維を含む抄紙体に樹脂組成物を含浸させた後、炭素化してガス拡散電極基材を製造する方法において、前記樹脂組成物に、炭化収率が20質量%未満であり、かつ架橋ポリマーからなる有機粒子および/または有機繊維を混合してから前記抄紙体に含浸させることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の好ましい製造法の様態は、前記樹脂組成物に含まれる樹脂成分の炭化収率が40質量%以上であることである。また、本発明の好ましい製造法の様態は、前記有機粒子の平均粒径が1〜30μm範囲内であり、前記有機繊維の平均直径が1〜30μmの範囲内であり、なおかつ、平均長さが30〜100μmの範囲内であることである。
【0012】
ここで、樹脂炭化物の炭化収率は、空気雰囲気下で100℃5分間、180℃5分間加熱して熱処理したもの(このときの質量を昇温前の質量とする)を、窒素雰囲気下(流量:200ml/分)で、室温から1300℃まで昇温速度50℃/分で昇温した際の、昇温後の質量を、熱重量測定装置を用いて測定し、昇温前の質量で除して求めたものである。熱重量測定装置としては、BLUKER社製TG−DTA2000SA、あるいは同等品を用いることができる。
【0013】
また、有機粒子、有機繊維の炭化収率は、空気雰囲気下で100℃5分間加熱して乾燥させたもの(このときの質量を昇温前の質量とする)を、窒素雰囲気下(流量:200ml/分)で、室温から1300℃まで昇温速度50℃/分で昇温した際の、昇温後の質量を、熱重量測定装置を用いて測定し、昇温前の質量で除して求めたものである。熱重量測定装置としては、BLUKER社製TG−DTA2000SA、あるいは同等品を用いることができる。
【0014】
有機粒子の平均粒径は、有機粒子を溶解しない溶媒に分散させて得た測定液を用い、室温にて動的光散乱式粒度分布測定装置を用いて測定し、キュムラント法を用いて解析を行ったキュムラント平均粒子径を指す。動的光散乱式粒度分布測定装置としては、大塚電子(株)製FPAR−1000、あるいは同等品を用いることができる。
【0015】
有機繊維の平均直径は、走査型電子顕微鏡等の顕微鏡で、有機繊維を1000倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる30本の有機繊維を選び、直径を計測し、その平均値を指す。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800、あるいは同等品を用いることができる。
【0016】
また、有機繊維の平均長さは、走査型電子顕微鏡等の顕微鏡で、有機繊維を500倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる30本の有機繊維を選び、長さを計測し、その平均値を指す。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800、あるいは同等品を用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、炭素繊維を含む抄紙体由来の大きな細孔に加えて、樹脂組成物の炭化部分(図1:2、図2:2)、いわゆる水かき部分に、架橋ポリマーからなる有機粒子、有機繊維が消失して、水かき部分を貫通する比較的小さな細孔(図1:3)が形成される。この結果、少なくともふた山の細孔径分布を有する電極基材を、容易に、安定して製造することができる。さらには、従来技術では、水かき部分の形成により、排水、ガス拡散が阻害される問題があったが、水かき部分にガス拡散に有効な貫通孔が形成されるため、特に、ガス拡散性に優れる電極基材を製造することができる。かかる電極基材は、排水性が良好で、ガス拡散性に優れ、燃料電池、特に固体高分子型燃料電池のガス拡散層に用いた場合に、優れた電池性能が発揮できる。また、貫通孔が形成された水かき部分は、電極基材に曲げ等の荷重が負荷された場合に、荷重を負担できるため、曲げ強度等の機械特性は維持される。また、本発明によれば、炭素繊維を含む抄紙体由来の大きな細孔と、水かき部分に形成される比較的小さな細孔を独立してコントロールできるため、燃料電池の触媒、電解質膜等の他部材の性能にあわせて、電極基材を容易に最適設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施態様である、実施例1で得られた有機粒子を用いた電極基材の走査型電子顕微鏡像写真である。
【図2】従来技術の一態様である、比較例1で得られた有機粒子、有機繊維を用いない電極基材の走査型電子顕微鏡像写真である。
【図3】実施例1、比較例1で得られた電極基材の電池性能評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、排水性が良好で、ガス拡散性に優れる電極基材について鋭意検討した結果、炭素繊維を含む抄紙体に樹脂組成物を含浸した後、炭素化してガス拡散電極基材を製造する方法において、前記樹脂組成物が炭化収率20質量%未満の有機粒子および/または有機繊維を含み、前記有機粒子、前記有機繊維が架橋ポリマーからなる場合、この課題を解決することを見出したものである。
