説明

キトサンゲルの製造方法

【課題】強酸を用いることなく、従来よりも少ない工程で、また、短い時間でキトサンを均一に溶解させ、更に、ゲル化することができるキトサンゲルの製造方法を提供する。
【解決手段】電解アルカリイオン水とキトサン粉末を混ぜ、少なくとも30分間静置してキトサン粉末を電解アルカリイオン水によって膨潤させ、溶媒としての水の中に、電解アルカリイオン水によって膨潤させた状態のキトサンを投入し、溶媒を撹拌しながら、pH3以上、6未満の弱酸(例えば、乳酸、酢酸、クエン酸等)を投入し、投入後に更に撹拌を行うことによってキトサンを水中に溶解させてキトサン水溶液を生成し、少なくとも2時間静置した後、キトサン水溶液を60〜80℃の温度範囲で少なくとも3時間以上加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来よりも少ない工程で、また、短い時間でキトサンを均一に溶解させ、更に、ゲル化することができるキトサンゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キトサンは、食品、食品包装材、医療品、包帯、絆創膏、紙おむつ、農業用資材などの各種の製品に利用できることが知られている。キトサンをそれらの製品に利用する場合には、素材としてのキトサンを溶解して溶液化或いはゲル化することが必要であり、キトサンを溶解するための溶剤としては、一般的にpH2以下の強酸(酢酸、乳酸、クエン酸等の水溶液)が使用されている。
【0003】
但し、強酸を用いて溶解させたキトサン水溶液或いはキトサンゲルで食品を処理すると、その食品の味や風味を損なうことになる。そこで、強酸を使用することなくキトサン水溶液を製造する方法として、キトサン原粉末を非平衡低温プラズマに接触させる方法が提案されている(特開平5−207867号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−207867号公報
【特許文献2】特開平6−237712号公報
【特許文献3】特開平8−24865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開平5−207867号公報に記載されているキトサン水溶液の製造方法は、非平衡プラズマを発生させる装置や減圧装置などが必要になるほか、工程数も多く、製造に長時間を要するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような従来技術を解決すべくなされたものであって、強酸を用いることなく、従来よりも少ない工程で、また、短い時間でキトサンを均一に溶解させ、更に、ゲル化することができるキトサンゲルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るキトサンゲルの製造方法は、まず、電解アルカリイオン水とキトサン粉末を混ぜ、少なくとも30分間静置して、キトサン粉末を電解アルカリイオン水によって膨潤させ、溶媒としての水(例えば、水道水、蒸留水、鉱泉水等)の中に、電解アルカリイオン水によって膨潤させた状態のキトサンを投入し、溶媒(水)を撹拌しながら、pH3以上、6未満の弱酸(例えば、乳酸、酢酸、クエン酸等)を投入し、投入後に更に撹拌を行うことによってキトサンを水中に溶解させてキトサン水溶液を生成し、少なくとも2時間静置した後、キトサン水溶液を加熱することを特徴としている。
【0008】
尚、電解アルカリイオン水によって膨潤させるキトサン粉末の量は、溶媒の0.5〜2.5重量%とすることが好ましく、また、キトサン粉末を膨潤させる電解アルカリイオン水の量は、キトサン粉末の400〜1000重量%とすることが好ましい。更に、投入する弱酸の量は、溶媒の0.15〜0.75重量%とすることが好ましい。また、加熱は、キトサン水溶液の温度が60〜80℃の範囲内にある状態で少なくとも3時間以上行うことが好ましい。
【0009】
