説明

ガス改質ペーパー触媒及びその製造方法

【課題】改質反応場の高温に耐えることができ、効率的なアルコール水蒸気改質反応を行わせることができるガス改質ペーパー触媒及びその製造方法を提供する。
【解決手段】メタノールと水蒸気とを反応させて水素を生成するためのメタノール水蒸気改質反応に使用される触媒を保持するとともに、繊維をペーパー状多孔質構造に成形して成るガス改質ペーパー触媒において、触媒粉末とゼオライトZSM−5とが繊維内に分散担持されて成るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールと水蒸気とを反応させて水素を生成するためのアルコール水蒸気改質反応に使用される触媒を保持するとともに、ペーパー状多孔質構造に成形されたガス改質ペーパー触媒及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、触媒燃焼に用いられる触媒は、ハニカム状に折り曲げ形成されたセラミックスにおける気孔(ハニカム形状が成す連通孔)内表面に担持され、当該気孔を原料ガスが通過することによって触媒の反応を促進するよう構成されていた。かかるセラミックスは、例えばシリカ、アルミナ、マグネシアなどを原料として成形及び焼成して成るものであり、その表面に触媒粒子と酢酸とを湿式解砕にて作成したスラリーをコーティングすることにより所望の触媒構造体を得ていた。
【0003】
然るに、成形性及び触媒の反応効率を向上させる観点から、触媒構造体をペーパー状に成形する技術が、例えば特許文献1によって開示されている。この文献で開示された技術によれば、金属触媒及びセラミックス繊維を所定量の水に十分分散させ、コロイダルシリカや硫酸アルミニウム等を添加した後、通常の長網式抄紙機で抄造してセラミックスペーパー(即ち、ペーパー状の触媒構造体)を得ていた。
【0004】
ところで、近年、環境に優しいクリーンエネルギとして燃料電池発電に注目が集まっている。かかる燃料電池発電は、メタノールなどのアルコールと水蒸気とを反応させて水素を生成させ、その水素を原料とするものであるため、より効率的に水素を生成する触媒改質の研究開発が行われているのが実情である。然るに、例えば特許文献2には、ペーパー状の多孔質構造を成すガス改質ペーパー触媒が開示されている。
【特許文献1】特開平6−134307号公報
【特許文献2】特開2004−122037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のガス改質ペーパー触媒においては、その触媒が改質反応場の高温に耐えることができないことから、効率的なアルコール水蒸気改質反応(メタノール水蒸気改質反応)を行わせるには不十分であるという問題があった。即ち、アルコール水蒸気改質反応が行われる改質反応場は、約250〜300℃と高温で水蒸気が40%程度含まれることとなるため、従来の触媒においては、その高温条件に耐えることができず、メタノールなどのアルコールを良好に吸着させることができないのである。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、改質反応場の高温に耐えることができ、効率的なアルコール水蒸気改質反応を行わせることができるガス改質ペーパー触媒及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、アルコールと水蒸気とを反応させて水素を生成するためのアルコール水蒸気改質反応に使用される触媒を保持するとともに、繊維をペーパー状多孔質構造に成形して成るガス改質ペーパー触媒において、触媒粉末とゼオライトZSM−5とが繊維内に分散担持されて成ることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、アルコールと水蒸気とを反応させて水素を生成するためのアルコール水蒸気改質反応に使用される触媒を保持するとともに、繊維をペーパー状多孔質に成形して成るガス改質ペーパー触媒の製造方法において、繊維、触媒粉末及びゼオライトZSM−5を含むスラリーを生成し、当該スラリーに凝集剤を添加してフロックを生成した後、当該フロックを抄造してペーパー状の多孔質構造を生成して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、触媒粉末とゼオライトZSM−5とが繊維内に分散担持されて成るので、改質反応場の高温に耐えることができ、効率的なアルコール水蒸気改質反応を行わせることができる。