説明

ガラス組成物及びそれを用いた光学装置

【課題】本発明によれば、紫外光において、真性複屈折率が低いかあるいは存在しないガラス化状態を安定して得ることができるガラス組成物を提供する。
【解決手段】Lu、Si及びAlを含有する酸化物であり、LuとSiとAlを陽イオン%で示した三相図において、以下に記す陽イオン%で示した6組成点で囲まれた組成域(記号“◎”で囲まれた範囲)に含まれるガラス組成物。
32.3LuO3/2・30.0SiO・37.7AlO3/2
32.3LuO3/2・37.7SiO・30.0AlO3/2
20.8LuO3/2・55.0SiO・24.2AlO3/2
10.0LuO3/2・45.0SiO・45.0AlO3/2
20.8LuO3/2・24.2SiO・55.0AlO3/2
及び30.0LuO3/2・25.0SiO・45.0AlO3/2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス組成物及びそれを用いた光学装置に関し、特に紫外光を用いた光学装置に用いられる光学部材などに適しているガラス組成物及びそれを用いた光学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学部材はカメラ、望遠鏡など幅広い分野で利用されている。光学部材は結晶からなるものとガラスからなるものと大きく2つに分けることができる。その中で結晶からなる光学部材はその結晶系において用途が分かれる。結像光学系などにレンズとして用いられるものは立方晶系の結晶である。光学的に等方性が高い立方晶の結晶を用いることにより、光学的な異方性を起因とする複屈折などを低減させることができる。一方、ガラスからなる光学部材は、本質的に光学的に等方であるため、応力により誘起される複屈折のみを考慮すればよく、幅広く用いることができる。
【0003】
ガラス組成物としては、特許文献1には、50モル%以上77モル%以下の酸化アルミニウム(Al)と、27モル%以上50モル%以下の希土類酸化物(RE)とを含むガラスについて記載されている。また、特許文献1には、希土類元素(RE)としてルテチウム(Lu)の開示がある。さらに、特許文献1には、RE−Al−SiO系の三相図において、モル%で、以下の7つの組成点を結んだ、7角形の組成域内のバルク単相ガラスについて記載されている。
【0004】
すなわち、前記7つの組成点は、
1RE・59Al・40SiO
1RE・71Al・28SiO
23RE・77Al
50RE・50Al
50RE・50SiO
33.33RE・33.33Al・33.33SiO
および、16.67RE・50Al・33.33SiO
である。これらの組成点を陽イオン%に変換すると、図6の三相図上の記号“●”で示した点となる。
【0005】
また、特許文献1には、
(a)1モル%以上50モル%以下のREと、
(b)0モル%以上71モル%以下のAlと、
(c)0モル%以上35モル%以下のSiOと、
(d)0モル%以上15モル%以下の他の酸化物を含み、
REとAlを合計で少なくとも55モル%含むバルク単相ガラスが開示されている。また、希土類元素(RE)としてルテチウム(Lu)の開示がある。これらの組成点を陽イオン%に変換すると、図6の三相図上の記号“◆”で示した点となる。
【0006】
特許文献1では、上記の技術により、機械的性質や熱物性が均一であることが要求される、光学的用途に使用可能なガラスが開示されている。また、特許文献1では、上記の技術により、均質なバルク単相ガラス、高屈折率なガラスが開示されている。
【0007】
一方、半導体集積回路の高集積化に伴い、超微細パターン形成への要求がますます高まっている。そして、微細パターンをウエハ上に転写するステップ・アンド・リピート方式の縮小投影型露光装置(ステッパー)の高性能化が行われ、露光用の光源の波長が短波長へと移行している。その中で注目されている光学部材は、紫外領域の透過率が高い立方晶系のフッ化カルシウム単結晶である。さらに近年、より高い解像力を得るために光学部材の高屈折率化を目指し、Siよりも屈折能の高い、Lu、AlおよびMgなどを用いた光学部材の開発が試みられている。例えば、立方晶系のルテチウムアルミニウムガーネット単結晶(LuAG,LuAl12)、酸化マグネシウム単結晶(MgO)、マグネシウムスピネル単結晶(MgAl)などの開発が積極的に行われている。特にルテチウムアルミニウムガーネット単結晶に関しては屈折率が高く、今後の開発が期待されている。例えば、ルテチウムアルミニウムガーネット単結晶の波長193nmにおける屈折率は、2.1、石英ガラスの波長193nmにおける屈折率は、1.56、フッ化カルシウム単結晶の波長193nmにおける屈折率は、1.50である。
