説明

ガラス板熱処理用セッタおよびこれを用いた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法

【課題】本発明は、より平滑性の向上および表面欠陥の低減を図ることができるガラス板熱処理用セッタおよびこれを用いた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のガラス板熱処理用セッタSTは、処理対象のガラス板とこのガラス板を載置したガラス板熱処理用セッタSTとを積層した一対の積層対体を複数さらに積層した積層体を形成し、この積層体の状態で所定の熱処理を行うように用いられる、このガラス板熱処理用セッタSTであって、平行で互いに対向する上表面SFaおよび下表面SFbと上表面SFaから下表面SFbに至る端面EDとを備える板状体であり、端面EDの表面粗さは、上表面SFaの表面粗さおよび下表面SFbの表面粗さよりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板熱処理用セッタに関し、特に、ガラス板に生じる欠陥を低減することができるガラス板熱処理用セッタに関する。そして、本発明は、このガラス板熱処理用セッタを用いて情報記録媒体用ガラス基板を製造する情報記録媒体用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板は、その物性から種々の基板として利用されている。例えば、ガラス基板は、平面ディスプレイパネルの基板および情報記録媒体の基板等として用いられている。例えば、この情報記録媒体の基板として用いられる場合では、磁気、光および光磁気等を利用した記録層がガラス基板上に形成され、情報記録媒体とされ、その代表的には、ハードディスクドライブに用いられる磁気ディスクがある。このハードディスクドライブに用いられる磁気ディスクでは、近年、記録密度の向上を図るために、磁気ヘッドの浮上量の低減が要請されており、従来のアルミニウム基板に代わって、表面の平滑性に優れ、表面の欠陥が少ないことから、特にガラス基板が多く用いられるようになってきている。
【0003】
このような種々の用途に利用されるガラス基板は、熱処理工程を経て製造されることが多い。このガラス基板に所定の熱処理を施す熱処理工程では、ガラス基板を加熱炉内に搬送し、そして、熱処理中にガラス基板を支えるために、ガラス基板熱処理用セッタが一般に用いられる。このガラス基板熱処理用セッタは、一般的には、熱処理中に発生する反りを抑制するために、熱処理に応じた熱膨張および熱収縮の少ない耐熱性材料から成り、平坦かつ平滑な載置面を備えた板状体である。熱処理が施されるガラス基板は、このガラス基板熱処理用セッタの載置面上に載置され、加熱炉内へ搬送され、加熱処理される。
【0004】
このようなガラス基板熱処理用セッタは、例えば、特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示のガラス基板熱処理用セッタは、ガラス基板を表面に載置した状態で搬送手段により加熱炉に送給される矩形平板状のガラス基板熱処理用セッタであって、側縁における端部の該側縁に沿う方向と直交する縦断面の輪郭形状が、相互に平行な表面および裏面のそれぞれの始端位置を境界として、それらの始端位置からそれぞれ外方側に移行するに連れて肉厚方向中央部に漸次近づく直線から成る漸近線と、それらの漸近線の外方向の端部に連なる凸状湾曲線とからなり、上記表面および裏面と各漸近線との成す角度θが10〜30゜であるとともに、各漸近線の外方側の端部に凸状湾曲線が滑らかに連なり、かつ各漸近線の長さが凸状湾曲線の長さよりも長尺であるものである。このようなガラス基板熱処理用セッタは、特許文献1によれば、ガラス基板を載置させるセッタの端部が、このセッタを加熱炉に導くための搬送手段に当接あるいは衝突することに起因して、セッタの端部に欠けや割れが発生するという不具合を可及的に抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4399720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、ハードディスクドライブのような情報記録媒体の記録面から記録ヘッドを浮上させて前記記録層に対しデータを読み書きする記録ヘッド浮上型の情報記録装置では、前記情報記録媒体の記録層と前記浮上させた記録ヘッドとの間における例えばヘッドクラッシュならびにデータの書き込みエラーおよび読み取りエラー等の不具合を避けるために、前記記録層の表面における平滑性や低表面欠陥性が求められ、その結果、前記記録面を形成する情報記録媒体用ガラス基板もその平滑性の向上やその表面欠陥の低減が求められている。
【0007】
特に、ハードディスクドライブの場合では、近年では、その記録密度の向上を図るため、磁気ヘッドと磁気記録層の表面との間の浮上量は、例えば数nm〜十数nm程度の極めて短い間隔が要請されており、このため、情報記録媒体用ガラス基板もこれに対応可能な高度な平滑性や低表面欠陥性が要求されている。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、より平滑性の向上および表面欠陥の低減を図ることができるガラス板熱処理用セッタおよびこれを用いた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、種々の調査および検討した結果、情報記録媒体用ガラス基板の製造工程において、比較的初期の段階で実施される熱処理工程(アニール)に使用されるガラス基板熱処理用セッタの表面粗さが最終的に得られる情報記録媒体用ガラス基板における表面欠陥の原因となることを突き止め、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかるガラス板熱処理用セッタは、処理対象のガラス板と前記ガラス板を載置したガラス板熱処理用セッタとを積層した一対の積層対体を複数さらに積層した積層体を形成し、前記積層体の状態で所定の熱処理を行うように用いられる前記ガラス板熱処理用セッタであって、平行で互いに対向する上表面および下表面と前記上表面から前記下表面に至る端面とを備える板状体であり、前記端面の表面粗さは、前記上表面の表面粗さおよび前記下表面の表面粗さよりも小さいことを特徴とする。
【0010】
このような構成のガラス板熱処理用セッタでは、積層体を形成する際にガラス板とガラス板熱処理用セッタとが接触した場合や、熱処理後に前記積層体からガラス板とガラス板熱処理用セッタとを分別する際にガラス板とガラス板熱処理用セッタとが接触した場合に、ガラス板熱処理用セッタの端面におけるその表面粗さが上下表面の表面粗さよりも小さいので、ガラス板熱処理用セッタがガラス板に欠陥を生じさせることがより低減され、また接触に伴うガラス板の欠け屑やガラス板熱処理用セッタの欠け屑の発生も低減される。このため、このような構成のガラス板熱処理用セッタは、ガラス板から生成される所定のガラス基板、例えば情報記録媒体用ガラス基板に対し、より平滑性の向上および表面欠陥の低減を図ることができる。
