説明

ガラス板の製造方法

【課題】ヒ酸酸化物の使用量を極力減らしつつ、泡品質に優れたガラス板の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも一部が五酸化ヒ素(As25)である酸化ヒ素と、酸化アンチモン、酸化スズおよび酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種と、を清澄剤として含むガラス原料バッチを調製し、このガラス原料バッチを熔融し、成形してガラス板を製造する。ガラス原料バッチから清澄剤を除いた残部を100質量部として、清澄剤は、例えば、酸化ヒ素:0.01〜0.5質量部、酸化アンチモン:0〜3質量部、酸化スズ:0〜2質量部、酸化セリウム:0〜1質量部とすることができる。清澄剤において、酸化ヒ素の質量部よりも、酸化アンチモン、酸化スズおよび酸化セリウムの質量部の合計を大きくしても、良好な泡品質を有するガラス板を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清澄方法に特徴があるガラス板の製造方法に関し、特に無アルカリガラスの製造に有用なガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス原料を熔融する際には、いわゆる清澄剤が添加される。この清澄剤は、通常原料の熔融工程の初期において、それ自身の分解による気体の発生により泡を成長させ、熔融したガラスから中に含まれる泡の離脱を促進する効果を有している。また清澄剤は、熔融工程の後半においては、残留した微小な泡中の気体を吸収し、その消失を促進する効果も有する。
【0003】
無アルカリガラスは、液晶ディスプレイ基板等として近年需要が拡大しているが、融点が高いため、品質保持のためには清澄が重要となる。無アルカリガラスの場合、従来、清澄剤としては、亜ヒ酸(As23)が使用されてきた。亜ヒ酸とともに、硝酸塩に代表される酸化剤を添加して清澄を促進することも行われてきた。
【0004】
一方、三酸化アンチモン(Sb23)は、As23と同様な効果を示すことが知られており、「ガラス工学ハンドブック(山根正之ほか編、p292、朝倉書店、1999年刊)」には、一部でAs23に代わって使用されることが記載されている。
【0005】
近年種々の分野で、原料による環境への負担が重視される傾向にある。TFT液晶基板に主に用いられている無アルカリガラスの分野でも、従来清澄剤として使用してきたAs23をより環境への負担が小さいSb23やSnO2に転換することが提案されている。例えば、特開平10−59741号公報、特開平10−114538号公報等を参照されたい。
【0006】
特開平10−59741号公報には、「清澄剤としてSnO2を0.05〜2重量%添加すること」を特徴とし、清澄剤としてAs23を使用しない無アルカリガラスの製造方法が開示されている。
【0007】
また、特開平10−114538号公報には、「清澄剤としてSnO2を0.05〜2重量%及びSb23を0.05〜3重量%添加すること」を特徴とし、清澄剤としてAs23を使用しない無アルカリガラスの製造方法が開示されている。
【0008】
SnO2,Sb23とAs23を併用する清澄方法も提案されている。
【0009】
例えば、特開平10−130034号公報には、「ガラス原料調合物に清澄剤としてAs23を0.05〜2重量%及びSnO2を0.05〜2重量%添加することを特徴とする無アルカリガラスの製造方法」が開示されている。
【0010】
また、特開2001−151534号公報には、質量%表示で、清澄剤として「As230〜0.5%、SnO20.05〜1%、Sb230.05〜5%」を含有する液晶ディスプレイ用ガラス基板が開示されている。
【0011】
以上のとおり、清澄剤として原料に添加される酸化ヒ素は、通常、3価のヒ素酸化物である亜ヒ酸(As23)であるが、ヒ素酸化物としては、5価のヒ素酸化物である五酸化二ヒ素(As25;以下、五酸化ヒ素と表記する)も知られている。
【0012】
特開2001−261365号公報には、アルカリ成分を許容する磁気ディスク用ガラスの製造についての記述ではあるが、「ガラスの清澄促進のために、SO3、As25、Sb25等を含有してもよい」と記載されている。
【0013】
