説明

ガラス基板成形装置およびガラス基板成形方法

【課題】比較的大面積のガラス基板に、微細な凹凸形状を効率良く行うプレス成形方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板Wを加熱して、ガラス基板Wに微細な凹凸形状をプレス成形するガラス基板成形装置1において、ガラス基板Wに転写される微細な凹凸形状と反対の微細な凹凸形状を有する円筒状の成形ロール3を、ガラス基板Wに押し付けながら回転移動させることにより、微細な凹凸形状付ガラス基板Wを成形するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板成形装置およびガラス基板成形方法に係り、特に、表面に微細な凹凸パターンが施されたガラス基板を製造するガラス基板成形装置およびガラス基板成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微細構造を持つガラス基板を製造する場合、半導体製造技術に代表されるフォトリソグラフィー等の技術を応用することにより製造しているが、製造工程が多数有り、また設備費用が膨大になり、安価な部品を民生部品として大量生産するには、大きな障害となっている。
【0003】
無反射機能に限定すれば、反射防止膜を、真空蒸着装置等で光学レンズやフィルター基板に成膜している。しかし、反射防止膜は何層にもわたって成膜する必要が有り、また真空蒸着装置等も高価であること等により、生産効率が低いこと等が問題として挙げられる。また、反射防止膜ではその反射率に限界があるという問題がある。
【0004】
上記従来技術の問題点を解決する手段として、上下一対の金型間にガラス素材を挟み、ガラス素材および金型を加熱・プレス成形することにより製造する方式が知られている(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
上記従来のプレス成形で用いる金型は、基本的には平面形状(場合によっては、所望の曲率を持っていても構わない)で、プレスされるガラス基板の成形面に対して垂直方向からプレス力を付加させる機構・構造になっている。
【0006】
この加熱・プレス成形する製造方式は、デジタルスチルカメラ等のガラス製非球面レンズ形状をモールド成形する技術を応用した技術である。この成形方法の場合、成形する金型と成形されるガラス素材を、可能な限り同一温度で加熱・冷却して成形することにより、成形品の熱膨脹・熱収縮の影響を排除して、金型に施された形状を忠実にガラス基板に転写させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−137835号公報
【特許文献2】特開2008−137836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記従来の成形方式では、金型・ガラス素材を加熱・冷却する工程に多くの時間を要する為、生産性が悪いという問題がある。
【0009】
また、ガラス基板の面積が大きくなると、プレス力・プレス時間の増大、転写率悪化、成形後の離型性悪化等の様々な問題が発生する。
【0010】
実用的には、φ5〜φ10程度の小面積サイズの適用までが現実的であり、より大きなサイズの大面積一括転写には適さない。
【0011】
なお、偏光分離素子や無反射構造素子の材料は、ガラス材料に限らずプラスチック材料などでも転用可能であり、ガラス材料に比べて軽量で、且つ比較的安価に製造される。但し、プラスチックでは、屈折率等の光学特性が限定され、経時変化や熱などの耐久性などに問題がある為、光学特性や耐久性等を重視される場合には、ガラス製の素子の供給が望まれている。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、比較的大面積のガラス基板に、微細な凹凸形状をプレス成形することを効率良く行うことができるガラス基板成形装置およびガラス基板成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、ガラス基板を加熱して、前記ガラス基板に微細な凹凸形状をプレス成形するガラス基板成形装置において、前記ガラス基板に転写される微細な凹凸形状と反対の微細な凹凸形状を有する円筒状の成形ロールを、前記ガラス基板に押し付けながら回転移動させることにより、微細な凹凸形状付ガラス基板を成形するように構成されているガラス基板成形装置である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のガラス基板成形装置において、前記ガラス基板が設置される積載ステージと、前記積載ステージを所定の温度に加熱することにより、前記積載ステージに設置されているガラス基板を加熱するステージ用ヒータとを有するガラス基板成形装置である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のガラス基板成形装置において、前記ステージ用ヒータは、前記積載ステージの内部に配置された複数本のロッドヒータ、前記積載ステージの内部に配置された複数本の赤外線ランプの少なくともいずれかで構成されており、複数本の温度測定素子を前記積載ステージに埋め込み、前記各温度測定素子が測定した温度に応じて、前記ステージ用ヒータの発熱量を制御し、前記積載ステージの複数エリアの温度をゾーン制御するように構成されているガラス基板成形装置である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のガラス基板成形装置において、前記成形ロールを所定の温度に加熱する成形ロール用ヒータを有するガラス基板成形装置である。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のガラス基板成形装置において、前記成形ロール用ヒータは、前記成形ロールの内側で前記成形ロールの軸に沿って配置された赤外線ランプ、前記成形ロールの内側で前記成形ロールの軸に沿って配置されたロッドヒータの少なくともいずれかで構成されており、放射温度計を用いて、前記成形ロールの微細な凹凸形状が形成されている面の温度を測定し、前記放射温度計が測定した温度に応じて、前記成形ロール用ヒータの発熱量を制御し、前記成形ロールの微細な凹凸形状が形成されている面の温度を制御するように構成されているガラス基板成形装置である。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のガラス基板成形装置において、前記成形ロールと前記ガラス基板とを内部に包含することができるチャンバーを有し、前記チャンバー内を、真空にしまたは不活性ガスに置換することが可能なように構成されているガラス基板成形装置である。
