説明

ガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物

【課題】耐衝撃性に優れ、耐熱性と低複屈折性を有するガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(i)メタクリレート単量体由来の繰り返し単位、(ii)ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位、及び(iii)酸無水物繰り返し単位を含有する共重合体であって、(iii)の(ii)に対するモル比が1より大きく、10以下の範囲にあり、且つ、該共重合体100重量部に対して残存する単量体の合計が0.5重量部以下であるメタクリル系共重合体(A):100重量部とガラス繊維(B):5〜100重量部とからなるガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、耐熱性と低複屈折性に優れたガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、又は、メタクリル酸メチルを主成分とした共重合体は、透明性、表面光沢性、機械的強度、成形性などに優れることから、自動車部品、電気関係部品、ディスプレイ等の広い分野で使用されている。
しかし、その耐衝撃性、耐熱変形性、成形寸法安定性は必ずしも充分ではなく、また線膨張係数も大きい為に、実際の使用環境温度が高い用途では、その形状安定性に乏しいことからその使用は制限を受けている。
そのため、現在までメタクリル酸メチル系樹脂の耐衝撃性、耐熱安定性、成形寸法安定性を向上させる研究が広く行われ、例えば、メタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸系共重合体が、従来のメタクリル樹脂と同等の優れた機械的性質、耐候性、透明性を保持するとともに、優れた耐熱性を有する樹脂として開発された。(特許文献1,2)
一般に、メタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸系共重合体の組成範囲は、メタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸=35〜90/5〜35/5〜30重量%であり、その構成単位であるスチレン/無水マレイン酸重量比が1以上である共重合体が開示されている。
【0003】
近年、液晶表示装置やプラズマディスプレイ、有機EL表示装置などのフラットパネルディスプレイ市場の著しい成長や、赤外線センサー、光導波路などの進歩に伴い、透明性に優れるだけでなく、耐熱性や光学特性(いわゆる低複屈折性)を有する光学材料が求められようになってきている。(特許文献3)
一方、例えば、自動車用部品としてのテールランプ、メーターカバー、太陽熱エネルギー利用の温水器カバー等など、透明性、耐熱性に加え耐衝撃性を要求される用途がある。
上記メタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸共重合体は、耐熱性に優れるものの、その複屈折値は、通常のPMMAよりも大きいという問題(特許文献4)、耐衝撃性が低いという問題があった(特許文献5)。耐衝撃性の改良方法としては、例えば、ガラス繊維を導入する方法などが開示されている。(特許文献5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭48−58045号公報
【特許文献2】特開昭55−102614号公報
【特許文献3】特許第2886893号公報
【特許文献4】WO2007/061041号公報
【特許文献5】特開平1−223152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、市場からは、耐熱性と低複屈折性を有し、且つ、耐衝撃性に優れる樹脂・樹脂組成物の開発が望まれている。
本発明は、耐衝撃性に優れ、成形加工時の熱安定性に優れ、耐熱性と低複屈折性を有するガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ある特定のメタクリル系共重合体が従来樹脂に対し極めて小さい複屈折性を有すること、及び、ガラス繊維と複合化して得られるガラス繊維強化メタクリル系樹脂が耐衝撃性に優れ、成形加工時の熱安定性に優れ、耐熱変形性・成形寸法安定性にも優れることを見出しなされた。
すなわち本発明は、
[1]下記メタクリル系共重合体(A)100重量部に対して、ガラス繊維(B)5〜100重量部とからなるガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物。
アクリル系共重合体(A):
下記式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:10〜70重量%、下記式(2)で表されるビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位:5〜40重量%、及び下記式(3)又は下記式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位:20〜50重量%を含有する共重合体であって、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位の含有量(A)と環状酸無水物繰り返し単位の含有量(B)のモル比(B/A)が、1より大きく、10以下の範囲にあり、且つ、該共重合体100重量部に対して残存する単量体の合計が0.5重量部以下であるメタクリル系共重合体。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中:Rは、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中:R、Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。lは1〜3の整数を示す。)
【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
(式中:R〜Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
【0014】
[2]メタクリル系共重合体(A)が、さらに、下記式(5)で表される芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:0.1〜5重量%を含有するメタクリル系共重合体からなる[1]に記載のガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物。
【0015】
【化5】

