説明

ガラス板の支持構造体、ガラスパネルユニット、及びガラスカーテンウォール

【課題】ガラス板が大型化して重くなっても地震時にガラス板に加わる水平方向慣性力を確実に枠材で支持できるので、枠材のスリム化を図ることができる。
【解決手段】ガラスカーテンウォール10の壁面を構成するガラス板Gを該ガラス板Gの周囲に設けられた枠材14に支持させるガラス板の支持構造体であって、ガラス板Gが地震時に受ける水平方向慣性力Fを、枠材14を構成する縦材14Bと横材14Aのうちの横材14Aに伝達させる剛性部材である慣性力伝達部材16を設け、ガラス板Gが慣性力伝達部材16を介して横材14Aに支持されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス板の支持構造体、ガラスユニット、及びガラスカーテンウォールに係り、特に地震時にガラス板に加わる水平方向慣性力の対策技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルの外壁工法の1種として、柱と梁を主体構造とし、壁は外装材又は外部との仕切材と見做すカーテンウォール構造がある。このカーテンウォールを構築する手法としては、ユニット式とノックダウン式とが知られている。前者は、方立(縦材)や無目(横材)等の枠材を工場で予めパネル材に組み付けてユニット化しておき、このように工場生産されたユニットを建築現場である施行場所に持ち込んで組み合わせてカーテンウォールを構築する。一方、後者は、方立や無目等の構成部材をそのまま施工場所に持ち込んで、建築現場で方立や無目を組み立ててパネル材を組み付けてカーテンウォールを構築する。前者の例としては、特許文献1〜3があり、後者の例として特許文献4がある。
【0003】
そして、パネル材としてガラス板を使用したものがガラスカーテンウォールであり、枠材にガラス板を組み付けたガラスパネルユニットを、縦方向及び/又は横方向に隣接配置することによりビルの壁面を構成する。
【0004】
ガラスパネルユニットにおいて、ガラス板を枠材に保持する方法としては、非特許文献1に示されるように、ガラス板と枠材との間にシール材を設けるシール材方法と、シール材は設けずにゴム等によるガスケット方法とがある。後者の場合は、枠材とガラスの接触時の緩衝を主目的に、枠材の縦板とガラス板の小口面との間にゴム製のブロック材を設ける。
【0005】
そして今日のガラスカーテンウォールの傾向として、シール材方法とガスケット方法の何れの場合にも、開放感や意匠性の観点からガラスパネルユニットの枠材を細くしてスリム化する方向にある。
【0006】
ところで、ガラスカーテンウォールを設計する場合、地震時においてガラス板が受ける水平方向慣性力を十分に確保できる耐震設計が要求されている。具体的には、非特許文献2に示されるように、水平方向慣性力に対する設計用水平震度KH=1.0であることが要求され、これはガラス板の自重に相当する水平方向慣性力を枠材で支持できることを意味する。
【0007】
しかし、枠材をスリム化することにより開放感や意匠性は向上するものの、枠材の剛性が低くなるので、水平方向慣性力が加わったときの剛性耐性が確保できないという問題がある。
【0008】
例えば図9は、枠材1をスリム化していない太材を使用し、ガラス板2の周端部と枠材1とがシール材(不図示)で接合されているガラスパネルユニット3に水平方向慣性力Fが加わった場合である。この場合、水平方向慣性力Fはシール材を介して枠材1の縦材1Aに伝達され、縦材1Aの反力fで水平方向慣性力Fを支持することになる。しかし、縦材1は太く高い剛性を有しているので、変形することはない。したがって、水平方向慣性力Fを縦材1で支持しても設計用水平震度KH=1.0を確保できる。なお、符号1Bは枠材1の横材である。
【0009】
図10は、枠材1をスリム化して細材を使用し、ガラス板2の周端部と枠材1とがシール材(不図示)で接合されているガラスパネルユニット3に水平方向慣性力Fが加わった場合である。この場合も、水平方向慣性力Fはシール材を介して枠材1の縦材1Aに伝達され、縦材1Aの反力fで水平方向慣性力を支持することになる。しかし、枠材1が細く剛性が小さいため、縦材1Aで水平方向慣性力Fを支持しきれずに縦材1Aが変形する。したがって、設計用水平震度KH=1.0を確保することができない。
【0010】
