説明

ガソリン組成物とその製造方法

【課題】 オクタン価や運転性能を低下させることなく、蒸気圧を抑制することのできたガソリン組成物とその製造方法を提供する。
【解決手段】 炭素数5のオレフィンの含有量が20容量%以上であり、炭素数4のノルマルパラフィンの含有量が1容量%以下であり、10%留出温度が25℃以上、90%留出温度が65℃以下であり、かつ硫黄分が5質量ppm以下のC5ガソリン基材を2容量%以上と他のガソリン基材とを混合するガソリンの製造方法、及び炭素数4のノルマルパラフィンが2容量%以下、炭素数4の炭化水素に対する炭素数5のオレフィンの比率(容量比)が5以上、蒸気圧が60kPa以下、50%留出温度が105℃以下、硫黄分が10質量ppm以下であるガソリン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境への影響を低減したガソリン組成物とその製造方法に関する。特に、蒸気圧を制限しても高いオクタン価を確保することで、環境への影響を低減しつつ十分な運転特性を確保したガソリン組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車燃料やその燃焼排ガスによる環境への負荷が問題となってきており、高い運転性能を維持するとともに、環境負荷の少ない自動車燃料が望まれている。特に、ガソリン組成物(以下、単にガソリンともいう。)からの炭化水素の揮発を抑制することが求められており、ガソリンの蒸気圧の低減が求められている。
他方、燃焼排ガスとして排出されるCOも、地球温暖化防止のためにその排出量の低減が求められている。CO排出量を低減するためには、ガソリン自動車の燃費向上が不可欠であり、そのためには、ガソリンのオクタン価を高め、また、硫黄分を低減することによりエンジンの圧縮比向上や排ガス浄化触媒の再生頻度を少なくすることが必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ガソリンの蒸気圧を下げるためには、ブタンに代表される低沸点基材のガソリンへの配合量を低下させることとなる。しかし、このブタンはオクタン価が高く、低減すると、低沸点領域でのオクタン価が低下し、運転性能が低下することとなる。
本発明は、このような問題を解決するものであり、オクタン価や運転性能を低下させることなく、蒸気圧を抑制することのできるガソリン組成物とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
ブタンなどの炭素数4の炭化水素の配合を少なくし、炭素数5の炭化水素、特にはオレフィンを多く含むものを配合することにより、ガソリン組成物のオクタン価、運転性能が低下することなく、蒸気圧を下げることができるとの着想を得た。
【0005】
本発明によるガソリンの製造方法は、炭素数5のオレフィンの含有量が20容量%以上であり、炭素数4のノルマルパラフィンの含有量が1容量%以下であり、10%留出温度が25℃以上、90%留出温度が65℃以下、硫黄分が5質量ppm以下のC5ガソリン基材を2容量%以上と他のガソリン基材を混合するものである。
このC5ガソリン基材が、炭素数5の炭化水素の含有量が50容量%以上であり、炭素数4の炭化水素の含有量が2容量%以下であることが好ましい。また、このようなC5ガソリン基材は、流動接触分解装置から得られる生成物を蒸留分離して得られたものであることが好ましい。
【0006】
また、本発明によるガソリンは、炭素数4のノルマルパラフィンが1容量%以下、炭素数4の炭化水素に対する炭素数5のオレフィンの比率(容量比)が6以上、蒸気圧が60kPa以下、50%留出温度が100℃以下、硫黄分が10質量ppm以下である。
炭素数4の炭化水素が2容量%以下、炭素数4の炭化水素に対する炭素数5のオレフィンの比率が7以上、リサーチ法オクタン価が92以上であることが好ましく、特には、炭素数4の炭化水素が1容量%以下、50%留出温度が99℃以下、リサーチ法オクタン価が98以上であり、硫黄分が2質量ppm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるガソリンは、炭素数5の炭化水素成分、特には炭素数5のオレフィンを従来よりも多く含むようにしたため、オクタン価や運転性能、特に低速時の加速性能において優れた特性を維持したまま、蒸気圧を下げ、硫黄分を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