【0016】
(式中:Rは、水素、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。mは1〜3の整数、nは0〜2の整数を示す。)
【0017】
[3]メタクリル系共重合体(A)が、GPC測定法による重量平均分子量で10,000〜400,000、分子量分布で1.8〜3.0の範囲にあるメタクリル系共重合体からなることを特徴とする[1]又は[2]に記載のガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物。
[4]メタクリル系共重合体(A)が、メタクリレート単量体由来の繰り返し単位がメタクリル酸メチル、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位がスチレン、環状酸無水物繰り返し単位が無水マレイン酸、芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位がメタクリル酸ベンジルからそれぞれ誘導されるメタクリル系共重合体よりなることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物。
に関する。
【発明の効果】
【0018】
低複屈折性を有し、耐衝撃性に優れ、成形加工時の熱安定性に優れ、耐熱変形性・成形寸法安定性にも優れるガラス繊維強化メタクリル系樹脂を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[メタクリル系共重合体(A)]
本発明のメタクリル系共重合体(A)は、下記式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:10〜70重量%、下記式(2)で表されるビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位:5〜40重量%、及び下記式(3)又は下記式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位:20〜50重量%を含有する共重合体であって、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位の含有量(A)と環状酸無水物繰り返し単位の含有量(B)のモル比(B/A)が、1より大きく、10以下の範囲にあり、且つ、該共重合体100重量部に対して残存する単量体の合計が0.5重量部以下であるメタクリル系共重合体である。
【0020】
【化6】

【0021】
(式中:Rは、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)
【0022】
【化7】

【0023】
(式中:R、Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。lは1〜3の整数を示す。)
【0024】
【化8】

【0025】
【化9】

【0026】
(式中:R〜Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
【0027】
さらに好ましいメタクリル系共重合体(A)は、下記式(5)で表される芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:0.1〜5重量%を含有するメタクリル系共重合体である。
【0028】
【化10】

