説明

ガス状反応物から液状生成物を生成し、任意でガス状生成物を生成する方法

ガス状反応物から液状生成物を生成し、任意でガス状生成物を生成する方法(10)が、容器(12)の内側の懸濁液中に懸濁した固体粒子の鉛直に延びるスラリー床(70)内に、低いレベルでガス状反応物(14)および任意で再循環ガス流の一部分を供給し、追加のガス供給(58)として、再循環ガス流の少なくとも一部分をガス状反応物(814)がスラリー床(70)内に供給されるレベルの上で、およびスラリー床(70)の鉛直高さの下方20%の上でスラリー床(70)内に供給することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス状反応物から液状生成物を生成し、任意でガス状生成物を生成する方法に関する。本発明は、またガス状反応物から液状生成物を生成し、任意でガス状生成物を生成する装置にも関する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本発明の1つの態様によれば、ガス状反応物から液状生成物を生成し、任意でガス状生成物を生成する方法が提供され、その方法は、
低いレベルでガス状反応物を供給し、任意で、容器内の懸濁液(suspension liquid)中に懸濁している固体粒子の鉛直に延びるスラリー床(slurry bed)の中に再循環ガス流の一部分を供給することと、
スラリー床の中に追加のガス供給として、ガス状反応物がスラリー床内に供給されるレベルの上に、スラリー床の鉛直高さの下方の20%の上に、再循環ガス流の少なくとも一部分を供給することと、
ガス状反応物および再循環ガスがスラリー床を上向きに通過するときに反応できるようにし、それによって液状生成物および任意でガス状生成物を形成し、液状生成物が懸濁液と共にスラリー床の液相を形成することと、
ガス状生成物、未反応のガス状反応物、および未反応の再循環ガスが、スラリー床から離脱し、スラリー床の上のヘッドスペースに入ることができるようにすることと、
ガス状生成物、未反応のガス状反応物および未反応の再循環ガスをヘッドスペースから抜き取ることと、
スラリー床を所望されるレベルに維持するために、スラリー床から液相を抜き取ることと、
再循環ガス流を提供するために、ヘッドスペースからガス状成分の少なくとも一部を再循環させることを含む。
【0003】
この方法は、好ましくは、スラリー再分配装置またはスラリー再分配器を使用して、スラリーがスラリー床内の高いレベルからその低いレベルに、下方向に通れるのを可能にし、それによってスラリー床内で固体粒子を再分配することを含む。
【0004】
一般に、追加のガス供給は、スラリー床内の固体粒子の鉛直分布にほんの僅かしか影響を与えない。本発明のスラリー床内の固体粒子の鉛直分布が、同一の方法であるが全部のガス状反応物および再循環ガスがスラリー床内に単一あるいは共通の低いレベルで供給される方法の分布と比較されると、ほぼ同じであることがわかる。
【0005】
追加のガス供給は、スラリー床の鉛直高さの約20%と80%との間に位置するレベルで供給できる。好ましくは、追加のガス供給は、約25%の上に、より好ましくはスラリー床の鉛直高さの約30%の上に位置するレベルで供給される。
【0006】
この方法は少なくとも原理的にはより広い用途を有することができると考えられるが、固体粒子は通常、ガス状反応物の反応に触媒作用を及ぼして液状生成物にする触媒粒子であり、応用可能な場合、ガス状生成物および懸濁液は必ずしも常にではないが、通常、液状生成物であると想定される。
【0007】
さらに、原理的には、この方法は、より広い用途を有することができるが、ガス状反応物がスラリー床内で触媒的に反応して液状炭化水素生成物を形成し、任意でガス状炭化水素生成物を形成することができる場合、炭化水素合成物内に特定の用途を有することが想定されるとも考えられている。特に、ガス状反応物が主に一酸化炭素および水素を含む合成用ガス流の形式である場合、および液状およびガス状の両方の炭化水素生成物が生成される場合、炭化水素合成は、フィッシャー−トロプシュ合成とすることができる。
【0008】
この方法は、液状生成物たとえば液状炭化水素および反応水などを凝縮させるためにヘッドスペースからのガスを冷却すること、テールガスを提供するために複数のガスから液状生成物を分離させること、および再循環ガス流としてテールガスの少なくとも一部をスラリー床に再循環させることを含むことができる。
