説明

ガラス組成物

【課題】 従来のカバーガラスと光学的に代替可能であり、波長250〜260nmの波長範囲における紫外線透過率が高いガラス組成物を提供する。
【解決手段】 基本ガラス組成として、質量%および質量百万分率で示して、
SiO2 60〜79%,Al23 0%を超えて10%以下,Li2O 0〜10%,Na2O 5〜25%,K2O 0〜15%,MgO 0〜10%,CaO 0〜15%,SrO 0〜15%,BaO 0〜15%,T−Fe23 0.5〜20ppm(ただし、T−Fe23は、全ての鉄化合物をFe23に換算した、全酸化鉄含有量である),TiO2 0〜200ppmを含んでなるガラス組成物であって、該ガラス組成物の屈折率ndが、1.519〜1.530であることを特徴とするガラス組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線を透過させることのできるガラス組成物に関し、特に、カバーガラスなどに好適に用いられ得るガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の観察、特に生物組織や細胞の観察などの分野においては、光学顕微鏡を用いた観察が、現在においても一般的な手法である。従来、光学顕微鏡を用いた生体観察には、可視光が用いられてきた。しかしながら、近年、紫外光(例えば、波長250〜260nm)を励起光として観察対象に照射して、観察対象から発せられる蛍光を観察する手法が用いられつつある。
【0003】
光学顕微鏡による生体の観察を行うにあたっては、スライドガラスおよびカバーガラスが必要である。特にカバーガラスは、光学顕微鏡の光学系の焦点を観察対象に合わせるために必要である。紫外光を用いた蛍光を利用して細胞観察を行う場合、紫外光はカバーガラスを通して細胞に照射されるため、カバーガラスは紫外光を通す必要がある。
【0004】
従来、カバーガラスとして、ショット社製D263と呼ばれるガラスが多く用いられてきた。このガラスは、屈折率nd=1.523〜1.525およびアッベ数νd=54〜55の光学定数を有する。しかしながら、このガラスは酸化鉄や多量の酸化チタンを含有しており、紫外光を十分に透過させることができない。
【0005】
紫外線,とりわけ波長250〜260nm前後の波長域の透過率の高いガラスとしては、石英ガラスが周知である。
また、特開昭64−79035号公報では、SiO2,B23,Al23,アルカリ金属酸化物およびClを含んでなるUV透過ガラスが開示されている。
【0006】
特開平6−157067号公報では、SiO2,Al23,B23,Mg+CaO,アルカリ金属酸化物およびClを含んでなる紫外線透過ガラスが、開示されている。
特開平2−252636号公報では、SiO2,Al23,アルカリ金属酸化物,MgO+CaO,BaO+SrO,B23+P25からなる殺菌灯用ガラスが開示されている。
【0007】
また、波長約300nmで透過率の高いガラスとして、特開昭61−270234号公報では、SiO2,Al23,Fe2O3,アルカリ金属酸化物,CaO,MgO,BaO,B23,Sb23を含んでなる健康線用蛍光ランプ用ガラスが開示されている。
【特許文献1】特開昭64−79035号公報
【特許文献2】特開平6−157067号公報
【特許文献3】特開平2−252636号公報
【特許文献4】特開昭61−270234号公報
【0008】
一方、屈折率ndが1.525近傍の値を有するガラスとして、特開平6−92674号公報では、屈折率(Nd)約1.51〜1.60、アッベ数(νd)約38〜52の光学恒数を有し、PbOフリーの光学ガラスが開示されている。
特開平9−255353号公報では、屈折率ndが1.50〜1.55、アッベ数νdが50〜55の無鉛クラウンフリントガラスが開示されている。
【特許文献5】特開平6−92674号公報
【特許文献6】特開平9−255353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述したガラスには、以下のような問題点があった。
【0010】
石英ガラスは、紫外線透過には優れている一方、屈折率ndが1.46程度と非常に小さい。そのため、従来の光学顕微鏡の光学系と整合していないため、石英ガラスをカバーガラスとして用いる場合は、観察対象の正確な像を得ることができない。
【0011】
特開昭64−79035号公報に記載のUV透過ガラスは、15〜18重量%の酸化ホウ素を必須成分として含有している。
また、特開平6−157067号公報に記載の紫外線透過ガラスは、20〜27重量%の酸化ホウ素を必須成分として含有している。
