説明

ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物

本発明は、式(I):Ca(10.5-1.5x)Gax(PO47[式中、0<x<1である]で表される、ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物及びその塩、それらの水和物、並びにそれらの混合物に関する。本発明はさらに、かかる化合物の製造のための固体状態での製造方法及び溶液中での製造方法に関し、並びに、生体材料の製造、特に自己凝結性リン酸カルシウムセメント(CPC)の製造のためのそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物(phosphocalcic compound)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
骨は、バイオポリマー、特にコラーゲン、及び、(Ca,Mg,Na,M)10(PO4,CO3,HPO46(OH,Cl)2と見積もられる、炭酸ヒドロキシアパタイトとして同定された無機成分を含む混合物である。
【0003】
個体の骨活性の脱制御は、多くの骨病変、例えば骨粗しょう症、パジェット病、又は骨破壊性腫瘍の原因である。特に、ヒトの平均余命の上昇を考慮すると、骨粗しょう症は公衆における健康問題となり、多くの研究がそれを治療するためになされている。検討されている骨病変は、破骨細胞活性による、骨再形成における不安定性によって引き起こされるため、想定される治療方法の一つは、破骨細胞活性を低減させ、骨材料の分解速度を低下させることにある。
【0004】
ガリウムは、骨格組織、特に骨沈着及び再構成領域に凝縮されることが以前から知られてきた(例えば、Dudley and Maddox, 1949; Nelson et al., 1972)。しかし、骨細胞によるガリウムの取り込みの機構についてほとんど情報が存在せず、骨におけるガリウム蓄積の機構がほとんど知られていないままであった。ガリウムは、インビトロで合成ヒドロキシアパタイトに吸着し、結果的にヒドロキシアパタイトの結晶化及び恐らくは分解が減少することが知られている(Donnelly and Boskey, 1989; Blumenthal and Cosma, 1989)。近年の研究において、Korbas et al., 2004は、骨組織が、インビトロにおいて、ガリウムをブルシャイト(brushite)に類似した局所構造と一緒にする実験を報告した。開示されている、ガリウムがドープされた(gallium doped)モデル化合物は、Ca/Pモル比が1(ACP及びブルシャイト)及び1.66(AHP)であった。
【0005】
多くの試験は、その吸収抑制活性を通じて、ガリウムが骨吸収を阻害し、及び血漿中のカルシウムを低減させることを示してきた(例えば、Warrell et al., 1984, 1985; Warrell and Bockman, 1989; Bernstein, LR. 1998)。例えば、US 4,529,593は、ガリウム化合物、例えば硝酸ガリウムを用いて、骨からのカルシウムの過剰な消失に対して効果的な方法を開示している。カルシウムの過剰な消失は、低カルシウム血症、骨粗しょう症又は副甲状腺機能こう進症につながり得る。ガリウム化合物は、静脈内投与、皮下投与又は筋肉内投与される。
【0006】
その吸収抑制活性に基づいて、ガリウムはまた、悪性の低カルシウム血症の臨床治療に(Warrell and Bockman, 1989)、及び骨のパジェット病の臨床治療に(Bockman and Bosco, 1994; Bockman et al., 1989, 1995)使用されている。ガリウムはまた、骨溶解並びに多発性骨髄腫及び骨転移に関連する骨痛の抑制において臨床効率を示し(Warrell et al., 1987, 1993)、骨粗しょう症の治療法として提案されている(Warrell, 1995)。抗菌剤としてのインビトロでの効率も報告されている(Valappil, 2008)。
【0007】
硝酸ガリウムは現在、ガナイト(Ganite)(商標)として市販されており、十分な水分補給に応答しない、明らかに症候性の癌関連性低カルシウム血症の治療のために、当該製品は静脈内注射で投与される。FDAで承認されている、ガナイト(商標)のラベル表示に従って、硝酸ガリウムは、骨からのカルシウム吸収を阻害することによって、或いは骨代謝回転の増大を減少させることによって、低カルシウム血症性作用を発揮する。実際、ガリウムは、骨細胞に対する細胞毒性作用を生じることなく、骨吸収に関与する破骨細胞に対して阻害作用を有し、骨成長に関与する骨芽細胞に対して増大作用を有し得る(Donnelly, R., et al., 1993)。
【0008】