【0020】
<抄紙体、および抄紙体の製造方法>
本発明において、炭素繊維を含む抄紙体を得るためには、炭素繊維を液中に分散させて製造する湿式抄紙法や、空気中に分散させて製造する乾式抄糸法等が用いられる。なかでも、生産性が優れることから、湿式抄紙法が好ましく用いられる。
【0021】
本発明における炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系等の炭素繊維が挙げられる。なかでも、機械強度に優れることから、PAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0022】
本発明における炭素繊維は、単糸の平均直径が3〜20μmの範囲内であることが好ましく、5〜10μmの範囲内であることがより好ましい。平均直径が3μm以上であると、電極基材が柔軟性に富んだものとなり好ましい。一方、平均直径が20μm以下であると、電極基材が機械強度の優れたものとなり好ましい。また、異なる平均直径を有する2種類以上の炭素繊維を用いると、電極基材の表面平滑性を向上できるために好ましい。
【0023】
また、本発明における炭素繊維は、単糸の平均長さが3〜20mmの範囲内にあることが好ましく、5〜15mmの範囲内にあることがより好ましい。平均長さが3mm以上であると、電極基材が機械強度の優れたものとなり好ましい。一方、平均長さが20mm以下であると、抄紙の際の炭素繊維の分散性が優れ、均質な電極基材が得られるために好ましい。かかる平均長さを有する炭素繊維は、連続した炭素繊維を所望の長さにカットする方法等により得られる。
【0024】
本発明において、電極基材の排水性、ガス拡散性を向上する目的で、炭素繊維に有機繊維を混合して抄紙することができる。有機繊維としては、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維、ポリアセタール繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維等を用いることができる。
【0025】
また、本発明において、抄紙体の形態保持性、ハンドリング性を向上する目的で、バインダーとして有機高分子を含むことができる。ここで、有機高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、セルロース等を用いることができる。
【0026】
本発明における抄紙体は、面内の導電性、熱伝導性を等方的に保つという目的で、炭素繊維が二次元平面内にランダムに分散したシート状であることが好ましい。
【0027】
抄紙体で得られる細孔径分布は、炭素繊維の含有率や分散状態に影響を受けるものの、概ね20〜100μm程度の大きさに形成することができる。
【0028】
<樹脂組成物の含浸>
本発明において、炭素繊維を含む抄紙体に樹脂組成物を含浸する方法として、樹脂組成物を含む溶液中に抄紙体を浸漬する方法、樹脂組成物を含む溶液を抄紙体に塗布する方法、樹脂組成物からなるフィルムを抄紙体に重ねて転写する方法等が用いられる。なかでも、生産性が優れることから、樹脂組成物を含む溶液中に抄紙体を浸漬する方法が好ましく用いられる。
【0029】
本発明に用いる樹脂組成物は、焼成時に炭化して導電性の炭化物となるものが好ましい。樹脂組成物は、樹脂成分に溶媒等を必要に応じて添加したものをいう。ここで、樹脂成分とは、熱硬化性樹脂等の樹脂を含み、さらに、必要に応じて炭素フィラー、界面活性剤等の添加物を含むものである。なお、樹脂成分を構成する熱硬化性樹脂等の樹脂や必要に応じて含まれる添加物には、本発明に用いる有機粒子および/または有機繊維は含まれないものである。
【0030】
本発明において、より詳しくは、樹脂組成物に含まれる樹脂成分の炭化収率が40質量%以上であることが好ましい。炭化収率が40質量%以上であると、電極基材が機械特性、導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。
【0031】
本発明において、樹脂成分を構成する樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。なかでも、炭化収率が高いことから、フェノール樹脂が好ましく用いられる。また、樹脂成分に必要に応じて添加する添加物としては、電極基材の機械特性、導電性、熱伝導性を向上する目的で、炭素系フィラーを含むことができる。ここで、炭素系フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維のミルドファイバー、黒鉛等を用いることができる。
【0032】
