説明

ガス発生装置及びガス供給システム

【課題】 簡単な構成により経時的に安定した濃度のガスを低コストで発生可能にする。
【解決手段】 ガス発生装置13は、ホルムアルデヒドガス若しくはトルエンガスを放散可能な物質からなる放散材Hが内部収容空間30Aに収容された放散材収容タンク30と、清浄空気供給装置14から内部収容空間30Aに繋がる導入側流路31と、内部収容空間30Aから混合器に向かって延びる排出側流路35と、導入側流路31及び排出側流路35の途中の各分岐点P1,P2間を接続する循環用流路38とを備えている。ガス発生装置13では、内部収容空間30Aから排出側流路35に排出されたホルムアルデヒドガスを含む放出ガスの一部が、循環用流路38を通って清浄空気と混合し導入側流路31から内部収容空間30Aに導入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生装置及びガス供給システムに係り、更に詳しくは、建築材料ホルムアルデヒド等の有害成分の吸着性能を有する建築材料に対し、当該吸着性能の試験等を行う際に、前記有害成分を含む汚染空気を作成する際のホルムアルデヒドガス等の購入コストを抑えるとともに、ホルムアルデヒドガス等を長期的に安定した濃度で供給することのできるガス発生装置及びガス供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物内の家具や建築材料は、その種類により、ホルムアルデヒド等の有害物質を放散して室内空気汚染をもたらす一方で、建築材料の中には、有害物質を吸着、分解等することで、室内空気の汚染濃度を低減する性質を有するものもある。このような建築材料の化学性能を評価する試験法として、「JIS A 1905−1 小形チャンバー法による室内空気汚染濃度低減材の低減性能試験法」と呼ばれる化学物質吸着試験が2007年2月に制定された。当該化学物質吸着試験は、建築材料の試料が収容されたチャンバー内にホルムアルデヒドを含有する汚染空気を供給し、チャンバーから排出される汚染空気の濃度を測定することで、前記建築材料の吸着性能が評価可能になる。ここで、チャンバー内に供給される汚染空気は、ホルムアルデヒドガスが充填された市販のガスボンベを用いて以下のように生成される。つまり、当該ガスボンベから供給される1ppm程度のホルムアルデヒドガスに、浄化及び調湿された清浄空気を混合することで、ホルムアルデヒドの濃度が約0.1ppm程度に希釈された汚染空気が生成される。この化学物質吸着試験においては、1ヶ月程度の期間で継続して行われることから、当該試験期間内で、チャンバー内に供給される汚染空気中のホルムアルデヒドの濃度を安定させることが必要である。
【0003】
ところが、1ppm程度のホルムアルデヒドガスが充填されたガスボンベは、1.2mの容量1本で数十万程度と高価であり、しかも、充填されたガスが経時劣化するため、使用開始から数ヶ月程度しか所望の濃度が補償されない。従って、前記化学物質吸着試験では、1ヶ月程度の期間で試験が終了するため、その後、数ヶ月程度時間をおいて、別の試料に対する同試験を行うような場合に、1回目の試験で使用したガスボンベ中にガスが残っていても、経時劣化しているため再利用できない場合がある。このような場合には、結果的に、高価なガスボンベを1回の試験でしか使えず、当該試験に対するコストの大幅な高騰化を招来する。
【0004】
そこで、コスト面から、市販のガスボンベを使用せずに、ホルムアルデヒドガスの発生装置を使って汚染空気を生成することが好ましい。このような装置としては、容器内に収容されたパラホルムアルデヒド等のホルムアルデヒド重合体を加熱装置で150〜250度に加熱することで、ホルムアルデヒドガスを発生させる発生装置が既に提案されている(特許文献1参照)。また、上部が開口したガラス瓶に、ホルマリン溶液やトルエン溶液をガス発生源として入れ、ガラス瓶の開口部分からホルムアルデヒドガスやトルエンガスを放散し、当該ガスを外部からの空気に混合して放出する装置が既に提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平6−296665号公報