なお、特開昭63−225552号公報には、繊維用の無アルカリホウケイ酸ガラス組成物において、As25による清澄、さらにはAs25+CeO2による清澄、が開示されている。なお、このガラス組成物は、CaOを必須成分として16〜25重量%含有している。
【非特許文献1】ガラス工学ハンドブック(山根正之ほか編、p292、朝倉書店、1999年刊)
【特許文献1】特開平10−59741号公報
【特許文献2】特開平10−114538号公報
【特許文献3】特開平10−130034号公報
【特許文献4】特開2001−151534号公報
【特許文献5】特開2001−261365号公報
【特許文献6】特開昭63−225552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ヒ酸酸化物の使用量を極力減らしつつ、泡品質に優れたガラス板の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、少なくとも一部が五酸化ヒ素である酸化ヒ素と、酸化アンチモン、酸化スズおよび酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種とを清澄剤として含むガラス原料バッチを調製し、このガラス原料バッチを熔融し、成形してガラス板を得る、ガラス板の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明者の検討によると、酸化ヒ素の少なくとも一部を五酸化ヒ素(As25)とし、酸化ヒ素とともに、酸化アンチモン、酸化スズおよび酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種と清澄剤として用いることにより、酸化ヒ素の添加量を減らしながら、泡品質に優れたガラス板を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、成分の含有率を示す%表示はすべて質量%である。
【0018】
酸化ヒ素の少なくとも一部を五酸化ヒ素(As25)として他の清澄剤と併用することにより、酸化ヒ素の添加量を減らしつつ泡品質に優れたガラスを製造できる理由の詳細は、現時点では明らかではないが、以下のように考えている。
【0019】
通常、酸化ヒ素として用いられる亜ヒ酸(三酸化ヒ素:As23)は、1000〜1200℃で、亜ヒ酸と併用される硝酸塩から放出される酸素を奪いAs25になり、それがより高温の1300℃以上で、再びAs23に戻る際に酸素を放出する。この酸素の撹拌効果によって、ガラスの清澄が行われる。
【0020】
ここで、酸化ヒ素として五酸化ヒ素(As25)を用いると、例えば硝酸塩から放出される酸素を奪う必要がなく、より効率的に酸素を放出できる。したがって、清澄が良好に行われるものと考えられる。
【0021】
加えて、分解温度の異なる他の清澄剤を併用することによって、幅広い温度域で清澄が行われる。例えば、酸化アンチモンは、酸化ヒ素よりかなり低い温度で酸素を放出する。また酸化セリウムは1400℃で分解して、酸素を放出する。このことでも、清澄が良好に行われるものと考えられる。
【0022】
なお、本発明の製造方法では、酸化ヒ素の少なくとも一部が五酸化ヒ素であればよく、酸化ヒ素として、亜ヒ酸(三酸化ヒ素:As23)が含まれていてもよい。
【0023】
本発明の好ましい一形態では、ガラス原料バッチが、少なくとも、酸化アンチモンおよび酸化スズから選ばれる少なくとも1種、特に、少なくとも酸化アンチモンを清澄剤として含む。酸化アンチモンは、具体的には、五酸化アンチモン(Sb25)および三酸化アンチモン(Sb23)から選ばれる少なくとも1種とするとよい。別の側面からの本発明の好ましい一形態では、ガラス原料バッチが、少なくとも、a)少なくとも一部が五酸化アンチモンである酸化アンチモンと、b)酸化スズおよび酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種とを清澄剤として含む。この形態では、ガラス原料バッチが少なくとも酸化スズを清澄剤として含むとよく、この場合、ガラス原料バッチは、酸化ヒ素とともに、五酸化アンチモンおよび酸化スズを清澄剤として含むことになる。
【0024】
本発明の製造方法を適用するガラス組成に特段の制限はないが、本発明は、原料バッチから上記清澄剤を除いた残部が、実質的にアルカリ金属酸化物を含まないガラスとなるように調製されている場合、特に、実質的に以下の組成からなるガラスとなるように調製されている場合に適している。