【0029】
(式中:Rは、水素、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。mは1〜3の整数、nは0〜2の整数を示す。)
【0030】
メタクリル系共重合体(A)において、式(1)で表される繰り返し単位は、メタクリル酸、及びメタクリル酸エステル単量体から誘導される。使用されるメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル;などが挙げられる。メタクリル酸、及びメタクリル酸エステルは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
これらメタクリル酸エステルのうち、アルキル基の炭素数が1〜7であるメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、得られたアクリル系共重合体の耐熱性や透明性が優れることから、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0031】
式(1)で表される繰り返し単位の含有割合は、透明性の観点から10〜70質量%、好ましくは25〜70質量%、より好ましくは40〜70質量%である。
式(2)で表される繰り返し単位は、芳香族ビニル単量体から誘導される。使用される単量体としては、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2−メチル−4−クロロスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α―メチルスチレン、cis−β−メチルスチレン、trans−β−メチルスチレン、4−メチル−α−メチルスチレン、4−フルオロ−α−メチルスチレン、4−クロロ−α−メチルスチレン、4−ブロモ−α−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2−フルオロスチレン、3−フルオロスチレン、4−フルオロスチレン、2,4−ジフルオロスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2−ブロモスチレン、3−ブロモスチレン、4−ブロモスチレン、2,4−ジブロモスチレン、α−ブロモスチレン、β−ブロモスチレン、2−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシスチレンなどが挙げられる。これらの芳香族ビニル単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
これらの単量体のうち、共重合が容易なことから、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0032】
式(2)で表される繰り返し単位の含有割合は、透明性、耐熱性の観点から5〜40質量%、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%である。
式(3)で表される環状酸無水物繰り返し単位は、無置換及び/又は置換無水マレイン酸から誘導される。使用される単量体としては、例えば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸、ジクロロ無水マレイン酸、ブロモ無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、フェニル無水マレイン酸、ジフェニル無水マレイン酸などが挙げられる。これらの単量体のうち、共重合が容易なことから、無水マレイン酸が好ましい。
また、式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位は、後述する繰り返し単位間での縮合環化反応により誘導され、例えば、無水グルタル酸などが挙げられる。
【0033】
本発明のメタクリル系共重合体(A)において、式(3)又は式(4)であらわされる環状酸無水物繰り返し単位は、空気中の湿気など外的環境により一部加水分解を受け開環する可能性がある。本発明の共重合体(a)では、光学的特性や耐熱性の観点から、その加水分解率は10モル%未満であることが望ましい。さらに5モル%未満であることが好ましく、1モル%未満であることがより好ましい。
ここで、加水分解率(モル%)は、{1−(加水分解後の環状酸無水物量(モル))/加水分解前の環状酸無水物量(モル)}×100で求められる。
【0034】
式(3)又は式(4)で示される環状酸無水物繰り返し単位の含有割合は、本発明のメタクリル系共重合体(A)が高い耐熱性と光学特性(特に、後述する位相差の制御)をより高度に達成するために、20〜50質量%、好ましくは20〜45質量%である。但し、本発明のメタリル系共重合体(A)中、式(2)で表されるビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位の含有量(A)と式(3)又は式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位の含有量(B)のモル比(B/A)は、好ましくは1より大きく、10以下であり、より好ましくは1より大きく、5以下である。
式(5)で表される繰り返し単位は、芳香族基を有するメタクリレート単量体から誘導される。使用される単量体としては、例えば、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸1−フェニルエチルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、メタクリル酸ベンジルが特に好ましい。
式(5)で示される繰り返し単位の含有割合は、本発明の効果である光学的特性(特に、光弾性係数を極小化する)を発現させる上で、0.1〜5質量%、好ましくは0.1〜4質量%、より好ましくは0.1〜3質量%である。
【0035】
本発明の共重合体は、残存する(共重合体の繰り返し単位を構成する)単量体の合計が、共重合体100重量部に対して0.5重量部以下であり、好ましくは0.4重量部以下、より好ましくは0.3重量部以下である。残存単量体の合計が、0.5重量部を超えると、成形加工時に熱時着色したり、成形品の耐熱・耐候性が低下するなど実用に適さない成形体が得られ問題である。本発明でいう残存揮発分量とは、先述した重合反応時に反応しなかった残存単量体、重合溶媒、副生水、及び副生アルコールの合計量をいう。