【0009】
したがって、スラリー床は、スラリー反応体または気泡塔の形で容器の反応ゾーンに含まれまたは提供されることが可能である。したがって、スラリー反応器または気泡塔は、三相システムすなわち固体触媒粒子、液状生成物、およびガス状反応物(再循環ガスを含む)を使用し、任意でガス状生成物および不活性ガスを使用する。
【0010】
追加のガス供給は、ガススパージャ(gas sparger)によってスラリー床内に導入できる。
【0011】
追加のガス供給は、スラリー床に入るガスの総体積供給量の少なくとも10%を補うことができる。一般に、追加のガス供給は、スラリー床に入るガスの総体積供給量の60%より多くは補わない。
【0012】
触媒粒子の触媒は、鉄系触媒(iron−based catalyst)、コバルト系触媒(cobalt−based catalyst)またはその他の、フィッシャー−トロプシュ触媒(Fischer−Tropsch catalyst)などの所望のフィッシャー−トロプシュ触媒とすることができる。触媒粒子は、たとえば300ミクロンより大きい触媒粒子が全く無く、触媒分子の質量で5%未満が22ミクロンよりも小さいなどの所望の粒子の寸法範囲を有することができる。
【0013】
したがって、スラリー反応器または気泡塔は、フィッシャー−トロプシュ合成反応に関連したたとえば、あらかじめ定められた10から50バールの範囲の作動圧力、ならびに160℃から280℃またはさらに高い範囲のより低い沸点の生成物の生成のためのさらに高温のあらかじめ定められた温度などの、通常の上昇された圧力および温度の状態に維持できる。
【0014】
したがって、スラリー床内の触媒粒子は、スラリー床内を通過する、すなわちスラリー床内を泡立ちながら通る合成用ガス流(新規および再循環)により生成された乱流によって懸濁して維持される。したがって、スラリー床を通るガス速度は、スラリー床を乱流または懸濁の状態に維持するのに十分高い。
【0015】
本発明の1つの実施形態では、スラリー床に戻される再循環ガス流全体は、追加のガス供給の一部分を形成する。
【0016】
この方法は、スラリー床の下方部分内でのスラリー床内のガス貯留が、同一の方法のスラリー床の下方部分内でのガス貯留よりも低いが、この方法においてガス状反応物および再循環ガスの全てがスラリー床内に単一の低いレベルで供給されることで特徴づけられることができる。ガス貯留は、スラリー床の上方部分内で前記同一の方法のスラリー床の上方部分内よりも高くてもよい。しかし、本発明のこの方法のスラリー床内の全体のガス貯留は、従来の方法のスラリー床内のものよりも低い。
【0017】
本発明の別の態様によれば、ガス状反応物から液状生成物を生成し、任意でガス状生成物を生成する装置が提供され、その装置は、
使用の際に、懸濁液中に懸濁した固体粒子のスラリー床を含む鉛直に延びるスラリー床ゾーンを有する反応容器と、
ガス状反応物を容器内に導入するための、スラリー床ゾーン内の低いレベルにある容器内の第1のガス入口と、
容器内に再循環ガスを導入するための、第1のガス入口の上のスラリー床ゾーン内のレベルにある容器内の第2のガス入口であって、容器内の第2のガス入口がスラリー床ゾーンの鉛直高さの下方の20%の上にある第2のガス入口と、
スラリー床ゾーンの上のヘッドスペースからガスを抜き取るための、スラリー床ゾーンの上の容器内のガス出口と、
容器から液状生成物を抜き取るための、スラリー床ゾーンの中の容器内の液体出口とを備える。
【0018】
好ましくは、この装置は、使用に際し、スラリーがスラリー床内の高いレベルからそれを介してその低いレベルに再分配され、それによって、スラリー床内に固体粒子を再分配できる、1つまたは複数のスラリー再分配器上のスラリー再分配手段を備える。
【0019】
第2のガス入口は、スラリー床ゾーンの鉛直高さの約20%と約80%との間に位置するレベルにあることができる。好ましくは、第2のガス入口は、下方25%の上のレベルにあり、より好ましくは、スラリー床ゾーンの鉛直高さの下方30%の上にある。
【0020】
第2のガス入口は、ガススパージャを備える。
【0021】
本明細書で、用語「スラリー再分配手段」は、スラリーおよび触媒分子を反応容器内に鉛直に再分配するために使用される物理的な装置を指すことが意図され、スラリー床内を上に向って通過するガスのスラリーおよび触媒分子の再分配作用を指すものでない。したがって、スラリー再分配手段またはスラリー再分配器は、下降管、ドラフトチューブ、あるいは、パイプ、ポンプ、およびフィルタなどの機械的な再分配装置を含むことができる。