【0025】
SiO2 45〜70%、
Al23 7.5〜25%、
23 4〜17.5%、
MgO 0〜10%、
CaO 0〜10%、
SrO 0〜10%、
BaO 0〜30%、
MgO+CaO+SrO+BaO 5〜30%、
TiO2 0〜 5%、
ZrO2 0〜 5%、
ZnO 0〜 5%、
Cl2 0〜0.5%、
SO3 0〜0.5%。
【0026】
上記の組成は、Fe23、Na2Oに代表される上記以外の成分を、それぞれ0.1%未満の範囲で含んでいてもよい。特にガラスの工業的生産では、工業原料由来の微量の不純物を避けがたい場合がある。本明細書において、「実質的に」とは、0.1%未満の範囲で微量成分の存在を許容する趣旨である。従って、「実質的にアルカリ金属酸化物を含まないガラス」は、アルカリ金属酸化物の含有率が0.1%未満であるガラスを意味する。
【0027】
なお、上記に列挙した成分には、Cl2、SO3のように、清澄作用を有する成分が含まれているが、ここでは、酸化ヒ素、酸化アンチモン、酸化スズおよび酸化セリウムを除く成分はすべて「残部」に含めることとする。本明細書における「上記清澄剤」は、酸化ヒ素、酸化アンチモン、酸化スズおよび酸化セリウムの4成分である。
【0028】
本発明は、SiO2の含有率が高く、この高い含有率によって融点が高くなったガラスの製造に適している。本発明は、上記「残部」が57〜70%のSiO2を含むガラスとなるように調製されている場合に特に適している。
【0029】
本発明の製造方法では、ガラス原料バッチから上記清澄剤を除いた残部を100質量部として、上記清澄剤が、
酸化ヒ素 0.01〜0.5質量部、
酸化アンチモン 0〜 3質量部、
酸化スズ 0〜 2質量部、
酸化セリウム 0〜 1質量部、
を含むことが好ましい。
【0030】
本発明によれば、清澄剤に含まれる酸化ヒ素の量を制限しながらガラスの泡品質を改善できる。例えば、上記清澄剤に含まれる酸化ヒ素は、0.01〜0.25質量部、0.01〜0.15質量部、さらには0.01〜0.1質量部であってもよい。上記清澄剤は、0.01〜3質量部の酸化アンチモンを含んでいてもよく、0.05〜2質量部の酸化スズを含んでいてもよく、0.05〜1質量部の酸化セリウムを含んでいてもよい。
【0031】
本発明の製造方法では、上記清澄剤において、酸化ヒ素の質量部よりも、酸化アンチモン、酸化スズおよび酸化セリウムの質量部の合計を大きくしてもよく、酸化アンチモン、酸化スズおよび酸化セリウムの質量部の合計を、酸化ヒ素の質量部の3倍以上、さらには5倍以上としてもよい。
【0032】
本発明の製造方法では、質量基準で、酸化ヒ素の半分(50%)以上、60%以上、さらには90%以上、を五酸化ヒ素とすることが好ましく、酸化ヒ素の全量が五酸化ヒ素であってもよい。
【0033】
本発明は、ガラス原料バッチが、上記残部が上記に例示した組成となるように調製された場合に適しているが、さらに、当該ガラス原料バッチが、さらに、歪点が575℃、特に630℃、よりも高く、熱膨張係数が28〜46×10-7/℃の範囲にあるガラスが得られるように調製された、ガラスの製造方法に適している。また、ガラス原料バッチが、さらに、当該ガラス原料バッチの熔融物の粘性が102dPa・secであるときの温度が1615℃以上となるように調製された、ガラスの製造方法に適している。
【0034】
本発明の製造方法では、ガラス原料バッチから清澄剤を除いた残部が、酸化剤を含んでいてもよい。酸化剤は、硝酸塩および/または硫酸塩、特に、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムに代表される2族元素の硝酸塩および2族元素の硫酸塩から選ばれる少なくとも1種、が適している。
【0035】
硝酸塩および/または硫酸塩である酸化剤は、ガラス原料バッチから上記清澄剤を除いた残部100質量部のうち、10質量部までとなるように添加するとよい。
【0036】
本発明の製造方法において酸化剤を用いる場合には、清澄作用を高めるために、清澄剤と酸化剤とを予備混合することが好ましい。即ち、酸化ヒ素と、酸化アンチモン、酸化スズおよび酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種と、酸化剤との混合物を調製し、その後、この混合物と、ガラス原料バッチの上記混合物を除く残部と、を混合して、ガラス原料バッチを得るとよい。