本発明のメタクリル系共重合体(A)のGPC測定法によるPMMA換算の重量平均分子量(Mw)は、10,000〜400,000、好ましくは40,000〜300,000、より好ましくは70,000〜200,000であり、その分子量分布(Mw/Mn)は1.8〜3.0、好ましくは1.8〜2.7、より好ましくは1.8〜2.5の範囲である。
本発明のメタクリル系共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、樹脂組成で任意に制御できるが、産業上の応用性の観点から、好ましくは120℃以上に制御される。より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは135℃以上に制御される。
【0036】
本発明のメタクリル系共重合体(A)の製造法は公知の懸濁重合、溶液重合、塊状重合等の重合方法を適用して製造でき、特に限定されない。例えば、特公昭63−1964号公報、特開昭60−147417号公報、特許第387964号公報、特開昭61−49325号公報などに記載されている方法等を用いることができる。メタクリル系共重合体(A)は、分子量、組成等がことなる2種以上のものを同時に用いることができる。
また、本発明のメタクリル系共重合体(A)は、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/メタアクリル酸共重合体等のスチレン系樹脂、ポリメタアクリル酸エステル系樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、環状オレフィン系樹脂、ノルボルネン系樹脂等の熱可塑性樹脂、およびフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などの少なくとも1種以上を混合することができる。
【0037】
[ガラス繊維]
本発明のメタクリル系樹脂組成物で用いるガラス繊維(B)は、通常のFRTP(ガラス繊維強化熱可塑性樹脂)に用いられているガラス繊維でよく、中でもEガラスで8〜20μm太さ程度のものが好適である。ガラス繊維を処理して用いる場合、カップリング剤については特に制限はないが、シラン系のものが好適であり、アミノシランで処理したガラス繊維は、他のカップリング剤で処理したものに比べて補強効果がより良好であった。
該ガラス繊維(B)の形態については、チョップド・ストランドでも、ローピングでもよく、また、分散型のペレットでも、あるいはメタクリル系樹脂組成物ペレットの押し出し軸方向に該ペレットの長さと同じ長さで含まれている長繊維のペレットでもよい。
【0038】
[ガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物]
本発明のガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物における、メタクリル系共重合体(A)ガラス繊維(B)との含有割合については、(A)成分100重量部に対し、(B)成分が5〜100重量部の範囲内にあることが必要である。
ガラス繊維(B)が5重量部未満では、満足できる耐衝撃性、剛性が得られない。またガラス繊維(B)が100重量部を超えると、成形加工が困難となる。
このようにして得られた本発明のガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物は必要に応じて着色剤、離型剤、外部潤滑剤、耐候性改良剤、酸化防止剤などの慣用の成形助剤を加え200〜300℃、好ましくは200〜280℃の樹脂温度において所定の形状に成形することができる。この成形加工は、射出成形法はもちろんのこと、押し出し成形法や圧縮成形法など任意の手段により行うことができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
本願発明に用いられる各測定値の測定方法は次のとおりである。
(a)アクリル系共重合体の解析
(1)繰り返し単位
H−NMR測定より、(i)メタクリレート単量体由来の繰り返し単位、(ii)ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位、(iii)芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位、及び(iv)酸無水物繰り返し単位を同定し、その存在量を算出した。
測定機器:ブルーカー株式会社製 DPX−400
測定溶媒:CDCl、又はd−DMSO
測定温度:40℃
【0040】
(2)ガラス転移温度
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン(株)製 Diamond DSC)を用いて、窒素ガス雰囲気下、α−アルミナをリファレンスとし、JIS−K−7121に準拠して、試料約10mgを常温から200℃まで昇温速度10℃/minで昇温して得られたDSC曲線から中点法で算出した。
(3)分子量
重量平均分子量、及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー(株)製 HLC−8220)を用いて、溶媒はテトラヒドロフラン、設定温度40℃で、市販標準PMMA換算により求めた。
【0041】
(b)光学特性評価
(1)光学フィルムサンプルの作製
(a)プレスフィルムの成型
真空圧縮成型機((株)神藤金属工業所製 SFV−30型)を用いて、大気圧下、260℃、で25分間予熱後、真空下(約10kPa)、260℃、約10MPaで5分間圧縮してプレスフィルムを成型した。
(b)延伸フィルムの成型
インストロン社製5t引張り試験機を用いて、延伸温度(Tg+20)℃、延伸速度(500mm/分)で一軸フリー延伸して延伸フィルムを成形した。延伸倍率は、100%、200%、及び300%で延伸した。
(2)複屈折の測定
大塚電子製RETS-100を用いて、回転検光子法により測定を行った。複屈折の値は、波長550nm光の値である。複屈折(Δn)は、以下の式により計算した。
Δn=nx-ny
(Δn:複屈折、nx:伸張方向の屈折率、ny:伸張方向と垂直な屈折率)
複屈折(Δn)の絶対値(|Δn|)は、以下のように求めた。
|Δn|=|nx-ny|
【0042】
(3)位相差の測定
<面内の位相差>
大塚電子(株)製RETS-100を用いて、回転検光子法により波長400〜800nmの範囲について測定を行った。
複屈折の絶対値(|Δn|)と位相差(Re)は以下の関係にある。