〔C5ガソリン基材〕
本発明の製造方法に用いるC5ガソリン基材は、炭素数5の炭化水素を主成分とする基材であり、炭素数5のオレフィン(不飽和炭化水素化合物)の含有量は20容量%以上である。炭素数5のオレフィンとしては、トランス−2−ペンテン、シス−2−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテンなどの不飽和炭化水素化合物が挙げられる。なお、炭素数5の炭化水素の含有量としては、50容量%以上が好ましく、さらには60容量%以上、特に好ましくは70容量%以上である。
【0009】
このC5ガソリン基材において、炭素数4のノルマルパラフィン(直鎖飽和炭化水素化合物)は、ノルマルブタンであり、その含有量は1容量%以下、好ましくは0.3容量%以下である。炭素数4の炭化水素は、2容量%以下、特には1容量%以下が好ましい。なお、炭素数4の炭化水素としては、前記ノルマルブタンのほか、イソブタン、1−ブテン、イソブテン、トランス−2−ブテン、シス−2−ブテンなどが挙げられる。
ここで、「イソ」は、直鎖の鎖端から2番目の炭素原子にメチル側鎖を持つ異性体に限定されず、少なくとも1つの側鎖を有する分岐鎖の炭化水素異性体の総称として用いる。
【0010】
このC5ガソリン基材の蒸留性状において、10%留出温度は25℃以上、好ましくは27〜34℃ある。50%留出温度は、30〜40℃が好ましく、90%留出温度は、65℃以下、好ましくは60℃以下である。また、硫黄分は5質量ppm以下、好ましくは2質量ppm以下、さらに好ましくは1質量ppm以下である。
このC5ガソリン基材は、石油精製工程からの蒸留分離、さらに必要によっては抽出、吸着、収着などによる硫黄分除去によって得ることができる。石油化学におけるナフサ熱分解装置(エチレンクラッカー)の生成物を、蒸留分離及びジエン除去することによっても好ましく得られる。ジエンの除去方法は、ジメチルホルムアミド(DMF)やアセトニトリルなどを用いた抽出蒸留法や水素化法が用いられる。
【0011】
〔配合〕
ガソリン全体におけるC5ガソリン基材の配合量は、2容量%以上、好ましくは2〜50容量%、特には8〜40容量%である。C5ガソリン基材以外の配合される他のガソリン基材としては特に限定されないが、接触分解ガソリン基材、接触改質ガソリン基材、アルキレートガソリン基材、直留ナフサを脱硫処理した脱硫ナフサ基材、及び含酸素ガソリン基材等、公知のガソリン基材を用いることができる。他のガソリン基材は、硫黄分が20質量ppm以下であることが好ましく、特には15質量ppm以下であることが好ましい。接触分解ガソリン基材や接触改質ガソリン基材の場合、蒸留してそれぞれ軽質留分と重質留分など、適宜の沸点範囲で分離して得られた留分を用いることにより、きめ細かく、フレキシブルにガソリン組成物をブレンド、調製することができる。
【0012】
含酸素ガソリン基材としては、メチルt−ブチルエーテル(MTBE)、エチルt−ブチルエーテル(ETBE)、t−アミルエチルエーテル(TAEE)、エタノール、メタノールなどが挙げられ、中でも、オクタン価向上効果やハンドリング性からエタノール又はETBEが好ましく、ETBEがより好ましい。含酸素ガソリン基材の配合量は0〜20容量%が好ましく、オクタン価向上効果からは5容量%以上、さらには7容量%以上、特に好ましくは10容量%以上である。また、燃費の面から20容量%以下が好ましく、防錆性、水分離性からは17容量%以下が好ましく、15容量%以下がさらに好ましい。
【0013】
他のガソリン基材の好ましい配合量を例示すれば、C5ガソリン基材:2〜50容量%、脱硫ナフサ基材:0〜10容量%、アルキレートガソリン基材:2〜30容量%、接触分解ガソリン基材:2〜80容量%、接触改質ガソリン基材:10〜70容量%、含酸素ガソリン基材:0〜20容量%である。特に好ましくは、C5ガソリン基材:5〜30容量%、脱硫ナフサ基材:0〜3容量%、アルキレートガソリン基材:3〜20容量%、接触分解ガソリン基材:2〜80容量%、接触改質ガソリン基材:10〜60容量%、含酸素ガソリン基材:5〜15容量%である。炭素数4の留分(ブタン)基材の配合量は2容量%以下、特には、実質的に配合されていないことが好ましい。