【0019】
請求項7に記載の発明は、ガラス基板を加熱して、前記ガラス基板に微細な凹凸形状をプレス成形するガラス基板成形方法において、前記ガラス基板に転写される微細な凹凸形状と反対の微細な凹凸形状を有する円筒状の成形ロールを、前記ガラス基板に押し付けながら回転移動させることにより、微細な凹凸形状付ガラス基板を成形するガラス基板成形方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、比較的大面積のガラス基板に、微細な凹凸形状をプレス成形することを効率良く行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るガラス基板成形装置1の概略構成を示す図である。
【図2】成形ロール3が設けられている部位の概略構成を示す斜視図である。
【図3】成形ロール部の概略構成を示す平面図である。
【図4】図3におけるIV−IV断面を示す図である。
【図5】積載ステージ5の斜視図である。
【図6】ロッドヒータ17の概略構成を示す図である。
【図7】積載ステージ5の平面図である。
【図8】積載ステージ5の側面図である。
【図9】成形ロール3と積載ステージ5とを示した図である。
【図10】積載ステージ5のワークオサエ87を示す図である。
【図11】ガラス基板成形装置1にて得られたガラス成形品を示す斜視図である。
【図12】チャンバー29にワーク搬出入の為のロードロック室(前室89、後室91)とゲートバルブ93,95とを設けた構成を示す図である。
【図13】校正用熱電対69の設置状態を示す図であり、図4におけるXIII部の拡大図である。
【図14】成形ロール3の設置状態の変形例を示す図であり、図4に対応した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係るガラス基板成形装置1の概略構成を示す図である。
【0023】
なお、以下説明の便宜のために、水平方向の一方向をX軸方向とし、水平方向の他の一方向であってX軸方向に直交する方向をY軸方向とし、鉛直方向をZ軸方向とする。
【0024】
ガラス基板成形装置(ロール成形装置)1は、たとえば平板状等の板状のガラス基板Wを所定の温度に予め加熱して軟化させ、この軟化したガラス基板W上(たとえば、ガラス基板Wの厚方向の一方の面;図1ではガラス基板Wの上面)に、微細な凹凸形状(凹凸パターン)をプレス成形する装置である。
【0025】
また、ガラス基板成形装置1は、ガラス基板W上に転写される微細な凹凸形状と反対の(逆形態の)微細な凹凸形状を有する円筒状の成形ロール3を、ガラス基板W上に所定の力で押し付けながら、成形ロール3を、ガラス基板Wに対して相対的に回転移動させることにより、所望の微細な凹凸形状付ガラス基板Wを成形するように構成されている。
【0026】
すなわち、微細な凹凸形状と反対の微細な凹凸形状(逆の微細な凹凸形状)は、成形ロールの円柱側面状の外周に形成されている。そして、成形ロール3の円柱側面状の外周がガラス基板Wの厚さ方向の一方の面に接触(ほぼ線接触)し、成形ロール3がガラス基板Wに対してころがり接触をなして移動することにより、微細な凹凸形状付ガラス基板Wを成形するように構成されている。
【0027】
なお、微細な凹凸形状付ガラス基板Wは、光の波長レベル(すなわち、サブミクロンからナノメータレベル)の微細形状を形成することにより、屈折率異方性を利用した偏光分離素子や、無反射構造素子として応用可能である。具体的には、微細な凹凸形状付ガラス基板Wは、DVD等の信号ピックアップ光学系の異なる波長の偏光分離や、デジタルスチルカメラに代表される撮像光学系の無反射フィルター等に応用される。
【0028】
また、ガラス基板成形装置1には、ガラス基板Wがたとえば積載されて設置される積載ステージ5と、ステージ用ヒータ7とが設けられている。ステージ用ヒータ7は、積載ステージ5の内部に埋め込まれて設けられている。そして、ステージ用ヒータ7で積載ステージ5(積載ステージ5自身)を所定の温度に加熱することにより、積載ステージ5に設置されているガラス基板Wを、成形ロール3によるプレス成形が可能な所定の温度まで加熱するようになっている。
【0029】
積載ステージ5は、成形ロール3の軸(中心軸)C1と垂直方向で移動可能になっている。たとえば、成形ロール3の軸は、水平方向(Y軸方向)に延びており、積載ステージ5は、水平方向であって成形ロールの軸と直交する方向(X軸方向)に移動自在になっている。
【0030】
さらに説明すると、成形ロール3は、成形ロール支持体9に回転自在に設けられており、軸C1を中心して回転するようになっている。成形ロール支持体9は、プレス用ロードセル11を介して上軸構成部材13に支持されている。また、成形ロール支持体9は、図4で示すように、ボルトBTにより、ロードセル11の下部でロードセル11に着脱自在に設けられている。積載ステージ5は、フレーム15にX軸方向で移動自在に設けられている。これにより、成形ロール3が積載ステージ5に設置されたガラス基板Wに対して相対的にころがり接触をなして移動するようになっている。
【0031】
なお、上軸構成部材13は、フレーム15に対して鉛直方向(Z軸方向)で移動自在になっている。また、積載ステージ5の上方に成形ロール3が位置しており、積載ステージ5上に載置されたガラス基板(厚さ方向がZ軸方向になり幅方向がY軸方向になり長手方向がX軸方向になるように設置されたガラス基板)Wの上面に、成形ロール3から微細な凹凸形状が転写されて、ガラス基板Wの成形がなされるようになっている。
【0032】
ところで、積載ステージ5をX軸方向で移動自在にする代わりに、積載ステージ5をフレーム15に一体的に設け、上軸構成部材13が、フレーム15に対してZ軸方向およびX軸方向で移動自在になっている等の構成であってもよい。
【0033】
ステージ用ヒータ7は、積載ステージ5の内部に配置された複数本のロッドヒータ17で構成されているが、ロッドヒータ17に代えてもしくは加えて、赤外線ランプ等でステージ用ヒータ7を構成してもよい。
【0034】
ガラス基板成形装置1には、複数本の温度測定素子(たとえば熱電対)19が設けられており、制御装置21の制御の下、各温度測定素子19が測定した積載ステージ5の内部の温度に応じて、ステージ用ヒータ7の発熱量を制御(フィードバック制御)し、積載ステージ5の複数エリアの温度をゾーン制御するように構成されている。なお、複数本の温度測定素子19は積載ステージ5の内部に埋め込まれている。
【0035】
