説明

ガラス欠点発生源特定方法、溶融鋳造耐火物及びそれを用いたガラス溶融窯

【課題】本発明は、ガラス欠点の発生源を、数学シミュレーションを用いずに、直接的に特定することができるガラス欠点発生源の特定方法を提供する。
【解決手段】Cs2 O、SrO、BaO及びZnOから選ばれる少なくとも1種のトレーサ成分を含有した溶融鋳造耐火物を内張り炉材に用いてガラス溶融窯を構築する工程と、ガラス溶融窯によりガラス材料を溶融し、溶融されたガラス材料を、成型し、ガラス製品を製造する工程と、ガラス製品のうちガラス欠点を有するものを抽出し、成分組成を分析してガラス溶融窯のガラス欠点発生源の位置を求める工程と、を有するガラス欠点発生源特定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス溶融窯を用いてガラス製品を製造する際に用いられるガラス欠点発生源特定方法、溶融鋳造耐火物及びそれを用いたガラス溶融窯に係り、特に、溶融ガラス中への溶融鋳造耐火物成分の溶出に起因するガラス欠点を直接的に特定が可能なガラス欠点発生源特定方法、その方法に好適な溶融鋳造耐火物及びガラス溶融窯に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、市販されている主なガラスを組成から分類すると、ソーダ石灰ガラス、アルミノシリケートガラス、硼珪酸ガラス等に分けられる。これらのガラスは、ガラス製品を製造する際の材料として用いられ、工業的に耐火物からなる炉材で内張りされたガラス溶融窯でそのガラス材料を溶融させた後、その溶融したガラス材料を成型し、冷却、徐冷して固化させてガラス製品とする。
【0003】
上記耐火物としては、通常、所定配合の耐火物原料を電気炉にて完全に溶融した後、所定形状の鋳型に流し込み徐々に常温まで冷却、再固化により得られる溶融鋳造耐火物が用いられている。この耐火物は、粉状又は粒状の原料を所定形状に成形して焼成した、又は不焼成のままの結合耐火物とは組織、製法とも全く異なるもので、耐食性の高い耐火物である。
【0004】
このような溶融鋳造耐火物としては、アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物、アルミナ質溶融鋳造耐火物、ジルコニア質溶融鋳造耐火物等が代表的なものとして知られている。例えば、アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物は、一般に、AZS溶融鋳造耐火物という名称で呼ばれ、ガラス溶解用の耐火物として広く用いられている。
【0005】
AZS溶融鋳造耐火物は、約80〜85%(質量%、特記ないかぎり以下同じ)の結晶相とその結晶間隙を埋めている15〜20%のマトリックスガラス相からなる。結晶相は、コランダム結晶とバデライト結晶とからなり、その組成は、市販されているもので、概ね、Al23 を45〜52%、ZrO2 を28〜41%、SiO2 を12〜16%、Na2 Oを1〜1.9%程度のものである。
【0006】
ZrO2 は、よく知られているように、昇温時1150℃付近、降温時850℃付近に、単斜晶と正方晶の相転移による変態膨張があり、異常な収縮、膨張を示す。マトリックスガラス相は、結晶間のクッションのような役割を果たし、AZS溶融鋳造耐火物を製造する際のジルコニアの正方晶から単斜晶の転移による変態膨張による応力を吸収することにより、耐火物を亀裂なく製造するための重要な役割を果たす。
【0007】
ところが、この溶融鋳造耐火物は、その使用時には常に高温に晒されているため、溶融したガラス材料との接触箇所が侵食され、その際にマトリックスガラス相が溶融したガラス材料中に滲み出す(ガラス滲出と呼ばれる)現象が生じる。このガラス滲出現象は、高温で、マトリックスガラス相の粘性が低下し流動性を帯びるとともに、AZS溶融鋳造耐火物から高温で放出されるガスの力でもって押し出されるために起こるものと考えられている。
【0008】
この耐火物の表面に滲出したガラスの組成は、アルミナ及びジルコニアに富んだ高粘性のガラスであるため、母ガラスに混入すると、溶融するガラスに完全に拡散されず、異質なものとなって節や筋と呼ばれるガラス欠点になってしまう。
【0009】
このガラス欠点は、製品の歩留まりを低下させるので、工業上大きな問題となっている。したがって、このガラス欠点の発生場所を特定して、適切な温度操作等の操業条件や用いる炉材を選定することで歩留まりを向上させることが行われている。
【0010】