【0008】
単結晶材料の場合、紫外光領域では真性複屈折が発生する問題がある。MgOやMgAlでは真性複屈折率の大きさが70nm/cm(外挿値)、52nm/cm(外挿値)であり、CaFの3.4nm/cmに比べてはるかに大きい(非特許文献1)。そのため、真性複屈折が生じることのない材料の開発が要求されている。
【0009】
特許文献2には、Lu、Al及びOを合計で99.99重量%以上含有し、かつLuとAlの含有割合を陽イオンパーセントで表した場合に、Luが24%以上33%以下、Alが67%以上76%以下である紫外光用ガラス組成物が開示されている。
【0010】
また、特許文献2では、液浸式露光装置の最終レンズに好適な、屈折率が高く、透過率が高く、真性複屈折(IBR;intrinsic birefringence)が低いかあるいは存在せず、又、応力複屈折(SBR;stress birefringence)が低いかあるいは存在しない、紫外光用ガラス組成物及びそれを用いた光学装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開WO01/27046号公報
【特許文献2】特開2008−150276号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】John H.Burnett,Simon G.Kaplan,Eric L.Shirley,Paul J.Tompkins,and JamesE.Webb,”High−Index Materials for 193 nm Immersion Lithography,”Proceedings SPIE5754−57 (2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1では、光学的用途に使用可能で、高屈折率で、均質な単相ガラスが開示されている。しかしながら、紫外線領域の透過率が低く、さらに、相対的に安定で大きなガラスを作製できないという問題があった。
【0014】
特許文献2では、液浸式露光装置の最終レンズに好適な、屈折率が高く、透過率が高く、真性複屈折が低いかあるいは存在せず、又、応力複屈折が低いかあるいは存在しない、新規な組成の紫外光用ガラス組成物が開示されている。しかしながら、ガラス化範囲が狭く、相対的に安定で大きなガラスを作製できないという問題があった。
【0015】
また、LuAGのような単結晶を光学材料として用いる場合は、真性複屈折が発生し、異なる結晶方位のレンズを組み合わせる方法等により、これを補償する必要があるという問題があった。
【0016】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、紫外光において、真性複屈折率が低いかあるいは存在しないガラス化状態を安定して得ることができるガラス組成物を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、前記ガラス組成物を用いた光学材料、光学薄膜および光学装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するガラス組成物は、Lu、Si及びAlを含有する酸化物であり、LuとSiとAlを陽イオン%で示した三相図において、以下に記す陽イオン%で示した6組成点で囲まれた組成域に含まれることを特徴とする。
32.3LuO3/2・30.0SiO・37.7AlO3/2
32.3LuO3/2・37.7SiO・30.0AlO3/2
20.8LuO3/2・55.0SiO・24.2AlO3/2
10.0LuO3/2・45.0SiO・45.0AlO3/2
20.8LuO3/2・24.2SiO・55.0AlO3/2
