説明

ガソリン組成物

【課題】吸気系統、特に吸気弁デポジット、の清浄性が高く、排出ガス削減に貢献するガソリン組成物を提供する。
【解決手段】 摩擦調整剤および清浄分散剤を含有するガソリン組成物であって、リサーチ法オクタン価(RON)が89.0以上、モーター法オクタン価(MON)が80.0以上、50容量%留出温度(T50)が75℃以上105℃以下、硫黄分が10質量ppm以下、リード蒸気圧(RVP)が93kPa以下、15℃における密度が0.720g/cm以上0.790g/cm以下、含酸素化合物含有量が酸素原子換算で3.8質量%以下、未洗実在ガム量が10mg/100mL以上20mg/100mL以下で、かつガソリン組成物中の未洗実在ガム分の赤外分光分析法における1680〜1725cm−1の最大吸光度と1615〜1640cm−1の最大吸光度の比が0.2以上0.6以下であることを特徴とするガソリン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用燃料としてのガソリンに関し、特に自動車の排出ガスや運転性の悪化の原因となる吸気バルブデポジット(IVD)の生成を抑制し、優れた清浄性能を有し、ガソリン製造時の二酸化炭素排出量の削減を可能としたガソリン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリン内燃機関の吸気バルブ、吸気ポート、インジェクタ等の吸気系統にデポジットなどの沈積物が付着すると、燃焼室内に入る混合気の空気に対するガソリンの比率が目標とした値にならなくなる場合があり、そのために燃焼性が悪化するおそれがあった。また、燃焼性の悪化により排出ガス性状、加速性、燃費、運転性などの不具合がみられ、これらの欠点を解決するために清浄剤をガソリンに添加することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、従来のガソリンは吸気系統の清浄性能が未だ十分とはいえず、排出ガス削減、燃費改善等の点からさらなる改善が求められている。
【特許文献1】特開2000−265179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、吸気系統、特に吸気バルブデポジットの清浄性能が高く、排出ガス削減効果に優れたガソリン組成物であり、さらに製造時の二酸化炭素排出量の削減を可能としたガソリン組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題について鋭意研究を重ねた結果、特定の性状を有するガソリン組成物により、課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は、摩擦調整剤および清浄分散剤を含有するガソリン組成物であって、リサーチ法オクタン価(RON)が89.0以上、モーター法オクタン価(MON)が80.0以上、50容量%留出温度(T50)が75℃以上105℃以下、硫黄分が10質量ppm以下、リード蒸気圧(RVP)が93kPa以下、15℃における密度が0.720g/cm以上0.790g/cm以下、含酸素化合物含有量が酸素原子換算で3.8質量%以下、未洗実在ガム量が10mg/100mL以上20mg/100mL以下で、かつガソリン組成物中の未洗実在ガム分の赤外分光分析法における1680〜1725cm−1の最大吸光度と1615〜1640cm−1の最大吸光度の比が0.2以上0.6以下であることを特徴とするガソリン組成物に関する。
また本発明は、赤外分光分析法において1680〜1725cm−1に吸収ピークを有する清浄分散剤を含有することを特徴とする前記記載のガソリン組成物に関する。
また本発明は、赤外分光分析法において1615〜1640cm−1に吸収ピークを有する摩擦調整剤を含有することを特徴とする前記記載のガソリン組成物に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
以下、本発明について説明する。
本発明のガソリン組成物(以下、本発明のガソリンともいう。)のリサーチ法オクタン価(RON)はノッキングを防止し、運転性を向上させる観点から、89.0以上であることが必要であり、好ましくは94.0以上であり、特にプレミアムガソリン仕様車に本発明のガソリンを使用する場合は、該自動車の性能を最大限引き出すために、さらに好ましくは97.0以上であり、最も好ましくは98.0以上である。また、高速における耐ノッキング性能の悪化を防止する観点から、モーター法オクタン価(MON)は80.0以上であることが必要であり、85.0以上がより好ましく、87.0以上がさらに好ましい。
