説明

ガス発生材及びマイクロポンプ

【課題】ガス発生期間が長く、且つ単位時間あたりのガス発生量が多いガス発生材を提供する。
【解決手段】ガス発生材は、スルフォニルアジド基を有するガス発生剤と、光増感剤及びバインダーのうちの少なくとも一方とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生材及びそれを備えるマイクロポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型であり、かつ携帯性に優れている分析装置として、マイクロ流体デバイスを用いた分析装置が用いられるようになってきている。このマイクロ流体デバイスを用いた分析装置では、マイクロ流路内においてサンプルの送液、希釈、分析などを行うことができる。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、一方の主面に開口するマイクロ流路が形成されている基板の上記主面を覆うようにガス発生層を設けることにより、マイクロ流体デバイスにポンプ機能を付与することが記載されている。特許文献1には、ガス発生層に含有させるガス発生剤として、種々のアゾ化合物やアジド化合物が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−107515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のアゾ化合物やアジド化合物では、単位時間あたりのガス発生量が十分に多くなく、且つ、ガス発生期間が短いという問題がある。
【0006】
本発明は、斯かる点に鑑みて成されたものであり、その目的は、ガス発生期間が長く、且つ単位時間あたりのガス発生量が多いガス発生材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るガス発生材は、スルフォニルアジド基を有するガス発生剤と、光増感剤及びバインダーのうちの少なくとも一方とを含む。
【0008】
ガス発生剤が下記の式(1)で表されることが好ましい。
【0009】
【化1】

【0010】
(但し、R〜Rのそれぞれは、炭素数が1〜12のアルキル基である。)
ガス発生剤が下記の式(2)で表されることが好ましい。
【0011】
【化2】

【0012】
ガス発生材におけるガス発生剤の含有率が、45質量%〜99.99質量%の範囲内にあることが好ましい。
【0013】
本発明に係るマイクロポンプは、上記本発明に係るガス発生材と、マイクロ流路が形成された基材とを備えている。ガス発生材は、ガス発生材において発生したガスがマイクロ流路に供給されるように配されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガス発生期間が長く、且つ単位時間あたりのガス発生量が多いガス発生材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態に係るマイクロポンプの略図的断面図である。
【図2】第2の実施形態に係るマイクロポンプの略図的断面図である。
【図3】実施例1及び比較例1〜3のマイクロポンプの流速を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0017】
また、実施形態等において参照する各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照することとする。また、実施形態等において参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るマイクロポンプの略図的断面図である。
【0019】
図1に示すように、マイクロポンプ1は、板状の基材10を備えている。基材10は、例えば、樹脂、ガラス、セラミックなどにより形成することができる。基材10の形成に好ましく用いられる樹脂としては、有機シロキサン化合物やポリメタクリレート樹脂や環状ポリオレフィンなどが挙げられる。有機シロキサン化合物の具体例としては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)や、ポリメチル水素シロキサンなどが挙げられる。
【0020】
基材10には、主面10aに開口しているマイクロ流路10bが形成されている。
【0021】
ここで、「マイクロ流路」とは、マイクロ流路を流れる液体に所謂マイクロ効果が発現する形状寸法に形成されている流路をいう。具体的には、「マイクロ流路」とは、マイクロ流路を流れる液体が、表面張力と毛細管現象との影響を強く受け、通常の寸法の流路を流れる液体とは異なる挙動を示す形状寸法に形成されている流路をいう。
【0022】
主面10aの上には、フィルム状のガス発生材11aが貼付されている。マイクロ流路10bの開口は、このガス発生材11aにより覆われている。このため、ガス発生材11aに光や熱等の外部刺激が加わることによりガス発生材11aから発生したガスは、マイクロ流路10bに導かれる。
【0023】
ガス発生材11aの厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm〜200μm程度とすることができる。
【0024】
ガス発生材11aは、ガスバリア層12により覆われている。このガスバリア層12により、ガス発生材11aにおいて発生したガスが主面10aとは反対側に流出することが抑制され、マイクロ流路10bに効率的に供給される。このため、ガスバリア層12は、ガス発生材11aにおいて発生したガスの透過性が低いものであることが好ましい。
【0025】
ガスバリア層12は、例えば、ポリアクリル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂及びガラスなどにより形成することができる。
【0026】
なお、ガスバリア層12の厚みは、ガスバリア層12の材質等によって異なるが、例えば、25μm〜100μm程度とすることができる。
【0027】
ガス発生材11aは、熱や光等の外部刺激が加わった際にガスを発生させるガス発生剤を含む。本実施形態において、ガス発生剤は、光が照射されることによりガスを発生する光応答性ガス発生剤である。また、ガス発生材11aは、ガス発生剤に加えて、バインダー樹脂及び光増感剤のうちの少なくとも一方をさらに含む。バインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂やグリシジルアジドポリマー等が好ましく用いられる。バインダー樹脂は、ガス発生材の形状保持ができるような範囲で含まれていればよい。バインダー樹脂は、例えば、ガス発生剤100重量部に対して、0.01重量部〜800重量部の範囲で含まれていることが好ましく、10重量部〜400重量部の範囲で含まれていることがより好ましく、40重量部〜200重量部の範囲で含まれていることがさらに好ましい。
【0028】
光増感剤としては、ベンゾフェノン、ジエチルチオキサントン、アントラキノン、ベンゾイン、アクリジン誘導体等などが好ましく用いられる。光増感剤は、ガス発生剤100重量部に対して、0.01重量部〜50重量部の範囲で含まれていることが好ましく、0.2重量部〜20重量部の範囲で含まれていることがより好ましく、1重量部〜10重量部の範囲で含まれていることがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態において、ガス発生剤は、スルフォニルアジド基を有するものである。このため、本実施形態のガス発生剤は、単位時間あたりのガス発生量が多く、且つガス発生期間が長い。従って、ガス発生材11aを用いることにより、高出力且つ長駆動時間のマイクロポンプ1を実現することができる。
【0030】
なお、スルフォニルアジド基を有するガス発生剤の単位時間あたりのガス発生量が多く、且つガス発生期間が長い理由は、定かではないが、紫外照射により、スルフォニル基が高い電子吸引性を示すため、アジド基が分解するためと考えられる。
【0031】
スルフォニルアジド基を有するガス発生剤の中でも、芳香環を有するものが好ましく用いられる。具体的には、下記の式(1)で表されるガス発生剤がより好ましく用いられる。
【0032】
【化3】