及び30.0LuO3/2・25.0SiO・45.0AlO3/2
【0019】
上記の課題を解決する光学材料は、上記のガラス組成物からなることを特徴とする。
上記の課題を解決する光学薄膜は、上記のガラス組成物からなることを特徴とする。
【0020】
上記の課題を解決する光学装置は、光源と、前記光源からの光を対象物に照射する光学系とを有する光学装置において、前記光学系は光学部材を備え、前記光学部材が上記のガラス組成物からなる、基材及び/又は光学薄膜を含むことを特徴とする。
【0021】
また、上記の課題を解決する光学装置は、光源と、前記光源からの光を対象物に照射する光学系とを有する光学装置において、前記光学系は、第1の光学部材と、該第1の光学部材より屈折率が高い第2の光学部材とを備え、前記第2の光学部材が上記のガラス組成物からなる基材を含むことを特徴とする。
前記光源が紫外光を発生することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、紫外光において、真性複屈折率が低いかあるいは存在しないガラス化状態を安定して得ることができるガラス組成物を提供することができる。
また、本発明は、前記ガラス組成物を用いた光学材料、光学薄膜および光学装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のガラス組成物のLuとSiとAlを陽イオン%で示した三相図である。
【図2】xSiO・(100−x)(7/13AlO3/2・6/13LuO3/2)ガラスの光学的バンドギャップを示す図である。
【図3】(100−x)(1/2SiO・1/2AlO3/2)・x LuO3/2ガラスの波長248nmにおける屈折率を示す図である。
【図4】本発明の光学装置の一実施形態を示す模式図である。
【図5】ガスジェット浮遊装置を示す模式図である。
【図6】従来のガラス組成物の三相図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、この実施形態に記載されている内容は、特定的な記載がない限りは、発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
本発明に係るガラス組成物は、Lu、Si及びAlを含有する酸化物であり、LuとSiとAlを陽イオン%で示した三相図において、以下に記す陽イオン%で示した6組成点で囲まれた組成域に含まれることを特徴とする。
32.3LuO3/2・30.0SiO・37.7AlO3/2
32.3LuO3/2・37.7SiO・30.0AlO3/2
20.8LuO3/2・55.0SiO・24.2AlO3/2
10.0LuO3/2・45.0SiO・45.0AlO3/2
20.8LuO3/2・24.2SiO・55.0AlO3/2
及び30.0LuO3/2・25.0SiO・45.0AlO3/2
【0025】
図1は、本発明のガラス組成物のLuとSiとAlを陽イオン%で示した三相図である。同図1には、上記の6つの組成点を記号“◎”で示し、それらの組成点を囲んだ前記組成域を実線で示す。
【0026】
なお、本発明において、陽イオン%とは、Luイオン数、Siイオン数、Alイオン数等の陽イオンの合計に対する、いずれかのイオン数の割合を%で示したものである。例えば、Luの陽イオン%とは、下記の式(1)に示す様に、LuとSiとAlの陽イオン数の合計に対するLuの陽イオンの数の割合である。
Luの陽イオン%=[Luイオン数/(Luイオン数+Siイオン数+Alイオン数)]×100 (1)
【0027】
したがって、上記の6つの組成点の数値は陽イオン%で表されている。具体的には、Luの酸化物をLuではなく、LuO等の陽イオン1個の形として示した場合のモル%が、陽イオン%である。
Siの陽イオンの及びAlの陽イオン%も上記と同様に表わされる。
【0028】
本発明のガラス組成物においては、ガラスの主成分としてLu、Si、Al、Oからなり、上記の6組成点で囲まれた組成域に含まれる含有量により安定にガラス化できる組成範囲が決まる。ガラス化は、目的の組成物の融液を作り、それを急冷することや、PVD法やCVD法等の気相合成法、ゾル−ゲル法によって行うことができる。
【0029】