また、触媒粉末とゼオライトZSM−5が協奏的に働くことにより、ガス拡散効率が著しく向上し、主反応の効率化に加え、副反応の抑制を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係るガス改質ペーパー触媒は、メタノール(CH3OH)が水蒸気(H2O)と反応することにより生成される水素(H2)を原料として電力を得るため、燃料電池用メタノール水蒸気改質反応(アルコール水蒸気改質反応)に使用される触媒を保持したものであり、ペーパー状に成形された耐熱性繊維の空孔内に触媒としての触媒粉末とゼオライトZSM−5とを分散担持させて構成されている。
【0011】
耐熱性繊維は、シリカ及びアルミナを主成分とした非晶質セラミックスから成り、湿式抄紙法でペーパー状に成形されて触媒構造体の担体を成すものである。かかる耐熱性繊維は、任意の空隙率(空隙率=(1−みかけの密度/真の密度)×100なる式で求められる値)の多孔質構造に成形される。かかる空隙率は、耐熱性繊維をペーパー状に成形する際に調整され、例えば不織布の空隙率を調整する際に使用される天然珪藻土、炭素繊維又は黒鉛等から成る気孔調整剤が使用される。
【0012】
尚、耐熱性繊維は、化学的、物理的に安定で、抄造した際に繊維同士が強く絡み合って高強度な構造体を得ることができれば、他の材質から構成してもよく、特にメタノール水蒸気改質反応で使用するに際し、アラミド繊維等の有機繊維を使用することもできる。その他、耐熱性が高く、化学的にも安定なガラス繊維や炭素繊維を湿式抄紙法でペーパー状に成形することにより構造体を得るようにしてもよい。
【0013】
ゼオライトZSM−5は、ゼオライトにおける複数の種類のうちの一種であり、例えばゼオライトA−3、A−4、A5及びYなどに比べ、高温水蒸気に充分耐えることができるものである。即ち、かかるゼオライトZSM−5は、約250〜300℃の高温で40%程度の水蒸気が含まれる改質反応場において、触媒としての機能を維持して十分耐えることができ、メタノールを吸着することができるのである。
【0014】
触媒粉末は、金属酸化物を担体とした触媒粉末とされた後、ゼオライトZSM−5と共に湿式抄紙法にて多孔質構造の空孔内に均一に分散されて付着されるものであり、例えば、電子状態がメタノール水蒸気改質触媒反応に高い活性を有する銅触媒を使用することができる。触媒粉末中の銅触媒は、触媒担体となる金属酸化物の表面に化学的に強く吸着されるので、当該触媒担体から剥離することがない。
【0015】
ここで、触媒粉末及びゼオライトZSM−5の多孔質構造の空孔内への付着は主に無機バインダにて行われる。一般に無機バインダは、耐熱性繊維と金属触媒との結合材であり、ガラス類の如き加熱融着により結合させるものと、コロイド状無機酸化物(特に、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、コロイダルジルコニアは、分散性に優れ、高強度を得ることができるので、これらのうちいずれかを用いるのが好ましい。)やシリカゲル等の如き脱水反応によって化学結合及び焼結によってその強度をもたらすものの2種類に大別されるが、本実施形態で使用される無機バインダとしては、後者、即ち脱水反応により化学結合させるものが好ましい。
【0016】
次に、上記ガス改質ペーパー触媒の製造方法について図1のフローチャートに基づいて説明する。
まず、所定量の水に対し所定量の耐熱性繊維、触媒粉末及びゼオライトZSM−5、無機バインダ、気孔調整剤等を投入して水溶液を作製し、これら含有物を均一に分散させたスラリーを作製する(スラリー生成工程S1)。そして、当該スラリーに凝集剤を添加してフロックを生成(フロック生成工程S2)した後、当該フロックを抄造(湿式抄造法)してペーパー化する(ペーパー化工程S3)。その後、乾燥及び無機バインダの硬化のため、所定の熱処理及び加圧処理を行う(乾燥工程S4)。これにより、均一な厚さのペーパー状の多孔質構造を得ることができる。
【0017】