【0037】
ガラス原料バッチの熔融、さらに熔融したバッチの成形は、公知の方法に従って行えばよい。ガラス原料バッチは、その組成等に応じた温度、例えば1550℃以上、で熔融するとよい。
【0038】
熔融したガラス原料バッチは、所定の形状へと成形され、徐冷される。熔融したガラス原料バッチは、例えば、フュージョン法、ダウンドロー法、フロート法、これらを改良した各種方法により、ガラス板へと成形される。
【0039】
以下、本発明の適用が好ましい、上記に成分を例示したガラス組成について、その限定理由を説明する。ただし、以下の%表示は質量%表示である。
【0040】
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分である。その含有率が低すぎると、ガラスの耐薬品性が悪化すると共に、歪点が低下し十分な耐熱性が得られなくなる。一方含有率が高すぎると、高温域での粘性が高くなって熔融が困難になる。したがって、SiO2の下限は45%、さらに50%、特に57%であることが好ましい。SiO2の好ましい上限は70%である。
【0041】
Al23は、ガラスの失透性を抑制すると共に、耐熱性を向上させる成分である。その含有率が低すぎると、失透しやすくなる。一方含有率が高すぎると、耐酸性が低下すると共に、熔解性が悪化する。したがって、Al23の下限は7.5%、さらには10%であることが好ましい。Al23の上限は25%、さらには20%であることが好ましい。
【0042】
23はガラスの熔解性を向上させ、失透性を抑制すると共に、耐薬品性特にバッファードフッ酸に対する耐久性を向上させる成分である。その含有率が低すぎると、ガラスの熔解性が悪化すると共に、バッファードフッ酸に対する耐久性が不足する。一方含有率が高すぎると、ガラスの歪点が低下し、耐熱性が不十分となる。したがって、B23の下限は4%、さらには7.5%であることが好ましい。B23の上限は17.5%、さらには15%であることが好ましい。
【0043】
MgO,CaO,SrOおよびBaOは、このうち少なくとも一種類を含有し、その合計含有率を5〜30%とするとよい。合計含有率が低すぎると、ガラスの熔融が困難になる。一方合計含有率が高すぎると、ガラスの膨張係数が大きくなり過ぎる。したがって、合計含有率の好ましい下限は5%であり、合計含有率の好ましい上限は30%、さらには17.5%である。
【0044】
MgOは、歪点を余り下げずに、ガラスの熔解性を向上できる成分である。その含有率が高すぎると、ガラスの失透温度が高くなる。したがって、MgOの上限は10%、さらには7.5%であることが好ましい。
【0045】
CaOは、MgOと同様な効果を有する成分である。その含有率が高すぎると、ガラスの失透温度が高くなる。したがって、CaOの好ましい上限は10%である。
【0046】
SrOは、ガラスの失透性を悪化させずに、熔解性を向上できる成分である。その含有率が高すぎると、ガラスの膨張係数が大きくなり過ぎる。したがって、SrOの好ましい上限は10%である。
【0047】
BaOは、ガラスの失透性を抑制できる成分である。その含有率が高すぎると、ガラスの膨張係数が大きくなり過ぎる。したがって、BaOの上限は30%、さらには15%であることが好ましい。
【0048】
TiO2は、例えば、ディスプレイ基板としての機能を損なわない範囲で、5%程度まで含有させることができる。
【0049】
ZrO2は、ガラスの歪点を上昇させ、耐酸性や耐アルカリ性を向上させるので、含有させることが望ましい成分である。しかし、その含有率が5%を超えると、脈理や失透を生じ易くなり、熔融性も悪化させる。
【0050】
ZnOはガラスの失透性を抑制すると共に熔解性を向上できる成分である。その含有率が5%を超えると、ガラスの歪点が低下する。
【0051】
Cl2は、清澄剤として作用し、ガラス中に1%まで残存してもよい成分である。
【0052】
SO3は、酸化剤として用いる硫酸塩の残部として、ガラス中に0.5%まで残存してもよい成分である。
【0053】
以上をまとめると、本発明をより好ましく適用できるガラスの組成は、以下のとおりとなる。
【0054】
SiO2 50〜70%、