前記ガラス組成物において、Lu、Si、Al及びOを合計で99.99重量%以上、好ましくは100重量%に限りなく近い方が、結晶化や分相を避ける上で望ましい。しかしながら、結晶化や分相を促進させず、あるいはガラス化を安定化させるのであれば、異なる元素を含有していてもよい。
【0030】
また、前記ガラス組成物において、Lu、Si、Al及びOを合計で99.99重量%以上、好ましくは100重量%に限りなく近い方が、紫外光透過性を向上させる上で望ましい。しかしながら、紫外光透過性を低減させず、あるいは紫外光透過性を促進させるのであれば、異なる元素を含有していてもよい。
【0031】
LuとSiとAlの含有割合が、陽イオン%で示した6組成点で囲まれた組成域の範囲であると、相対的に安定で大きなガラス組成物となるが、この範囲を外れると、ガラス化が不安定で、結晶が混在したり、分相が生じる。
【0032】
図2は、xSiO・(100−x)(7/13AlO3/2・6/13LuO3/2)ガラスの光学的バンドギャップを示す図である。図2に、前記の6つの組成点に囲まれた組成域内で、SiO含有量を系統的に変化させた場合の光学的バンドギャップの変化を示す。SiOの含有量が減少するに従い、光学的バンドギャップが系統的に減少していることが分かる。このことは、SiO、AlO3/2、LuO3/2の中で最もバンドギャップが大きいSiOが減少することが原因になっていると考えられる。したがって、紫外光波長域の透過性を向上させる上では、SiO>AlO3/2>LuO3/2の順に含有量が多いことが望ましい。
【0033】
一方、バンドギャップと屈折率は経験的にトレードオフの関係にあることが知られている。すなわち、屈折率の向上の観点では、LuO3/2>AlO3/2>SiOの順に含有量が多いことが望ましい。図3は、(100−x)(1/2SiO・1/2AlO3/2)・x LuO3/2ガラスの波長248nmにおける屈折率を示す図である。図3には、前記の6つの組成点に囲まれた組成域内で、LuO3/2含有量を系統的に変化させた場合の、波長248nmの屈折率の変化を示す。LuO3/2の増加に伴い、屈折率が系統的に増大していることが分かる。
【0034】
また、不純物はガラス化の阻害、欠陥の生成などに寄与することが多いため100ppm以下に制御することが適当である。しかしながら、ガラス化を阻害せず、欠陥の生成を抑制するのであれば、そのような元素を加えても良い。さらに、生成する欠陥を、目的とする特性を害さない、異なる欠陥に変えるような効果を持つのであれば、異なる元素を加えても良い。異なる元素としては、例えばフッ素や水素が挙げられる。
【0035】
本発明のガラス組成物は、光学材料、光学薄膜に用いることができる。
具体的には、本発明のガラス組成物は、そのものをレンズの基材(レンズの硝材)として利用できる他、スパッタリングターゲットとして用いて光学薄膜の形成に利用することもできる。
そして、これらのレンズや光学薄膜は、波長が365nm以下、より好ましくは248nm以下、更には193nm以下の紫外光を透過する光学部材として好適に用いられる。
【0036】
次に、本発明の光学装置は、光源と、前記光源からの光を対象物に照射する光学系とを有する光学装置において、前記光学系は光学部材を備え、前記光学部材が、上記のガラス組成物からなる、基材及び/又は光学薄膜を含むことを特徴とする。
【0037】
また、本発明の光学装置は、光源と、前記光源からの光を対象物に照射する光学系とを有する光学装置において、前記光学系は、第1の光学部材と、該第1の光学部材より屈折率が高い第2の光学部材とを備え、前記第2の光学部材が、上記のガラス組成物からなる基材を含むことを特徴とする。
【0038】
前記光源が紫外光、好ましくは365nm、248nm、193nmのような波長を有する紫外光を発生することを特徴とする。
本発明の光学装置としての露光装置では、波長365nm以下の紫外から真空紫外領域の光(たとえば、i線;波長365nm、KrFエキシマレーザ;発振波長248nm、ArFエキシマレーザ;発振波長193nmなど)を発生する光源を使用する。これは、露光波長が小さくレンズの開口数が大きいほど、解像線幅を小さくして解像度を向上できるからである。