ところが、このガラス欠点の出現状況は、各々の溶融窯によって個別の特徴を有しており、さらに操業条件等によっても異なるため、その発生状況は複雑な形態をとる。そこで、このようなガラス欠点の発生を防止するために、その発生源を特定しガラス溶融窯の構造や操業条件の決定は、従来、数学シミュレーションを利用して行われていた。
【0011】
この数学シミュレーションによる方法としては、例えば、複数のガラス融液の流路(ライン)を有するガラス溶融炉において、ある特定のラインに溶解欠点が集中する場合には、問題のラインに多数個の粒子を配置し、時間を遡って粒子の軌跡を追跡してその流線から発生源を推定する粒子軌跡法が知られている。
【0012】
また、この粒子軌跡法を改良したものとして、ガラス溶融炉のガラス融液の流れ場を求め、その流れ場に対して、特定の流路への出口に仮想のトレーサ成分を発生させ、ガラス融液の流れ場におけるトレーサ成分に関する移流のみを考慮した移流拡散方程式を設定し、この移流拡散方程式を逆時間方向に解いて得られるトレーサ成分の濃度分布より特定の流路へのトレーサ成分の流入確率分布を得て、それに基づいて溶解欠点の発生源の位置を特定する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0013】
また、ガラス欠点の発生源を特定するものではないが、溶融窯に用いる耐火物として、SrO、BaO、ZnOを含有する溶融鋳造耐火物が知られている(特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2000−7342号公報
【特許文献2】特許第2870188号公報
【特許文献3】特許第4297543号公報
【特許文献4】特開2001−220249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記した数学シミュレーションによる節や筋の発生源の位置の特定は、ガラス融液の流れを解析し、その流れにおいて、トレーサとなる粒子や成分を導入して、発生源の流入箇所について確率等により推定して特定するため、操作が煩雑であるという問題があった。また、この数学シミュレーションは、間接的に発生源を特定するものであるため、精度が低いという問題があった。このため、発生源と推定される箇所の問題を除去しても、ガラス欠点の発生状況が変わらない場合があった。
【0016】
そこで、本発明は、上記した問題を解決すべくなされたものであり、ガラス欠点の発生源を、数学シミュレーションを用いずに、直接的に特定することができるガラス欠点発生源の特定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のガラス欠点発生源特定方法は、Cs2 O、SrO、BaO及びZnOから選ばれる少なくとも1種のトレーサ成分を含有した溶融鋳造耐火物を内張り炉材に用いてガラス溶融窯を構築する工程と、ガラス溶融窯によりガラス材料を溶融し、溶融されたガラス材料を、鋳型に流し込んでガラス製品を製造する工程と、ガラス製品のうちガラス欠点を有するものを抽出し、成分組成を分析して前記ガラス溶融窯のガラス欠点発生源の位置を求める工程と、を有することを特徴とするものである。
【0018】
このとき用いられる内張り炉材としては、アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物、アルミナ質溶融鋳造耐火物及びジルコニア質溶融鋳造耐火物が代表的なものとして挙げられる。
【0019】
本発明のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物は、化学組成が質量%で、Al2 3 を45〜70%、ZrO2 を14〜45%、SiO2 を9〜15%、Na2 O、K2 O、CsO及びSrOの合計量が2%以下であって、かつ、Cs2 O及びSrOから選ばれる少なくとも1種のトレーサ成分を0.2〜2%含有することを特徴とするものである。
【0020】
本発明のアルミナ質溶融鋳造耐火物は、化学組成が質量%で、Al2 3 を94〜98%、SiO2 を0.1〜1.0%含み、Na2 O、K2 O、Cs2 O、SrO、BaO及びZnOの合計量が5.0%以下であって、かつ、Cs2 O、SrO、BaO及びZnOから選ばれる少なくとも1種からなるトレーサ成分を0.2〜5%含有することを特徴とするものである。
【0021】