ここでいうリサーチ法オクタン価(RON)およびモーター法オクタン価(MON)とは、JIS K 2280「オクタン価及びセタン価試験方法」により測定されるリサーチ法オクタン価およびモーター法オクタン価を意味する。
【0006】
本発明のガソリンの50容量%留出温度(T50)は、燃費の悪化を防止する観点から、75℃以上であることが必要であり、80℃以上が好ましい。一方、常温運転性の悪化を防止する観点から、105℃以下であることが必要であり、100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましい。
【0007】
本発明のガソリンのT50以外の蒸留性状は、特に限定されるものではないが、下記の通りであることが好ましい。
蒸留初留点(IBP):20〜37℃
10容量%留出温度(T10):35〜70℃
30容量%留出温度(T30):55〜77℃
70容量%留出温度(T70):135℃以下
90容量%留出温度(T90):175℃以下
蒸留終点(EP):215℃以下
【0008】
IBPは、好ましくは20℃以上、より好ましくは23℃以上である。IBPが20℃に満たない場合は排出ガス中の炭化水素が増加するおそれがある。一方、IBPは、好ましくは37℃以下、より好ましくは35℃以下である。IBPが37℃を超える場合には、低温運転性が低下するおそれがある。
T10は、好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上である。T10が35℃に満たない場合は排出ガス中の炭化水素が増加するおそれがあり、また、ベーパーロックにより高温運転性が低下するおそれがある。一方、T10は、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下である。T10が70℃を超える場合には、低温始動性が低下するおそれがある。
【0009】
T30は、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上である。T30が55℃に満たない場合は燃費が低下するおそれがある。一方、T30は、好ましくは77℃以下、より好ましくは75℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。T30が77℃を超える場合には、中低温運転性が低下するおそれがある。
T70は、好ましくは135℃以下、より好ましくは130℃以下である。T70が135℃を超える場合は冷機時の中低温運転性が低下するおそれがあり、また、排出ガス中の炭化水素の増加、吸気バルブデポジットの増加、燃焼室デポジットが増加するおそれがある。
【0010】
T90は、冷機時の低温及び常温運転性の悪化、エンジンオイルのガソリンによる希釈の増加、炭化水素排出ガスの増加、エンジンオイルの劣化及びスラッジの発生等の現象を防止できる観点から、好ましくは175℃以下、より好ましくは170℃以下、さらに好ましくは165℃以下である。
EPは、好ましくは215℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは195℃以下である。EPが215℃を超えると、吸気弁デポジットや燃焼室デポジットが増加するおそれがあり、また、点火プラグのくすぶりが発生するおそれがある。
ここでいうIBP、T10、T30、T50、T70、T90、EPとは、JIS K2254「石油製品−蒸留試験方法−常圧法」により測定される値(℃)を意味する。
【0011】
本発明のガソリンの硫黄分は10質量ppm以下であることが必要であり、好ましくは8質量ppm以下である。硫黄分が10質量ppmを越える場合、排出ガス処理触媒の性能に悪影響を及ぼし、排出ガス中のNOx、CO、HCの濃度が高くなるおそれがあり、またベンゼンの排出量も増加するおそれがあり好ましくない。
ここでいう硫黄分とは、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」により測定される値(質量ppm)を意味する。
【0012】
本発明のガソリンのリード蒸気圧(RVP)は、ベーパーロックなどによる運転性の不具合の防止のために冬季(10月〜4月)では93kPa以下であることが必要であり、夏季(5月〜9月)では78kPa以下であることが好ましい。より好ましくは冬季90kPa以下、夏季72kPa以下、さらに好ましくは冬季88kPa以下、夏季65kPa以下である。また、冷機状態の始動性の観点から、44kPa以上であることが好ましく、より好ましくは夏季50kPa以上、冬季54kPa以上、さらに好ましくは夏季54kPa以上、冬季64kPa以上に調整することが望ましい。
ここでいうリード蒸気圧(RVP)とは、JIS K 2258「原油及び燃料油蒸気圧試験方法(リード法)」により測定される37.8℃におけるリード蒸気圧の値(kPa)を指す。