【0014】
〔他の添加物〕
さらに、本発明のガソリンには、当業界で公知の燃料油添加剤の1種又は2種以上を必要に応じて配合することができる。これらの配合量は適宜選べるが、通常は添加剤の合計配合量を0.1重量%以下に維持することが好ましい。本発明のガソリンで使用可能な燃料油添加剤を例示すれば、フェノール系、アミン系などの酸化防止剤、シッフ型化合物、チオアミド型化合物などの金属不活性化剤、有機リン系化合物などの表面着火防止剤、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミンなどの清浄分散剤、多価アルコール又はそのエーテルなどの氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、高級アルコールの硫酸エステルなどの助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などの帯電防止剤、アゾ染料などの着色剤を挙げることができる。
【0015】
〔本発明のガソリン〕
本発明のガソリン組成物は、炭素数4のノルマルパラフィンの含有量が2容量%以下であり、1容量%以下が好ましい。炭素数4の炭化水素に対する炭素数5のオレフィンの含有量は容量比率で5以上であり、好ましくは6以上、特には7以上である。また、炭素数4の炭化水素の含有量は2容量%以下、特には1容量%以下が好ましい。オクタン価の高い炭素数5のオレフィン分を相対的に多く含むことで、蒸気圧を60kPa以下に抑制したまま、低速時の加速性能を高めることができる。
【0016】
本発明のガソリンの蒸留性状は、50%留出温度が105℃以下、好ましくは90〜102℃、特に好ましくは95〜100℃である。好ましい10%留出温度は、60〜92℃であり、好ましい90%留出温度は100〜165℃である。
【0017】
本発明のガソリンの硫黄分は、10質量ppm以下、好ましくは2質量ppm以下である。ガソリン中の硫黄分は、排気ガス中で酸化硫黄化合物となり、窒素酸化物除去触媒を被毒する。そのために、窒素酸化物触媒の活性を回復するために還元雰囲気を形成するために燃料が使用され、燃費悪化の原因となっている。従って、ガソリン中の硫黄分が少ないほど燃費は向上する。本発明のガソリンのオクタン価は、92〜102、特には92〜96又は98〜102を得ることができる。
【実施例】
【0018】
以下に、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら制限されるものではない。
【0019】
表1に示す性状のガソリン基材を用意し、表2の上部に示す混合割合(容量%)でブレンドして実施例、比較例となるガソリン組成物を調製した。なお、用いたガソリン基材は、次のように調製された。
【0020】
C4:
いわゆるブタン留分であり、脱硫液化石油ガスを蒸留分離することにより炭素数4の炭化水素を95%以上含有し、ノルマルブタンを73容量%含有する留分を得た。
DS−LG:
脱硫直留軽質ナフサであり、中東系原油のナフサ留分を水素化脱硫後、その軽質分を蒸留分離することにより得た。
ALKG:
アルキレートガソリンであり、ブチレンを主成分とする留分とイソブタンを主成分とする留分を硫酸触媒により反応させて、イソパラフィン分の高い炭化水素を得た。
【0021】
FCCG:
脱硫軽油および脱硫重油を固体触媒により流動床式反応装置を用いて分解することによりオレフィン分の高い炭化水素、すなわち流動接触分解ガソリン(FCCG)を得た。
FCCGL:
前記流動接触分解ガソリン(FCCG)を軽質留分と重質留分に蒸留分離して得た軽質留分(FCCGL)である。
FCCGLL:
C5ガソリン基材に該当し、前記の流動接触分解ガソリン(FCCG)の軽質留分(FCCGL)を、さらに蒸留分離してより軽質な留分、主に炭素数5の炭化水素からなる留分(FCCGLL)を得た。
AC7:
軽質改質ガソリンである。前記脱硫直留軽質ナフサ(DS−LG)を得る際に、脱硫後、重質留分(脱硫重質ナフサ)が蒸留分離される。この脱硫重質ナフサを固体触媒により移動床式反応装置を用いて改質反応させることにより、芳香族分の高い炭化水素、すなわち改質ガソリンを得た。これを蒸留分離することにより炭素数7の炭化水素を95%以上含有する留分(AC7)を得た。