本発明に用いる樹脂組成物は、前述の構成により得られた樹脂成分をそのまま使用することもできるし、必要に応じて、抄紙体への含浸性を高める目的で、各種溶媒を含むことができる。ここで、溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等を用いることができる。
【0033】
本発明における樹脂組成物は、25℃、0.1MPaの状態で液状であることが好ましい。液状であると抄紙体への含浸性が優れ、電極基材が機械特性、導電性、熱伝導性に優れたものとなり好ましい。
【0034】
一方、樹脂組成物に前記有機粒子および/または有機繊維を混合したものを「混合樹脂組成物」と記載する。
【0035】
本発明において、樹脂組成物に、炭化収率20質量%未満であり、かつ架橋ポリマーからなる有機粒子および/または有機繊維を混合した混合樹脂組成物を、前記抄紙体に含浸させることが必要である。樹脂組成物に架橋ポリマーからなる有機粒子、有機繊維をあらかじめ混合してから抄紙体に含浸させることにより、炭素繊維を含む抄紙体由来の大きな細孔に加えて、樹脂組成物の炭化部分(図1:2、図2:2)、いわゆる水かき部分に、架橋ポリマーからなる有機粒子、有機繊維が消失して、水かき部分を貫通する比較的小さな細孔(図1:3)が形成される。この結果、少なくともふた山の細孔径分布を有する電極基材を、容易に、安定して製造することができる。電極基材が疎水性を示す場合、抄紙体由来の大きな細孔には水が入りやすく排水パスとしてはたらく。一方、水かき部分のガス拡散に有効な貫通孔には水が入りにくくガスの供給パスとしてはたらく。このため、排水性が優れるだけでなく、電極基材に水が充満した場合においてもガスの供給パスが確保され、ガス拡散性が優れる。さらには、従来技術では、水かき部分の形成により、排水、ガス拡散が阻害される問題があったが、水かき部分にガス拡散に有効な貫通孔が形成されるため、特に、ガス拡散性に優れる電極基材を製造することができる。この結果、かかる電極基材を燃料電池、特に固体高分子型燃料電池のガス拡散層に用いた場合、優れた電池性能が発揮できる。また、貫通孔が形成された水かき部分は、電極基材に曲げ等の荷重が負荷された場合に、荷重を負担できるため、曲げ強度等の機械特性は維持される。また、本発明によれば、炭素繊維を含む抄紙体由来の大きな細孔分布と、水かき部分に形成される比較的小さな細孔分布を独立してコントロールできるため、燃料電池の触媒、電解質膜等の他部材の性能にあわせて、電極基材を容易に最適設計することができる。
【0036】
本発明に用いる有機粒子、有機繊維は、炭化収率が20質量%未満であることが必要であり、10質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましい。炭化収率が20質量%未満であると、水かき部分に、有機粒子、有機繊維が消失して比較的小さな細孔が形成される。10%未満であると比較的小さな細孔が効率よく形成されるために好ましい。
【0037】
さらに、本発明に用いる有機粒子、有機繊維は、架橋ポリマーからなることが必要である。炭素繊維を含む抄紙体に樹脂組成物を含浸させた後、炭素化に至る過程において、樹脂組成物が増粘、部分的に架橋し、さらには炭素化されてガス拡散電極基材が製造される。水かき部分に、有機粒子、有機繊維が消失して、水かき部分を貫通する比較的小さな細孔が形成されるためには、樹脂組成物が増粘、部分的に架橋するまで、有機粒子、有機繊維が樹脂組成物に溶解、あるいは融解せず、粒子、繊維の形状を保持することが必要である。有機粒子、有機繊維が未架橋ポリマーからなる場合では、有機粒子、有機繊維が樹脂組成物に部分的に溶解、あるいは融解し、粒子、繊維の形状を保持することができない。このため、水かき部分を貫通する比較的小さな細孔の形成が不十分となり、ガス拡散性が不足する結果、フラッディングの改善効果は見られない。また、有機粒子、有機繊維が樹脂組成物に部分的に溶解することにより、水かき部分の機械特性が不十分となり、曲げ強度等の機械特性が低下する。なお、架橋ポリマーとは、ポリマー間に結合が形成され、網目状の分子構造を有するポリマーを指す。架橋ポリマーの作製方法としては、ポリマー合成時にポリマー間に結合を形成可能な2官能以上のモノマーを混合しておく方法が挙げられる。2官能以上のモノマーとしては、ジビニルベンゼン、2官能以上のアルコールと、アクリル酸、メタクリル酸との反応等により得られる2官能以上のアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等が挙げられる。また、2官能以上のモノマーとしては、グリシジルメタクリレート等のビニル基と他の反応性官能基を有する化合物が挙げられる。この場合、ポリマー合成後、前記反応性官能基間にアミン化合物等の架橋剤を用いて結合を形成させることにより架橋ポリマーを作製することができる。他の架橋ポリマーの作製方法としては、ポリマーに過酸化物等のラジカル発生剤を混合し、ラジカル反応によりポリマー間に結合を形成させる方法、電子線等のエネルギー線照射により、ポリマー間に結合を形成させる方法が挙げられる、また、ポリマー中のカルボキシル基等の極性官能基間に金属イオンを用いてイオン結合を形成させる方法が挙げられる。