図11のように、ガラス2の周端部にシール材がなく、縦材1Aの上下部分にガラス板2の当接力を吸収するゴムブロック4のみがある場合に枠材1を細くした場合には更に深刻であり、水平方向慣性力Fを縦材1Aで支持することができない。即ち、設計用水平震度KH=1.0を確保することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−180246号公報
【特許文献2】特開2006−152560号公報
【特許文献3】特開2005−155178号公報
【特許文献4】特開2001−140390号公報
【非特許文献1】「ガラスカーテンウォールのオプションジョイント」、8頁、株式会社彰国社発行、昭和62年11月10日第1版発行
【非特許文献2】「建築工事標準使用書・同解説、JASS14、カーテンウォール工事」、48〜49頁、社団法人日本建築学会発行、2006年4月20日発行(第2版第5刷)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、枠材、特に縦材をスリム化した場合には、ガラスカーテンウォールを構成するガラス板の大きさや重量を小さく制限せざるを得ないという問題がある。
【0013】
しかし、ガラス板は開放感や意匠性の観点から大型化し、重くなる傾向にあり、ガラス板を大型化して重くなっても水平方向慣性力を確実に枠材で支持できることが要求されている。例えば大きなガラス板では、横1800×縦3600で重さが400kgにも及ぶものがあり、400kgに相当する水平方向慣性力を支持できる構造設計が要求される。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ガラス板が大型化して重くなっても地震時にガラス板に加わる水平方向慣性力を確実に枠材で支持でき、さらに、枠材のスリム化を図ることもできるガラス板の支持構造体、ガラスユニット、及びガラスカーテンウォールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記目的を達成するために、建物の壁面を構成するガラス板と、前記ガラス板の周囲に設けられ、縦材と横材とからなる枠材と、前記ガラス板が地震時に受ける水平方向慣性力を、前記枠材のうちの横材に伝達させる剛性部材からなる慣性力伝達部材と、を備え、前記ガラス板が前記慣性力伝達部材を介して前記横材に支持されることを特徴とするガラス板の支持構造体を提供する。
【0016】
本発明のガラス板の支持構造体によれば、地震等により、建物の壁面を構成するガラス板に水平方向慣性力が加わった際に、該水平方向慣性力は剛性部材からなる慣性力伝達部材を介して横材に伝達される。
【0017】
これにより、ガラス板に加わる水平方向慣性力を、高い剛性を確保することができる横材の軸芯方向で受けることができる。したがって、ガラス板が大型化して重くなっても水平方向慣性力を確実に横材で支持でき、縦材の剛性を過度に高める必要がないので、縦材を細くできる。これにより、枠材をスリム化することができるので、ガラス板の支持構造体の開放感や意匠性の向上を図ることができる。
【0018】
ここで、剛性部材とは、水平方向慣性力が加わった際に有害な変形(機能発現ができなくなるような変形)が生ぜず、発生する応力に耐える強度をもつ材料をいう。
【0019】
本発明のガラス板の支持構造体において、前記慣性力伝達部材は、前記ガラス板に接合される第1の部材と、前記横材に支持される第2の部材と、前記第1及び前記第2の部材にそれぞれ設けられ、前記第1及び第2の部材を着脱自在に嵌合する嵌合部と、を備えていることが好ましい。
【0020】
このように、慣性力伝達部材として、ガラス板に接合される第1の支持部材と、枠材の横材に支持される第2の部材と、を互いの嵌合部を介して着脱自在に嵌合する構成としたので、ガラス板を枠材に簡単に組み付けることができる。したがって、ガラスカーテンウォールを構築する際の施工も容易になる。
【0021】
本発明のガラス板の支持構造体において、前記ガラス板は複層ガラスであって、前記第1の部材は、前記複層ガラスのスペーサである縦スペーサ材と横スペーサ材とを連結するL字状のコーナーキーに前記嵌合部を形成したものであることが好ましい。
【0022】