【0039】
さらに、露光基板と露光装置の最終レンズとの間に液体を充填することにより、露光基板面における光の波長を実質的に短くして解像度を向上させる液浸式露光装置となっていることが好ましい。
【0040】
液浸式露光装置は、少なくとも、光源と、照明光学系と、光学マスク(レチクル)と、投影光学系と、液体の供給回収装置とを備えた装置である。そして、投影光学系の露光基板側の先端に設けられたレンズ(最終レンズ)と、感光性膜を有する露光基板との間に、液体を充填した状態で露光が行われる。
【0041】
このような液浸式露光装置の最終レンズには、光源の光の波長における屈折率および透過率が高いことが要求される。また、真性複屈折や応力複屈折が低いかあるいは存在しないことが要求される。さらには、光源の光に対する耐久性があること、使用する液体に対する耐久性があることが要求される。このため、本発明のガラス組成物からなるレンズを最終レンズとして用いる。投影光学系の残りのレンズは、石英ガラスからなるレンズを用いる。
【0042】
これらのレンズには必要に応じて反射防止用の光学薄膜が形成される。
図4は液浸式露光装置を示す模式図である。
図4中、液浸式露光装置11は、マスク(レチクル)14を境にした照明光学系13と投影光学系15と、さらに液体の供給回収装置17,18と、露光基板を移動させ得るステージ25と、レーザ光源26とを備えている。
【0043】
投影光学系15は、相対的に屈折率の低い第1の光学部材として、石英ガラス製のレンズ群と、露光基板側の先端に設けられた相対的に屈折率の高い第二の光学部材として最終レンズ19とを有する。投影光学系15は、この最終レンズ19と、感光性膜を有する露光基板21との間に、液体23を充填した状態で、対象物としての感光性膜を有する露光基板21に紫外光を照射する露光を行う。
【0044】
この露光によって、光学マスク(レチクル)14のパターンを縮小して、露光基板21上に転写することができる。なお、図示した例では、最終レンズ19と基板21との間のみに液体23が保持されているが、これに限定されるものではなく、露光基板21全体を液体23に浸す態様であってもよい。液体23としては、波長193nmの光に対する屈折率(20℃)が1.44である純水や、フッ素系有機溶媒などを用いることができる。
【0045】
本発明の液浸式露光装置は、光源として、波長200nm以下のレーザ光源を備えていることが好ましく、より具体的には、ArFエキシマレーザ発振器を備えていることが好ましい。このような短波長の光を光源として用いることにより、露光装置の解像度を向上させることができる。
そして、本発明の光学部材は、波長が193nmの真空紫外光を透過する露光装置用光学部材として好適に用いられる。
【0046】
次に、本発明の他の光学装置は、紫外光を発生する光源と、前記光源からの前記紫外光を対象物に照射する光学系とを有する光学装置において、前記光学系は光学部材を備え、前記光学部材が、Lu、Si及びAlを含有する酸化物であり、LuとSiとAlを陽イオン%で示した三相図において、以下に記す陽イオン%で示した組成点で囲まれた組成域に含まれる。
【0047】
紫外光用ガラス組成物からなる、基材及び/又は光学薄膜を含むことを特徴とする。すなわち、前記組成点は、以下の6つである。
32.3LuO3/2・30.0SiO・37.7AlO3/2
32.3LuO3/2・37.7SiO・30.0AlO3/2
20.8LuO3/2・55.0SiO・24.2AlO3/2
10.0LuO3/2・45.0SiO・45.0AlO3/2
20.8LuO3/2・24.2SiO・55.0AlO3/2
及び30.0LuO3/2・25.0SiO・45.0AlO3/2
【0048】
すなわち、上述した紫外光用ガラス組成物そのものを基材としてレンズを作製する。
あるいは、上記紫外光用ガラス組成物をターゲットとして、スパッタリングを行い、シリコンウエハや石英ガラスなどからなる基材表面上に高屈折率の光学薄膜を形成し、レンズやミラーなどの光学部材レンズを作製する。
【0049】
そして、本発明の光学部材は、波長が365nm以下、より好ましくは248nm以下、更には193nm以下の紫外光を透過する光学装置用光学部材として好適に用いられる。