【0038】
本発明に用いる有機粒子、有機繊維としては、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、ポリアクリル酸エチル樹脂、ポリアクリル酸プロピル樹脂、ポリアクリル酸ブチル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリメタクリル酸エチル樹脂、ポリメタクリル酸プロピル樹脂、ポリメタクリル酸ブチル樹脂等の架橋ポリマー粒子、繊維が挙げられる。なかでも、炭化収率が低く、狙いとする大きさの細孔が得られやすいことから、ポリアクリル酸メチル樹脂等のポリアクリル酸アルキル樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂等のポリメタクリル酸アルキル樹脂の架橋ポリマー粒子、繊維が好ましく用いられる。
【0039】
本発明における有機粒子は、平均粒径が1〜30μmの範囲内であることが好ましく、3〜15μmの範囲内であることがより好ましい。平均粒径が1μm以上であると、水かき部分の厚さに比して十分に大きいため、水かき部分を貫通する孔が形成され、ガス拡散性が向上する。平均粒径が1μm未満の場合では、貫通孔を形成することが難しく、また、貫通孔が形成されても、複数の細孔径が連結したものとなりガス拡散のためのパスが屈曲するため、ガス拡散性が不足する結果、フラッディングの改善効果が不十分であることがある。一方、平均粒径が30μm以下であると、水かき部分に形成される貫通孔に水が入りにくく、ガス拡散のパスが保持されるために好ましい。また、曲げ強度等の機械特性が保持できるために好ましい。
【0040】
本発明における有機繊維は、平均直径が1〜30μmの範囲内であることが好ましく、3〜15μmの範囲内であることがより好ましい。平均直径が1μm以上であると、水かき部分の厚さに比して十分に大きいため、水かき部分を貫通する孔が形成され、ガス拡散性が向上する。平均直径が1μm未満の場合では、貫通孔を形成することが難しく、また、貫通孔が形成されても、複数の細孔径が連結したものとなりガス拡散のためのパスが屈曲するため、ガス拡散性が不足する結果、フラッディングの改善効果が不十分であることがある。一方、平均直径が30μm以下であると、水かき部分に形成される貫通孔に水が入りにくく、ガス拡散のパスが保持されるために好ましい。また、曲げ強度等の機械特性が保持できるために好ましい。
【0041】
また、本発明における有機繊維は、平均長さが30〜100μmの範囲内であることが好ましく、30〜60μmであることがより好ましい。平均長さが30μm以上であると、水かき部分に形成される小さな細孔のガス透過性が向上するために好ましい。一方、平均長さが100μm以下であると、水かき部分に小さな細孔が形成されても、電極基材の機械特性の低下が見られないために好ましい。
【0042】
上記の有機粒子、有機繊維を樹脂組成物に混合した混合樹脂組成物を抄紙体に含浸、炭素化させることにより、平均粒子径や平均直径の分布に相当する細孔分布を効率的に水かき部分に形成できる。
【0043】
本発明における有機粒子、有機繊維は、配合量が樹脂成分100質量部に対して、10〜100質量部であることが好ましく、20〜80質量部であることがより好ましい。配合量が10質量部以上であると、水かき部分に形成される小さな細孔の総面積が大きく、電極基材がガス拡散性の優れたものとなり好ましい。一方、配合量が100質量部以下であると、水かき部分に小さな細孔が形成されても、電極基材の機械特性の低下が見られないため好ましい。
【0044】
本発明において、炭素繊維100質量部に対して、樹脂成分を30〜400質量部含浸することが好ましく、50〜300質量部含浸することがより好ましい。樹脂成分の含浸量が30質量部以上であると、電極基材が機械特性、導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。一方、樹脂成分の含浸量が400質量部以下であると、電極基材がガス拡散性の優れたものとなり好ましい。
【0045】
また、本発明において、炭素繊維100質量部に対して、樹脂成分、有機粒子、有機繊維を合計で40〜500質量部含浸することが好ましく、50〜400質量部含浸することがより好ましい。樹脂成分、有機粒子、有機繊維の含浸量が合計40質量部以上であると、電極基材が機械特性、導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。一方、樹脂成分、有機粒子、有機繊維の含浸量が合計500質量部以下であると、電極基材がガス拡散性の優れたものとなり好ましい。
【0046】