【0012】
シリケートガラス組成物がアルカリ酸化物含有する場合、非架橋酸素が生じることにより紫外線透過率が低下する。そのガラス組成物に、さらに酸化ホウ素を添加すると、生じていた非架橋酸素はホウ素と結合し、ガラス組成物中に非架橋酸素が生ない。その結果、そのガラス組成物は高い紫外線透過率を示すとされている。
【0013】
しかし、酸化ホウ素には、ガラス融液から揮発しやすいという問題がある。つまり、ガラスの熔融中に、ガラスの表面から酸化ホウ素あるいはホウ素化合物が揮発すると、表面近傍のガラス組成がそれ以外の部分の組成と異なってしまい、ガラス製品に脈理を生じることがある。
【0014】
また、揮発した酸化ホウ素あるいはホウ素化合物は、熔融炉の耐火物などを浸食する。それら耐火物などが浸食されると、熔融炉の寿命を縮めるのみならず、浸食された耐火物などが熔融ガラスに混入し、ガラス組成物の紫外線透過率を低下させてしまう虞がある。
【0015】
特開平2−252636号公報に記載の殺菌灯用ガラスは、酸化ホウ素および五酸化二リンを合計で0〜3重量%含有している。酸化ホウ素と同様に、五酸化二リンもガラス融液から揮発しやすいという問題があるため、ガラス製品に脈理を生じることがある。また、酸化ホウ素および五酸化二リンを共に含まない組成として開示されている実施例5の組成では、屈折率ndが1.506と小さく、石英ガラスと同様、従来の光学顕微鏡を用いた場合には、観察対象の正確な像を得ることができない。
【0016】
また、特開昭61−270234号公報に記載の健康線用蛍光ランプ用ガラスは、波長280〜320nmの波長範囲において、約40%以上の透過率を有する。しかし、該ガラスは、波長270nmより短い波長範囲の紫外線を透過しないので、波長250〜260nmの紫外線を励起光として用いる分析には用いることができない。
【0017】
特開平6−92674号公報および特開平9−255353号公報に開示された実施例のガラスは、いずれも酸化チタンもしくは酸化ニオブを少なくとも3重量%含有している。これらの成分は、いずれも紫外域で強い吸収を示すため、紫外線(例えば250〜260nm)を励起光として用いる分析に用いることができない。
【0018】
これらの状況に鑑み、本発明は、従来のカバーガラスと光学的に代替可能なガラス組成物であり、なおかつ波長250〜260nmの波長範囲における紫外線透過率が高いガラス組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、ガラス組成と屈折率ndについて詳細に研究を行った結果、SiO2−Al23−Na2O系のガラスにおいて、屈折率ndを1.519〜1.530の範囲に維持しつつ、紫外線透過率の高いガラスが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
本発明のガラス組成物は、請求項1に記載の発明として、
基本ガラス組成として、質量%および質量百万分率で示して、
SiO2 60〜79%,
Al23 0%を超えて10%以下,
Li2O 0〜10%,
Na2O 5〜25%,
2O 0〜15%,
MgO 0〜10%,
CaO 0〜15%,
SrO 0〜15%,
BaO 0〜15%,
T−Fe23 0.5〜20ppm
(ただし、T−Fe23は、全ての鉄化合物をFe23に換算した、全酸化鉄含有量である),
TiO2 0〜200ppm
を含んでなるガラス組成物であって、
該ガラス組成物の屈折率ndが、1.519〜1.530であることを特徴とする。
【0021】
請求項2に記載の発明として、
前記基本ガラス組成が、質量%および質量百万分率で示して、
SiO2 60〜75%,
Al23 0%を超えて5%以下,
Li2O 0〜 5%,
Na2O 5〜21%,
2O 0〜10%,
MgO 0%を超えて10%以下,
CaO 0%を超えて15%以下,
SrO 0〜15%,
BaO 0〜15%,
T−Fe23 0.5〜20ppm
(ただし、T−Fe23は、全ての鉄化合物をFe23に換算した、全酸化鉄含有量である),
TiO2 0〜200ppm
であるガラス組成物である。
【0022】
請求項3に記載の発明として、
前記基本ガラス組成が、質量%および質量百万分率で示して、
SiO2 60〜71%,
Al23 1〜 5%,
Li2O 0〜 5%,
Na2O 5〜15%,
2O 0〜10%,
MgO 0%を超えて8%以下,
CaO 0%を超えて11%以下,
SrO 0〜 5%,
BaO 0〜10%,
T−Fe23 0.5〜20ppm
(ただし、T−Fe23は、全ての鉄化合物をFe23に換算した、全酸化鉄含有量である),