【0011】
また、他の一態様では、上述のガラス板熱処理用セッタにおいて、前記端面の表面粗さのRa値は、0.005μm≦Ra≦0.4μmであることを特徴とする。
【0012】
このような構成のガラス板熱処理用セッタは、後述の実施例から明らかなように、ガラス板から生成される所定のガラス基板に対し、より平滑性の向上および表面欠陥の低減を図ることができる。
【0013】
また、他の一態様では、これら上述のガラス板熱処理用セッタにおいて、前記上表面、前記端面および前記下表面は、前記上表面の法線方向を含む縦断面の輪郭線が常に微分係数を持つように連続して連なっていることを特徴とする。
【0014】
このような構成のガラス板熱処理用セッタは、輪郭線に微分係数の存在しない特異点がなく、その表面にいわゆる角がないので、ガラス板から生成される所定のガラス基板に対し、より平滑性の向上および表面欠陥の低減を図ることができる。
【0015】
また、他の一態様では、これら上述のガラス板熱処理用セッタにおいて、前記端面は、前記上表面から前記下表面に至る厚さをtとした場合に0.15t≦R≦0.5tであるR面取りで形成されていることを特徴とする。
【0016】
このような構成のガラス板熱処理用セッタは、後述の実施例から明らかなように、ガラス板から生成される所定のガラス基板に対し、より平滑性の向上および表面欠陥の低減を図ることができる。
【0017】
また、他の一態様にかかる、処理対象の複数のガラス板に所定の熱処理を行う熱処理工程を少なくとも備え、情報記録媒体用ガラス基板を製造する情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、前記熱処理工程は、前記複数のガラス板と、前記ガラス板を載置するための複数のガラス板熱処理用セッタとを、前記ガラス板熱処理用セッタを最下層として、交互に積層して積層体を形成する交互積層工程と、前記積層体を加熱する加熱工程と、前記加熱工程後の前記積層体から、前記複数のガラス板と、前記複数のガラス板熱処理用セッタとにそれぞれ分別する積層分別工程とを備え、前記ガラス板熱処理用セッタは、上述のいずれかのガラス板熱処理用セッタであることを特徴とする。
【0018】
このような構成の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、熱処理工程に上述のいずれかのガラス板熱処理用セッタを用いるので、ガラス板熱処理用セッタがガラス板に欠陥を生じさせることがより低減され、また接触に伴うガラス板の欠け屑やガラス板熱処理用セッタの欠け屑の発生も低減される。このため、このような構成の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、ガラス板から生成される所定のガラス基板、例えば情報記録媒体用ガラス基板に対し、より平滑性の向上および表面欠陥の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかるガラス板熱処理用セッタおよびこれを用いた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、ガラス板から生成される情報記録媒体用ガラス基板に対し、より平滑性の向上および表面欠陥の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態におけるガラス板熱処理用セッタを説明するための図である。
【図2】実施形態のガラス板熱処理用セッタを用いた熱処理工程を説明するための図である。
【図3】本実施形態におけるセッタを用いた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】実施形態の情報記録媒体用ガラス基板を用いた磁気記録媒体の一例である磁気ディスクを示す一部断面斜視図である。
【図5】第1なしい第5実施例における各セッタの断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。
【0022】
(実施形態)
図1は、実施形態におけるガラス板熱処理用セッタを説明するための図である。図1(A)は、実施形態のガラス板熱処理用セッタを示す断面図および端部を拡大した拡大断面図であり、図1(B)は、比較のための端部の拡大断面図である。図2は、実施形態のガラス板熱処理用セッタを用いた熱処理工程を説明するための図である。
【0023】
本実施形態におけるガラス板熱処理用セッタSTは、処理対象のガラス板に所定の熱処理を施す場合に、前記ガラス板を炉内へ搬入して前記炉内で前記ガラス板を加熱した後に前記炉外へ前記ガラス板を搬出する際に、前記ガラス板を支えるために用いられるものである。
【0024】
このようなガラス板熱処理用セッタSTは、図1(A)に示すように、所定の厚さおよび所定の形状を有し、互いに対向する上表面SFaおよび下表面SFbと、上表面SFaから下表面SFbに至る端面EDとを備える板状体である。上表面SFaと下表面SFbとは、互いに平行である。すなわち、端面EDは、上表面SFaが下表面FSbと非平行となっている上表面SFaの周縁部から始まり、下表面SFbが上表面FSaと非平行となっている下表面SFbの周縁部で終わる。前記所定の厚さおよび前記所定の形状は、本ガラス板熱処理用セッタSTが前記処理対象のガラス板を支えることから、この目的に適した任意の厚さおよび任意の形状でよい。前記所定の形状は、例えば、好ましくは、平面視における前記ガラス板の形状と相似形であって前記ガラス板よりやや大きい形状である。本実施形態では、ガラス板は、情報記録媒体用ガラス基板へ加工されることから、平面視において円板形状であり、このため、本実施形態のガラス板熱処理用セッタSTの前記所定の形状は、平面視において、これよりやや大径の円板形状である。前記上表面SFaおよび下表面SFbの一方または両方は、ガラス板を載置するための載置面であり、平坦かつ所定の表面粗さで形成されている。
【0025】
そして、ガラス板熱処理用セッタSTは、熱処理に用いられることから、熱処理に応じて熱膨張および熱収縮の少ない耐熱性材料(例えば、アルミナ系のセラミックスやパイレックス(登録商標)等の耐熱ガラス等)で形成される。
【0026】
ここで、本実施形態のガラス板熱処理用セッタSTは、端面EDの表面粗さは、上表面SFaの表面粗さおよび下表面SFbの表面粗さよりも小さくされている。すなわち、本実施形態のガラス板熱処理用セッタSTにおける端面EDは、図1(B)のように、上表面SFaおよび下表面SFbよりも粗いものではなく、図1(A)に示すように、上表面SFaおよび下表面SFbよりも滑らかなものとなっている。表面粗さは、例えば、JIS B 0601に規定された算術平均粗さであるRa値で表される。このような本実施形態のガラス板熱処理用セッタSTにおける端面EDは、上表面SFaの表面粗さおよび下表面SFbの表面粗さよりも小さくなるように、公知の常套手段を用いて研磨することによって形成することができる。
