ガラス発泡体、ガラス発泡体を含むリン酸吸着剤、ガラス発泡体を含む植物育成用培地及びガラス発泡体の製造方法
【課題】排水処理に適用できるガラス発泡体及びその製造方法の提供である。また、リン酸吸着能を付与したガラス発泡体及びその製造方法の提供である。
【解決手段】軟化温度の異なる二種類以上のガラスからなるガラス発泡体であって、少なくとも一種類のガラス3に、該ガラス3よりも軟化温度の高いガラス2が粒子状に分散しており、且つカルシウム成分を含むガラス発泡体により、ガラス発泡体の表面積が増大し、ガラス発泡体表面のカルシウム量が増大することで、吸着物質の吸着性能が向上する。更に、細孔径分布について細孔径が0.1〜2μmの領域に単一の極大値を有し、該極大値が0.1cm3/g以上である空隙4を有することで、ガラス発泡体内部における保水性を高めることができるので、排水中のカルシウムに吸着可能な物質の処理に適用できる。したがって、このようなガラス発泡体をリン酸吸着剤や植物育成用培地に利用できる。
【解決手段】軟化温度の異なる二種類以上のガラスからなるガラス発泡体であって、少なくとも一種類のガラス3に、該ガラス3よりも軟化温度の高いガラス2が粒子状に分散しており、且つカルシウム成分を含むガラス発泡体により、ガラス発泡体の表面積が増大し、ガラス発泡体表面のカルシウム量が増大することで、吸着物質の吸着性能が向上する。更に、細孔径分布について細孔径が0.1〜2μmの領域に単一の極大値を有し、該極大値が0.1cm3/g以上である空隙4を有することで、ガラス発泡体内部における保水性を高めることができるので、排水中のカルシウムに吸着可能な物質の処理に適用できる。したがって、このようなガラス発泡体をリン酸吸着剤や植物育成用培地に利用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理に用いるガラス発泡体及び該ガラス発泡体の製造方法に関し、特に排水中のリン酸を回収するのに適した高いリン酸吸着能を有し、且つ排水処理に使用後のガラス発泡体の植物栽培への利用を容易にするため、植物に利用可能な水を保持できる孔隙に富むガラス発泡体、ガラス発泡体を含むリン酸吸着剤、ガラス発泡体を含む植物育成用培地及びガラス発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人類の産業活動が活発化することで地球規模の環境問題が起こっており、地球環境保護の観点から大気や水域における有害物質の排出規制がなされ、大気や水域の浄化が早急に必要とされている。例えば、水域に関しては、生活排水や産業排水、その他畜産排泄物等に由来するリン酸は、水質汚濁や水系の富栄養化の要因物質であり、生態系の著しい変化や食物連鎖の崩壊等の深刻な問題を引き起こす。この問題に対処するために、水質汚濁防止法や湖沼水質保全特別措置法などが制定され、リン酸の排出基準が定められている。近年、このような水質汚濁をさらに厳しく規制するため、第6次水質総量規制(東京湾に流入する汚濁負荷量の削減目標を定めたものである)では、排水中のリン酸濃度のさらなる低減が要求されている。
【0003】
排水中のリン酸濃度を低減する方法として、嫌気・好気法のような生物処理法、凝集沈殿法、晶析脱リン酸法、吸着法などがある。
嫌気・好気法についてはリン酸の除去効率が高いが、設備導入コストが高額であるという問題がある。また、凝集沈殿法については簡便・安価であるが、リン酸と凝集剤との反応効率が低く、スラッジや汚泥が大量に発生するため、その処理が問題である。
【0004】
そして、晶析脱リン酸法については、リン酸の除去効率が高いが、設備導入コスト、反応条件の調整やスケール除去のための維持管理コストが高額であり、更に、吸着法はリン酸の除去効率が高く、簡便であるが、排水処理に使用後の吸着剤の処分が問題となっている。これは既往の吸着剤がリン酸を強く吸着しているために肥料としての利用が困難であったためである。
【0005】
上述のように、近年排水の水質規制が強化され、排水中のリン酸濃度の更なる低減が要求されている。しかし、実際の排水(原水)のリン酸濃度は一事業所についてみても大きく変動する場合があり、上記のいずれかの処理法を用いたとしても処理水中のリン酸濃度についても原水中のリン酸濃度に連動して大きく変動する。
その結果、一過的に規制値(基準値)を超過することが懸念されるため、このような一過的な規制値超過に対応するために、既設の排水処理設備の後段で用いられるような簡便でリン酸の除去効率の高い処理法が求められている。
【0006】
この処理法として上記吸着法の適用が考えられ、下記特許文献3には、リン酸の吸着剤として、アルミニウム、第1鉄、第2鉄若しくはカルシウムの硫酸塩及び塩化物から選ばれる1種以上を含む母核と、その周囲に形成された被覆層とからなり、粒径が0.5〜40mmの範囲である水質浄化用粒剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−169119号公報
【特許文献2】特開2005−97065号公報
【特許文献3】特開平9−103608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記吸着法によれば、既存の吸着剤は吸着したリン酸の脱離・再生のために0.2N程度と濃度の高い硫酸で処理する必要があり、発生する廃液の処分が問題である。例えば、上記特許文献3によれば、リン酸の金属塩が捕捉された濾過材の再利用には、0.5%程度の希硫酸又は希塩酸に約2分間浸漬することにより、リン酸の金属塩を除去できることが記載されている。
リン酸は水質汚濁や水系の富栄養化を引き起こす要因物質でもあるが、植物の生育に欠かせない必須元素であり、植物栽培の肥料としても利用価値がある。リン酸肥料の原料であるリン鉱石は枯渇の危機にある希少資源であり、近年、資源価格が急騰している。そのため、リン酸の効率的な回収・再資源化の必要性が高まりつつある。したがって、吸着したリン酸をリン酸肥料として再資源化するためには、容易に再生・脱離されるような吸着剤であることが望ましい。また、環境問題の点からも再生利用(リサイクル)できる吸着剤であることが好ましい。
【0009】
一方、一般家庭や事業所から排出されるガラスを粉砕し、高温において気体を発生させる資材を混合、焼成させることで製造されたガラス発泡体がガラスリサイクル品として販売されている。このガラス発泡体は、その軽量性・多孔質性・断熱性などを生かし、主に土木・建築資材として利用されている。
そして、本発明者らは、以前、ガラス発泡体がリン酸を吸着できる吸着剤である(以下、リン酸吸着能を有するという場合がある)ことを明らかにした(上記特許文献2)。しかし、既存のガラス発泡体のリン酸吸着能力は低く、排水処理に適用できるものではなかった。この方法は、ガラス粉末に発泡剤として炭酸カルシウムを混合し、加熱して冷却させる工程を経るものである。これは既存のガラス発泡体が土木、建築等の軽量資材の用途に限ったものであり、リン酸吸着という観点からは、未だ不十分なものであった。
【0010】
また、上記特許文献1には、排水中のリン酸イオンを結晶として除去回収するMAP(リン酸マグネシウムアンモニウム)法の改良として、ガラス粉粒体とマグネシウム成分を含む粉粒体と発泡剤を混合して加熱する焼成工程と、焼成物を冷やす急冷工程によって粒径の細かい発泡ガラス材を効率的に製造する技術が開示されている。そして、上記特許文献1記載の発明は、発泡ガラス材の表面及び空隙内壁面にマグネシウム成分を露出させることで被処理水のリン(リン酸)を吸着させるものである。
【0011】
MAP法は、リン酸をアンモニウムとマグネシウムとの複塩として沈殿させる方法であり、処理効率は高い反面、反応条件を調整するための処理装置を導入する必要があるため初期コストがかかり、また、装置の維持管理にもコストがかかるという問題がある。上記特許文献1記載の発明では、吸着剤上に実際にリン酸が担持され、その吸着したリン酸を解離・回収できるかについては確認されていない。
また、粒径の細かい発泡ガラス材によっても、発泡ガラス材内部が十分に多孔質化されていなければリン(リン酸)は表面に吸着されるのみで、リンの吸着能(リン酸吸着能)の向上はあまり望めない。
【0012】
また、省エネルギー化の観点からも、リン酸吸着のみならず、それ以外の用途にも利用可能な多機能性のガラス発泡体であれば、より望ましい。内部に孔隙を有するというガラス発泡体の特性を活かして、例えば、屋上緑化等における植物栽培への利用などが考えられる。この場合、通気性、透水性等、植物の根の伸長を促進するため、吸水性の高いガラス発泡体が望まれる。
【0013】
本発明の課題は、上記問題点を解決することであり、排水処理に適用できるガラス発泡体及びその製造方法を提供することである。また、本発明の課題は、リン酸吸着能を付与したガラス発泡体及びその製造方法を提供することである。更に、本発明の課題は、植物栽培に適用できるガラス発泡体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、具体的には以下のような構成を採用することにより達成できる。
請求項1記載の発明は、軟化温度の異なる二種類以上のガラスからなるガラス発泡体であって、少なくとも一種類のガラスに、該ガラスよりも軟化温度の高いガラスが粒子状に分散しており、且つカルシウム成分を含むガラス発泡体である。
請求項2記載の発明は、細孔径分布について細孔径が0.1〜2μmの領域に単一の極大値を有し、該極大値が0.1cm3/g以上である請求項1に記載のガラス発泡体である。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載のガラス発泡体を含み、被処理水溶液中に含まれるリン酸又はリン酸根を吸着するためのリン酸吸着剤である。
請求項4記載の発明は、請求項2に記載のガラス発泡体を含む植物育成用培地である。 請求項5記載の発明は、(a)軟化温度の異なる2種以上のガラス粉末と、(b)発泡剤である炭酸カルシウムマグネシウム又はドロマイトを混合して、前記各ガラスの軟化温度のうち最も低い温度以上で、且つ最も高い温度を超えない温度を最高温度として焼成、発泡させるガラス発泡体の製造方法である。
請求項6記載の発明は、前記ガラス粉末のうち、最も低い軟化温度のガラスとしてソーダ石灰ガラスを使用し、最も高い軟化温度のガラスとしてアルミナホウケイ酸ガラス又はアルカリバリウムガラスを使用する請求項5記載のガラス発泡体の製造方法である。
【0016】
(作用)
生活排水や産業排水などに含まれ、処理対象となる有害物質として、例えば水質汚濁や水系の富栄養化の要因物質となるリン酸は代表的なものである。