【0013】
本発明のガソリンの15℃における密度は、0.720g/cm以上0.790g/cm以下であることが必要である。15℃における密度が0.720g/cmに満たない場合は燃費が悪化するおそれがあり、一方、0.790g/cmを超える場合は加速性の悪化やプラグのくすぶりを生じるおそれがある。かかる理由から、15℃における密度は0.735g/cm以上が好ましく、0.770g/cm以下が好ましく、0.760g/cm以下がより好ましい。
ここでいう15℃における密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される値(g/cm)を意味する。
【0014】
本発明のガソリン中の含酸素化合物含有量は、酸素原子換算で3.8質量%以下であることが必要であり、好ましくは2.7質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、最も好ましくは1.5質量%以下である。含酸素化合物含有量が3.8質量%を越える場合は、排出ガス中のNOxが増加するおそれがある。
ここで、含酸素化合物含有量の算出法を例示すると、ガソリン組成物がエタノール(分子量46)を3質量%含有している場合、含酸素化合物含有量を酸素原子換算すると、(O/COH)×3質量%=(16/46)×3質量%=1.04質量%となる。
なお、本発明のガソリンは、含酸素化合物含有量が前述の範囲を満たす限りにおいて、含酸素化合物を含有していてもよい。
【0015】
含酸素化合物としては、例えば、炭素数2〜4のアルコール類、炭素数4〜8のエーテル類などが挙げられる。具体的には、エタノール、メチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)、エチル−tert−ブチルエーテル(ETBE)、tert−アミルメチルエーテル(TAME)、tert−アミルエチルエーテルなどを挙げることができる。なかでもエタノール、MTBE、ETBEが好ましい。前記含酸素化合物の製造方法は特に限定されるものではなく、既存の種々の方法で製造することができるが、製造時の二酸化炭素排出量など環境への影響を考慮すると、含酸素化合物はバイオマス由来の原料より製造されることが好ましい。具体的には、サトウキビ、小麦、ビート、トウモロコシ等のデンプン主体の糖質成分、または間伐材、ウッドチップ、建築廃材等の木質系原料、食品工場系廃棄物、農業系廃棄物(稲わら、もみがら、小麦わら、パルプ等)などの繊維質系のヘミセミロース、セミロース主体成分を酵母で発酵させることによりエタノール(バイオマス由来のエタノール)を製造する(アルコール発酵法)方法が挙げられる。また、前記バイオマス由来のエタノールと製油所の流動接触分解装置(FCC)等やエチレンプラントにおける水蒸気分解装置(スチームクラッカー)等から発生する混合ブチレンから分離して得られるイソブチレンとを反応させてETBEを製造する方法を挙げることができる。以上のように、含酸素化合物としては、製造時の二酸化炭素排出量など環境への影響の観点から、バイオマス由来のエタノール、バイオマス由来のエタノールを原料として製造したETBEを使用することが好ましく、ガソリンとの相溶性の点で問題の少ないETBEの使用が特に好ましい。なお、メタノールは排出ガス中のアルデヒド濃度が高くなるおそれがあり、腐食性もあるので、JIS K 2536「石油製品−成分試験方法」の規定により試験したときに検出されない(0.5容量%以下)ことが好ましい。
【0016】
本発明のガソリンの未洗実在ガム量は、10mg/100mL以上20mg/100mL以下であることが必要である。未洗実在ガム量が20mg/100mLを超えた場合は、燃料導入系統において析出物が生成したり、吸入バルブが膠着するおそれがあり、10mg/100mL未満の場合は、吸気バルブの清浄性が低下するおそれがあるので好ましくない。
本発明の洗浄実在ガム量は、特に限定されるものではないが、3mg/100mL以下であることが好ましく、1mg/100mL以下であることがより好ましい。
ここでいう未洗実在ガム量および洗浄実在ガム量とは、JIS K 2261「石油製品−自動車ガソリン及び航空燃料油−実在ガム試験方法−噴射蒸発法」により測定した値(mg/100mL)を意味する。
【0017】
本発明のガソリンは、潤滑性を向上させるため、摩擦調整剤を含有することが必要である。主な摩擦調整剤としては、例えば、アルコール;ヒドロキシル基を1〜4個有する炭素数1〜30のアルコール化合物;カルボン酸;モノカルボン酸と、グリコール又は3価アルコールとの反応物であるヒドロキシル基含有エステル;ポリカルボン酸と多価アルコールとのエステル;>NR(Rは炭素原子数5〜40の炭化水素基である)を含む組成を示し、1以上の置換基を有する少なくとも1個の窒素化合物とを組み合わせた多価アルコールのエステル;カルボン酸とアルコールアミンとのアミド化合物等が挙げられる。これらは、単独又は混合物として用いることができる。