【特許文献2】特開2006−78274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1の装置では、ホルムアルデヒド重合体を加熱する加熱装置が必要であり、装置が大掛かりになる他、発生したホルムアルデヒドガスは、当然、室温(20~30℃程度)よりも高温となることから、室温中の雰囲気下で行われる前記化学物質吸着試験に用いる場合、発生装置からのホルムアルデヒドガスを冷却する装置やシステムが更に必要となり、試験システム全体を大型させるという不都合がある。また、前記特許文献1の装置では、発生するホルムアルデヒドガスが1000〜2500ppmとかなりの高濃度であり、ホルムアルデヒドの濃度が0.1ppm程度となる汚染空気を得るためには、清浄空気で1〜2万倍程度に希釈しなければならず、ホルムアルデヒドガスや清浄空気に対して高精度の流量制御が必要になる。更に、後述するように、本発明者らの実験によれば、特許文献1のように、ホルムアルデヒド重合体が収容された容器内に不活性ガスを供給して当該容器から単にホルムアルデヒドガスを取り出す構造では、経時的に安定したホルムアルデヒドの濃度が得られ難く、安定した濃度の前記汚染空気を作成し難いことを知見した。以上のことから、前記特許文献1の装置は、前記化学物質吸着試験のガス発生源としては不向きである。
【0006】
前記特許文献2の装置にあっては、発生源となるホルマリン溶液やトルエン溶液に溶液希釈物質であるメタノールやエタノールが混合されることになるため、混合される清浄空気の流量や雰囲気中の温度等の微細な誤差により、溶液希釈物質の影響によって発生するホルムアルデヒドガスやトルエンガスの濃度を安定化させることができない。
【0007】
本発明は、以上のような課題に鑑みて案出されたものであり、その目的は、簡単な構成により、経時的に安定した濃度のガスを低コストで発生させることができるガス発生装置及びガス供給システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、ホルムアルデヒドガス若しくはトルエンガスを放散可能な物質からなる放散材を使い、所定の気体供給源から供給される空気又は不活性ガスの流れにより、前記放散材から放散されたガスを放出ガスとして他の装置に供給するガス発生装置において、
前記放散材が内部収容空間に収容された放散材収容タンクと、前記気体供給源から前記内部収容空間に繋がる導入側流路と、前記内部収容空間から前記他の装置に繋がる排出側流路と、前記導入側流路及び前記排出側流路の途中の各分岐点間を接続する循環用流路とを備え、
前記内部収容空間から前記排出側流路に排出された前記放出ガスの一部が、前記循環用流路を通って前記気体供給源からの空気又は不活性ガスと混合し、前記導入側流路から前記内部収容空間に導入される流路構成である、という構成を採っている。
【0009】
(2)ここで、前記放散材は、ペレット状、粉状、カプセル状、若しくはチップ状に形成された固形物であり、前記放散材収容タンクには、多数の前記放散材が相互に隙間を形成した状態で充填され、前記導入側流路からの前記混合ガスが、前記隙間を通って前記排出側流路に流れる、という構成を採ることが好ましい。
【0010】
(3)更に、前記放散材をエンジニアプラスチックにするとよい。
【0011】
(4)また、本発明は、建築材料の性能試験を行うために、当該建築材料が収容されたチャンバー内にホルムアルデヒド若しくはトルエンを含む汚染空気を供給するシステムであって、
ホルムアルデヒド若しくはトルエンが含まれる放出ガスを発生させるガス発生装置と、システム外から取り込まれた空気を清浄してシステム内に供給する清浄空気供給装置と、前記ガス発生装置で発生した放出ガスと前記清浄空気供給装置からの清浄空気とを混合し、前記チャンバー内に前記汚染空気を供給する混合器とを備え、
