説明

ガラス溶融炉のための耐火ブロック

本発明は、酸化物に基づく重量%として、及び全体を100%とする以下の平均化学組成を有する溶融耐火生成物に関連している。ZrO:30%−46%、SiO:10%−16%、Al:100%までの残余、Y≧50/ZrO及びY≦5%、NaO+KO:0.5%−4%、CaO:≦0.5%、他の化学種:≦1.5%。本発明は、ガラス溶融炉のために利用されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AZS(アルミナ−ジルコニア−シリカ)溶融耐火生成物に関連している。
【背景技術】
【0002】
耐火生成物は、ガラス溶融炉の構造物で周知の溶融生成物、及び焼結生成物を含んでいる。
【0003】
焼結生成物と対比して、溶融生成物は一般的に、粒間のガラス質相の相互接続結晶化粒子を含んでいる。焼結生成物で起こる問題と溶融生成物で起こる問題、及びそれらを克服するために適合された技術的解決策は、それ故一般的に異なっている。よって、焼結生成物を生産するために展開された組成は、推測的に、溶融生成物の生産に本質的に適しておらず、逆もまた同様である。
【0004】
通常「電気溶融」呼ばれている溶融生成物は、電気アーク炉内に適切な開始材料の混合物を溶融することにより、またはそのような生成物に適した任意の他の技術を用いることにより得られる。前記溶融材料はそれから、鋳型内に成型され、及び得られた生成物はそれから制御された冷却サイクルを受ける。
【0005】
溶融生成物は、電気溶融AZS生成物、すなわち、主にアルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、及びシリカ(SiO)を含み、何十年もの間知られている電気溶融AZS生成物を含んでいる。特許文献1はこの種の生成物の最初の改善の一つを説明している。その著者は、70%のAl、40%のZrO、及び9%から12%のSiOを含む生成物についての実現可能性に関連する問題を克服するために、NaO(1%−2.2%)及びMgO/CaO(0.2%−0.8%)を加えることを勧めている。
【0006】
Saint−Gobain SEFPROにより現在売られている、ER−1681、ER−1685、またはER−1711のようなAZS生成物は、45%から50%のAl、32%から41%のZrO、及び12%から16%のSiO、及びおおよそ1%のNaOを含んでいる。
【0007】
これらの生成物は、ガラス炉の生産に向いている。より具体的に、現在のAZS生成物は主に溶融ガラスに接触するゾーンに対して、及びガラス炉の上部構造に対しても利用される。
【0008】
前記生成物はよく機能しているが、ガラス炉の運転状況、及び前記ガラスの質の改善の絶え間ない要求がある。
【0009】
特に、ガラス炉のセルを構成している溶融AZS生成物のブロックは、前記セルの外より溶融ガラスと接触してより高い温度を受ける。運転において、二つの隣接するセルブロックの間の接触は、前記ブロックの最大膨張温度に近い温度に対応するゾーンだけで起こる。このように、それはガラスによる腐食が特に避けられるべきである臨界域である。
【0010】
接触ゾーンにおける温度がより低いとき、及び前記ガラスが低い粘着性を示すとき、そのような腐食は相対的に減少される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2 438 552号明細書
【特許文献2】仏国特許出願公開第208 577号明細書
【特許文献3】仏国追加特許第75893号明細書
【特許文献4】仏国追加特許第82310号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
良好な実現可能性を保持すると同時に、このように、ガラス炉の前記セルの前記臨界域において温度が減少されることを可能にする膨張の振る舞いを有する溶融AZS生成物に対する必要性がある。
【0013】
本願発明は、前記必要性を満足させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
より具体的に、本願発明は、酸化物に基づく重量%として、及び全体を100%とする以下の平均化学組成を有する溶融耐火生成物を提供する。
・ZrO: 30%−46%
・SiO: 10%−16%
・Al: 100%となるように補う
・Y≧50/ZrO及びY≦5%
・NaO+KO: 0.5%−4%
・CaO: ≦0.5%
・他の化学種: ≦1.5%
【0015】
一つの実施形態において、前記Yが、CeO、MgO、Sc、及びVから選択される一つ以上の酸化物により部分的に、または完全に置き換えられる。
【0016】
一つの実施形態において、前記NaO及び/またはKOがBにより部分的に、または完全に置き換えられる。
【0017】
本発明の生成物は同様に、以下の任意の特徴の一つ以上を含んでもよい。
・好ましくは、ZrO>32% 及び/または ZrO<41%;
・好ましくは、SiO>11% 及び/または SiO<15%;
