説明

ガス溶解水の製造装置

【課題】給水量の変動が大きい場合であっても薬液添加後の薬剤濃度の目標値からの乖離が小さいものとなるガス溶解水の製造装置を提供する。
【解決手段】原水は、流量計1を経由して脱気膜モジュール2に送られて脱気される。次いで、ガス溶解膜モジュール4において、ガス供給器5から供給される水素などのガスがガス透過膜4aを介して水に溶解する。ガス溶解水に対し、薬液貯槽6から薬注ポンプ7によりアンモニア水などの薬液を添加する。薬液が添加されたガス溶解水中の薬剤濃度が薬剤濃度センサ10で検知された後、ユースポイントに送られる。流量計1及び薬剤濃度センサ10の検出値に基づいて薬注ポンプ7を制御する。この際、原水流量、薬液添加量及び濃度センサ11の検出濃度に基づいて実際の薬液濃度を求め、薬注量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス溶解水の製造装置に係り、詳しくは、気体透過膜によって内部が液相室と気相室に区画された気体透過膜モジュールを有しており、該液相室に水を供給し、該気相室にガスを供給し、該気体透過膜を経由して該気相室内のガスを該液相室内の水に溶解させることにより、ガス溶解水を製造するガス溶解水の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板などの洗浄は、主として、過酸化水素水と硫酸の混合液、過酸化水素水と塩酸と水の混合液、過酸化水素水とアンモニア水と水の混合液など、過酸化水素をベースとする濃厚な薬液を用いて高温で洗浄した後に超純水で濯ぐ、いわゆるRCA洗浄法によって行われている。しかし、このRCA洗浄法では、過酸化水素水、高濃度の酸、アルカリなどを多量に使用するために薬液コストが高く、さらにリンス用の超純水のコスト、廃液処理コスト、薬品蒸気を排気し新たに清浄空気を調製する空調コストなど、多大なコストを要する。
【0003】
これに対し、洗浄工程におけるコストの低減や、環境への負荷の低減を目的とした様々な取り組みがなされ、成果を挙げている。その代表が、水素ガスなどの特定のガスを溶解したガス溶解水を用い、超音波洗浄等によって被処理物を洗浄する技術である。
【0004】
このようなガス溶解水を製造する方法として、気体透過膜を内蔵した膜モジュールを用いる方法が知られている。この方法では、気体透過膜の液相側に水を供給すると共に気相側にガスを供給し、この気体透過膜を介して気相側のガスを液相側の水に溶解させることにより、ガス溶解水を製造する。
【0005】
例えば、特開平11−077023号には、超純水を脱気して溶存気体の飽和度を低下させたのち、この超純水に水素ガスを溶解させることが記載されている。
【0006】
第2図は、同号公報の工程系統図である。超純水は、流量計1を経由して脱気膜モジュール2に送られる。脱気膜モジュール2は、ガス透過膜を介して超純水と接する気相側が真空ポンプ3により減圧状態に保たれ、超純水中に溶存しているガスが脱気される。溶存ガスが脱気された超純水は、次いでガス溶解膜モジュール4に送られる。ガス溶解膜モジュール4においては、水素ガス供給器5から供給される水素ガスが気相側に送られ、ガス透過膜を介して超純水に供給される。溶存水素ガス濃度が所定の値に達した超純水には、薬液貯槽6から薬注ポンプ7によりアンモニア水などの薬液を供給し、所定のpH値に調整する。水素ガスを溶解し、アルカリ性となった水素含有超純水は、最後に精密濾過装置8に送られ、MFフィルターなどにより微粒子が除去された後、ユースポイントに送られる。
【0007】
脱気膜モジュール2の入口及び出口に、溶存気体測定センサ9を設置し、超純水中の気体量を測定して飽和度を求め、信号を真空ポンプに送って超純水の飽和度と所望飽和度とを対比し、脱気量を調整する。脱気量の調整は、例えば、真空ポンプによる真空度を真空度調節弁の開度を調整して行う。水素ガスの供給量は、脱気後の超純水の気体飽和度を溶存気体測定センサ9により測定し、水素ガス溶解膜モジュールから流出する水素含有超純水中の水素ガス濃度を溶存水素測定センサ9Aにより測定し、それぞれ信号を水素ガス供給器に送り、例えば、水素ガス供給路に設けた弁の開度などを調整することにより制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−077023号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来のガス溶解水の製造装置において、アンモニア添加後のガス溶解水中のアンモニア濃度を規定濃度とするためには、アンモニア添加後の水中のアンモニア濃度をアンモニアセンサで検出し、この検出アンモニア濃度が規定濃度となるように薬注ポンプ7を制御する。
【0010】