【0027】
そして、処理対象の複数のガラス板に所定の熱処理を行う所定の熱処理工程において、本実施形態のガラス板熱処理用セッタSTは、例えば、図2に示すように用いられる。
【0028】
熱処理工程の前に実施される所定の前工程から引き継ぐ図2に示す熱処理工程では、まず、交互積層工程が行われ、次に、加熱工程が行われ、次に、積層分別工程が行われる。そして、この熱処理工程が終了すると、熱処理工程の後に実施される所定の後処理工程へ引き継がれる。
【0029】
前記交互積層工程は、処理対象の複数のガラス板Gと、ガラス板Gを載置するための複数のガラス板熱処理用セッタSTとを、ガラス板熱処理用セッタSTを最下層として、交互に積層して積層体LSを形成するものである。このガラス板Gは、情報記録媒体用ガラス基板を製造する場合には、情報記録媒体用ガラス基板として加工が施されていないガラスであり、ブランク材と呼ばれるものである。
【0030】
より具体的には、図2の左側に示すように、予め複数のガラス板(ブランク材)Gを重ねたガラス板スタックが用意されるとともに、予め複数のガラス板熱処理用セッタSTを重ねたガラス板熱処理用セッタスタックが用意される。次に、最初にガラス板熱処理用セッタスタックから1枚のガラス板熱処理用セッタSTがロボットアームRAによって取り上げられ、所定の位置に配置される。ロボットアームRAは、ガラス板熱処理用センタSTおよびガラス板Gを取り上げ、移動し、そして、離すことができるように構成されている。ロボットアームRAは、例えば、先端を移動可能なリンク機構と、前記先端に取り付けられた、ワーク(ここではガラス板熱処理用センタSTおよびガラス板G)に吸引力を作用させることで前記ワークを着脱することができるワーク着脱部とを備えて構成される。前記吸引力は、例えば、ポンプ等で空気を引くことによって生成することができる。次に、ガラス板スタックから1枚のガラス板GがロボットアームRAによって取り上げられ、前記所定の位置に配置されたガラス板熱処理用セッタST上に積層するように、配置される。次に、ガラス板熱処理用セッタスタックから次の1枚のガラス板熱処理用セッタSTがロボットアームRAによって取り上げられ、前記ガラス板熱処理用セッタST上に積層されたガラス板G上に積層するように、配置される。次に、同様に、ガラス板スタックから次の1枚のガラス板GがロボットアームRAによって取り上げられ、前記ガラス板G上に積層されたガラス板熱処理用セッタST上に積層するように、配置される。以下同様に、ガラス板熱処理用セッタSTとガラス板Gとが1枚ずつ交互に積まれ、所定枚数のガラス板Gを積み、ガラス板熱処理用セッタSTを最下層およびその間に挟み込んだ積層体LSが形成される。
【0031】
前記加熱工程は、前記交互積層工程によって形成された積層体LSを加熱するものである。より具体的には、前記交互積層工程によって形成された積層体LSは、例えば、図2の中央に示すように、電気炉等の加熱炉内へ搬送され、次に、所定の時間、所定の温度で加熱され、そして、加熱が終わると、加熱炉から搬出される。例えば、情報記録媒体用ガラス基板を製造する場合では、加熱工程によって、熱処理工程の前工程であるプレス形成の際に生じた残存応力が開放され、反りが解消されるとともに、アモルファスガラスの結晶化が促進される。
【0032】
前記積層分別工程は、前記加熱工程後の積層体LSから、複数のガラス板Gと、複数のガラス板熱処理用セッタSTとにそれぞれ分別するものである。より具体的には、前記加熱炉から搬出された積層体LSは、図2の右側に示すように、ロボットアームRAによって上から順に一枚ずつ取り上げられ、ガラス板Gを取り上げた場合にはガラス板G用の所定の置き場に置かれるとともに、ガラス板熱処理用セッタSTを取り上げた場合にはガラス板熱処理用セッタ用の所定の置き場に置かれる。これによって、積層体LSが、複数のガラス板Gと、複数のガラス板熱処理用セッタSTとにそれぞれ分別される。
【0033】
このような本実施形態のガラス板熱処理用セッタSTでは、例えば、図2の左側にP1で示すように、積層体LSを形成する際にガラス板Gとガラス板熱処理用セッタSTとが接触した場合や、図2の右側にP2で示すように、熱処理後に積層体LSからガラス板Gとガラス板熱処理用セッタSTとを分別する際にガラス板Gとガラス板熱処理用セッタSTとが接触した場合に、ガラス板熱処理用セッタSTの端面におけるその表面粗さが上下表面SFa、SFbの表面粗さよりも小さいので、ガラス板熱処理用セッタSTがガラス板Gに欠陥を生じさせることがより低減され、また接触に伴うガラス板Gの欠け屑やガラス板熱処理用セッタSTの欠け屑の発生も低減される。このため、このような構成のガラス板熱処理用セッタSTは、ガラス板Gから生成される最終的な所定のガラス基板、例えば情報記録媒体用ガラス基板に対し、より平滑性の向上および表面欠陥の低減を図ることができる。
【0034】
<情報記録媒体用ガラス基板の製造方法>
次に、本実施形態におけるセッタSTを用いた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法について説明する。図3は、本実施形態におけるセッタを用いた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を示すフローチャートである。
【0035】
(ガラス溶融工程)
図3に示す情報記録媒体用ガラス基板の製造において、まず、ガラス素材を溶融するガラス溶融工程が行われる(S11)。情報記録媒体用ガラス基板の材料として、例えば、SiO、NaO、CaOを主成分とするソーダライムガラス、SiO、Al、R’O(R’は、K、Na、Liのうちから選択される1または複数の元素)を主成分とするアルミノシリケートガラスやボロシリケートガラス、LiO−SiO系ガラス、LiO−Al−SiO系ガラス、および、RO−Al−SiO系ガラス(Rは、Mg、Ca、Sr、Baのうちから選択される1つの元素)等が挙げられる。この中でも、特に、アルミノシリケートガラスやボロシリケートガラスは、耐衝撃性および耐振動性に優れるため、好ましい。
【0036】
(成型工程)
次に、ガラス溶融工程で溶融したガラス素材から所定のガラス板G(ブランク材B)を成型する成型工程が行われる(S12)。この成型工程では、まず、ガラス溶融工程で溶融したガラスが下型に流し込まれ、次に、これが上型によってプレス成形される。これによって例えば円板状のブランク材Bが得られる。なお、この円板状のブランク材Bは、プレス成形によらず、例えばダウンドロー法やフロート法で形成されたシートガラスを研削砥石で切り出すことによって作製されてもよい。ブランク材Bの大きさは、所望の寸法(サイズ)であってよく、特に限定されない。ブランク材Bは、例えば、外径が2.5インチ、1.8インチ、1インチおよび0.8インチ等の種々の大きさであってよい。また、ブランク材Bの厚さも、所望の寸法であってよく、特に限定されない。ブランク材Bは、例えば、2mm、1mm、0.63mm等の種々の厚さであってよい。
