説明

ガラス管とその製造方法、およびそれを用いた蛍光ランプ

【課題】ガラス管を用いた各種製品の製造工程全体にわたって表面傷を生じにくくすることによって、表面傷に起因するガラス管の強度低下や品質低下等を再現性よく抑制する。
【解決手段】ガラス管は、その外周面に形成された滑性層を備える。滑性層はカーボン系付着物および炭酸塩系付着物から選ばれる少なくとも1種の付着物を有する。このようなガラス管は、ポリエチレンワックスおよび変性ポリエチレンワックスから選ばれる少なくとも1種の固体滑剤を含有するコーティング液を、ガラス管の外周面に塗布して保護膜を形成する工程と、保護膜を有するガラス管を焼成し、ガラス管の外周面に滑性層を形成する工程とを具備する製造方法に基づいて作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス管とその製造方法、およびそれを用いた蛍光ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置の光源としては、一般的にバックライト用蛍光ランプが使用されている。バックライト用蛍光ランプに用いられるガラス管は、照明用蛍光ランプのガラス管と比較して管径が非常に細く、また肉厚も薄い。そのため、製造工程、搬送工程、輸送工程等において、ガラス管表面に僅かな傷がつくだけで、ガラス管の機械的強度が著しく低下し、後工程でガラス管が割れる等の問題が生じやすい。
【0003】
ガラス管の細径化や薄肉化はバックライト用蛍光ランプに限らず、電球型蛍光ランプやネオン管等においても進められている。また、蛍光ランプの製造時に用いられる排気管やダイオードを封入する封入管等にも、細径で薄肉のガラス管が用いられている。特に、電球型蛍光ランプは白熱電球とほぼ同じ外径寸法まで小型化が進められており、小型でも従来とほぼ同じ明るさを保つために、限られた内部空間にできるだけ長い蛍光管を納めることで発光面積を増やす等の工夫がなされている。これらに対応するため、電球型蛍光ランプに用いられるガラス管には外径の細径化が要求されている。
【0004】
ガラス管は、成形直後には表面に傷等が存在しないものの、製造工程における搬送、保管、輸送中にガラス管同士が接触したり、また他の部材と接触することで表面に傷が付くことがある。このようなガラス管に曲げ応力等が作用すると、傷を起点にして割れることがある。特に、管径の細いガラス管は肉厚も薄いため、僅かな傷により強度が著しく低下し、製造工程等でガラス管が割れる等の問題が生じる。
【0005】
このような問題に対して、特許文献1には蛍光灯用管ガラスの表面に適切な量の水溶性物質の塗膜を形成することによって、傷の発生を抑制することが記載されている。ここには何も塗布していないガラス管に比べ、表面に水溶性物質の塗膜を形成したガラス管はベルトコンベアによる搬送時のすべり性が向上すると記載されている。また、特許文献2には表面に水溶性の保護膜が塗布形成されたガラス製品が記載されている。
【特許文献1】特開平07−14545号公報
【特許文献2】特開2000−211947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水溶性物質からなる保護膜は水洗工程で容易に除去できるという利点があるが、保護膜が除去された水洗工程以降の工程ではガラス管表面の傷を抑制することはできない。例えば、蛍光ランプの製造工程においてはガラス管の水洗工程後に、蛍光体の塗布工程、焼成工程、電極の形成工程、組み立て工程等の多くの工程が実施される。これら各工程や工程間の搬送時においては、ガラス管の表面には保護膜が存在しておらず、傷が入りやすい状態となっている。
【0007】
本発明の目的は、ガラス管を使用した各種製品の製造工程全体にわたって傷が生じにくく、表面傷に起因する強度低下等を抑制することを可能にしたガラス管とその製造方法、さらにはそのようなガラス管を適用した蛍光ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るガラス管は、ガラス管本体と、前記ガラス管本体の外周面に形成され、カーボン系付着物および炭酸塩系付着物から選ばれる少なくとも1種の付着物を有する滑性層とを具備することを特徴としている。
【0009】
本発明の他の態様に係るガラス管の製造方法は、ガラス管を成形する工程と、ポリエチレンワックスおよび変性ポリエチレンワックスから選ばれる少なくとも1種の固体滑剤を含有するコーティング液を、前記ガラス管の外周面に塗布して保護膜を形成する工程と、前記保護膜を有する前記ガラス管を焼成し、前記ガラス管の外周面に少なくとも前記固体滑剤の構成元素を含む付着物を有する滑性層を形成する工程とを具備することを特徴としている。