このようなフィードバック制御の場合、給水量の変動が大きい場合、薬注量の給水量変動への追従が遅れ、ガス溶解水中のアンモニア濃度の目標値からの乖離が大きくなる。
【0011】
本発明は、ガス溶解膜モジュールでガスを溶解させた水に薬液を添加するガス溶解水の製造装置において、給水量の変動が大きい場合であっても薬液添加後の薬剤濃度の目標値からの乖離が小さいものとなるガス溶解水の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1のガス溶解水の製造装置は、ガス透過膜によって内部が液相室と気相室に区画されたガス溶解用の膜モジュールであって、該液相室に水が供給され、該気相室にガスが供給され、該気体透過膜を経由して該気相室内のガスが該液相室内の水に溶解するガス溶解膜モジュールと、該膜モジュールからのガス溶解水に薬液を添加する薬液添加手段と、該薬液添加手段からの薬液添加量を制御する制御手段とを有するガス溶解水の製造装置において、該ガス溶解膜モジュールへの給水量を検出する給水量検出手段が設けられており、前記制御手段は、該給水量検出手段の検出給水量に応じて薬液添加手段を制御することを特徴とするものである。
【0013】
請求項2のガス溶解水の製造装置は、請求項1において、前記薬液は薬剤の溶液であり、薬液が添加されたガス溶解水中の薬剤濃度を検出する濃度検出手段が設けられており、前記制御手段は、薬液添加量と該濃度検出手段で検出されるガス溶解水中の薬剤濃度とに基いて薬液中の薬剤濃度を検知し、この薬液中の薬剤濃度と前記検出給水量とに基いて薬液添加手段を制御することを特徴とするものである。
【0014】
請求項3のガス溶解水の製造装置は、請求項2において、薬液添加量と該濃度検出手段で検出されるガス溶解水中の薬剤濃度を定期的に検知して、薬剤濃度と検出給水量との関係を定期的に修正を繰り返して薬剤添加手段を制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガス溶解水の製造装置では、ガス溶解膜モジュールへの給水量に応じて薬液の添加量を制御するので、給水量の変動が大きい場合であっても、これに迅速に追従して薬液添加量が制御され、ガス溶解水中の薬剤濃度の目標濃度からの乖離を小さくすることができる。
【0016】
本発明では、薬液添加量と、検出された薬液添加後のガス溶解水中の薬剤濃度とを対比し、添加する薬液中の実際の薬剤濃度を算出し、前記給水量とこの薬液中の実際の薬剤濃度に基づいて薬液添加量を制御することにより、ガス溶解水中の薬剤濃度の目標濃度からの乖離をさらに小さくすることができる。これは、例えば薬液貯槽中の薬液を更新したときに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態に係るガス溶解水の製造装置を説明する系統図である。
【図2】従来例に係るガス溶解水の製造工程系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、第1図を参照して実施の形態について説明する。
【0019】
第2図の場合と同様に、超純水などの原水は、流量計1を経由して脱気膜モジュール2に送られる。脱気膜モジュール2は、ガス透過膜2aを介して超純水と接する気相側が真空ポンプ3により減圧状態に保たれ、原水中に溶存しているガスが脱気される。溶存気体が脱気された超純水は、次いでガス溶解膜モジュール4に送られる。ガス溶解膜モジュール4においては、ガス供給器5から供給される水素などのガスが気相側に導入され、ガス透過膜4aを介して超純水に溶解する。ガス溶解膜モジュール4からのガス溶解水に対し、薬液貯槽6から薬注ポンプ7によりアンモニア水などの薬液を添加する。薬液が添加されたガス溶解水中の薬剤濃度が薬剤濃度センサ10で検知された後、薬剤含有ガス溶解水がユースポイントに送られる。
【0020】
前記流量計1及び該薬剤濃度センサ10の検出値が制御器11に入力され、該制御器11が薬注ポンプ7を制御する。
【0021】
なお、ガス透過膜2a,4aとしては、水を透過させず、かつ水に溶解しているガスを透過させるものであれば特に制限はなく、例えば、ポリプロピレン、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサンブロック共重合体、ポリビニルフェノール−ポリジメチルシロキサン−ポリスルホンブロック共重合体、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)、ポリテトラフルオロエチレンなどの高分子膜などを挙げることができる。
【0022】
この水に溶解させるガスとしては、例えば、水素、酸素、炭酸ガス、オゾン、アルゴンやヘリウムなどの希ガス、窒素などの不活性ガス、これらのガスの2種以上の混合ガスなどが用いられる。
【0023】