これは本発明の支持構造体を適用する好ましいガラス形態を特定したものであり、複層ガラスに適用することが好ましい。複層ガラスは、2枚のガラス板間のスペースを確保するために2枚のガラス板の周端部に沿ってスペーサが介在された構造であり、スペーサは乾燥剤を充填するために中空に形成される。したがって、第1の部材をL字状のコーナーキーに嵌合部を形成した構成とし、複層ガラスのスペーサである縦スペーサの中空と横スペーサの中空とにコーナーキーを挿入するだけで、枠材と第1の部材とを一度に且つ簡便に形成することができる。また、コーナーキーの大部分は、スペーサの中空に挿入されて隠れるので、意匠性も良くなると共に支持構造体をコンパクト化できる。更には、第1の部材をコーナーキーの一部として形成することができるので、第1の部材として特別な部材を必要とせず、部品点数の増加を防止できる。
【0023】
本発明のガラス板の支持構造体において、前記複層ガラスの場合、前記第1の部材には、前記ガラス板の小口面に当接する当接板が設けられることが好ましい。
【0024】
複層ガラスの場合、スペーサとガラス板の周縁部とは接着材で接着されているので、水平方向慣性力は接着材を介して横スペーサに伝達されることになる。しかし、接着材は弾性変形し易いので水平方向慣性力が横材に確実に伝達しにくい。
【0025】
本発明では、第1の部材に、ガラス板の小口面が当接する当接板を設けたので、水平方向慣性力は接着材を介することなく当接板を介して慣性力伝達部材に伝達され、慣性力伝達部材から横材に伝達される。これにより、水平方向慣性力を確実に横材に伝達することができる。
【0026】
本発明のガラス板の支持構造体において、前記ガラス板は合わせガラスであって、前記ガラス板に接合される前記第1の部材の被支持部分が前記合わせガラスを構成する2枚のガラス板に挟持されていることが好ましい。
【0027】
これは本発明の支持構造体を適用する好ましい別のガラス形態を特定したものであり、合わせガラスに適用することが好ましい。合わせガラスは、2枚のガラス板に樹脂製の中間膜が挟持された構造なので、この挟持構造を利用して第1の部材をガラス板に支持することができる。これにより、第1の部材をガラス板に支持させるための特別な支持冶具を必要としないと共に、第1の部材の被支持部分がガラス板の外側に出っ張らないので、意匠性も良くなる。
【0028】
本発明は、前記目的を達成するために、請求項1〜5の何れか1に記載のガラス板の支持構造体から成る、ガラス板と枠材とが予め一体に組み付けられるガラスパネルユニットを提供する。
【0029】
本発明のガラスパネルユニットによれば、請求項1〜5の何れか1に記載のガラス板の支持構造体で構成されているので、ガラス板が大型化して重くなっても地震時の水平方向慣性力を確実に横材で支持できる。
【0030】
本発明は、前記目的を達成するために、請求項6に記載のガラスパネルユニットを縦方向及び/又は横方向に隣接配置して壁面が構成されるガラスカーテンウォールを提供する。
【0031】
本発明のガラスカーテンウォールによれば、請求項6に記載のガラスパネルユニットを縦方向及び/又は横方向に隣接配置して壁面を構成したので、ガラス板が大型化して重くなっても地震時の水平方向慣性力を確実に枠材で支持できる。
【0032】
したがって、本発明のガラス板の支持構造体を備えたガラスパネルユニット及びガラスカーテンウォールは、枠材をスリム化できるので、開放感や意匠性を更に向上することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように本発明のガラス板の支持構造体によれば、ガラス板が大型化して重くなっても地震時にガラス板に加わる水平方向慣性力を確実に枠材で支持でき、さらに、枠材のスリム化を図ることもできる。
【0034】
したがって、本発明のガラス板の支持構造体から成るガラスパネルユニット及びガラスカーテンウォールは、枠材をスリム化できるので、開放感や意匠性を更に向上することができる。
【0035】
なお、本発明は地震時の面内水平方向慣性力に対してなされたものだが、本発明によりもたらされる機能により、同時に次の効果が期待できる。すなわち、搬送、施工などの際に生ずるガラス面内方向力を支持でき、また、層間変形角吸収時の過度の枠変形を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ガラスカーテンウォールの外観斜視図
【図2】実施の形態のガラスパネルユニットの斜視図
【図3】本発明のガラス板の支持構造体の要部部品分解図
【図4】本発明のガラス板の支持構造体の要部組立図
【図5】(A)は本発明のガラス板の支持構造体の要部である慣性力伝達部材の正面断面図、(B)は本発明のガラス板の支持構造体の要部である慣性力伝達部材における図5(A)のA−A線に沿った縦断面図
【図6】本発明のガラス板の支持構造体の作用を説明する概念図