また、ガラス基板成形装置1には、成形ロール3(成形ロール3自身)を所定の温度に加熱する成形ロール用ヒータ23が設けられている。成形ロール用ヒータ23は、成形ロール3の内部に設けられている。成形ロール用ヒータ23は、たとえば、成形ロール3の内側で成形ロール3の軸C1に沿って配置された細長い円柱状の赤外線ランプ25で構成されているが、赤外線ランプ25の代わりに、ロッドヒータ等で成形ロール用ヒータ23を構成してもよい。
【0036】
そして、制御装置21の制御の下、放射温度計27を用いて、成形ロール3の微細な凹凸形状が形成されている面(円柱側面状の外周面)の温度を測定し、放射温度計27が測定した温度に応じて、成形ロール用ヒータ23の発熱量を制御(フィードバック制御)し、成形ロール3の微細な凹凸形状が形成されている面の温度を制御するように構成されている。
【0037】
また、ガラス基板成形装置1には、少なくとも成形ロール3とガラス基板Wとを内部に包含することができる(位置させることができる)成形チャンバー29が設けられている。
【0038】
そして、成形チャンバー29内を、真空にしまたは不活性ガス(たとえば、Nガス、アルゴン等の希ガス、COガスの少なくともいずれかのガス)に置換することが可能なように構成されている。
【0039】
ロードセル11は、成形ロール3のガラス基板Wへの押し付け力(プレス力)を測定する押し付け力測定手段の例であり、制御装置21の制御の下、ロードセル11の測定結果に応じて前記押し付け力がほぼ一定になるような制御(フィードバック制御)をしつつ、微細細な凹凸形状付ガラス基板Wを成形するように構成されている。
【0040】
さらに説明すると、ガラス基板成形装置1には、積載ステージ5をX軸方向で移動自在な(移動位置決め自在な)ステージ移動手段31と、成形ロール3をZ軸方向で移動自在な(移動位置決め自在な)成形ロール移動手段33とが設けられている。
【0041】
ステージ移動手段31は、たとえば、ステッピングモータ35等のアクチュエータとボールネジ37とを備えて構成されている。そして、リニアガイドベアリング39を介してフレーム15に移動自在に設けられている積載ステージ5が、ステッピングモータ35によって回転駆動されるボールネジ37によって移動するようになっている。なお、ステッピングモータ35の回転出力軸とボールネジ37とは、タイミングベルト41を介して連結されているが、タイミングベルトに代えてもしくは加えてギヤ等の動力伝達部材を介して、ステッピングモータ35の回転出力軸とボールネジ37とが連結されていてもよい。
【0042】
成形ロール移動手段33は、たとえば、サーボモータ(プレス用モータ)等のアクチュエータ43と、ボールネジ45とを備えて構成されている。そして、リニアガイドベアリング47を介してフレーム15に移動自在に設けられている上軸構成部材13が、サーボモータ43によって回転駆動されるボールネジ45によって移動位置決めされるようになっている。
【0043】
さらに、成形ロール支持体9は、ロードセル11を間にして上軸構成部材13に設けられている。そして、制御装置21の制御の下、ロードセル11で測定した押圧力(ガラス基板Wに微細な凹凸形状を転写すべく成形ロール3でガラス基板Wを押圧するときの押圧力)が一定になるように、サーボモータ43を制御するようになっている。また、ガラス基板成形装置1では、微細な凹凸形状付ガラス基板Wを成形する場合、成形ロール3に対してガラス基板Wが所定の移動速度で移動するように構成されている。
【0044】
また、ガラス基板成形装置1には、成形ロール3を、軸C1を中心にして回転(自転)させる成形ロール回転手段49が設けられている。成形ロール回転手段49は、ステッピングモータ51等のアクチュエータを備えて構成されている。そして、成形ロール3が、ステッピングモータ51によって回転駆動されるようになっている。
【0045】
なお、ステッピングモータ51の回転出力軸と成形ロール3とは、ギヤ53(図4参照)等を介して連結されているが、ギヤに代えてもしくは加えてタイミングベルト等の動力伝達部材を介して、ステッピングモータ51の回転出力軸と成形ロール3とが連結されていてもよい。
【0046】
成形ロール回転手段49が設けられていることにより、転写の際、制御装置21の制御の下、積載ステージ5の動きに対して成形ロール3を所定の回転数で同期回転させることができるようになっている。すなわち、ガラス基板W(積載ステージ5)の移動速度と、成形ロール3の外周の周速度とをお互いに等しくすることができるようになっている。
【0047】
なお、成形ロール3を成形ロール回転手段49で回転させることなく、成形ロール3をガラス基板Wに押付けた状態で、積載ステージ5の動作(移動)にしたがって、成形ロール3がフリーに回転する構成であってもよい。
【0048】
ガラス基板成形装置1についてさらに詳しく説明する。
【0049】
<成形チャンバー29について>
成形チャンバ−29は、フレーム15に支持されて設けられている。成形チャンバー29には、Nガス供給装置52と真空ポンプ55とが連結されており、成形チャンバー29の内部を、真空ポンプ55とNガス供給装置52とによりNガスに置換することも、真空ポンプ55により真空にすることも可能な構造となっている。
【0050】
また、成形チャンバー29は、上側成形チャンバー(上部チャンバー)29Aと下側成形チャンバー(下部チャンバー)29Bとで構成されており、上下に分割することが可能な構造となっており、フレーム15の上部に設けられたチャンバー昇降シリンダ57等アクチュエータを用いて、上部チャンバー29Aのみ上昇させることにより、成形チャンバー29を開閉することが可能な構造となっている。上部チャンバー29Aを上昇させてチャンバー29を開くことにより、ガラス基板Wの搬出入や内部機器のメンテナンス(成形ロール3の交換作業など)を行うことができるようになっている。
【0051】
<成形ロール3のプレス機構について>
上部チャンバー29Aには上軸構成部材13が挿入されている。上部チャンバー29Aの内部に挿入された上軸構成部材13の下端に、成形ロール3の押付力検知用ロードセル11と、成形ロール3や成形ロール支持体9を備えて構成されている成形ロールユニットとが連結されている。
【0052】
上軸構成部材13の上端側は、フレーム15に設けられたプレス用リニアガイドベアリング47、プレス用ボールネジ45、プレス用サーボモータ43がそれぞれに連結されており、プレス用サーボモータ43を回転制御することにより、上軸構成部材13(成形ロール3)が上下動することが可能な構造となっている。
【0053】