前記ガス発生装置は、ホルムアルデヒドガス若しくはトルエンガスを放散可能な物質からなる放散材が内部収容空間に収容された放散材収容タンクと、前記清浄空気供給装置から前記内部収容空間に繋がる導入側流路と、前記内部収容空間から前記混合器に向かって延びる排出側流路と、前記導入側流路及び前記排出側流路の途中の各分岐点間を接続する循環用流路とを備えるとともに、前記内部収容空間から前記排出側流路に排出された前記放出ガスの一部が、前記循環用流路を通って前記清浄空気供給装置からの空気と混合した上で、前記導入側流路から前記内部収容空間に導入される流路構成である、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0012】
前記(1)及び(4)の構成によれば、放出ガスの一部が循環用流路で放散材収容タンクに戻されて循環状態を保つ一方で、放出ガスの残りが他の装置に供給される循環方式の構造であるため、本発明者らの実験によれば、前記特許文献1のようなピストン方式の構造よりも、ホルムアルデヒドやトルエンの濃度が経時的に安定した放出ガスを生成可能となり、ホルムアルデヒドやトルエンが数ppmの低濃度の放出ガスを作る際に特に有用となる。また、当該濃度が安定した放出ガスを簡単な構成で発生させることでき、安価な物質を放散材として選択することで、ホルムアルデヒドガスやトルエンガスを含む放出ガスを低コストで生成可能となる。
【0013】
前記(2)のように構成することで、ホルムアルデヒドやトルエンの濃度を一層安定させた状態で放出ガスを発生させることができる。
【0014】
前記(3)の構成によれば、安価に入手可能なエンジニアプラスチックがホルムアルデヒドガス若しくはトルエンガスの放散源となるため、これらガスをガスボンベで放散させる場合に比べて、格段のコスト削減を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1には、本実施形態に係るガス供給システムを構成する各装置の構成を表した概略構成図が示されており、図2には、図1を詳細に表した構成図が示されている。これらの図において、このガス供給システム10は、ホルムアルデヒドを吸着可能な建築材料について、一定濃度のホルムアルデヒドを含む汚染空気を供給してホルムアルデヒドの吸着速度を測定する試験に好適となるシステムであり、各種規格で定められた試験、その他同様の試験に使用することも可能である。
【0017】
前記ガス供給システム10は、図1に示されるように、ホルムアルデヒドを吸着可能な建築材料の試料Sが内部空間11Aに収容されたチャンバー11と、ホルムアルデヒドガスを発生させるガス発生装置13と、システム外から取り込まれた空気を清浄してシステム内に供給する気体供給源としての清浄空気供給装置14と、ガス発生装置13からのホルムアルデヒドガス及び清浄空気供給装置14からの清浄空気の各流量を調整する混合流量制御装置16と、混合流量制御装置16で流量制御された清浄空気を設定湿度に調整する調湿装置17と、ガス発生装置13からのホルムアルデヒドガス(放出ガス)と調湿装置17で湿度調整された清浄空気とを混合してチャンバー11の内部空間11Aに汚染空気を供給する混合器18とを備えている。
【0018】
前記チャンバー11は、図2に示されるように、2個並列に配置されており、相互に同一形状となる中空容器状をなし、上端側に設けられた蓋体の脱着により試料Sが内部空間11Aに対して出し入れされる。各チャンバー11,11の内部空間11A,11Aは、混合器18で混合生成された汚染空気が通過するようになっており、当該汚染空気を内部空間11Aに導入する空気導入口22と、ホルムアルデヒドが試料Sに吸着された後の汚染空気をチャンバー11の外側に排出する空気排出口23とを備えている。前記空気導入口22は、混合器18側からの汚染空気が通るチャンバー供給流路25に繋がっており、空気排出口23は、チャンバー11通過後の汚染空気をシステム外に排気する方向に延びるチャンバー排気流路27に繋がっている。ここで、チャンバー11を閉蓋状態にすると、その内部空間11Aに対する空気の流入及び流出は、空気導入口22及び空気排出口23を通じてのみ行われる。なお、本実施形態では、チャンバー11を2個並列させた状態で設置しているが、本発明はこれに限らず、チャンバー11を1個のみ設置しても良いし、更に3個以上並列に設置しても良い。
