説明

ガラス板の梱包方法

【課題】合紙として再生紙を使った場合にも合紙に含まれる粘着異物がガラス板に付着することが抑制されるガラス板の梱包方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るガラス板の梱包方法は、複数枚のガラス板である素板31を積層する梱包方法であって、素板31を積層する際に、隣接する素板31同士の間に合紙33を挟む。そして、合紙33を挟んで積層された素板31群を、絶対湿度が7g/m3以下、或いは、絶対湿度が13g/m3以上の環境下で保管する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の梱包方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス板を梱包しつつ保管・搬送する際に、合紙と呼ばれる紙をガラス板の保護の目的で使用することが行われている。例えば、特許文献1(特開2008−143542号公報)には、パレット上にガラス板を積層状態で配列させたガラス板梱包体が開示されており、ガラス板とガラス板との間に合紙を1枚ずつ介在させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の特許文献1(特開2008−143542号公報)においては、コスト低減の目的で合紙を製造する段階で古紙を混入すると、合紙に分散して存在することになる粘着異物がガラスに転写されてしまって欠陥になることを知見したとして、ガラス板梱包方法の発明を為している。その発明は、粘着異物の含有密度が0.07個/m2以下という条件を満たす合紙をガラス板同士の間に介在させるという発明であり、古紙を混入するとその条件を満たさないことから、古紙を使わないフレッシュパルプだけから作られた合紙を用いるという発明だと言える。このように、粘着異物が比較的多く存在してしまう古紙を原料に使った合紙を使わず、フレッシュパルプを使った非再生紙を合紙として用いることで、特許文献1では、再洗浄が必要となるような不具合の発生確率が極めて低くなると述べている。
【0004】
しかし、梱包のあとに所定の洗浄工程が設けられているような場合、コストが高い非再生紙を使うことが必ずしもベストな選択であるとは言えない。また、資源保護の観点からも、再生紙の使用が促進されるべきである。
【0005】
一方、合紙に含まれる粘着性の異物が保管中のガラス板に付着し、ガラス板に回路やカラーフィルター層を形成するときに問題(断線や膜剥がれ)が生じるといった不具合は抑制する必要がある。
【0006】
本発明の課題は、合紙として再生紙を使った場合にも上述の不具合の発生確率が低くなるガラス板の梱包方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るガラス板の梱包方法では、古紙から回収した再生パルプを含む製紙原料から製造された再生紙である合紙を用意し、複数枚のガラス板を積層する際に、隣接するガラス板とガラス板との間に合紙を挟む。そして、積層された複数枚のガラス板を、絶対湿度が7g/m3以下、或いは、絶対湿度が13g/m3以上の環境下で保管する。
【0008】
本願の発明者は、再生紙である合紙に含まれる粘着性の異物が保管中のガラス板に付着する現象を観察し、その付着現象の発生数と周辺環境との間に関係が見られることを見いだした。特に、湿度と付着現象との間に密接な関係が見られ、通常の技術者の考え方とは異なる環境下で積層されたガラス板を保管することが有効な粘着異物付着の抑制方法であることを発明した。その発明に係る方法が、上述のガラス板の梱包方法であり、絶対湿度が7g/m3以下、或いは、絶対湿度が13g/m3以上という環境下で、積層されたガラス板を保管することを特徴とする。本願の発明者は、例えば20℃において、相対湿度が約40%以下のとき及び相対湿度が約75%以上のときにはガラス板に合紙の粘着異物が付着しにくい一方、相対湿度が約40%〜約75%のときには粘着異物のガラス板への転移が多く見られることに着目し、他の温度域のときにも絶対湿度が所定範囲外にあるときには粘着異物のガラス板への付着が抑制されていることに鑑み、上述の発明を為している。
【0009】