TiO2 0〜200ppm
であるガラス組成物である。
【0023】
請求項4に記載の発明として、
前記基本ガラス組成が、質量%および質量百万分率で示して、
SiO2 63〜71%,
Al23 1〜 4%,
Li2O 0〜 1%,
Na2O 8〜15%,
2O 0〜 1%,
MgO 2〜 6%,
CaO 5〜11%,
BaO 0%を超えて10%以下,
T−Fe23 0.5〜20ppm
(ただし、T−Fe23は、全ての鉄化合物をFe23に換算した、全酸化鉄含有量である),
TiO2 0〜200ppm
であるガラス組成物である。
【0024】
請求項5に記載の発明として、
前記屈折率ndが1.521〜1.528であるガラス組成物である。
【0025】
請求項6に記載の発明として、
質量百万分率で示して、前記T−Fe23の含有率が1〜20ppmであるガラス組成物である。
【0026】
請求項7に記載の発明として、
質量百万分率で示して、前記T−Fe23の含有率が2〜10ppmであるガラス組成物である。
【0027】
請求項8に記載の発明として、
前記ガラス組成物が、清澄剤として、SO3,ClおよびFのうちの少なくとも1種類を含むガラス組成物である。
【0028】
請求項9に記載の発明として、
前記清澄剤が、質量%で示して、
SO3 0〜1%,
Cl 0〜1%,
F 0〜1%
であるガラス組成物である。
【0029】
請求項10に記載の発明として、
質量%で示して、前記Clを0%以上0.1%未満含んでなるガラス組成物である。
【0030】
請求項11に記載の発明として、
質量%で示して、前記SO3を0.01〜1%含んでなるガラス組成物である。
【0031】
請求項12に記載の発明として、
質量%で示して、前記SO3を0.01〜0.2%含んでなるガラス組成物である。
【0032】
請求項13に記載の発明として、
前記ガラス組成物を厚さ1mmの板状とし、波長260nmにおける紫外線透過率が少なくとも50%であるガラス組成物である。
【0033】
請求項14に記載の発明として、
前記紫外線透過率が少なくとも70%であるガラス組成物である。
【0034】
請求項15に記載の発明として、
前記紫外線透過率が少なくとも80%であるガラス組成物である。
【0035】
請求項16に記載の発明として、
前記ガラス組成物のアッベ数νdが53〜60であるガラス組成物である。
【0036】
請求項17に記載の発明として、
請求項1〜16のいずれか1項に記載のガラス組成物からなるガラス物品である。
【0037】
本発明のガラス組成物における各成分の限定の理由は以下の通りである。なお、以下では、%は質量%を、ppmは質量百万分率を意味する。
【0038】
(SiO2
SiO2はガラスの骨格を形成する必須成分である。SiO2の含有量が60%未満では、ガラスの化学的耐久性が低くなる。一方、79%を超えると、ガラス融液の粘性が上昇し、熔解清澄が困難になる。したがって、SiO2の含有量は、60%〜79%である必要がある。SiO2の含有量は、60%〜75%であることが好ましく、60%〜71%であることがより好ましく、63%〜71%であることがさらに好ましい。
【0039】
(Al23
Al23は必須の成分である。Al23には、非架橋酸素を消失させる効果と、ガラス組成物の化学的耐久性を高める効果とがある。しかし、Al23には、ガラス融液の粘性を上昇させる効果があるので、Al23の含有量が10%を超えると、ガラス組成物の熔解が困難になる。したがって、Al23の含有量は0%を超えて10%以下である必要がある。Al23の含有量は、0%を超えて5%以下であることが好ましく、1〜5%であることがより好ましく、1〜4%であることがさらに好ましい。
【0040】
(Na2O)
Na2Oは必須の成分である。Na2Oには、ガラス融液の粘性を下げて熔解性を高める効果がある。しかし、ガラス組成物にNa2Oを含有させると、ガラス組成物中に非架橋酸素を生じさせる虞がある。その非架橋酸素が生じると、とりわけ波長240nmおよびそれより短い波長範囲の透過率を低下させてしまう。また、Na2Oの含有量が多くなりすぎると、ガラス物品の化学的耐久性が劣化する虞がある。したがって、Na2Oの含有量は、5〜25%である必要がある。Na2Oの含有量は、5〜21%であることが好ましく、5〜15%であることがより好ましく、8〜15%であることがさらに好ましい。
【0041】
(K2O)