・好ましくは、Al>38%、またはAl>42%、及び/またはAl<52%、またはAl<50%;
・Y+CeO+MgO+Sc+V≦5%;
・好ましくはY+CeO+MgO+Sc+V含有量、好ましくはYO含有量は、60/ZrOより大きく、より好ましくは70/ZrOより大きい;
・好ましくはY+CeO+MgO+Sc+V含有量、好ましくはY含有量は、1.2%より大きく、好ましくは1.5%より大きく、より好ましくは2.0%より大きい;
・好ましくは、前記Y含有量、またはY+CeO+MgO+Sc+V含有量は、4.5%より小さい;
・ZrO/Y比及び/またはZrO/(Y+CeO+MgO+Sc+V)比は9より大きく、及び/または30より小さく、25より小さく、または20より小さく、15より小さく、または12より小さい;
・NaO+KOの量は、0.8%より大きく、または1.0%より大きく、及び/または3.0%より小さく、2.5%より小さく、2.0%より小さい;
・NaO+KO+Bの量は0.5%より大きく、0.8%より大きく、または1.0%より大きく、及び/または4.0%より小さく、3.0%より小さく、2.5%より小さく、または2.0%より小さい;
・前記「他の化学種」は不純物である;
・前記生成物はブロックの形態である。
【0018】
本発明は同様に、本発明による耐火生成物を製造する方法を提供しており、前記方法は、以下の連続した段階を備えている。
a)開始装填材料を形成する方法で開始材料を混合する段階;
b)溶融材料を得るために前記開始装填材料を溶融する段階;
c)溶融耐火生成物を得るために、前記溶融材料を制御された冷却により成形及び固化する段階;
前記方法は、前記溶融耐火生成物が本発明の生成物の組成に従う組成を有するように、前記開始材料が選択されていることは注目に値する。
【0019】
最後に、本発明は、本発明による生成物、特に、本発明による方法で製造されるか、または製造されることのできる生成物、特に、前記生成物が溶融ガラスと接触するかまたは前記ガラスの溶融により放出されたガスと接触する炉の領域、及び特に上部構造(クラウン)において生成物を含むガラス溶融炉を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
一般的に、「溶融生成物」、「溶融及び成形生成物」、または「溶融によって得られた」との用語は、アニールされていてもよく、溶融材料の完全な固化または冷却により得られた固体生成物に対して用いられる。「溶融材料」とは、その形状を維持するために容器内に含まれるべき塊である。液体のようにみえる溶融材料は、固体部分を含んでいてもよいが、それは前記塊に構造を与えることのできるように不十分な量である。
【0021】
本発明の生成物は、ジルコニア源に自然に存在する酸化ハフニウムHfOを含んでいてもよい。本発明の前記生成物におけるその含有量は5%以下であり、一般的に2%以下である。従来のように、「ZrO」との用語は、ジルコニア及びこれらの微量の酸化ハフニウムを意味している。
【0022】
「不純物」との用語は、開始材料に必然的に取り入れられているかまたはこれらの組成の反応に起因する避けられない組成を意味している。特に、鉄またはチタンの酸化物は有害であり、及びこれらの含有量は不純物として開始材料に取り入れられた微量なものに制限されなければならない。特に、Fe+TiOの重量は、0.55%より小さい。
【0023】
別途に示されていなければ、本願の明細書における全てのパーセンテージは酸化物に基づいた重量パーセンテージである。
【0024】
本発明による生成物は以下で説明される段階a)からc)に従って製造されうる。
a)開始装填材料を形成する方法で開始材料を混合する段階
b)溶融材料を得るために前記開始装填材料を溶融する段階
c)本発明による耐火生成物を得るために制御された冷却により前記溶融材料を固化する段階
【0025】
段階a)において、前記開始材料は、最終生成物の組成が本発明による組成となることを保証する方法で決定される。
【0026】
以下で説明されるように、酸化イットリウムの存在は、本発明の生成物において必要であるが、その含有量は4.5%を超えてはならない。この事実の理論的な説明は、しかしながら、提供することができない。
【0027】
は、CeO及び/またはMgO及び/またはSc及び/またはVにより代替されてもよい。
【0028】
酸化ナトリウム及び/または酸化カリウムの存在は、適切な物理的及び化学的特性を有するガラス相を提供するために必要である。NaO+KOの量は、しかしながら、4%を超えてはならず、そうでなければ、耐腐食性及び/または実現可能性が顕著に低下しうるだろう。NaO及び/またはKOはBにより代替されうる。
【0029】
酸化カルシウムの存在は、それがガラス相においてカルシウムアルミン酸塩の結晶を生成することができるので、本発明の生成物において有害となる。これらの結晶の存在は、生成物において破断欠陥をもたらしうる。さらに、非常に高いCaO含有量は、前記生成物の耐腐食性を減少させるジルコニア結晶の分解を導く。このように、前記CaO含有量は0.5%を超えてはならない。
【0030】