AC9:
重質改質ガソリンであり、前記のよう調製された改質ガソリンの蒸留分離において、炭素数11以上の炭化水素が5%以下、炭素数9及び10の炭化水素が90%以上含有される留分(AC9)を得た。
【0022】
ETBE:
エチルターシャリーブチルエーテルであり、イオン交換樹脂触媒(Amberlyst-15)存在下、エタノールとイソブチレンとを反応させ、蒸留法で精製し、純度95%のETBEを得た。
【0023】
表1及び表2に示すガソリン基材及び実施例、比較例のガソリン組成物の性状は、次の方法により測定した。
蒸留性状:JIS K 2254「石油製品−蒸留試験法」
蒸気圧(RVP):JIS K 2258「原油及び燃料油−蒸気圧試験方法−リード法」
オクタン価(RON):JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」のリサーチ法オクタン価試験方法
硫黄分:JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」の微量電量滴定式酸化法
密度:JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法」
炭素数4及び炭素数5の組成成分:JIS K 2536「石油製品−成分試験方法」のガスクロマトグラフィー法
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
表2に示した実施例1、2では、比較例1、2で用いているC4を用いず、また、DS−LGの配合量を減らし、代わりにFCCGLLを用いた。実施例1、2では、炭素数4の炭化水素に対する炭素数5のオレフィン比率がそれぞれ6.3、9.3であり、6を超えていることがわかる。これにより、オクタン価、50%留出温度を大きく変化させることなく、蒸気圧を低減することができた。
【0027】
また、実施例3と比較例3とを比較すると、実施例3では、比較例3で用いているDS−LG、FCCGLの代わりにFCCGLLを用いた。実施例では、炭素数4の炭化水素に対する炭素数5のオレフィン比率が11.8であり、十分7を超えていることがわかる。これにより、オクタン価をさらに向上し、50%留出温度を大きく上げることなく、かつ、硫黄分を低減することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数5のオレフィンの含有量が20容量%以上であり、炭素数4のノルマルパラフィンの含有量が1容量%以下であり、10%留出温度が25℃以上、90%留出温度が65℃以下であり、かつ硫黄分が5質量ppm以下のC5ガソリン基材を2容量%以上と他のガソリン基材とを混合するガソリン組成物の製造方法。
【請求項2】
C5ガソリン基材が、炭素数5の炭化水素の含有量が50容量%以上であり、炭素数4の炭化水素の含有量が2容量%以下である請求項1に記載のガソリン組成物の製造方法。
【請求項3】
炭素数4のノルマルパラフィンが2容量%以下、炭素数4の炭化水素に対する炭素数5のオレフィンの比率(容量比)が5以上、蒸気圧が60kPa以下、50%留出温度が105℃以下、硫黄分が10質量ppm以下であるガソリン組成物。
【請求項4】
炭素数4の炭化水素が2容量%以下、炭素数4の炭化水素に対する炭素数5のオレフィンの比率(容量比)が7以上、リサーチ法オクタン価が92以上である請求項3に記載のガソリン組成物。
【請求項5】
炭素数4の炭化水素が1容量%以下、リサーチ法オクタン価が97以上であり、硫黄分が2質量ppm以下である請求項3又は4に記載のガソリン組成物。
【請求項6】
含酸素ガソリン基材を含むことを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のガソリン組成物。

【公開番号】特開2006−83366(P2006−83366A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220788(P2005−220788)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】