【0010】
本発明のさらに他の態様に係る蛍光ランプは、本発明の態様に係るガラス管と、前記ガラス管の内壁面に設けられた蛍光膜と、前記ガラス管の両端に設けられた一対の電極と、前記ガラス管内に封入された放電媒体とを具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様に係るガラス管とその製造方法によれば、ガラス管の焼成工程前のみならず、焼成工程後においても表面傷の発生を抑制することができる。従って、表面傷に起因する強度低下、さらには強度低下に起因する割れの発生等を抑制したガラス管を再現性よく提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明の実施形態によるガラス管の製造方法においては、まず公知の成形法を適用してガラス管を成形する。例えば、ダンナー法等で管引きされたガラス管は成形工程の最後に切断され、所定の長さのガラス管が作製される。このような成形工程において、管引きされたガラス管の冷却後から切断工程までの間、また場合によっては切断工程後に、ガラス管の外周面(外周側の表面部)に対して固体滑剤を含有するコーティング液を塗布する。
【0013】
ガラス管の材質は特に限定されるものではなく、ガラス管の用途に応じて各種のガラスを使用することができる。例えば、硼珪酸ガラス等の珪酸塩ガラスで作製したガラス管が適用される。ガラス管の形状も特に限定されるものではなく、使用用途に応じて各種形状のガラス管を適用することができるが、この実施形態は管径が6mm以下、肉厚が2mm以下というような細径で薄肉のガラス管に対して有効である。
【0014】
コーティング液としては、ポリエチレンワックスおよび変性ポリエチレンワックスから選ばれる少なくとも1種の固体滑剤を含有する水性エマルジョン等が用いられる。すなわち、水にポリエチレンワックスや変性ポリエチレンワックス、また必要に応じて界面活性剤を添加して分散させた水性エマルジョンをコーティング液として用いる。このようなコーティング液を塗布することによって、ガラス管の外周面に保護膜を形成する。保護膜は焼成工程までガラス管の表面を保護する機能を有し、ガラス管同士の接触やこすれ、またガラス管と他部材との接触等による傷の発生を抑制する。
【0015】
ガラス管の外周面に対するコーティング方法は特に限定されるものではなく、各種公知のコーティング方法を適用することができる。例えば、ガラス管をコーティング液中に浸漬する方法、ガラス管の外周面にコーティング液をスプレーする方法、ガラス管の外周面にコーティング液をしみ込ませた部材を接触させる方法、ガラス管の外周面にコーティング液を刷毛塗りする方法等が適用される。
【0016】
次に、保護膜を有するガラス管全体を焼成し、ガラス管の外周面に少なくとも固体滑剤(ポリエチレンワックスや変性ポリエチレンワックス)の構成元素を含む付着物を有する滑性層を形成する。滑性層はガラス管の焼成後に残る固体滑剤の残渣に基づくものと考えられ、カーボン系付着物および炭酸塩系付着物から選ばれる少なくとも1種の付着物を有している。このような滑性層は焼成工程後のガラス管の表面に滑性を付与し、ガラス管同士の接触やこすれ、またガラス管と他部材との接触等による傷の発生を抑制する。
【0017】
上述したように、焼成工程による滑性層の形成を実施する以前のガラス管の外周面には、ポリエチレンワックスや変性ポリエチレンワックスを含有するコーティング液に基づく保護膜が形成されている。さらに、焼成工程後のガラス管の外周面には、固体滑剤の焼成残渣に基づくと考えられる滑性層が形成されている。従って、例えばガラス管を用いた蛍光ランプの各種製造工程や搬送工程等においても、ガラス管の表面には傷が生じにくい。ガラス管の製造後から焼成工程前および焼成工程後のいずれにおいても、ガラス管の表面に傷が生じにくいため、表面傷に基づくガラス管の割れ不良や品質の低下等を抑制することが可能となる。
【0018】
コーティング液は上述したようにポリエチレンワックスや変性ポリエチレンワックスを含有している。ポリエチレンワックスや変性ポリエチレンワックスは、ガラス管の外周面に対する保護膜の形成性に優れるだけでなく、焼成工程後における滑性層の形成性にも優れている。従って、この実施形態ではガラス管の外周面に保護膜を形成するコーティング剤として、ポリエチレンワックスおよび変性ポリエチレンワックスから選ばれる少なくとも1種の固体滑剤を含有するコーティング液(水性エマルジョン)を用いている。
【0019】