段階b)において、溶融は好ましくは、還元をもたらさない極めて長い電気アークと、前記生成物の再酸化を促するための撹拌との結合された作用を用いることで実行される。
【0031】
金属のような外観の団塊の形成を最小化し、及び開口の形成または最終生成物のひび割れを避けるために、酸性条件下で溶融を実行することが好ましい。
【0032】
好ましくは、特許文献2、特許文献3、及び特許文献4において説明されたロングアーク溶融法が利用される。
【0033】
前記方法は、アークが前記電荷と該電荷からある距離にある少なくとも一つの電極との間でぶつけられる電気アーク炉を用いる段階と、及び融液上の酸化雰囲気を維持し、及び本質的に前記アークの作用、または前記融液内に酸化ガス(例えば空気または酸素)を泡立てること、または前記融液内に過酸化物のような酸素を放出する物質を加えることのいずれかにより、それをかき回すと同時に、還元作用が最小に減少されるようにアーク長を調節する段階と、よりなる。
【0034】
段階c)において、前記溶融材料は好ましくは、ブロックを生産するために適用された鋳型に流し込まれる。冷却は好ましくは、1時間あたりおおよそ10℃の割合で実行されうる。
【0035】
開始装填材料の組成は、得られる生成物が本発明の生成物の組成に従う組成を有することを可能にさせるという条件で、ガラス溶融炉内での応用を対象とした溶融AZS生成物のいかなる従来の製造方法が採用されうる。
【0036】
本発明の生成物はブロックの全てまたは一部を構成しうる。
【0037】
特に、前記ブロックは10キログラム(kg)より大きい質量、20kgより大きい質量、または50kgより大きい質量、150kgより大きい質量、300kgより大きい質量、または900kgより大きい質量、及び/または2(メトリック)トンより小さい質量を有しうる。特に、おおよそ1トンの質量を有しうる。
【0038】
前記ブロックの形状は制限されていない。
【0039】
前記ブロックは、少なくとも一つの次元(厚さ、長さ、または幅)が少なくとも150ミリメートル(mm)、好ましくは少なくとも200mm、または少なくとも400mm、または少なくとも600mm、または少なくとも800mm、または少なくとも一つ1000mm、または少なくとも1600mmを有しうる。
【0040】
一つの有利な実施形態において、前記ブロックの厚さ、長さ、及び幅は、少なくとも150mm、または少なくとも200mm、または少なくとも300mm、または少なくとも400mmである。
【0041】
本発明の生成物は、同様に、薄い生成物の形態、すなわち、50mmから150mmの範囲の厚さ、特に、120mmより小さい厚さ、または100mmより小さい厚さで利用されうる。それは特にタイルの形態であってもよい。
【0042】
好ましくは、前記ブロックまたはタイルは、炉、特にガラス溶融炉の一部を形成するか、または壁または床を構成する。
【0043】
実施例
以下の非制限的な実施例が本願発明を説明するために与えられる。
【0044】
これらの実施例において、以下の開始材料が利用された。
・Societe Europeenne des Produits Refractaires社により売られており、重量で平均して、98.5%のZrO+HfO、0.5%のSiO、及び0.2%のNaOを主に含んでいるCC10ジルコニア;
・33%シリカを含んでいるジルコンサンド;
・Pechiney社により売られており、平均で99.4%のAlを含んでいるAC44型アルミナ;
・58.5%のNaOを含有する炭酸ナトリウム;及び
・99%より大きな純度を有する酸化イットリウム;
【0045】
前記生成物が従来のアーク炉溶融法を用いて準備され、及びそれから200×400×150mmの形式のブロックを得るたえに成形される。
【0046】
得られた生成物の化学分析が表1で与えられる。これは平均化学分析を示しており、重量パーセントで与えられる。アルミナAl及び不純物は100%の組成を構成した。
【0047】
フィージビリティ(Feasibility)
それぞれの実施例に対して、生成物のフィージビリティがフィージビリティインデックスFIを用いて評価された。10に等しいFIの値は、優れたフィージビリティ(最適化された生産収率、得られた一部分における無欠陥)に相当しており、7から9の範囲の値は、十分なフィージビリティ(良好な生産収率、いくつかの小さな割れ目を有して生産された部分)を示し、及び6以下の値は受け入れられない収率に対応する(崩壊部分、等)。
【0048】
試験を実施するために、生産されたブロックの様々な実施例から試料が得られた。
【0049】
相転移前の最大膨張温度の測定(試験A)
温度に応じた膨張のグラフが確立され、及びジルコニア転換(二次の単斜晶系)の前の最大膨張率に対応する温度が記録され、表1に示されている。
【0050】
【表1】

【0051】