【実施例1】
【0050】
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
ガラス合成の出発材料としてLu(純度99.99重量%)、SiO(日本化成製,商品名:MKCシリカ)、Al(純度99.998重量%)を用いた。これらの出発材料を、表1に示すように、ガラス組成においてLu、SiO、Alそれぞれが陽イオン%でLuが25.4%、Siが45.0%、Alが29.6%となるように秤量した。なお、この組成点を図1に、記号“○”で示した。
【0051】
具体的には、バッチ量が400mgでLuの陽イオン%が25.4%であるLuの量は218.07mgである。その計算法は、以下の要領である。
【0052】
【数1】

【0053】
Siの陽イオン%及びAlの陽イオン%も同様に求められる。
Lu、SiO、Alそれぞれの量論値は、質量比でLu:SiO:Alが3.345:1.791:1.000であるが、融解時にSiOが昇華し、減少する。そのため、出発材料に占めるSiOの割合を適宜調整した。これらの出発材料を乳鉢中で十分に混合した。その後、この混合物を炭酸ガスレーザ照射で部分的に融解し、レーザの出力を弱めて球状の多結晶集合体を作製した。
【0054】
この多結晶集合体1を図5に示すガスジェット浮遊装置の銅製ノズル2上にセットし、乾燥空気3を用いて多結晶集合体1を浮遊させた状態で再度、炭酸ガスレーザ4により加熱し多結晶集合体1を完全に融解させた。その状態でレーザの出力を遮断し、急冷することにより透明な球体を得た。この過程を輻射温度計にて温度をモニタしたが、結晶化による発熱反応は見られなかった。
【0055】
(実施例2)
ガラス合成の出発材料としてLu(純度99.99重量%)、SiO(日本化成製,商品名:MKCシリカ)、Al(純度99.998重量%)を用いた。これらの出発材料を、表1に示すように、ガラス組成においてLu、SiO2、Alのそれぞれが陽イオン%でLuが25.4%、Siが29.6%、Alが45.0%となるように秤量した。なお、この組成点を図1に、記号“○”で示した。
【0056】
Lu、SiO、Alそれぞれの量論値は、質量比でLu:SiO:Alが2.202:0.776:1.000であるが、融解時にSiOが昇華し、減少するため、出発材料に占めるSiOの割合を適宜調整した。これらの出発材料を乳鉢中で十分に混合した。その後、この混合物を炭酸ガスレーザ照射で部分的に融解し、レーザの出力を弱めて球状の多結晶集合体1を作製した。
【0057】
この多結晶集合体1をガスジェット浮遊装置にセットし、乾燥空気3を用いて浮遊させた状態で再度、炭酸ガスレーザにより加熱し、多結晶集合体1を完全に融解させた。その状態でレーザの出力を遮断し、急冷することにより、球状のガラスを得ることができた。
【0058】
(実施例3)
ガラス合成の出発材料としてLu(純度99.99重量%)、SiO(日本化成製,商品名:MKCシリカ)、Al(純度99.998重量%)を用いた。これらの出発材料を、表1に示すように、ガラス組成においてLu、SiO、Alそれぞれが陽イオン%でLuが15.0%、Siが42.5%、Alが42.5%となるように秤量した。なお、この組成点を図1に、記号“○”で示した。Lu、SiO、Alそれぞれの量論値は、質量比でLu:SiO:Alが1.377:1.179:1.000であるが、融解時にSiOが昇華し、減少するため、出発材料に占めるSiOの割合を適宜調整した。これらの出発材料を乳鉢中で十分に混合した。その後、この混合物を炭酸ガスレーザ照射で部分的に融解し、レーザの出力を弱めて球状の多結晶集合体1を作製した。
【0059】
この多結晶集合体1をガスジェット浮遊装置にセットし乾燥空気3を用いて浮遊させた状態で、再度、炭酸ガスレーザ4により加熱し多結晶集合体1を完全に融解させた。その状態でレーザの出力を遮断し、急冷することにより球状のガラスを得ることができた。
【0060】
(実施例4から16)
以下同様にして、表1の実施例4から16に示したLu、SiO、Alそれぞれが陽イオン%を秤量し、多結晶集合体1を作製した。この組成点を図1に、記号“◎”および“○”で示した。なお、記号“◎”は、実施例4,8,9,11,13,16を示す。記号“○”は、実施例5,6,7,10,12,14,15を示す。