コーティング液に適用するポリエチレンワックスは特に限定されるものではなく、ポリエチレン製造時に副生成物として生じるもの、ポリエチレンの熱分解によるもの、エチレンからの直接重合によるもの等、各種のポリエチレンワックスを使用することが可能である。さらに、酸価変性や酸変性により極性基を導入し、極性ポリマー等との親和性を向上させた変性ポリエチレンワックスであってもよい。変性ポリエチレンワックスの具体例としては、アミド変性ポリエチレンワックスやカルボン酸変性ポリエチレンワックスが挙げられ、これらは1種または2種以上の混合物として用いることができる。
【0020】
変性ポリエチレンワックスは焼成工程における滑性層の形成性に優れることから、コーティング液の成分(固体滑剤)として有効である。すなわち、変性ポリエチレンワックスは後述するような焼成条件で保護膜を有するガラス管を焼成した後に、ガラス管の外周面に残渣を生じやすく、この残渣に基づいて滑性層が形成されやすいという特徴を有する。変性ポリエチレンワックスの中でも、アミド変性ポリエチレンワックスは耐熱性の向上に効果を発揮することから、コーティング液の成分(固体滑剤)として有効である。
【0021】
また、ガラス管は焼成工程前に表面に付着したゴミや埃等を除去することを目的として水洗されることがある。水洗工程においては、保護膜形成成分中の界面活性剤は除去されるものの、固体滑剤(ポリエチレンワックスや変性ポリエチレンワックス)は水洗工程後もガラス管の外周面に残存する。この際、固体滑剤として変性ポリエチレンワックスを用いると水洗工程においても固体滑剤をより確実に残存させることができる。すなわち、前述の通り変性ポリエチレンワックスは、極性基を有するためガラス管表面との密着性が高く、水洗工程において流れ落ちることが少ないことから、コーティング液の成分(固体滑剤)として有効である。
【0022】
水性エマルジョンからなるコーティング液中の固体滑剤(ポリエチレンワックスおよび変性ポリエチレンワックスから選ばれる少なくとも1種)の濃度(固形成分の含有量)は0.1〜2質量%の範囲であることが好ましい。固体滑剤の濃度が0.1質量%未満であると、焼成後の滑性層の形成量が不十分になるおそれがある。このような場合にはガラス管表面に十分な滑性を付与することができない。固体滑剤の濃度が2質量%を超えると滑性層の形成量が多くなりすぎ、後に詳述するようにガラス管の外観や光透過量等が低下するおそれがある。
【0023】
この実施形態のコーティング液に基づく保護膜を有するガラス管を焼成すると、コーティング液中の固体滑剤(ポリエチレンワックスや変性ポリエチレンワックス)の焼成残渣に基づくものと考えられる付着物がガラス管の外周面に形成される。焼成残渣に基づくものと考えられる付着物は、少なくとも固体滑剤の構成元素を含むものであり、具体的にはカーボン系付着物や炭酸塩系付着物を有している。このような付着物を生じさせる上で、ガラス管は550〜650℃の範囲の温度で焼成することが好まししい。
【0024】
上述したような焼成工程において、ガラス管は高温雰囲気(550〜650℃の範囲の温度)に急激に晒されるため、コーティング液に基づく保護膜の分解温度が高温側にシフトし、これにより保護膜の一部が不完全燃焼状態となり、ガラス管表面に付着物として残留するものと考えられる。保護膜の不完全燃焼物(付着物)は主に固体滑剤の焼成残渣や固体滑剤とガラス管との反応残渣によるものと考えられる。これらによって、ガラス管の外周面に固体滑剤の構成元素を含む付着物、具体的にはカーボン系付着物および炭酸塩系付着物から選ばれる少なくとも1種の付着物を有する滑性層が形成される。
【0025】
すなわち、保護膜を有するガラス管の焼成後において、ポリエチレンワックスや変性ポリエチレンワックス中の炭素(C)がカーボン系付着物としてガラス管表面に残留したり、またポリエチレンワックスや変性ポリエチレンワックス中の炭素(C)や酸素(O)とガラス管中のアルカリ成分等との反応残渣が炭酸塩系付着物としてガラス管表面に残留する。このような焼成残渣によって、ガラス管の外周面にカーボン系付着物や炭酸塩系付着物を有する滑性層が形成され、ガラス管に滑性が付与される。
【0026】
この点は必ずしも十分に解明されてはいないものの、現象(保護膜を有するガラス管の焼成工程とその後に生じる付着物)並びに分析結果(焼成後のガラス管の表面分析結果と付着物の分析結果/後述する実施例に示す)から、滑性層は固体滑剤の構成元素を含む付着物、より具体的にはカーボン系付着物や炭酸塩系付着物からなる付着物を有するものと認められる。さらに、このような付着物がガラス管の表面に滑性を付与することに関しても各種の試験結果から明らかであり、現象論的にではあるが確認されている。従って、この実施形態における滑性層が有効であることに変りはない。
【0027】
