説明

キトサン含有粉体

【課題】従来よりもキトサン含有比率が高いキトサン含有粉体を提供しようとするもの。
【解決手段】この発明のキトサン含有粉体は、分子量が約10,000〜300,000程度のキトサンを水に分散し、キトサンとこれを溶解する乳酸の添加量がモル比で約1:0.9〜1:0.8として混合し攪拌溶解し、得られた溶解液を乳酸に溶解するキトサンの脱アセチル化度が約90%以上であると共に乳酸に溶解したキトサン濃度が約15w/w%以上とし、前記溶解液を濾過し不純物を除去し、希釈した後噴霧乾燥により粉末化し、噴霧乾燥により調整された粉体中のキトサンの含量が約30%以上であると共に前記粉体中のキトサンと乳酸とのモル比が約1:0.9以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、天然高分子多糖類であるキトサンを原材料とし、高濃度のキトサンを例えば摂取できるようにして人体等の健康に寄与できるキトサン含有粉体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キチンやキトサンが生体のマクロファージ活性化に寄与することは、すでに医学的に証明されている。また、キトサンを摂取することによる様々な病気に対する有効性が実証されている。前記キチンはカニやエビの殻より分離され、キトサンはキチンを脱アセチル化することで得られ、天然の微生物の生体構成成分として存在している天然の高分子多糖類である。
【0003】
キトサンの化学的性質としては水、アルコールに溶解せず希酸にしか溶解しない。一般的に使用されている乳酸にキトサンを溶解すると、溶液は強い渋みを呈しかつ高粘度であって食用に供するには不適当であり、またキトサンの溶解には乳酸の量がキトサンと同量程度必要である。このためキトサンを原材料とした食品は、乳酸に溶解させることなく粉末にして錠剤やカプセルに加工したもの或いは粉末そのままでしか存在しなかったが、錠剤カプセル或いは粉末の場合、経口摂取しても消化吸収が不十分であった。
【0004】
特願平2−310296号で提案されたキトサン溶解物質はキトサンを紅麹酸に溶解したものであり、ゼリー状を呈した食品である。この食品にあっても渋みを有しており、さらにこの食品は長期間保存すると経日変化によりゼリー状の形態がゲル化して食用に供することができなくなることがあった。
【0005】
特願平4−123391号で提案されたキトサンを原材料にした食品は、キトサン粉末を紅麹エキスと乳酸に溶解した後乾燥粉末化を行ない、食用に供しやすい状態に加工し、経口摂取しても消化吸収が十分でないという問題や渋みの問題を解決しようとするものである。すなわちキトサンを経口摂取した場合に、より消化吸収されやすい状態に加工することによってキトサンの摂取量を増加させることを目的としているが、得られる錠剤や顆粒中のキトサン濃度が低いきらいがあり、キトサンの効用を十分発揮させるには大量の摂取を必要とする傾向があった。なお経日的な変化により、着色やキトサン含有量が低下することもあった。
【特許文献1】特願平2−310296号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこでこの発明は、従来よりもキトサン含有比率が高いキトサン含有粉体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためこの発明では次のような技術的手段を講じている。
【0008】
(1)この発明のキトサン含有粉体は、キトサンを乳酸に溶解して噴霧乾燥したことを特徴とする。
このキトサン含有粉体は、キトサンを乳酸に溶解して噴霧乾燥しており、噴霧乾燥することによって水分を効率よく蒸発させることができまた過剰の乳酸を蒸発させることも可能であるので、粉体中のキトサンの含有比率を高くすることができる。
【0009】
また噴霧乾燥による粉末化は、各種方法により行うことができる。さらに、乾燥後に乾燥物を食用に供しやすいように顆粒、錠剤、カプセル及び経口摂取可能な形状(食品素材)とすることができる。
【0010】
(2)キトサンとこれを溶解する乳酸の添加量がモル比で約1:0.9〜1:0.8とすることができる。
このように構成すると、噴霧乾燥により得られた粉体の水溶解時におけるpHが低くならず渋みを低下させることができる。
【0011】
また、キトサンを溶解するために最小限の乳酸量で且つキトサンの含有量を高くすることで、少量の経口摂取でキトサンの生理活性が十分有効に働くようにすることができる。
【0012】
(3)乳酸に溶解するキトサンの分子量が約10,000〜300,000であることとすることができる。
このように構成すると、キトサンを溶解したときの溶液中のキトサン濃度が約15%以上の高濃度に調整することが可能であり、紅麹エキスを使用しなくても渋みを緩和することができる。
【0013】
(4)乳酸に溶解するキトサンの脱アセチル化度が約90%以上であることとすることができる。
このように構成すると、キトサンを溶解する乳酸量を前記(2)項に記載の比率で添加し溶解することが可能であり、紅麹エキスを使用しなくても渋みを緩和することができる。
【0014】
(5)噴霧乾燥により調整された粉体中のキトサンの含量が約30%以上であることとすることができる。
このように構成すると、経口摂取の際の経口量を少なくして効果を発揮させることができる。
【0015】
(6)乳酸に溶解したキトサン濃度が約15w/w%以上であることとすることができる。
このように構成すると、噴霧乾燥の際に水で希釈を行うが固形分濃度の調整、基材の添加、噴霧乾燥が容易に行え、低コストで噴霧乾燥体を製造することができる。
【0016】
(7)噴霧乾燥により調整された粉体中のキトサンと乳酸とのモル比が約1:0.9以下であることとすることができる。
このように構成すると、得られた粉体の渋みの緩和或いは水溶解時のpH低下が緩和されpHの影響を受けやすい動植物に対しての利用が可能になる。
【0017】
(8)この発明のキトサン含有粉体の製造方法は、キトサンを水に分散する工程、乳酸を混合し攪拌溶解する工程、前記溶解液を濾過し不純物を除去した後、噴霧乾燥により粉末化する工程を有することを特徴とする。