なお、本実施例では、サーボモータ43とボールネジ45による機構で、成形ロール3の上下動を行っているが、リニアモータ等の別の駆動手段であっても構わない。
【0054】
上部チャンバー29Aに挿入される上軸構成部材13に対するシール構造は、たとえば円筒状の溶接ベローズ59にてシールしている。但し、溶接ベローズ59に限らず、Oリング等のシール構造でも可能であるが、Oリング等によるシール構造の場合、上軸構成部材13の移動の際に摺動抵抗等の発生要因となる為、成形ロール3のプレスカを正確に管理・制御する為には、溶接ベローズ59を用いた構造であることが望ましい。
【0055】
上軸構成部材13の上下方向の駆動は、予め設定された速度・位置に向かってサーボモータ43を速度制御するが、ガラス基板Wに成形ロール3が接触すると、成形ロール3と上軸構成部材13の間に配置されたロードセル11によりプレスカが検知され、予め設定されたプレスカとなるようにサーボモータ43をプレス力制御に切り替えることが可能な構成になっている。
【0056】
なお、ロードセル11はチャンバー29の内部に配置されているが、チャンバー29の外(例えば、上軸構成部材13とボールネジ45のナット45Aとの間)に配置してもよい。但し、チャンバー29の外にロードセル11を配置すると、チャンバー29内を真空にした場合、上軸構成部材13が大気圧に押される力や、プレス用ガイド部(リニアガイドベアリング47)や真空シール部の摺動抵抗等も合せて検知されてしまうため、微細なプレスカを正確に管理・制御する場合は、ロードセル11を図1で示す配置のように、チャンバー29内に配置することが望ましい。
【0057】
また、図示していないが、プレス用リニアガイドベアリング47の付近等に、リニアスケールを配置することによりプレス軸方向(Z軸方向)の成形ロール3の位置制御を正確に管理・制御すること等を行ってもよい。
【0058】
<成形ロール3の加熱について>
図2は、成形ロール3が設けられている部位(成形ロール部)の概略構成を示す斜視図であり、図3は、成形ロール3が設けられている部位の概略構成を示す平面図であり、図4は、図3におけるIV−IV断面を示す図である。
【0059】
成形ロール3は、円筒状に形成されて中空構造となっており、中空穴内部に赤外線ランプ25が配置されている。なお、実施例では、赤外線ランプ25を使用しているが、ロッドヒータ(シースヒータ)や高周波誘導加熱等の別の加熱手段であっても構わない。
【0060】
成形ロール3は、両側面をセラミック製で円筒状の断熱軸部材61で挟み込まれ、両サイドを支持する転がり軸受け63に挿入される円筒状の軸部材(各断熱軸部材61の両側に設けられている軸部材)65にボルト67で連結されている。すなわち、Y軸方向で、一方の軸部材65、一方の断熱軸部材61、成形ロール3、他方の断熱軸部材61、他方の軸部材65の順に並んで、各軸部材65、各断熱軸部材61、成形ロール3が一体になって、全体として円筒状に形成されている。
【0061】
セラミック製の断熱軸部材61として、熱伝導率の低い、窒化珪素を用いてあるが、同様な目的を満たす材料であれば、特に材料を限定するものではない。
【0062】
赤外線ランプ25を用いて、成形ロール3の内部から加熱を行うようになっている。本実施例では650℃程度まで昇温するようにしているが、能力的には800℃〜1500℃程度まで昇温することも可能なようになっている。
【0063】
成形ロール3の中心軸C1から赤外線ランプ25で加熱することにより、成形ロール3の同心円上の均一加熱が可能となる。すなわち、成形ロール3の表面の成形面における温度ムラが全周にわたり±1℃以内になるように、成形ロール3を加熱することが可能になる。
【0064】
成形ロール3の温度測定(測温)は、放射温度計27によりされるようになっている。そして、測温された温度をフィードバックして赤外線ランプ25の出力を制御することにより、成形ロール3を予め設定された温度に制御することができるようになっている。
【0065】
なお、放射温度計27で測温する場合、成形ロール3の材質により放射率が異なる為、放射温度計27に放射率等を設定する必要がある。ガラス基板成形装置1では、図13で示すように、上軸構成部材13の中心部より校正用熱電対(TypeK)69を挿入し、成形ロール3に突き当てることにより成形ロール3の表面を測温して、放射温度計27の実測値との誤差を修正している。また、ガラス基板成形装置1では、超硬製の成形ロール3を使用しているが、たとえばステンレス鋼等の材料に変更した場合は、別途同様な校正作業が必要となる。
【0066】
校正用熱電対69を挿入した状態で成形ロール3を回転させると、熱電対69の先端が成形ロール3の表面上を滑って、成形ロール3の表面を傷つけることになるので、校正作業中は成形ロール3の回転を停止させておく必要がある。従って、実際のガラス基板Wの成形動作中は、校正用熱電対69は、成形ロール3に接触しない位置まで退避しておく必要がある。
【0067】
さらに説明すると、成形ロール支持体9には、軸C2を中心とした円柱状の孔71が、成形ロール支持体9の下端部から上方向かって形成されている。孔71の内部に校正用熱電対69が設けられている。校正用熱電対69が、図13(a)で示す位置(成形ロール3から上方に離れている位置)と、図13(b)で示す位置(成形ロール3に接触している位置)との間で移動するようになっている。なお、軸C2は、成形ロール3の回転中心軸C1と直交してZ軸方向に延びている軸である。これにより、成形ロール3の真上に孔71が設けられてり、校正用熱電対69が成形ロール3の真上(成形ロール3の中心の真上)に位置していることになる。
【0068】
なお、ガラス基板成形装置1では、成形ロール3の測温に放射温度計を用いているが、成形ロール3内に熱電対を埋め込み、成形ロール3の回転に対応するスリップリング電流端子等を経由して、測温をしてもよい。
【0069】
ガラス基板Wの成形が完了した後チャンバー29を開く前に、成形ロール3を、大気中における非酸化温度(約200℃程度)まで冷却する必要がある為、図3に示すように窒素噴出ノズル73を設けて、冷却工程における成形ロール3の空冷が出来る構造としてある。
【0070】
<成形ロール3の回転について>
成形ロール3の回転支持は、ベアリング63を用いてされているが、真空環境下で且つ高温環境下に配置されるため、固体潤滑方式の耐熱真空対応の特殊ベアリングを使用してある。また、ベアリング63の周辺に水冷ジャケット75を設けて、ベアリング63の温度上昇を抑制できるようになっている。
【0071】
