説明

ガラス組成物、それを用いた光学部材及び光学機器

下記(A)〜(L):
(A)TeOの含有比率が50〜95モル%の範囲にあること、
(B)Bの含有比率が1〜33モル%の範囲にあること、
(C)ZnOの含有比率が1〜37モル%の範囲にあること、
(D)Biの含有比率が1〜18モル%の範囲にあること、
(E)Pの含有比率が0〜15モル%の範囲にあること、
(F)RO(式中、RはLi、Na及びKの中から選択される少なくとも1種の元素を示す。)の含有比率が0〜13モル%の範囲にあること、
(G)MO(式中、MはMg、Ca、Sr及びBaの中から選択される少なくとも1種の元素を示す。)の含有比率が0〜13モル%の範囲にあること、
(H)TiOの含有比率が0〜13モル%の範囲にあること、
(I)Nbの含有比率が0〜10モル%の範囲にあること、
(J)Taの含有比率が0〜13モル%の範囲にあること、
(K)L(式中、Lはイットリウム及びランタノイドの中から選択される少なくとも1種の元素を示す。)の含有比率が0〜11モル%の範囲にあること、
(L)上記(E)〜(K)に示すP、RO、MO、TiO、Nb、Ta及びLの総量の含有比率が0〜15モル%の範囲にあること;
に示す条件を満たす、ガラス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物、それを用いた光学部材及び光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
光学機器等の分野においては高屈折率の材料の需要が年々高まってきている。例えば、デジタルカメラ等の光学機器においては、波長587.562nmの光(d線)に対する屈折率nが2.0に迫るガラスが使われ始めている。このような高屈折率材料としては、屈折率を向上させるために酸化テルル(TeO)と酸化鉛(PbO)とを含有するガラス組成物等が開示されている。
【0003】
例えば、特開昭62−128946号公報においては、モル%で、TeOが10〜85%、Pが1〜50%、PbOが1〜50%、LiOが0〜30%、ZnOが0〜40%、LiOとZnOの合計量が1〜40%、NaOが0〜30%、KOが0〜30%、RbOが0〜25%、CsOが0〜20%、NaOとKOとRbOとCsOとの合計量が0〜30%、MgOが0〜20%、CaOが0〜20%、SrOが0〜20%、BaOが0〜35%、MgOとCaOとSrOとBaOとの合計量が0〜35%、Taが0〜5%、Nbが0〜20%、TaとNbとの合計量が0〜20%、SiOが0〜15%、GeOが0〜25%、Bが0〜30%、Alが0〜10%、Sbが0〜20%、Inが0〜15%、Laが0〜4%、Yが0〜4%、Gdが0〜4%、Ybが0〜4%、ZrOが0〜4%、Biが0〜10%、TiOが0〜20%、WOが0〜7%の組成のガラス組成物が開示されている。
【0004】
また、特公平5−73702号公報においては、重量%で、TeOが5〜80%、PbOが1〜70%、Bが1〜40%、Biが1〜60%、Alが1〜20%、ZnOが0〜50%、WOが0〜30%、MgOが0〜20%、CaOが0〜20%、SrOが0〜30%及びBaOが0〜30%の組成のガラス組成物が開示されている。
【発明の開示】
【0005】
しかしながら、酸化テルル(TeO)と酸化鉛(PbO)とを含有する従来のガラス組成物は、可視光領域(約400〜700nm)の光に対する透過率(着色性)が必ずしも十分なものではなく、レンズやプリズム等の光学部品としてほとんど実用化されていなかった。また、このような従来のガラス組成物は、酸化鉛(PbO)を含むため、環境負荷の点においても必ずしも十分なものではなかった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、酸化鉛を含むことなく、環境負荷を十分に低減させることができ、波長587.562nmの光(d線)に対して十分に高い屈折率nを有するとともに、波長が可視光領域にある光に対して十分に高い透過率を有し、しかも十分な熔解安定性を有するガラス組成物、そのガラス組成物を用いた光学部材及び光学機器を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、下記(A)〜(L)に示す条件を満たすことによって、得られるガラス組成物が、酸化鉛を含むことなく、環境負荷を十分に低減させることができ、波長587.562nmの光(d線)に対して十分に高い屈折率nを有するとともに、波長が可視光領域にある光に対して十分に高い透過率を有し、しかも十分な熔解安定性を有するものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のガラス組成物は、下記(A)〜(L):