式Ca9Ga(PO47で表される化合物は、Golubev et al., 1990によって報告されており、X線回折及びIRスペクトルを通じて研究された。
【0009】
技術的課題
それに存在する全身投与経路の結果として、ガリウムは、骨材料に対する低レベルの吸収を示し、副作用の潜在性が高い。
【0010】
したがって、特に骨疾患、例えば骨粗しょう症、パジェット病、又は骨破壊性腫瘍の治療のために、1又は2以上の上記欠点を克服する、ガリウムの代替投与経路を提供する必要性が存在する。治療必要性に従った、用量及び持続時間の観点から、ガリウム放出の正確なチューニングを可能とする経路の提供について特に関心が存在する。
【発明の概要】
【0011】
発明の概要
本発明は、新規のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物を提供する。本発明者らは、驚くべきことに、Ga(III)イオンをリン酸カルシウム化合物中に包含させることが可能であることを示す。さらに、かかるガリウム修飾されたリン酸カルシウム化合物がインサイチュ(in situ)においてガリウムを放出可能であることを示す。
【0012】
最終的に、Ca/P比が1.28〜1.3であるガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物の使用は、最適なガリウム放出特性を可能とする。実際、水溶性の高いリン酸カルシウム化合物、例えばガリウムがドープされたブルシャイト(Ca/P=1)は、速やかなガリウム放出を示し、したがって過剰投与量の危険性がある、短い活性スパンを示すことが予想される。一方で、わずかに水溶性であるリン酸カルシウム化合物、例えばガリウムがドープされたヒドロキシアパタイト(HAP)(Ca/P=1.66)は、任意の治療効果のためには不十分であり得るガリウム放出を示すことが予想される。
【0013】
したがって、ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物は、生体材料、例えば自己凝結性(self setting)リン酸カルシウムセメント(calcium phosphate cement)(CPC)に含まれ得る。かかる生体材料は、骨細胞による分解時において、それらがインサイチュでガリウムを局所的に放出することができる場所であって、それらを必要とする部位の近傍へ、注射により生体内へ直接的に導入され得る。この点において、長期間にわたる緩やかなガリウム放出を得ることができた。
【0014】
したがって、本発明のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物は、骨疾患の治療のために有用な生体材料の製造のために特に好適である。
【0015】
第二の態様において、本発明はさらに、新規のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物の製造方法を提案する。
【0016】
本発明のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物の製造のための第1の製造方法は、固体状態での製造方法であって、リン酸カルシウムを炭酸カルシウム及びガリウム化合物の存在下で焼結する前記製造方法である。
【0017】
本発明のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物の製造のための第2の製造方法は、溶液中での製造方法あって、ガリウム化合物を含む水溶液からリン酸カルシウムを析出させる前記製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例1に従って製造された、ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物(上部)対Gaの無いTCP(下部)のX線マイクロラジオグラフィーであり、本発明の化合物のより高い放射線不透性を示す。
【図2】図2は、4mmのプローブヘッド及びZrO2のローターを用いて、7.0Tで記録された、異なる値のxにおける、Ca10.5-1.5xGax(PO47の粉末試料の31P MAS NMRスペクトルである。
【図3】図3は、17.6Tで記録された、0.17<x<0.71における、Ca10.5-1.5xGax(PO47の粉末試料の71Gaエコー MAS NMRスペクトルである。
【図4】図4は、初期Ga/P比0.07において単離された、ガリウムがドープされたCDAの粉末試料の、7.0Tで記録された、31P MAS NMRスペクトルである。1000℃にて焼成した後、Ca9.75Ga0.5(PO47を得た。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明との関連において、用語「リン酸カルシウムの(phosphocalcic)」又は「リン酸カルシウム(calcium phosphate)」は、カルシウムイオン(Ca2+)を、オルトホスフェート(PO43-)、メタホスフェート又はピロホスフェート(P274-)と共に含み、及び場合により他のイオン、例えば水酸化物イオン又は水素イオンを含む無機物のことである。