Re=|Δn|×d
(|Δn|:複屈折の絶対値、Re:位相差、d:サンプルの厚み)
また、複屈折の絶対値(|Δn|)は以下に示す値である。
|Δn|=|nx-ny|
(nx:延伸方向の屈折率、ny:面内で延伸方向と垂直な屈折率)
【0043】
<厚み方向の位相差>
王子計測機器(株)製位相差測定装置(KOBRA−21ADH)を用いて、波長589nmにおける位相差を測定し、得られた値をフィルムの厚さ100μmに換算して測定値とした。
複屈折の絶対値(|Δn|)と位相差(Rth)は以下の関係にある。
Rth=|Δn|×d
(|Δn|:複屈折の絶対値、Rth:位相差、d:サンプルの厚み)
また、複屈折の絶対値(|Δn|)は以下に示す値である。
|Δn|=|(nx+ny)/2-nz|
(nx:延伸方向の屈折率、ny:面内で延伸方向と垂直な屈折率、nz:面外で延伸方向と垂直な厚み方向の屈折率)
(理想となる、3次元方向について完全等方的等方性であるフィルムでは、面内位相差(Re)、厚み方向位相差(Rth)ともに0となる。)
【0044】
(4)光弾性係数の測定
Polymer Engineering and Science1999, 39, 2349−2357に詳細について記載のある複屈折測定装置を用いた。レーザー光の経路にフィルムの引張り装置を配置し、23℃で伸張応力をかけながら複屈折を測定した。伸張時の歪速度は50%/分(チャック間:50mm、チャック移動速度:5mm/分)、試験片幅は6mmで測定を行った。複屈折の絶対値(|Δn|)と伸張応力(σ)の関係から、最小二乗近似によりその直線の傾きを求め光弾性係数(C)を計算した。計算には伸張応力が2.5MPa≦σ≦10MPaの間のデータを用いた。
=|Δn|/σ
|Δn|=|nx-ny|
(C:光弾性係数、σ:伸張応力、|Δn|:複屈折の絶対値、nx:伸張方向の屈折率、ny:伸張方向の垂直な屈折率)
【0045】
(c)樹脂組成物の評価
(1)ガラス繊維含有量
各種FRTPをサンプリングし、これを溶媒(例えば、本発明品ではテトラヒドロフラン)に溶かし、不溶のガラス繊維とメタクリル系樹脂を分離し、該ガラス繊維を秤量してその含有量を算出する。
(2)成形収縮率
150mm×150mm、厚さ3mmの平板を射出成形し、該成形品の寸法と対応する金型の寸法とを比較して収縮率を算出する。
(3)耐熱変形性
ASTM−D648準拠
(4)曲げ強度
ASTM−D790準拠
[メタクリル系共重合体]
メタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸
【0046】
[合成例1]
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入ノズル、原料溶液導入ノズル、開始剤溶液導入ノズル、及び重合溶液排出ノズルとを備えたジャケット付ガラス反応器(容量1L)を用いた。重合反応器の圧力は、微加圧、反応温度は100℃に制御した。
メタクリル酸メチル(MMA)518g、スチレン(St)48g、無水マレイン酸(MAH)384g、メチルイソブチルケトン240g、n−オクチルメルカプタン1.2gを混合した後、窒素ガスで置換して原料溶液を調製した。2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)を0.364gをメチルイソブチルケトン12.96gに溶解した後、窒素ガスで置換して開始剤溶液を調整した。
原料溶液はポンプを用いて6.98ml/minで原料溶液導入ノズルから導入した。また、開始剤溶液はポンプを用いて0.08ml/minで開始剤溶液導入ノズルから導入した。30分後、重合溶液排出ノズルから抜き出しポンプを用いて425ml/hrの一定流量でポリマー溶液を排出した。
【0047】
ポリマー溶液は、排出から1.5時間分は初流タンクに分別回収した。排出開始から、1.5時間後から2.5時間のポリマー溶液を本回収した。得られたポリマー溶液を、貧溶媒であるメタノールに滴下し、沈殿、精製した。真空下、130℃で2時間乾燥して目的とするメタクリル系共重合体を得た。
組成:MMA/St/MAH=61/11/27wt%
分子量:Mw=19.5×10;Mw/Mn=2.23
Tg:141℃
メタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸/メタクリル酸ベンジル
【0048】
[合成例2]
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入ノズル、原料溶液導入ノズル、開始剤溶液導入ノズル、及び重合溶液排出ノズルとを備えたジャケット付ガラス反応器(容量1L)を用いた。重合反応器の圧力は、微加圧、反応温度は100℃に制御した。
メタクリル酸メチル(MMA)518g、スチレン(St)48g、メタクリル酸ベンジル(BzMA)9.6g、無水マレイン酸(MAH)384g、メチルイソブチルケトン240g、n−オクチルメルカプタン1.2gを混合した後、窒素ガスで置換して原料溶液を調製した。2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)を0.364gをメチルイソブチルケトン12.96gに溶解した後、窒素ガスで置換して開始剤溶液を調整した。
原料溶液はポンプを用いて6.98ml/minで原料溶液導入ノズルから導入した。また、開始剤溶液はポンプを用いて0.08ml/minで開始剤溶液導入ノズルから導入した。30分後、重合溶液排出ノズルから抜き出しポンプを用いて425ml/hrの一定流量でポリマー溶液を排出した。
【0049】
ポリマー溶液は、排出から1.5時間分は初流タンクに分別回収した。排出開始から、1.5時間後から2.5時間のポリマー溶液を本回収した。得られたポリマー溶液を、貧溶媒であるメタノールに滴下し、沈殿、精製した。真空下、130℃で2時間乾燥して目的とするメタクリル系共重合体を得た。
組成:MMA/St/BzMA/MAH=61/12/1/27wt%
分子量:Mw=18.8×10;Mw/Mn=2.08
Tg:142℃
【0050】
[合成例3]
合成例2において、メタクリル酸メチル499g、スチレン42g、メタクリル酸ベンジル48g、無水マレイン酸371gに変更した以外は、合成例2と同様の操作を行ってメタクリル系共重合体を得た。
組成:MMA/St/BzMA/MAH=60/11/5/24wt%
分子量:Mw=20.2×10;Mw/Mn=2.36
Tg:138℃
メタクリル酸メチル/スチレン/メタクリル酸/無水グルタル酸