また、電解アルカリイオン水としては、結晶性粘土鉱物が溶解した原料水を電気分解処理して得られたアルカリ性および酸性の各イオン水に、結晶性粘土鉱物をさらに溶解させるとともに、各イオン水を所定の電極側に供給して電気分解処理することにより生成したpH11以上、13未満のアルカリイオン水を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のキトサンゲルの製造方法によれば、強酸を使用せずに、従来よりも少ない工程で、また、短い時間で、キトサンゲルを製造することができ、大掛かりな装置を使用せずに、極めて容易に実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明「キトサンゲルの製造方法」の実施形態について説明する。まず、溶媒として水(水道水、蒸留水、鉱泉水等)を所定量(例えば、1L)用意し、更に、キトサン粉末を、溶媒(水)の0.5〜2.5重量%(水1Lに対し5〜25g)、pH11以上、13未満の電解アルカリイオン水を、キトサン粉末の400〜1000重量%用意する。
【0012】
尚、ここで使用する電解アルカリイオン水としては、電気分解処理によって製造したpH11以上、13未満のアルカリイオン水であればどのようなものを用いてもよいが、特開平8−24865号公報に記載されている方法によって製造したpH11以上、13未満のアルカリイオン水、より具体的には、結晶性粘土鉱物が溶解した原料水を電気分解処理して得られたアルカリ性および酸性の各イオン水に、結晶性粘土鉱物をさらに溶解させるとともに、各イオン水を所定の電極側に供給して電気分解処理することにより生成したpH11以上、13未満のアルカリイオン水を用いることが好ましい。
【0013】
最初に、電解アルカリイオン水とキトサン粉末を混ぜ、少なくとも30分間静置して、キトサン粉末を電解アルカリイオン水によって膨潤させる。尚、静置時間が30分より短いと膨潤が不十分となり、後工程においてキトサンが十分に溶解しないという問題がある。一方、60分を超えて静置しても、膨潤の状態はそれ以上変化しない。従って、静置時間は30〜60分とする。
【0014】
尚、電解アルカリイオン水によって膨潤させるキトサン粉末の量が、溶媒の0.5重量%よりも少ない場合、最終的に製造されるキトサンゲルにおけるゲル強度が弱くなってしまうという問題があり、溶媒の2.5重量%よりも多い場合、ゲル強度が大きくなり過ぎて、作業性が悪化してしまうという問題がある。
【0015】
また、キトサン粉末を膨潤させる電解アルカリイオン水の量が、キトサン粉末の400重量%よりも少ない場合、膨潤が不十分になり、弱酸によるキトサンの均一な溶解が困難になってしまうという問題があり、キトサン粉末の1000重量%よりも多い場合、溶媒のpHが上がってしまい、後工程において投入する弱酸が中和され、キトサンの溶解が不十分になるという問題がある。更に、電解アルカリイオン水のpHが11未満であると、キトサンに対しOHを十分に付与することができず、結果的に、弱酸によるキトサンの溶解が不十分になるという問題があり、電解アルカリイオン水のpHが13以上である場合も、溶媒のpHが上昇して弱酸が中和されてしまう結果、弱酸によるキトサンの溶解が不十分になるという問題がある。
【0016】
静置後、電解アルカリイオン水によって膨潤させたキトサンを溶媒中に投入する。そして、膨潤状態のキトサンを投入した溶媒を撹拌しながら、pH3以上、6未満の弱酸を投入し、投入後に更に撹拌を行うことによってキトサンを溶媒中に溶解させ、キトサン水溶液を生成する。
【0017】
尚、ここで投入する弱酸の量は、溶媒の0.15〜0.75重量%(水1Lに対し1.5〜7.5g)とする。尚、投入する弱酸のpHが6以上である場合や、投入量が溶媒の0.15重量%よりも少ない場合、キトサンの溶解が不十分となる。また、pH2.9以下の酸を投入した場合、及び、投入量が溶媒の0.75重量%よりも多い場合には、酸味、えぐ味が増し、適用する製品の味に悪影響を及ぼしかねない。また、撹拌せずに弱酸を投入した場合や、弱酸の投入後の撹拌を省略した場合、弱酸と接触したキトサンの一部のみが溶解し、全体を十分に溶解させることができず、未溶解部分の塊が残ってしまうという問題(ママコ現象)がある。
【0018】
弱酸の投入及び撹拌によるキトサン水溶液の生成後、少なくとも2時間静置する。尚、静置時間が2時間より短いと溶解が不十分となる。一方、15時間を超えて静置しても、溶解の状態はそれ以上変化しない。従って、静置時間は2〜15時間とする。
【0019】
静置後、キトサン水溶液に通電を行って加熱してゲル化させる。キトサン水溶液の加熱は、60〜80℃の温度範囲にある状態で3〜12時間行う。キトサン水溶液の温度が60℃よりも低い場合、ゲルの粘性均一化に時間がかかってしまうという問題があり、80℃よりも高い場合、製品が褐色に変化してしまうという問題がある。従って、加熱は、上記の通り60〜80℃の範囲で行う。また、当該温度範囲での加熱が3時間に満たない場合、ゲルの状態を安定化させることができず、一方、12時間を超えて行っても、均一化効果に変化は見られない。従って、加熱時間は上記の通り3〜12時間とする。尚、キトサン水溶液の加熱手段は、通電に限られず、湯煎でもよく、また、他の熱源を利用することもできる。