【0020】
具体的なリン酸カルシウム化合物は、リン酸三カルシウム(TCP)(Ca3(PO42)、アパタイト(Ca5(PO43X、ここでXはF、Cl、OHである)及び余分なイオンが主に水酸化物イオンであるヒドロキシアパタイト(HA)である。
【0021】
他のリン酸カルシウム化合物は、アモルファスのリン酸カルシウム(ACP)(Cax(PO4y・H2O)、リン酸一カルシウム一水和物(monocalcium phosphate monohydrate)(MCPM)(CaH4(PO42・H2O)、リン酸二カルシウム二水和物(dicalcium phosphate dihydrate)(DCPD)(CaHPO4・2H2O)、別名ブルシャイト(brushite)、無水リン酸二カルシウム(dicalcium phosphate anhydrous)(DCPA)(CaHPO4)、別名モネタイト(monetite)、析出した又はカルシウムを欠損したアパタイト(calcium-deficient apatite)(CDA)(Ca,Na)10(PO4,HPO46(OH)2、及びリン酸四カルシウム(tetracalcium phosphate)(TTCP)(Ca429)、別名ヒルゲンストカイト(hilgenstockite)である。
【0022】
本明細書において使用される用語「生体適合性(biocompatible)」は、宿主に対して実質的に有害な応答を引き起こさない材料を意味する。
【0023】
用語「生体吸収性(bioresorbable)」は、インビボにおいて吸収される(resorbed)ための、材料の能力のことである。本発明との関連において、「完全な(full)」吸収(resorption)は、有意な細胞外フラグメントが残存しないことを意味する。吸収工程は、体液、酵素又は細胞の作用を通じた、元のインプラント材料の排除を含む。
【0024】
吸収されたリン酸カルシウムは、例えば、骨芽細胞の作用を通じて、又は生体内で再利用されることによって新規の骨無機質として再堆積(redeposit)され得るか、或いは排泄される。「強力な生体吸収性」は、大部分のリン酸カルシウムインプラントが1〜5年間吸収されることを意味する。この遅延は、当該リン酸カルシウムインプラントの固有の特徴に依存するのみならず、インプラントされた部位、患者の年齢、インプラントの初期安定性などにも依存する。
【0025】
本発明との関連において、「リン酸カルシウムセメント」(CPC)は、水又は水溶液の存在下で凝結及び硬化する追加のカルシウム塩と最終的に一緒になった、1又は2以上のリン酸カルシウムを含むか又はから成る固体複合材料である。当該用語は、固体材料と水又は水溶液との混合により生じるペースト、及び凝結後に得られる硬化材料のことである。当該セメントの特性、例えば凝結時間、粘度を調節するために、粘着力(cohesion)又は膨潤時間を減少させるために、及び/又は大孔げき(macroporosity)を誘導するために、及び最終的に硬化された製造物に弾性を付与するために、他の添加剤が少量含まれ得る。
【0026】
本発明との関連において、セメントの「凝結(setting)」は、周囲温度における、すなわち環境、室温又は体温による、セメントのハンドオフ(hand-off)自己硬化を意味する。
【0027】
本発明との関連において、「注射可能セメント」又は「注射に好適な形態のセメント」は、直径数ミリ、好ましくは1〜5mmの、より好ましくは1〜3mmの、最も好ましくは2〜3mmの針を通じて押し出され得るセメントペーストのことである。注射可能セメントにおける特に重要なパラメーターは、大きな粒子が存在しないこと、好適な粘度、及びインビボにおける好適な凝結時間(37℃)を含む。
【0028】
ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物
第一の態様において、本発明は、式(I):
【0029】
【化1】

【0030】
[式中、0<x<1である]
で表される、ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物及びその塩、それらの水和物、並びにそれらの混合物に関する。
【0031】
当該塩は特に、カルシウムが部分的に他の原子、例えばZn、Cu、Mg、Na、Kによって置換される、式(I)の化合物であり得る。
【0032】
好ましくは、式(I)におけるxの値は0<x≦0.85であり、より好ましくは0<x≦0.82である。
【0033】