従来のリン酸の吸着法によれば、吸着したリン酸の脱離・再生のためには0.2N程度と濃度の高い硫酸で処理する必要があり、発生する廃液の処分が問題であった。これはリン酸の吸着が吸着剤表面のアルミニウムや鉄による化学吸着に起因するものであり、これらの元素とリン酸を強固に吸着しているため、解離させるのに高濃度の硫酸を要するためであると考えられる。
【0017】
しかし、リン酸と吸着反応する元素としてはアルミニウムや鉄のほかにカルシウムがある。化学的には、アルミニウム、鉄、カルシウムの各金属イオンとのリン酸塩の溶解度を比較すると、リン酸カルシウムは約10−7mol/リットル、リン酸鉄は約10−8mol/リットル、リン酸アルミニウムは約10−11mol/リットルの順で大きくなり、アルミニウム、鉄、カルシウムの順序でリン酸と強く結合しているものと考えられる。この溶解度の関係は、水溶液中における各金属イオンとリン酸との相互作用についての現象であるが、これらの金属が吸着剤表面に存在している場合も概ね同様の現象が起きているものと推察される。
【0018】
したがって、カルシウムはアルミニウムや鉄とは異なり、リン酸と緩やかに吸着することで、廃液処理が容易な低濃度の酸によって解離できるのではないかと本発明者らは考えた。そして、本発明者らは、カルシウム成分を表面に富化したガラス発泡体の吸着剤を作製できれば上記の吸着剤を用いた排水処理の問題が解決できると考え、吸着剤の多孔質化により吸着剤の表面積を増やすことでカルシウム成分を表面に富化させる方法を鋭意研究した。
【0019】
すなわち、本発明者らは、吸着剤の性能は吸着剤表面の反応基(カルシウム)の存在量と、表面積とによって規定されると推測した。
例えば、カルシウムを含有する炭酸カルシウムやドロマイトなどの炭酸塩とガラス粉末を混合して加熱・焼成すると、炭酸カルシウムは高温域において二酸化炭素を放出し、軟化したガラス中をその気泡が通過することで孔、空隙が形成される。発泡剤として代表的な炭酸カルシウムやドロマイトを使用するガラス発泡体の製造方法は、ガラス粉末に炭酸カルシウム(又はドロマイト)を混合し、加熱して冷却させる工程を経るものである。
【0020】
そして、本発明者らは、ガラス発泡体の原料となるガラス(ガラス粉末)について、更なる検討を行った。上述のように、リン酸吸着能は、ガラス発泡体の表面積によって規定されると推測し、まずガラス発泡体の表面積を増やす方法を鋭意研究した。
そこで、本発明者らは、複数の種類のガラスを使用して、少なくとも一種類のガラスの内部や表面に他の種類のガラスの粒子を付着、分散させることで、ガラス発泡体の表面積が増やせることを見出した。すなわち、複数種類の均一なガラスの層を重ねた多層構造とするのではなく、軟化して均一化したガラス表面や内部に、軟化していない粒子形状を保った別のガラスが分散していることで、ガラス発泡体の表面積を増やすことができる。
【0021】
従来、ガラス発泡体の原料として使用されるガラスは一種類である。それは、種類の異なるガラスを混合して焼成、発泡させた場合、その後の冷却工程を経る間に両ガラスの熱収縮程度の違いによって生成したガラス発泡体の強度が落ち、質の低下が起こるためである。ガラス発泡体は多孔質性であるが故に、それ自体の強度不足が問題となる。したがって、複数種類のガラスを使用することで、更に強度が低下すると、土木・建築資材などとしての利用が難しくなる。
【0022】
上述の複数の種類のガラスによって多層構造を形成させる場合は、生成するガラス発泡体の強度、質の低下が懸念されるが、本発明者らは、軟化したガラスに別のガラスが軟化せず、粒子状に分散する状態では、ガラス発泡体の強度、質の低下という問題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
更に、省エネルギー化の観点からも、リン酸吸着のみならず、それ以外の用途にも利用可能な多機能性のガラス発泡体であれば、より望ましい。内部に孔隙を有するというガラス発泡体の特性を活かして、例えば、屋上緑化等における植物栽培への利用などが考えられる。
【0023】
ガラス発泡体に含有されるカルシウムはリン酸と緩やかに吸着するため、廃液処理が容易な低濃度の酸によって解離、再生が可能である。そして、このように再生した後又はガラス発泡体にリン酸を保持させたまま再生させずにガラス発泡体を植物栽培に利用しようとする場合、一般的に孔径分布が均一であったほうがより吸水が促進されると推測されるため、より細孔径分布の均一な孔隙の形成も望まれる。更にこのような均一な孔隙の細孔容積は大きい方がより吸水性が高まる。
【0024】
また、ガラス発泡体の表面積は発泡反応によって生成された空隙の量と密接な関わりがある。
軟化温度の異なる二種類以上のガラス粉末を混合し、焼成、発泡させると、まず軟化温度の最も低いガラスが軟化して均一化した層を形成する。このとき、そのガラスよりも軟化温度の高いガラスはまだ軟化せずに、軟化温度の最も低いガラス内部又は表面上に粒子状に分散した状態である。
【0025】
更に最高温度を軟化温度の最も高いガラスの軟化温度を超えない温度まで上げた後、冷却することで、最高温度とほぼ同じ又は最高温度よりも軟化温度の高いガラスは最高温度よりも軟化温度の低いガラス内部又は表面上に粒子状に分散した状態のまま、これらの熱収縮程度の違いから、これらガラスの境界面に空隙が生じる。そして、この空隙がガラス発泡体の表面積を増大させると共に、ガラス発泡体の多孔質化、リン酸吸着能の向上、吸水率の向上に寄与することが期待される。また、この際形成される空隙のサイズはガラス粒径を管理しておけば、ほぼ使用するガラスの熱特性にのみ規定されるために比較的均一な細孔径分布となることも期待された。
【0026】
一方、液晶パネルガラス、プラズマテレビガラスに用いられているガラス(FPDガラスという)は省電力、省資源が可能であり、画質の飛躍的向上などから需要が拡大しており、廃棄量も急増しているため、リサイクルの取り組みが行われている。
リサイクルの例として、FPDガラスを製品から分離し、ガラスカレットにしてセメントや塗料と混合し、非透水性の土木用軽量資材に利用されている。
【0027】
本発明者らは、これらFPDガラスが通常、一般家庭から排出されるガラス容器(廃ガラス、ビンガラス)と比べて高軟化点であることに着目した。すなわち、軟化点の相違という、このような特徴の異なるFPDガラス及びビンガラスを混合、焼成した場合、図1に示すようなメカニズムが考えられる。図1には、本発明のガラス発泡体の製造方法の概念図を示している。
【0028】
ビンガラスの粒子1及びFPDガラスの粒子2を混合、焼成すると、軟化温度の低いビンガラスが軟化する。そして、軟化したソーダ石灰ガラス(ビンガラスとして一般的なガラス)3の中を軟化していないFPDガラスの粒子2が分散した状態となり、一種類のガラスを用いた場合に比べてガラス発泡体の表面積が増大する。その後、冷却することで、両者の熱収縮程度の違いから、両者の境界面に空隙4が生じ、この空隙4が更にガラス発泡体の表面積を増大させると共に多孔質化、リン酸吸着能の向上、吸水率の向上に寄与することが期待される。また、この際形成される空隙4のサイズはガラス粒径を管理しておけば、ほぼ両種ガラスの熱特性にのみ規定されるために比較的均一な細孔径分布となることも期待された。
FPDガラスとしては、液晶パネルガラス(LCDと言う)として使用されるアルミナホウケイ酸ガラス(アルミノホウケイ酸ガラスとも言う)やプラズマテレビガラス(PDPと言う)として使用されるアルカリバリウムガラスがある。
【0029】
ソーダ石灰ガラスの軟化温度は720〜740℃、アルミナホウケイ酸ガラスの軟化温度は900〜980℃、アルカリバリウムガラスの軟化温度は850℃以下であり((社)電子情報技術産業協会、(財)家電製品協会の「テレビのリサイクルに関する諸課題について」第9頁「I−3.(1)ブラウン管ガラスの特殊性」(2007年4月27日)より抜粋)、アルミナホウケイ酸ガラスやアルカリバリウムガラスの軟化温度はソーダ石灰ガラスの軟化温度よりも100℃〜200℃程度高いため、軟化温度の高いガラスとしてアルミナホウケイ酸ガラスやアルカリバリウムガラスを使用し、軟化温度の低いガラスとしてソーダ石灰ガラスを使用すればよい。
また、アルミナホウケイ酸ガラスやアルカリバリウムガラスはバリウム成分を含む。バリウムはカルシウムと同じアルカリ土類金属であることから、リン酸を吸着する反応基が増え、更にリン酸吸着能が高まると考えられる。
【0030】
請求項1記載の発明によれば、少なくとも一種類のガラスに、該ガラスよりも軟化温度の高いガラスが粒子状に分散していることで、ガラス発泡体の表面積が増える。このように、カルシウムが存在するガラス発泡体の表面積が増えることで、Ca成分に吸着可能な物質の吸着性能が向上する作用がある。リン酸以外の吸着対象物質としては、Ca成分に吸着可能な有機態リン酸や亜リン酸、ポリリン酸などが考えられる。
請求項2記載の発明によれば、上記請求項1に記載の発明の作用に加えて、単一の極大値を有し、該極大値の値が比較的大きい細孔径分布のガラス発泡体であるため、極大値の細孔径によって吸着対象物質を含有した被処理水がよりガラス発泡体の内部に侵入しやすくなり、細孔径内のカルシウムに吸着されやすくなると共に、吸水性も向上する。
【0031】
請求項3記載の発明によれば、上記請求項1又は2に記載された、カルシウムを含有し、表面積の大きい(又は吸水性の高い)ガラス発泡体を含むリン酸吸着剤であるため、被処理水溶液中に含まれるリン酸又はリン酸根を効率よく吸着できる。
請求項4記載の発明によれば、上記請求項2に記載された、植物が吸水可能な水分を保持することができる孔隙を有するガラス発泡体により、植物育成用培地として保水性、透水性、通気性などを良好に保持できる。
【0032】
請求項5記載の発明によれば、軟化温度の異なる2種以上のガラスを、これらのガラスの軟化温度のうち最も低い温度以上で、且つ最も高い温度を超えない温度を最高温度として焼成、発泡させることで、軟化温度の低いガラスに軟化温度の高いガラスが粒子状に分散する状態を形成できる。したがって、ガラス発泡体の表面積を増やすことができ、反応基(カルシウム)に効率よくリン酸などの吸着物質が吸着する。
請求項6記載の発明によれば、上記請求項5記載の発明の作用に加えて、軟化温度の高いガラスとしてアルミナホウケイ酸ガラスやアルカリバリウムガラスを使用し、軟化温度の低いガラスとしてソーダ石灰ガラスを使用することで、軟化したソーダ石灰ガラスの相に、アルミナホウケイ酸ガラスやアルカリバリウムガラスが粒子状に分散する。また、アルミナホウケイ酸ガラスやアルカリバリウムガラスはバリウム成分を含むことから、リン酸吸着の反応基が増えて、更に効率よくリン酸が吸着する。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、生活排水や産業排水などに含まれる有害物質の吸着、除去に有効であり、具体的には以下の効果を有する。