2Oは任意の成分である。K2Oには、Na2Oと同様、ガラス融液の粘性を下げて熔解性を高める効果がある。一方、K2Oを添加するとガラス組成物中に非架橋酸素を生じさせ、特に波長240nmおよびそれより短い波長範囲の透過率を低下させてしまう虞がある。また、K2Oの含有量が多くなりすぎると、ガラス物品の化学的耐久性が劣化する虞がある。したがって、K2Oの含有量は15%以下である必要があり、10%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。
【0042】
(Li2O)
Li2Oは、Na2Oと同様、ガラス融液の粘性を下げて熔解性を高める効果を持つ、任意の成分である。しかし、ガラス組成物にLi2Oを含有させると、ガラス組成物中に非架橋酸素を生じさせる虞がある。その非架橋酸素が生じると、とりわけ波長240nmおよびそれより短い波長範囲の透過率を低下させてしまう。また、Li2Oの含有量が多くなりすぎると、ガラス物品の化学的耐久性が劣化する虞がある。したがって、Li2Oの含有量は10%以下である必要があり、5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。
【0043】
(Na2O,K2OおよびLi2Oの総量)
上述したように、ガラス組成物にNa2O,K2O,Li2Oを多量に含有させると、紫外線級透過率の低下や、化学的耐久性の劣化などの、好ましくない作用を引き起こす。したがって、Na2O,K2OおよびLi2Oの総量は、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
【0044】
(MgOおよびCaO)
MgOおよびCaOは、任意の成分であるが、含有させることが好ましい成分である。MgOおよびCaOには、ガラス融液の粘性を下げて熔解性を高める効果と、ガラス組成物の耐薬品性を向上させる効果がある。しかし、MgOの含有量が10%を超える、あるいはCaOの含有量が15%を超えると、ガラス組成物は失透しやすくなり、ガラス融液をガラス物品に成形することが困難になる。
【0045】
したがって、MgOの含有量は、10%以下であることが必要であり、0%を超えて10%以下であることが好ましく、0%を超えて8%以下であることがより好ましく、2%〜6%であることがさらに好ましい。
また、CaOの含有量は、15%以下であることが必要であり、0%を超えて15%以下であることが好ましく、0%を超えて11%以下であることがより好ましく、5%〜11%であることがさらに好ましい。
【0046】
(SrOおよびBaO)
SrOおよびBaOは、任意の成分である。SrOおよびBaOには、MgOやCaOと類似した、ガラス融液の粘性を下げて熔解性を高める効果と、ガラス組成物の耐薬品性を向上させる効果がある。しかし、SrOおよびBaOは屈折率ndを大きく増加させる成分であるため、ガラス組成物中にSrOやBaOを多量に含有させると、ガラスの屈折率が大きくなりすぎてしまう虞がある。
【0047】
したがって、SrOの含有量は、15%以下である必要があり、5%以下であることが好ましい。また、SrOを実質的に含有させないことがより好ましい。BaOの含有量は、15%以下である必要があり、10%以下であることが好ましく、0%を超えて10%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
(酸化鉄)
酸化鉄は、本発明のガラス組成物中ではFe23および/またはFeOの形で存在する。本明細書においては、酸化鉄の含有量を、Fe23に換算した全酸化鉄含有量として表わし、その量を、T−Fe23と略記する。
【0049】
ガラス組成物中において、Fe23は紫外線を強く吸収するので、T−Fe23は少ない方が好ましい。T−Fe23を20ppm以下にすれば、1mm厚に換算した波長260nmの紫外線透過率を50%以上にすることが容易にできる。
一方、T−Fe23が少なすぎると、ガラス融液の清澄性が劣化し、そのガラス融液から作製されるガラス物品に、微細な泡が残存して欠点を生じる虞がある。T−Fe23を0.5ppm以上にすれば、ガラス融液の清澄性が著しく改善される。したがって、T−Fe23を0.5〜20ppmとする必要があり、1ppm〜20ppmであることが好ましく、2ppm〜10ppmであることがより好ましい。
【0050】
(TiO2
ガラス組成物中において、TiO2もまた紫外線を強く吸収するので、その含有量は少ない方が好ましい。1mm厚に換算した波長260nmの紫外線透過率を50%以上にするためには、TiO2の含有量は200ppm以下である必要があり、50ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることがさらに好ましい。
【0051】
(清澄剤)