本発明の具体的な実施形態において、本発明のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物は、Ca10.125Ga0.25(PO47、Ca9.75Ga0.5(PO47、Ca9.375Ga0.75(PO47及びCa9.27Ga0.82(PO47から成る群から選択される。
【0034】
ガリウムドーピング及びリン酸カルシウム支持体の存在は、粉末X線回折、並びに31P及び71Ga固体NMRによって証明され、後者の2つの方法は両方を示す。実際、ガリウムによるカルシウムの交換により、ガリウムと結合したリン酸基に関連する31P NMRラインの高磁場シフトが生じ、一方でガリウムの配位構造は71Gaのケミカルシフト値から得ることができる。
【0035】
任意の理論と結び付けられることを望まないが、結晶格子中のGa(III)イオンによるCa(II)イオンの交換によって、及び陽イオン電荷における差異を補うための空格子点(vacancy)の生成によって、ガリウムイオンが少なくとも部分的にリン酸カルシウム化合物中に組み込まれると本発明者は考える。Ga(III)イオンのイオン半径がCa(II)イオンのものよりも小さいために、交換反応は単位格子の縮小をもたらすと予想される。したがってガリウムがドープされた当該化合物は、変形した構造で存在し得る。
【0036】
好ましいガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物は、β−TCP構造又はCDA構造に基づく。
【0037】
ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物は、完全に又は部分的にアモルファスであり得るが、好ましくは部分的に結晶質である。特に、リン酸カルシウム化合物は、1又は2以上の結晶相を含み得る。
【0038】
ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物の結晶相は特に、ベータ型リン酸三カルシウム(β−TCP)に関し得る(Dickens, B. et al., 1974; Yashima, M. et al., 2003)。
【0039】
リン酸三カルシウム(TCP)は、式Ca3(PO42であり、オルトリン酸カルシウム(orthophosphate)第三リン酸カルシウム(tertiary calcium phosphate)、三塩基性リン酸カルシウム(tribasic calcium phosphate)、又は骨灰としても知られている。β−TCP型は、空間群R3cで結晶化し、以下の格子パラメーターを有する:a=10.435Å、c=37.403Å、α=90°;β=90°及びγ=120°。
【0040】
ガリウムは、好ましくはリン酸カルシウム化合物の結晶格子中に含まれる。この場合、ガリウムイオンがカルシウム部位を占有することが特に好ましい。
【0041】
しかし、低温で得られたガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物は、表面に吸着されたガリウム種を含み得る。一般的に、かかる化合物の加熱により、ガリウムは結晶構造へと拡散される。
【0042】
ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物の製造
第二の態様において、本発明は、上記のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物の製造方法に関する。
【0043】
実際、2つの異なる製造方法、固体状態での製造方法及び溶液中での製造方法が開発され、後述される。
【0044】
したがって、本発明の更なる目的は、式(I)のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物の製造のための固体状態での製造方法であって、以下のステップ:
(a)適量のガリウム化合物の存在下で、リン酸カルシウムを炭酸カルシウムと接触させ;
(b)当該混合物を焼結してガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物を形成し;そして
(c)前記ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物を回収すること
を含む、前記方法に関する。
【0045】
前記製造方法は、好ましくは水の非存在下で行われる。したがって、無水リン酸カルシウム、例えばDCPA若しくはDCPD、又はそれらの混合物の使用が好ましい。同一の理由のため、反応剤は好ましくは無水化合物である。
【0046】
炭酸カルシウムは、分解して二酸化炭素を生成し、したがって試料中への所望ではないアニオンの混入を制限する。
【0047】
前記製造方法のステップ(a)において使用される好ましいガリウム化合物は、非揮発性であって、周囲条件で安定であり、特に酸化ガリウム及び焼結中に酸化物へと変換されるもの、例えば水酸化ガリウム、を含むものから選択される。