【図7】本発明のガラス板の支持構造体に当接板を設けた場合であり、図5(A)のB−B線に沿った要部水平断面図
【図8】ガラス板の態様として合わせガラスを用いた場合の慣性力伝達部材の形状を示す要部縦断面図
【図9】従来技術において枠材をスリム化しない場合の水平方向慣性力と枠材との関係を説明する概念図
【図10】従来技術において枠材をスリム化した場合の水平方向慣性力と枠材との関係を説明する概念図
【図11】従来技術において枠材をスリム化した場合の別の態様における水平方向慣性力と枠材との関係を説明する概念図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、添付図面に従って本発明に係るガラス板の支持構造体、ガラスパネルユニット、及びガラスカーテンウォールの好ましい実施の形態について説明する。なお、本実施の形態では、ガラス板の形態として本発明のガラス板の支持構造体を利用するのに最適な複層ガラスの例で以下に説明する。
【0038】
図1はビルの外壁をガラス板で構成したガラスカーテンウォール10を示したものであり、図2はガラスカーテンウォール10を構成する複層ガラスのガラスパネルユニット12、12…を拡大して示したものである。
【0039】
図1及び図2に示すように、ガラスカーテンウォール10は、複層ガラスGを構成するガラス板20、22の周端部に枠材14が一体に組み付けられたガラスパネルユニット12、12…を横方向及び縦方向に隣接配置することにより構築される。
【0040】
そして、ガラスパネルユニット12は、本発明のガラス板の支持構造体で構成されたものであり、ガラスパネルユニット12には本発明の特徴部分である慣性力伝達部材16が設けられる。
【0041】
図3及び図4は、ガラスパネルユニット12の左上コーナー部分に慣性力伝達部材16を設けた図であり、図2に示したようにガラスパネルユニット12の左下、右上、右下のコーナー部分にも同様に設けることが好ましい。
【0042】
図3及び図4に示すように、矩形状(図1及び図2参照)の複層ガラスGは中空層18を確保するために、2枚のガラス板20、22の間にガラス板20、22と大きさが略同じ矩形リング状のスペーサ24が挟持されるように配置される。このスペーサ24によって中空層18の間隔が確保される。スペーサ24は、通常は、アルミニウムを成形した金属製部材で形成され、スペーサ24の側面とガラス板20、22との間は、ブチルシール等の低透湿性のシーリング材(一次シール)26(図5(B)、図7参照)で封止される。また、隔置されたガラス板20、22の相互の周縁部とスペーサ24とで画成される空間部を接着材(二次シール)28(図5(B)、図7参照)で密閉してスペーサ24とガラス板20、22とを接着一体化することにより、ガラス板20、22を拘束・保持する。
【0043】
スペーサ24は、内部に乾燥剤を充填するために中空に形成されており、この中空を利用して慣性力伝達部材16を構成する一部品であるL字状のコーナーキー30(第1の部材)が複層ガラスGに一体化される。即ち、図3に示すように、スペーサ24は、2本の縦スペーサ24A(1本は不図示)と2本の横スペーサ24B(1本は不図示)とに分離される。また、コーナーキー30は水平板30Aと垂直板30BとでL字状に形成される。これにより、コーナーキー30の水平板30Aを横スペーサ24Bの中空に挿入し、垂直板30Bを縦スペーサ24Aの中空に挿入する。同様に、ガラスパネルユニット12の左下、右上、右下のコーナー部分についてもコーナーキー30を挿入することにより、2本の縦スペーサ24Aと2本の横スペーサ24Bとを連結して矩形リング状のスペーサ24を形成する。これにより、コーナーキー30がスペーサ24を介して複層ガラスGに支持される。この場合、コーナーキー30の大部分は、スペーサ24の中空に挿入されて隠れるので、意匠性も良くなると共に支持構造体をコンパクト化することができる。
【0044】
また、スペーサ24の4隅をそれぞれ連結するコーナーキー30には、凹状の嵌合部30Cが形成される。図3及び図4は、ガラスパネルユニット12の左上コーナー部分を示すため、凹状の嵌合部30Cはコーナーキー30の上面に形成されるが、左下のコーナー部分では、凹状の嵌合部30Cはコーナーキー30の下面に形成される。
【0045】