また、本発明のガラス組成物には、清澄剤成分を含有させることができる。この清澄剤成分として、SO3,ClおよびFを例示する。
【0052】
これらの清澄剤成分のうち、SO3が好ましい。特に、高い清澄効果を得るためには、原料バッチにカーボンなどの還元剤を添加し、SO3を含ませるようにすることが好ましい。SO3の含有量としては、0〜1%であり、0.01〜1%とすることが好ましく、0.01〜0.2%とすることがより好ましい。
【0053】
Clは好適な清澄剤成分であるが、融解時にガラス融液から揮発することによりガラス物品に脈理が生じる虞がある。そのため、Clの含有量は1%以下とする必要があり、0.1%未満が好ましい。また、Clは揮発しやすい成分であるので、バッチにCl源を含ませたとしても、熔融後のガラス物品には含まれなかったり、含まれていても検出されない場合がある。
【0054】
Fも好適な清澄剤成分であるが、Clと同様に、融解時にガラス融液からの揮発によりガラス物品に脈理が生じる虞がある。そのため、Fは含ませたとしても、1%以下の含有量とする必要があり、0.1%未満が好ましい。また、Fは実質的に含有させないことがより好ましい。
【0055】
(その他の不純物)
また、その他の着色成分,紫外線吸収成分,あるいは蛍光の原因となる成分についても、含有量は少ない方が好ましい。そのような成分としては、V,Cr,Mn,Co,Ni,Cu,Sn,Sb,Te,As,Se,Pb,Bi,Ceおよび希土類からなる群の1種以上を陽イオンとする酸化物,ならびにAu,RhおよびPtを例示できる。1mm厚に換算した波長260nmの紫外線透過率を50%以上にするためには、これらの成分の合計量を200ppm以下にすることが必要である。
【0056】
(屈折率nd
本発明によるガラス組成物の屈折率ndは、1.519〜1.530であることが必要である。さらに、屈折率ndは、1.521〜1.528であることが好ましい。
【0057】
(アッベ数νd
本発明によるガラス組成物のアッベ数νdは、53〜60であることが必要である。さらに、本発明によるガラス組成物では、57〜60のアッベ数νdが得られやすい。
【0058】
(紫外線透過率)
本発明によるガラス組成物における、1mm厚に換算した波長260nmの紫外線透過率は、少なくとも50%である。紫外線透過率は、少なくとも70%であることが好ましく、少なくとも75%であることがより好ましく、少なくとも80%であることが最も好ましい。なお、本明細書における紫外線透過率は、後述する通りである。
【発明の効果】
【0059】
以上説明してきたように、本発明によるガラス組成物は、屈折率nd=1.519〜1.530と、従来のカバーガラスと光学的に代替可能である。さらに、紫外線を吸収する成分を制限したガラス組成であるので、好ましくは1mm厚に換算した波長260nmにおける紫外線透過率が少なくとも50%であるガラス組成物である。
本発明によるガラス組成物は、例えば、カバーガラスなどの用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
以下、本発明について、実施例・比較例を示して説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるわけではない。
【0061】
(試料ガラスの作製)
試料ガラスを以下の手順にしたがって作製した。ガラス成分の原料として、試薬特級の二酸化ケイ素,酸化アルミニウム,炭酸ナトリウム,炭酸カリウム,炭酸リチウム,酸化マグネシウム,炭酸カルシウム,炭酸ストロンチウム,炭酸バリウム,三酸化二鉄,酸化チタンおよび硫酸ナトリウムを用いた。上述した原料を混合して、所定のガラス組成となり、熔融されるガラス量が400gになるように、原料バッチ(以下バッチと呼ぶ)を調合した。
【0062】
調合したバッチは、白金ルツボの中で熔融と清澄を行った。まず、このルツボ中にバッチを投入し、1450℃に設定した電気炉で4時間保持してバッチを熔融し清澄した。その後、ガラス融液を炉外で鉄板上に、厚さが約6mmになるように流し出し、冷却固化してガラス体を得た。このガラス体に、引き続いて徐冷操作を施した。徐冷操作は、このガラス体を650℃に設定した別の電気炉の中で30分保持した後、その電気炉の電源を切り、室温まで冷却することによって行った。この徐冷操作を経たガラスを試料ガラスとした。
【0063】
[実施例1〜17,比較例1〜6]
以下、本発明の実施例および比較例における、ガラス組成と得られたガラスの光学特性を、表1〜3に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