【0048】
ガリウムがその酸化物の形態で含まれる場合、反応は以下の等式で示され得る:
【0049】
【化2】

【0050】
[式中、0<x<1である]。
【0051】
前記製造方法は、好ましくは化学量論量の反応剤を用いて行われる。
【0052】
ステップ(b)における温度は、好ましくは反応剤の融解温度近傍で又はそれを超える温度で選択される。一般的に、750℃〜1570℃、好ましくは800℃〜1550℃、特に900℃〜1360℃、特に1000℃が好適である。
【0053】
好ましくは、ステップ(b)は、完全に焼結するまで、通常は12時間超、より好ましくは24時間以上で行われる。
【0054】
本発明のさらなる目的は、本発明の固体状態での製造方法に従って得られうる化合物に関する。
【0055】
前記製造方法は、前記製造方法条件下で形成される結晶形態の、修飾されたリン酸カルシウム化合物を生成し得る。より具体的には、上記製造方法は、β−TCPに類似した構造を有する、ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物を生成し得る。かかる構造は、R3c空間群を示し、Ga含量に応じて以下の範囲で変化する格子パラメーターを有する:a=10.31〜10.44Å、c=37.15〜37.5Å、α=90°;β=90°及びγ=120°。
【0056】
本発明の更なる目的は、ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物の製造のための溶液中での製造方法に関する。
【0057】
したがって、本発明はまた、好ましくはpHを低下させることにより、ガリウム、カルシウム及びリン酸イオンを含む水溶液から析出させることによって、上記のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物を提供するための製造方法に関する。
【0058】
より具体的には、本発明のガリウムがドープされた化合物の製造方法は、以下の:
(a)カルシウム化合物及び好適量のガリウム化合物を含有する水溶液を調製するステップ;
(b)ステップ(a)で得られた溶液のpHを、必要であれば、8.5〜12、好ましくは9〜11、より好ましくは9〜9.5に調節するステップ;
(c)前記溶液に好適量のリン酸化合物を添加するステップ;
(d)前記溶液のpHを7.0〜12、好ましくは7.5〜9、より好ましくは7.5〜8に調整することによってガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物を析出させるステップ;そして
(e)前記析出したガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物を溶液から分離するステップ
から成るステップを含む。
【0059】
ステップ(a)の溶液を調製するために使用される前記カルシウム化合物及びガリウム化合物は、種々の水溶性化合物、例えば塩又は錯体(complex)から選択され得る。
【0060】
好ましくは、ステップ(a)における前記ガリウム化合物は、酢酸ガリウム、炭酸ガリウム、クエン酸ガリウム、塩化ガリウム、臭化ガリウム、ヨウ化ガリウム、フッ化ガリウム、ギ酸ガリウム、硝酸ガリウム、シュウ酸ガリウム、硫酸ガリウム、酸化ガリウム又は水酸化ガリウム、及びそれらの水和物から成る群から選択される。硝酸ガリウムが、その高い溶解性の観点から特に好ましい。
【0061】
好ましくは、前記カルシウム化合物は、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム及びフッ化カルシウム、並びにそれらの水和物から成る群から選択される。ガリウム化合物に関して、硝酸カルシウム、特に硝酸カルシウム四水和物が、その高い溶解性のために特に好ましい。
【0062】
製造された化合物純度を向上させるために、前記製造方法において使用される溶液を調製するために、超純水を使用することが好ましい。「超純水」は、少なくとも18MΩ cm抵抗率を有する水を意味する。
【0063】
ステップ(b)は、pH調節剤、例えば塩基又は酸を添加することによって都合よく行われる。更なるイオンを導入しない、強塩基及び酸が好ましい。好適なpH調節剤はアンモニア溶液である。ステップ(c)において使用されるリン酸化合物は、想定されるガリウムがドープされた化合物のリン酸アニオンを含有する任意の溶解性塩又は錯体であり得る。
【0064】
かかる塩は、好都合にはリン酸水素塩である。他のカチオンとのカルシウムの交換による、化合物の任意の混入を避け、したがって化合物を高い純度を確保するために、最も好ましくは、カチオンは揮発性であり、例えばアンモニウムである。したがってリン酸水素アンモニウムは、本発明の製造方法におけるリン酸化合物として特に好ましい。有利なことには、当該塩は水中であらかじめ溶解される。