【0022】
スラリー再分配手段が下降管を備えるとき、第2の下降管領域が第1の下降管領域に対して鉛直方向に間隔を置いて配置されて、下降管は、第1の下降管領域内および第2の下降管領域内に配置できる。
【0023】
したがって、下降管またはドラフトチューブは、スラリー床またはスラリー床ゾーン内で異なるレベルまたは鉛直高度で配置できる。第2の下降管領域は、第1の下降管領域よりも高いレベルで配置することができ、所望であれば、第3およびその後に続く下降管領域も互いに鉛直に間隔を置いて配置されて、それぞれが少なくとも1つの下降管またはドラフトチューブを備えるさらなる下降管領域を第2の下降管領域の上に設けることができる。
【0024】
本発明の1つの実施形態では、第2の下降管領域は、第1の下降管領域と重なり合ってもよい。言い換えれば、第2の下降管領域内の複数の下降管の複数の下方端部は、第1の下降管領域内の複数の下降管の複数の上方端部と重なり合ってもよい。しかし、本発明の別の実施形態では、第2の下降管領域は、第1の下降管領域に対して重なり合わない関係で配置されていてもよい。言い換えれば、第2の下降管領域内の複数の下降管の複数の下方端部は、第1の下降管領域内の複数の下降管の複数の上方端部から鉛直の間隙を伴って離間して配置されていてもよい。
【0025】
反応器または容器を平面図で見た場合、第2の下降管領域内の複数の下降管は、第1の下降管領域内にあるものに対して食い違いの配置にされていてもよい。言い換えれば、好ましくは、第2の下降管領域の複数の下降管の複数の下端部は、直接、第1の下降管領域内の複数の下降管の複数の上方端部の上にスラリーを吐出させない。
【0026】
各下降管は、下方の移送区域、および移送区域よりも大きな断面積の上方の離脱または脱ガス区域を備えていてもよい。好ましくは、この区域は、断面が円形であり円筒形状をしており、離脱区域を移送区域に連結する外側に上向きにじょうご型に開いた連結構成要素を備える。しかし、離脱空間は、所望であれば、たとえば、反応容器内側で可能な空間によって決定される矩形または三角形の区域管路(section channel)の形状の、別の適切な形状であることができる。
【0027】
各下降管は、通常、一般に脱ガス区域が移送区域と軸方向に整列して、完全にスラリー床内すなわち反応器の内側に配置されるが、移送区域および任意で脱ガス区域の一部は、そうではなく、したがって、移送区域の下方出口端部と、少なくとも脱ガス区域の上方入口端部とがスラリー床内またはスラリー床ゾーン内の反応器の内側に配置されて、反応器の外側に配置できる。
【0028】
この方法は、スラリー床が異成分または攪拌乱流の流れ領域になっており、反応ゾーンまたはスラリー床内を事実上プラグ流れの様式で移動する、ガス状反応物および場合によってはガス状生成物の急上昇する大きな泡からなる希薄相と、液状相すなわち液状生成物、固体触媒粒子、ならびにガス状反応物および場合によってはガス状生成物が混入されたより小さな泡を含む濃密相とを含むように、スラリー反応器を作動させることを含むことができる。
【0029】
次に、本発明は、以下の実施例および添付の図面を参照してより詳細に説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図面では、参照番号10は、全体的に、ガス状反応物から液状生成物およびガス状生成物を生成するための本発明による装置を示す。
【0031】
装置10は、反応器12の内側のガスディストリビュータ(図示せず)内に導入する底部ガス入口14を備える直立円筒形のスラリー反応器または気泡塔12と、反応器12の頂部から導出するガス出口16とを備える。液状生成物出口18は、都合のよいレベルで反応器12から導く。
【0032】
反応器12は、参照番号20によって全体的に示される第1の下降管領域を備える。第1の下降管領域20は、全体的に参照番号22で示される下降管を備える。下降管22は、比較的小さい直径の円筒形移送区域24、移送区域24の上端で外側にじょうご型に開いた連結構成要素26、およびその下端部が連結構成要素26に連結されている大直径の脱ガス区域28を備える。したがって、脱ガス区域28の上端は、スラリー用の入口40を設け、移送区域24の下端部は、スラリー出口42を設ける。冷却コイル29も下降管領域20内に設けられる。
【0033】