【0018】
これらのうちでは、炭素数10〜25のモノカルボン酸と、グリコール又は3価アルコールとの反応物であるヒドロキシル基含有エステル及び/又は炭素数5〜25のカルボン酸とアルコールアミンとのアミド化合物が好ましく、炭素数10〜25のモノカルボン酸とグリセリンエステル及び/又は炭素数5〜25のモノカルボン酸とジエタノールアミンとのアミド化合物がより好ましい。さらに、エンジン駆動部の摩擦低減を図るために、赤外分光分析法において1615〜1640cm−1に吸収ピークを有する、モノカルボン酸とジエタノールアミンとのアミド化合物からなる摩擦調整剤を含有することが最も好ましい。
【0019】
なお、本発明でいう赤外分光分析法とは、試料に赤外線を照射した際、各化合物の官能基が特定の波長(波数)の赤外光を吸収することを利用し、横軸に波数、縦軸に吸光度をとって各化合物の定性、定量を行う分析方法であり、分析条件は以下のとおりである。
測定範囲:400〜4000cm−1
分解能:2cm−1
使用セル:KBr固定セル(厚さ0.5mm)
【0020】
摩擦調整剤の添加量は、ガソリン組成物の未洗実在ガム量が上述の範囲を満たす限りにおいて特に制限はないが、十分な燃費及び出力改善効果を発揮させ、一方、それ以上添加しても効果の向上が期待できない等の観点から、本発明のガソリン1リットル当たり、通常10〜300mg、好ましくは30〜250mgの含有割合となるように添加することが好ましい。
なお、摩擦調整剤と称して市販されている商品は、耐摩耗性に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈されていることがあるため、こうした市販品を本発明のガソリンに添加する場合にあたっては、上記の添加量は、有効成分としての添加量を意味している。
【0021】
本発明のガソリンは、清浄分散剤を含有していることが必要である。清浄分散剤としては、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミンなどのガソリン清浄分散剤として公知の化合物を用いることができる。これらの中でも空気中300℃で熱分解を行った場合にその残分が無いものが望ましい。好ましくはポリイソブテニルアミン及び/またはポリエーテルアミンを使用するのが良い。さらに、吸気バルブデポジットの堆積防止性能をさらに向上させる観点で、赤外分光分析法において1680〜1725cm−1に吸収ピークを有する特表平11−509576号公報で開示されているようなポリアルキルフェノキシアルカノールの芳香族エステルを主成分とする清浄分散剤を含有することが特に好ましい。
【0022】
清浄分散剤の含有量は、ガソリン組成物の未洗実在ガム量が上述の範囲を満たす限りにおいて特に制限はないが、本発明のガソリン1リットル当たり、25〜1000mgであることが好ましく、吸気バルブデポジットを防止する点から、50〜500mgがさらに好ましく、100〜300mgが最も好ましい。
なお、清浄分散剤と称して市販されている商品は、清浄性に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈されていることがあるため、こうした市販品を本発明のガソリンに添加する場合にあたっては、上記の添加量は、有効成分としての添加量を意味している。
【0023】
本発明のガソリンに添加することができるその他の添加剤としては、具体的には、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジイソブチル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ヒンダードフェノール類等の酸化防止剤、N,N’−ジサリチリデン−1,2−ジアミノプロパンのようなアミンカルボニル縮合化合物等の金属不活性化剤、有機リン系化合物などの表面着火防止剤、多価アルコールあるいはそのエーテルなどの氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、高級アルコール硫酸エステルなどの助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などの帯電防止剤、アゾ染料などの着色剤、有機カルボン酸あるいはそれらの誘導体類、アルケニルコハク酸エステル等の防錆剤、ソルビタンエステル類等の水抜き剤、キリザニン、クマリンなどの識別剤、天然精油合成香料などの着臭剤等が挙げられる。