【0061】
(比較例1)
ガラス合成の出発材料としてLu(純度99.99重量%)、SiO(日本化成製,商品名:MKCシリカ)、Al(純度99.998重量%)を用いた。これらの出発材料を、表1に示すように、ガラス組成においてLu、SiO、Alそれぞれが陽イオン%でLuが33.3%、Siが11.1%、Alが55.6%となるように秤量した。なお、この組成点を図1に、記号“◇”で示した。Lu、SiO、Alそれぞれの量論値は、質量比でLu:SiO:Alが2.342:0.236:1.000であるが、融解時にSiOが昇華し、減少するため、出発材料に占めるSiOの割合を適宜調整した。これらの出発材料を乳鉢中で十分に混合した。その後、この混合物を炭酸ガスレーザ照射で部分的に融解し、レーザの出力を弱めて球状の多結晶集合体1を作製した。
【0062】
この多結晶集合体1をガスジェット浮遊装置にセットし乾燥空気3を用いて浮遊させた状態で再度、炭酸ガスレーザ4により加熱し、多結晶集合体1を完全に融解させた。その状態でレーザの出力を切り急冷したが、回収した試料は透明な部分と白濁した部分が混在し、多結晶が生成した状態であることがわかった。
【0063】
(比較例2)
ガラス合成の出発材料としてLu(純度99.99重量%)、SiO(日本化成製,商品名:MKCシリカ)、Al(純度99.998重量%)を用いた。これらの出発材料を、表1に示すように、ガラス組成においてLu、SiO、Alそれぞれが陽イオン%でLuが29.0%、Siが22.6%、Alが48.4%となるように秤量した。なお、この組成点を図1に、記号“◇”で示した。Lu、SiO、Alそれぞれの量論値は、質量比でLu:SiO:Alが2.342:0.550:1.000であるが、融解時にSiOが昇華し、減少するため、出発材料に占めるSiOの割合を適宜調整した。これらの出発材料を乳鉢中で十分に混合した。その後、この混合物を炭酸ガスレーザ照射で部分的に融解し、レーザの出力を弱めて球状の多結晶集合体1を作製した。
【0064】
この多結晶集合体1をガスジェット浮遊装置にセットし乾燥空気3を用いて浮遊させた状態で再度、炭酸ガスレーザ4により加熱し、多結晶集合体1を完全に融解させた。その状態でレーザの出力を切り急冷したが、回収した試料は透明な部分と白濁した部分が混在し、多結晶が生成した状態であることがわかった。
【0065】
(比較例3)
ガラス合成の出発材料としてLu(純度99.99重量%)、SiO(日本化成製,商品名:MKCシリカ)、Al(純度99.998重量%)を用いた。これらの出発材料を、表1に示すように、ガラス組成においてLu、SiO、Alそれぞれが陽イオン%でLuが30.0%、Siが45.0%、Alが25.0%となるように秤量した。なお、この組成点を図1に、記号“◇”で示した。Lu、SiO、Alそれぞれの量論値は、質量比でLu:SiO:Alが4.683:2.121:1.000であるが、融解時にSiOが昇華し、減少するため、出発材料に占めるSiOの割合を適宜調整した。これらの出発材料を乳鉢中で十分に混合した。その後、この混合物を炭酸ガスレーザ照射で部分的に融解し、レーザの出力を弱めて球状の多結晶集合体1を作製した。
【0066】
この多結晶集合体1をガスジェット浮遊装置にセットし乾燥空気3を用いて浮遊させた状態で再度、炭酸ガスレーザ4により加熱し、多結晶集合体1を完全に融解させた。その状態でレーザの出力を切り急冷したが、回収した試料は透明な部分と白濁した部分が混在し、多結晶が生成した状態であることがわかった。
【0067】
(比較例4)
ガラス合成の出発材料としてLu(純度99.99重量%)、SiO(日本化成製,商品名:MKCシリカ)、Al(純度99.998重量%)を用いた。これらの出発材料をガラス組成においてLu、SiO、Alそれぞれが陽イオン%でLuが5.0%、Siが47.5%、Alが47.5%となるように秤量した。なお、この組成点を図1に、記号“◇”で示した。Lu、SiO、Alそれぞれの量論値は、質量比でLu:SiO:Alが0.411:1.179:1.000であるが、融解時にSiOが昇華し、減少するため、出発材料に占めるSiOの割合を適宜調整した。これらの出発材料を乳鉢中で十分に混合した。その後、この混合物を炭酸ガスレーザ照射で部分的に融解し、レーザの出力を弱めて球状の多結晶集合体1を作製した。