反応器12は、全体的に参照番号30で示される第2の下降管領域も備える。下降管領域30は、全体的に参照番号32で示される下降管を備える。下降管32は、比較的小さい直径の移送区域34、移送区域34の上端で外側にじょうご型に開いた連結構成要素36、および移送区域34の上端で比較的大きな直径の脱ガス区域38も備える。したがって、脱ガス区域38の下端は、連結構成要素36に連結されている。脱ガス区域38の上方端部は、スラリー入口を設け、移送区域34の下方端部は、スラリー出口を設ける。冷却コイル39も下降管領域30内に設けられる。
【0034】
下降管32の下端部は、下降管22の上端から鉛直の間隙によって間隔を開けて配置されている。さらに、下降管32は、下降管22と軸方向に整列していない。言い換えれば、反応器12を平面図で見た場合、下降管32は、下降管22に対して食い違いの配置にされている。
【0035】
ガス入口14は、第1のガス入口である。第2のガス入口52は、第1のガス入口14と同じレベルまたはそれより高いところに設けられている。第2のガス入口52は、また反応器12内にあって不図示のガス分配器に通ずる。
【0036】
装置10は、さらに、ガス出口16と流れが連通している分離ユニット54、および分離ユニット54と流れが連通している圧縮機56を備える。再循環ガス流路58は、圧縮機56から第2のガス入口52に導く。液状生成物流路60は、テールガス路62が分離ユニット54と圧縮機56の間で流れの連通を確立して、分離ユニット54から導いている。
【0037】
使用する際、主に、ガス状反応物として一酸化炭素および水素を含む新規の合成用ガス(synthesis gas)が、第1のガス入口14を通って反応器12の底部に供給され、そのガスは、一般に、反応器12内のスパージャシステム(図示せず)を通って均一に分配される。同時に、一般に水素、一酸化炭素、メタン、および二酸化炭素を含む再循環ガス流(一般に冷却された)が、第2のガス入口52を通り、第1のガス入口14の上のレベルで反応器12に入り、反応器12のスパージャシステム(図示せず)を通って供給される。一般に、第2のガス入口52は、第1のガス入口14の上の反応器12の鉛直高さの少なくとも20%のところに配置されている。
【0038】
新規の合成用ガスおよび再循環ガスを含むガス状反応物は、一般には鉄またはコバルトを基にした触媒である、液状生成物内に懸濁したフィッシャー−トロプシュ触媒粒子を含むスラリー床70を上向きに通過する。スラリー床は、ヘッドスペース74がスラリー床70の上に設けられて、第2下降管領域30の上に標準レベル72を有するように作動される。合成用ガスがスラリー床70中にわたって泡立つと、その中のガス状反応物は、液状生成物を形成するために触媒作用的に反応し、したがって、スラリー床70の一部分を形成する。時々、または連続的に、液状生成物を含む液相は、触媒粒子がたとえば濾過器(図示せず)を使用する、内側のまたは外側の適切な分離システム内で液状生成物から分離されて、出口18を通って抜き取られる。分離装置が反応器の外側に位置する場合、分離された触媒粒子を反応器に戻すための追加のシステム(図示せず)が設けられる。
【0039】
新規の合成用ガス、および再循環ガスは、沈降せずにシステム内で全ての触媒粒子を攪拌し懸濁するのに十分な量(rate)で反応器12に導入される。ガスの流量は、スラリー濃度、触媒密度、懸濁媒体密度および粘度、ならびに用いられる特定の粒子寸法に応じて選択される。適切なガス流の比率は、たとえば約5cm/sから約50cm/sまでを含む。しかし、約85cm/sまでのガス流速が気泡塔(bubble columns)内で試験されてきた。より高速のガス流速の使用は、反応器内でより高いガス貯留を伴い、それによって触媒を含むスラリーを収容できる空間が相対的により少なくなる欠点がある。どのようなガス流量がどのように選択されようとも、粒子の沈降および凝集を回避するのに十分にするべきである。
【0040】
スラリーの一部分は、下降管32、22を下向きに連続的に通過し、それによってスラリー床70内で触媒粒子の均一な再分配を達成し、また、スラリー床の中にわたって均一な熱の再分布がされるようにする。
【0041】
反応器12は、そのスラリー床70が異成分または攪拌乱流の流れ領域の状態にあり、スラリー床を事実上プラグ流れの様式で移動するガス状反応物とガス状生成物との急上昇するより大きな泡を含む希薄相と、液状生成物、固体触媒粒子、ならびにガス状反応物およびガス状生成物が混入されたより小さな泡を含む濃密相とを含むように作動される。