(A)TeOの含有比率が50〜95モル%の範囲にあること、
(B)Bの含有比率が1〜33モル%の範囲にあること、
(C)ZnOの含有比率が1〜37モル%の範囲にあること、
(D)Biの含有比率が1〜18モル%の範囲にあること、
(E)Pの含有比率が0〜15モル%の範囲にあること、
(F)RO(式中、RはLi、Na及びKの中から選択される少なくとも1種の元素を示す。)の含有比率が0〜13モル%の範囲にあること、
(G)MO(式中、MはMg、Ca、Sr及びBaの中から選択される少なくとも1種の元素を示す。)の含有比率が0〜13モル%の範囲にあること、
(H)TiOの含有比率が0〜13モル%の範囲にあること、
(I)Nbの含有比率が0〜10モル%の範囲にあること、
(J)Taの含有比率が0〜13モル%の範囲にあること、
(K)L(式中、Lはイットリウム及びランタノイドの中から選択される少なくとも1種の元素を示す。)の含有比率が0〜11モル%の範囲にあること、
(L)上記(E)〜(K)に示すP、RO、MO、TiO、Nb、Ta及びLの総量の含有比率が0〜15モル%の範囲にあること;
に示す条件を満たす、ものである。
【0009】
上記本発明のガラス組成物においては、前記TeOの含有比率が75〜95モル%であることが好ましい。
【0010】
上記本発明のガラス組成物においては、前記Bの含有比率が3〜15モル%であることが好ましい。
【0011】
上記本発明のガラス組成物においては、前記ZnOの含有比率が3〜15モル%であることが好ましい。
【0012】
上記本発明のガラス組成物においては、前記Biの含有比率が1〜10モル%であることが好ましい。
【0013】
本発明の光学部材は、上記本発明のガラス組成物からなるものである。更に、本発明の光学機器は、上記本発明のガラス組成物からなる光学部材を備えるものである。
【0014】
本発明によれば、酸化鉛を含むことなく、環境負荷を十分に低減させることができ、波長587.562nmの光(d線)に対して十分に高い屈折率nを有するとともに、波長が可視光領域にある光に対して十分に高い透過率を有し、しかも十分な熔解安定性を有するガラス組成物、そのガラス組成物を用いた光学部材及び光学機器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明のガラス組成物(実施例1、4、9、11及び14)並びに比較のためのガラス組成物(比較例14及び15)のそれぞれの可視光に対する透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
先ず、本発明のガラス組成物について説明する。すなわち、本発明のガラス組成物は、上述の(A)〜(L)に示す条件を満たすものである。以下、各条件に沿って本発明のガラス組成物について説明する。
【0018】
本発明のガラス組成物は、酸化テルル(TeO)の含有比率が50〜95モル%の範囲にあるという条件を満たすものである(条件(A))。このような量のTeOは、本発明のガラス組成物の組成系においてガラス形成酸化物として作用する。また、TeOを添加することによって、得られる組成物の波長587.562nmの光(d線)に対する屈折率nを十分に高く(好ましくはnが2.0以上)することが可能である。このようなTeOの含有比率が50モル%未満では、十分な屈折率を有するガラス組成物が得られなくなる。他方、前記含有比率が95モル%を超えると、得られる組成物の熔解安定性が低下し、良質のガラスを得ることが困難になる。また、本発明のガラス組成物においては、屈折率nをより向上(好ましくはnを2.0以上に向上)させるという観点からは、TeOの含有比率を75〜95モル%とすることが好ましい。
【0019】
また、本発明のガラス組成物は、酸化ホウ素(B)の含有比率が1〜33モル%の範囲にあるという条件を満たすものである(条件(B))。このようなBは、本発明のガラス組成物の組成系において、ガラス形成酸化物として作用し、熔解安定性を十分に向上させるために含有させる成分である。また、Bを添加することによって、得られるガラス組成物の可視光に対する透過率を向上させることが可能である。このようなBの含有比率が1モル%未満では、得られる組成物の熔解安定性と透過率とが十分なものとならない。他方、Bの含有比率が33モル%を超えると、波長587.562nmの光(d線)に対して十分な屈折率n(好ましくはnが2.0以上)を有するガラス組成物が得られなくなる。また、本発明のガラス組成物においては、高透過率を維持しつつ屈折率nをより向上(好ましくはnを2.0以上に向上)させるという観点からは、Bの含有比率を3〜15モル%とすることが好ましい。