本発明のジルコニア質溶融鋳造耐火物は、化学組成が質量%で、ZrO2 を88〜97%、SiO2 を2.4〜10.0%、Al2 3 を0.4〜3%含み、Na2 O、K2 O及びCs2 Oの合計量が1%以下であって、かつ、Cs2 Oのトレーサ成分を0.2〜0.5%含有することを特徴とするものである。
【0022】
さらに、本発明のガラス溶融窯は、本発明のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物、アルミナ質溶融鋳造耐火物及びジルコニア質溶融鋳造耐火物から選ばれる少なくとも1種の溶融鋳造耐火物を用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明のガラス欠点発生源特定方法によれば、Cs2 O、SrO、BaO及びZnOから選ばれる少なくとも1種のトレーサ成分を含有した溶融鋳造耐火物をガラス溶融窯の内張り炉材として用いているため、ガラス溶融窯のどの箇所がガラス欠点発生源となるかを、容易に、かつ、直接的に特定することができる。
【0024】
本発明の溶融鋳造耐火物及びそれを用いたガラス溶融窯は、本発明のガラス欠点発生源特定方法に好適なものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
最初に、本発明のガラス欠点発生源特定方法について説明する。
【0026】
このガラス欠点発生源特定方法において、まずは、ガラス溶融窯の内張り炉材として、Cs2 O、SrO、BaO及びZnOから選ばれる少なくとも1種のトレーサ成分を含有した溶融鋳造耐火物を用いたガラス溶融窯を構築する。このとき、上記トレーサ成分を含有するものを、内張り炉材の溶融ガラスとの接触箇所に設けるものである。
【0027】
このとき、ガラス溶融窯の内張り炉材として用いる溶融鋳造耐火物は、Cs2 O、SrO、BaO及びZnOから選ばれる少なくとも1種のトレーサ成分を含有したものであり、アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物、アルミナ質溶融鋳造耐火物又はジルコニア質溶融鋳造耐火物が代表的なものとして挙げられる。
【0028】
そして、このトレーサ成分を含有した溶融鋳造耐火物は、ガラス溶融窯を構築するにあたっては、1種類の溶融鋳造耐火物を用いる場合には、ガラス欠点の発生可能性のあるガラス溶融窯の一部に用いて構成される。全てに用いてしまうと結局発生源の特定が不可能になってしまうためである。このとき、トレーサ成分を含有しない従来用いていた溶融鋳造耐火物を、ガラス欠点発生源としての可能性がない部分に用いればよい。
【0029】
また、トレーサ成分を含有する溶融鋳造耐火物を2種類以上用いる場合には、ガラス欠点の発生源として可能性のある箇所を、それぞれ異なるトレーサ成分を有する溶融鋳造耐火物で構築するものである。ここで、異なるトレーサ成分とは、Cs2 O、SrO、BaO及びZnOを単独で用いている場合には、その種類が異なるものであり、これら成分を2種以上組み合わせてトレーサ成分とする場合には、その含有するトレーサ成分の種類及び/又は含有割合が異なるものであって、後述する組成分析において、互いに判別することができるものを言う。
【0030】
したがって、ここで用いるガラス溶融窯としては、ガラス溶融窯を任意のブロック単位に分け、そのブロック単位ごとに異なるトレーサ成分を有する溶融鋳造耐火物を用いて構成することが好ましい。
【0031】
そして、次に、構築したガラス溶融窯でガラス材料を溶融し、溶融したガラス材料は、通常のガラス製品の製造と同様に、炉内を溶融させながら移動させ、所定の箇所で成型し、冷却、固化させて所望のガラス製品を製造する。
【0032】
次いで、得られたガラス製品にガラス欠点が発生しているか否かを確認し、ガラス欠点の発生しているものを抽出し、抽出したガラス製品についてその欠点部分のガラスの成分組成を分析する。この組成分析は、電子顕微鏡分析(SEM−EDX、EPMA)、蛍光X線分析、原子吸光法やICP(誘導結合プラズマ)発光分析、ICP質量分析等により行うことができる。なお、このときトレーサ成分を十分に検出することができるように、上記溶融鋳造耐火物に含有されるトレーサ成分は0.2%以上であることが好ましい。
【0033】
分析の結果、トレーサ成分を含有しているか否か、含有している場合にはどのトレーサ成分を含有しているか等を分析することで、ガラス溶融窯のガラス欠点発生源を特定することができる。すなわち、そのガラス欠点の発生源は、分析により検出されたトレーサ成分を含有する内張り炉材を用いた箇所であることが容易に、かつ、直接的に特定されるものである。なお、組成分析をするにあたっては、用いているガラス材料、トレーサ成分の含有の有無、トレーサ成分の含有量について考慮しなければならない。