【0019】
前記ガス発生装置13は、図2に示されるように、ホルムアルデヒドガスを放散可能な物質からなる放散材Hが内部収容空間30Aに多数収容された放散材収容タンク30と、当該放散材収容タンク30の図中下端側で内部収容空間30Aに繋がる導入側流路31と、導入側流路31の途中に設けられた真空ポンプ32と、放散材収容タンク30の図中上端側で内部収容空間30Aに通じる排出側流路35と、導入側流路31及び排出側流路35の途中の各分岐点P1,P2の間に接続された循環用流路38と、放散材収容タンク30と排出側流路35の分岐点P2の間に配置されたバッファータンク40と、循環用流路38の途中に設けられ、循環用流路38を通るガスの流量を一定に制御する流量制御機器42と、システム外にパージ(排気)される汚染空気を化学吸着剤で浄化する化学吸着部45とを備えている。
【0020】
前記ガス発生装置13では、次のようにして、放散材Hから放散したホルムアルデヒドガスが清浄空気と混合することにより、放出ガスとして混合流量制御装置16に向かって放出される。すなわち、放散材収容タンク30の内部収容空間30Aには、調湿装置17で設定湿度に調整された清浄空気と後述する循環用流路38からの放出ガスとが混合された導入ガスが、導入側流路31から導入される。そして、この導入ガスが内部収容空間30Aを通過する過程で、当該導入ガスの流れにより、放散材Hから放散したホルムアルデヒドガスが導入ガスと混合した放出ガスとして排出側流路35に放出される。この放出ガスは、バッファータンク40を通った後、混合流量制御装置16への流れと、真空ポンプ32の駆動による循環用流路38への流れとに分流される。従って、放散材収容タンク30からの放出ガスは、その一部が常時、ガス発生装置13内を循環していることになり、この循環によって、後述するように、ホルムアルデヒドの濃度が経時的に安定した放出ガスの生成が可能になる。
【0021】
前記放散材Hとしては、ポリアセタール(POM)からなるエンジニアプラスチックをペレット状に形成したものが用いられる。また、放散材Hは、放散材収容タンク30内に多数充填され、前記導入ガスが放散材収容タンク30内を図中下方から上方に向って通過できるように、各放散材H間に隙間を形成した状態で収容されており、放散材Hから放散されるホルムアルデヒドガスは、数ppm〜数十ppm程度の平衡濃度に達する。なお、放散材Hとしては、20〜30℃程度の室温でホルムアルデヒドガスを安定して放散可能な物質であれば、他の樹脂やパラホルムアルデヒド等、固体、液体問わず何でも良い。また、放散材Hの形状としては、ペレット状に限らず、前記隙間を形成できる限り、粒状、カプセル状、チップ状等の他の形状にすることも可能である。
【0022】
前記バッファータンク40は、真空ポンプ32の脈動による排出側流路35内の放出ガスの流量変化を抑制する公知の構造ものが用いられており、放出ガスがバッファータンク40を通過すると、ほぼ一定の流れ状態に変換されることになる。また、バッファータンク40の下流側に設けられた前記流量制御機器42によって、循環用流路38を通る放出ガスの流量が任意の一定値に制御される。このことから、真空ポンプ32の脈動に拘らず、循環用流路38を通る放出ガスを一定の流れ状態にして、放散材収容タンク30に導入される導入空気の流れを安定させ、放散材収容タンク30内でのホルムアルデヒドガスの放散状態及び流量を安定化させることができる。また、バッファータンク40を設けることで、ガス発生装置13内を循環する放出ガスの容量を大きくすることができ、当該放出ガスがより安定して供給されることになる。
【0023】
なお、本実施形態では、ガス発生装置13に清浄空気を導入しているが、チャンバー内での性能試験に支障のない限り、窒素等の不活性ガスを用いても良い。
【0024】