【0020】
また、本発明のガラス組成物は、酸化亜鉛(ZnO)の含有比率が1〜37モル%の範囲にあるという条件を満たすものである(条件(C))。このようなZnOは、本発明のガラス組成物の熔解安定性と化学的耐久性を向上させるとともに、高透過率を維持することを可能とするものである。このようなZnOの含有比率が1モル%未満では、ガラス組成物の熔解安定性と化学的耐久性とが十分なものとはならなくなり、他方、37モル%を超えると高屈折率を維持することが困難になる。また、本発明のガラス組成物においては、より安定でより高透過率を維持するという観点からは、ZnOの含有比率を3〜15モル%とすることが好ましい。
【0021】
また、本発明のガラス組成物は、酸化ビスマス(Bi)の含有比率が1〜18モル%の範囲にあるという条件を満たすものである(条件(D))。このようなBiは、高屈折率を維持しつつ熔解安定性及び化学的耐久性を十分に高くすることを可能とするものである。このようなBiが1モル%未満では、ガラス組成物の熔解安定性と化学的耐久性とが十分なものとはならなくなり、他方、18モル%を超えると、透過率が低下するとともに、光学的に高分散なものとなってしまう。また、本発明のガラス組成物においては、可視光に対する透過率をより向上(好ましくは代表値としての波長450nmにおける透過率を75%以上に向上)させるという観点からは、Biの含有比率を1〜10モル%とすることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明のガラス組成物は、酸化リン(P)の含有比率が0〜15モル%の範囲にあるという条件を満たすものである(条件(E))。このようなPは、ガラス組成物の屈折率と透過率を十分に高度に維持するのに有効な成分である。このようなPの含有比率が15モル%を超えると、ガラス組成物の耐失透性が低下する。また、本発明のガラス組成物においては、可視光に対する屈折率と透過率をより向上(好ましくは代表値としての波長450nmにおける透過率を75%以上に向上)させるという観点からは、Pの含有比率を0〜10モル%とすることが好ましい。
【0023】
また、本発明のガラス組成物は、式:RO(式中、RはLi、Na及びKの中から選択される少なくとも1種の元素を示す。)で表される化合物の含有比率が0〜13モル%の範囲にあるという条件を満たすものである(条件(F))。このようなROで表される化合物は、ガラス組成物の熔解安定性を向上させるのに有効な成分である。また、このような式中のRは、Li、Na及びKの中から選択される少なくとも1種の元素である。また、ROで表される化合物の総量の含有比率が13モル%を超えると、屈折率が低下するとともに、十分に安定したガラス組成物が得られなくなる。なお、このようなROで表される化合物は1種を単独で含有していてもよく、あるいは2種以上が混合された状態で含有されていてもよい。
【0024】
また、本発明のガラス組成物は、式:MO(式中、MはMg、Ca、Sr及びBaの中から選択される少なくとも1種の元素を示す。)で表される化合物の含有比率が0〜13モル%の範囲にあるという条件を満たすものである(条件(G))。このようなMOで表される化合物は、ガラス組成物の熔解安定性を向上させるのに有効な成分である。また、このような式中のMは、Mg、Ca、Sr及びBaの中から選択される少なくとも1種の元素である。また、MOで表される化合物の総量の含有比率が13モル%を超えると、屈折率が低下するとともに、十分に安定したガラス組成物が得られなくなる。なお、このようなMOで表される化合物は1種を単独で又は2種以上を混合して含有していてもよい。
【0025】