ガス溶解水に添加する薬剤としては、アンモニア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0024】
本発明の一形態では、薬液貯槽6内に濃度既知の薬液が貯えられており、流量計1の検出流量に比例して薬注ポンプ7からの薬注量が制御される。これにより、給水量が大幅に変動しても、ガス溶解水中の薬剤濃度は正確に一定濃度に保たれる。なお、この場合でも、薬剤濃度センサ10で薬剤濃度を測定し、薬剤濃度が目標濃度から乖離していないか監視するのが好ましい。
【0025】
薬液貯槽6内には、一応、目標濃度となっている薬液が補給されるが、アンモニアなど揮発性を有した薬液などの場合には、目標濃度と実際の薬剤濃度とが若干ずれている場合がある。そこで、本発明の別の一態様では、薬液貯槽6内に薬液を補充した場合、次のようにして薬液貯槽6内の薬剤濃度を算出し、その後、この実際の濃度に応じた薬注制御を行う。
【0026】
即ち、薬注ポンプ7からの薬注量と、流量計1の検出流量と、薬剤濃度センサ10の検出濃度とに基づいて、薬液貯槽6内の薬液の薬剤濃度を算出し、その後は、この薬液貯槽6内の実際の薬剤濃度と流量計1の検出流量とに基づいて薬注量を制御する。
【0027】
例えば、Δt時間の合計流量Vと、該Δt時間の合計薬注量Qと薬液貯槽6内の薬液の薬剤濃度aと、薬剤濃度センサ10の検出濃度bとの間には、次の関係が存在する(ただし、Q≪Vであるとする。)。
V・b=Q・a ・・・(1)
従って b=Q・a/V ・・・(2)
【0028】
薬液貯槽6内の薬液の実際の薬剤濃度がaであれば、薬剤濃度センサ10の検出濃度bは正確に目標濃度となっている。ところが、アンモニア等の薬剤成分の揮発や薬液調製時の誤差などにより薬液貯槽6内の薬液の実際の薬剤濃度がaではなくa’(a’≠a)となっているときがある。この場合には、薬注量をQのままとしたのでは、薬剤濃度センサ10の検出濃度b’は
b’=Q・a’/V ・・・(3)
となり、目標値bから(b’−b)分だけ乖離することになる。
【0029】
そこで、(3)式を変形した
a’=V・b’/Q ・・・(4)
より薬液貯槽6内の薬液の実際の濃度a’を求め、目標濃度bとするための薬注量Q’を
b=Q’・a’/V ・・・(5)
即ち Q’=V・b/a’ ・・・(6)
にて算出する。そして、Δt時間の薬注量がQ’となるように、すなわち単位時間当りの薬注量がQ’/Δtとなるように薬注ポンプ7を制御する。これにより、薬剤濃度センサ10で検出される薬剤濃度が(5)式の通り高精度にてbに合致したものとなる。従って、このような制御を行うことにより、給水量の変動が大きい場合であって且つ薬液濃度にバラツキがある場合であっても、ガス溶解水中の薬剤濃度の目標濃度からの乖離を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 流量計
2 脱気膜モジュール
4 ガス溶解膜モジュール
10 薬剤濃度センサ
11 制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス透過膜によって内部が液相室と気相室に区画されたガス溶解用の膜モジュールであって、
該液相室に水が供給され、該気相室にガスが供給され、該気体透過膜を経由して該気相室内のガスが該液相室内の水に溶解するガス溶解膜モジュールと、
該膜モジュールからのガス溶解水に薬液を添加する薬液添加手段と、
該薬液添加手段からの薬液添加量を制御する制御手段と
を有するガス溶解水の製造装置において、
該ガス溶解膜モジュールへの給水量を検出する給水量検出手段が設けられており、前記制御手段は、該給水量検出手段の検出給水量に応じて薬液添加手段を制御することを特徴とするガス溶解水の製造装置。
【請求項2】
請求項1において、前記薬液は薬剤の溶液であり、薬液が添加されたガス溶解水中の薬剤濃度を検出する濃度検出手段が設けられており、
前記制御手段は、薬液添加量と該濃度検出手段で検出されるガス溶解水中の薬剤濃度とに基いて薬液中の薬剤濃度を検知し、この薬液中の薬剤濃度と前記検出給水量とに基いて薬液添加手段を制御することを特徴とするガス溶解水の製造装置。
【請求項3】
請求項2において、薬液添加量と該濃度検出手段で検出されるガス溶解水中の薬剤濃度を定期的に検知して、薬剤濃度と検出給水量との関係を定期的に修正を繰り返して薬剤添加手段を制御することを特徴とするガス溶解水の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−176359(P2012−176359A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40407(P2011−40407)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】