また、成形ロール3の一方の側に、図4で示すように、成形ロール回転用ギヤ53とステッピングモータ51とを配置することにより、成形ロール3を回転させるようにしてある。ステッピングモータ51も、高温・真空環境下に配置される為、真空対応可能な特殊機器を採用してある。また熱対策のため、水冷ジャケット内にモータを収納してある。
【0072】
成形ロール3の回転はステッピングモータ51により、予め設定された任意の回転速度で制御することが可能である。また、積載ステージ5の移動速度に合せて(同期)させて、成形ロール3の回転速度を制御することも可能である。
【0073】
なお、ステッピングモータ51の駆動源を用いず(フリーな状態)、成形ロールプレスによる積載ステージ5との摩擦力による駆動も可能とする。この場合、ステッピングモータ51ヘの励磁を切るか、ステッピングモータ51の回転出力軸(モータ軸)とギヤとの間にクラッチ機構などを設けてもよい。
【0074】
成形ロール3の材質は、加熱の際の熱伝導率を考慮して、比較的熱伝導率の高い超硬やタングステン合金を用いてある。但し必要に応じて、ステンレス等の成形ロールを用いても構わない。
【0075】
なお、ガラス基板Wに接触する成形ロール3の円柱側面状の成形面は、高温のガラスが接触しても融着反応をしないようにする為、貴金属系のコーティングやDJCコーティング(ダイヤモンドライクカーボン)等の離型膜を施してあることが望ましい。また、図3や図4で示す参照符号70は、ステッピングモータ51等のバランスウェイトである。
【0076】
さらに、図14で示すように、成形ロール3を、ボルト67を用いて各断熱軸部材61と各軸部材65とで挟み込む場合、ボルト67を介して成形ロール3の熱が各軸部材65に伝わることを防止するためのカラー68を設けてあってもよい。なお、カラー68は、断熱軸部材61と同様な材質で構成されているものとする。
【0077】
<積載ステージ5の移動について>
図5〜図10で積載ステージ5の詳細について示す。図5は、積載ステージ5の斜視図であり、図6は、ロッドヒータ17の概略構成を示す図である。図7は、積載ステージ5の平面図であり、図8は、積載ステージ5の側面図であり、図9は、成形ロール3と積載ステージ5とを示した図であり、図10は、積載ステージ5のワークオサエ87を示す図である。
【0078】
積載ステージ5は、チャンバー29内の下部に配置されるリニアガイドベアリング39を介してフレーム15に支持されており、積載ステージ5は、成形ロール3の軸C1に対して垂直方向(X軸方向)で移動可能となっている。
【0079】
積載ステージ5の移動は、積載ステージ5に連結されるボールネジ37とステッピングモータ35により駆動される。ボールネジ37はチャンバー29内に配置されている。チャンバー29には、ボールネジ37を回転自在に支持する回転軸支持部材77が設けられており、チャンバー29の気密性を確保するために(シール性を維持するために)、回転軸支持部材77には磁性流体シールが設けられている。
【0080】
積載ステージ5の移動は、予め設定された移動速度にてステッピングモータ35を制御することにより、任意の移動速度で駆動することが可能になっている。
【0081】
<積載ステージ5の加熱について>
積載ステージ5は、リニアガイドベアリング39上にSUS製水冷板(内部に水冷機構のあるSUS製水冷板)79を設け、その上にセラミック製の断熱板81を設け、その上に6本のヒータ17を挿入したヒータブロック83を設け、その上に、タングステン合金製のダイプレート85を設け、その水平面状の上面にガラス基板Wを載せる構成としてある。
【0082】
ガラス基板Wの両サイドには、ワークオサエと呼ぶプレート87が配置されており、このプレート87でガラス基板Wを保持することによって、ガラス基板Wが成形される際に浮き上がったり、移動したりしないように押え付けるようになっている。ワークオサエは、プレート87により、ガラス基板Wの幅方向の両端部を押さえてなされるようになっている。
【0083】
なお、断熱板81、ヒータブロック83、ダイプレート85等の配置は、必ずしも上記に限定されるものではなく、例えば、ヒータブロック83上にガラス基板Wを直接設置する等の構成であってもよい。
【0084】
セラミック製の断熱板81は、特に熱伝導率の低い材料として、窒化珪素を用いてある。ヒータブロック83は、特に熱伝導率が高く、比熱容量の少ない材料として、炭化珪素を用いてある。
【0085】
ダイプレート85とワークオサエ87は、熱伝導率等が高い材料として、タングステン合金を用いてある。なお、ダイプレート85とワークオサエ87の接触面(ガラス基板Wとの接触面)は、高温のガラス基板Wが接触しても融着反応をしないようにする為、貴金属系のコーティングやDLC(ダイヤモンドライクカーボン)等の離型膜を施してあることが望ましい。
【0086】
積載ステージ5のヒータブロック83に挿入するロッドヒータ17は、図6で示すように3つのゾーンZ1,Z2,Z3でヒータ17の出力を分けており、積載ステージ5の短手方向(ヒータ17の挿入方向;Y軸方向)の均一加熱化を計っている。
【0087】
積載ステージ5の長手方向(X軸方向)では、図7で示すようにヒータ17がほぼ等間隔に離れて6本挿入されている。そして、対応する2本のヒータ17毎に、それぞれゾーン制御を行い(各ゾーンZ4,Z5,Z6毎の温度制御を行い)、積載ステージ5の均一加熱をするようになっている。
【0088】
より詳しく説明すると、ヒータ17の細長い発熱部がY軸方向に延びるようにして、ヒータ17がヒータブロック83内に埋め込まれて設けられている。また、各ヒータ17は、Z軸方向では同じ高さに位置しており、X軸方向では、所定の間隔をあけて設けられている。また、お互いが隣接する2つのヒータ17の間であってヒータブロック83の内部には、熱電対(ゾーンZ5とゾーンZ6とに設けられている熱電対)19が設けられている。熱電対19は、各ヒータ17の間のそれぞれ設けられているのではなく、各ヒータ17の間で1つおきに設けられている。そして、各熱電対19が測定した温度に応じて、各熱電対19に対向している2つの各ヒータ17の出力をそれぞれ制御して、積載ステージ5の温度を制御するようになっている。
【0089】
具体的には、図7でゾーンZ4に設けられている熱電対19が測定した温度が、他の2つの熱電対19が測定した温度よりも低い場合には、ゾーンZ4の2つのヒータ17(最も左側のヒータ17と左から2番目のヒータ17)の出力を上げるようになっている。
【0090】
この構造により、積載ステージ5のガラス基板Wの積載面の温度分布は±1℃以内に加熱されるようになっている。
【0091】