さらに、本発明のガラス組成物は、酸化チタン(TiO)の含有比率が0〜13モル%の範囲にあるという条件を満たすものである(条件(H))。また、本発明のガラス組成物は、酸化ニオブ(Nb)の含有比率が0〜10モル%の範囲にあるという条件を満たすものである(条件(I))。更に、本発明のガラス組成物は、酸化タンタル(Ta)の含有比率が0〜13モル%の範囲にあるという条件を満たすものである(条件(J))。また、本発明のガラス組成物は、式:L(式中、Lはイットリウム及びランタノイドの中から選択される少なくとも1種の元素を示す。)で表される化合物の含有比率が0〜11モル%の範囲にあるという条件を満たすものである(条件(K))。このような条件(H)〜(K)に示すTiO、Nb、Ta及びLで表される化合物は、屈折率を十分に高く保ちながら、組成物中に含有される成分の分散性を制御するのに有効なものである。また、このような条件(H)〜(K)に示す化合物の含有比率が前記上限を超えると、得られるガラス組成物が着色して光の透過率が低下する。更に、条件(K)に示す一般式中のLは、イットリウム及びランタノイドの中から選択される少なくとも1種の元素である。
【0026】
上述のように、本発明のガラス組成物は、上記(A)〜(D)に示すTeO、B、ZnO及びBiを必須成分として含有し、上記(E)〜(K)に示すP、RO、MO、TiO、Nb、Ta及びLは任意成分として含有するものである。また、本発明のガラス組成物は、前記任意成分(P、RO、MO、TiO、Nb、Ta及びL)の総量の含有比率が0〜15モル%の範囲にあるという条件を満たすものである(条件(L))。このような任意成分の総量の比率が前記上限を超えると、屈折率、熔解安定性又は透過率が低下して目的とするガラス組成物が得られない。なお、本発明のガラス組成物は、酸化鉛(PbO)を含有しないものである。このようにPbOを含まないことから、本発明のガラス組成物は環境負荷を十分に低減することが可能なものとなる。
【0027】
また、本発明のガラス組成物としては、波長587.562nmの光(d線)に対する屈折率nが、2.0以上(より好ましくは2.1以上)となるものがより好ましい。また、本発明のガラス組成物としては、アッベ数が17.0以上(より好ましくは20.0以上)であることが好ましい。このような屈折率の測定方法としては、底面の一辺の長さが40mm、高さが15mmの正三角柱(プリズム)形状の試料を調製し、前記試料に対して株式会社ニコン製のスペクトメータを用いて最小偏角法により測定する方法を採用することができる。また、アッベ数は、前述のようにして測定される屈折率の値から算出することができる。
【0028】
さらに、本発明のガラス組成物としては、波長450nmの可視光に対する透過率が75%以上となるものが好ましい。なお、このような可視光透過率を測定する方法としては、縦30mm、横20mm、厚さが7mmの試料及び、縦30mm、横20mm、厚さ2mmの試料を調製し、前記試料と、透過率測定機器(バリアン社製の商品名「CARY500」)とを用いて測定する方法を採用することができる。
【0029】
次に、本発明のガラス組成物を製造するための方法について説明する。本発明のガラス組成物を製造するための方法としては、上記(A)〜(L)に示す条件を満たすガラス組成物を製造することが可能な方法であればよく、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。このような方法としては、例えば、上記条件(A)〜(L)を満たすようにして、各原料成分をそれぞれ白金るつぼに入れた後、800〜950℃(より好ましくは820〜880℃)程度の温度条件で5〜15分加熱し熔解させ、得られた熔解物の攪拌、清澄等を行い、各成分が均一に分散されたガラス融液を得た後、そのガラス融液を300〜400℃程度に加熱した型に鋳込み、室温まで徐冷してガラス組成物を得る方法が挙げられる。
【0030】
以上、本発明のガラス組成物について説明したが、以下、本発明の光学部材及び光学機器について説明する。すなわち、本発明の光学部材は、上記本発明のガラス組成物からなるものである。このような光学部材は上記本発明のガラス組成物からなるため、高屈折率で、しかも高い熔解安定性と透過率とを有するものとなる。そのため、高屈折率及び高透過率を有する材料を必要とする用途(例えば、プリズム、デジタルカメラのレンズ等)に好適に用いることが可能である。また、本発明の光学機器は、上記本発明のガラス組成物からなる光学部材を備えるものである。このような光学機器としては、前記光学部材を備えるものであればよく、他の構成は特に制限されない。また、このような光学機器としては、例えば、デジタルカメラ、光学顕微鏡等が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1〜29)