前記清浄空気供給装置14は、システム10の周囲の空気を取り込んでシリカゲル等の除湿剤で除湿する除湿部50と、除湿部50を通過した空気を活性炭系の化学吸着剤で浄化する化学吸着部51と、化学吸着部51を通過した空気を活性炭等の物理吸着剤で浄化する物理吸着部52と、物理吸着部52を通過した清浄空気の一部を除湿部50と化学吸着部51との間を結ぶ流路54に戻す循環路55と、循環路55の途中に設けられ、循環路55を流れる清浄空気の流量を任意の設定値に制御する流量制御機器56とを備えて構成されている。
【0025】
なお、循環路55における流量制御機器56の上流側の部分に、清浄空気が充填された空気ボンベ(図示省略)を接続することもでき、この場合は、清浄空気供給装置14への外気の導入が不要になる。
【0026】
前記混合流量制御装置16は、混合器18から汚染空気の一部をサンプリング用に取り出すためのサンプリング流路58内の流路制御を行うサンプリング用の流量制御機器60と、ガス発生装置13から混合器18に流れるホルムアルデヒドを含む放出ガスの流量を計測しながら制御する有害ガス用の流量制御機器61と、清浄空気供給装置14の物理吸着部52から調湿装置17に流れる清浄空気の流量を計測しながら制御する清浄空気用の流量制御機器63とを備えている。
【0027】
前記サンプリング用の流量制御機器60は、サンプリング流路58を流れる汚染空気が所定のタイミング及び流量で通過するように、開閉制御するようになっている。つまり、清浄空気と放出ガスが混合器18で混合されることによって得られた汚染空気は、所定のタイミングでサンプリング流路58に流されて、流量制御機器60の上流側となる部分(図2中「SP」部分)でサンプリングされ、汚染空気中のホルムアルデヒドの濃度が測定される。なお、サンプリング流路58は、前記ガス発生装置13内の化学吸着部45に繋がっており、サンプリング流路58を流れる汚染空気は、化学吸着部45に導かれて浄化されてから、システム外にパージされる。また、サンプリング流路58の途中で、前記チャンバー排気流路27からの汚染空気が合流するようになっており、各チャンバー11,11から排出された汚染空気も化学吸着部45を通じてシステム外にパージされる。このように、汚染空気は、化学吸着部45を通じて浄化された上でシステム外にパージされることから、排気される室内或いは室外空間の空気汚染を抑制することができる。
【0028】
前記有害ガス用の流量制御機器61と清浄空気用の流量制御機器63は、サンプリング流路58でサンプリングされた汚染空気中のホルムアルデヒドの濃度に応じて、当該濃度が予め定められた値(約0.1ppm)になるように、放出ガスと清浄空気の混合流量比率を調整するようになっている。また、これら流量制御機器61,63では、サンプリング流路58から排出された汚染空気の流量を考慮しながら、予め定められた一定流量の汚染空気がチャンバー11,11内に供給されるように、放出ガスと清浄空気の各流量がそれぞれ制御される。
【0029】
前記調湿装置17は、清浄空気用の流量制御機器63で流量制御された清浄空気が流れる加湿前流路65と、加湿前流路65から分岐する第1及び第2の分岐流路66,67と、第1及び第2の分岐流路66,67上に設けられた第1及び第2の流量制御機器69,70と、第2の流量制御機器70の下流側となる第2の分岐流路67上に配置された加湿器72と、第1及び第2の分岐流路66,67に繋がって混合機18に向って延びる加湿後流路73と、各チャンバー排気流路27,27内を流れる汚染空気の流量を計測しながら制御する排出用の流量制御機器75,75と、清浄空気供給装置14からチャンバー11,11に向かう清浄空気の流れを生成するとともに、チャンバー排気流路27,27及びサンプリング流路58からシステム外に向かう汚染空気の流れを生成するポンプ76とを備えている。
【0030】
前記加湿器72は、その内部に水が収容されており、当該水中に第2の分岐流路67内の清浄空気が供給されてバブリングすることにより、第2の分岐流路67内の清浄空気を加湿するようになっている。
【0031】
前記第1及び第2の流量制御機器69,70では、チャンバー11,11内に供給される汚染空気の湿度が予め定められた一定値になるように、加湿器72で加湿されない第1の分岐流路66内の清浄空気の流量と、加湿器72で加湿された第2の分岐流路67内の清浄空気の流量との混合比率が逐次調整される。この際、前記汚染空気の湿度は、混合器18を構成する後述の混合タンク82内に設けられた温湿度センサ80でモニタリングされ、その結果に基づき、第1及び第2の流量制御機器69,70の調整が行われる。