ガラス基板成形装置1では、600℃程度まで積載ステージ5の加熱を行ったが、能力的には800℃〜1500℃程度まで昇温することは可能である。ロッドヒータ17の出力分布や、挿入本数、熱電対19による測温点数などは、成形されるガラス基板Wのサイズによって、同様な目的を逸脱しない範囲で変更してもよい。
【0092】
成形されるガラス基板Wは、積載ステージ5を加熱することにより熱伝導により加熱され、所定の成形温度まで加熱される。
【0093】
成形が完了した後チャンバー29を開く前に、積載ステージ5を、大気中における非酸化温度(約200℃程度)まで冷却する必要がある為、積載ステージ5の内部に設けた冷却溝に窒素ガスを流して積載ステージ5を冷却するようになっている。図8に矢印A1で冷却用窒素ガスの流れを示す。この場合、チャンバー29内における窒素ガスの圧力が上昇し過ぎることを防止するために、チャンバ−29内にリリーフバルブ(図示せず)が設けられている。
【0094】
ガラス基板成形装置1では、セラミック製の断熱板81とヒータブロック83の接触界面に、窒素ガス等の冷媒を流すための幅4mm、深さ0.5mmの冷却溝を複数本設けている。但し、冷却溝の形状や数量は、同様な目的を逸脱しない範囲で変更してもよい。
【0095】
<成形プロセスについて>
次に、ガラス基板成形装置1を用いて実際にガラス基板Wを成形した成形実施例について示す。
【0096】
以下に、成形はじめから成形終了までの一連の動作について記述する。
【0097】
ステップS1
ガラス基板成形装置1を初期状態にセットする。
【0098】
ガラス基板成形装置1の初期状態とは、以下の状態を示す。
【0099】
(1)上部チャンバー29Aを上昇させ、チャンバー29を大気中に開放してある。(2)成形ロール3を上昇端に移動してある。(3)成形ロール3の回転は停止してある。(4)成形ロール3のヒータ(赤外線ランプ25)はOFFしてある。(5)積載ステージ5を、予熱位置(図1では右端)へ移動してある。(6)積載ステージ5のヒータ17はOFFしてある。
【0100】
ステップS2
成形されるガラス素材(ガラス基板)Wを積載ステージ5にセットする。なお、ガラス素材としてたとえば、以下のガラス素材を使用する。(1)メーカ:株式会社オハラ (2)硝材名:L-BSL7 (3)屈折率nd:1.51633 (4)アツベ数γd:64.1 (5)歪点:Stp:532℃ (6)徐冷点AP:563℃ (7)転移点Tg:576℃ (8)屈服点At:625℃ (9)軟化点SP:718℃ (10)線膨張係数α:86×10−7/℃ (11)サイズ:100mm×30mm×t3mm。
【0101】
ステップS3
ガラス基板成形装置1の自動シーケンスを開始する。以下に、制御装置21によるガラス基板成形装置1の自動シーケンスの動作順序を示す。
【0102】
ステップS4
上部チャンバー29Aを下降して、チャンバー29内を密閉する。
【0103】
ステップS5
真空ポンプ55のバルブを開いて、チャンバー29内を所定の真空度まで真空引きする。たとえば、0.5Paまで真空引きする。
【0104】
ステップS6
上記真空バルブを閉じた後、窒素ガス(Nガス)を入れて、チャンバー29内を窒素雰囲気にする。なお、ガラス基板成形装置1では、窒素ガスを入れることにより、チャンバー29内の圧力を101325Pa(大気圧)とした。
【0105】
ステップS7
成形ロール3の加熱用赤外線ランプ25と、積載ステージ5の加熱用ロッドヒータ17とをONして、成形ロール3および積載ステージ5の加熱を開始する。同時に、成形ロール3の均一加熱化を計る為、成形ロール3を10rev/minで回転する。なお、ガラス基板成形装置1では、各部の所定温度を次のように設定した。(1)成形ロール3:640℃、(2)積載ステージ5:610℃(3ゾーン共同一設定)。なお、設定温度へのヒータ17ヘの出力調整は、温度調節器および電力調整器(サイリスタレギュレータ)にて自動的にコントロールされる。
【0106】
ステップS8
成形ロール3および積載ステージ5の温度が所定温度に到達した後、真空ポンプ55の真空バルブを開いて、所定の真空度まで真空引きする。たとえば、0.5Pa以下まで真空引きを行った。
【0107】
ステップS9
積載ステージ5を成形ロール3の下部の所定位置まで高速移動する。
【0108】
ステップS10
成形ロール3の回転を一旦止めた後、成形ロール3を下降させ、ガラス基板Wに所定の圧力で押付ける。たとえば、プレスカを20N(ニュートン)にてプレスした。
【0109】
ステップS11
成形ロール3を所定プレスカに達すると同時に、積載ステージ5を所定の速度で移動させ、同時に積載ステージ5の移動速度に合せて(同期させて)成形ロール3を回転させる。
【0110】
即ち、成形ロール3を所定の力でガラス基板Wに押付けた状態で、成形ロール3がガラス基板W上を走行することになる。
【0111】
ガラス基板成形装置1では、成形時の積載ステージ5の移動速度は、0.01mm/secとした。
【0112】
ステップS12
積載ステージ5が所定の位置に到達した時点で、積載ステージ5を停止させる。同時に成形ロール3の回転も積載ステージ5の動作に同期して停止させる。
【0113】
ステップS13
成形ロール3を上昇端まで移動させ、ガラス基板Wへの成形ロール3のプレスを開放する。
【0114】
ステップS14
積載ステージ5を、冷却退避位置(図1では左端)へ移動する。
【0115】
ステップS15
成形ロール3の加熱用赤外線ランプ25と、積載ステージ5の加熱用ロッドヒータ17とをOFFして、成形ロール3および積載ステージ5の加熱を終了する。
【0116】
ステップS16
真空ポンプ55の真空バルブを閉じて、チャンバー29内の真空引きを終了する。
【0117】
ステップS17
成形ロール3および積載ステージ5を冷却用の窒素ガスを用いて、強制空冷を行い、所定の温度に到達するまで冷却を行う。たとえば、空気中でも酸化され難い温度として、それぞれ200℃まで冷却する。なお、成形ロール3は、均等に窒素ガスが当たるように、成形ロール3の回転を10rev/minで回転させながら強制空冷を行う。同時にチャンバー29内は窒素雰囲気に置換され直して、圧力も大気圧に戻る。
【0118】
ステップS18
温度低下を確認した後、成形ロール3の回転を停止させて、上部チャンバー29Aを上昇させ、ガラス基板成形装置1の自動シーケンスは終了する。
【0119】
ステップS19
この後、オペレータにより積載ステージ5上のガラス基板Wの成形品を取出して終了する。
【0120】
<成形品形状>
ガラス基板成形装置1にて得られたガラス成形品Wを図11に示す。
【0121】