【0034】
まず、用いたガラス材料がトレーサ成分を含有していない場合について説明する。この場合には、判定は容易であって、ガラス欠点の組成分析により、トレーサ成分を含有していれば、その検出されたトレーサ成分を含有する溶融鋳造耐火物で構成される箇所が発生源であることが特定できる。逆に、このときトレーサ成分を含有していなければ、トレーサ成分を含有した溶融鋳造耐火物以外の箇所がガラス欠点発生源であると判定することができる。
【0035】
次に、用いたガラス材料がトレーサ成分を含有している場合について説明する。この場合には、トレーサ成分は常に検出されるものであるから、ガラス欠点の組成分析により、トレーサ成分がどの程度検出されるかが重要である。
【0036】
トレーサ成分は検出されたものの、その検出量が、その用いたガラス材料の組成割合との差がなければ、トレーサ成分を含有した溶融鋳造耐火物以外の箇所がガラス欠点発生源であると判定することができる。また、その検出量が、その用いたガラス材料の組成割合を超えて十分に大きいとき(例えば、1質量%以上の差が生じたようなときは明確に)、トレーサ成分を含有した溶融鋳造耐火物で構成される箇所が発生源であると特定することができる。このようにトレーサ成分がガラス材料中に含まれるときには、溶融鋳造耐火物中に含有するトレーサ成分の含有量を多くすることで、分析及び判定を容易にすることができる。
【0037】
次に、本発明のガラス欠点発生源特定方法に好適な溶融鋳造耐火物について説明する。
【0038】
本発明の溶融鋳造耐火物は、アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物、アルミナ質溶融鋳造耐火物及びジルコニア質溶融鋳造耐火物であり、それぞれ上記記載した成分から構成されるものであって、これら各成分について、以下説明する。なお、本明細書において、成分の含有量は耐火物に対するものであり、「%」は質量%を意味するものである。
【0039】
まず、本発明のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物(以下、AZS溶融鋳造耐火物と称する。)の各成分について説明する。
【0040】
AZS溶融鋳造耐火物におけるAl23 成分は、耐火物の結晶構造を構成する成分において、ZrO2 と並んで重要な成分であり、コランダム結晶を構成して、溶融ガラスに対してZrO2 の次に強い耐食性を示すとともに、ZrO2 のような変態膨張を示さない。その配合量は45〜70%の範囲であることが好ましい。70%超であると、マトリックスガラス相の量が少なくなるとともにムライト(3Al2 3 ・SiO2 )が生成しやすくなるために耐火物を亀裂なく製造することができなくなってしまう。また、45%未満のように少なすぎるとマトリックスガラス相の量が多くなるために、ガラスが滲み出しやすくなってしまう。
【0041】
AZS溶融鋳造耐火物におけるZrO2 成分は、溶融ガラスの浸食に対する抵抗力が強く、耐火物の主要成分として含有される。この観点からは多い方がよいが、本発明では、ZrO2 含有量が多くなると、ZrO2 の変態膨張量とそれに伴う応力が大きくなりすぎ、マトリックスガラス相が体積変化を吸収しきれなくなるために、耐火物を亀裂なく製造するのが困難になってしまう。また、少なすぎると溶融ガラスに対する耐食性が乏しくなってしまう。そのため、ZrO2 成分の配合量は14〜45%の範囲であることが好ましい。
【0042】
SiO2 成分は、マトリックスガラス相を構成する主成分で特性を左右する重要な成分である。その配合量は9〜15%の範囲であることが好ましい。9%未満であると、マトリックスガラス相量が少なくなってマトリックスガラス相がZrO2 の体積変化を吸収しきれなくなり、耐火物を亀裂なくなる製造するのが困難になってしまう。また、15%超であると、マトリックスガラス相の量が多くなるために、ガラスが滲み出しやすくなってしまう。
【0043】
Na2 OとK2 Oのアルカリ成分は、マトリックスガラス相の温度と粘性の関係を調整する重要な成分である。その含有量が合計量で1.8%超であるとガラスが滲み出しやすくなってしまう。一方、その合計量が、0.8%未満であると、マトリックスガラス相の粘性が高くなりすぎると同時にムライトを生成させるために、耐火物を亀裂なく製造することができない。