【0065】
ステップ(c)において、ガリウムがドープされたリン酸カルシウムの析出開始時に、溶液は白色となる。
【0066】
均一な反応剤濃度を確保するために、反応混合物はステップ(c)及び(d)の間、好ましくは撹拌される。
【0067】
反応剤のモル比は、好ましくは化学量論量であり、したがって主に、必要とされる(Ca+Ga)/P比に依存する。
【0068】
反応を加速させるために、ステップ(d)における析出は、好ましくは20〜100℃に、好ましくは37〜80℃に、最も好ましくは50℃に昇温させて行われる。
【0069】
ステップ(d)において使用されるpH調節剤はまた、好ましくは、更なるイオンを反応混合物に追加しない化合物である。アンモニア溶液が特に好ましい。
【0070】
反応は数分以内に、又は数時間以内に順調に進行する。好ましくは、ステップ(d)は、15分〜72時間で、より好ましくは30分〜6時間で、さらにより好ましくは30分〜2時間で、最も好ましくは30分で行われる。
【0071】
反応完了後、析出物はステップ(e)において常法で、例えばろ過で反応混合物から分離される。
【0072】
その後、得られたガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物はさらに精製され及び/又は変換され得る。特に、ステップ(e)で得られた化合物は精製され、特に洗浄され及び乾燥される。原料は、特に超純水を用いて洗浄され、その後適切な温度で、例えば80℃で乾燥される。
【0073】
したがって、得られたリン酸カルシウム化合物は、一般的にカルシウム欠損アパタイト(calcium deficient apatite)(CDA)構造に類似した構造を有し、1.44〜1.67の範囲のCa/P比、31P NMRにおける2.9ppmのブロードの共鳴、特徴的な粉末X線回折におけるブロードの線(2θ=約26°(中等度)、及び約32°(強))並びにIR吸収[OH(約3570cm-1)及びPO4(約1040及び1100cm-1)]によって証拠付けられる。ガリウムは、結晶内に含まれ得るか、又は物理学的に吸着されたガリウム種として、化学的に吸着されたガリウム種として、又は析出したガリウム種としてのいずれかでその表面上に存在し得る。
【0074】
本発明の更なる目的は、上記の方法によって得られうる、ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物に関する。
【0075】
本発明の更なる目的は、上記の製造方法によって得られうるガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物であって、(Ca+Ga)/Pモル比が1.3〜1.67であり、ガリウム含量が4.5重量%以下である前記化合物に関する。
【0076】
得られるガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物はその後、例えば800〜1500℃で、より好ましくは900〜1300℃で、最も好ましくは1100℃で、好ましくは数時間、特に3〜5時間、通常4時間それを加熱することによってか焼され、β−TCP様の構造を有するガリウムがドープされた化合物を得る。実際、この製造方法を用いて、化学量論量のガリウム化合物は、例えばx≦0.75の式(I)の化合物となる。
【0077】
したがって、得られうるガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物は、骨の修復、増強、再構築、再生、及び骨粗しょう症の治療に関連する、歯科的及び医学的応用に特に有用である。
【0078】
より具体的には、本発明の化合物は、生体材料、例えば代用骨、インプラント被覆、圧縮又は成形されたリン酸カルシウムインプラント、混合リン酸カルシウム−ポリマーセメント(composite phosphocalcic-polymer cement)、及びリン酸カルシウムセメント(alcium-phosphate cement)の製造のために使用され得る。
【0079】
本発明は、以下の図及び実施例においてさらに説明され得る。
【実施例】
【0080】
実施例
実施例1:固体状態反応による、ガリウムがドープされたリン酸カルシウムの製造
乳鉢中で、以下の等式を使用して、(Ca+Ga)/Pモル比が所望のx値に相当するように計算された量の炭酸カルシウム及び酸化ガリウムを、無水リン酸カルシウム(0.174mol)と共にしっかりと混合した。
【0081】
るつぼ中での混合物の焼成を、典型的には5グラム製造スケールで、1000℃にて24時間行った(加熱速度:5℃/分、冷却速度:5℃/分)。
【0082】
【化3】

【0083】