【0042】
熱交換または熱伝達媒体としてのボイラ水は、冷媒コイル29、39を通って循環される。熱は、水蒸気と水との混合物を形成するためにスラリー床70からボイラ水に伝達される。
【0043】
20以下(C20 and below)の留分などの軽質炭化水素生成物がガス出口16を通って反応器から抜き取られ、分離ユニット54に移される。一般に、分離ユニット54は、一連の冷却器および蒸気液体分離器(vapour−liquid separator)を備え、任意で更なる冷却器および分離器を備えることができ、場合により水素、一酸化炭素、メタン、および二酸化炭素をC20以下の炭化水素留分から除去する極低温ユニットも備える。膜ユニット、圧力スイング吸着ユニット、および/または二酸化炭素の選択的除去のためのユニットなどの、その他の分離技術が使用できる。水素、一酸化炭素、およびその他のガスを含む分離されたガスは、圧縮機56によって圧縮され再循環され、再循環ガス流をもたらす。圧縮された液状炭化水素および反応水は、さらに稼動させるために流路60によって分離ユニット54から抜き取られる。
【0044】
図示される装置10は、全ての再循環ガスの反応器12に戻されることを示すが、再循環ガス流全体が反応器12に必ず戻されるようにする必要はないことを理解されたい。したがって、再循環ガス流の一部分のみが反応器12に戻されることが可能である。再循環ガス流の一部分は、新規の合成用ガスと混合されて第1のガス入口14を通って反応器12内に供給されることも可能である。一般に、スラリー床70に入る全体積供給量の約10%と約60%との間のガスは、再循環ガスの新規の合成用ガスに対する体積比率が一般に0.1と1.5との間になって第2のガス入口52を通って供給される。
【0045】
再循環ガスの少なくとも一部分が、反応器12の下端部で供給される合成用ガスよりも高いレベルで反応容器12に導入される場合、より高い反応器の処理能力(capacity)が得られることを出願人は意外にも発見した。理解されるように、このことは、反応器を構築するためのコスト削減、またはその代わりに、第2のより高いガス入口を備えるために修正された反応器の処理能力を増加させることにつながる。理論によって拘束されることを望んではいないが、本発明を使用する場合に反応器の処理能力がより高くなることへの可能な説明は、ガス貯留がより低下することであると出願人は考えている。フィッシャー−トロプシュ反応が進むにつれガスおよび蒸気の体積が減少し、ガス状反応物がより高い分子量の炭化水素生成物に転換されることが知られている。したがって、反応器12内のガスおよび蒸気のボリュームに鉛直勾配が存在する。少なくとも一部分の再循環ガスをより高いレベルで反応器12内に供給することによって、このより高い高度より下に、今度はガス速度が、ガス密度がより低くなると同時により低く低下していき、ガスが上方に移動するにつれて増加していく反応器12の区域がある。ガス貯留は、ガス密度と共に上昇する。この状況を全てのガスが反応器12の下端部で導入される場合と比較すると、ガスに関する下方最大速度(lower maximum velocity)および下方平均速度(lower average velocity)の両方が達成され、同時に反応器12内で下方平均ガス密度(lower average gas density)も達成されることが留意されるであろう。したがって、その最終的な結果は、ガス貯留がより低下し、それによってより多く触媒が含まれるスラリーが所与の反応器のボリュームに収容できる。意外にも、余分の触媒は、再循環されるガスの一部分が触媒の一部分を迂回させることを十二分に補う。したがって、同じ反応器の体積に対して、触媒をより多く含んでいると、合成ガス中の反応物の同じ水準(または百分率)の変換を達成しながら、全てのガスが反応器の下端部で導入される場合に対して、新規の合成用ガス流および再循環ガス流の両方が増加できる。
【0046】
図示されるように、スラリー床内の温度がより均一になるようにするために、スラリー再分配手段の使用と共に、反応器の底部の上への冷却ガスの導入が使用できることが本発明の方法のさらなる利点である。これは、異なる鉛直位置で2つまたはそれ以上のバンク(bank)に配置できるスラリー床内の複数の冷却パイプが、単一の蒸気ドラムに連結できるようにする。これは、異なる温度および圧力で作動する複数の蒸気ドラムが必要になるのを回避する。