【0020】
以上に説明したような本実施形態の製造方法によれば、強酸を使用せずに、従来よりも少ない工程で、また、短い時間で、キトサンゲルを製造することができ、大掛かりな装置を使用せずに、極めて容易に実施することができる。
【0021】
尚、キトサンは直鎖型の多糖類であり、その分子は強固な水素結合に由来する剛直性を示し、非平衡低温プラズマに接触させる等の特別な手段を講じる場合は別として、強酸を用いない限り不溶であると考えられていたが、本発明の発明者らが行った実験により、前処理としてキトサン粉末を電解アルカリイオン水によって膨潤させる工程を実施すると、弱酸によってキトサンを水中に溶解させることができることがわかり、本発明を完成させることができた。キトサン粉末を電解アルカリイオン水によって膨潤させ、キトサンを水和させることで、OHの付与が行われ、これによりキトサンの強固な水素結合が弛緩し、剛直性が緩和し、親和性が付与される結果、pH3以上、6未満の弱酸によってキトサンを溶解させることができる、と考えられる。
【0022】
但し、発明者らの実験により、電解アルカリイオン水以外のアルカリイオン水によってキトサン粉末を膨潤させても、弱酸によるキトサンの溶解という効果は期待できないことがわかっている。また、電解アルカリイオン水として、特開平8−24865号公報に記載されている方法によって製造したpH11以上、13未満のアルカリイオン水を用いた場合に、キトサンを最も効果的に(ママコ現象を発生させることなく全体を均一に)溶解させることができ、最も効率よく(高い歩留まりで)キトサンゲルを製造することができる、ということがわかっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解アルカリイオン水とキトサン粉末を混ぜ、少なくとも30分間静置して、キトサン粉末を電解アルカリイオン水によって膨潤させ、
溶媒としての水の中に、電解アルカリイオン水によって膨潤させた状態のキトサンを投入し、
溶媒を撹拌しながら、pH3以上、6未満の弱酸を投入し、投入後に更に撹拌を行うことによってキトサンを水中に溶解させてキトサン水溶液を生成し、
少なくとも2時間静置した後、キトサン水溶液を加熱することを特徴とするキトサンゲルの製造方法。
【請求項2】
電解アルカリイオン水によって膨潤させるキトサン粉末の量を、溶媒の0.5〜2.5重量%とすることを特徴とする、請求項1に記載のキトサンゲルの製造方法。
【請求項3】
キトサン粉末を膨潤させる電解アルカリイオン水の量を、キトサン粉末の400〜1000重量%とすることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のキトサンゲルの製造方法。
【請求項4】
投入する弱酸の量を、溶媒の0.15〜0.75重量%とすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のキトサンゲルの製造方法。
【請求項5】
キトサン水溶液を、60〜80℃の温度範囲内にある状態で少なくとも3時間以上加熱することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のキトサンゲルの製造方法。
【請求項6】
電解アルカリイオン水として、結晶性粘土鉱物が溶解した原料水を電気分解処理して得られたアルカリ性および酸性の各イオン水に、結晶性粘土鉱物をさらに溶解させるとともに、各イオン水を所定の電極側に供給して電気分解処理することにより生成したpH11以上、13未満のアルカリイオン水を用いることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のキトサンゲルの製造方法。

【公開番号】特開2011−127040(P2011−127040A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288138(P2009−288138)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(591087703)株式会社アロンワールド (13)
【Fターム(参考)】