請求項1記載の発明によれば、ガラス発泡体の表面積を大きくすることが可能となり、ガラス発泡体に含まれるカルシウムに、効果的に吸着物質が吸着して、吸着性能が向上する。
請求項2記載の発明によれば、上記請求項1に記載の発明の効果に加えて、吸着対象物質を含有した被処理水がよりガラス発泡体の内部に侵入しやすくなって、細孔径内のカルシウムに吸着されやすくなり、より一層リン酸の吸着性能が向上すると共に、吸水性も向上する。
【0034】
請求項3記載の発明によれば、被処理水溶液中のリン酸を効率よく吸着できるため、強化されつつあるリン酸の水質規制(排水中のリン酸の濃度規制)に簡便に対応することができる。
請求項4記載の発明によれば、請求項2記載のガラス発泡体の孔隙により植物育成用培地として植物が吸水可能な水分を保持することができ、屋上緑化や土壌改良剤として優良な資材となる。
【0035】
請求項5記載の発明によれば、軟化温度の異なる無機粉粒体発泡剤を混合、さらに発泡剤として炭酸カルシウムマグネシウム又はドロマイトを使用することで、容易、安価に吸着性能の優れるガラス発泡体を製造できる。
請求項6記載の発明によれば、請求項5記載の発明の効果に加えて、低軟化温度のガラスとしてソーダ石灰ガラス、高軟化温度のガラスとしてアルミナホウケイ酸ガラスやアルカリバリウムガラスなどを使用することで、FPDガラスのリサイクルを促進し、循環型社会の形成にも貢献する。また、Ba成分に吸着可能な物質の吸着性能が向上するガラス発泡体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のガラス発泡体の製造方法の概念図である。
【図2】LCD混合ガラス発泡体の外観写真である(実施例1)。
【図3】PDP混合ガラス発泡体の外観写真である(実施例1)。
【図4】LCD混合ガラス発泡体の試作品の外観写真である(実施例2)。
【図5】PDP混合ガラス発泡体の試作品の外観写真である(実施例2)。
【図6】本発明の実施例のFPDガラス発泡体のリン酸吸着率を示した図である。
【図7】本発明の実施例のFPDガラス発泡体の吸水率を示した図である。
【図8】本発明の実施例のガラス発泡体の細孔径分布を示した図である。
【図9】LCD5%含有ガラス発泡体表面で確認された軟化しないガラス粉粒体の電子顕微鏡像(×4000)である。
【図10】PDP75%含有ガラス発泡体表面で確認された軟化しないガラス粉粒体の電子顕微鏡像(×2000)である。
【図11】ビンガラス100%のガラス発泡体の外観写真である(実施例1の比較例)。
【図12】ビンガラス100%のガラス発泡体の試作品の外観写真である(実施例2の比較例)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の実施例を図面と共に説明する。
ガラス発泡体の原料となるガラスの一例として、ソーダ石灰ガラス粉末及びFPDガラス粉末を用いてガラス発泡体を作製した。なお、ガラスの種類としては、例えば石英ガラス、96%シリカガラス、鉛アルカリケイ酸ガラス、ほうけい酸ガラス、アルミノけい酸ガラスなどがあるが、これらの種類に限られない。また、廃ガラスを原料とすれば、ガラスの再利用を促進し、循環型社会形成にも貢献する。
【0038】
そして、これらの中から軟化温度の異なる組み合わせとなるようにガラスの種類を選択すればよい。軟化温度の最も低いガラスと軟化温度の最も高いガラスの軟化温度の差は、100℃〜200℃程度であることが好ましい。軟化温度の差が小さいと、軟化温度の最も高いガラスも軟化してしまい、粒子状態を保持できなくなる。また、軟化温度の差が大きいと、軟化温度の最も高いガラスが焼結しにくくなって発泡が不十分となり、軟化温度の最も高いガラスの混合割合を高めることができなくなる。
【0039】
そして、ガラス発泡体の製造工程は、ガラス容器や廃FPDガラスからの異物除去工程、粉砕工程(粗粉砕、微粉細)、ドロマイト(又は炭酸カルシウムマグネシウム)などの混合工程、焼成工程に大きく分けられる。なお、ドロマイトとは、カルシウムとマグネシウムの複炭酸塩CaMg(CO3)2、又はこれを主成分とする岩石のことを言う(出典 化学辞典普及版 森北出版株式会社 第881頁 1985年1月26日発行)。
本実施例及び下記比較例で用いたガラス粉末(ガラス粉砕物)の調製方法及びガラス発泡体の作製方法について以下に示す。
【実施例1】
【0040】
ガラス粉末の原料として、一般家庭から排出されるガラス容器(ソーダ石灰ガラス)及び廃FPDガラスを用いた。これらガラス容器や廃FPDガラスからラベル、金属冠などの異物を除去し、水洗、乾燥後、ハンマーを用いて粒径10mm程度に粗粉砕した。
なお、廃FPDガラスの場合は、偏向板、放熱板などの部材を剥離したものを使用し、廃FPDガラスとして、廃液晶パネルガラス(LCD)(アルミナホウケイ酸ガラス)と廃プラズマディスプレイガラス(PDP)(アルカリバリウムガラス)を用いた。
【0041】
上述のように各ガラスを粗粉砕した後、高速スタンプミル(日陶科学株式会社 ANS143(アルミナうす、アルミナハンマー))を用いて、粒径1000μm以下に粉砕した。調製したソーダ石灰ガラス(ビンガラス)の粒径組成は、1000〜500μmが16.3%、500〜250μmが22.0%、250〜150μmが14.9%、150〜90μmが11.3%、90μm以下が35.5%であった。ソーダ石灰ガラスの成分組成を蛍光エックス線分析法(装置名:走査型蛍光X線分析装置 (株)リガク製 型式ZSX PrimusII)により測定したところ、SiO2:68.9%、Na2O:13.6%、CaO:13.3%、Al2O3:1.96%、K2O:1.42%、その他の成分が0.82%であった。なお、特に断り書きがない限り、成分の%は重量%を表している。
【0042】
また、廃液晶パネルガラス(LCD)(アルミナホウケイ酸ガラス)の組成はSiO2:58.1%、Al2O3:17.8%、B2O3:10.7%、CaO:8.4%、SrO:2.1%、MgO:1.7%、BaO:0.3%、その他の成分が0.9%であった。粒度分布は100μm未満で中心粒径(粒度分布のピーク)が約50μmであった。
また、廃プラズマディスプレイガラス(PDP)(アルカリバリウムガラス)の組成はSiO2:50.1%、BaO:9.3%、SrO:9.2%、K2O:7.6%、Al2O3:7.6%、ZrO2:4.7%、Na2O:4.1%、CaO:2.5%、MgO:2.0%、その他の成分が2.9%であった。粒度分布は100μm未満で中心粒径が約50μmであった。
【0043】
炭酸塩であるドロマイト(株式会社 火の国製 苦土石灰)と上記ガラス粉砕物とを均一に混合し、混合物をアルミナ容器に移し、電気炉であるマッフル炉((株)YAMATO製 型式FO710)に入れて焼成した。
なお、ビンガラス、LCDガラス、PDPガラス、発泡剤を表1(LCDガラス)及び表2(PDPガラス)に示す割合により混合した。
【0044】
焼成条件は、昇温速度10℃/分、最高温度850℃で20分間、降温速度10℃/分とした。そして室温に冷却後、焼成品の焼結及び発泡の有無を目視により確認した。焼成時の最高温度を850℃としたのは、ソーダ石灰ガラスの軟化温度が720〜740℃、アルミナホウケイ酸ガラスの軟化温度が900〜980℃、アルカリバリウムガラスの軟化温度が850℃以下であるため、軟化温度の低いソーダ石灰ガラスの軟化温度よりも高く、軟化温度の高いアルミナホウケイ酸ガラス及びアルカリバリウムガラスの軟化温度を超えない温度としたものである。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
図2(a)〜(c)にはLCDガラスを混合したガラス発泡体の外観写真を示し、図3(a)〜(d)にはPDPガラスを混合したガラス発泡体の外観写真を示し、図11には比較例としてビンガラス(及び発泡体)のみのガラス発泡体の外観写真を示す。また、目視による確認結果を表3及び表4に示す。
図2からも分かるように、LCDガラス混合割合30%以上では焼結せず指触により容易にその構造は崩壊した。また、図3からも分かるように、PDPガラスを混合した場合では、混合割合100%でも焼結・発泡が確認されたが、100%PDPガラスを原料とした場合では発泡は不十分であった。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
また、本実施例によるガラス発泡体において数mm単位の粗な空隙、すなわち通気性、透水性等、植物根の伸長にかかわる空隙の生成が目視により確認された。したがって、本実施例によるガラス発泡体の製造条件では、LCDガラスは重量比20%まで、PDPガラスは同じく75%まで混合可能である。そして、このようにFPDガラスの混合割合を調整することで、充分な強度と質を有するガラス発泡体が作製できる。
【0051】
LCDガラスの方がPDPガラスと比較して混合重量比が低い理由としては、LCDガラスの軟化温度(軟化点)がPDPガラスの軟化温度と比べてもビンガラスの軟化温度よりかなり高いため、混合割合が高くなると焼結しにくくなるためと推察される。
PDPガラスの場合は、軟化温度がLCDガラスと比べればビンガラスの軟化温度に近いため、高い混合割合でも焼結・発泡したものと推察される。
【実施例2】
【0052】
次に、上記実施例1の結果から、LCDガラスの混合割合を5%と10%、PDPガラスの混合割合を25%と50%と75%の条件に絞り、実施例1と比べて原料の使用量を増やして大型のトンネル炉を使用し、ベルトコンベアでガラス粉末と発泡剤の混合物を流し、流しながらガスバーナーで焼成する方法により、FPDガラスが混合するガラス発泡体の試作を行った。
【0053】
材料は、実施例1のLCDガラス及びPDPガラスを高速スタンプミル(日陶科学株式会社製ANS143)を用いて粉砕し、90μm以下にふるい分けしたものを使用した。 ビンガラスについては実施例1と同様に一般家庭から排出されるガラス容器を破砕したものを用いた。
発泡剤については前述のドロマイトを使用した。焼成条件は、前記トンネル炉において850℃、20分の焼成条件により調製した。原料の混合条件を表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
図4及び図5には本実施例の試作品の外観を示す。図4(a)〜(b)にはLCDガラスを混合したガラス発泡体の試作品の外観写真を示し、図5(a)〜(c)にはPDPガラスを混合したガラス発泡体の試作品の外観写真を示している。また、図12には比較例としてビンガラス(及び発泡体)のみのガラス発泡体の試作品の外観写真を示す。図4及び図5から、いずれの場合でも焼結・発泡が確認された。PDPガラスを混合した場合では混合率が高くなるにつれて、褐色化し容積も小さくなることが認められた。
【0056】