なお、本発明に係るガラス板の梱包方法においては、積層された複数枚のガラス板を、乾球温度0℃〜40℃の環境下で保管することが好ましい。この温度域で且つ上述の絶対湿度7g/m3以下或いは13g/m3以上の環境下でガラス板を保管すれば、合紙として再生紙を使った場合にも合紙の粘着異物がガラス板に多く付着するという不具合が無くなることを本願発明者は確認している。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るガラス板の梱包方法では、絶対湿度が7g/m3以下、或いは、絶対湿度が13g/m3以上の環境下で、積層されたガラス板を保管することによって、合紙として再生紙を使った場合にも、粘着異物の合紙からガラス板への転移が抑制され、ガラス板に回路やカラーフィルター層を形成するときの不具合の発生確率が低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係るガラス板の梱包方法を用いた素板積み込み工程を含む、ガラス板の各製造工程を示すフロー図。
【図2】多数のガラス板が梱包された状態を模式的に示す斜視図。
【図3】ガラス板同士の間に、粘着異物を含む合紙が挟まっていることを示す断面図。
【図4】20℃での湿度変化による粘着異物の転移現象発生の調査結果を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)ガラス基板製造方法の概要
本実施形態に係るガラス板の梱包方法を用いたガラス基板製造方法の概要を、図1を参照しながら説明する。この製造方法は、液晶等のフラットパネルディスプレイ(FPD)に用いられるガラス基板を製造するための方法である。
【0013】
図1は、ガラス原料を溶融する段階からガラス基板が顧客に出荷される状態になるまでの工程の概略を示している。
【0014】
まず、溶解・成形工程S1では、原料となるケイ砂などの種々の粉体が、秤量・混合されて溶融炉に投入される。この粉体が、高温の溶融炉の中で熔かされてガラス溶融液になる。その後、泡抜き・攪拌などによって均質化されたガラス溶融液が板状に成形される。この板状への成形の仕方であるが、ここでは、オーバーフローダウンドロー法を用いてガラス溶融液を板状に成形している。
【0015】
次に、採板工程S2では、板状に成形され所定の温度に下がったガラスを、規定寸法に切断する。矩形状に切断されたガラス板は、素板と呼ばれ、梱包場所まで移送される。
【0016】
素板積み込み工程S3では、多数の素板がパレット20(図2参照)に梱包される。多数の素板は、積層状態でパレット20に積み込まれることになるが、詳細については後述する。
【0017】
切断・面取り工程S4では、フラットパネルディスプレイが用いられる液晶表示装置の製造に適した大きさになるように、素板がさらに切断され、切断されたガラス基板の切断面が研削・研磨される。
【0018】
洗浄工程S5では、洗浄によって、ガラス基板の表面の微細な異物や汚れが取り除かれる。洗浄は、洗剤、ブラシ等を用いたガラス基板の洗浄と、純水等を用いたガラス基板の洗浄とに分かれる。洗浄後、ガラス基板は乾燥される。
【0019】
検査工程S6では、泡や傷などの微細な欠陥の有無の検査が行われ、液晶表示装置に使用できないガラス基板が不良品として取り除かれる。
【0020】
その後、良品と判定されたガラス基板は、製品積み込み工程S7での梱包を経て、液晶等のフラットパネルディスプレイを製造する顧客に出荷される(出荷工程S8)。
【0021】
(2)素板積み込み工程の詳細
図1に示す素板積み込み工程S3においては、成形後に切断されたガラス板である素板が、順次パレット20に積み込まれていく。パレット20は、図2に示すように、主として、基台部21と、背面部22と、傾斜台座部23と、傾斜背もたれ部24とから構成されている。図2に示すように、水平面に対して少し傾斜している傾斜台座部23に素板31(図3参照)の下端が載り、傾斜台座部23の上面と直交し鉛直面に対して少し傾斜している傾斜背もたれ部24に、積層されていく素板31群の背面部分がもたれ掛かる。この図2に示す状態に梱包されパレット20に収容されたガラス板梱包体30(素板31群および素板31同士の間に挟まれる合紙33)は、次の切断・面取り工程S4を行う場所に搬送される前に、一時的に保管される。
【0022】
パレット20への素板31の積み込みにおいては、図3に示すように、合紙33が保護部材として用いられる。この合紙33は、フラットパネルディスプレイ(FPD)の素板31を搬送・保管する際に、ガラス板である素板31の両表面(表の面および裏の面)を保護する目的で使用される。特に、液晶ディスプレイ用のガラス基板(LCDガラス基板)では、ガラス基板の表面にカラーフィルター層やTFT回路を形成することになる。このため、ガラス基板となる素板31の表面を異物付着やキズから保護するために、保護部材としての合紙33が必要になっている。合紙33は、素板31よりも面積が大きく、素板31の積層の際に、素板31と素板31との間に挟まれる。これにより、隣接する素板31同士は互いに直接は接しなくなる。