これらの添加剤は、添加後のガソリン組成物の未洗実在ガム量が上述の範囲を満たす限り、1種または2種以上を添加することができ、その合計添加量はガソリン全量基準で0.1質量%以下とすることが好ましい。なお、ここでいう添加剤の合計添加量とは、添加剤の有効成分としての添加量を意味している。
【0024】
本発明のガソリンは、組成物中の未洗実在ガム分の赤外分光分析法における1680〜1725cm−1の最大吸光度と1615〜1640cm−1の最大吸光度の比が0.2以上0.6以下となることが必要である。
本発明のガソリン組成物中の未洗実在ガム分の赤外分光分析法による分析例を図1に示す。なお、赤外分光分析を行う際、未洗実在ガム分はクロロホルムに溶解させる。
赤外分光分析法における1680〜1725cm−1の吸収は清浄分散剤のカルボニルの吸収に由来するものであり、1615〜1640cm−1の吸収は摩擦調整剤のカルボニルの吸収に由来するものである。1680〜1725cm−1の最大吸光度(図1のa)と1615〜1640cm−1の最大吸光度(図1のb)の比(a/b)は0.2以上0.6以下であることが必要であり、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.3以上であり、一方、上限は、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.5以下である。1680〜1725cm−1の最大吸光度と1615〜1640cm−1の最大吸光度の比は、清浄分散剤と摩擦調整剤の配合処方のバランスを意味しており、値が0.2未満になるとエンジンの清浄性能の悪化を招き、0.6を超えると燃料中の実在ガム量が多くなり、燃焼室デポジットの増加を招くので好ましくない。
【0025】
本発明のガソリン中の芳香族分は、特に限定されるものではないが、20〜45容量%であることが好ましく、更に好ましくは25容量%以上、42容量%以下である。芳香族分が45容量%を越えると、吸気弁デポジット、燃焼室デポジットが増加するおそれがあり、また、点火プラグのくすぶりが発生するおそれがある。また、排出ガス中のベンゼン濃度が増加するおそれがある。一方、芳香族分が20容量%を下回る場合には燃費が悪化するおそれがある。
なお、本発明のガソリン中のベンゼン含有量は、1容量%以下であることが好ましい。ベンゼン含有量が1容量%を越えると排出ガス中のベンゼン濃度が高くなるおそれがある。
【0026】
本発明のガソリン中のオレフィン分は、特に限定されるものではないが、30容量%以下であることが好ましく、25容量%以下であることがより好ましい。オレフィン分が30容量%を超えると、ガソリンの酸化安定性を悪化させ、吸気バルブデポジットを増加させるおそれがある。
ここでいう芳香族分、オレフィン分とは、JIS K 2536「石油製品-成分試験方法−蛍光指示薬吸着法」により測定されるガソリン中の芳香族分含有量(容量%)、オレフィン分含有量(容量%)を意味する。また、ベンゼン含有量は、JIS K 2536「石油製品-成分試験方法−ガスクロによる芳香族試験方法」により測定されるベンゼン含有量(容量%)を意味する。
【0027】
本発明のガソリンの酸化安定度は、特に限定されるものではないが、240分以上であることが好ましく、480分以上であることがより好ましく、1440分以上であることがさらに好ましい。酸化安定度が240分に満たない場合は、貯蔵中にガムが生成するおそれがある。
ここでいう酸化安定度とは、JIS K 2287「ガソリン酸化安定度試験方法(誘導期間法)」によって測定した値(分)を意味する。
【0028】
本発明のガソリンは、銅板腐食(50℃、3h)が1以下であるのが好ましく、1aであるのがより好ましい。銅板腐食が1を越える場合は、燃料系統の導管が腐食するおそれがある。
ここでいう銅板腐食とは、JIS K 2513「石油製品−銅板腐食試験方法」(試験温度50℃、試験時間3時間)に準拠して測定した値を意味する。
【0029】
本発明のガソリンは、一種又は二種以上のガソリン基材を調合し、摩擦調整剤および清浄分散剤を配合してなり、さらに所望によりその他の添加剤を添加することで調製することができる。