【0037】
(熱処理工程)
次に、成型工程で得られたブランク材Bを所定の温度で加熱する熱処理工程が行われる(S13)。この熱処理工程では、複数のブランク材(プレスガラス基板や切り出しガラス基板)Bと本実施形態の複数のセッタSTとが1枚ずつ交互に積層され、この交互に積層された積層体LSが高温電気炉内へ搬送され、そして、高温電気炉内を通過させられる。これによってブランク材Bの反りが解消されるとともにブランク材Bのガラス結晶化が促進され、ガラス基板GSが生成される。
【0038】
(第1ラッピング工程)
次に、熱処理工程で熱処理されたガラス基板GSを研磨加工する第1ラッピング工程が行われる(S14)。この第1ラッピング工程では、ガラス基板GSの両表面(上面および下面)が研磨加工される。これによってガラス基板GSの平行度、平坦度および厚みが予備調整される。
【0039】
(コアリング加工工程)
次に、情報記録媒体用ガラス基板を作成するために、第1ラッピング工程を経たガラス基板GSに貫通孔を開けるコアリング加工工程が行われる(S15)。このコアリング加工工程では、第1ラッピング工程後のガラス基板GSにおける中心部に例えばコアドリル等で研削することによって貫通孔(穴)が開けられる。このコアドリルは、カッター部にダイヤモンド砥石等を備えた工具である。
【0040】
(内外径加工工程)
次に、コアリング加工されたガラス基板の内径および外径を加工する内外径加工工程が行われる(S16)。この内外径加工工程では、ガラス基板GSの外周端面およびコアリング加工で開口された貫通孔の内周端面を例えば鼓状のダイヤモンド等の研削砥石で研削することによって内径および外径が加工される。これによって内径(内直径)および外径(外直径)が所定の寸法に調整される。
【0041】
(第2ラッピング工程)
次に、内外径加工されたガラス基板GSを更に研磨加工する第2ラッピング工程が行われる(S17)。この第2ラッピング工程では、ガラス基板GSの両表面が再び研磨加工される。これによってガラス基板GSの平行度、平坦度および厚みが所定の寸法に微調整される。
【0042】
第1および第2ラッピング工程において、ガラス基板GSの表裏の表面を研磨する研磨機は、例えば遊星歯車機構を利用した両面研磨機と呼ばれる公知の研磨機を使用することができる。この両面研磨機は、互いに平行になるように上下に配置された円盤状の上定盤および下定盤を備えており、互いに逆方向に回転する。この上定盤および下定盤における互いに対向する各対向面には、ガラス基板GSの主表面を研磨するための複数のダイヤモンドペレットが貼り付けられている。上定盤と下定盤との間には、下定盤の外周に円環状に設けてあるインターナルギアと下定盤の回転軸の周囲に設けてあるサンギアとに結合して回転する複数のキャリアがある。このキャリアには、複数の穴が設けてあり、複数のガラス基板GSがこれら複数の穴にそれぞれ嵌め込まれて配置される。上定盤、下定盤、インターナルギアおよびサンギアは、それぞれ、別駆動で動作することができる。
【0043】
研磨機の研磨動作では、上定盤および下定盤がそれぞれ互いに逆方向に回転し、ダイヤモンドペレットを介して上定盤および下定盤間に挟まれているキャリアは、複数のガラス基板GSを保持した状態で、自転しながら上定盤および下定盤の回転中心に対して下定盤と同じ方向に公転する。このように動作している研磨機において、研削液を上定盤とガラス基板GSとの間および下定盤とガラス基板GSとの間にそれぞれ供給することによってガラス基板GSの研磨が行われる。
【0044】
この両面研磨機を使用する際、ガラス基板GSに加わる上下定盤による加重および上下定盤の各回転数が所望の研磨状態に応じて適宜に調整される。第1および第2ラッピング工程における加重は、好ましくは60g/cmから120g/cmである。また、上下定盤の各回転数は、10rpmから30rpm程度とされ、上定盤の回転数は、好ましくは、下定盤の回転数より30%から40%程度遅くされる。上下定盤による加重を大きくし、上下定盤の回転数を速くすることによって、研磨量は、多くなるが、加重を大きくし過ぎると面粗さが良好とならず、また、回転数が速過ぎると平坦度が良好とならない。また、加重が小さく上下定盤の回転数が遅いと研磨量が少なく製造効率が低くなる。
【0045】
第2ラッピング工程を終えた時点で、大きなうねり、欠けおよびひび等の欠陥は、除去され、ガラス基板GSの主表面の面粗さは、好ましくは、Ra値が0.2μmから0.4μm程度であり、主表面の平坦度は、好ましくは、7〜10μmである。このような面状態にしておくことによって、次の第1ポリッシング工程での研磨を効率よく行うことができる。
【0046】
ここで、本願における表面粗さは、原子間力顕微鏡(デジタルインスツルメンツ社製ナノスコープ)を用いて、1μm×1μmの範囲を測定した値である。また、本願における平坦度は、平坦度測定装置で測定した値であり、ガラス基板GSの表面の最も高い位置と最も低い位置との高低差(PV値)である。
【0047】
なお、第1ラッピング工程では、第2ラッピング工程を効率よく行うことができるように、大まかに大きなうねり、欠けおよびひびが除去される。このため、第1ラッピング工程で使用されるダイヤモンドペレットは、好ましくは、粗さ#1300メッシュから#1700メッシュより粗い#800メッシュから#1200メッシュ程度である。第1ラッピング工程が完了した時点での面粗さは、好ましくは、Ra値が0.4μmから0.8μm程度であり、主表面の平坦度は、好ましくは、10〜15μmである。
【0048】
また、第1ラッピング工程の後および第2ラッピング工程の後に、ガラス基板GSの表面に残った研磨剤やガラス粉を除去するために、洗浄工程を行うことが好ましい。
【0049】
(端面研磨加工工程)
次に、第2ラッピング工程後のガラス基板GSにおける端面を研磨加工する端面研磨加工工程が行われる(S18)。この端面研磨加工工程では、第2ラッピング工程を終えたガラス基板GSにおける外周面および内周面が例えば端面研磨機で研磨加工される。
【0050】
(第1ポリッシング工程)
次に、端面研磨加工工程を経たガラス基板GSに第1ポリッシング工程が行われる(S19)。この第1ポリッシング工程では、次の化学強化工程後に行われる第2ポリッシング工程で最終的に必要とされる面粗さを効率よく得ることができるように、面粗さを向上させるとともに最終的な形状を効率よく得ることができる研磨を行う。この第1ポリッシング工程における研磨では、ラッピング工程で使用されたダイヤモンドペレットおよび研削液に代えて、パッドと研磨液を使用することを除き、第1および2ラッピング工程で使用された研磨機と同一の構成の研磨機が使用される。
【0051】
第1ポリッシング工程で用いられるパッドは、好ましくは、硬度Aで80から90程度の硬質パッドであり、例えば発泡ウレタンが使用される。パッドの硬度が研磨による発熱によって柔らかくなると研磨面の形状変化が大きくなるため、硬質パッドを用いることが好ましい。研磨材は、好ましくは、その粒径が0.6μmから2.5μmの酸化セリウムを、水に分散させてスラリー状にしたものである。この研磨材の水と研磨剤との混合比率は、好ましくは、概ね1:9から3:7程度である。