なお、本発明において、炭素繊維を含む抄紙体に、樹脂組成物または混合樹脂組成物を含浸したものを「予備含浸体」と記載する。
【0047】
<張り合わせ、熱処理>
本発明においては、炭素繊維を含む抄紙体に混合樹脂組成物を含浸した予備含浸体を形成した後、炭素化を行うに先立って、予備含浸体の張り合わせや、熱処理を行うことができる。
【0048】
本発明において、電極基材を所定の厚みにする目的で、予備含浸体の複数枚を張り合わせることができる。この場合、同一の性状を有する予備含浸体の複数枚を張り合わせることもできるし、異なる性状を有する予備含浸体の複数枚を張り合わせることもできる。具体的には、混合樹脂組成物を含浸して得られる予備含浸体と、有機粒子、有機繊維を含まない樹脂組成物を含浸して得られる予備含浸体を張り合わせることができる。また、炭素繊維の平均直径、平均長さ、抄紙体の炭素繊維目付、樹脂成分の含浸量、有機粒子、有機繊維の配合量等が異なる複数の予備含浸体を張り合わせることもできる。
【0049】
本発明において、抄紙体は、炭素繊維の目付が10〜60g/mの範囲内にあることが好ましく、20〜50g/mの範囲内にあることがより好ましい。炭素繊維の目付が10g/m以上であると、電極基材が機械強度の優れたものとなり好ましい。60g/m以下であると、電極基材がガス拡散性の優れたものとなり好ましい。なお、抄紙体を複数枚張り合わせる場合は、張り合わせ後の炭素繊維の目付が上記の範囲内にあることが好ましい。
【0050】
本発明において、樹脂組成物を増粘、部分的に架橋する目的で、予備含浸体を熱処理することができる。熱処理する方法としては、熱風を吹き付ける方法、プレス装置等の熱板にはさんで加熱する方法、連続ベルトにはさんで加熱する方法等を用いることができる。
【0051】
<炭素化>
本発明において、炭素繊維を含む抄紙体に混合樹脂組成物を含浸した後、炭素化するために、不活性雰囲気下で焼成を行う。かかる焼成は、バッチ式の加熱炉を用いることもできるし、連続式の加熱炉を用いることもできる。また、不活性雰囲気は、炉内に窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを流すことにより得ることができる。
【0052】
本発明において、焼成の最高温度が1500〜3000℃の範囲内であることが好ましく、1700〜3000℃の範囲内であることがより好ましく、さらには、1900〜3000℃の範囲内であることが好ましい。最高温度が1300℃以上であると、樹脂成分の炭素化が進み、電極基材が導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。一方、最高温度が3000℃以下であると、加熱炉の運転コストが低くなるために好ましい。
【0053】
本発明において、焼成にあたっては、昇温速度が80〜5000℃/分の範囲内であることが好ましい。昇温速度が80℃以上であると、生産性が優れるために好ましい。一方、5000℃以下であると、樹脂成分の炭素化が緩やかに進み緻密な構造が形成されるため、電極基材が導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。
【0054】
なお、本発明において、炭素繊維を含む抄紙体に樹脂組成物、または、混合樹脂組成物を含浸した後、炭素化したものを、「炭素繊維焼成体」と記載する。
【0055】
<後加工>
本発明において、排水性を向上する目的で、炭素繊維焼成体に撥水加工を施すことが好ましい。撥水加工は、炭素繊維焼成体に疎水性樹脂を塗布、熱処理することにより行うことができる。かかる疎水性樹脂としては、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロプロピルビニルエーテルの共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)等のフッ素樹脂が挙げられる。かかる疎水性樹脂の塗布量は、炭素繊維焼成体100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、3〜40質量部であることがより好ましい。疎水性樹脂の塗布量が1質量部以上であると、電極基材が排水性に優れたものとなり好ましい。一方、50質量部以下であると、電極基材が導電性の優れたものとなり好ましい。
【0056】
なお、本発明において、炭素繊維焼成体に、必要に応じて撥水加工を施したものを、「ガス拡散電極基材」あるいは「電極基材」と記載する。なお、撥水加工を施さない場合は、炭素繊維焼成体と、「ガス拡散電極基材」あるいは「電極基材」は同一のものを指す。
【0057】