【0044】
そして、本願発明においては、ガラス欠点の発生源を特定するためのトレーサ成分として、Cs2 O及びSrOの少なくとも1種を含有するものである。ここで、トレーサ成分として上記化合物を選択したのは、マトリックスガラスが滲出し溶融状態のガラス材料に混入したときに、マトリックスガラスに充分溶解して、ガラス材料側に移行することができるものであるからである。
【0045】
このとき、これらCs2 O、SrO、BaO及びZnO成分は、Na2 O、K2 Oも含めた合計量、すなわち、Na2 O、K2 O、Cs2 O及びSrOの合計量が2%以下であって、かつ、Cs2 O及びSrO成分は0.2%以上含有するものである。トレーサ成分が0.2%未満となってしまうと、検出性能が悪くなり、ガラス欠点発生源の特定が困難となってしまう。
【0046】
その他の成分については、本発明の目的効果を損なわない程度において若干含まれていてもよいが、できる限り少量に制限することが望ましい。
【0047】
例えば、Fe23 、TiO2 、CaO、MgOは、工業原料の不純物として混入するもので、できる限り少ない方がよいが、工業的な範囲としてその合計量で0.05〜0.4%の範囲で含有されてもその特性に影響を及ぼさない。
【0048】
次に、本発明のアルミナ質溶融鋳造耐火物の各成分について説明する。
【0049】
アルミナ質溶融鋳造耐火物としてのAl23 成分は、耐火物の結晶構造を構成する成分において重要な成分であり、αAl23 (コランダム結晶)とアルカリと反応して生成されるβAl23 結晶の交錯した組織を有する。溶融ガラスに対して強い耐食性を示すとともに変態膨張を示さない。その配合量は94〜98%の範囲であることが好ましい。98%超であると、βAl23 結晶相が少なくなり割れやすくなる。また、94%未満のように少なすぎるとβAl23 結晶相が多くなり、気孔率が数%以上になり、溶融ガラスに対する耐食性が悪くなる為好ましくない。
【0050】
SiO2 は、耐火物中に発生する応力を緩和するマトリックスガラスを形成する必須成分である。このSiO2 は、亀裂のない実用寸法の耐火物を得るために、耐火物中に0.1%以上含有している必要があり、0.5%以上含有していることが好ましい。しかし、SiO2 成分の含有量が多くなると耐食性が小さくなってしまう。そこで、本発明において、SiO2 は耐火物中に0.1〜1.0%の範囲で含有させるものである。
【0051】
Na2 OとK2 Oのアルカリ成分は、Al23 と反応してβAl23 結晶を構成する重要な成分である。その含有量が合計量で4.8%超であるとβAl23 結晶相が多くなり、気孔率が数%以上になり、溶融ガラスに対する耐食性が悪くなる為好ましくない。一方、その合計量が、1%未満であると、βAl23 結晶相が少なくなり、割れやすくなる。
【0052】
そして、本願発明においては、ガラス欠点の発生源を特定するためのトレーサ成分として、Cs2 O、SrO、BaO及びZnOの少なくとも1種を含有するものである。ここで、トレーサ成分として上記化合物を選択したのは、トレーサ成分とAl23が反応してβAl23やマトリックスガラス組成を構成し、高温で溶融ガラスと接触すると、これらが溶融状態のガラス材料に混入し、ガラス材料側に移行することができるものであるからである。
【0053】
このとき、これらCs2 O、SrO、BaO及びZnO成分は、Na2 O、K2 Oも含めた合計量、すなわち、Na2 O、K2 O、Cs2 O、SrO、BaO及びZnOの合計量が5%以下であって、かつ、Cs2 O、SrO、BaO及びZnO成分は0.2%以上含有するものである。トレーサ成分が0.2%未満となってしまうと、検出性能が悪くなり、ガラス欠点発生源の特定が困難となってしまう。
【0054】
その他の成分については、本発明の目的効果を損なわない程度において若干含まれていてもよいが、できる限り少量に制限することが望ましい。
【0055】
例えば、Fe23 、TiO2 、CaO、MgOは、工業原料の不純物として混入するもので、できる限り少ない方がよいが、工業的な範囲としてその合計量で0.05〜0.4%の範囲で含有されてもその特性に影響を及ぼさない。
【0056】
次に、ジルコニア質溶融鋳造耐火物の各成分について説明する。
【0057】
ZrOは、溶融ガラスの浸食に対する抵抗力が強く、耐火物の主要成分として含有されるものである。したがって、耐火物中にZrO2 の含有量が多い方が溶融ガラスに対する耐食性が優れたものとなり、ジルコニア質溶融鋳造耐火物においては、溶融ガラスに対して十分な耐食性を得るために、ZrO2 の含有量を88%以上とするものである。