表1〜3に示す組成のガラス組成物をそれぞれ製造した。すなわち、先ず、それぞれ表1〜3に示す化合物(原料)を、それぞれ表1〜3に示す組成比で白金るつぼに入れ、800〜950℃の温度条件で10分加熱して熔解させた後、前記温度条件下で攪拌、清澄し、各化合物が均一に分散したガラス融液を得た。その後、前記ガラス融液を、温度300〜350℃に加熱した型(縦40mm、横40mm、厚み20mm)に鋳込んだ後、20時間かけて室温(25℃)まで徐冷することによって、本発明のガラス組成物をそれぞれ得た。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
(比較例1〜14)
表4〜5に示す化合物(原料)を用い、表4〜5に示す組成比となるようにした以外は実施例1と同様にして、比較のためのガラス組成物をそれぞれ得た。
【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
<各実施例及び各比較例で得られたガラス組成物の特性評価>
〈熔解安定性の測定〉
各実施例及び各比較例において、製造時のガラス融液中に前記化合物(原料)の熔け残りがあるかを目視にて観察するとともに、冷却後のガラス組成物中に結晶相が残っているかを目視にて観察して、各実施例及び各比較例で得られたガラス組成物の熔解安定性を評価した。なお、熔解安定性の評価では、ガラス融液中に熔け残りがなく且つガラス組成物中に結晶相が残らなかったものを良好であると判定し、前記熔け残り又は前記結晶相が残るものを熔解安定性が不良であると判定した。結果を表1〜5に示す。
【0040】
〈屈折率及びアッベ数の測定〉
各実施例及び各比較例で得られたガラス組成物の屈折率及びアッベ数を測定した。すなわち、先ず、各実施例及び各比較例で得られたガラス組成物を用いて、底面の一辺の長さが40mm、高さが15mmの正三角柱(プリズム)形状の試料をそれぞれ調製した。次に、各試料に対して株式会社ニコン製のスペクトメータを用いて最小偏角法を採用して、各実施例及び各比較例で得られたガラス組成物の屈折率を求めた。また、アッベ数は、このようにして測定された屈折率の値から計算して求めた。得られた結果を表1〜5に示す。なお、表1〜5に示す屈折率は、波長587.562nmの光(d線)に対する屈折率nである。
【0041】
〈透過率の測定〉
各実施例及び各比較例で得られたガラス組成物の可視光透過率を測定した。すなわち、先ず、各実施例及び各比較例で得られたガラス組成物を用いて、縦30mm、横20mm、厚さが7mmの試料及び、縦30mm、横20mm、厚さ2mmの試料を調製した。次に、前記試料と、透過率測定機器(バリアン社製の商品名「CARY500」)とを用いて、可視光透過率を測定した。なお、透過率の評価に際しては、波長700〜300nmの範囲の光に対する透過率を測定し、波長450nmの光の透過率が75%以上のものを良好と判定し、75%未満となるものを不良と判定した。このような透過率の判定結果及び波長450nmの光に対する各ガラス組成物の透過率(%)の値を表1〜5に示す。また、実施例1、4、9、11及び14で得られたガラス組成物並びに比較例14及び15で得られたガラス組成物の可視光透過率のグラフを図1に示す。
【0042】
表1〜3に示す結果からも明らかなように、本発明のガラス組成物(実施例1〜29)は、いずれも熔解安定性が十分に高いことが確認された。また、本発明のガラス組成物(実施例1〜29)は、いずれも屈折率nが2.0以上であり、十分に高い屈折率を有するものであることが確認された。さらに、本発明のガラス組成物においては、波長450nmにおける透過率がいずれも75%以上であることが確認された。
【0043】
一方、表4〜5に示す結果からも明らかなように、比較例1、7及び8で得られたガラス組成物においては、それぞれB、ZnO又はBiの含有比率が1.0モル%未満となっていたため、十分な熔解安定性が得られなかった。また、比較例2で得られたガラス組成物においては、Bが過剰に含有されていたため、十分な熔解安定性は得られるものの、屈折率nが2.0未満となった。更に、比較例3及び5で得られたガラス組成物においては、ZnO又はBiが過剰に含まれていたため、十分な熔解安定性が得られなかった。また、比較例4で得られたガラス組成物においては、TeOの含有比率も50モル%未満であり且つBiが過剰に含まれていたため、十分な熔解安定性が得られなかった。また、比較例6で得られたガラス組成物においては、TeOが過剰に含まれるため、十分な熔解安定性が得られなかった。また、比較例9〜12で得られたガラス組成物においては、それぞれ任意成分のうちのP、TiO、Nb又はLa(L)が過剰に含有されていたため、十分な熔解安定性が得られなかった。更に、比較例13で得られたガラス組成物においては、Bの含有比率が1.0モル%未満であるが、任意成分のPを10モル%含有することで十分な熔解安定性と、十分に高い屈折率とが得られていた。しかしながら、比較例13で得られたガラス組成物においては、Bの含有比率が1.0モル%未満であったため、透過率が十分なものにはならなかった。また、比較例14で得られたガラス組成物においては、十分な熔解安定性と、十分に高い屈折率とを示した。しかしながら、比較例14で得られたガラス組成物においては、PbOが含有されており、透過率が十分なものにはならなかった。