【0068】
この多結晶集合体1をガスジェット浮遊装置にセットし乾燥空気3を用いて浮遊させた状態で再度、炭酸ガスレーザ4により加熱し、多結晶集合体1を完全に融解させた。その状態でレーザの出力を切り急冷したが、回収した試料は透明な部分と白濁した部分が混在し、多結晶が生成した状態であることがわかった。
【0069】
(比較例5から17)
以下同様にして、表1の比較例5から17に示したLu、SiO、Alそれぞれが陽イオン%を秤量し、多結晶集合体1を作製した。この組成点を図1に、記号“◇”もしくは記号“×”で示した。
【0070】
【表1】

【0071】
図1において、前記ガラス組成物の組成域は、図5に示すガスジェット浮遊法装置で直径4mmの多結晶集合体1を融解、急冷した際の、ガラス化の容易さから決定した。すなわち、図1の実線で囲まれた前記組成域では、安定にガラス化することができる。一方、前記組成域の外側では、ガラスに結晶が混在したり、あるいは分相が生じたり、または、完全に結晶化する。
【0072】
図6中の記号“●”あるいは“◆”で囲まれた、それぞれ点線あるいは破線で囲まれた組成域は、特許文献1に開示されている組成域である。図1に示す本発明のガラス組成物の組成域と、図6に示す特許文献1のガラス組成物の組成域とは異なっている。
【0073】
図1に示す本発明の組成点“◎”で囲まれた組成域では、相対的に安定にガラス化することが分かる。前記6つの組成点“◎”で囲まれた組成域の中では、組成域の中心部に近い方が、相対的に安定にガラス化することから、大きなガラスを作製する上で、好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のガラス組成物は、真性複屈折が抑えられているので、可視光用のレンズだけでなく、紫外光用のレンズなどの光学部品の材料として利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 試料
2 ノズル
3 乾燥空気
4 レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lu、Si及びAlを含有する酸化物であり、LuとSiとAlを陽イオン%で示した三相図において、以下に記す陽イオン%で示した6組成点で囲まれた組成域に含まれることを特徴とするガラス組成物。
32.3LuO3/2・30.0SiO・37.7AlO3/2
32.3LuO3/2・37.7SiO・30.0AlO3/2
20.8LuO3/2・55.0SiO・24.2AlO3/2
10.0LuO3/2・45.0SiO・45.0AlO3/2
20.8LuO3/2・24.2SiO・55.0AlO3/2
及び30.0LuO3/2・25.0SiO・45.0AlO3/2
【請求項2】
請求項1記載のガラス組成物からなることを特徴とする光学材料。
【請求項3】
請求項1記載のガラス組成物からなることを特徴とする光学薄膜。
【請求項4】
光源と、前記光源からの光を対象物に照射する光学系とを有する光学装置において、前記光学系は光学部材を備え、前記光学部材が請求項1記載のガラス組成物からなる、基材及び/又は光学薄膜を含むことを特徴とする光学装置。
【請求項5】
光源と、前記光源からの光を対象物に照射する光学系とを有する光学装置において、前記光学系は、第1の光学部材と、該第1の光学部材より屈折率が高い第2の光学部材とを備え、前記第2の光学部材が請求項1記載のガラス組成物からなる基材を含むことを特徴とする光学装置。
【請求項6】
前記光源が紫外光を発生することを特徴とする請求項4または請求項5記載の光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−178592(P2011−178592A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43331(P2010−43331)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】