ガラス管の焼成工程は、保護膜を焼成するために単独で実施してもよいが、この実施形態のガラス管を使用した各種製品の焼成工程、例えば蛍光ランプの製造工程における蛍光膜の形成工程を利用して実施してもよい。すなわち、蛍光ランプの製造工程においては、ガラス管の内壁面に蛍光体スラリーを塗布した後、ガラス管全体を焼成して蛍光膜を形成する。このような蛍光膜の形成工程において、ガラス管の内壁面に塗布された蛍光体スラリーの焼成(定着)と同時に、ガラス管の外周面に形成された保護膜を焼成することによって、上記したような付着物を有する滑性層を形成することができる。
【0028】
滑性層を構成する付着物はガラス管の外周面に点状に存在していることが好ましい。保護膜はガラス管の外周面全体にムラなく形成することが好ましいが、滑性層を構成する付着物は外観や光透過量等に悪影響を及ぼさないように、ガラス管の外周面に点状に存在させることが好ましい。例えば、ガラス管を蛍光ランプに使用する場合、ガラス管の外周面が被膜状の付着物で覆われていると光量が低下する。これに対して、付着物を点状に存在させることによって、例えば蛍光ランプの光量の低下を抑制することができる。
【0029】
さらに、滑性層を構成する付着物は5〜100nmの範囲の大きさを有することが好ましい。このような微小付着物で滑性層を構成することによって、ガラス管の外観や光透過量等に悪影響を及ぼすことなく、ガラス管に対して良好な滑性を付与することができる。付着物の大きさが100nmを超えると、ガラス管の光透過量等が低下するおそれがある。一方、付着物の大きさが5nm未満の場合にはその量にもよるが、ガラス管に対して十分な滑性を付与することができないおそれがあり、表面傷の抑制効果が低下する。
【0030】
ガラス管の外周面に点状に存在する付着物は、コーティング液中の固体滑剤の濃度や保護膜の厚さ、さらにはガラス管の焼成温度等に基づいて得ることができる。このような点からも、コーティング液中の固体滑剤の濃度は0.1〜2質量%の範囲であることが好ましい。保護膜を有するガラス管の焼成温度は550〜650℃の範囲とすることが好ましい。固体滑剤の濃度が高すぎたり、また焼成温度が低すぎると、付着物の大きさが大きくなりすぎる傾向がある。逆に、コーティング液中の固体滑剤濃度が低すぎたり、また焼成温度が高すぎると、付着物の大きさが小さくなりすぎる傾向がある。
【0031】
このような付着物を有する滑性層は、ガラス管の外周面に対して良好な滑性を付与することから、ガラス管を用いた製品(例えば蛍光ランプ)の製造工程や搬送工程等におけるガラス管同士の接触やこすれ、またガラス管と他部材との接触等による傷の発生を抑制することができる。滑性層はガラス管の焼成工程後に滑性を付与するのに対し、焼成工程前は保護膜によりガラス管表面が保護されている。従って、ガラス管を使用した各種製品の製造工程全体にわたって、ガラス管の表面傷の発生が抑制され、表面傷に起因する強度低下、さらには強度低下に起因する割れの発生等を抑制することが可能となる。
【0032】
上述した実施形態のガラス管は、例えば蛍光ランプの放電空間を形成するガラスバルブとして使用される。特に、ガラス管(ガラスバルブ)の細径化や薄肉化が進められているバックライト用蛍光ランプに適用されるガラス管に好適である。また、電球型蛍光ランプにおいても、ガラス管の細径化や薄肉化が求められていることから、この実施形態のガラス管は有効である。なお、この実施形態のガラス管は蛍光ランプのガラス管以外にも適用可能であり、例えばネオン管用のガラス管、蛍光ランプの製造時に用いられる排気管(ガラス管)、ダイオードを封入する封入管(ガラス管)等が挙げられる。
【0033】
次に、本発明の実施形態による蛍光ランプについて説明する。蛍光ランプの構成はこの実施形態のガラス管、すなわち外周面に滑性層(カーボン系付着物や炭酸塩系付着物を有する滑性層)が形成されたガラス管を使用することを除いて、各種公知の構成を適用することができる。すなわち、この実施形態の蛍光ランプは、放電空間を形成するガラス管と、ガラス管の内壁面に設けられた蛍光膜と、ガラス管の両端に設けられた一対の電極と、ガラス管内に封入された放電媒体とを具備している。
【0034】
放電空間を形成するガラス管には、この実施形態のガラス管が適用される。ガラス管は例えば管径が6mm以下、肉厚が2mm以下というような形状を有し、その外周面にカーボン系付着物や炭酸塩系付着物を有する滑性層が設けられている。ガラス管以外の構成、すなわち蛍光膜、電極、放電媒体等に関しては、各種公知の構成が適用される。このような構成を有する蛍光ランプはバックライト用蛍光ランプに好適である。また、それ以外の蛍光ランプ、例えば電球型蛍光ランプとしても有効である。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。なお、以下の説明は本発明を限定するものではく、本発明の趣旨に沿った形での改変は可能である。