【0044】
また、図1に示す結果からも明らかなように、本発明のガラス組成物(実施例1、4、9、11及び14)においては、比較のためのガラス組成物(比較例14及び15)と比較して、可視光に対する透過率が、十分に高いものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したように、本発明によれば、酸化鉛を含むことなく、環境負荷を十分に低減させることができ、波長587.562nmの光(d線)に対して十分に高い屈折率nを有するとともに、波長が可視光領域にある光に対して十分に高い透過率を有し、しかも十分な熔解安定性を有するガラス組成物、そのガラス組成物を用いた光学部材及び光学機器を提供することが可能となる。したがって、本発明のガラス組成物は、屈折率と透過率とに優れるため、高屈折率と高透過率を必要とするデジタルカメラのレンズ等の光学部材等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(L):
(A)TeOの含有比率が50〜95モル%の範囲にあること、
(B)Bの含有比率が1〜33モル%の範囲にあること、
(C)ZnOの含有比率が1〜37モル%の範囲にあること、
(D)Biの含有比率が1〜18モル%の範囲にあること、
(E)Pの含有比率が0〜15モル%の範囲にあること、
(F)RO(式中、RはLi、Na及びKの中から選択される少なくとも1種の元素を示す。)の含有比率が0〜13モル%の範囲にあること、
(G)MO(式中、MはMg、Ca、Sr及びBaの中から選択される少なくとも1種の元素を示す。)の含有比率が0〜13モル%の範囲にあること、
(H)TiOの含有比率が0〜13モル%の範囲にあること、
(I)Nbの含有比率が0〜10モル%の範囲にあること、
(J)Taの含有比率が0〜13モル%の範囲にあること、
(K)L(式中、Lはイットリウム及びランタノイドの中から選択される少なくとも1種の元素を示す。)の含有比率が0〜11モル%の範囲にあること、
(L)上記(E)〜(K)に示すP、RO、MO、TiO、Nb、Ta及びLの総量の含有比率が0〜15モル%の範囲にあること;
に示す条件を満たす、ガラス組成物。
【請求項2】
前記TeOの含有比率が75〜95モル%である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
前記Bの含有比率が3〜15モル%である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項4】
前記ZnOの含有比率が3〜15モル%である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項5】
前記Biの含有比率が1〜10モル%である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のガラス組成物からなる、光学部材。
【請求項7】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のガラス組成物からなる光学部材を備える、光学機器。

【図1】
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【公表番号】特表2010−528959(P2010−528959A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552228(P2009−552228)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【国際出願番号】PCT/JP2008/061675
【国際公開番号】WO2009/001907
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】