【0033】
(但し、R〜Rのそれぞれは、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、フェニル基、炭素数が1〜12の直鎖若しくは分岐状のアルキル基、炭素数2〜12直鎖若しくは分岐状のアルケニル基、炭素数3〜12の直鎖若しくは分岐状のアルキニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、炭素数5〜12の脂環式または炭素数が1〜12のアルコキシ基である。)
【0034】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、sec−ヘプチル基、tert−ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、ジメチルヘキシル基、ジメチルブチル基、エチルブチル基、n−ノニル基、イソノニル基、sec−ノニル基、tert−ノニル基、n−デシル基、イソデシル基、sec−デシル基、tert−デシル基、n−ドデシル基、イソドデシル基、sec−ドデシル基、tert−ドデシル基などを挙げることができる。
【0035】
炭素数2〜12の直鎖若しくは分岐状のアルケニル基としては、エチニル基、1−プロピニル基、1−ブチニル基、1−ペンチニル基、3−ペンチニル基、1−ヘキシニル基、2−エチル−2−ブチニル基、2−オクチニル基、(4−エチニル)−5−ヘキシニル基、2−デシニル基等、ドデセニル基などを挙げることができる。
【0036】
炭素数3〜12の直鎖若しくは分岐状のアルキニル基としては、プロピニイル基、ブテニイル基、シクロヘキシニイル基、オクチニイル基等などが挙げられる。
【0037】
炭素数7〜12のアラルキル基(例えばベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、2−ナフチルエチル基等が挙げられる。
【0038】
炭素数5〜12の脂環式としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ビシクロオクチル基、トリシクロドデシル基等が挙げられる。
【0039】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基などを挙げることができる。
【0040】
中でも、R〜Rのそれぞれは、炭素数が1〜12のアルキル基であることが好ましい。
【0041】
さらには、下記の式(2)で表されるガス発生剤がさらに好ましく用いられる。
【0042】
【化4】