Al23 10〜20%、
23 7.5〜15%、
MgO 0〜7.5%、
CaO 0〜10%、
SrO 0〜10%、
BaO 0〜15%、
MgO+CaO+SrO+BaO 5〜17.5%、
TiO2 0〜 5%、
ZrO2 0〜 5%、
ZnO 0〜 5%、
Cl2 0〜0.5%、
SO3 0〜0.5%
からなるガラス組成である。
【0055】
(実施例1〜10)
酸化物に換算して、表1に示した基本ガラス組成になるように、基本ガラス原料をそれぞれ調合した。この基本ガラス原料を100質量部とし、これに対して、表2と表3に示した清澄剤を、それぞれ示した質量部割合で、基本ガラス原料に添加し、各実施例におけるガラス原料バッチとした。また、基本ガラス原料100質量部のうち、表2と表3に示した質量部を硫酸塩または硝酸塩として添加した。
【0056】
(表1)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
成分 SiO2 Al2323 MgO CaO SrO BaO
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
質量% 60.5 15.0 7.5 1.5 5.5 4.0 6.0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0057】
各組成成分の原料としては、基本的に、SiO2:珪石粉、Al23:アルミナ、B23:ホウ酸、MgO:炭酸マグネシウム、CaO:炭酸カルシウム、SrO:炭酸ストロンチウム、BaO:炭酸バリウムを用いた。
【0058】
ただし、酸化剤として硫酸塩を使用する場合には、カルシウム原料の一部として硫酸カルシウムを使用した。また、酸化剤として硝酸塩を使用する場合には、マグネシウム、ストロンチウムおよびバリウムの硝酸塩を用い、炭酸塩との割合を変えることによって硝酸塩の量を調整した。
【0059】
また、上記清澄剤の原料としては表中に表記のとおりの価数の酸化物を用いた。即ち、例えばAs23の原料としては三酸化ヒ素を、As25の原料としては五酸化ヒ素を用いた。
さらに、実施例8では、上記清澄剤(五酸化ヒ素、五酸化アンチモンおよび酸化スズ)と酸化剤とを、基本ガラス原料に混合する前に、予め混合(予備混合)しておいた。
【0060】
(表2)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
実施例1 実施例2 実施例3 実施例4 実施例5 実施例6
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
As23 0.1 0.05 0.075 −−− −−− −−−
As25 0.1 0.1 0.025 0.1 0.1 0.1
Sb23 2.0 2.0 −−− −−− −−− −−−
Sb25 −−− −−− 2.0 2.0 2.0 2.0
SnO2 −−− 0.4 −−− −−− −−− −−−
CeO2 −−− −−− −−− −−− −−− 0.5
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
酸化剤
硫酸塩 −−− −−− −−− −−− 1.5 −−−
硝酸塩 9.4 9.4 9.4 −−− −−− −−−
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
予備混合 − − − − − −
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
泡数 25 75 160 160 140 120
(個/100g)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
酸化ヒ素
揮発量 0.6 0.4 0.3 0.3 0.3 0.3
(g/kg)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*表中においても成分は質量%表示である。
【0061】














(表3)
――――――――――――――――――――――――――――
実施例7 実施例8 実施例9 実施例10
――――――――――――――――――――――――――――
As23 −−− −−− −−− −−−