【0036】
(実施例1)
水にポリエチレンワックスと界面活性剤とを分散させた水性エマルジョン(固形物含有量:23.5質量%)を用意した。これを固形物含有量(ポリエチレンワックス濃度)が0.5質量%となるように水で希釈してコーティング液とした。このようなコーティング液を用いて、以下に示す工程でガラス管の外周面に保護膜および滑性層を形成した。
【0037】
まず、ダンナー法で管引きされたガラス管(管径:3.5mm、肉厚:0.5mm)に対して、切断工程前にコーティング液(ポリエチレンワックス濃度:0.5質量%)をスプレー法で塗布し、ガラス管の外周面に保護膜を形成した。次に、650℃の温度に予熱した小型アニール炉内に、保護膜を形成したガラス管を直接投入して焼成した。ガラス管の投入完了から3分経過後に炉外に取り出して自然放冷した。このような条件で保護膜を有するガラス管を焼成することによって、ガラス管の外周面に滑性層を形成した。
【0038】
このようにして滑性層を形成したガラス管の外周面を走査型電子顕微鏡で観察(1万倍)した。観察結果を図1に示す。図1から明らかなように、ガラス管の外周面には微小付着物が点状に存在しており、大きさは20〜50nmの範囲であることが確認された。この微小付着物をオージェ電子分光法で測定した結果を図2に示す。これより、微小付着物はカーボン系付着物や炭酸塩系付着物であることが確認された。なお、比較のために、微小付着物が存在しない箇所をオージェ電子分光法で測定した結果を図3に示す。
【0039】
(実施例2)
実施例1と同組成の水性エマルジョン(固形物含有量:23.5質量%)を、固形物含有量(ポリエチレンワックス濃度)が1質量%となるように水で希釈してコーティング液とした。このようなコーティング液を用いる以外は、実施例1と同様にしてガラス管の外周面に保護膜および滑性層を形成した。
【0040】
滑性層を形成したガラス管の外周面を走査型電子顕微鏡で観察(1万倍)したところ、実施例1と同様にガラス管の外周面に微小付着物が点状に存在していることが確認された。観察結果を図4に示す。図4から明らかなように、ガラス管の外周面に存在する微小付着物の大きさは実施例1とほぼ同じであるが、付着量は実施例1に比べて多いことが分かる。この微小付着物も実施例1と同様にカーボン系付着物や炭酸塩系付着物である。
【0041】
(実施例3)
実施例1のポリエチレンワックスをアミド変性ポリエチレンワックスに変更する以外は同様にして、ガラス管の外周面に保護膜および滑性層を形成した。滑性層を形成したガラス管の外周面を走査型電子顕微鏡で観察(1万倍)したところ、図5に示すように他の実施例と同様にガラス管の外周面に微小付着物が点状に存在していることが確認された。
【0042】
(比較例1)
界面活性剤としてポリ(オキシエチレン)−アルキルエーテルを30質量%含有する弱酸性水溶液を、界面活性剤濃度が0.5質量%となるように水で希釈してコーティング液とした。このようなコーティング液を用いる以外は、実施例1と同様にしてガラス管の外周面に保護膜を形成し、さらに保護膜を有するガラス管を焼成した。焼成したガラス管の外周面を走査型電子顕微鏡で観察(1万倍)したところ、図6に示すようにガラス管の外周面に実施例のような付着物は存在しないことが確認された。
【0043】
次に、実施例1〜3および比較例1の各ガラス管について、外周面の滑性を以下に示すような官能試験に基づいて評価した。官能試験を行う検査員(試験者)は6名とした。純綿製の軍手をつけた手で、ガラス管の外周面を管軸方向に1〜2回触り、滑り程度を判定した。なお、先入観を排除するために、検査員にはどのガラス管か分からないようにし、その状態で官能試験を実施した。その結果を表1に示す。表1において、判定結果は「滑り有り=1、滑り無し=0」として示す。6名の検査員の合計点が多いガラス管ほど、焼成後のガラス管表面が滑性を有していると判断することができる。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から明らかなように、実施例1〜3のガラス管はいずれも界面活性剤しか塗布していない比較例のガラス管に比べて滑性に優れていることが分かる。これはポリエチレンワックスやアミド変性ポリエチレンワックスを含有するコーティング液を用いているため、ポリエチレンワックスやアミド変性ポリエチレンワックスの焼成残渣が滑性層として機能しているためである。さらに、滑性層はカーボン系付着物および炭酸塩系付着物から選ばれる少なくとも1種から構成されていることが確認された。
【0046】