【0052】
第1ポリッシング工程において、上下定盤によるガラス基板への加重は、好ましくは、90g/cmから110g/cmである。上下定盤によるガラス基板への加重は、外周端部の形状に大きく影響する。この加重を大きくしていくと、外周端部の内側が下がり外側に向かって上がる傾向を示す。また、この加重を小さくしていくと、外周端部は、平面に近くなるとともに面ダレが大きくなる傾向を示す。こうした傾向を観察しながら前記加重が決められる。
【0053】
また、面粗さを向上させるために、好ましくは、上下定盤の回転数は、25rpmから50rpmであり、上定盤の回転数は、下定盤の回転数より30%から40%遅くされる。
【0054】
上記研磨条件によって研磨量は、好ましくは、30μmから40μmである。30μm未満では、キズや欠陥を充分に除去することができず、好ましくない。また、40μmを超える場合では、面粗さをRmaxが2nmから60nm、Raが2nmから4nmの範囲とすることができるが、必要以上に研磨を行うことになり、製造効率が低下するため、好ましくない。
【0055】
(化学強化工程)
次に、第1ポリッシング工程を経たガラス基板GSに化学強化層を形成する化学強化工程が行われる(S20)。この化学強化工程では、第1ポリッシング工程後のガラス基板GSが化学強化液に浸漬される。これによってガラス基板GSの内周端面および外周端面に化学強化層が形成される。この内周端面および外周端面に化学強化層を形成することによって、耐衝撃性、耐振動性および耐熱性等が向上し、かつ、主表面の化学強化による反りや表面の粗面化が防止される。
【0056】
この化学強化工程では、いわゆるイオン交換法が行われる。より具体的には、加熱された化学強化液にガラス基板GSを浸漬することによって、ガラス基板GSに含まれる例えばリチウムイオンおよびナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンが、それよりイオン半径の大きなカリウムイオン等のアルカリ金属イオンによって置換される。イオン半径の違いによって生じる歪みによってイオン交換された領域に圧縮応力が発生し、ガラス基板GSの内周端面および外周端面が強化される。
【0057】
この化学強化液に特に制限はなく、公知の化学強化処理液を用いることができる。化学強化液として、通常、カリウムイオンを含む溶融塩またはカリウムイオンとナトリウムイオンとを含む溶融塩が用いられる。カリウムイオンやナトリウムイオンを含む溶融塩として、カリウムやナトリウムの硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩およびこれらの混合溶融塩等が挙げられる。この中でも、融点が低く、ガラス基板の変形を防止することができるという観点から、硝酸塩が好ましい。
【0058】
(第2ポリッシング工程)
次に、化学強化工程を経たガラス基板GSに第2ポリッシング工程が行われる(S21)。この第2ポリッシング工程は、化学強化工程後のガラス基板GSにおける表面をさらに精密に研磨する工程であり、第1ポリッシング工程と同様の研磨方法で行われる。第2ポリッシング工程で使用されるパッドは、好ましくは、第1ポリッシング工程で使用されるパッドより柔らかい硬度65から80(Asker−C)程度の軟質パッドであり、例えば発泡ウレタンやスウェード等である。研磨材は、第1ポリッシング工程と同様の酸化セリウム等を用いることができるが、ガラス基板GSの表面をより滑らかにするため、好ましくは、粒径がより細かくバラツキが少ない研磨剤が用いられる。研磨液は、粒径の平均粒子径が40nmから70nmの研磨剤を水に分散させてスラリー状にしたものであり、好ましくは、水と研磨剤との混合比率は、概ね1:9から3:7程度である。
【0059】
上下定盤によるガラス基板GSへの加重は、好ましくは、90g/cmから110g/cmである。上下定盤の回転数は、好ましくは、15rpmから35rpmであり、好ましくは、上定盤の回転数は、下定盤の回転数より30%から40%遅くされる。
【0060】
第2ポリッシング工程における上記の研磨条件を調整することによって、目標値である平坦度が3μm以下であって、表面粗さRa値が0.1nmとすることができる。
【0061】
第2ポリッシング工程での研磨量は、好ましくは、2μmから5μmである。研磨量をこの範囲とすることによって、表面に発生した微小な荒れやうねり、これまでの工程で生じた微小な傷痕といった微小な欠陥を効率良く除去することができる。
【0062】
(洗浄工程)
次に、第2ポリッシング工程を経たガラス基板GSを洗浄する洗浄工程が行われる(S22)。この洗浄工程後のガラス基板GSは、例えば、情報記録媒体の基板として用いられる情報記録媒体用ガラス基板101とされる。この洗浄工程では、洗浄方法は、第2ポリッシング工程後のガラス基板GSにおける表面を清浄に洗浄することができる洗浄方法であれば、特に限定されない。例えば、この洗浄工程では、スクラブ洗浄が行われる。
【0063】
スクラブ洗浄が施されたガラス基板GSに対して、必要により超音波による洗剤洗浄および乾燥処理が行われる。乾燥処理は、ガラス基板GS表面に残る洗浄液をIPA(イソプロピルアルコール)等を用いて除去し、基板表面を乾燥する処理である。例えば、スクラブ洗浄後のガラス基板GSに、水リンス洗浄工程が2分間行われ、洗浄液の残渣が除去される。次に、IPA洗浄工程が2分間行われ、基板上の水が除去される。最後に、IPA蒸気乾燥工程が2分間行われ、基板に付着している液状IPAがIPA蒸気により除去されつつ乾燥される。基板の乾燥処理は、これに限定されるものではなく、スピン乾燥、エアーナイフ乾燥等のガラス基板GSの乾燥方法として一般的に知られた方法であってよい。
【0064】
(検査工程)
そして、洗浄工程を経たガラス基板GSに対し所定の検査を行う検査工程が行われる(S23)。この検査工程では、目視によるキズ、割れおよび異物の付着等の検査が行われる。目視では判別できないような異物の付着等は、光学表面アナライザ(OSA(Optical Surface Analyzer)、KLA−TENCOL社製、OSA6100)を用いることによって検査される。
【0065】
この検査工程で良品と判定されたガラス基板GSは、異物等が表面に付着しないように、清浄な環境の中で、ガラス基板収納カセットに収納され、真空パックされた後に、例えば、情報記録媒体用ガラス基板101として出荷される。
【0066】
<磁気記録媒体>
次に、本実施形態の情報記録媒体用ガラス基板を用いた磁気記録媒体について説明する。
【0067】