【0032】
前記加湿後流路73を通過する湿度調整後の清浄空気は、混合器18に供給される他、加湿後流路73から途中で分岐する前記導入側流路31を通じて、前述したように、ガス発生装置13にも供給される。
【0033】
前記排出用の流量制御機器75,75では、各チャンバー11,11内の汚染空気の排出流量が単位時間当たりで予め定められた一定値となるように、各チャンバー排気流路27,27内を流れる汚染空気の排気流量が調整される。これら流量制御機器75,75を通過した汚染空気は、前述したように、前記サンプリング流路58の途中で合流し、ガス発生装置13の化学吸着部45を通じて、システム外にパージされる。
【0034】
前記混合器18は、ガス発生装置13からの放出ガスと調湿装置17からの清浄空気とを混合する混合タンク82と、混合タンク82の下流側に直列的に繋がる分配タンク83とにより構成されている。
【0035】
前記混合タンク82は、混合流量制御装置16の流量制御機器61で流量制御された放出ガスと、調湿装置17で湿度調整された清浄空気とを混合することで、チャンバー11,11に供給される汚染空気を生成する。
【0036】
前記分配タンク83には、前述したチャンバー供給流路25,25とサンプリング流路58が繋がっており、これら各流路25,25,58に混合タンク82で混合生成された汚染空気が分配される。従って、混合タンク82からの汚染空気は、各チャンバー11,11内に供給される他、汚染空気の混合状態の確認のためのサンプリングがなされる。
【0037】
次に、本実施形態に係るガス供給システム10内の清浄空気、放出ガス及び汚染空気の流れについて、図1により、説明する。
【0038】
先ず、ホルムアルデヒドを吸着可能な性質を有する建築材料をほぼ方形板状にした試料Sを用意し、この試料Sをチャンバー11内に収容する。そして、システム10を動作させると、システム10外から導入された空気が清浄空気供給装置14で浄化され清浄空気が生成される。この清浄空気は、調湿装置17で湿度が調整された上で、ガス発生装置13と混合器18にそれぞれ供給される。ガス発生装置13では、調湿装置17からの清浄空気の流れにより、放散材Hから放散したホルムアルデヒドガスが放出ガスとして混合器18に向かって送り出される。この過程では、一部の放出ガスがガス発生装置13内を循環することになる。そして、混合器18では、ガス発生装置13からの放出ガスと調湿装置17からの清浄空気が混合されて汚染空気が生成され、チャンバー11に供給されるとともに、一部は、汚染空気中のホルムアルデヒドの濃度の確認のためのサンプリング用として取り出され、ガス発生装置13の化学吸着部45で浄化された上で、システム外にパージされる。更に、チャンバー11内に供給された汚染空気は、含有するホルムアルデヒドの一部が試料Sに吸着されることになるため、チャンバー11内への導入時よりもホルムアルデヒド成分が減少した状態でチャンバー11の外側に排出される。そして、このときの汚染空気を図示しない捕集材等を使ってサンプリングし、チャンバー11から排出された汚染空気内のホルムアルデヒドの濃度を測定することにより、試料Sのホルムアルデヒドの吸着速度が求まり、当該試料Sのホルムアルデヒドの吸着性能の評価が可能になる。ここで、チャンバー11から排出された汚染空気は、ガス発生装置13の化学吸着部45で浄化された上で、システム外にパージされる。
【0039】
従って、このような実施形態によれば、ガス発生装置13を使用することで、ホルムアルデヒドガスが充填された高価なガスボンベを用いることなく、安価なエンジニアプラスチックを使って簡単な構成により、発生するホルムアルデヒドガスの濃度を経時的に安定させることができる。
【0040】
なお、発生するホルムアルデヒドガスの濃度を経時的に安定させることができる限りにおいて、ガス発生装置13に、ホルムアルデヒドガスが充填されたガスボンベや他のホルムアルデヒドガスの発生装置を並列的に設置することも可能である。