【0043】
なお、ガス発生材11aにおけるガス発生剤の含有率は、特に限定されないが、45質量%〜99.99質量%であることが好ましく、45質量%〜99質量%であることがより好ましい。ガス発生材11aにおけるガス発生剤の含有率が低すぎると、ガス発生量が少なくなりすぎる場合がある。ガス発生材11aにおけるガス発生剤の含有率が高すぎると、ガス発生材11aの剛性が低くなりすぎ、マイクロ流路10bに供給されるガスの量がかえって少なくなってしまう場合がある。
【0044】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。以下の説明において上記第1の実施形態と実質的に同様の機能を有する部材を同様の符号で参照し、説明を省略する。
【0045】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態に係るマイクロポンプの略図的断面図である。
【0046】
本実施形態に係るマイクロポンプ2は、ガス発生材の形状と、基材10の形状とにおいて上記第1の実施形態に係るマイクロポンプ1と異なる。
【0047】
本実施形態では、マイクロ流路10bは、基材10内に形成されたポンプ室10cに接続されている。ガス発生材11bは、ブロック状に形成されており、ポンプ室10c内に配されている。
【0048】
本実施形態に係るマイクロポンプ2においても、上記マイクロポンプ1と同様に、高出力かつ長駆動時間を実現することができる。
【0049】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0050】
(実施例1)
2−エチルへキシルアクリレート96.5重量部と、アクリル酸3重量部と、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.5重量部とのアクリル系共重合体(重量平均分子量70万)を作製した。次に、そのアクリル系共重合体100重量部と、溶剤としての酢酸エチル200重量部と、架橋剤としてのイソシアネート系化合物(日本ポリウレタン社製、商品名コロネートL45)3重量部と、上記式(2)で表される4−ドデシルベンゼンスルフォニルアジ(東洋紡、DBSN)100重量部と、光増感剤としてのジエチルチオキサントン(チバスペシャルティケミカルズ社製、DETX−S)3.5重量部とを混合し、フィルム状に加工し、フィルム状のガス発生材を得た。このガス発生材を用いて、上記第1の実施形態のマイクロポンプ1と実質的に同様の構成を有するマイクロポンプを作製した。
【0051】
なお、マイクロ流路の断面形状は、0.5mm角の矩形状とした。マイクロ流路11の長さは、800mmとした。マイクロ流路の先端は大気に開放した状態とした。ガス発生材は、1cm×1cmサイズで、厚み50μmのフィルム状とした。ガス発生材の重さは、約0.006gとした。
【0052】
(比較例1)
4−ドデシルベンゼンスルフォニルアジド100重量部に替えて、ジフェニルリン酸アジド(東洋紡社製、DPPA)100重量部を用いた以外は実施例1と同様にしてガス発生フィルムを作製し、マイクロポンプを作製した。
【0053】
(比較例2)
4−ドデシルベンゼンスルフォニルアジド100重量部に替えて、アゾジカルボンアミド(三協化成社製、セルマルクC−2)100重量部を用いた以外は実施例1と同様にしてガス発生フィルムを作製し、マイクロポンプを作製した。
【0054】
(比較例3)
4−ドデシルベンゼンスルフォニルアジド100重量部に替えて、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)(和光純薬社製、VAM110)100重量部を用いた以外は、上記実施例1と同様にしてガス発生フィルムを作製し、マイクロポンプを作製した。
【0055】
(評価)
実施例1及び比較例1〜3のそれぞれにおいて作製したマイクロポンプのマイクロ流路内に1μLの水を注入した。その後、出力14mWのLEDを用いて波長375nmの紫外線を照射し、水滴の移動距離を10秒ごとに測定した。結果を、図3に示す。また、その結果から、水滴の移動速度を算出した。また、算出された水滴の移動速度から、流速10μl/分以上を維持する時間(以下、「ガス発生期間」)とする。)を算出した。結果を、下記の表1に示す。
【0056】
なお、下記の表1に示す流速評価及びガス発生期間評価は、以下の基準に基づくものである。
【0057】
流速評価基準:◎:10μl/分以上、○:5μl/分以上10μl/分未満、△:1μl/分以上5μl/分未満、×:1μl/分未満
ガス発生期間評価基準:◎:2分以上、○:1分以上2分未満2μl/分以上、△:30秒以上1分未満、×:30秒未満
【0058】
【表1】

【符号の説明】
【0059】
1,2…マイクロポンプ
10…基材
10a…主面
10b…マイクロ流路
10c…ポンプ室
11…マイクロ流路
11a、11b…ガス発生材
12…ガスバリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルフォニルアジド基を有するガス発生剤と、
光増感剤及びバインダーのうちの少なくとも一方と、
を含む、ガス発生材。
【請求項2】
前記ガス発生剤が下記の式(1)で表される、請求項1に記載のガス発生材。
【化1】

(但し、R〜Rのそれぞれは、炭素数が1〜12のアルキル基である。)
【請求項3】
前記ガス発生剤が下記の式(2)で表される、請求項1または2に記載のガス発生材。
【化2】

【請求項4】
前記ガス発生剤の含有率が、45質量%〜99.99質量%の範囲内にある、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス発生材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のガス発生材と、
マイクロ流路が形成された基材と、
を備え、
前記ガス発生材は、前記ガス発生材において発生したガスが前記マイクロ流路に供給されるように配されている、マイクロポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−188306(P2012−188306A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51302(P2011−51302)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】