【0023】
ここで、本実施形態に係るガラス板の梱包方法においては、合紙33として、古紙から回収した再生パルプを50重量%以上含む製紙原料から製造される紙を使用している。これは、再生パルプを使わない紙や再生パルプよりもフレッシュパルプを多く使う紙では、資源保護を十分に図れないためである。その上で、ここでは、合紙33の表面の粘着異物34(図3参照)の単位面積当たりの総面積の上限値を、後工程である洗浄工程S5の洗浄度合いや出荷先の顧客の要求の程度に応じて、3つのレベルA1,A2,A3で設定している。具体的には、合紙33の表面に現れている不透明または他の部分と色が異なる部分(ここでは、黒〜褐色の部分)を、JISP8208(1998)パルプ−きょう雑物測定方法に準じて、きょう雑物計測図表を用いて測定し、その合計面積を1m2当たりの面積に換算した値について、3つのレベルA1,A2,A3の上限値を決めている。これらの上限値は、それぞれ
レベルA1・・・0.6mm2/m2
レベルA2・・・1.0mm2/m2
レベルA3・・・1.2mm2/m2
と決めている。例えば、レベルA3が要求されるときには、合紙33として、古紙から回収した再生パルプを50重量%以上含む製紙原料から製造される紙であって、JISP8208(1998)パルプ−きょう雑物測定方法に準じてきょう雑物計測図表を用いて測定したきょう雑物(合紙33の表面に現れている黒〜褐色の部分)が、1.2mm2/m2以下である紙が選択使用される。顧客の要求が高い場合や洗浄工程S5の洗浄時間が短い場合などで、レベルA1が要求されるときには、合紙33として、古紙から回収した再生パルプを50重量%以上含む製紙原料から製造される紙であって、JISP8208(1998)パルプ−きょう雑物測定方法に準じてきょう雑物計測図表を用いて測定したきょう雑物が、0.6mm2/m2以下である紙が選択使用される。
【0024】
また、本実施形態に係るガラス板の梱包方法は、パレット20に収容されたガラス板梱包体30(素板31群および素板31同士の間に挟まれる合紙33)が切断・面取り工程S4を行う場所に搬送される前に一時的に保管される工程を含んでいるが、このガラス板梱包体30の保管を、絶対湿度が7g/m3以下、或いは、絶対湿度が13g/m3以上の環境下で、且つ、乾球温度0℃〜40℃の環境下で行うことにしている。これは、本願の発明者が、再生紙である合紙33に含まれる粘着異物34が保管中の素板31に転移・付着する現象を観察し、その付着現象の発生数と周辺環境との間に関係が見られることを見いだし編み出した方法(発明)である。例えば、図4の表に示すように、20℃において、相対湿度が約30%のとき及び相対湿度が約80%のときには、ガラス板である素板31に合紙33の粘着異物34が転移・付着する数が少ない一方、相対湿度が約55%のときには粘着異物34の素板31への転移・付着の数が多いことに着目し、他の温度域のときにも絶対湿度が7g/m3〜13g/m3の範囲外にあるときには粘着異物34の素板31への付着が少ないことを見いだし、上述の保管環境条件を本願の発明者が編み出している。0℃〜40℃の環境下において、絶対湿度が7g/m3〜13g/m3の範囲から外れるように湿度調整を行うことによって、保管されているガラス板梱包体30の各素板31に合紙33の粘着異物が転移・付着してしまうことを抑制することができ、引いてはガラス基板の出荷先であるフラットパネルディスプレイを製造する顧客の満足を得られることを本願の発明者は確認している。
【0025】
なお、合紙33の粘着異物34とガラス板である素板31の保管環境に関し、湿度について考察すると、湿度が低いと粘着異物34が乾燥して(水分が減少して)粘着力が弱くなり、また、水分が多すぎても粘着異物34の粘着性は弱くなるものと想像される。これまでの当業者であれば、もし合紙33の粘着異物34を許容せざるを得ない場合、徹底的に湿度を低く保つことで粘着異物34の粘着性を抑えるという考え方をすることになると思われるが、本願の発明者は、時間をかけて合紙33に含まれる粘着異物34が保管中の素板31に転移・付着する現象を観察し、上述の保管環境条件を含むガラス板の梱包方法を編み出している。
【0026】
(3)積層状態で梱包された素板および合紙の粘着異物転移問題について