As25 0.1 0.1 0.1 0.1
Sb23 −−− −−− −−− −−−
Sb25 2.0 2.0 −−− 2.5
SnO2 0.1 0.1 1.0 −−−
CeO2 −−− −−− −−− −−−
――――――――――――――――――――――――――――
酸化剤
硫酸塩 −−− −−− −−− −−−
硝酸塩 9.4 9.4 9.4 9.4
――――――――――――――――――――――――――――
予備混合 − 有 − −
――――――――――――――――――――――――――――
泡数 60 40 55 40
(個/100g)
――――――――――――――――――――――――――――
酸化ヒ素
揮発量 0.3 0.3 0.3 0.3
(g/kg)
――――――――――――――――――――――――――――
*表中においても成分は質量%表示である。
【0062】
このようにして調合した各バッチを白金るつぼを用いて、1600℃の電気炉にて4時間熔融した後、融液をステンレス板上に流し出して板状に成形し、その後室温まで冷却した。得られた各ガラスの中央部の5cm平方において、光学顕微鏡を用いて泡数を測定し、100g当たりの数に換算した。それぞれの結果を表2と表3に併せて示した。
【0063】
また、得られたガラス中の酸化ヒ素の残存量を、検量線を用いた蛍光X線による定量法にて測定し、残存量と原料に添加した量の差から、熔融中に揮発した酸化ヒ素の量を求めた。揮発量はガラス1kg当たりに換算した。こうして求めた酸化ヒ素の揮発量を、表2と表3に併せて示した。
【0064】
(比較例1〜3)
比較例1は、酸化ヒ素を添加しなかった例である。
比較例2は、酸化ヒ素の全量を亜ヒ酸(As23)で添加した例である。
比較例3は、酸化ヒ素(亜ヒ酸)を多く添加し、酸化アンチモンを添加しなかった従来参考例である。
【0065】
比較例1〜3について、上述した実施例と同様に、基本ガラス原料をそれぞれ調合した。この基本ガラス原料を100質量部とし、これに対して、表4に示した清澄剤および酸化剤をそれぞれ示した質量部割合で、基本ガラス原料に添加し調合して、各比較例におけるガラス原料バッチとした。
【0066】



(表4)
――――――――――――――――――――――――――
比較例1 比較例2 比較例3
――――――――――――――――――――――――――
As23 −−− 0.1 1.2
Sb23 2.0 −−− −−−
Sb25 −−− 2.0 −−−
――――――――――――――――――――――――――
酸化剤
硝酸塩 9.4 9.4 9.4
――――――――――――――――――――――――――
泡数 280 200 30
(個/100g)
――――――――――――――――――――――――――
酸化ヒ素揮発量 −−− 0.3 3.6
(g/kg)
――――――――――――――――――――――――――
*表中においても成分は質量%表示である。
【0067】
これら各バッチを、実施例と同様に熔融してガラスを得た。また泡数も同様に測定し、それぞれの結果を表4に併せて示した。
【0068】
以下に、実施例や比較例の対比によって、見出されたことについて述べる。
実施例1〜10と、比較例1や2との対比の結果から、清澄剤として五酸化ヒ素を用い、他の清澄剤や酸化剤と併用することによって、泡数を少なくすることができる。
【0069】
実施例1〜10において、酸化ヒ素の割合が最大の例は実施例1であり、その割合は基本ガラス組成物100質量部に対して、0.2質量部であって、0.25質量部以下である。さらに、実施例3〜10では0.1質量部である。
【0070】
実施例1や8と、比較例3との対比から、清澄剤として五酸化ヒ素を用い、アンチモン酸化物やスズ酸化物を併せて用いると、酸化ヒ素の量がそれぞれ1/6や1/10以下と少ない場合でも、泡数はあまり変わらないレベルである。したがって、基本ガラス組成物100質量部に対して、酸化ヒ素を0.25質量部以下、さらには0.1質量部以下としても、泡品質が良好である。
【0071】
実施例3と比較例2との対比から、酸化ヒ素の少なくとも一部を五酸化ヒ素とすると、泡数が少なくなることが分かる。
【0072】
実施例1と実施例3とを参考にしながら、実施例2と実施例7とを対比する。その結果、実施例7は、酸化ヒ素の量としては少ないながら、酸化ヒ素の全量を五酸化ヒ素で用いているので、泡数が少なくなっていることが分かる。