【0041】
また、本発明者らの実験結果によれば、本実施形態のガス発生装置13は、放散材収容タンク30から発生した放出ガスの一部を当該放散材収容タンク30に戻す循環方式を採用していることから、清浄空気のみを放散材収容タンク30に供給し、放散材収容タンク30から発生した放出ガスをそのまま他の装置に供給する図3のピストン方式に比べ、ホルムアルデヒドガスを長期的に安定した濃度で供給可能になることが実証された。
【0042】
前記実験は、前記空気清浄供給装置14で浄化された空気が、前記調湿装置17に類似した構成の装置を経て一定の湿度に調整された上で、前記実施形態の循環方式のガス発生装置13と、図2のピストン方式のガス発生装置90とにそれぞれ接続し、各ガス発生装置13,90で発生するホルムアルデヒドガスの濃度の経時変化を調査した。
【0043】
具体的な実験条件は、20Lのチャンバー2個を使い換気回数が一時間0.5回/hになる建築材料の性能試験を想定したときに、汚染空気の総流量が500ml/minになるとして、汚染空気中のホルムアルデヒドの濃度を考慮し、汚染空気の総流量の2%がガス発生装置13,90でのホルムアルデヒドガスの流量とした。従って、当該2%に相当する流量10ml/minのホルムアルデヒドガスが発生するように、ガス発生装置13,90に清浄空気をそれぞれ供給した。また、放散材収容タンク30に充填される放散材Hとしては、ホルムアルデヒドガスを放散するエンジニアプラスチックを用い、放散材収容タンク30内に800g充填した。更に、循環方式のガス発生装置13では、放散材収容タンク30から放出された放出ガスのうち、放散材収容タンク13に戻される流量を5ml/minとした。
【0044】
前記実験は、温度28℃、湿度50%の雰囲気で28日間行い、各ガス発生装置13,90から発生した放出ガスの捕集流量を5Lとし、実験開始から、1、2、3、7、10、14、21、28日の各経過後に、それぞれDNPH(ジニトロフェニルヒドラジン誘導体固相吸着管)カートリッジで放出ガスを捕集した。捕集後は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)にて、ホルムアルデヒドの放散量を測定し、ホルムアルデヒドガスの放散経時変化を検証した。
【0045】
前記実験の結果、実験開始1日後から28日後まで、ピストン方式も循環方式も経時的にホルムアルデヒドの濃度が減少したが、循環方式は、ピストン方式よりも減衰率及び中央からの乖離率が低い値になった。すなわち、減衰率、乖離率は、ピストン方式がそれぞれ約10%、約±5%であるのに対し、循環方式がそれぞれ約8%、約±4%であった。この結果より、本発明に係る循環方式は、放散材収容タンク30から放出された放出ガスの一部が循環することで、ホルムアルデヒドガスの濃度の経時的なバラツキが抑制され、ピストン方式に比べ、長期間に亘って一層安定した濃度でホルムアルデヒドガスを供給できることが実証された。
【0046】
なお、前記ガス供給システム10は、JISで規定された建築材料の吸着速度の試験用として好適であるが、図4に示されるように、ISOで規定された建築材料の性能評価試験に対応させるように、図2のガス供給システム10の構成の一部を変更したガス供給システム100を採用することもできる。図2のガス供給システム10に対して、図4のガス供給システム100は、混合器18から各チャンバー11,11に供給される汚染空気の流量を計測しながら制御する追加流量制御装置110と、サンプリング流路58内の圧力を計測する圧力計112を更に備える一方、図2の調湿装置17内に設けられていた排出用の流量制御機器75,75を除去し、サンプリング流路58内でのサンプリング位置(図4中「SP」)を流量制御機器60の下流側に変更した点が相違する。その他のガス供給システム100の構成は、前記ガス供給システム10と実質的に同一となっており、図1,2と同一若しくは同等の構成部分については同一符号を用い、ここでは説明を省略する。
【0047】