本発明において、電極基材の少なくとも片面に、導電性を有する微小多孔層、いわゆる、マイクロポーラス・レイヤーを形成することが好ましい。微小多孔層を設けると、電極基材の表面凹凸が覆われ平滑となるため、膜−電極接合体を構成し、燃料電池を構成した際に、触媒層との間の電気抵抗を低減することができる。また、固体高分子電解質膜の損傷もより確実に防止することができる。微小多孔層は、電極基材の表面に、上述した撥水加工で用いた疎水性樹脂と、上述した炭素フィラーとの混合物を塗布することによって形成することができる。炭素フィラーとしてはカーボンブラックを用いるのが好ましい。本発明の微小多孔層において、炭素フィラー100質量部に対して、疎水性樹脂を1〜70質量部配合することが好ましく、5〜60質量部配合することがより好ましい。疎水性樹脂の配合量が1質量部以上であると、微小多孔層が機械強度の優れたものとなり好ましい。一方、70質量部以下であると、微小多孔層が導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。
【0058】
<固体高分子型燃料電池アセンブリ>
本発明において、電極基材を、両面に触媒層を有する固体高分子電解質膜の少なくとも片面に接合することで膜−電極接合体を構成することができる。なお、微小多孔層を備えた電極基材を用いる場合は、微小多孔層が触媒層と接するように、膜−電極接合体を構成することが好ましい。かかる膜−電極接合体の両側にガスケットを介してセパレータで挟んだものを複数個積層することによって固体高分子型燃料電池を構成することができる。触媒層は、固体高分子電解質と触媒担持炭素を含む層からなる。触媒としては、通常、白金が用いられる。アノード側に一酸化炭素を含む改質ガスが供給される燃料電池にあっては、アノード側の触媒としては白金およびルテニウムを用いるのが好ましい。固体高分子電解質は、プロトン伝導性、耐酸化性、耐熱性の高い、パーフルオロスルホン酸系の高分子材料を用いるのが好ましい。かかる燃料電池ユニットや燃料電池の構成自体は、よく知られているところである。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。実施例で用いた材料、電極基材の作製方法、燃料電池の電池性能評価方法を次に示した。
【0060】
<材料>
A:炭素繊維
・PAN系炭素繊維 “トレカ(登録商標)”T300−3K(東レ(株)製、単糸の平均直径:7μm、単繊維数:3000本)
B:熱硬化性樹脂
・レゾール型フェノール樹脂 KP−743K(荒川化学工業(株)製)とノボラック型フェノール樹脂“タマノル(登録商標)”759(荒川化学工業(株)製)の混合物、配合比:レゾール型フェノール樹脂/ノボラック型フェノール樹脂=50質量部/50質量部(前記樹脂成分(レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂の混合物)の炭化収率:43%)
C:炭素フィラー
・鱗片状黒鉛 BF−5A((株)中越黒鉛工業所製、平均粒径:5μm)
・カーボンブラック“デンカブラック(登録商標)”(電気化学工業(株)製)
E:溶媒
・メタノール(ナカライテスク(株)製)
F:炭化収率20質量%未満の有機粒子
・架橋ポリメチルメタクリレート粒子 “テクポリマー(登録商標)”MBX−5(積水化学工業(株)製、平均粒径:5μm、炭化収率:0%)
・架橋ポリメチルメタクリレート粒子 “テクポリマー(登録商標)”SSX−102(積水化学工業(株)製、平均粒径:2μm、炭化収率:0%)
・架橋ポリメチルメタクリレート粒子 “テクポリマー(登録商標)”MBX−12(積水化学工業(株)製、平均粒径:12μm、炭化収率:0%)
・架橋ポリメチルメタクリレート粒子 “テクポリマー(登録商標)”MBX−20(積水化学工業(株)製、平均粒径:20μm、炭化収率:0%)
・架橋ポリスチレン粒子 “テクポリマー(登録商標)”SBX−6(積水化学工業(株)製、平均粒径:6μm、炭化収率:0%)
・ポリメチルメタクリレート粒子(架橋なし) “テクポリマー(登録商標)”MB−4C(積水化学工業(株)製、平均粒径:4μm、炭化収率:0%)
G:疎水性樹脂
・PTFE樹脂 “ポリフロン(登録商標)”PTFEディスパージョンD−1(ダイキン工業(株)製)
H:その他
・界面活性剤“TRITON(登録商標)”X−100(ナカライテスク(株)製)
【0061】
<抄紙体の作製>
炭素繊維を平均長さ12mmにカットし、水中に分散させて湿式抄紙法により連続的に抄紙した。さらに、バインダーとしてポリビニルアルコールの10質量%水溶液を塗布、乾燥させ、炭素繊維目付19.5g/mの抄紙体を作製した。ポリビニルアルコールの塗布量は、抄紙体100質量部に対して、22質量部であった。
【0062】
<混合樹脂組成物の調整>
熱硬化性樹脂としてレゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂の混合物、炭素系フィラーとして鱗片状黒鉛、溶媒としてメタノールを用い、所定の配合比で混合し、超音波分散装置を用いて1分間撹拌を行い、均一に分散した樹脂組成物を得た。次に、樹脂組成物に架橋ポリメチルメタクリレート粒子を、所定の配合比で混合し、超音波分散装置を用いて1分間撹拌を行い、均一に分散した混合樹脂組成物を得た。
