説明

ガラス中の金属粒子の状態検出方法

【課題】本発明は、小型の装置で簡便にガラス中の金属粒子の状態を検出する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のガラス中の金属粒子の状態検出方法は、X線を対象物に照射する照射部と、前記対象物を透過したX線を受光する受光部とを有するX線検査装置を備え、前記照射部と受光部との間に前記対象物として金属粒子を含んだガラスを配置し、前記照射部から前記ガラスにX線を照射し、同ガラスを透過したX線を前記受光部により受光し、同受光部におけるX線の透過量の分布から前記ガラス中の金属粒子の状態を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス中の金属粒子の状態検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設において排出される高レベル放射性廃液は、前処理された後、ガラス溶融炉内で溶融ガラスに混入され、そしてその廃液が混入された溶融ガラスを別の容器に注入し、同容器と共に固化した状態で放射性廃棄物保管施設に保管することが行われている。
溶融ガラスに混入される廃液には金属粒子が含まれており、溶融炉内の底部の一部に集中して堆積し、その堆積した金属粒子により溶融炉の排出孔が閉塞されたり、あるいは溶融炉を加熱する電極間が短絡状態となって、溶融ガラスを十分に加熱できない不具合が発生する可能性がある。これら不具合の発生を防止するため、溶融ガラス内の金属粒子の状態、特にはその沈降速度を把握することが有用である。
【0003】
本出願人は、溶融ガラス内の金属粒子の状態を検出するために、容器内に予め固化されたガラス上に金属粒子を配置し、同容器と共に加熱して溶融させ、設定時間後に固化させたサンプルを得て分析する方法を採用していた。サンプルの分析は、同サンプルを容器と共に切断し、その切断面から金属粒子の状態を直接調べるものである。また溶融ガラス内における金属粒子の沈降速度を知るために、溶融していた時間を異ならせた複数のサンプルを用意し、これらサンプルから得た金属粒子の状態を互いに比較し、分析していた。
【0004】
特許文献1には、X線CT装置が開示されている。このX線CT装置は、測定物の周囲に複数のX線発生源及び検出器を配し、X線発生源を機械的に回転させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−265559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のサンプルを切断し、その切断面から金属粒子の状態を直接調べるものにおいては、その分析精度には限界があるし、また金属粒子の沈降速度を知るために複数のサンプルを用意しなくてはならないので、コストが嵩むという問題があった。またX線CT装置そのものは、装置全体が大型かつ複雑で、やはりコストが嵩むという問題があった。
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、小型の装置で簡便にガラス固化体中の金属粒子の状態を検出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載のガラス中の金属粒子の状態検出方法は、X線を対象物に照射する照射部と、前記対象物を透過したX線を受光する受光部とを有するX線検査装置を備え、前記照射部と受光部との間に前記対象物として金属粒子を含んだガラスを配置し、前記照射部から前記ガラスにX線を照射し、同ガラスを透過したX線を前記受光部により受光し、同受光部におけるX線の透過量の分布から前記ガラス中の金属粒子の状態を検出することを特徴とする。
【0008】
この際、前記X線のエネルギーの強さは、金属粒子を透過した部分の透過量と金属粒子を透過しない部分の透過量との比に基づいて設定される構成とすることが望ましく、この構成を採用すると、所謂可視化に最も適した照射エネルギーの強さを容易に設定することができる。
請求項2に記載のガラス中の金属粒子の状態検出方法は、請求項1において、前記金属粒子が白金族粒子であって、前記X線のエネルギーの強さが、100〜200keVに設定されることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載のガラス中の金属粒子の状態検出方法は、請求項1において、前記対象物としての金属粒子を含んだガラスは、容器内で溶融状態にあることを特徴とする。
この請求項3に記載のガラス中の金属粒子の状態検出方法において、前記対象物としての金属粒子を含んだガラスは、前記容器内において予め溶融固化されたガラスの上面に金属粒子及びガラス破砕物を配置し、加熱炉により前記容器と共に加熱して溶融されたものである構成を採用することができ、このような構成とすると、実際の廃液処理における金属粒子を含んだ溶融ガラスと同じような状態の下で金属粒子の状態を検出することができる。