【0047】
以下の2つの実施例は、上記に述べられた利点のいくつかを示す。
【0048】
こうした実施例では、従来または基準ケース(base case)のフィッシャー−トロプシュ法が数学的にモデルにされた。従来の方法に関して、このモデルは、全部のガス供給(新規の合成用ガスおよび再循環ガス)がスラリー気泡塔の底部に供給されることを前提としている。本発明による方法は、また、全部の再循環ガスの流量がスラリー気泡塔内のスラリー床の鉛直高さの34%のレベルで供給される場合がモデルにされた。両方のケースにおいて、スラリー再分配手段が存在し、スラリー床内で均一の固体触媒濃度(solid catalyst concentration)になるようにするのに十分であることが前提とされた。両方のケースに関して、スラリー床内の固体触媒濃度は一定であることが前提とされた。モデルは、新規に供給される合成用ガスH/COのモル比1.925、新規のガスに対する再循環ガスの供給比0.9、および約93%の全体のH変換を目標にした定数を使用した。モデルでは、この変換は、両方のモデルに対して同寸法である、固定された寸法のスラリー床反応器への新規の合成用ガス供給の流量を変えることによって達成された。僅かに化学量に足りない(substoichiometric)新規のガス供給を選択することは、化学量に足りない新規のガス供給がより高い炭化水素に対する選択性を向上させ、メタン選択性を抑制するという公知の効果に基づいている。
【実施例1】
【0049】
実施例1に関して、モデルは、スラリー床の希薄相、およびスラリーもしくは濃密相の両方がプラグ流れであることを前提としている。
【0050】
実施例1のモデルを使用した数学的なシミュレーションの結果は、本発明の方法が従来の方法と比較して約16%上昇された新規の合成用ガス供給量を有することを示した。したがって、スラリー気泡塔の変換処理能力は、その結果、従来の方法に対してよりも本発明の方法に対して約16%多いと述べることができる。C+生成物(C+products)に対する選択性は、公知の市販の触媒に対して期待される触媒の選択性反応(selectivity behaviour)に基づいてほとんど変化しなかった。
【0051】
本発明の方法は、従来のケースよりもスラリー床内での同じ固体濃度に対して5%より多い全触媒の添加を示した。これは、より多いガス供給量にもかかわらず、全体のまたは全部のガス貯留が低下した結果である。本発明の方法のスラリー気泡塔の生産性は、さらに、再循環ガスが導入されるレベルの下のスラリー床の部分内の、試薬濃度(reagent concentration)およびH/CO比率が上昇することによって助けられる。
【0052】
正規化されたスラリー床高さの関数としての、選択されたガス状成分の正規化されたガス貯留および正規化された分圧が、それぞれ図2および図3に、従来の方法および本発明の方法の両方に関して示されている。再循環ガスが本発明の方法のスラリー気泡塔に供給されるレベルは、この点での水分圧が出口の水分圧と適合するように選択されることに留意されたい。高い水分圧は、触媒の働きに不利になる可能性があると考えられている。
【0053】
図2において、グラフAは、従来の方法に関するガス貯留を示し、グラフBは、本発明の方法に関するガス貯留を示す。図3では、グラフAは本発明の方法に関するH分圧を示し、グラフBは従来の方法に関するH分圧を示し、グラフCは本発明の方法に関するCO分圧を示し、グラフDは従来の方法に関するCO分圧を示し、グラフEは本発明の方法に関する水分圧を示し、グラフFは従来の方法に関する水分圧を示す。
【実施例2】
【0054】
実施例2に関して、希薄相はプラグ流れであり、濃密相またはスラリー相は十分に混合されていることが前提とされている。実施例2のモデルを使用した数学的なシミュレーションの結果は、本発明の方法が従来の方法と比較して約4%の新規の混合用ガス供給での上昇に対応できることを示した。したがって、スラリーバブル変換処理能力は、従来の方法に対してよりも本発明の方法に対して約4%多い。C+生成物に対する選択性は、ほとんど変化しないままになる。
【0055】
実施例2でモデルにされるような本発明の方法は、従来の方法に関する固体濃度と比較して、スラリー床内の同じ固体濃度に対して約4%多い全触媒添加を有する。これは、より多いガス供給量にもかかわらず従来の方法のスラリー床内の全体のまたは全部のガス貯留がより低下したことによるものである。