【0058】
一方、ZrO2 の含有量が97%より多くなると、マトリックスガラスの量が相対的に少なくなってバデライト結晶の変態にともなう体積変化を吸収できなくなるため、クラックの無い耐火物を得ることが困難になってしまう。したがって、本発明において、ZrO2 は耐火物中に88〜97%の範囲で含有させるものである。
【0059】
SiO2 は、耐火物中に発生する応力を緩和するマトリックスガラスを形成する必須成分である。このSiO2 は、亀裂のない実用寸法の耐火物を得るために、耐火物中に2.4%以上含有している必要があり、5.0%以上含有していることが好ましい。しかし、SiO2 成分の含有量が多くなると耐食性が小さくなってしまう。そこで、本発明において、SiO2 は耐火物中に2.4〜10.0%の範囲で含有させるものである。
【0060】
Al2 3 は、マトリックスガラスの温度と粘性の関係を調整する重要な役割を有しており、マトリックスガラス中のZrO2 成分の濃度を低減する効果を有している。この効果を利用してマトリックスガラス中のジルコン(ZrO2 ・SiO2 )などの結晶の生成を抑制するためにはAl2 3 成分含有量を0.4%以上とする必要がある。また、バデライト結晶の結晶変態温度域におけるマトリックスガラスの粘性を適度のものとして維持するためにAl2 3 成分含有量を3.0%以下とする必要がある。そこで、本発明において、Al2 3 は耐火物中に0.4〜3%の範囲で含有させるものである。
【0061】
Al2 3 成分が3%より多いとマトリックスガラスの粘度を高くする他、Al2 3 成分がSiO2 と反応してムライトを生成する傾向があり、その場合にはマトリックスガラスの絶対量が減少すると同時に析出したムライト結晶によってマトリックスガラスの粘性が高くなり、残存体積膨張が生じる。熱サイクルによって、この残存体積膨張が累積すると耐火物にクラックが生じてしまい、耐熱サイクル安定性を阻害するため、ムライトのマトリックスガラス中への析出を抑制し、残存体積膨張の累積傾向を顕著に減少するために、Al2 3 成分の含有量は2%以下であることが好ましい。
【0062】
Na2 OとK2 Oのアルカリ成分は、マトリックスガラス相の温度と粘性の関係を調整する重要な成分である。その含有量が合計量で0.8%超であるとガラスが滲み出しやすくなってしまう。一方、その合計量が、0.1%未満であると、マトリックスガラス相の粘性が高くなりすぎ耐火物を亀裂なく製造することができない。
【0063】
そして、本願発明においては、ガラス欠点の発生源を特定するためのトレーサ成分として、Cs2 Oを含有するものである。ここで、トレーサ成分として上記化合物を選択したのは、マトリックスガラスが滲出し溶融状態のガラス材料に混入したときに、マトリックスガラスに充分溶解して、ガラス材料側に移行することができるものであるからである。
【0064】
このとき、これらCs2 O成分は、Na2 O、K2 Oも含めた合計量、すなわち、Na2 O、K2 O及びCs2 Oの合計量が1%以下であって、かつ、Cs2 O成分は0.2%以上0.5%以下含有するものである。トレーサ成分が0.2%未満となってしまうと、検出性能が悪くなり、ガラス欠点発生源の特定が困難となってしまう。
【0065】
その他の成分については、本発明の目的効果を損なわない程度において若干含まれていてもよいが、できる限り少量に制限することが望ましい。
【0066】
例えば、Fe23 、TiO2 、CaO、MgOは、工業原料の不純物として混入するもので、できる限り少ない方がよいが、工業的な範囲としてその合計量で0.05〜0.4%の範囲で含有されてもその特性に影響を及ぼさない。
【0067】
上記した各溶融鋳造耐火物は、それぞれ上記配合割合となるように粉末原料を均質に混合し、これをアーク電気炉により溶融させて、溶融した原料を砂型又は黒鉛型に流し込み、冷却して製造される。この耐火物は、溶融時にかかるエネルギーが大きいためコストはかかるが、得られる結晶組織が緻密で、結晶の大きさも大きいことから、焼結耐火物よりも耐食安定性に優れたものである。なお、溶融時の加熱は、グラファイト電極と原料粉末を接触させ、電極に通電することにより行われる。
【0068】
このように得られた耐火物は、溶融ガラスに対して優れた耐食性を示し、板ガラス等のガラス製品を製造する際に用いる、ガラス溶融窯用の炉材に適したものである。