微細な凹凸形状として、溝幅250nm、溝深さ750nmのライン&スペースを作成して、良好なガラス成形品Wを得る事が可能となった。
【0122】
前述の通り、ガラス基板Wの素材サイズは100mm×30mm×t3mmであるが、その内の90mm×20mmの面積に前記形状を得ることが可能となった。
【0123】
なお、図11に示すガラス基板Wが、微細なライン&スペースが、2次元構造であり、ガラス基板Wの幅方向(Y軸方向)に延びているが、微細なライン&スペースが、ガラス基板Wの長さ方向(X軸方向)に延びていてもよい。さらに、微細な凹凸形状が、ガラス基板W上にφ250nm×深さ300nm等の円柱状の微細な凹凸形状であってもよいし、微細な凹凸形状が3次元構造であっても構わない。
【0124】
なお、本実施例では、ガラス基板Wが図11に示すサイズであったが、A4サイズやA3サイズ等、より大きなサイズであっても構わない。
【0125】
ところで、前記実施例では、ガラス基板成形装置1の自動シーケンス毎に、ガラス基板素材と成形品の取出しの為にチャンバー29を開放して装置稼動を停止していたが、図12で示すように、チャンバー29にワーク搬出入の為のロードロック室(前室89、後室91)とゲートバルブ93,95とを設けることにより、ガラス基板Wを連続的に供給するようにしてもよい。
【0126】
このような構成にすることにより、チャンバー29を開放したり、成形ロール3や積載ステージ5やチャンバー29内の温度を下げたりすることなく、より高い生産性でガラス素材Wを供給することが可能である。
【0127】
なお、図12で示す参照符号99,101,103,105は、ガラス基板載置ステージであり、参照符号107,109,111は、ガラス基板送り用アクチュエータ(たとえば、空気圧シリンダ)である。参照符号101の積載ステージでは、ガラス基板Wが加熱され、参照符号103の積載ステージではガラス基板Wが冷却されるようになっている。なお、参照符号99の積載ステージでガラス基板Wを加熱し、参照符号105の積載ステージでガラス基板Wを冷却する構成であってもよい。
【0128】
ガラス基板成形装置1によれば、ガラス基板Wをプレス成形する際に用いる金型として、円筒状のロール形状の成形ロール3を用いており、成形ロール3の表面に所望の微細な凹凸形状を形成してある。また、予め加熱・軟化されたガラス基板W上に成形ロール3を押し当てた状態で、成形ロール3を回転させながら、ガラス基板W上を走行させることにより、ガラス基板W上に微細な凹凸形状を転写し成形するようになっている。
【0129】
これにより、比較的大面積のガラス基板Wに微細な凹凸形状をプレス成形することを効率良く行うことができ、大量生産することが容易になる。
【0130】
すなわち、ガラス基板成形装置1を用いれば、フォトリソグラフィー技術や真空蒸着技術に比べて、加熱・プレス成形によるエ程は比較的少なく且つ単純である為、生産性や製造装置価格等の点で有利となる。
【0131】
また、ガラス基板成形装置1を用いれば、従来の上下一対の平面金型でプレス成形される成形方式に比べて、ガラス基板Wと金型(成形ロール3)との接触の態様が、面接触から線接触となり、プレスカを効率的にガラス基板Wに加えることが可能となり、少ないプレス力および少ないプレス時間で効率的にガラス基板Wを成形することが可能となる。また、比較的大面積の領域に微細な凹凸形状を成形することも可能になる。そして、大きな面積の微細な凹凸形状付ガラス基板Wを製造することが可能であれば、FPD等に代表されるディスプレイ上の無反射フィルターや、太陽光発電等の集光レンズなどにも、ガラス基板Wを応用することができる。
【0132】
また、ガラス基板成形装置1を用いれば、金型である成形ロール3の表面に施された微細な凹凸形状に対して、成形ロール3の接線方向からガラス基板Wが入り込み、接線方向に向かって離型されるので、従来の面接触による場合に比べて、成形・離型性が向上する。
【0133】
なお、ガラス基板成形装置1を構成する上では、次に(1)〜(6)で示す点について考慮することが望ましい。
【0134】
(1)ガラス基板Wの成形温度を、正確に再現性良く、均一に加熱制御すること。(2)成形ロール3の成形温度を、正確に再現性良く、均一に加熱制御すること。(3)成形ロール3をガラス基板Wへ押付けるプレスカを、正確に再現性良く制御すること。(4)成形ロール3の回転速度および成形ロール3の走行速度(積載ステージ5の移動速度)を、正確に再現性よく制御すること。または、成形ロール3の走行速度に応じて、フリーな状態で成形ロール3が回転されること。(5)成形環境を、成形ロール3等の構造物やガラス基板Wが酸化されないように、不活性ガス雰囲気に置換された環境下に保持できること。また、必要に応じて、微細な凹凸形状に気体の噛み込みが無いように、任意なタイミングで真空雰囲気環境下に保持できること。(6)成形後のガラス基板Wが、効率的に且つ均一に冷却されること。
【0135】
なお、図12で示すように、ガラス基板Wを連続的にガラス基板成形装置1に供給しガラス基板成形装置1から排出する構成にすれば、成形ロール3である金型の加熱・冷却によるロスタイムを排除して、連続的且つ効率的に大量生産することが可能になる。
【0136】
また、ガラス基板成形装置1によれば、ガラス基板Wを設置する積載ステージ5を有し、ステージ用ヒータ7で積載ステージ5を所定の温度に加熱し、積載ステージ5に設置されているガラス基板Wを加熱するので、ガラス基板Wをヒータで直接加熱する場合に比べて、ガラス基板Wを正確に再現性良く均一に加熱することができ、ガラス基板Wの割れを防ぐとともに、正確な転写をすることができる。
【0137】
また、ガラス基板成形装置1によれば、積載ステージ5の複数エリア(ゾーン)Z4,Z5,Z6の温度をゾーン制御するように構成されているので、ガラス基板Wを一層正確に再現性良く均一に加熱することができる。
【0138】
また、ガラス基板成形装置1によれば、成形ロール3を所定の温度に加熱する成形ロール用ヒータ23を備えているので、プレス成形するときにおけるガラス基板Wと成形ロール3との温度差を無くすことができ、正確な転写を効率良く行うことができる。
【0139】
さらに、ガラス基板成形装置1によれば、放射温度計27を用いて成形ロール用ヒータ23の発熱量を制御し、成形ロール3の微細な凹凸形状が形成されている面の温度を制御するので、成形ロール3の温度を正確なものに保つことができ、正確な転写を効率良く行うことができる。
【0140】