(屈折率の測定)
各実施例および比較例における試料ガラスの屈折率測定は、以下のようにして行った。上述の試料ガラスを、5×5×15mmの直方体とし、6つの平面が光学研磨された試験片を作製した。この作製には、切断、研削、光学研磨など通常のガラス加工技術を適用した。この試片を、プルフリッヒ屈折率測定装置を用いて、波長587.6nm(d線)に対する屈折率nd、波長486.1nm(F線)に対する屈折率nFおよび波長656.3nm(C線)に対する屈折率nCを測定し、これらの値からアッベ数νdを計算した。屈折率ndおよびアッベ数νdを、表1〜3に併せて示す。
【0068】
(屈折率の推定)
本発明によるガラス組成物は、上述の基本ガラス組成範囲内であり、かつその屈折率ndが1.519〜1.530であればよい。しかし、ガラス組成の選び方によっては、屈折率が上記範囲を外れてしまう場合がある。また、基本ガラス組成範囲にあるガラス組成であっても、実際に行える実施例の数には限りがある。
【0069】
そこで本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、本発明のガラス組成範囲において、以下の式で与えられるパラメータαが0.54〜0.65になるようにガラス組成を選ぶことにより、屈折率nd=1.519〜1.530となることを見出した。
【数1】

なお、式中の各金属酸化物は、それぞれの質量%の値を取る。
【0070】
実施例および比較例におけるパラメータαを、表1〜3に併せて示す。また、パラメータαと屈折率ndの関係を図1に示す。図1より、パラメータαと屈折率ndが、正比例の関係にあることが分かる。
【0071】
また、本発明のガラス組成範囲であるガラス組成が決まれば、パラメータαを求めて、さらに図1に示した関係式から、屈折率ndを推定することも可能である。なお、この関係式における相関係数は0.99であり、パラメータαと屈折率ndとには、非常に強い相関関係のあることが分かる。
(数2)
d=0.096×α+1.4676
【0072】
(紫外線透過率測定)
各実施例の試料ガラスの紫外線透過率測定は、以下のようにして行った。上述した試料ガラスから、1辺が約3cm,厚み1mmの正方体であって、両側の主平面が光学研磨された試験片を作製した。この試験片を、可視紫外分光光度計(U−4100、日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、波長240〜400nmの透過率を測定した。その結果も表1〜3に示す。なお、本明細書では、波長260nmの透過率のことを、単に、透過率と表記する。
【0073】
(実施例1〜17と比較例1〜6の比較)
表1と2に示した通り、実施例1〜17のガラス組成においては、屈折率ndが1.519〜1.530の範囲内であり、アッベ数νdも53〜60の範囲内であった。また、いずれの実施例においても紫外透過率は80%以上であった。したがって本発明のガラス組成物は、好適な屈折率およびアッベ数と、非常に高い紫外線透過率をあわせ持つことが分かる。
【0074】
一方、比較例1〜5は、ガラス組成は請求項1に示された範囲内であるが、屈折率が範囲外の例である。
【0075】
(パラメータα)
上述したパラメータαが0.54〜0.65になるように選んだ実施例1〜17では、屈折率ndがいずれも1.519〜1.530となった。
特に、パラメータαが0.56〜0.63になるようにした実施例7〜17では、屈折率ndがいずれも1.522〜1.528となり、屈折率ndをより狭い範囲で限定することも可能であった。
一方、パラメータαが0.54〜0.65の範囲外である比較例1〜5では、屈折率ndがいずれも1.519〜1.530の範囲外であった。
【0076】
比較例6は特開平2−252636号公報に記載の実施例5の組成であるが、屈折率ndが1.506と小さく、これも本発明の範囲外である。
【0077】
したがって本発明では、ガラス組成を適切な範囲とすることによって、屈折率ndが1.519〜1.530であり、なおかつ非常に高い紫外線透過率有するガラス組成物が得られることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】ガラス組成から求まるパラメータαと屈折率ndの関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本ガラス組成として、質量%および質量百万分率で示して、
SiO2 60〜79%,
Al23 0%を超えて10%以下,
Li2O 0〜10%,
Na2O 5〜25%,
2O 0〜15%,
MgO 0〜10%,