本発明のガソリンに用いるガソリン基材は、従来公知の任意の方法で製造することができる。具体的には、原油を常圧蒸留して得られる軽質ナフサ、重質ナフサ、重質ナフサを脱硫処理して得られる脱硫重質ナフサ、接触分解法で得られる接触分解ガソリン(沸点範囲により分けられるホールレンジ接触分解ガソリン(沸点範囲:25〜220℃)、軽質接触分解ガソリン(沸点範囲:20〜120℃)、重質接触分解ガソリン(沸点範囲:70〜200℃)を含む)、水素化分解法で得られる水素化分解ガソリン、接触改質法で得られる改質ガソリン(沸点範囲により分けられるホールレンジ改質ガソリン(沸点範囲:30〜200℃)、軽質改質ガソリン(沸点範囲:20〜100℃)、中質改質ガソリン(沸点範囲:60〜180℃)、重質改質ガソリン(沸点範囲:140〜275℃)、各改質ガソリンの2種類以上の混合物も含む)、改質ガソリンより芳香族分を抽出した残分であるラフィネート、オレフィン分の重合によって得られる重合ガソリン、イソブタンなどの炭化水素に低級オレフィンを付加(アルキル化)することによって得られるアルキレート、軽質ナフサを異性化装置でイソパラフィンに転化して得られる異性化ガソリン、脱ノルマルパラフィン油、ブタン、芳香族炭化水素化合物、プロピレンを二量化し、続いてこれを水素化して得られるパラフィン留分、天然ガス等を一酸化炭素と水素に分解した後にF−T(Fischer−Tropsch)合成で得られるGTL(Gas to Liquids)の軽質留分等の基材を1種又は2種以上を混合することで製造することができる。
【0030】
典型的なガソリンの配合例を以下に記載する。ただし、各ガソリン基材の個々の配合量は、最終的に得られるガソリンが本発明のガソリンとしての規定を満足するように調製される。
(1)改質ガソリン:0〜80容量%(好ましくは10〜50容量%)
(2)分解ガソリン:0〜70容量%(好ましくは25〜50容量%)
(3)アルキレート:0〜40容量%(好ましくは0〜30容量%)
(4)異性化ガソリン:0〜30容量%(好ましくは0〜25容量%)
(5)軽質ナフサ:0〜35容量%(好ましくは0〜10容量%)
(6)脱留重質ナフサ:0〜20容量%(好ましくは0〜10容量%)
(7)ブタン:0〜10容量%
【0031】
本発明のガソリンは、全てのタイプのガソリンエンジンに適用することができる。例えば、直噴エンジン、従来タイプのMPI(吸気マニホールド噴射方式)エンジン、リーンバーンエンジン、およびこれらのハイオク仕様のエンジン、そして直噴のリーンNOx触媒再生機能つきエンジン、ガソリンエンジンとモータを併用するハイブリッドエンジン、ガソリンエンジンとその他の動力システムを併用するハイブリッドエンジン等を挙げることができる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0033】
[実施例1〜9および比較例1〜3]
軽質分解ガソリン、アルキレート、改質ガソリン、直留軽質ナフサ、トルエン、ノルマルブタン、エタノール、ETBEなどの基材を表2に示す割合で配合し、図2、3に示すチャートの赤外吸収を有する清浄分散剤A、摩擦調整剤Aを、試験ガソリンの未洗実在ガム分の赤外分光分析で1680〜1725cm−1の最大吸光度と1615〜1640cm−1の最大吸光度の比(a/b)が表3に示す値になるように添加して、実施例1〜9および比較例1〜2の試験ガソリンを調製した。また、比較例3には市販のレギュラーガソリンを用いた。用いた基材の性状を表1に、調製した試験ガソリンの諸性状を表3に示す。
【0034】
(性状測定)
基材の性状、実施例および比較例における試験ガソリンの性状は以下の方法により測定した。
リサーチ法オクタン価およびモーター法オクタン価は、JIS K 2280「オクタン価及びセタン価試験方法」により測定されるリサーチ法オクタン価およびモーター法オクタン価による値である。
密度(@15℃)は、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定した。
リード蒸気圧(@37.8℃)は、JIS K 2258「原油及び燃料油蒸気圧試験方法(リード法)」により測定した。
蒸留性状(IBP、T10、T30、T50、T70、T90、EP)は、全てJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法−常圧法」により測定した。
硫黄分は、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」により測定した。
芳香族分及びオレフィン分は、JIS K 2536「石油製品-成分試験方法−蛍光指示薬吸着法」により測定した。
ベンゼンは、JIS K 2536「石油製品-成分試験方法−ガスクロによる芳香族試験方法」により測定した。
含酸素化合物含有量は、含酸素化合物の含有量を酸素原子換算で算出した。
未洗実在ガム量および洗浄実在ガム量は、JIS K 2261「石油製品−自動車ガソリン及び航空燃料油−実在ガム試験方法−噴射蒸発法」により測定した。
赤外分光分析法における1680〜1725cm−1の最大吸光度と1615〜1640cm−1の最大吸光度は、上述の赤外分光分析法に従って測定した。