また、前記ガス発生装置13では、ホルムアルデヒドガスを発生させるようになっているが、放散材Hとしてバイトンゴム等を用いてトルエンガスを発生させ、トルエンによる試験を行うためのガス供給システムとすることも可能である。
【0048】
更に、前記ガス発生装置13は、前述した建築材料の性能試験に用いられるガス発生システム10,100への適用に限らず、ホルムアルデヒドガスやトルエンガスの供給が必要となる他の装置やシステムに用いることもできる。
【0049】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施形態に係るガス供給システムを構成する各装置の構成を示した概略構成図。
【図2】図1を詳細に表した構成図
【図3】本実施形態のガス発生装置の効果を実証するための実験における比較例としてのピストン方式を示すガス発生装置の概略図。
【図4】本実施形態の変形例に係るガス供給システムの構成図。
【符号の説明】
【0051】
10 ガス供給システム
11 チャンバー
11A 内部空間
13 ガス発生装置
14 清浄空気供給装置(気体供給源)
18 混合器
30 放散材収容タンク
30A 内部収容空間
31 導入側流路
35 排出側流路
38 循環用流路
100 ガス供給システム
H 放散材
P1,P2 分岐点
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルムアルデヒドガス若しくはトルエンガスを放散可能な物質からなる放散材を使い、所定の気体供給源から供給される空気又は不活性ガスの流れにより、前記放散材から放散されたガスを放出ガスとして他の装置に供給するガス発生装置において、
前記放散材が内部収容空間に収容された放散材収容タンクと、前記気体供給源から前記内部収容空間に繋がる導入側流路と、前記内部収容空間から前記他の装置に繋がる排出側流路と、前記導入側流路及び前記排出側流路の途中の各分岐点間を接続する循環用流路とを備え、
前記内部収容空間から前記排出側流路に排出された前記放出ガスの一部が、前記循環用流路を通って前記気体供給源からの空気又は不活性ガスと混合し、前記導入側流路から前記内部収容空間に導入される流路構成であることを特徴とするガス発生装置。
【請求項2】
前記放散材は、ペレット状、粉状、カプセル状、若しくはチップ状に形成された固形物であり、前記放散材収容タンクには、多数の前記放散材が相互に隙間を形成した状態で充填され、前記導入側流路からの前記混合ガスが、前記隙間を通って前記排出側流路に流れることを特徴とする請求項1記載のガス発生装置。
【請求項3】
前記放散材は、エンジニアプラスチックからなることを特徴とする請求項1又は2記載のガス発生装置。
【請求項4】
建築材料の性能試験を行うために、当該建築材料が収容されたチャンバー内にホルムアルデヒド若しくはトルエンを含む汚染空気を供給するシステムであって、
ホルムアルデヒド若しくはトルエンが含まれる放出ガスを発生させるガス発生装置と、システム外から取り込まれた空気を清浄してシステム内に供給する清浄空気供給装置と、前記ガス発生装置で発生した放出ガスと前記清浄空気供給装置からの清浄空気とを混合し、前記チャンバー内に前記汚染空気を供給する混合器とを備え、
前記ガス発生装置は、ホルムアルデヒドガス若しくはトルエンガスを放散可能な物質からなる放散材が内部収容空間に収容された放散材収容タンクと、前記清浄空気供給装置から前記内部収容空間に繋がる導入側流路と、前記内部収容空間から前記混合器に向かって延びる排出側流路と、前記導入側流路及び前記排出側流路の途中の各分岐点間を接続する循環用流路とを備えるとともに、前記内部収容空間から前記排出側流路に排出された前記放出ガスの一部が、前記循環用流路を通って前記清浄空気供給装置からの空気と混合した上で、前記導入側流路から前記内部収容空間に導入される流路構成であることを特徴とするガス供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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