【0051】
[合成例4]
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入ノズル、原料溶液導入ノズル、開始剤溶液導入ノズル、及び重合溶液排出ノズルとを備えたジャケット付ガラス反応器(容量1L)を用いた。重合反応器の圧力は、微加圧、反応温度は100℃に制御した。
メタクリル酸メチル900g、スチレン36g、メタクリル酸ベンジル48g、メタクリル酸(MAA)216g、メチルイソブチルケトン240g、n−オクチルメルカプタン1.2gを混合した後、窒素ガスで置換して原料溶液を調製した。2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)を0.364gをメチルイソブチルケトン12.96gに溶解した後、窒素ガスで置換して開始剤溶液を調整した。
原料溶液はポンプを用いて6.98ml/minで原料溶液導入ノズルから導入した。また、開始剤溶液はポンプを用いて0.08ml/minで開始剤溶液導入ノズルから導入した。30分後、重合溶液排出ノズルから抜き出しポンプを用いて425ml/hrの一定流量でポリマー溶液を排出した。
【0052】
ポリマー溶液は、排出から1.5時間分は初流タンクに分別回収した。排出開始から、1.5時間後から2.5時間のポリマー溶液を本回収した。得られたポリマー溶液を、貧溶媒であるメタノールに滴下し、沈殿、精製した。真空下、130℃で2時間乾燥して前駆体を得た。該前駆体を脱揮装置を附帯したラボプラストミルで加熱処理(処理温度:250℃、真空度:133hPa(100mmHg))して目的とするメタクリル系共重合体を得た。
組成:MMA/St/BzMA/MAA/無水グルタル酸
=70/5/4/4/21wt%
分子量:Mw=11.4×10;Mw/Mn=2.40
Tg:128℃
これらの重合結果を表1に示す。
【0053】
[比較合成例1]
合成例1において、メタクリル酸メチル960gを用いた以外は、合成例1と同様の操作を行ってメタクリル系重合体を得た。
組成:MMA=100wt%
分子量:Mw=10×10;Mw/Mn=1.89
Tg:121℃
【0054】
[比較合成例2]
合成例1において、メタクリル酸ベンジルを用いることなく、メタクリル酸メチル768g、スチレン144g、無水マレイン酸48gに変更した以外は、合成例1と同様の操作を行ってメタクリル系共重合体を得た。
組成:MMA/St/MAH=76/17/7wt%
分子量:Mw=13.4×10;Mw/Mn=2.01
Tg:128℃
これらの重合結果を表1に示す。
【0055】
[評価例1〜4、比較評価例1,2]
合成例1〜4、及び比較合成例1、2で得られたアクリル系共重合体を用いて、前述の方法に従いプレスフィルムを成型した。該プレスフィルムから前述の方法に従い100%延伸フィルムを成型し、その光学特性を評価した。測定結果を表2に示す。
本発明のメタクリル系共重合体は、従来のメタクリル酸メチル/スチレン/無水マレイン酸共重合体(比較合成例2)と異なり、複屈折値が極小化されており、耐熱性も高いことが判る。
【0056】
[ガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物]
[実施例1〜4、比較例1、2]
合成例1〜4、比較合成例2で得られたメタクリル系共重合体をベント付押出機において、樹脂温度が230℃になるように押出し、該ベント部より定量フィード装置により6mm長さのガラス繊維チョップド・ストランドを添加し、ペレタイズして、ガラス繊維含有量が20重量%であるガラス繊維強化メタクリレート系共重合体樹脂組成物を得た。
【0057】
[比較例3]
スチレン単位70重量%とアクリロニトリル単位30重量%とからなる平均分子量25万の共重合体を用い、実施例1と同様の方法でガラス繊維含有量が20重量%のガラス繊維強化樹脂組成物を作成し、その物性を測定した。
【0058】
[比較例4]
スチレン単位90重量%と無水マレイン酸単位10重量%とからなる平均分子量22万の共重合体を用い、実施例1と同様の方法でガラス繊維含有量が20重量%のガラス繊維強化樹脂組成物を作成し、その物性を測定した。
【0059】
[比較例5]
スチレン単位92重量%とアクリル酸単位8重量%とからなる平均分子量約23万の共重合体を用い、実施例1と同様の方法でガラス繊維含有量が20重量%のガラス繊維強化樹脂組成物を作成し、その物性を測定した。
実施例1〜4、比較例1〜5の物性を表3に示す。
表3から本発明のガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物はいずれも、従来のFRTPに比較して、衝撃性に優れ、耐熱変形性、寸法精度の明らかによい成形品が得られ、さらに低複屈折性を有するという特徴があることが判る。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物は、自動車内装飾部品、例えば、ステレオやスピードメーターなどを取り付けるインストルメントパネルなど、実用耐熱が必要とされる部分に好適に用いられる。さらに、優れた耐衝撃性と耐熱変形性・成形寸法安定性により、様々な機能部品へ適用できる。特に、低複屈折性を有することから耐熱を必要とするメーターパネル、テールランプレンズなどにも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記メタクリル系共重合体(A)100重量部に対して、ガラス繊維(B)5〜100重量部とからなるガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物。
アクリル系共重合体(A):
下記式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:10〜70重量%、下記式(2)で表されるビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位:5〜40重量%、及び下記式(3)又は下記式(4)で表される環状酸無水物繰り返し単位:20〜50重量%を含有する共重合体であって、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位の含有量(A)と環状酸無水物繰り返し単位の含有量(B)のモル比(B/A)が、1より大きく、10以下の範囲にあり、且つ、該共重合体100重量部に対して残存する単量体の合計が0.5重量部以下であるメタクリル系共重合体。
【化1】