上記方法により調製したガラス発泡体をハンマーにより破砕し、2〜4mmにふるい分けしたものをリン酸吸着能の評価に用いた。ガラス発泡体1gに対して20mLの1mgPO4−P/リットルのリン酸水溶液(KH2PO4にて調製)に浸漬、室温において24時間静置後の上清中のリン酸濃度をモリブデン青吸光光度法(JIS K0102に準じた)により測定(比色定量)した。液中リン酸が100%吸着した場合はリン酸吸着率100%と表記した。
【0057】
また、調製したガラス発泡体を3g程度になるようにダイヤモンドソー(株式会社テクソー製 V−19)により切断したものを吸水率の評価に用いた。超純水100mL中に調製試料を沈め、室温において24時間静置後、試料を引き上げ軽く付着水を払い落とし、重量を測定した。水浸漬前の重量もあらかじめ測定しておき、その重量の変化率を吸水率として次式(1)により算出した。
吸水率(%)=(吸水後重量−吸水前重量)/吸水前重量×100(%)(1)
【0058】
図6には、FPDガラス発泡体のリン酸吸着率を示し、図7には、FPDガラス発泡体の吸水率を示す。なお、各図とも(a)にはLCDガラスを混合した場合のガラス発泡体の測定値を示し、(b)にはPDPガラスを混合した場合のガラス発泡体の測定値を示している。また、各測定値は平均値±標準偏差を示している。
リン酸吸着能(図6)に関しては、ビンガラスのみを原料とした場合と比べ、LCDガラス及びPDPガラスの混合によって上昇した。混合割合についてみると、LCDガラス5%及び10%の間ではリン酸吸着能に差異は認められなかった。PDPガラスを混合した場合は混合率25%の場合に最もリン酸吸着能が高かった。このように吸着されたリン酸はガラス発泡体中のカルシウムやバリウム(LCDガラス及びPDPガラス由来)と結合しており、希硫酸によって溶出し、容易に回収・再資源化できるものと考えられる。
【0059】
図1に示すように、焼成時の最高温度(850℃)よりも軟化温度が低いことから軟化して均一化したビンガラス(ソーダ石灰ガラス)3表面や内部に、焼成時の最高温度とほぼ同じか焼成温度よりも軟化温度が高い、軟化していない粒子形状を保ったLCDガラス2やPDPガラス2が分散していることで、ビンガラスのみを用いる場合と比べてガラス発泡体の表面積を増やすことができる。したがって、リン酸が吸着基であるカルシウムやバリウムに効果的に吸着されることで、リン酸吸着能が向上したものと考えられる。
【0060】
吸水率(図7)については、LCDガラスを混合した場合は混合率が高くなるにつれて上昇する傾向が認められた。PDPガラスを混合した場合については混合率25%で最適となり、ビンガラスのみの場合と比べてみても高かった。一方、PDPガラスの混合率50%、75%ではかえって吸水率は低下した。
ガラス発泡体のリン酸吸着能は、発泡体と被処理水との接触の程度と発泡体表面の吸着基の量によって規定されるものと推察される。吸着基の量がリン酸と反応しうる元素、Ca(発泡剤由来)、Ba等のアルカリ土類金属の量に規定され、且ついずれの試験条件も吸着基となるCa成分の由来となる発泡剤の添加量に差異はないので、以下、発泡体と被処理水との接触の程度の観点からFPDガラスの添加によるリン酸吸着能向上メカニズムについて考察する。
【0061】
まず、図7の吸水率の結果によれば、LCDガラス5%、 10%、PDPガラス25%の添加によって吸水率が向上していることが分かる。リン酸吸着能(図6)に関しても、LCDガラスの混合率5%、 10%、PDPガラスの混合率25%の場合が他の場合に比べて向上した。このことによって、被処理水がガラス発泡体の内部にまで侵入し、発泡体表面のリン酸吸着基とリン酸との反応が促進されることが予想される。さらに、FPDガラスの添加により吸水率が高まるメカニズムを明らかにするため、ガラス発泡体の細孔径分布及び空隙率を測定した。
【0062】
測定装置としてAutoPoreIV9500(micromertics社製)を用い、測定条件は、接触角140°、表面張力485dynes/cmとした。その結果を図8に示す。図8(a)にはLCDガラスを混合した場合のガラス発泡体の測定値を示し、図8(b)にはPDPガラスを混合した場合のガラス発泡体の測定値を示している。
図8に示すように、LCDガラスを混合した場合では、添加量の増加にともない、細孔径1μm程度の孔隙の分布が増加している。PDPガラスを混合した場合では、25%添加した場合についてのみ細孔径1μm程度の孔隙の増加が認められたが、50%及び75%添加したものでは認められなかった。
【0063】
空隙率(下記表6)についても同様の傾向が認められ、LCD5%、10%添加、PDP25%添加によって、ビンガラスのみを原料とした場合と比べて空隙率が増加していた。したがって、細孔径が1μm程度の孔隙の増加が空隙率の増加、それによる吸水率の増加を引き起こしているものと考えられる。
そして、細孔径が0.1〜2μm付近の領域の極大値が従来のビンガラスのみを用いた場合の細孔容積よりも大きい0.1cm3/g以上であることで、吸水率に優れるガラス発泡体が得られると考えられる。
【0064】
【表6】
【0065】
次に、LCDガラスやPDPガラスの添加が細孔径1μm程度の孔隙の増加をもたらす原因を考察する。LCDガラスやPDPガラスの特徴はビンガラスに代表されるソーダ石灰ガラスと比べ、軟化温度が高く、熱収縮程度が小さい点である。このような特徴の異なるガラスを混合、焼成した場合、焼成過程の高温条件においては、図1に示すように軟化したソーダ石灰ガラス3の中を軟化していないFPDガラスの粒子2が分散していることになる。その後、冷却することで、両者の熱収縮程度の違いから、ソーダ石灰ガラスの相の収縮程度がFPDガラス粒子の相のそれより大きくなるので、両者の境界面に空隙4が生じる結果となる。そして、この空隙4がガラス発泡体の表面積を増大させると共に、ガラス発泡体の多孔質化、リン酸吸着能の向上、吸水率の向上に寄与することが期待される。このような効果は、FPDガラス粒子2の周辺をソーダ石灰ガラス3の相で取り囲んでいる状態で発生するので、FPDガラスの添加量がソーダ石灰ガラスのそれと同等以上の条件、すなわち、PDP50%、 75%添加条件では、細孔径1μm程度の孔隙の増加はもたらされなかったものと推察した。
【0066】
一方、ガラス発泡体に含有されるカルシウムはリン酸と緩やかに吸着するため、リン酸吸着後のガラス発泡体は、廃液処理が容易な低濃度の酸によって、解離、再生が可能である。そして、省エネルギー化の観点からも、リン酸を保持したままのガラス発泡体や再生後のガラス発泡体を屋上緑化等における植物栽培に利用できればガラス発泡体の用途も広まる。
ガラス発泡体を植物栽培に利用する場合、農業的な観点から本実施例のガラス発泡体の特性を評価する。植物根が土壌中の水分を吸水しようとする際、径が0.6〜3μm程度の均一な毛管が望ましいと考えられている(「土壌」、東京農業大学社会通信教育部、第109〜114頁、1990年4月1日改訂第二版第二刷)。これは、この孔径範囲を超えた場合に孔隙の毛管圧が重力より小さいため、短期間のうちに土壌下層へ水分が流亡してしまい、植物はその水分を利用できないことによる。上記孔径範囲より細い場合は、植物根の表面組織の水の吸引力より毛管圧のほうが大きいため、植物はその水分を吸収して利用することができない。
【0067】
本実施例のLCD5%、 10%添加、PDP25%添加した場合のガラス発泡体の細孔径分布は1μmを極大とし0.1〜2μm付近の比較的狭い範囲に分布しており、且つ上記の植物が吸水可能な孔径分布領域に近い。ある毛管が水を吸水しようとする場合、その径は、より均一であることが望ましい。これは一旦細い径の毛管で吸水された水分が、その毛管に連続している、より径の大きい毛管に移動することが困難であるためである。 この点、本実施例のガラス発泡体が前記孔径領域に1個の極大値(図8に矢印で示す)を有していることから本実施例のガラス発泡体は植物の吸水能に適合した保水材としても有望である。そして、0.1〜2μm付近の領域の単一の極大値が従来のビンガラスのみを用いた場合の細孔容積よりも大きい0.1cm3/g以上であることで、吸水率に優れるガラス発泡体が得られると考えられる。したがって、このガラス発泡体を再生の有無に関わりなく(保水材としての利用はリン酸保持の有無に関係のない性能であるため)、植物育成用培地として使用すれば、保水性、透水性、通気性などを良好に保持できる。
【0068】
図9には、LCDガラスを5%添加したガラス発泡体表面で確認された非軟化ガラス粉粒体の電子顕微鏡像(×4000、(株)日立ハイテクノロジーズ製 miniscope TM−1000、加速電圧15kV)、図10にはPDPガラスを75%した添加したガラス発泡体表面で確認された非軟化ガラス粉粒体の電子顕微鏡像(×2000)を示す。
図9及び図10から、添加したFPDガラスの粒子(粉粒体)がガラス発泡体において軟化しない状態で残存している可能性を示している。なお、PDPガラス(アルカリバリウムガラス)の軟化点は850℃以下とされており、焼成温度とほぼ同じであるが、顕微鏡観察したところ軟化せずに残余していた。
【0069】
また、本実施例では、二種類のガラスを混合した場合の例を示したが、3種類以上のガラスを使用しても良い。この場合は、焼成時の最高温度とほぼ同じ又は焼成時の最高温度よりも軟化温度の高いガラスの粒子が焼成時の最高温度よりも軟化温度が低く、軟化したガラスの内部や表面に分散することで、同様な効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、排水処理を必要とする事業所の排水処理設備の後段処理に活用、利用可能性がある。また、リン酸を保持したガラス発泡体や再生後のガラス発泡体は屋上緑化資材としても利用可能性があり、排水処理以外の環境分野や建築分野等、様々な技術分野での利用可能性がある。
【符号の説明】
【0071】
1 ビンガラス(ソーダ石灰ガラス)の粒子
2 FPDガラスの粒子
3 軟化したソーダ石灰ガラス
4 空隙
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理に用いるガラス発泡体及び該ガラス発泡体の製造方法に関し、特に排水中のリン酸を回収するのに適した高いリン酸吸着能を有し、且つ排水処理に使用後のガラス発泡体の植物栽培への利用を容易にするため、植物に利用可能な水を保持できる孔隙に富むガラス発泡体、ガラス発泡体を含むリン酸吸着剤、ガラス発泡体を含む植物育成用培地及びガラス発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人類の産業活動が活発化することで地球規模の環境問題が起こっており、地球環境保護の観点から大気や水域における有害物質の排出規制がなされ、大気や水域の浄化が早急に必要とされている。例えば、水域に関しては、生活排水や産業排水、その他畜産排泄物等に由来するリン酸は、水質汚濁や水系の富栄養化の要因物質であり、生態系の著しい変化や食物連鎖の崩壊等の深刻な問題を引き起こす。この問題に対処するために、水質汚濁防止法や湖沼水質保全特別措置法などが制定され、リン酸の排出基準が定められている。近年、このような水質汚濁をさらに厳しく規制するため、第6次水質総量規制(東京湾に流入する汚濁負荷量の削減目標を定めたものである)では、排水中のリン酸濃度のさらなる低減が要求されている。