【0010】
この際、前記溶融状態にあるガラス、前記容器及び前記加熱炉を前記対象物とする構成を採用することもでき、このような構成とすると、加熱炉による所望の温度を維持したまま溶融ガラス中の金属粒子の状態を検出することができる。
請求項4に記載のガラス中の金属粒子の状態検出方法は、請求項3において、ある時刻に前記X線検査装置により検出された金属粒子の状態と、その設定時間後に前記X線検査装置により検出された金属粒子の状態とを比較して、前記金属粒子の沈降速度を算出することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るガラス中の金属粒子の状態検出方法において、前記対象物としての金属粒子を含んだガラスは、容器内において予め溶融固化されたガラスの上面に金属粒子及びガラス破砕物を配置し、前記容器と共に加熱されて溶融された後、固化されたものである構成とすることが可能であり、この場合には、固化されたものではあるが、実際の廃液処理における溶融ガラス中の金属粒子の分布状態に近い金属粒子の分布状態を検出することができる。しかも、対象物を、容器内で固化されたガラスとすることができるので、高温の加熱炉と共に検出するよりは環境的に容易に検出することができ、またX線の透過率も増大したものを得ることができる。
【0012】
さらに、本発明に係るガラス中の金属粒子の状態検出方法において、前記X線検査装置により金属粒子の状態を検出した後、固化されているガラスを再び加熱して溶融し、設定時間後に再び固化した状態で、前記対象物とし、最初に前記X線装置により検出された金属粒子の状態と、今回前記X線装置により検出された金属粒子の状態とを比較して、前記金属粒子の沈降速度を算出する構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1に記載のガラス中の金属粒子の状態検出方法は、前記照射部から前記ガラスにX線を照射し、同ガラスを透過したX線を前記受光部により受光し、同受光部におけるX線の透過量の分布から前記ガラス中の金属粒子の状態を検出するので、前記ガラスを切断する必要がなく、小型の装置でかつ低コストでガラス中の金属粒子の状態を検出することができる。
【0014】
請求項2に記載のガラス中の金属粒子の状態検出方法は、前記金属粒子が白金族粒子であるときに、前記X線の強さが100〜200keVに設定されるものである。この強さは、白金族粒子からなる金属粒子を透過した部分の透過量と金属粒子を透過しない部分の透過量との比に基づいて、所謂可視化に最も適したものである。
請求項3に記載のガラス中の金属粒子の状態検出方法は、溶融状態にあるガラス中の金属粒子を検出するので、金属粒子の沈降速度を含む状態をリアルタイムに検出することができる。
【0015】
請求項4に記載のガラス中の金属粒子の状態検出方法は、ある時刻に前記X線検査装置により検出された金属粒子の状態と、その設定時間後に前記X線検査装置により検出された金属粒子の状態とを比較して、前記金属粒子の沈降速度を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1の全体を示す説明図である。
【図2】図1のタンマン管の、ガラスが溶融される前の状態を示す断面図である。
【図3】実施例1におけるX線のエネルギーの大きさと透過強度及び透過強度比の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例2の全体を示す説明図である。
【図5】実施例2におけるX線のエネルギーの大きさと透過強度及び透過強度比の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【実施例1】
【0018】
まず、本発明の実施例1を図1〜図3に従って説明する。図1は実施例1の全体を示す説明図、図2は図1のタンマン管14の、ガラスが溶融される前の状態を示す断面図、図3はX線のエネルギーの大きさと透過強度及び透過強度比の関係を示すグラフである。
本実施例におけるガラス中の金属粒子検出方法は、まず図1に示されるように、X線を対象物に照射するX線源である照射部2と、同対象物を透過したX線を受光する受光部4とを有するX線検査装置6を備えている。このX線検査装置6は、コントローラ8を介してコンピュータ10に接続されており、コンピュータ10からの指令により照射部2から照射されるX線を制御すると共に、受光部4での受光信号をコンピュータ10に伝えるように構成されている。そして、X線検査装置6の照射部2と受光部4との間には対象物としての加熱炉12が配置され、同加熱炉12内には、耐熱容器である円筒状のタンマン管14がセットされている。詳しくは図2に示されるように、タンマン管14において予め溶融固化されたガラス16の上面に、白金族粒子とガラス破砕物との混合物18を配置し、この状態でタンマン管14を加熱炉12内にセットする。なお、混合物18の周り及び上部にはさらにガラス破砕物が充填される。