垂直PW1050(θ/2θ)ゴニオメーター(vertical PW 1050 (θ/2θ) goniometer)、及びPW1711 Xe検出器を備えたPhilips PW1830ジェネレーターを用いて記録された、粉末X線回折パターンからのリートベルト法(Rietveld refinement)によって、化合物の構造を得た。Niでフィルターされた銅Kα放射線を用いて、ステップ・バイ・ステップモードで:2θ初期(initial):10°、2θ最終(final):100°、ステップ(step)2θ=0.03°、ステップあたりの時間:2.3秒でデータを得た。
【0084】
得られたCa9.27Ga0.82(PO47に関する原子座標を表1に示す。得られたデータから、5つのカルシウム部位の1つが次第にガリウムによって交換され、一方で第二のカルシウム部位は電荷の競合のために空であり、当該化合物がβ−TCP型構造を有することは明らかである。空間群はR3cであり、a=10.322Å、c=37.179Å、α=90°;β=90°及びγ=120である。
【0085】
4mmのプローブヘッド及びZrO2のローターを用いて、7.0Tで記録された、31P MAS NMRスペクトルを当該化合物から得た(図2)。ガリウムに結合したリン酸部位の数が増大するために、当該スペクトルは、NMRピークの高磁場シフトを示す。
【0086】
Ca10.5-1.5xGax(PO4771Ga エコー MAS NMRスペクトルを17.6Tで記録した(図3)。当該スペクトルは、GaO6環境の等方性のケミカルシフト特性を有し[−38〜46ppm]、X線構造決定と一致して、当該化合物中のガリウムイオンの存在を示す。
【0087】
【表1】

【0088】
実施例2:共沈による、ガリウムがドープされたリン酸カルシウムの製造
(Ca+Ga)/Pモル比が1.5である製造物のために、0.444gの硝酸ガリウム(Aldrich,MW=390)及び2.685gの硝酸カルシウム四水和物(MW=236)の混合物を、125mlの超純水を含有するビーカー中で溶解した。
【0089】
アンモニアの濃縮溶液を用いて、溶液のpHを9〜9.5の範囲で調節した。反応混合物をその後、油浴中の滴下漏斗を備えた三頸丸底フラスコに導入した。滴下漏斗に1.089gのリン酸水素二アンモニウム(MW=132)を125mlの超純水に溶解したものを導入した。反応混合物の温度を50℃に昇温し、リン酸水素二アンモニウムの溶液を5〜10分かけて滴下した。混合物は白色となった。アンモニアの濃縮溶液を用いて、pHを7.5〜8の範囲内で調節した(反応の初期時間)。30分後、ヒーターを停止し、懸濁液(pHは中性)を遠心分離した。上清の大部分を除去し、固体残渣を250mlの超純水で洗浄し、再度遠心分離して上清の大部分から分離した。この手順を4回繰り返した後、最終的な固体をろ取した。白色のろう状の産物をオーブンで80℃にて24時間乾燥させた。
【0090】
化合物をIR分光法[OH(約3570cm-1)及びPO4(約1040及び1100cm-1)]、粉末X線回折[2θ=約26°(中等度)、及び約32°(強)におけるブロードの線]、及び1000℃での焼成前における31P MAS NMR分光法[2.9ppmのブロードの共鳴](図4)で特徴付けした。対応するデータは、カルシウム欠損アパタイトの特徴を示した。
【0091】
これはまた、元素分析によって確認された。元素分析は、(Ca+Ga)/Pモル比が1.3〜1.5の範囲内であり、ガリウム含量が4.5重量%以下であることを示した。
【0092】
1000℃での焼成後、得られた化合物は実施例1で得られたものと一致し(x=0〜0.75)、粉末X線回折及び固体状態31P及び71Ga NMRで、β−TCPに類似した構造を示すことを確認した。大量の硝酸ガリウム(初期Ga/P比>約0.15)のために、ガリウムがドープされたTCP相と混合した副生成物の存在(主に酸化ガリウム)が、焼成した化合物中で観察された。
【0093】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、0<x<1である]
で表される、ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物及びその塩、それらの水和物、並びにそれらの混合物。
【請求項2】
式(I)の化合物において、0<x≦0.85である、請求項1に記載のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物。
【請求項3】
式(I)の化合物が、Ca10.125Ga0.25(PO47;Ca9.75Ga0.5(PO47;Ca9.375Ga0.75(PO47;及びCa9.27Ga0.82(PO47から成る群から選択される、請求項1又は2に記載のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物。
【請求項4】