酸化安定度は、JIS K 2287「ガソリン酸化安定度試験方法(誘導期法)」によって測定した。 銅板腐食は、JIS K 2513「石油製品−銅板腐食試験方法」(試験温度50℃、試験時間3時間)に準拠して測定した。
【0035】
(エンジン試験)
(1)吸気弁デポジット試験
エンジンA:直列4気筒
:排気量 1794cc
:噴射方式 マルチポイント式
上記諸元のエンジンAを用いて、吸気弁デポジット試験を実施した。
【0036】
(a)試験1
市販レギュラーガソリンを用いて表4に示す運転条件で200時間エンジンの運転を実施した後、エンジンを分解して吸気弁デポジット(IVD)の堆積量を計測した。
(b)試験2
デポジットの堆積した吸気弁を使用してエンジンを組み立てた後、実施例1〜9および比較例1〜3の各試験ガソリンを用いて、表4に示す運転条件でさらに200時間エンジンの運転を実施した。運転終了後、吸気弁デポジット(IVD)堆積量を計測した。
【0037】
(c)試験結果
試験2のIVD堆積量の平均値と、試験1のIVD堆積量の平均値の比較を行い、IVDの削減率を算出し、その試験結果を表5に示す。削減率は正の値が大きい程、効果が優れていることを意味する。表5の試験結果から、本発明のガソリン(実施例1〜9)を用いた場合は、吸気弁デポジットの削減率が向上していることがわかる。
【0038】
(2)排出ガス試験
車両A諸元
:エンジン 直列4気筒、排気量1998cc、噴射方式(マルチポイント式)
:オートマチックトランスミッション
:前輪駆動
【0039】
上記諸元の車両Aを用いて、レギュラーガソリンを用いて国土交通省の定める長距離走行の走行条件で1万kmの走行を実施した後、国土交通省によるガソリン自動車10・15モード排出ガス測定の技術基準に従って、排出ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)および窒素酸化物(NOx)の計測を行った。
その後、実施例1〜9および比較例1〜3の試験ガソリンを用いて、上記走行条件で1万kmの走行を実施し、10・15モード排出ガス測定を実施した。吸気弁デポジット、CO、THC、NOx、CO削減率は、レギュラーガソリンで走行した後の吸気弁デポジット量および各ガスの排出量に対する、実施例1〜9および比較例1〜3の試験ガソリンで走行した後のそれぞれの削減率である。なお、各々の長距離走行に先立ち、点火プラグ、排出ガス浄化システム(AFセンサ、排出ガス浄化触媒)、エンジンオイル等は新品に交換した。
【0040】
試験結果を表5に示す。表5の試験結果から、本発明のガソリン(実施例1〜9)を用いた場合は、比較例1〜3のガソリンと比べて、CO、THC、NOx、COが削減されていることがわかる。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】ガソリン組成物の未洗実在ガム中の赤外吸収(IR)チャートである。
【図2】清浄分散剤Aの赤外吸収(IR)チャートである。
【図3】摩擦調整剤Aの赤外吸収(IR)チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦調整剤および清浄分散剤を含有するガソリン組成物であって、リサーチ法オクタン価(RON)が89.0以上、モーター法オクタン価(MON)が80.0以上、50容量%留出温度(T50)が75℃以上105℃以下、硫黄分が10質量ppm以下、リード蒸気圧(RVP)が93kPa以下、15℃における密度が0.720g/cm以上0.790g/cm以下、含酸素化合物含有量が酸素原子換算で3.8質量%以下、未洗実在ガム量が10mg/100mL以上20mg/100mL以下で、かつガソリン組成物中の未洗実在ガム分の赤外分光分析法における1680〜1725cm−1の最大吸光度と1615〜1640cm−1の最大吸光度の比が0.2以上0.6以下であることを特徴とするガソリン組成物。
【請求項2】
赤外分光分析法において1680〜1725cm−1に吸収ピークを有する清浄分散剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のガソリン組成物。
【請求項3】
赤外分光分析法において1615〜1640cm−1に吸収ピークを有する摩擦調整剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のガソリン組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−137927(P2006−137927A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265319(P2005−265319)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】