【0003】
排水中のリン酸濃度を低減する方法として、嫌気・好気法のような生物処理法、凝集沈殿法、晶析脱リン酸法、吸着法などがある。
嫌気・好気法についてはリン酸の除去効率が高いが、設備導入コストが高額であるという問題がある。また、凝集沈殿法については簡便・安価であるが、リン酸と凝集剤との反応効率が低く、スラッジや汚泥が大量に発生するため、その処理が問題である。
【0004】
そして、晶析脱リン酸法については、リン酸の除去効率が高いが、設備導入コスト、反応条件の調整やスケール除去のための維持管理コストが高額であり、更に、吸着法はリン酸の除去効率が高く、簡便であるが、排水処理に使用後の吸着剤の処分が問題となっている。これは既往の吸着剤がリン酸を強く吸着しているために肥料としての利用が困難であったためである。
【0005】
上述のように、近年排水の水質規制が強化され、排水中のリン酸濃度の更なる低減が要求されている。しかし、実際の排水(原水)のリン酸濃度は一事業所についてみても大きく変動する場合があり、上記のいずれかの処理法を用いたとしても処理水中のリン酸濃度についても原水中のリン酸濃度に連動して大きく変動する。
その結果、一過的に規制値(基準値)を超過することが懸念されるため、このような一過的な規制値超過に対応するために、既設の排水処理設備の後段で用いられるような簡便でリン酸の除去効率の高い処理法が求められている。
【0006】
この処理法として上記吸着法の適用が考えられ、下記特許文献3には、リン酸の吸着剤として、アルミニウム、第1鉄、第2鉄若しくはカルシウムの硫酸塩及び塩化物から選ばれる1種以上を含む母核と、その周囲に形成された被覆層とからなり、粒径が0.5〜40mmの範囲である水質浄化用粒剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−169119号公報
【特許文献2】特開2005−97065号公報
【特許文献3】特開平9−103608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記吸着法によれば、既存の吸着剤は吸着したリン酸の脱離・再生のために0.2N程度と濃度の高い硫酸で処理する必要があり、発生する廃液の処分が問題である。例えば、上記特許文献3によれば、リン酸の金属塩が捕捉された濾過材の再利用には、0.5%程度の希硫酸又は希塩酸に約2分間浸漬することにより、リン酸の金属塩を除去できることが記載されている。
リン酸は水質汚濁や水系の富栄養化を引き起こす要因物質でもあるが、植物の生育に欠かせない必須元素であり、植物栽培の肥料としても利用価値がある。リン酸肥料の原料であるリン鉱石は枯渇の危機にある希少資源であり、近年、資源価格が急騰している。そのため、リン酸の効率的な回収・再資源化の必要性が高まりつつある。したがって、吸着したリン酸をリン酸肥料として再資源化するためには、容易に再生・脱離されるような吸着剤であることが望ましい。また、環境問題の点からも再生利用(リサイクル)できる吸着剤であることが好ましい。
【0009】
一方、一般家庭や事業所から排出されるガラスを粉砕し、高温において気体を発生させる資材を混合、焼成させることで製造されたガラス発泡体がガラスリサイクル品として販売されている。このガラス発泡体は、その軽量性・多孔質性・断熱性などを生かし、主に土木・建築資材として利用されている。
そして、本発明者らは、以前、ガラス発泡体がリン酸を吸着できる吸着剤である(以下、リン酸吸着能を有するという場合がある)ことを明らかにした(上記特許文献2)。しかし、既存のガラス発泡体のリン酸吸着能力は低く、排水処理に適用できるものではなかった。この方法は、ガラス粉末に発泡剤として炭酸カルシウムを混合し、加熱して冷却させる工程を経るものである。これは既存のガラス発泡体が土木、建築等の軽量資材の用途に限ったものであり、リン酸吸着という観点からは、未だ不十分なものであった。
【0010】
また、上記特許文献1には、排水中のリン酸イオンを結晶として除去回収するMAP(リン酸マグネシウムアンモニウム)法の改良として、ガラス粉粒体とマグネシウム成分を含む粉粒体と発泡剤を混合して加熱する焼成工程と、焼成物を冷やす急冷工程によって粒径の細かい発泡ガラス材を効率的に製造する技術が開示されている。そして、上記特許文献1記載の発明は、発泡ガラス材の表面及び空隙内壁面にマグネシウム成分を露出させることで被処理水のリン(リン酸)を吸着させるものである。
【0011】
MAP法は、リン酸をアンモニウムとマグネシウムとの複塩として沈殿させる方法であり、処理効率は高い反面、反応条件を調整するための処理装置を導入する必要があるため初期コストがかかり、また、装置の維持管理にもコストがかかるという問題がある。上記特許文献1記載の発明では、吸着剤上に実際にリン酸が担持され、その吸着したリン酸を解離・回収できるかについては確認されていない。
また、粒径の細かい発泡ガラス材によっても、発泡ガラス材内部が十分に多孔質化されていなければリン(リン酸)は表面に吸着されるのみで、リンの吸着能(リン酸吸着能)の向上はあまり望めない。
【0012】
また、省エネルギー化の観点からも、リン酸吸着のみならず、それ以外の用途にも利用可能な多機能性のガラス発泡体であれば、より望ましい。内部に孔隙を有するというガラス発泡体の特性を活かして、例えば、屋上緑化等における植物栽培への利用などが考えられる。この場合、通気性、透水性等、植物の根の伸長を促進するため、吸水性の高いガラス発泡体が望まれる。
【0013】
本発明の課題は、上記問題点を解決することであり、排水処理に適用できるガラス発泡体及びその製造方法を提供することである。また、本発明の課題は、リン酸吸着能を付与したガラス発泡体及びその製造方法を提供することである。更に、本発明の課題は、植物栽培に適用できるガラス発泡体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、具体的には以下のような構成を採用することにより達成できる。
請求項1記載の発明は、軟化温度の異なる二種類以上のガラスからなるガラス発泡体であって、少なくとも一種類のガラスに、該ガラスよりも軟化温度の高いガラスが粒子状に分散しており、且つカルシウム成分を含むガラス発泡体である。
請求項2記載の発明は、細孔径分布について細孔径が0.1〜2μmの領域に単一の極大値を有し、該極大値が0.1cm3/g以上である請求項1に記載のガラス発泡体である。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載のガラス発泡体を含み、被処理水溶液中に含まれるリン酸又はリン酸根を吸着するためのリン酸吸着剤である。
請求項4記載の発明は、請求項2に記載のガラス発泡体を含む植物育成用培地である。 請求項5記載の発明は、(a)軟化温度の異なる2種以上のガラス粉末と、(b)発泡剤である炭酸カルシウムマグネシウム又はドロマイトを混合して、前記各ガラスの軟化温度のうち最も低い温度以上で、且つ最も高い温度を超えない温度を最高温度として焼成、発泡させるガラス発泡体の製造方法である。
請求項6記載の発明は、前記ガラス粉末のうち、最も低い軟化温度のガラスとしてソーダ石灰ガラスを使用し、最も高い軟化温度のガラスとしてアルミナホウケイ酸ガラス又はアルカリバリウムガラスを使用する請求項5記載のガラス発泡体の製造方法である。
【0016】
(作用)
生活排水や産業排水などに含まれ、処理対象となる有害物質として、例えば水質汚濁や水系の富栄養化の要因物質となるリン酸は代表的なものである。
従来のリン酸の吸着法によれば、吸着したリン酸の脱離・再生のためには0.2N程度と濃度の高い硫酸で処理する必要があり、発生する廃液の処分が問題であった。これはリン酸の吸着が吸着剤表面のアルミニウムや鉄による化学吸着に起因するものであり、これらの元素とリン酸を強固に吸着しているため、解離させるのに高濃度の硫酸を要するためであると考えられる。
【0017】
しかし、リン酸と吸着反応する元素としてはアルミニウムや鉄のほかにカルシウムがある。化学的には、アルミニウム、鉄、カルシウムの各金属イオンとのリン酸塩の溶解度を比較すると、リン酸カルシウムは約10−7mol/リットル、リン酸鉄は約10−8mol/リットル、リン酸アルミニウムは約10−11mol/リットルの順で大きくなり、アルミニウム、鉄、カルシウムの順序でリン酸と強く結合しているものと考えられる。この溶解度の関係は、水溶液中における各金属イオンとリン酸との相互作用についての現象であるが、これらの金属が吸着剤表面に存在している場合も概ね同様の現象が起きているものと推察される。
【0018】
したがって、カルシウムはアルミニウムや鉄とは異なり、リン酸と緩やかに吸着することで、廃液処理が容易な低濃度の酸によって解離できるのではないかと本発明者らは考えた。そして、本発明者らは、カルシウム成分を表面に富化したガラス発泡体の吸着剤を作製できれば上記の吸着剤を用いた排水処理の問題が解決できると考え、吸着剤の多孔質化により吸着剤の表面積を増やすことでカルシウム成分を表面に富化させる方法を鋭意研究した。
【0019】
すなわち、本発明者らは、吸着剤の性能は吸着剤表面の反応基(カルシウム)の存在量と、表面積とによって規定されると推測した。
例えば、カルシウムを含有する炭酸カルシウムやドロマイトなどの炭酸塩とガラス粉末を混合して加熱・焼成すると、炭酸カルシウムは高温域において二酸化炭素を放出し、軟化したガラス中をその気泡が通過することで孔、空隙が形成される。発泡剤として代表的な炭酸カルシウムやドロマイトを使用するガラス発泡体の製造方法は、ガラス粉末に炭酸カルシウム(又はドロマイト)を混合し、加熱して冷却させる工程を経るものである。
【0020】
そして、本発明者らは、ガラス発泡体の原料となるガラス(ガラス粉末)について、更なる検討を行った。上述のように、リン酸吸着能は、ガラス発泡体の表面積によって規定されると推測し、まずガラス発泡体の表面積を増やす方法を鋭意研究した。
そこで、本発明者らは、複数の種類のガラスを使用して、少なくとも一種類のガラスの内部や表面に他の種類のガラスの粒子を付着、分散させることで、ガラス発泡体の表面積が増やせることを見出した。すなわち、複数種類の均一なガラスの層を重ねた多層構造とするのではなく、軟化して均一化したガラス表面や内部に、軟化していない粒子形状を保った別のガラスが分散していることで、ガラス発泡体の表面積を増やすことができる。