【0073】
実施例4と比較例2との対比から、酸化ヒ素を五酸化ヒ素の形で用いないと、泡数が多くなることが分かる。
【0074】
実施例5と実施例6との対比から、五酸化ヒ素と、五酸化アンチモンに加えて、酸化セリウムを清澄剤として同時に用いると、泡数が少なくなることが分かる。
【0075】
実施例4と実施例7との対比から、五酸化ヒ素と、五酸化アンチモンに加えて、酸化スズを清澄剤として同時に用いると、泡数が少なくなることが分かる。
【0076】
実施例7と実施例8との対比から、予備混合により清澄剤の組み合わせや、それらの量が同じであっても、泡数が少なくなることが分かる。
【0077】
実施例9の結果から、五酸化ヒ素と酸化スズを清澄剤として同時に用いると、泡数が少なくなることが分かる。
【0078】
実施例4と実施例5との対比から、酸化剤として硫酸塩を用いると、泡数が少なくなることが分かる。
【0079】
比較例1では、清澄剤として三酸化アンチモンのみを用いた場合であり、泡数が多いこが分かる。
【0080】
比較例3では、清澄剤として亜ヒ酸を多く用いているので、泡数は少ないが、酸化ヒ素の揮発量が多いことが分かる。
【0081】
各実施例から得られたガラスの熱膨張係数は、28〜46×10-7/℃の範囲にあり、歪点はいずれも630℃以上であった。また、各実施例のガラス原料バッチの熔融物の粘性が102d・secとなるときの温度は、いずれも1615℃以上であった。なお、熱膨張係数の測定は、JIS R 3102に準じて行った。歪点の測定は、JIS R 3103に準じて行った。粘性の測定は、JIS R 3104に準じて行った。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、ヒ酸酸化物の使用量を極力減らしつつ、泡品質に優れたガラスを製造する方法を提供するものとして、ガラス製造の技術分野において多大な利用価値を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が五酸化ヒ素である酸化ヒ素と、酸化アンチモン、酸化スズおよび酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種とを清澄剤として含むガラス原料バッチを調製し、
前記ガラス原料バッチを熔融し、成形してガラス板を得る、ガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス原料バッチが、少なくとも、酸化アンチモンおよび酸化スズから選ばれる少なくとも1種を清澄剤として含む請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス原料バッチが、少なくとも酸化アンチモンを清澄剤として含む請求項2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス原料バッチが、少なくとも、
a)少なくとも一部が五酸化アンチモンである酸化アンチモンと、
b)酸化スズおよび酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種と、
を清澄剤として含む請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス原料バッチが、少なくとも酸化スズを清澄剤として含む請求項4に記載のガラス板の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス原料バッチから前記清澄剤を除いた残部が、質量%で表示して、実質的に以下の組成からなるガラスとなるように調製された、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
SiO2 45〜70%、
Al23 7.5〜25%、
23 4〜17.5%、
MgO 0〜10%、
CaO 0〜10%、
SrO 0〜10%、
BaO 0〜30%、
MgO+CaO+SrO+BaO 5〜30%、
TiO2 0〜 5%、
ZrO2 0〜 5%、
ZnO 0〜 5%、
Cl2 0〜0.5%、
SO3 0〜0.5%
【請求項7】