【0069】
本発明のガラス溶融窯は、上記した本発明の溶融鋳造耐火物を用いて製造されるものであり、内張り炉材として、本発明の溶融鋳造耐火物を用いて製造すればよい。
【0070】
また、このガラス溶融窯の製造にあたっては、上記したように、ガラス溶融窯を任意のブロック単位に分け、そのブロックごとに異なるトレーサ成分を有する溶融鋳造耐火物を内張り炉材として用いて構成することが好ましい。このとき、ガラス欠点の発生源とは考えられないブロックには、トレーサ成分を含まない、従来用いられてきた溶融鋳造耐火物を用いてもよい。
【0071】
なお、このとき、どのようにブロック単位を分けるか、どのブロック単位にどの種類の溶融鋳造耐火物を用いるかは、設計段階においてガラス融液の流路を予測し、効率的にガラス欠点の発生源を特定することができるようにして決定することが好ましい。
【実施例】
【0072】
以下に、本発明のアルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
表1に示した配合となるように各成分の粉末原料を均質に混合し、これをアーク電気炉により溶融させて、溶融した原料を黒鉛型に流し込み、冷却してジルコニア含有量32%クラスのAZS電鋳煉瓦を得た。これはトレーサ成分として、Cs2 Oを0.43%含有するものである。
得られた電鋳煉瓦から10mm×20mm×120mmの直方体の試料を切りだし、板ガラスを溶解した1500℃の白金坩堝中に72時間つるして侵食試験を行い、そのときの電鋳煉瓦の侵食量を測定するとともに、煉瓦近傍のガラス中のCs2 O含有量を調べた。また、これとは別に、得られた電鋳煉瓦から30mm(直径)×30mm(高さ)の試料を切出し、これを電気炉で1500℃、16時間加熱後のガラス滲出量を求めた。その結果を表1に示した。
【0074】
(実施例2)
トレーサ成分として、Cs2 Oの代わりにSrOを0.48%含有するものとした以外は、実施例1と同様に電鋳煉瓦を鋳造し、ガラスによる侵食量、SrO含有量及びガラス滲出量を調べた。その結果を表1に示した。
【0075】
(実施例3)
トレーサ成分として、Cs2 O含有量が2.1%のものを実施例1と同様の操作で鋳造した。実施例1と同様に、ガラスによる侵食量、SrO含有量及びガラス滲出量を調べ、その結果を表1に示した。
【0076】
(比較例1〜2)
トレーサ成分として、同時にCs2 O、SrOを含有しない通常のAZS電鋳煉瓦(比較例1)、Cs2 O含有量が0.19%のもの(比較例2)を実施例1と同様の操作で鋳造した。実施例1と同様に、ガラスによる侵食量、SrO含有量及びガラス滲出量を調べ、その結果を表1に示した。
【0077】
【表1】

【0078】
*侵食試験後の煉瓦の侵食量:
耐食性は、10mm×20mm×120mmの直方体形状の試料を鋳塊より切出し、白金坩堝中に吊るしてカンタルスーパー炉中で1500℃、48時間、ガラス材料に浸漬した後の侵食量を測定して求めた。ここで用いたガラス材料は、SiO2 72.5%、Al2 2.0%、MgO 4.0%、CaO 8.0%、Na2 O 12.5%、K2 O 0.8%の組成からなるものである。
*侵食試験後の煉瓦近傍ガラス中のトレーサ成分含有量:
上記侵食試験において、ガラス中に浸漬された試料の表層から0.5〜1mm離れた部分のガラスの成分を電子顕微鏡(SEM−EDX)を用いて、測定した。
*ガラス滲出量:直径30mm、高さ30mmの円柱の試料をダイヤモンドコアドリルで切出し、アルキメデス法にて乾燥質量(W1)、水中質量(W2)を測定する。この試料を電気炉にて1500℃で16時間保持した後、炉外に取り出し、炉外で自然放冷する。この試料を再度、アルキメデス法にて乾燥質量(W3)、水中質量(W4)を測定する。このようにして得られた測定値を使い、次式(1)により算出した。
ガラス滲出量=〔(W3−W4)/(W1−W2)−1〕×100% …(1)
【0079】
その結果、実施例1及び実施例2は、1500℃で72時間という長期間の侵食試験後の炉材近傍のガラス中からCs2 O及びSrOが検出することができ、ガラス欠点となった際も、トレーサ成分が検出されることが確認された。また、侵食試験による耐食性及びガラス滲出試験結果も現在、一般的に使用されている煉瓦(比較例1)と大きく差がないことが確認された。また、実施例3も侵食試験後の炉材近傍中のガラス中のCs2 Oは1.5%と充分検出されるものであった。ただし、実施例3では侵食試験における耐食性及び硝子滲出量が大きく、このようなものをガラス窯に使用すると、製品に悪影響が及ぼされる可能性がある。