【0063】
<予備含浸体の作製、張り合わせ、熱処理>
15cm×12.5cmにカットした抄紙体をアルミバットに満たした混合樹脂組成物に浸漬し、抄紙体に混合樹脂組成物を含浸させた後、100℃で5分間加熱して乾燥させ、予備含浸体を作製した。次に、予備含浸体を2枚積層し、平板プレスで加圧しながら、180℃で5分間熱処理を行った。張り合わせ後の炭素繊維目付は39g/mであった。なお、加圧の際に平板プレスにスペーサーを配置して、熱処理後の予備含浸体の厚さが200μmになるように上下プレス面板の間隔を調整した。
【0064】
<炭素繊維焼成体の作製>
予備含浸体を熱処理した基材を、加熱炉において、窒素ガス雰囲気化で焼成を行い炭素化し、炭素繊維焼成体を得た。ここで、焼成条件は以下の通りとした。
・室温から昇温速度500℃/分で2400℃まで昇温
・2400℃で5分間保持
・2400℃から室温まで放冷
【0065】
<電極基材の作製、微小多孔層の形成>
炭素繊維焼成体にPTFE樹脂を塗布し、100℃で5分間加熱して乾燥させ、電極基材を作製した。次に、電極基材にコーターを用いて厚さ200μmのカーボン塗液層を形成した。ここで用いたカーボン塗液は、カーボンブラック、PTFE樹脂、界面活性剤、精製水を用い、配合比をカーボンブラック/PTFE樹脂/界面活性剤/精製水=7.7質量部/2.5質量部/1.8質量部/88質量部となるように調整したものを用いた。カーボン塗液層を形成した電極基材を380℃で10分間加熱して、微小多孔層を形成した電極基材を作製した。
【0066】
<固体高分子型燃料電池の電池性能評価>
白金担持炭素(田中貴金属工業(株)製、白金担持量:50質量%)1.00g、精製水 1.00g、“Nafion(登録商標)”溶液(Aldrich社製 “Nafion(登録商標)”5.0質量%)8.00g、イソプロピルアルコール(ナカライテスク社製)18.00gを順に加えることにより、触媒液を作成した。
【0067】
次に7cm×7cmにカットした “ナフロン(登録商標)”PTFEテープ“TOMBO(登録商標)”No.9001(ニチアス(株)製)に、触媒液をスプレーで塗布し、室温で乾燥させ、白金量が0.3mg/cmの触媒層付きPTFEシートを作製した。続いて、10cm×10cmにカットした固体高分子電解質膜“Nafion(登録商標)”NR−211(DuPont社製)を2枚の触媒層付きPTFEシートで挟み、平板プレスで5MPaに加圧しながら130℃で5分間プレスし、固体高分子電解質膜に触媒層を転写した。プレス後、PTFEシートを剥がし、触媒層付き固体高分子電解質膜を作製した。
【0068】
次に、触媒層付き固体高分子電解質膜を、7cm×7cmにカットした2枚の微小多孔層を備えた電極基材で挟み、平板プレスで3MPaに加圧しながら130℃で5分間プレスし、膜−電極接合体を作製した。なお、微小多孔層を備えた電極基材は、微小多孔層を有する面が触媒層側と接するように配置した。
【0069】
得られた膜−電極接合体を燃料電池評価用単セルに組み込み、電流密度を変化させた際の電圧を測定した。ここで、セパレータとしては、溝幅1.5mm、溝深さ1.0mm、リブ幅1.1mmの一本流路のサーペンタイン型のものを用いた。また、アノード側には210kPaに加圧した水素を、カソード側には140kPaに加圧した空気を供給し、運転温度65℃で評価を行った。なお、水素、空気はともに70℃に設定した加湿ポットにより加湿を行った。また、水素、空気中の酸素の利用率はそれぞれ80%、67%とした。
【0070】
<3点曲げ試験方法>
3点曲げ試験は、JIS K 6911に準拠して行い、試験片の幅を15mm、長さを40mm、支点間距離を15mmとした。また、支点と圧子の曲率半径を3mm、荷重印加速度を2mm/分とした。得られた歪み−応力曲線における最大応力を曲げ強度とした。なお、曲げ強度が異方性を有している場合には、曲げ強度の最も高い方向を試験片の長さ方向とした。
【0071】
(実施例1)
実施例1の樹脂組成物の配合比は、熱硬化性樹脂/炭素系フィラー/溶媒=10質量部/5質量部/85質量部とした。また、混合樹脂組成物の配合比は、樹脂組成物/架橋ポリメチルメタクリレート粒子(平均粒径:5μm)=100質量部/20質量部とした。予備含浸体は、炭素繊維100質量部に対して、樹脂成分(熱硬化性樹脂+炭素系フィラー)、有機粒子が合計で275質量部となるように含浸したものであった。得られた運転温度65℃における電池性能評価結果を図3に示す。高電流密度領域まで高電圧を維持しており、比較例1と比較してフラッディングが改善されていることがわかった。表1に示す通り、運転温度65℃、電流密度1.5A/cmにおける出力電圧が0.56V、曲げ強度が57MPaであり、いずれも極めて優れることがわかった。
【0072】
(実施例2)