【0019】
そして、タンマン管14を加熱炉12により加熱して、タンマン管14内のガラス16及びガラス破砕物を溶融させた状態で、X線検査装置6により、タンマン管14内のガラス中の白金族粒子の状態を検出する。すなわち、X線検査装置6の照射部2から照射されたX線が、加熱炉12の壁及びタンマン管10並びに同タンマン管10内の金属粒子を含むガラスを透過して受光部4に到達する。受光部4では、タンマン管10内のガラスにおける白金族粒子のある部分を透過した透過量と、金属粒子のない部分を透過した透過量の差により、同ガラス中の金属粒子の分布状態を検出することができる。
【0020】
X線検査装置6の照射部2から照射されるX線のエネルギーの大きさは、白金族粒子を透過した部分の透過強度と白金族粒子を透過しない部分の透過強度との比(透過強度比)に基づいて設定される。発明者の研究により得た、X線のエネルギーの大きさと、各部分の透過量、及び各部分の透過量の比(透過強度比)の関係を図3に示す。なお、この前提は、タンマン管10及び加熱炉12の耐火材をAL3O3、加熱炉12のケーシングをFe、ガラスをSiO2、白金族粒子をRuO2とし、タンマン管10及び加熱炉12、ケーシング、ガラス、白金族粒子の密度(g/cm3)をそれぞれ3.9、7.9、2.5、7.1とし、タンマン管10の肉厚を0.5cmとし、加熱炉12の耐火材の肉厚を6.5cm(ただし、空隙率は80%)とし、加熱炉12のケーシングの板厚は4枚で0.4cmとしている。また白金族粒子についてはクラスター径が0.4cmで粒径と粒子間隔が等しいとしている。
【0021】
この図3のグラフから明らかなように、照射されるX線のエネルギーが100keV未満では、X線がガラスをほとんど透過せず、逆に200keVを超えると、透過強度比が1に近づいてしまい、白金族粒子の有無を確認し難くなる。このことから、X線のエネルギーが100〜200keVであるときに、X線がガラスを十分に透過できると共に、透過強度比も概ね0.8以下となり、金属粒子の有無を確認するのに最適な値となる。
【0022】
またコンピュータ10は、X線検査装置6が或る時刻に検出したガラス中の金属粒子の分布状態と、その設定時間後にX線検査装置6が検出したガラス中の金属粒子の分布状態を比較し、該金属粒子の沈降速度を計算する。
以上より明らかなように、本実施例1に係るガラス中の金属粒子の状態検出方法によれば、タンマン管14と共にガラスを切断する必要がなく、小型な装置でかつ低コストでガラス中の金属粒子の状態を検出することができる。また、タンマン管14内において予め溶融固化されたガラスの上面に金属粒子及びガラス破砕物を配置し、加熱炉12によりタンマン管14と共に加熱して溶融された状態にあるガラスを、X線検査装置6により検出するので、実際の廃液処理における金属粒子を含んだ溶融ガラスと同じような状況の下で溶融ガラス中の金属粒子の状態をリアルタイムに検出することができる。特に加熱炉12によりガラスを所望の温度に維持したまま検出するので、より実際の廃液処理における溶融ガラスの状態に近づけることができる。またガラス中の金属粒子の沈降速度については、コンピュータ10が、X線検査装置6が或る時刻に検出したガラス中の金属粒子の分布状態と、その設定時間後にX線検査装置6が検出したガラス中の金属粒子の分布状態を比較し、計算して求められる。
【実施例2】
【0023】
次に、本発明の実施例2を図4及び図5に従って説明する。図4は実施例2の全体を示す説明図、図5は実施例2におけるX線のエネルギーの大きさと透過強度及び透過強度比の関係を示すグラフである。なお、上述の実施例1で用いたものと実質的に同じ部分には上記で用いたものと同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
この実施例2に係る検出方法は、まず実施例1の図2に示されるものとまったく同様に、タンマン管14において予め溶融固化されたガラス16の上面に、白金族粒子とガラス破砕物との混合物18を配置し、さらに混合物18の周り及び上部にはガラス破砕物を充填する。この状態でタンマン管14を加熱炉により加熱し、内部のガラスを溶融させる。この溶融状態で予め設定された温度で設定時間維持した後、タンマン管14を冷却して内部のガラスを固化させ、図4に示すように、X線検査装置6のX線部2と受光部4との間に、対象物としてタンマン管14を配置し、同X線検査装置6によりガラス中の金属粒子の分布状態の検出が実行される。
【0024】