図4は、実施形態の情報記録媒体用ガラス基板を用いた磁気記録媒体の一例である磁気ディスクを示す一部断面斜視図である。この磁気ディスクDは、円形の情報記録媒体用ガラス基板101の表面に形成された磁性膜102を備えている。磁性膜102の形成には、公知の常套手段による形成方法が用いられる。例えば、磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂を情報記録媒体用ガラス基板101上にスピンコートすることによって磁性膜102を形成する形成方法や、情報記録媒体用ガラス基板101上にスパッタリングによって磁性膜102を形成する形成方法や、情報記録媒体用ガラス基板101上に無電解めっきによって磁性膜102を形成する形成方法等が挙げられる。磁性膜102の膜厚は、スピンコート法による場合では、約0.3μm〜1.2μm程度であり、スパッタリング法による場合では、約0.04μm〜0.08μm程度であり、無電解めっき法による場合では、約0.05μm〜0.1μm程度である。薄膜化および高密度化の観点から、スパッタリング法による膜形成が好ましく、また、無電解めっき法による膜形成が好ましい。
【0068】
磁性膜102に用いる磁性材料は、公知の任意の材料を用いることができ、特に限定されない。磁性材料は、例えば、高い保持力を得るために結晶異方性の高いCoを基本とし、残留磁束密度を調整する目的でNiやCrを加えたCo系合金等が好ましい。より具体的には、Coを主成分とするCoPt、CoCr、CoNi、CoNiCr、CoCrTa、CoPtCr、CoNiPt、CoNiCrPt、CoNiCrTa、CoCrPtTa、CoCrPtB、CoCrPtSiO等が挙げられる。磁性膜102は、ノイズの低減を図るために、非磁性膜(例えば、Cr、CrMo、CrV等)で分割された多層構成(例えば、CoPtCr/CrMo/CoPtCr、CoCrPtTa/CrMo/CoCrPtTa等)であってもよい。磁性膜102に用いる磁性材料は、上記磁性材料の他、フェライト系や鉄−希土類系であってもよく、また、SiO、BN等からなる非磁性膜中にFe、Co、FeCo、CoNiPt等の磁性粒子を分散した構造のグラニュラー等であってもよい。また、磁性膜102への記録には、内面型および垂直型のいずれかの記録形式が用いられてよい。
【0069】
また、磁気ヘッドの滑りをよくするために、磁性膜102の表面には、潤滑剤が薄くコーティングされてもよい。潤滑剤として、例えば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
【0070】
さらに必要により磁性膜102に対し下地層や保護層が設けられてもよい。磁気ディスクDにおける下地層は、磁性膜102に応じて適宜に選択される。下地層の材料として、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Ni等の非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。例えば、Coを主成分とする磁性膜102の場合には、下地層の材料は、磁気特性向上等の観点からCr単体やCr合金であることが好ましい。また、下地層は、単層とは限らず、同一または異種の層を積層した複数層構造であってもよい。このような複数層構造の下地層は、例えば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrV等の多層下地層が挙げられる。磁性膜102の摩耗や腐食を防止する保護層として、例えば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、シリカ層等が挙げられる。これら保護層は、下地層および磁性膜102と共にインライン型スパッタ装置で連続して形成することができる。また、これら保護層は、単層としてもよく、あるいは、同一または異種の層からなる複数層構成であってもよい。なお、上記保護層上に、あるいは、上記保護層に代えて、他の保護層が形成されてもよい。例えば、上記保護層に代えて、Cr層の上にSiO層が形成されてもよい。このようなSiO層は、Cr層の上にテトラアルコキシシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成することによって形成される。
【0071】
このような本実施形態における情報記録媒体用ガラス基板101を基体とした磁気記録媒体は、情報記録媒体用ガラス基板101が上述したようにより高い平滑性を有しかつ低表面欠陥であるので、高速回転時に磁気ヘッドを安定に動作させることができる。
【0072】
なお、上述では、本実施形態における情報記録媒体用ガラス基板101を磁気記録媒体に用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、本実施形態における情報記録媒体用ガラス基板101は、光磁気ディスクや光ディスク等にも用いることが可能である。
【0073】
(実施例および比較例)
次に、第1ないし第5実施例および比較例について説明する。図5は、第1なしい第5実施例における各セッタの断面形状を示す図である。図5(A)は、第1実施例のセッタであり、図5(B)は、第2実施例のセッタであり、図5(C)は、第3実施例のセッタであり、図5(D)は、第4実施例のセッタであり、そして、図5(E)は、第5実施例のセッタである。
【0074】
<第1ないし第5実施例>
第1ないし第5実施例に対応するガラス基板GSa〜GSeは、第1ないし第5実施例における各セッタSTa〜STeを用いた図3に示す製造方法によって作成された。各製造工程(S11〜S23)は、次の通りである。
【0075】
(ガラス溶融工程S11および成形工程S12)
ガラス溶融工程S11および成形工程S12では、ガラス材料としてガラス転移温度Tgが480℃であるアルミノシリケートガラスが用いられ、溶融ガラスをプレス成形することによって、外径がφ68mmであって厚さが1.3mmであるブランク材Bが作製された。
【0076】
(熱処理工程S13)
熱処理工程S13では、ブランク材Bと実施例のセッタSTとを交互に合計50枚積層した積層体が約430℃の電気炉内に搬送され、2時間の熱処理が行われた。前記実施例のセッタSTとして、5種類の第1ないし第5実施例のセッタSTa〜STeが用意された。これら第1ないし第5実施例のセッタSTa〜STeは、アルミナを概略形状に焼結形成した後に、#3000番の砥石で両表面を研削加工するとともに、端面を#4000番の砥石で研削加工した後にアルミナブラシで研磨加工することによって、外径φ70mm、厚さ2mmで作成された。これら第1ないし第5実施例のセッタSTa〜STeにおける両表面の表面粗さは、Ra値が0.5μmであり、これら端部の表面粗さは、Ra値が0.4μmであった。表面粗さのRa値は、JIS B 0601に規定された算術平均粗さであり、測定カットオフ値が0.8mmであって測定長さが4mmである条件で測定された。
【0077】
第1実施例のセッタSTaにおける端部の断面形状は、図5(A)に示すように、C0.5のC面取りである。
【0078】
第2実施例のセッタSTaにおける端部の断面形状は、図5(B)に示すように、R0.2のR面取りである(R0.2、厚さt=2mm;t/2、0.1t)。