【0056】
図4は、実施例2に関する正規化されたスラリー床高さの関数としての正規化されたガス貯留を示す。グラフAは従来の方法に関するガス貯留を示し、グラフBは、本発明の方法に関するガス貯留を示す。
【0057】
従来の方法および本発明の方法のスラリー気泡塔の真の反応は、実施例1および2に示される極値の間にあることが期待され、スラリー再分配手段が存在すればその選択、処理能力、および配置によって影響される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】ガス状反応物から液状生成物およびガス状生成物を生成するための、本発明に従った装置の長手方向断面図を概略的に示す図である。
【図2】全ガス供給が反応器底部に供給される従来のフィッシャー−トロプシュ法に関する、および本発明に従ったフィッシャー−トロプシュ法に関する、正規化されたガス貯留に対する正規化されたスラリー床高さのグラフを示し、両方の方法がプラグ流れの希薄相および濃密相を用いてモデルにされた図である。
【図3】ガス貯留について図2に示された従来の方法および本発明の方法に関する、CO、H、およびHOの正規化された分圧に対する正規化されたスラリー床高さのグラフを示す図である。
【図4】全ガス供給が反応器底部に供給される従来のフィッシャー−トロプシュ法に関する、および本発明に従ったフィッシャー−トロプシュ法に関する、正規化されたガス貯留に対する正規化されたスラリー床高さのグラフを示し、プラグ流れの希薄相および十分に混合された濃密相を用いて両方の方法がモデルにされた図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状反応物から液状生成物を生成し、そして、任意でガス状生成物を生成するための方法であって、
ガス状反応物および任意で再循環ガス流の一部分を、容器内の懸濁液中に懸濁した固体粒子の鉛直に延びるスラリー床の中に低いレベルで供給する工程と、
前記再循環ガス流の少なくとも一部分を、前記スラリー床中において、前記ガス状反応物が前記スラリー床内に供給されるレベルの上方で、且つ、前記スラリー床の鉛直高さの下側20%の位置よりも上方に、追加のガス供給として供給する工程と、
前記ガス状反応物および再循環ガスが、前記スラリー床を上向きに通過するときに反応することを可能にする工程であって、それによって液状生成物および任意でガス状生成物を形成し、前記液状生成物が前記懸濁液と共に前記スラリー床の液相を形成するところの工程と、
ガス状生成物、未反応のガス状反応物および未反応の再循環ガスが、前記スラリー床から離脱して、前記スラリー床の上方のヘッドスペースに入ることを可能にする工程と、
ガス状生成物および未反応のガス状反応物および未反応の再循環ガスを前記ヘッドスペースから抜き取る工程と、
前記スラリー床から液相を抜き取って、前記スラリー床を所望のレベルに維持する工程と、
前記ヘッドスペースからガス状成分の少なくとも一部分を再循環させて、前記再循環ガス流を提供する工程と
を含む方法。
【請求項2】
スラリー再分配手段またはスラリー再分配器を使用して、スラリーが前記スラリー床内の高いレベルから下向きに低いレベルに通過することを可能にして、それによって前記スラリー床内に固体粒子を再分配する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記追加のガス供給が、前記スラリー床内の鉛直高さの20%と80%との間に位置するレベルで行われる、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記固体粒子が、前記ガス状反応物の反応に触媒作用を及ぼして、前記液状生成物にし、場合により、前記ガス状生成物にするための触媒粒子であり、そして、前記懸濁液が前記液状生成物である、請求項1から3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記ガス状反応物が、前記スラリー床内で触媒的に反応して、液状炭化水素生成物を形成し、任意で、ガス状炭化水素生成物を形成することができるところの炭化水素合成方法である、請求項1から4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記追加のガス供給により、前記スラリー床に入るガスの総体積供給量の少なくとも10%が提供される、請求項1から5