(式中:Rは、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)
【化2】

(式中:R、Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。lは1〜3の整数を示す。)
【化3】

【化4】

(式中:R〜Rは、それぞれ同一でも、異なっていても良く、水素、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
【請求項2】
メタクリル系共重合体(A)が、さらに、下記式(5)で表される芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位:0.1〜5重量%を含有するメタクリル系共重合体からなる請求項1に記載のガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物。
【化5】

(式中:Rは、水素、ハロゲン、水酸基、アルコキシ基、ニトロ基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。mは1〜3の整数、nは0〜2の整数を示す。)
【請求項3】
メタクリル系共重合体(A)が、GPC測定法による重量平均分子量で10,000〜400,000、分子量分布で1.8〜3.0の範囲にあるメタクリル系共重合体からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
メタクリル系共重合体(A)が、メタクリレート単量体由来の繰り返し単位がメタクリル酸メチル、ビニル芳香族単量体由来の繰り返し単位がスチレン、環状酸無水物繰り返し単位が無水マレイン酸、芳香族基を有するメタクリレート単量体由来の繰り返し単位がメタクリル酸ベンジルからそれぞれ誘導されるメタクリル系共重合体よりなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス繊維強化メタクリル系樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−1527(P2011−1527A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147938(P2009−147938)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】