さらに、同X線検査装置6による検出が終了した後、固化されているガラスをタンマン管14と共に再び加熱して溶融させる。そして、この溶融状態で予め設定された温度で設定時間維持した後、タンマン管14を再び冷却して内部のガラスを固化させ、再度、図4に示すように、X線検査装置6の照射部2と受光部4との間に、対象物としてタンマン管14を配置し、同X線検査装置6によりガラス中の金属粒子の分布状態の検出が実行される。
【0025】
そしてコンピュータ10は、先にX線検査装置6により検出されたガラス中の金属粒子の状態と、今回X線検査装置6により検出されたガラス中の金属粒子の状態とを比較して、ガラス中の金属粒子の沈降速度を算出する。
なお、この実施例2においても、X線検査装置6の照射部2から照射されるX線のエネルギーの大きさは、金属粒子を透過した部分の透過強度と金属粒子を透過しない部分の透過強度との差及び比(透過強度比)に基づいて設定される。発明者の研究により得た、X線のエネルギーの大きさと、各部分の透過量、及び各部分の透過量の比(透過光強度比)の関係を図5に示す。なお、この前提は、実施例1と同じあるが、当然加熱炉に関する数値は使用しない。
【0026】
この図5のグラフから明らかなように、実施例2においても、照射されるX線のエネルギーが100keV未満では、X線がガラスをほとんど透過せず、逆に200keVを超えると、透過強度比が1に近づいてしまい、白金族粒子の有無を確認し難くなる。このことから、X線のエネルギーが100〜200keVであるときに、X線がガラスを十分に透過できると共に、透過強度比も概ね0.8以下となり、金属粒子の有無を確認するのに最適な値となる。
【0027】
この実施例2に係る検出方法によれば、上述した実施例1と同様に、タンマン管14と共にガラスを切断する必要がなく、小型な装置でかつ低コストでガラス中の金属粒子の状態を検出することができる。また、検出時点ではガラスは固化されてはいるが、実際の廃液処理における溶融ガラス中の金属粒子の分布状態に近い金属粒子の分布状態を検出することができる。しかも、対象物を、タンマン管14内で固化されたガラスとしているので、高温の加熱炉12と共に検出する実施例1の検出方法よりは、温度環境的に容易に検出することができ、またX線が加熱炉を介することなくタンマン管12を透過するので、透過率も増大したものを得ることができる。またガラス中の金属粒子の沈降速度については、コンピュータ10が、X線検査装置6が先に検出したガラス中の金属粒子の分布状態と、その次にX線検査装置6が検出したガラス中の金属粒子の分布状態を比較し、計算して求められる。
【0028】
以上で実施例の説明を終えるが、本発明はこれら実施例に限らす、種々の変形が可能である。例えば、実施例2において、X線検査装置6による2回目の検出が終了した後に、固化されているガラスをタンマン管14と共に再び加熱して溶融させ、この溶融状態で予め設定された温度で設定時間維持した後、タンマン管14を再び冷却して内部のガラスを固化させ、再度、X線検査装置6のX線部2と受光部4との間に、対象物としてカンマン管14を配置し、同X線検査装置6によりガラス中の金属粒子の分布状態の検出を実行するように構成することができる。
【符号の説明】
【0029】
2 照射部
4 受光部
6 X線検査装置
12 加熱炉
14 タンマン管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を対象物に照射する照射部と、前記対象物を透過したX線を受光する受光部とを有するX線検査装置を備え、
前記照射部と受光部との間に前記対象物として金属粒子を含んだガラスを配置し、
前記照射部から前記ガラスにX線を照射し、同ガラスを透過したX線を前記受光部により受光し、
同受光部におけるX線の透過量の分布から前記ガラス中の金属粒子の状態を検出することを特徴とするガラス中の金属粒子の状態検出方法。
【請求項2】
前記金属粒子が白金族粒子であって、
前記X線のエネルギーの強さが、100〜200keVに設定されることを特徴とする請求項1記載のガラス中の金属粒子の状態検出方法。
【請求項3】
前記対象物としての金属粒子を含んだガラスは、容器内で溶融状態にあることを特徴とする請求項1記載のガラス中の金属粒子の状態検出方法。
【請求項4】
ある時刻に前記X線検査装置により検出された金属粒子の状態と、その設定時間後に前記X線検査装置により検出された金属粒子の状態とを比較して、前記金属粒子の沈降速度を算出することを特徴とする請求項3記載のガラス中の金属粒子の状態検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−175277(P2010−175277A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15404(P2009−15404)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】