【0079】
第3実施例のセッタSTaにおける端部の断面形状は、図5(C)に示すように、R0.3のR面取りである(R0.3、厚さt=2mm;t/2、0.15t)。
【0080】
第4実施例のセッタSTaにおける端部の断面形状は、図5(D)に示すように、R0.7のR面取りである(R0.7、厚さt=2mm;t/2、0.35t)。
【0081】
第5実施例のセッタSTaにおける端部の断面形状は、図5(A)に示すように、R1のR面取りである(R1、厚さt=2mm;t/2、0.5t)。
【0082】
(第1ラッピング工程S14)
第1ラッピング工程S14では、ガラス基板GSの両表面が研磨機(HAMAI社製)を用いて研磨加工された。研磨条件は、ダイヤモンドペレットとして#1200メッシュを用い、荷重を100g/cmとし、上定盤の回転数を30rpmとし、そして、下定盤の回転数を10rpmとした。研磨量は、100μmであった。
【0083】
これによって得られたガラス基板GS100枚に対する平均の平坦度は、15μmであり、表面粗さは、Ra値が0.50μmであった。
【0084】
(コアリング工程S15)
コアリング工程S15では、円筒状のダイヤモンド砥石を用いてガラス基板GSの中心部に、直径18mmの円穴が開けられた。
【0085】
(内外径加工工程S16)
内外径加工工程S16では、鼓状のダイヤモンド砥石によって内径加工および外径加工が行われ、ガラス基板GSの内径が20mmとされ、その外径が65mmとされた。
【0086】
(第2ラッピング工程S17)
第2ラッピング工程S17では、ガラス基板GSの両表面が研磨機(HAMAI社製)を用いて研磨加工された。研磨条件は、ダイヤモンドペレットとして#1200メッシュを用い、荷重を100g/cmとし、上定盤の回転数を30rpmとし、そして、下定盤の回転数を10rpmとした。
【0087】
これによって得られたガラス基板GS100枚に対する平均の平坦度は、10μmであり、表面粗さは、Ra値が0.25μmであった。
【0088】
(端面研磨加工工程S18)
端面研磨加工工程S18では、100枚のガラス基板GSが重ねられ、端面研磨機を用いて、この内周端面および外周端面が研磨された。研磨機のブラシ毛は、直径0.2mmのナイロン繊維を用いた。研磨液は、粒径3μmの酸化セリウムを用いた。これによって得られたガラス基板GSにおける内周端面の面粗さは、Ra値が0.03μmであった。
【0089】
(第1ポリッシング工程S19)
第1ポリッシング工程S19では、研磨機(HAMAI社製)が用いられ、このパッドに硬度Aで80度の発泡ウレタンが用いられた。研磨材として、平均粒径1.5μmの酸化セリウムを水に分散させてスラリー状にしたものが用いられた。水と研磨剤との混合比率は、2:8であった。そして、研磨条件は、荷重を100g/cmとし、上定盤の回転数を30rpmとし、下定盤の回転数を10rpmとした。研磨量は、30μmであった。これによって得られたガラス基板GS100枚に対する平均の平坦度は、4μmであり、表面粗さは、Ra値が0.7nmであった。
【0090】
(化学強化工程S20)
化学強化工程S20では、ガラス基板GSが化学強化液に浸漬された。この化学強化液として、硝酸カリウム(KNO)と硝酸ナトリウム(NaNO)との混合溶融塩が用いられた。その混合比は、質量比で1:1であった。また、化学強化液の温度は、400℃であり、浸漬時間は、40分とされた。
【0091】
(第2ポリッシュ工程S21)
第2ポリッシュ工程S21では、研磨機(HAMAI社製)が用いられ、このパッドに硬度Aで70度の発泡ウレタンが用いられた。研磨材として、平均粒径60nmの酸化セリウムを水に分散させてスラリー状にしたものが用いられた。水と研磨剤との混合比率は、2:8であった。そして、研磨条件は、荷重を90g/cmとし、上定盤の回転数を30rpmとし、下定盤の回転数を10rpmとした。主表面の研磨量は、5μmであった。
【0092】
(洗浄工程S22)
洗浄工程S22では、スクラブ洗浄が行われた。洗浄液として、KOHとNaOHを100:100に混合した薬液を超純水(DI水)で希釈し、洗浄能力を高めるために非イオン界面活性剤を添加した洗浄液が用いられた。洗浄液の供給は、スプレー噴霧によって行われた。そして、ガラス基板GS表面に残る洗浄液を除去するために、水リンス洗浄工程が2分間行われ、IPA(イソプロピルアルコール)洗浄工程が超音波槽で2分間行われ、その後、IPA蒸気により表面が乾燥された。
【0093】
<第1および第2比較例>
第1および第2比較例に対応する情報記録媒体用ガラス基板GSf、GSgは、熱処理工程S13を除き、上述した、第1ないし第5実施例に対応する情報記録媒体用ガラス基板GSa〜GSeの各工程によって作成された。
【0094】
第1および第2比較例における熱処理工程S13では、第1および第2比較例における各セッタSTf、STgを用いて行われた。
【0095】
比較例における熱処理工程S13では、ブランク材Bと比較例のセッタSTとを交互に合計50枚積層した積層体が約430℃の電気炉内に搬送され、2時間の熱処理が行われた。前記比較例のセッタSTとして、2種類の第1および第2比較例のセッタSTf、STgが用意された。第1比較例のセッタSTfは、アルミナを概略形状に焼結形成した後に、#3000番の砥石で両表面を研削加工するとともに、#1000番の砥石で端部を研削加工することによって、外径φ70mm、厚さ2mmで作成された。この第1比較例のセッタSTfにおける両表面の表面粗さは、Ra値が0.5μmであり、端部の表面粗さは、Ra値が0.6μmであった。また、第2比較例のセッタSTgは、アルミナを概略形状に焼結形成した後に、#3000番の砥石で両表面および端部のそれぞれを研削加工することによって、外径φ70mm、厚さ2mmで作成された。この第2比較例のセッタSTgにおける両表面および端部の各表面粗さは、共にRa値が0.5μmであった。表面粗さのRa値は、JIS B 0601に規定された算術平均粗さであり、測定カットオフ値が0.8mmであって測定長さが4mmである条件で測定された。
【0096】
第1および第2比較例のセッタSTf、STgにおける端部の断面形状は、C0.5のC面取りである。
【0097】
<実施例と比較例との結果>
このようにして第1ないし第5実施例における各セッタSTa〜STeを用いた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法による第1ないし第5実施例に対応する各ガラス基板GSa〜GSeが100枚づつ作成され、そして、第1および第2比較例における各セッタSTf、STgを用いた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法による第1および第2比較例に対応する各ガラス基板GSf、GSgが100枚づつ作成された。前記洗浄工程S22後におけるガラス基板100枚のそれぞれが光学式表面欠陥測定装置(OSA)を用いて評価され、その平均の欠陥数の結果を表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