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記追加のガス供給により、前記スラリー床に入るガスの総体積供給量の60%以下が提供される、請求項1から6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記追加のガス供給が、前記スラリー床の鉛直高さの30%よりも上方に位置するレベルで行われる、請求項1から7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記再循環ガス流の全体が前記追加のガス供給の一部分を形成する、請求項1から8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記スラリー床中のガス貯留が、前記スラリー床の下方部分において、同一の方法によるスラリー床の下方部分におけるガス貯留よりも低い位置にあるが、前記ガス状反応物および再循環ガスの全てが、単一の低いレベルで前記スラリー床内に供給され、そして、ガス貯留が、前記スラリー床の上方部分において、前記同一の方法によるスラリー床の上方部分におけるガス貯留よりも高い位置にある、請求項1から9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記スラリー床内の前記固体粒子が、同一の方法によるスラリー床中の固体粒子の軸方向分布と実質的に同一の軸方向分布を有しているが、前記ガス状反応物および再循環ガスの全てが、前記スラリー床内に単一の低いレベルで供給される、請求項1から10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
ガス状反応物から液状生成物を生成し、そして、任意でガス状生成物を生成する装置であって、
鉛直に延びるスラリー床ゾーンを有する反応容器であって、使用の際に懸濁液中に懸濁した固体粒子のスラリー床を収容する反応容器と、
ガス状反応物を前記容器内に導入するために、前記容器内で、前記スラリー床ゾーン内の低いレベルに設けられた第1のガス入口と、
前記容器内に再循環ガスを導入するために、前記容器内で、前記第1のガス入口の上方の、前記スラリー床ゾーン内の所定のレベルに設けられた第2のガス入口であって、前記容器内の前記第2のガス入口が前記スラリー床ゾーンの鉛直高さの下側20%の位置よりも上方に位置するところの第2のガス入口と、
前記スラリー床ゾーンの上方のヘッドスペースからガスを抜き取るために、前記容器内で、前記スラリー床ゾーンの上方に設けられたガス出口と、
前記容器から液状生成物を抜き取るために、前記容器内で、前記スラリー床ゾーン中に設けられた液体出口と
を備える装置。
【請求項13】
スラリー再分配手段またはスラリー再分配器を備え、それを介して、使用に際してスラリーが前記スラリー床内の高いレベルから低いレベルに再分配されて、固体粒子を前記スラリー床内で再分配する、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記第2のガス入口が、前記スラリー床ゾーンの鉛直高さの20%と80%との間に位置するレベルにある、請求項12または13に記載の装置。
【請求項15】
前記第2のガス入口が、前記スラリー床ゾーンの鉛直高さの下側30%よりも上方のレベルにある、請求項12から14のいずれか1つに記載の装置。
【請求項16】
前記スラリー再分配手段またはスラリー再分配器が下降管を備え、前記下降管が少なくとも第1の下降管領域および第2の下降管領域に配置され、前記第2の下降管領域が前記第1の下降管領域に対して鉛直方向に空間を開けて配置される、請求項13に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−501121(P2007−501121A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526468(P2006−526468)
【出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【国際出願番号】PCT/IB2004/050656
【国際公開番号】WO2004/101475
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(504385719)サソル テクノロジー (プロプリエタリ) リミテッド (3)
【Fターム(参考)】