【0021】
従来、ガラス発泡体の原料として使用されるガラスは一種類である。それは、種類の異なるガラスを混合して焼成、発泡させた場合、その後の冷却工程を経る間に両ガラスの熱収縮程度の違いによって生成したガラス発泡体の強度が落ち、質の低下が起こるためである。ガラス発泡体は多孔質性であるが故に、それ自体の強度不足が問題となる。したがって、複数種類のガラスを使用することで、更に強度が低下すると、土木・建築資材などとしての利用が難しくなる。
【0022】
上述の複数の種類のガラスによって多層構造を形成させる場合は、生成するガラス発泡体の強度、質の低下が懸念されるが、本発明者らは、軟化したガラスに別のガラスが軟化せず、粒子状に分散する状態では、ガラス発泡体の強度、質の低下という問題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
更に、省エネルギー化の観点からも、リン酸吸着のみならず、それ以外の用途にも利用可能な多機能性のガラス発泡体であれば、より望ましい。内部に孔隙を有するというガラス発泡体の特性を活かして、例えば、屋上緑化等における植物栽培への利用などが考えられる。
【0023】
ガラス発泡体に含有されるカルシウムはリン酸と緩やかに吸着するため、廃液処理が容易な低濃度の酸によって解離、再生が可能である。そして、このように再生した後又はガラス発泡体にリン酸を保持させたまま再生させずにガラス発泡体を植物栽培に利用しようとする場合、一般的に孔径分布が均一であったほうがより吸水が促進されると推測されるため、より細孔径分布の均一な孔隙の形成も望まれる。更にこのような均一な孔隙の細孔容積は大きい方がより吸水性が高まる。
【0024】
また、ガラス発泡体の表面積は発泡反応によって生成された空隙の量と密接な関わりがある。
軟化温度の異なる二種類以上のガラス粉末を混合し、焼成、発泡させると、まず軟化温度の最も低いガラスが軟化して均一化した層を形成する。このとき、そのガラスよりも軟化温度の高いガラスはまだ軟化せずに、軟化温度の最も低いガラス内部又は表面上に粒子状に分散した状態である。
【0025】
更に最高温度を軟化温度の最も高いガラスの軟化温度を超えない温度まで上げた後、冷却することで、最高温度とほぼ同じ又は最高温度よりも軟化温度の高いガラスは最高温度よりも軟化温度の低いガラス内部又は表面上に粒子状に分散した状態のまま、これらの熱収縮程度の違いから、これらガラスの境界面に空隙が生じる。そして、この空隙がガラス発泡体の表面積を増大させると共に、ガラス発泡体の多孔質化、リン酸吸着能の向上、吸水率の向上に寄与することが期待される。また、この際形成される空隙のサイズはガラス粒径を管理しておけば、ほぼ使用するガラスの熱特性にのみ規定されるために比較的均一な細孔径分布となることも期待された。
【0026】
一方、液晶パネルガラス、プラズマテレビガラスに用いられているガラス(FPDガラスという)は省電力、省資源が可能であり、画質の飛躍的向上などから需要が拡大しており、廃棄量も急増しているため、リサイクルの取り組みが行われている。
リサイクルの例として、FPDガラスを製品から分離し、ガラスカレットにしてセメントや塗料と混合し、非透水性の土木用軽量資材に利用されている。
【0027】
本発明者らは、これらFPDガラスが通常、一般家庭から排出されるガラス容器(廃ガラス、ビンガラス)と比べて高軟化点であることに着目した。すなわち、軟化点の相違という、このような特徴の異なるFPDガラス及びビンガラスを混合、焼成した場合、図1に示すようなメカニズムが考えられる。図1には、本発明のガラス発泡体の製造方法の概念図を示している。
【0028】
ビンガラスの粒子1及びFPDガラスの粒子2を混合、焼成すると、軟化温度の低いビンガラスが軟化する。そして、軟化したソーダ石灰ガラス(ビンガラスとして一般的なガラス)3の中を軟化していないFPDガラスの粒子2が分散した状態となり、一種類のガラスを用いた場合に比べてガラス発泡体の表面積が増大する。その後、冷却することで、両者の熱収縮程度の違いから、両者の境界面に空隙4が生じ、この空隙4が更にガラス発泡体の表面積を増大させると共に多孔質化、リン酸吸着能の向上、吸水率の向上に寄与することが期待される。また、この際形成される空隙4のサイズはガラス粒径を管理しておけば、ほぼ両種ガラスの熱特性にのみ規定されるために比較的均一な細孔径分布となることも期待された。
FPDガラスとしては、液晶パネルガラス(LCDと言う)として使用されるアルミナホウケイ酸ガラス(アルミノホウケイ酸ガラスとも言う)やプラズマテレビガラス(PDPと言う)として使用されるアルカリバリウムガラスがある。
【0029】
ソーダ石灰ガラスの軟化温度は720〜740℃、アルミナホウケイ酸ガラスの軟化温度は900〜980℃、アルカリバリウムガラスの軟化温度は850℃以下であり((社)電子情報技術産業協会、(財)家電製品協会の「テレビのリサイクルに関する諸課題について」第9頁「I−3.(1)ブラウン管ガラスの特殊性」(2007年4月27日)より抜粋)、アルミナホウケイ酸ガラスやアルカリバリウムガラスの軟化温度はソーダ石灰ガラスの軟化温度よりも100℃〜200℃程度高いため、軟化温度の高いガラスとしてアルミナホウケイ酸ガラスやアルカリバリウムガラスを使用し、軟化温度の低いガラスとしてソーダ石灰ガラスを使用すればよい。
また、アルミナホウケイ酸ガラスやアルカリバリウムガラスはバリウム成分を含む。バリウムはカルシウムと同じアルカリ土類金属であることから、リン酸を吸着する反応基が増え、更にリン酸吸着能が高まると考えられる。
【0030】
請求項1記載の発明によれば、少なくとも一種類のガラスに、該ガラスよりも軟化温度の高いガラスが粒子状に分散していることで、ガラス発泡体の表面積が増える。このように、カルシウムが存在するガラス発泡体の表面積が増えることで、Ca成分に吸着可能な物質の吸着性能が向上する作用がある。リン酸以外の吸着対象物質としては、Ca成分に吸着可能な有機態リン酸や亜リン酸、ポリリン酸などが考えられる。
請求項2記載の発明によれば、上記請求項1に記載の発明の作用に加えて、単一の極大値を有し、該極大値の値が比較的大きい細孔径分布のガラス発泡体であるため、極大値の細孔径によって吸着対象物質を含有した被処理水がよりガラス発泡体の内部に侵入しやすくなり、細孔径内のカルシウムに吸着されやすくなると共に、吸水性も向上する。
【0031】
請求項3記載の発明によれば、上記請求項1又は2に記載された、カルシウムを含有し、表面積の大きい(又は吸水性の高い)ガラス発泡体を含むリン酸吸着剤であるため、被処理水溶液中に含まれるリン酸又はリン酸根を効率よく吸着できる。
請求項4記載の発明によれば、上記請求項2に記載された、植物が吸水可能な水分を保持することができる孔隙を有するガラス発泡体により、植物育成用培地として保水性、透水性、通気性などを良好に保持できる。
【0032】
請求項5記載の発明によれば、軟化温度の異なる2種以上のガラスを、これらのガラスの軟化温度のうち最も低い温度以上で、且つ最も高い温度を超えない温度を最高温度として焼成、発泡させることで、軟化温度の低いガラスに軟化温度の高いガラスが粒子状に分散する状態を形成できる。したがって、ガラス発泡体の表面積を増やすことができ、反応基(カルシウム)に効率よくリン酸などの吸着物質が吸着する。
請求項6記載の発明によれば、上記請求項5記載の発明の作用に加えて、軟化温度の高いガラスとしてアルミナホウケイ酸ガラスやアルカリバリウムガラスを使用し、軟化温度の低いガラスとしてソーダ石灰ガラスを使用することで、軟化したソーダ石灰ガラスの相に、アルミナホウケイ酸ガラスやアルカリバリウムガラスが粒子状に分散する。また、アルミナホウケイ酸ガラスやアルカリバリウムガラスはバリウム成分を含むことから、リン酸吸着の反応基が増えて、更に効率よくリン酸が吸着する。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、生活排水や産業排水などに含まれる有害物質の吸着、除去に有効であり、具体的には以下の効果を有する。
請求項1記載の発明によれば、ガラス発泡体の表面積を大きくすることが可能となり、ガラス発泡体に含まれるカルシウムに、効果的に吸着物質が吸着して、吸着性能が向上する。
請求項2記載の発明によれば、上記請求項1に記載の発明の効果に加えて、吸着対象物質を含有した被処理水がよりガラス発泡体の内部に侵入しやすくなって、細孔径内のカルシウムに吸着されやすくなり、より一層リン酸の吸着性能が向上すると共に、吸水性も向上する。
【0034】
請求項3記載の発明によれば、被処理水溶液中のリン酸を効率よく吸着できるため、強化されつつあるリン酸の水質規制(排水中のリン酸の濃度規制)に簡便に対応することができる。
請求項4記載の発明によれば、請求項2記載のガラス発泡体の孔隙により植物育成用培地として植物が吸水可能な水分を保持することができ、屋上緑化や土壌改良剤として優良な資材となる。
【0035】
請求項5記載の発明によれば、軟化温度の異なる無機粉粒体発泡剤を混合、さらに発泡剤として炭酸カルシウムマグネシウム又はドロマイトを使用することで、容易、安価に吸着性能の優れるガラス発泡体を製造できる。
請求項6記載の発明によれば、請求項5記載の発明の効果に加えて、低軟化温度のガラスとしてソーダ石灰ガラス、高軟化温度のガラスとしてアルミナホウケイ酸ガラスやアルカリバリウムガラスなどを使用することで、FPDガラスのリサイクルを促進し、循環型社会の形成にも貢献する。また、Ba成分に吸着可能な物質の吸着性能が向上するガラス発泡体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のガラス発泡体の製造方法の概念図である。
【図2】LCD混合ガラス発泡体の外観写真である(実施例1)。
【図3】PDP混合ガラス発泡体の外観写真である(実施例1)。
【図4】LCD混合ガラス発泡体の試作品の外観写真である(実施例2)。
【図5】PDP混合ガラス発泡体の試作品の外観写真である(実施例2)。
【図6】本発明の実施例のFPDガラス発泡体のリン酸吸着率を示した図である。
【図7】本発明の実施例のFPDガラス発泡体の吸水率を示した図である。
【図8】本発明の実施例のガラス発泡体の細孔径分布を示した図である。
【図9】LCD5%含有ガラス発泡体表面で確認された軟化しないガラス粉粒体の電子顕微鏡像(×4000)である。
【図10】PDP75%含有ガラス発泡体表面で確認された軟化しないガラス粉粒体の電子顕微鏡像(×2000)である。
【図11】ビンガラス100%のガラス発泡体の外観写真である(実施例1の比較例)。