酸化イットリウムにより果たされる積極的な役割が確認されている。積極的な効果が意味のあるものとなるために、前記生成物において最小の量が必要であるとみなされる。50/ZrOの比より大きな酸化イットリウムを有する生成物に対して、必要とされる最小量は、前記ジルコニア含有量の減少に応じて増加し、相転移前の最大膨張温度(1050℃より下の温度)において顕著な減少が観測された。このように、ガラスによる腐蝕が減少され、前記ガラスの粘土は増大され、及び前記ガラスの漏れのリスクが減少される。
【0052】
さらに、Yが5%より上では、一部のフィージビリティが受け入れられなくなる(実施例11)。
【0053】
表1は、本発明による生成物の組成を示しており、これは前記フィージビリティと前記相変化温度との間の新たな妥協が観測されうることを意味している。これらの功績により、発明者らは、ガラス溶融炉への応用において特に有利となるこれらの新規な妥協を得ることの可能性を発見した。
【0054】
さらに、我々はこの応用で利用される他の特性、特に、欠陥、腐蝕耐性、及びバブリングを取り除く能力が受け入れられるままであることを証明した。
【0055】
本発明の生成物の結晶分析は、85%を上回るジルコニアが単斜晶系の形態であることを開示している。このように、本発明の生成物における酸化イットリウムの含有量は、前記ジルコニアを安定化させる顕著な役割を果たすために、非常に低い。
【0056】
もちろん、実例となり、非限定的な実施例として提供されて説明された実施形態に本願発明は限定されていない。
【0057】
特に、本発明の生成物は、特定の形状または次元に限定されておらず、ガラス炉への応用にも限定されていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物に基づく重量%として、及び全体を100%とする以下の平均化学組成を有する溶融耐火生成物。
・ZrO: 30%−46%
・SiO: 10%−16%
・Al: 100%となるように補う
・Y≧50/ZrO及びY≦5%
・NaO+KO: 0.5%−4%
・CaO: ≦0.5%
・他の化学種: ≦1.5%
【請求項2】
前記酸化イットリウムの含有量は、60/ZrOよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の生成物。
【請求項3】
前記酸化イットリウムの含有量は、70/ZrOよりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の生成物。
【請求項4】
前記ジルコニア含有量は32%より大きく、及び/または前記シリカ含有量は11%より大きく、及び/または前記アルミナ含有量は38%より大きく、及び/または前記酸化イットリウム含有量は1.2%より大きく、及び/または前記全アルカリ酸化物含有量NaO+KOは0.8%より大きいことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の生成物。
【請求項5】
前記ジルコニア含有量は41%より小さく、及び/または前記シリカ含有量は15%より小さく、及び/または前記アルミナ含有量は50%より小さく、及び/または前記酸化イットリウム含有量は4.5%より小さく、及び/または前記全アルカリ酸化物含有量NaO+KOは3.0%より小さいことを特徴とする請求項4に記載の生成物。
【請求項6】
前記酸化イットリウム含有量は、2.0%より大きいことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の生成物。
【請求項7】
10kgより大きい質量を有するブロックの形態にある請求項1ないし6のいずれか一項に記載の生成物。
【請求項8】
前記Yが、CeO、MgO、Sc、及びVから選択される一つ以上の酸化物により部分的に、または完全に置き換えられたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の生成物。
【請求項9】
前記NaO及び/またはKOがBにより部分的に、または完全に置き換えられたことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の生成物。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか一項に記載の生成物を備えているガラス溶融炉。
【請求項11】
前記生成物が、溶融ガラスまたはガラス溶融により放出されたガスに接触することを受け入れられる前記炉の領域内に配置されることを特徴とする請求項10に記載の炉。

【公表番号】特表2012−513360(P2012−513360A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541701(P2011−541701)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際出願番号】PCT/IB2009/055813
【国際公開番号】WO2010/073195
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(506426269)サン−ゴベン・セントル・ドゥ・レシェルシェ・エ・デチュード・ユーロペアン (42)
【Fターム(参考)】