上述した実施例1〜3および比較例の各ガラス管を用いて、それぞれバックライト用蛍光ランプを作製した。なお、ガラス管の焼成工程は蛍光膜の定着工程(焼成工程)と同時に実施した。各蛍光ランプの製造工程において、ガラス管の割れ不良の発生率は比較例のガラス管に比べて実施例のガラス管の方が明らかに少ないことが確認された。さらに、実施例の蛍光ランプにおいて、いずれも光量の低下等は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1において滑性層を形成したガラス管の外周面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図2】実施例1においてガラス管の外周面に形成された微小付着物をオージェ電子分光法で測定した結果を示す図である。
【図3】実施例1においてガラス管の外周面の微小付着物が存在しない箇所をオージェ電子分光法で測定した結果を示す図である。
【図4】実施例2において滑性層を形成したガラス管の外周面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図5】実施例3において滑性層を形成したガラス管の外周面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図6】比較例1によるガラス管の外周面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス管本体と、
前記ガラス管本体の外周面に形成され、カーボン系付着物および炭酸塩系付着物から選ばれる少なくとも1種の付着物を有する滑性層と
を具備することを特徴とするガラス管。
【請求項2】
前記付着物は前記ガラス管本体の外周面に点状に存在していることを特徴とする請求項1記載のガラス管。
【請求項3】
前記付着物は5nm以上100nm以下の大きさを有することを特徴とする請求項1または請求項2記載のガラス管。
【請求項4】
蛍光ランプに用いられることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載のガラス管。
【請求項5】
前記蛍光ランプはバックライト用蛍光ランプであることを特徴とする請求項4記載のガラス管。
【請求項6】
ガラス管を成形する工程と、
ポリエチレンワックスおよび変性ポリエチレンワックスから選ばれる少なくとも1種の固体滑剤を含有するコーティング液を、前記ガラス管の外周面に塗布して保護膜を形成する工程と、
前記保護膜を有する前記ガラス管を焼成し、前記ガラス管の外周面に少なくとも前記固体滑剤の構成元素を含む付着物を有する滑性層を形成する工程と
を具備することを特徴とするガラス管の製造方法。
【請求項7】
前記変性ポリエチレンワックスは、アミド変性ポリエチレンワックスおよびカルボン酸変性ポリエチレンワックスから選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項6記載のガラス管の製造方法。
【請求項8】
前記コーティング液は前記固体滑剤を0.1質量%以上2質量%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項6または請求項7記載のガラス管の製造方法。
【請求項9】
前記保護膜を有する前記ガラス管を550℃以上650℃以下の範囲の温度で焼成することを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれか1項記載のガラス管の製造方法。
【請求項10】
前記付着物はカーボン系付着物および炭酸塩系付着物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項6ないし請求項9のいずれか1項記載のガラス管の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載のガラス管と、
前記ガラス管の内壁面に設けられた蛍光膜と、
前記ガラス管の両端に設けられた一対の電極と、
前記ガラス管内に封入された放電媒体と
を具備することを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項12】
バックライト用蛍光ランプであることを特徴とする請求項11記載の蛍光ランプ。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−1179(P2010−1179A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160353(P2008−160353)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】