【図12】ビンガラス100%のガラス発泡体の試作品の外観写真である(実施例2の比較例)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の実施例を図面と共に説明する。
ガラス発泡体の原料となるガラスの一例として、ソーダ石灰ガラス粉末及びFPDガラス粉末を用いてガラス発泡体を作製した。なお、ガラスの種類としては、例えば石英ガラス、96%シリカガラス、鉛アルカリケイ酸ガラス、ほうけい酸ガラス、アルミノけい酸ガラスなどがあるが、これらの種類に限られない。また、廃ガラスを原料とすれば、ガラスの再利用を促進し、循環型社会形成にも貢献する。
【0038】
そして、これらの中から軟化温度の異なる組み合わせとなるようにガラスの種類を選択すればよい。軟化温度の最も低いガラスと軟化温度の最も高いガラスの軟化温度の差は、100℃〜200℃程度であることが好ましい。軟化温度の差が小さいと、軟化温度の最も高いガラスも軟化してしまい、粒子状態を保持できなくなる。また、軟化温度の差が大きいと、軟化温度の最も高いガラスが焼結しにくくなって発泡が不十分となり、軟化温度の最も高いガラスの混合割合を高めることができなくなる。
【0039】
そして、ガラス発泡体の製造工程は、ガラス容器や廃FPDガラスからの異物除去工程、粉砕工程(粗粉砕、微粉細)、ドロマイト(又は炭酸カルシウムマグネシウム)などの混合工程、焼成工程に大きく分けられる。なお、ドロマイトとは、カルシウムとマグネシウムの複炭酸塩CaMg(CO3)2、又はこれを主成分とする岩石のことを言う(出典 化学辞典普及版 森北出版株式会社 第881頁 1985年1月26日発行)。
本実施例及び下記比較例で用いたガラス粉末(ガラス粉砕物)の調製方法及びガラス発泡体の作製方法について以下に示す。
【実施例1】
【0040】
ガラス粉末の原料として、一般家庭から排出されるガラス容器(ソーダ石灰ガラス)及び廃FPDガラスを用いた。これらガラス容器や廃FPDガラスからラベル、金属冠などの異物を除去し、水洗、乾燥後、ハンマーを用いて粒径10mm程度に粗粉砕した。
なお、廃FPDガラスの場合は、偏向板、放熱板などの部材を剥離したものを使用し、廃FPDガラスとして、廃液晶パネルガラス(LCD)(アルミナホウケイ酸ガラス)と廃プラズマディスプレイガラス(PDP)(アルカリバリウムガラス)を用いた。
【0041】
上述のように各ガラスを粗粉砕した後、高速スタンプミル(日陶科学株式会社 ANS143(アルミナうす、アルミナハンマー))を用いて、粒径1000μm以下に粉砕した。調製したソーダ石灰ガラス(ビンガラス)の粒径組成は、1000〜500μmが16.3%、500〜250μmが22.0%、250〜150μmが14.9%、150〜90μmが11.3%、90μm以下が35.5%であった。ソーダ石灰ガラスの成分組成を蛍光エックス線分析法(装置名:走査型蛍光X線分析装置 (株)リガク製 型式ZSX PrimusII)により測定したところ、SiO2:68.9%、Na2O:13.6%、CaO:13.3%、Al2O3:1.96%、K2O:1.42%、その他の成分が0.82%であった。なお、特に断り書きがない限り、成分の%は重量%を表している。
【0042】
また、廃液晶パネルガラス(LCD)(アルミナホウケイ酸ガラス)の組成はSiO2:58.1%、Al2O3:17.8%、B2O3:10.7%、CaO:8.4%、SrO:2.1%、MgO:1.7%、BaO:0.3%、その他の成分が0.9%であった。粒度分布は100μm未満で中心粒径(粒度分布のピーク)が約50μmであった。
また、廃プラズマディスプレイガラス(PDP)(アルカリバリウムガラス)の組成はSiO2:50.1%、BaO:9.3%、SrO:9.2%、K2O:7.6%、Al2O3:7.6%、ZrO2:4.7%、Na2O:4.1%、CaO:2.5%、MgO:2.0%、その他の成分が2.9%であった。粒度分布は100μm未満で中心粒径が約50μmであった。
【0043】
炭酸塩であるドロマイト(株式会社 火の国製 苦土石灰)と上記ガラス粉砕物とを均一に混合し、混合物をアルミナ容器に移し、電気炉であるマッフル炉((株)YAMATO製 型式FO710)に入れて焼成した。
なお、ビンガラス、LCDガラス、PDPガラス、発泡剤を表1(LCDガラス)及び表2(PDPガラス)に示す割合により混合した。
【0044】
焼成条件は、昇温速度10℃/分、最高温度850℃で20分間、降温速度10℃/分とした。そして室温に冷却後、焼成品の焼結及び発泡の有無を目視により確認した。焼成時の最高温度を850℃としたのは、ソーダ石灰ガラスの軟化温度が720〜740℃、アルミナホウケイ酸ガラスの軟化温度が900〜980℃、アルカリバリウムガラスの軟化温度が850℃以下であるため、軟化温度の低いソーダ石灰ガラスの軟化温度よりも高く、軟化温度の高いアルミナホウケイ酸ガラス及びアルカリバリウムガラスの軟化温度を超えない温度としたものである。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
図2(a)〜(c)にはLCDガラスを混合したガラス発泡体の外観写真を示し、図3(a)〜(d)にはPDPガラスを混合したガラス発泡体の外観写真を示し、図11には比較例としてビンガラス(及び発泡体)のみのガラス発泡体の外観写真を示す。また、目視による確認結果を表3及び表4に示す。
図2からも分かるように、LCDガラス混合割合30%以上では焼結せず指触により容易にその構造は崩壊した。また、図3からも分かるように、PDPガラスを混合した場合では、混合割合100%でも焼結・発泡が確認されたが、100%PDPガラスを原料とした場合では発泡は不十分であった。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
また、本実施例によるガラス発泡体において数mm単位の粗な空隙、すなわち通気性、透水性等、植物根の伸長にかかわる空隙の生成が目視により確認された。したがって、本実施例によるガラス発泡体の製造条件では、LCDガラスは重量比20%まで、PDPガラスは同じく75%まで混合可能である。そして、このようにFPDガラスの混合割合を調整することで、充分な強度と質を有するガラス発泡体が作製できる。
【0051】
LCDガラスの方がPDPガラスと比較して混合重量比が低い理由としては、LCDガラスの軟化温度(軟化点)がPDPガラスの軟化温度と比べてもビンガラスの軟化温度よりかなり高いため、混合割合が高くなると焼結しにくくなるためと推察される。
PDPガラスの場合は、軟化温度がLCDガラスと比べればビンガラスの軟化温度に近いため、高い混合割合でも焼結・発泡したものと推察される。
【実施例2】
【0052】
次に、上記実施例1の結果から、LCDガラスの混合割合を5%と10%、PDPガラスの混合割合を25%と50%と75%の条件に絞り、実施例1と比べて原料の使用量を増やして大型のトンネル炉を使用し、ベルトコンベアでガラス粉末と発泡剤の混合物を流し、流しながらガスバーナーで焼成する方法により、FPDガラスが混合するガラス発泡体の試作を行った。
【0053】
材料は、実施例1のLCDガラス及びPDPガラスを高速スタンプミル(日陶科学株式会社製ANS143)を用いて粉砕し、90μm以下にふるい分けしたものを使用した。 ビンガラスについては実施例1と同様に一般家庭から排出されるガラス容器を破砕したものを用いた。
発泡剤については前述のドロマイトを使用した。焼成条件は、前記トンネル炉において850℃、20分の焼成条件により調製した。原料の混合条件を表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
図4及び図5には本実施例の試作品の外観を示す。図4(a)〜(b)にはLCDガラスを混合したガラス発泡体の試作品の外観写真を示し、図5(a)〜(c)にはPDPガラスを混合したガラス発泡体の試作品の外観写真を示している。また、図12には比較例としてビンガラス(及び発泡体)のみのガラス発泡体の試作品の外観写真を示す。図4及び図5から、いずれの場合でも焼結・発泡が確認された。PDPガラスを混合した場合では混合率が高くなるにつれて、褐色化し容積も小さくなることが認められた。
【0056】
上記方法により調製したガラス発泡体をハンマーにより破砕し、2〜4mmにふるい分けしたものをリン酸吸着能の評価に用いた。ガラス発泡体1gに対して20mLの1mgPO4−P/リットルのリン酸水溶液(KH2PO4にて調製)に浸漬、室温において24時間静置後の上清中のリン酸濃度をモリブデン青吸光光度法(JIS K0102に準じた)により測定(比色定量)した。液中リン酸が100%吸着した場合はリン酸吸着率100%と表記した。
【0057】
また、調製したガラス発泡体を3g程度になるようにダイヤモンドソー(株式会社テクソー製 V−19)により切断したものを吸水率の評価に用いた。超純水100mL中に調製試料を沈め、室温において24時間静置後、試料を引き上げ軽く付着水を払い落とし、重量を測定した。水浸漬前の重量もあらかじめ測定しておき、その重量の変化率を吸水率として次式(1)により算出した。
吸水率(%)=(吸水後重量−吸水前重量)/吸水前重量×100(%)(1)
【0058】
図6には、FPDガラス発泡体のリン酸吸着率を示し、図7には、FPDガラス発泡体の吸水率を示す。なお、各図とも(a)にはLCDガラスを混合した場合のガラス発泡体の測定値を示し、(b)にはPDPガラスを混合した場合のガラス発泡体の測定値を示している。また、各測定値は平均値±標準偏差を示している。
リン酸吸着能(図6)に関しては、ビンガラスのみを原料とした場合と比べ、LCDガラス及びPDPガラスの混合によって上昇した。混合割合についてみると、LCDガラス5%及び10%の間ではリン酸吸着能に差異は認められなかった。PDPガラスを混合した場合は混合率25%の場合に最もリン酸吸着能が高かった。このように吸着されたリン酸はガラス発泡体中のカルシウムやバリウム(LCDガラス及びPDPガラス由来)と結合しており、希硫酸によって溶出し、容易に回収・再資源化できるものと考えられる。
【0059】
図1に示すように、焼成時の最高温度(850℃)よりも軟化温度が低いことから軟化して均一化したビンガラス(ソーダ石灰ガラス)3表面や内部に、焼成時の最高温度とほぼ同じか焼成温度よりも軟化温度が高い、軟化していない粒子形状を保ったLCDガラス2やPDPガラス2が分散していることで、ビンガラスのみを用いる場合と比べてガラス発泡体の表面積を増やすことができる。したがって、リン酸が吸着基であるカルシウムやバリウムに効果的に吸着されることで、リン酸吸着能が向上したものと考えられる。
【0060】
吸水率(図7)については、LCDガラスを混合した場合は混合率が高くなるにつれて上昇する傾向が認められた。PDPガラスを混合した場合については混合率25%で最適となり、ビンガラスのみの場合と比べてみても高かった。一方、PDPガラスの混合率50%、75%ではかえって吸水率は低下した。