フロックを生成するための凝集剤は、高分子凝集剤と金属カチオンとを含有し、強い電荷を有しており、水溶液中でそれぞれ電荷を帯びて電気的に反発し合っている物質の電荷を中和し、強く絡み付かせるものである。このうち高分子凝集剤は、絡み付いた繊維の間に入り込み、更に結合力を強化する働きがあり、金属カチオンはミョウバン、硫酸アルミニウム等の水溶液にAl3+カチオンを含むものが使用される。
【0018】
本実施形態によれば、触媒粉末及びゼオライトZSM−5が繊維内に分散担持されて成るので、繊維ネットワークから成るマイクロ構造体内部に分散担持された触媒粉末とゼオライトZSM−5とが協奏的に働くことにより、触媒表面への反応ガスの供給が効率的に行われるようになる。また、触媒粉末とゼオライトZSM−5が協奏的に働くことにより、ガス拡散効率が著しく向上し、主反応の効率化に加え、副反応の抑制を図ることができる。
【0019】
更に、ゼオライトZSM−5が改質反応場の高温に耐えることができ、効率的なメタノール水蒸気改質反応を行わせることができ、触媒の耐久性の向上を図ることができる。然るに、本実施形態によれば、従来の如きペレット状触媒を用いる改質法に比べ、約2倍のガス転化率を達成し、同転化率では、CO濃度が1/10以下、60℃以上の省エネ効果に加え、触媒使用量も1/4まで削減することが可能となる。
【0020】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば触媒粉末、耐熱性繊維等を他の材料としてもよく、或いは湿式抄造法について他の工程を付加するようにしてもよい。また、本発明の適用は、燃料電池自動車のガス改質部への組み込みが好ましいが、他のメタノール水蒸気改質反応部への組み込みであってもよい。
【0021】
更に、本実施形態においては、メタノールと水蒸気とを反応させて水素を生成するためのメタノール水蒸気改質反応に使用される触媒を保持するとともに、繊維をペーパー状多孔質に成形して成るガス改質ペーパー触媒に適用されているが、メタノール以外のアルコール(エタノールやプロパノール等)と水蒸気とを反応させて水素を生成するためのアルコール水蒸気改質反応に使用される触媒を保持するとともに、繊維をペーパー状多孔質に成形して成るガス改質ペーパー触媒に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
触媒粉末とゼオライトZSM−5とが繊維内に分散担持されて成るガス改質ペーパー触媒及びその製造方法であれば、種々他の原料を含有したものにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係るガス改質ペーパー触媒の製造工程を示すフローチャート
【符号の説明】
【0024】
S1 スラリー生成工程
S2 フロック生成工程
S3 ペーパー化工程
S4 乾燥工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールと水蒸気とを反応させて水素を生成するためのアルコール水蒸気改質反応に使用される触媒を保持するとともに、繊維をペーパー状多孔質構造に成形して成るガス改質ペーパー触媒において、
触媒粉末とゼオライトZSM−5とが繊維内に分散担持されて成ることを特徴とするガス改質ペーパー触媒。
【請求項2】
アルコールと水蒸気とを反応させて水素を生成するためのアルコール水蒸気改質反応に使用される触媒を保持するとともに、繊維をペーパー状多孔質に成形して成るガス改質ペーパー触媒の製造方法において、
繊維、触媒粉末及びゼオライトZSM−5を含むスラリーを生成し、当該スラリーに凝集剤を添加してフロックを生成した後、当該フロックを抄造してペーパー状の多孔質構造を生成して成ることを特徴とするガス改質ペーパー触媒の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−307471(P2008−307471A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157445(P2007−157445)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名「社団法人 化学工学会」、刊行物名「化学工学会第72年会 研究発表講演要旨集」、発行年月日「平成19年2月19日」
【出願人】(000128175)株式会社エフ・シー・シー (109)
【Fターム(参考)】