CaO 0〜15%,
SrO 0〜15%,
BaO 0〜15%,
T−Fe23 0.5〜20ppm
(ただし、T−Fe23は、全ての鉄化合物をFe23に換算した、全酸化鉄含有量である),
TiO2 0〜200ppm
を含んでなるガラス組成物であって、
該ガラス組成物の屈折率ndが、1.519〜1.530であることを特徴とするガラス組成物。
【請求項2】
前記基本ガラス組成が、質量%および質量百万分率で示して、
SiO2 60〜75%,
Al23 0%を超えて5%以下,
Li2O 0〜 5%,
Na2O 5〜21%,
2O 0〜10%,
MgO 0%を超えて10%以下,
CaO 0%を超えて15%以下,
SrO 0〜15%,
BaO 0〜15%,
T−Fe23 0.5〜20ppm
(ただし、T−Fe23は、全ての鉄化合物をFe23に換算した、全酸化鉄含有量である),
TiO2 0〜200ppm
である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
前記基本ガラス組成が、質量%および質量百万分率で示して、
SiO2 60〜71%,
Al23 1〜 5%,
Li2O 0〜 5%,
Na2O 5〜15%,
2O 0〜10%,
MgO 0%を超えて8%以下,
CaO 0%を超えて11%以下,
SrO 0〜 5%,
BaO 0〜10%,
T−Fe23 0.5〜20ppm
(ただし、T−Fe23は、全ての鉄化合物をFe23に換算した、全酸化鉄含有量である),
TiO2 0〜200ppm
である、請求項2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
前記基本ガラス組成が、質量%および質量百万分率で示して、
SiO2 63〜71%,
Al23 1〜 4%,
Li2O 0〜 1%,
Na2O 8〜15%,
2O 0〜 1%,
MgO 2〜 6%,
CaO 5〜11%,
BaO 0%を超えて10%以下,
T−Fe23 0.5〜20ppm
(ただし、T−Fe23は、全ての鉄化合物をFe23に換算した、全酸化鉄含有量である),
TiO2 0〜200ppm
である、請求項3に記載のガラス組成物。
【請求項5】
前記屈折率ndが1.521〜1.528である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項6】
質量百万分率で示して、前記T−Fe23の含有率が1〜20ppmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項7】
質量百万分率で示して、前記T−Fe23の含有率が2〜10ppmである、請求項6に記載のガラス組成物。
【請求項8】
前記ガラス組成物が、清澄剤として、SO3,ClおよびFのうちの少なくとも1種類を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項9】
前記清澄剤が、質量%で示して、
SO3 0〜1%,
Cl 0〜1%,
F 0〜1%
である、請求項8に記載のガラス組成物。
【請求項10】
質量%で示して、前記Clを0%以上0.1%未満含んでなる、請求項9に記載のガラス組成物。
【請求項11】
質量%で示して、前記SO3を0.01〜1%含んでなる、請求項9に記載のガラス組成物。
【請求項12】
質量%で示して、前記SO3を0.01〜0.2%含んでなる、請求項11に記載のガラス組成物。
【請求項13】
前記ガラス組成物を厚さ1mmの板状とし、波長260nmにおける紫外線透過率が少なくとも50%である、請求項1〜12のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項14】
前記紫外線透過率が少なくとも70%である、請求項13に記載のガラス組成物。
【請求項15】
前記紫外線透過率が少なくとも80%である、請求項14に記載のガラス組成物。
【請求項16】
前記ガラス組成物のアッベ数νdが53〜60である、請求項1〜15のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載のガラス組成物からなるガラス物品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−137705(P2007−137705A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331872(P2005−331872)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】