一方、枠材14は、横材14Aと縦材14B(図4参照)とで構成され、横材14Aは縦材14Bに支持されると共に、縦材14Bはファスナー(不図示)等によってビルの躯体(不図示)に固定される。この枠材14のうちの横材14Aに、慣性力伝達部材16を構成する一部品であるT型キー34(第2の部材)が支持される。T型キー34は水平板34Aと、水平板34Aから垂下した凸状の嵌合部34BとでT字状に形成される。これらコーナーキー30及びT型キー34は剛性部材で形成され、例えばアルミニウムや鋼材等の金属で形成されることが好ましい。
【0046】
そして、T型キー34の凸状嵌合部34Bがコーナーキー30の凹状嵌合部30Cに嵌合される。これにより、図5の(A),(B)に示すように、複層ガラスGは、慣性力伝達部材16を介して横材14Aに支持される。
【0047】
上記の如くガラスパネルユニット12を構成することにより、地震等により、複層ガラスGのガラス板20,22に水平方向慣性力が加わった際に、水平方向慣性力は剛性部材である慣性力伝達部材16を介して横材14Aに伝達される。これにより、図6に示すように、ガラス板20(22)に加わった水平方向慣性力Fに対して横材14Aの軸芯方向に反力fが発生することになる。したがって、水平方向慣性力Fを、高い剛性を確保することができる横材14Aの軸芯方向で受けることができるので、ガラス板20(22)が大型化して重くなっても水平方向慣性力Fを横材14Aで確実に支持できる。これにより、縦材14Bのスリム化を図ることができるので、結果的に枠材14全体のスリム化を図ることができる。
【0048】
この場合、コーナーキー30の凹状嵌合部30CとT型キー34の凸状嵌合部34Bとは、隙間なく密接嵌合する必要はなく、複層ガラスGを枠材14に取り付けたり取り外したりする際に、コーナーキー30とT型キー34とを着脱し易いように隙間が空いていてもよい。また、コーナーキー30に凹状嵌合部30Cを形成して、T型キー34に凸状嵌合部34Bを形成したが、コーナーキー30に凸状嵌合部(34Bに相当するもの)を形成し、T型キー34に凹状嵌合部(30Cに相当するもの)を形成してもよい。
【0049】
また、図3及び図4に示すように、コーナーキー30には、複層ガラスGを構成する2枚のガラス板20、22の小口面(図3及び図4はガラス板の左側小口面)に当接する当接板36を設けることが好ましい。当接板36は、複層ガラスGの厚み分に相当する長さを有すると共に中央部に孔36Aが形成され、ネジ38によってコーナーキー30に形成した雌ネジ30Dに螺合固定される。この当接板36は、コーナーキー30及びT型キー34と同様に剛性部材で形成され、例えばアルミニウムや鋼材等の金属で形成されることが好ましい。また、当接板36のガラス板20、22側の面には、ゴム等の弾性材料で形成されたマット36Bをクッション材として貼り付けることが一層好ましい。
【0050】
複層ガラスGの場合、スペーサ24とガラス板20,22の相互の周縁部とで画成される空間部を接着材28で密閉してスペーサ24とガラス板20、22とを接着一体化することにより、複層ガラスGに加わった水平方向慣性力Fは接着材28を介して横スペーサ24Bに伝達され、横スペーサ24Bから慣性力伝達部材16を介して横材14Aに伝達することになる。したがって、水平方向慣性力Fの伝達経路に、有害な変形なしに充分に応力伝達をするには大きな断面と接着面積を必要とする接着材28が存在することになり、水平方向慣性力Fを横材14Aに確実に伝達しにくい。
【0051】
しかし、コーナーキー30に、ガラス板20,22の小口面が当接する当接板36を設けたので、接着材28を介することなく水平方向慣性力Fを横材14Aに伝達させることができる。即ち、図7に水平方向慣性力Fが伝達する順路を矢印Aで示すように、ガラス板20,22に加わった水平方向慣性力Fは当接板36に伝わり、当接板36からコーナーキー30及びT型キー34を介して横材14Aに伝達される。したがって、水平方向慣性力Fを伝達するための伝達経路は全て剛性部材で構成されることになるので、水平方向慣性力Fを確実に横材14Aに伝達することができる。
【0052】
上述した実施の形態において、ガラスパネルユニット12は、慣性力伝達部材16をコーナーキー30の凹状嵌合部30CとT型キー34の凸状嵌合部34Bで着脱自在に嵌合するように構成した。しかし、慣性力伝達部材16の本来の趣旨は、ガラス板20,22に加わった水平方向慣性力Fを横材14Aに伝達させる構造であればよい。したがって、複層ガラスGを枠材14に取り付けたり取り外したりする際の簡便性を無視するならば、コーナーキー30とT型キー34とを一体的に構成してもよい。また、嵌合部を有しないコーナーキー30と嵌合部を有しないT型キーとをボルト等で連結する構成であれば、着脱が可能なので施工時の簡便性も考慮できる。