第1ないし第5実施例と第1および第2比較例とを比較すると、表1から理解されるように、セッタSTの上面および下面の表面粗さよりもその端部の表面粗さが小さい方が、前記S11ないしS22の各工程を経て作成された最終的なガラス基板GSは、欠陥数が少ない。そして、第1ないし第5実施例をそれぞれ比較すると、セッタSTにおける端部の断面形状がC面取りよりもR面取りの方が、前記最終的なガラス基板GSは、欠陥数が少なく、また、セッタSTにおける端部の断面形状がR0.2のR面取りよりもR0.3以上のR面取りの方が、欠陥数が少ない。したがって、セッタSTの断面形状は、その輪郭を表す輪郭線が常に微分係数を持つようになだらかに連続的に繋がっている方(前記微分係数が不連続となるような特異点がないように連続的に繋がっている方)が、前記最終的なガラス基板GSは、欠陥数が少なく、好ましい。
【0100】
したがって、これら第1ないし第5実施例と第1および第2比較例とから、上述のガラス板熱処理用セッタSTは、ガラス板G(ブランク材B)から生成される所定のガラス基板GSに対し、より平滑性の向上および表面欠陥の低減を図るために、次の第1ないし第3態様が好ましい。
【0101】
第1態様では、端面EDの表面粗さのRa値が0.005μm≦Ra≦0.4μmである。なお、Ra値が0.005μm未満では、その実現が困難であり、その実現を図ったとしてもコストが高くなって好ましくない。
【0102】
第2態様では、端面EDは、上表面SFaから下表面SFbに至る厚さをtとした場合に0.15t≦R≦0.5tであるR面取りで形成される。なお、0.5tを越えると端面EDの先端部が尖った形状となって端面EDが凸部を有することとなり、ガラス板Gと接触した場合に前記凸部がガラス板Gにキズを付ける虞があって好ましくない。
【0103】
第3態様では、上表面SFa、端面EDおよび下表面SFbは、上表面SFaの法線方向を含む縦断面の輪郭線が常に微分係数を持つように連続して連なる。このような構成のガラス板熱処理用セッタSTは、輪郭線に微分係数の存在しない特異点がなく、その表面にいわゆる角がないので、ガラス板Gから生成される所定のガラス基板GSに対し、より平滑性の向上および表面欠陥の低減を図ることができる。
【0104】
続いて、第1ないし第5実施例に対応する各ガラス基板GSa〜GSeならびに第1および第2比較例に対応する各ガラス基板GSf、GSgを情報記録媒体用ガラス基板101として用いた磁気記録媒体が作成され、ハードディスクドライブが作成された。より具体的には、まず、第1ないし第5実施例に対応する各ガラス基板GSa〜GSeならびに第1および第2比較例に対応する各ガラス基板GSf、GSgのそれぞれ100枚に、磁性膜102が形成され、磁気記録媒体が作成された。磁性膜102は、ガラス基板GS側から、Ni−Alから成る厚さ約100nmの下地層、Co−Cr−Ptから成る厚さ20nmの記録層、および、DLC(Diamond Like Carbon)から成る厚さ5nmの保護膜を順次に積層することによって形成された。
【0105】
これら作製した各磁気記録媒体を用いたハードディスクドライブが作成され、所定の記録方式で読み込みおよび書き込みのテストが行われ、その間に発生したヘッドクラッシュの有無が評価された。面内記録方式の書き込み密度は、50Gビット/平方インチであり、垂直記録方式の書き込み密度は、0.5Tビット/平方インチであった。第1ないし第5実施例では、100枚の磁気記録媒体の中でヘッドクラッシュの発生は、それぞれ5枚以下であり、良好な結果であった。一方、第1および第2比較例では、100枚の磁気記録媒体の中でヘッドクラッシュの発生は、6枚以上あり、実用上問題のあるレベルであった。
【0106】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0107】
G ガラス板
B ブランク材
GS ガラス基板
D 磁気ディスク
101 情報記録媒体用ガラス基板
102 磁性膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象のガラス板と前記ガラス板を載置したガラス板熱処理用セッタとを積層した一対の積層対体を複数さらに積層した積層体を形成し、前記積層体の状態で所定の熱処理を行うように用いられる前記ガラス板熱処理用セッタであって、
平行で互いに対向する上表面および下表面と前記上表面から前記下表面に至る端面とを備える板状体であり、
前記端面の表面粗さは、前記上表面の表面粗さおよび前記下表面の表面粗さよりも小さいこと
を特徴とするガラス板熱処理用セッタ。
【請求項2】
前記端面の表面粗さのRa値は、0.005μm≦Ra≦0.4μmであること
を特徴とする請求項1に記載のガラス板熱処理用セッタ。
【請求項3】
前記上表面、前記端面および前記下表面は、前記上表面の法線方向を含む縦断面の輪郭線が常に微分係数を持つように連続して連なっていること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のガラス板熱処理用セッタ。
【請求項4】
前記端面は、前記上表面から前記下表面に至る厚さをtとした場合に0.15t≦R≦0.5tであるR面取りで形成されていること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のガラス板熱処理用セッタ。
【請求項5】
処理対象の複数のガラス板に所定の熱処理を行う熱処理工程を少なくとも備え、情報記録媒体用ガラス基板を製造する情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、
前記熱処理工程は、
前記複数のガラス板と、前記ガラス板を載置するための複数のガラス板熱処理用セッタとを、前記ガラス板熱処理用セッタを最下層として、交互に積層して積層体を形成する交互積層工程と、
前記積層体を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後の前記積層体から、前記複数のガラス板と、前記複数のガラス板熱処理用セッタとにそれぞれ分別する積層分別工程とを備え、
前記ガラス板熱処理用セッタは、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のガラス板熱処理用セッタであること
を特徴とする情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−14751(P2012−14751A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147163(P2010−147163)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】