実施例2の樹脂組成物の配合比は、熱硬化性樹脂/炭素系フィラー/溶媒=10質量部/5質量部/85質量部とした。また、混合樹脂組成物の配合比は、樹脂組成物/架橋ポリメチルメタクリレート粒子(平均粒径:5μm)=100質量部/6.7質量部とした。予備含浸体は、炭素繊維100質量部に対して、樹脂成分(熱硬化性樹脂+炭素系フィラー)、有機粒子が合計で170質量部となるように含浸したものであった。表1に示す通り、運転温度65℃、電流密度1.5A/cmにおける出力電圧が0.54V、曲げ強度が58MPaであり、いずれも極めて優れることがわかった。
【0073】
(実施例3)
有機粒子として平均粒径2μmの架橋ポリメチルメタクリレート粒子を用いた以外は、実施例2と同様に電極基材を作製した。表1に示す通り、運転温度65℃、電流密度1.5A/cmにおける出力電圧が0.49V、曲げ強度が52MPaであり、いずれも優れることがわかった。
【0074】
(実施例4)
有機粒子として平均粒径12μmの架橋ポリメチルメタクリレート粒子を用いた以外は、実施例2と同様に電極基材を作製した。表1に示す通り、運転温度65℃、電流密度1.5A/cmにおける出力電圧が0.56V、曲げ強度が56MPaであり、いずれも極めて優れることがわかった。
【0075】
(実施例5)
有機粒子として平均粒径20μmの架橋ポリメチルメタクリレート粒子を用いた以外は、実施例2と同様に電極基材を作製した。表1に示す通り、運転温度65℃、電流密度1.5A/cmにおける出力電圧が0.52Vであり極めて優れており、曲げ強度が51MPaであり優れることがわかった。
【0076】
(実施例6)
有機粒子として平均粒径4μmの架橋ポリスチレン粒子を用いた以外は、実施例2と同様に電極基材を作製した。表1に示す通り、運転温度65℃、電流密度1.5A/cmにおける出力電圧が0.53V、曲げ強度が56MPaであり、いずれも極めて優れることがわかった。
【0077】
【表1】

【0078】
(比較例1)
比較例1の樹脂組成物の配合比は、熱硬化性樹脂/炭素系フィラー/溶媒=10質量部/5質量部/85質量部とした。比較例1は炭化収率20質量%未満の有機粒子、有機繊維を含まず、樹脂組成物を抄紙体に含浸して予備含浸体を得た。予備含浸体は、炭素繊維100質量部に対して、樹脂成分(熱硬化性樹脂+炭素系フィラー)が合計で275質量部となるように含浸したものであった。得られた電池性能評価結果を図3に示す。電流密度が増加するに従い電圧が著しく低下し、フラッディングが顕著であることがわかった。
【0079】
(比較例2)
比較例2の樹脂組成物の配合比は、熱硬化性樹脂/炭素系フィラー/溶媒=10質量部/5質量部/85質量部とした。比較例2は炭化収率20質量%未満の有機粒子、有機繊維を含まず、樹脂組成物を抄紙体に含浸して予備含浸体を得た。予備含浸体は、炭素繊維100質量部に対して、樹脂成分(熱硬化性樹脂+炭素系フィラー)が合計で118質量部となるように含浸したものであった。表2に示す通り、曲げ強度が37MPaと低いことがわかった。
【0080】
(比較例3)
有機粒子として平均粒径4μmの未架橋のポリメチルメタクリレート粒子を用いた以外は、実施例2と同様に電極基材を作製した。表2に示す通り、運転温度65℃、電流密度1.5A/cmにおける出力電圧が0.45Vと低いことがわかった。
【0081】
【表2】

【符号の説明】
【0082】
1:炭素繊維
2:樹脂組成物の炭化部分
3:有機粒子の消失跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を含む抄紙体に樹脂組成物を含浸させた後、炭素化してガス拡散電極基材を得るガス拡散電極基材の製造方法において、前記樹脂組成物に、炭化収率が20質量%未満であり、かつ架橋ポリマーからなる有機粒子および/または有機繊維を混合してから前記抄紙体に含浸させることを特徴とするガス拡散電極基材の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂組成物に含まれる樹脂成分の炭化収率が40質量%以上であることを特徴とする、請求項1記載のガス拡散電極基材の製造方法。
【請求項3】
前記有機粒子の平均粒子径が1〜30μmの範囲内であることを特徴とする、請求項1または2に記載のガス拡散電極基材の製造方法。
【請求項4】
前記有機繊維の平均直径が1〜30μmの範囲内であり、なおかつ、平均長さが30〜100μmの範囲内であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のガス拡散電極基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−146373(P2011−146373A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277565(P2010−277565)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】