また、ガラス基板成形装置1によれば、チャンバー29内を真空にすることにより、プレス成形するときの空気の噛みこみを無くすことができ、転写不良の発生を回避することができる。また、チャンバー29内を不活性ガスで満たすことにより、成形ロール3や積載ステージ5等の酸化を防止することができる。
【0141】
ところで、上述した実施形態を、ガラス基板成形方法(ロール成形方法)として把握してもよい。すなわち、板状のガラス基板を加熱して、前記ガラス基板に微細な凹凸形状をプレス成形する成形方法において、前記ガラス基板に転写される微細な凹凸形状と反対の微細な凹凸形状を有する円筒状の成形ロールを、前記ガラス基板に押し付けながら回転移動させることにより、微細な凹凸形状付ガラス基板を成形するガラス基板成形方法として把握してもよい。
【0142】
このガラス基板成形方法において、前記ガラス基板を積載ステージに設置し、前記積載ステージの内部に埋め込まれて設けられたステージ用ヒータにより、前記積載ステージを所定の温度に加熱し、前記積載ステージに設置されているガラス基板を加熱するようにしてもよい。
【0143】
また、上記ガラス基板成形方法において、前記ステージ用ヒータを、前記積載ステージの内部に配置された複数本のロッドヒータ、前記積載ステージの内部に配置された複数本の赤外線ランプの少なくともいずれかで構成し、複数本の温度測定素子を前記積載ステージに埋め込み、前記各温度測定素子が測定した温度に応じて、前記積載ステージ用ヒータの発熱量を制御し、前記積載ステージの複数エリアの温度をゾーン制御するようにしてもよい。
【0144】
また、上記ガラス基板成形方法において、前記成形ロールを、成形ロール用ヒータで所定の温度に加熱するようにしてもよい。
【0145】
また、上記ガラス基板成形方法において、前記成形ロール用ヒータを、前記成形ロールの内側で前記成形ロールの軸に沿って配置された赤外線ランプ、前記成形ロールの内側で前記成形ロールの軸に沿って配置されたロッドヒータの少なくともいずれかで構成し、放射温度計を用いて、前記成形ロールの微細な凹凸形状が形成されている面の温度を測定し、前記放射温度計が測定した温度に応じて、前記成形ロール用ヒータの発熱量を制御し、前記成形ロールの微細な凹凸形状が形成されている面の温度を制御するようにしてもよい。
【0146】
また、上記ガラス基板成形方法において、前記成形ロールと前記ガラス基板とを内部に包含することができるチャンバー内を、真空にしまたは不活性ガスに置換して前記プレス成形をするようにしてもよい。
【0147】
さらに、ガラス基板成形装置1では、ガラスに微細な凹凸形状を形成するようにしているが、ガラスに代えて、加熱によって軟化する材料(たとえば、樹脂や金属材料)に、微細な凹凸形状を形成してもよい。
【符号の説明】
【0148】
1 ガラス基板成形装置
3 成形ロール
5 積載ステージ
7 ステージ用ヒータ
9 成形ロール支持体
11 ロードセル
13 上軸構成部材
15 フレーム
17 ロッドヒータ
19 熱電対
21 制御装置
23 成形ロール用ヒータ
25 赤外線ランプ
27 放射温度計
29 チャンバー
31 ステージ移動手段
33 成形ロール移動手段
49 成形ロール回転手段
W ガラス基板
Z4、Z5、Z6 ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板を加熱して、前記ガラス基板に微細な凹凸形状をプレス成形するガラス基板成形装置において、
前記ガラス基板に転写される微細な凹凸形状と反対の微細な凹凸形状を有する円筒状の成形ロールを、前記ガラス基板に押し付けながら回転移動させることにより、微細な凹凸形状付ガラス基板を成形するように構成されていることを特徴とするガラス基板成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載のガラス基板成形装置において、
前記ガラス基板が設置される積載ステージと、
前記積載ステージを所定の温度に加熱することにより、前記積載ステージに設置されているガラス基板を加熱するステージ用ヒータと、
を有することを特徴とするガラス基板成形装置。
【請求項3】
請求項2に記載のガラス基板成形装置において、
前記ステージ用ヒータは、前記積載ステージの内部に配置された複数本のロッドヒータ、前記積載ステージの内部に配置された複数本の赤外線ランプの少なくともいずれかで構成されており、
複数本の温度測定素子を前記積載ステージに埋め込み、前記各温度測定素子が測定した温度に応じて、前記ステージ用ヒータの発熱量を制御し、前記積載ステージの複数エリアの温度をゾーン制御するように構成されていることを特徴とするガラス基板成形装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のガラス基板成形装置において、
前記成形ロールを所定の温度に加熱する成形ロール用ヒータを有することを特徴とするガラス基板成形装置。
【請求項5】
請求項4に記載のガラス基板成形装置において、
前記成形ロール用ヒータは、前記成形ロールの内側で前記成形ロールの軸に沿って配置された赤外線ランプ、前記成形ロールの内側で前記成形ロールの軸に沿って配置されたロッドヒータの少なくともいずれかで構成されており、
放射温度計を用いて、前記成形ロールの微細な凹凸形状が形成されている面の温度を測定し、前記放射温度計が測定した温度に応じて、前記成形ロール用ヒータの発熱量を制御し、前記成形ロールの微細な凹凸形状が形成されている面の温度を制御するように構成されていることを特徴とするガラス基板成形装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のガラス基板成形装置において、
前記成形ロールと前記ガラス基板とを内部に包含することができるチャンバーを有し、
前記チャンバー内を、真空にしまたは不活性ガスに置換することが可能なように構成されていることを特徴とするガラス基板成形装置。
【請求項7】
ガラス基板を加熱して、前記ガラス基板に微細な凹凸形状をプレス成形するガラス基板成形方法において、
前記ガラス基板に転写される微細な凹凸形状と反対の微細な凹凸形状を有する円筒状の成形ロールを、前記ガラス基板に押し付けながら回転移動させることにより、微細な凹凸形状付ガラス基板を成形することを特徴とするガラス基板成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−168235(P2010−168235A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10841(P2009−10841)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】