式(I)の化合物が、Ga含量に応じて以下の範囲:a=10.31〜10.44Å、c=37.15〜37.5Å、α=90°;β=90°及びγ=120°で変化する格子パラメーターを有するR3c空間群で少なくとも部分的に結晶化される、請求項1又は2に記載のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物。
【請求項5】
式(I)のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物の製造のための固体状態での製造方法であって、以下のステップ:
(a)適量のガリウム化合物の存在下で、リン酸カルシウムを炭酸カルシウムと接触させ;
(b)当該混合物を焼結してガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物を形成し;そして
(c)前記ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物を回収すること
を含む、前記方法。
【請求項6】
ステップ(a)において使用される前記リン酸カルシウムが、DCPA、DCPD、又はそれらの混合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(a)において使用される前記ガリウム化合物が酸化ガリウムである、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物の製造のための溶液中での製造方法であって、以下のステップ:
(a)カルシウム化合物及び好適量のガリウム化合物を含有する水溶液を調製し;
(b)ステップ(a)で得られた溶液のpHを、必要であれば8.5〜12に調節し;
(c)前記溶液に好適量のリン酸化合物を添加し;
(d)得られた溶液のpHを7.0〜12に調整することによって、ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物を析出させ;そして
(e)析出したガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物を溶液から分離すること
を含む、前記方法。
【請求項9】
ステップ(a)における前記ガリウム塩が、酢酸ガリウム、炭酸ガリウム、クエン酸ガリウム、塩化ガリウム、フッ化ガリウム、ギ酸ガリウム、硝酸ガリウム、シュウ酸ガリウム、硫酸ガリウム、水酸化ガリウム、酸化ガリウムヒドロキシドから成る群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(a)における前記カルシウム固体前駆体が、硝酸カルシウム四水和物、酢酸カルシウム、塩化カルシウム及びフッ化カルシウムから成る群から選択される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記リン酸化合物がリン酸水素アンモニウムである、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(d)が37〜80℃で行われる、請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
得られたガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物のその後の焼成をさらに含む、請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
(Ca+Ga)/Pモル比が1.3〜1.67であり、ガリウム含量が4.5重量%以下である、請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法によって得られうる、ガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物。
【請求項15】
生体材料、特に自己凝結性リン酸カルシウムセメント(CPC)の製造のための、請求項1〜4及び14のいずれか1項に記載のガリウムがドープされたリン酸カルシウム化合物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−519641(P2012−519641A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552440(P2011−552440)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052721
【国際公開番号】WO2010/100209
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(509053639)
【出願人】(506152885)ユニベルシテ ドゥ ナント (3)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【Fターム(参考)】