古紙から回収した再生パルプを含む製紙原料から製造されるリサイクル紙を合紙として使用する場合、ガラス基板となったものの表面に粘着異物が付着する問題が発生することが多い。図3において、合紙33の中に模式的に表されている粘着異物34は、新聞や雑誌などが原料として用いられる古紙の中に残留している主としてインク成分を由来とする樹脂塊であり、再生紙の製造工程にある「脱墨」と呼ばれる工程でも取り除けなかったものである。このような粘着異物34が再生紙である合紙33にある程度含まれることは仕方がないことであって、再生紙である合紙33を使う限り、梱包され積層状態となっている素板31同士の間に挟まれた合紙33から粘着異物34がガラス板である素板31に転移することは避けられない。
【0027】
そして、合紙33から素板31への粘着異物34の転移量が多くなると、洗浄工程S5においても完全には除去できずにガラス基板となって出荷されるものに粘着異物34が付着した状態が残ってしまう。こうなると、出荷先において、ガラス基板の表面にカラーフィルター層やTFT回路を形成する際に、TFT回路の断線、画像の乱れ、膜剥がれといった不具合が生じることになる。
【0028】
しかし、本願の発明者は、上述の保管環境条件を含むガラス板の梱包方法を編み出し、以下のようなメリットを獲得している。
【0029】
(4)本実施形態に係るガラス板の梱包方法、およびそのメリット
ここでは、素板積み込み工程S3において、多数枚のガラス板である素板31を積層する梱包方法として、隣接する素板31と素板31との間に合紙33を挟むことを採用している。そして、切断・面取り工程S4を行う場所に搬送する前、ガラス板梱包体30(素板31群および素板31同士の間に挟まれる合紙33)を一時的に保管するときに、その保管環境を、絶対湿度が7g/m3以下、或いは、絶対湿度が13g/m3以上の環境で、且つ、乾球温度0℃〜40℃の環境にしている。
【0030】
すなわち、本実施形態に係るガラス板の梱包方法においては、大気圧が1013hPaの場合、温度が40℃であれば相対湿度が14%〜26%の範囲を外れるようにし、温度が30℃であれば相対湿度が23%〜43%の範囲を外れるようにし、温度が20℃であれば相対湿度が41%〜75%の範囲を外れるようにし、温度が10℃であれば相対湿度が75%〜100%の範囲を外れるようにし、温度が5℃以下であれば全ての相対湿度を許容する(相対湿度0%〜100%全てOK)ことになる。
【0031】
このように保管中の温湿度を管理することによって、積層状態となっている素板31同士の間に挟まれた合紙33からガラス板である素板31に転移・付着する粘着異物34の量(数)が、極めて少なくなる。その転移・付着の程度であるが、洗浄工程S5を経ることでガラス基板(素板31を切断・面取りしたガラス板)からほぼ除去される程度である。このため、保管環境を工夫した本実施形態に係るガラス板の梱包方法を採用すれば、出荷されるガラス基板には殆ど粘着異物34が付着していない状態となり、出荷先におけるガラス基板の表面へのカラーフィルター層やTFT回路の形成時にTFT回路の断線や膜剥がれといった不具合が殆ど生じなくなる。
【符号の説明】
【0032】
20 パレット
30 ガラス板梱包体
31 素板(ガラス板)
33 合紙
34 粘着異物
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】特開2008−143542号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
古紙から回収した再生パルプを含む製紙原料から製造された再生紙である合紙を、隣接するガラス板同士の間に挟んで、複数枚のガラス板を積層し、積層された複数枚のガラス板を、絶対湿度が7g/m3以下、或いは、絶対湿度が13g/m3以上の環境下で保管することを特徴とする、ガラス板の梱包方法。
【請求項2】
積層された複数枚のガラス板を、乾球温度0℃〜40℃の環境下で保管する、
請求項1に記載のガラス板の梱包方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−14348(P2013−14348A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146791(P2011−146791)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(598055910)AvanStrate株式会社 (81)
【Fターム(参考)】