このキトサン含有粉体の製造方法によると、噴霧乾燥することによって基材(例えばデキストリン等)の添加量を調整することが可能となり、また過剰の乳酸を蒸発させることも可能となるので、粉体中のキトサンの含有比率を高くすることができる。
【0018】
(9)このキトサン含有粉体は例えば健康食品や一般食品に添加することができるが、家畜飼料や農業用資材に添加する場合も従来よりも少量であっても高濃度に添加することが可能である。
またこのキトサン含有粉体は、農業分野(野菜等の成長促進、防虫防御)、畜産分野(動物の免疫強化)、水産分野(魚の免疫強化)などに対しても好適に利用することができる。
さらに、この高濃度のキトサン含有粉体は、保管上安定であって品質の変化も殆どないという利点がある。
【発明の効果】
【0019】
噴霧乾燥することによって噴霧乾燥することによって水分を効率よく蒸発させることができまた過剰の乳酸を蒸発させることも可能であるので、従来よりもキトサン含有比率が高いキトサン含有粉体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を説明する。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
平均分子量50,000程度のキトサン(キトサン食品工業社製)2Kgに水8Kgを加え、キトサンを懸濁状態にしておく。これに乳酸1Kgを添加し、30分間攪拌溶解を行った。このときのキトサンの濃度は19%で、粘度6,000cpsであった。またこのときの乳酸量は0.0111Kmolでキトサン0.0124Kmolとなり、キトサン:乳酸=1:0.90であった。その後、濾過し不純物を除去した溶解液に水30Kgを加えて希釈し、噴霧乾燥装置にて噴霧乾燥してキトサン含有粉末を得た。噴霧乾燥条件は熱風温度190℃、排気温度85℃、液供給量200L/hrであった。収量は2Kgであり、キトサン濃度は83%であった。
【0022】
(実施例2)
実施例1で調整した溶解液(キトサン濃度19%、粘度6,000cps)にデキストリン5Kgを溶解した水30Kgを加え、噴霧乾燥装置にて乾燥粉末を得た。噴霧乾燥条件は、実施例1と同様とした。収量は7.5Kgであり、キトサン濃度43%であった。
【0023】
(実施例3)
実施例1で得たキトサン含有粉末5Kgに、バリン26g、ワックス9.5gを加えて錠剤を製造した。キトサン含量は78%であった。
【0024】
(実施例4)
実施例2で得たキトサン含有粉末を1号ハードカプセルに充填し、カプセル製剤を製造した。粉末充填量は380mgで、キトサン含量は43%であった。
【0025】
(実施例5)
実施例1で得たキトサン含有粉末を1号ハードカプセルに充填し、カプセル製剤を製造した。粉末充填量は380mgで、キトサン含量は80%であった。
【0026】
(比較例1)
乳酸2Kgと紅麹エキス2Kgを水8リットルに加えよく混合した後、キトサン(ヤエガキ発酵技研製)2Kgを加え30分間攪拌溶解した。溶解液はその後濾過を行って不溶物を除去し、凍結乾燥した。凍結乾燥物は、粉砕し粉末とした。収量は13.3Kgで、キトサン含量は15%であった。
【0027】
(比較例2)
比較例2で得た粉末10Kg二乳糖1Kg、ショ糖エステル0.3Kg、第三リン酸カルシウム0.2Kgを加えて錠剤化した。このときの収量は11.5Kgで、キトサンの含有量は13%であった。
【0028】
なお、使用したキトサンの分子量はHPLC(液体クロマトグラフィー)により求めた。
HPLCの条件は次の通りである。
カラム :Shodex Ohpak SB−G +SB−805HQ+SB−806HQ。
移動相 :0.5M酢酸/0.5M酢酸ナトリウム緩衝液。
流量 :1.0ml/min。
温度 :40℃。
検出器 :RI(示差屈折計)。
標準試料:Shoudex Pullulan P−5,P−10,P−20,P−50,P−100,P−200,P−400,P−800を使用した。
各標準試料の分子量は5,900 、11,800、22,800、47,300、112,000、212,000、404,000、788,000であった。
キトサンの分子量は、グルコサミン残基分子量161により計算した。
またキトサンの濃度は、コロイド滴定法により求めた。乳酸の濃度は、それぞれの乳酸の定量に使用する滴定方法により行なった。
【0029】
この実施形態によると、噴霧乾燥することによってデキストリン等の基材の添加量を調整することができ、また過剰の乳酸を蒸発させることも可能となるので、従来よりもキトサンの含有比率が高いキトサン含有粉体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が約10,000〜300,000程度のキトサンを水に分散し、
キトサンとこれを溶解する乳酸の添加量がモル比で約1:0.9〜1:0.8として混合し攪拌溶解し、
得られた溶解液を乳酸に溶解するキトサンの脱アセチル化度が約90%以上であると共に乳酸に溶解したキトサン濃度が約15w/w%以上とし、
前記溶解液を濾過し不純物を除去し、希釈した後噴霧乾燥により粉末化し、
噴霧乾燥により調整された粉体中のキトサンの含量が約30%以上であると共に前記粉体中のキトサンと乳酸とのモル比が約1:0.9以下であることを特徴とするキトサン含有粉体。

【公開番号】特開2008−260783(P2008−260783A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180184(P2008−180184)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【分割の表示】特願2001−239060(P2001−239060)の分割
【原出願日】平成13年8月7日(2001.8.7)
【出願人】(395005310)キトサン食品工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】