【0053】
また、上述した実施の形態では、一枚の複層ガラスGに枠材14を組み付けたガラスパネルユニット12を例示したが、本発明のガラス板の支持構造体は、単層ガラスや合わせガラスにも適用することができる。特に、図8に示すように、合わせガラス40の場合には、2枚のガラス板42、44に樹脂製の中間膜46が挟持された構造なので、この挟持構造を利用して慣性力伝達部材を合わせガラス板40に支持することができる。この場合には、図8に示すように、第1の部材48を板状に形成して上部を凸状嵌合部とし、下部を合わせガラス40の2枚のガラス板42、44に中間膜46等を利用して接着し挟持させる。一方、第2の部材50を凹状に形成し、第1の部材の上部と嵌合させる。これにより、合わせガラス用の慣性力伝達部材16を構成することができる。
【0054】
また、本発明のガラス板の支持構造体は、従来技術においてガラス板の保持方法として説明したシール材方法とガスケット方法とのうち、水平方向慣性力Fが枠材の縦材に集中し易いガスケット方法に適用することで特に効果を発揮することができる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態を、図面を用いて詳述したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更等が可能である。
【符号の説明】
【0056】
10…ガラスカーテンウォール、12…ガラスパネルユニット、14…枠材、14A…横材、14B…縦材、16…慣性力伝達部材、18…複層ガラスの中空層、20、22…ガラス板、24…スペーサ、24A…縦スペーサ、24B…横スペーサ、26…シーリング材、28…接着材、30…コーナーキー、30C…コーナーキーの凹状嵌合部、34…T型キー、34A…T型キーの水平板、34B…T型キーの凸状嵌合部、36…当接板、G…複層ガラス、F…水平方向慣性力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の壁面を構成するガラス板と、
前記ガラス板の周囲に設けられ、縦材と横材とからなる枠材と、
前記ガラス板が地震時に受ける水平方向慣性力を、前記枠材のうちの横材に伝達させる剛性部材からなる慣性力伝達部材と、を備え、前記ガラス板が前記慣性力伝達部材を介して前記横材に支持されることを特徴とするガラス板の支持構造体。
【請求項2】
前記慣性力伝達部材は、
前記ガラス板に接合される第1の部材と、
前記横材に支持される第2の部材と、
前記第1及び前記第2の部材にそれぞれ設けられ、前記第1及び第2の部材を着脱自在に嵌合する嵌合部と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載のガラス板の支持構造体。
【請求項3】
前記ガラス板は複層ガラスであって、前記第1の部材は、前記複層ガラスのスペーサである縦スペーサ材と横スペーサ材とを連結するL字状のコーナーキーに前記嵌合部を形成したものであることを特徴とする請求項2に記載のガラス板の支持構造体。
【請求項4】
前記第1の部材には、前記ガラス板の小口面に当接する当接板が設けられることを特徴とする請求項2又は3に記載のガラス板の支持構造体。
【請求項5】
前記ガラス板は合わせガラスであって、前記ガラス板に接合される前記第1の部材の被支持部分が前記合わせガラスを構成する2枚のガラス板に挟持されていることを特徴とする請求項2に記載のガラス板の支持構造体。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1に記載のガラス板の支持構造体から成る、ガラス板と枠材とが予め一体に組み付けられるガラスパネルユニット。
【請求項7】
請求項6に記載のガラスパネルユニットを縦方向及び/又は横方向に隣接配置して建物の壁面が構成されるガラスカーテンウォール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−32664(P2011−32664A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177594(P2009−177594)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】