一方、比較例2はCs2 O含有量が0.19%であるが、侵食試験後の炉材近傍のガラス中にCsOは検出されなかった。
【0080】
以上より、本発明のガラス欠点発生源特定方法により、容易に、かつ、直接的に、ガラス欠点の発生源を特定することができた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のガラス欠点発生源特定方法は、ガラス溶融窯を用いたガラス製品の製造分野に利用することができる。また、本発明の溶融鋳造耐火物及びそれを用いたガラス溶融窯は、本発明のガラス欠点発生源特定方法を行う際に適したものであるが、この特定方法を行わないガラス製品の製造におけるガラス溶融窯に適用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cs2 O、SrO、BaO及びZnOから選ばれる少なくとも1種のトレーサ成分を含有した溶融鋳造耐火物を内張り炉材に用いてガラス溶融窯を構築する工程と、
前記ガラス溶融窯によりガラス材料を溶融し、溶融されたガラス材料を、成型しガラス製品を製造する工程と、
前記ガラス製品のうちガラス欠点を有するものを抽出し、成分組成を分析して前記ガラス溶融窯のガラス欠点発生源の位置を求める工程と、
を有することを特徴とするガラス欠点発生源特定方法。
【請求項2】
前記溶融鋳造耐火物が、アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物、アルミナ質溶融鋳造耐火物及びジルコニア質溶融鋳造耐火物から選ばれる少なくとも1種の溶融鋳造耐火物であることを特徴とする請求項1記載のガラス欠点発生源特定方法。
【請求項3】
前記溶融鋳造耐火物中に含まれるトレーサ成分が、前記溶融されるガラス材料に含まれていないことを特徴とする請求項1又は2記載のガラス欠点発生源特定方法。
【請求項4】
前記ガラス溶融窯の構成箇所をブロック単位に分け、そのブロック単位ごとに前記トレーサ成分として異なる成分を含有する溶融鋳造耐火物を用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のガラス欠点発生源特定方法。
【請求項5】
化学組成が質量%で、Al2 3 を45〜70%、ZrO2 を14〜45%、SiO2 を9〜15%含み、Na2 O、K2 O、Cs2 O及びSrOの合計量が2%以下であって、かつ、Cs2 O及びSrOから選ばれる少なくとも1種のトレーサ成分を0.2〜2%含有することを特徴とするガラス溶融窯の内張り炉材用アルミナ・ジルコニア・シリカ質溶融鋳造耐火物。
【請求項6】
化学組成が質量%で、Al2 3 を94〜98%、SiO2 を0.1〜1.0%含み、Na2 O、K2 O、Cs2 O、SrO、BaO及びZnOの合計量が5%以下であって、かつ、Cs2 O、SrO、BaO及びZnOから選ばれる少なくとも1種のトレーサ成分を0.2〜5%含有することを特徴とするガラス溶融窯の内張り炉材用アルミナ質溶融鋳造耐火物。
【請求項7】
化学組成が質量%で、ZrO2 を88〜97%、SiO2 を2.4〜10.0%、Al2 3 を0.4〜3%含み、Na2 O、K2 O及びCs2 Oの合計量が1%以下であって、かつ、Cs2 Oのトレーサ成分を0.2〜0.5%含有することを特徴とするガラス溶融窯の内張り炉材用ジルコニア質溶融鋳造耐火物。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項記載の溶融鋳造耐火物を内張り炉材として用いたことを特徴とするガラス溶融窯。
【請求項9】
前記ガラス溶融窯を、その構成箇所により任意のブロック単位に分け、そのブロック単位ごとに異なるトレーサ成分を含有する請求項5乃至7のいずれか1項記載の溶融鋳造耐火物を用いることを特徴とするガラス溶融窯。

【公開番号】特開2011−93740(P2011−93740A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249346(P2009−249346)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(391040711)AGCセラミックス株式会社 (23)
【出願人】(591048737)エージーシー フラット グラス ユーロップ エスエー (12)
【Fターム(参考)】