ガラス発泡体のリン酸吸着能は、発泡体と被処理水との接触の程度と発泡体表面の吸着基の量によって規定されるものと推察される。吸着基の量がリン酸と反応しうる元素、Ca(発泡剤由来)、Ba等のアルカリ土類金属の量に規定され、且ついずれの試験条件も吸着基となるCa成分の由来となる発泡剤の添加量に差異はないので、以下、発泡体と被処理水との接触の程度の観点からFPDガラスの添加によるリン酸吸着能向上メカニズムについて考察する。
【0061】
まず、図7の吸水率の結果によれば、LCDガラス5%、 10%、PDPガラス25%の添加によって吸水率が向上していることが分かる。リン酸吸着能(図6)に関しても、LCDガラスの混合率5%、 10%、PDPガラスの混合率25%の場合が他の場合に比べて向上した。このことによって、被処理水がガラス発泡体の内部にまで侵入し、発泡体表面のリン酸吸着基とリン酸との反応が促進されることが予想される。さらに、FPDガラスの添加により吸水率が高まるメカニズムを明らかにするため、ガラス発泡体の細孔径分布及び空隙率を測定した。
【0062】
測定装置としてAutoPoreIV9500(micromertics社製)を用い、測定条件は、接触角140°、表面張力485dynes/cmとした。その結果を図8に示す。図8(a)にはLCDガラスを混合した場合のガラス発泡体の測定値を示し、図8(b)にはPDPガラスを混合した場合のガラス発泡体の測定値を示している。
図8に示すように、LCDガラスを混合した場合では、添加量の増加にともない、細孔径1μm程度の孔隙の分布が増加している。PDPガラスを混合した場合では、25%添加した場合についてのみ細孔径1μm程度の孔隙の増加が認められたが、50%及び75%添加したものでは認められなかった。
【0063】
空隙率(下記表6)についても同様の傾向が認められ、LCD5%、10%添加、PDP25%添加によって、ビンガラスのみを原料とした場合と比べて空隙率が増加していた。したがって、細孔径が1μm程度の孔隙の増加が空隙率の増加、それによる吸水率の増加を引き起こしているものと考えられる。
そして、細孔径が0.1〜2μm付近の領域の極大値が従来のビンガラスのみを用いた場合の細孔容積よりも大きい0.1cm3/g以上であることで、吸水率に優れるガラス発泡体が得られると考えられる。
【0064】
【表6】
【0065】
次に、LCDガラスやPDPガラスの添加が細孔径1μm程度の孔隙の増加をもたらす原因を考察する。LCDガラスやPDPガラスの特徴はビンガラスに代表されるソーダ石灰ガラスと比べ、軟化温度が高く、熱収縮程度が小さい点である。このような特徴の異なるガラスを混合、焼成した場合、焼成過程の高温条件においては、図1に示すように軟化したソーダ石灰ガラス3の中を軟化していないFPDガラスの粒子2が分散していることになる。その後、冷却することで、両者の熱収縮程度の違いから、ソーダ石灰ガラスの相の収縮程度がFPDガラス粒子の相のそれより大きくなるので、両者の境界面に空隙4が生じる結果となる。そして、この空隙4がガラス発泡体の表面積を増大させると共に、ガラス発泡体の多孔質化、リン酸吸着能の向上、吸水率の向上に寄与することが期待される。このような効果は、FPDガラス粒子2の周辺をソーダ石灰ガラス3の相で取り囲んでいる状態で発生するので、FPDガラスの添加量がソーダ石灰ガラスのそれと同等以上の条件、すなわち、PDP50%、 75%添加条件では、細孔径1μm程度の孔隙の増加はもたらされなかったものと推察した。
【0066】
一方、ガラス発泡体に含有されるカルシウムはリン酸と緩やかに吸着するため、リン酸吸着後のガラス発泡体は、廃液処理が容易な低濃度の酸によって、解離、再生が可能である。そして、省エネルギー化の観点からも、リン酸を保持したままのガラス発泡体や再生後のガラス発泡体を屋上緑化等における植物栽培に利用できればガラス発泡体の用途も広まる。
ガラス発泡体を植物栽培に利用する場合、農業的な観点から本実施例のガラス発泡体の特性を評価する。植物根が土壌中の水分を吸水しようとする際、径が0.6〜3μm程度の均一な毛管が望ましいと考えられている(「土壌」、東京農業大学社会通信教育部、第109〜114頁、1990年4月1日改訂第二版第二刷)。これは、この孔径範囲を超えた場合に孔隙の毛管圧が重力より小さいため、短期間のうちに土壌下層へ水分が流亡してしまい、植物はその水分を利用できないことによる。上記孔径範囲より細い場合は、植物根の表面組織の水の吸引力より毛管圧のほうが大きいため、植物はその水分を吸収して利用することができない。
【0067】
本実施例のLCD5%、 10%添加、PDP25%添加した場合のガラス発泡体の細孔径分布は1μmを極大とし0.1〜2μm付近の比較的狭い範囲に分布しており、且つ上記の植物が吸水可能な孔径分布領域に近い。ある毛管が水を吸水しようとする場合、その径は、より均一であることが望ましい。これは一旦細い径の毛管で吸水された水分が、その毛管に連続している、より径の大きい毛管に移動することが困難であるためである。 この点、本実施例のガラス発泡体が前記孔径領域に1個の極大値(図8に矢印で示す)を有していることから本実施例のガラス発泡体は植物の吸水能に適合した保水材としても有望である。そして、0.1〜2μm付近の領域の単一の極大値が従来のビンガラスのみを用いた場合の細孔容積よりも大きい0.1cm3/g以上であることで、吸水率に優れるガラス発泡体が得られると考えられる。したがって、このガラス発泡体を再生の有無に関わりなく(保水材としての利用はリン酸保持の有無に関係のない性能であるため)、植物育成用培地として使用すれば、保水性、透水性、通気性などを良好に保持できる。
【0068】
図9には、LCDガラスを5%添加したガラス発泡体表面で確認された非軟化ガラス粉粒体の電子顕微鏡像(×4000、(株)日立ハイテクノロジーズ製 miniscope TM−1000、加速電圧15kV)、図10にはPDPガラスを75%した添加したガラス発泡体表面で確認された非軟化ガラス粉粒体の電子顕微鏡像(×2000)を示す。
図9及び図10から、添加したFPDガラスの粒子(粉粒体)がガラス発泡体において軟化しない状態で残存している可能性を示している。なお、PDPガラス(アルカリバリウムガラス)の軟化点は850℃以下とされており、焼成温度とほぼ同じであるが、顕微鏡観察したところ軟化せずに残余していた。
【0069】
また、本実施例では、二種類のガラスを混合した場合の例を示したが、3種類以上のガラスを使用しても良い。この場合は、焼成時の最高温度とほぼ同じ又は焼成時の最高温度よりも軟化温度の高いガラスの粒子が焼成時の最高温度よりも軟化温度が低く、軟化したガラスの内部や表面に分散することで、同様な効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、排水処理を必要とする事業所の排水処理設備の後段処理に活用、利用可能性がある。また、リン酸を保持したガラス発泡体や再生後のガラス発泡体は屋上緑化資材としても利用可能性があり、排水処理以外の環境分野や建築分野等、様々な技術分野での利用可能性がある。
【符号の説明】
【0071】
1 ビンガラス(ソーダ石灰ガラス)の粒子
2 FPDガラスの粒子
3 軟化したソーダ石灰ガラス
4 空隙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化温度の異なる二種類以上のガラスからなるガラス発泡体であって、少なくとも一種類のガラスに、該ガラスよりも軟化温度の高いガラスが粒子状に分散しており、且つカルシウム成分を含むことを特徴とするガラス発泡体。
【請求項2】
細孔径分布について細孔径が0.1〜2μmの領域に単一の極大値を有し、該極大値が0.1cm3/g以上であることを特徴とする請求項1に記載のガラス発泡体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガラス発泡体を含み、被処理水溶液中に含まれるリン酸又はリン酸根を吸着するためのリン酸吸着剤。
【請求項4】
請求項2に記載のガラス発泡体を含む植物育成用培地。
【請求項5】
(a)軟化温度の異なる2種以上のガラス粉末と、(b)発泡剤である炭酸カルシウムマグネシウム又はドロマイトを混合して、前記各ガラスの軟化温度のうち最も低い温度以上で、且つ最も高い温度を超えない温度を最高温度として焼成、発泡させることを特徴とするガラス発泡体の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス粉末のうち、最も低い軟化温度のガラスとしてソーダ石灰ガラスを使用し、最も高い軟化温度のガラスとしてアルミナホウケイ酸ガラス又はアルカリバリウムガラスを使用することを特徴とする請求項5記載のガラス発泡体の製造方法。
【請求項1】
軟化温度の異なる二種類以上のガラスからなるガラス発泡体であって、少なくとも一種類のガラスに、該ガラスよりも軟化温度の高いガラスが粒子状に分散しており、且つカルシウム成分を含むことを特徴とするガラス発泡体。
【請求項2】
細孔径分布について細孔径が0.1〜2μmの領域に単一の極大値を有し、該極大値が0.1cm3/g以上であることを特徴とする請求項1に記載のガラス発泡体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガラス発泡体を含み、被処理水溶液中に含まれるリン酸又はリン酸根を吸着するためのリン酸吸着剤。
【請求項4】
請求項2に記載のガラス発泡体を含む植物育成用培地。
【請求項5】
(a)軟化温度の異なる2種以上のガラス粉末と、(b)発泡剤である炭酸カルシウムマグネシウム又はドロマイトを混合して、前記各ガラスの軟化温度のうち最も低い温度以上で、且つ最も高い温度を超えない温度を最高温度として焼成、発泡させることを特徴とするガラス発泡体の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス粉末のうち、最も低い軟化温度のガラスとしてソーダ石灰ガラスを使用し、最も高い軟化温度のガラスとしてアルミナホウケイ酸ガラス又はアルカリバリウムガラスを使用することを特徴とする請求項5記載のガラス発泡体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−26141(P2011−26141A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170391(P2009−170391)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】
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