前記ガラス原料バッチから前記清澄剤を除いた残部が、57〜70質量%のSiO2を含むガラスとなるように調製された、請求項6に記載のガラス板の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス原料バッチから前記清澄剤を除いた残部を100質量部として、前記清澄剤が、
酸化ヒ素 0.01〜0.5質量部、
酸化アンチモン 0〜 3質量部、
酸化スズ 0〜 2質量部、
酸化セリウム 0〜 1質量部、
を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項9】
前記清澄剤が、0.01〜0.25質量部の酸化ヒ素を含む請求項8に記載のガラス板の製造方法。
【請求項10】
前記清澄剤が、0.01〜0.15質量部の酸化ヒ素を含む請求項9に記載のガラス板の製造方法。
【請求項11】
前記清澄剤が、0.01〜0.1質量部の酸化ヒ素を含む請求項10に記載のガラス板の製造方法。
【請求項12】
前記清澄剤が、0.01〜3質量部の酸化アンチモンを含む請求項8〜11のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項13】
前記清澄剤が、0.05〜2質量部の酸化スズを含む請求項8〜12のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項14】
前記清澄剤が、0.05〜1質量部の酸化セリウムを含む請求項8〜13のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項15】
前記清澄剤において、前記酸化ヒ素の質量部よりも、前記酸化アンチモン、前記酸化スズおよび前記酸化セリウムの質量部の合計が大きい請求項8〜14のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項16】
前記清澄剤において、前記酸化アンチモン、前記酸化スズおよび前記酸化セリウムの質量部の合計が、前記酸化ヒ素の質量部の5倍以上である、請求項15に記載のガラス板の製造方法。
【請求項17】
質量基準で、前記酸化ヒ素の半分以上が五酸化ヒ素である請求項1〜16のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項18】
前記酸化ヒ素の全量を五酸化ヒ素として添加する請求項17に記載のガラス板の製造方法。
【請求項19】
前記ガラス原料バッチが、歪点が575℃よりも高く、熱膨張係数が28〜46×10-7/℃の範囲にあるガラスが得られるように調製された、請求項6に記載のガラス板の製造方法。
【請求項20】
前記ガラス原料バッチが、歪点が630℃よりも高く、熱膨張係数が28〜46×10-7/℃の範囲にあるガラスが得られるように調製された、請求項6に記載のガラス板の製造方法。
【請求項21】
前記ガラス原料バッチが、当該ガラス原料バッチの熔融物の粘性が102dPa・secであるときの温度が1615℃以上となるように調製された請求項6に記載のガラス板の製造方法。
【請求項22】
前記ガラス原料バッチから前記清澄剤を除いた残部が、酸化剤を含む請求項1〜21のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項23】
前記酸化剤が、2族元素の硝酸塩および2族元素の硫酸塩から選ばれる少なくとも1種である請求項22に記載のガラス板の製造方法。
【請求項24】
前記酸化ヒ素と、前記酸化アンチモン、酸化スズおよび酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種と、前記酸化剤との混合物を調製し、前記混合物を前記ガラス原料バッチの残部と混合して当該ガラス原料バッチを得る、請求項22または23に記載のガラス板の製造方法。
【請求項25】
前記ガラス原料バッチを1550℃以上で熔融する、請求項1〜24のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。

【公開番号】特開2007−137696(P2007−137696A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330812(P2005−330812)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【出願人】(598055910)NHテクノグラス株式会社 (81)
【Fターム(参考)】