説明

キネシン阻害化合物の塩及び多形体

本発明は、キネシン阻害化合物N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル(ben2lyl)−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドの塩、多形体及び水和物、このような塩、多形体及び水和物の製造方法並びにこれらの塩、多形体及び水和物(1)のうち少なくとも1種を含む液体製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キネシン阻害化合物N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル(benzlyl)−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドの塩及び多形体に関する。
【背景技術】
【0002】
キネシンは、微小管に沿って移動する際にアデノシン三リン酸を加水分解し、機械力を発生するモータータンパク質である。これらのタンパク質は、約350個のアミノ酸残基を有するモータードメインを含むことを特徴とする。いくつかのキネシンモータードメインの結晶構造が解明されている。
【0003】
現在、約100種のキネシン関連タンパク質(KRP)が確認されている。キネシンは、細胞小器官及び小胞の輸送並びに小胞体の維持を含む種々の細胞生物学的プロセスに関与する。いくつかのKRPは、紡錘体の微小管と又は染色体と直接的に相互作用し、細胞周期の有糸分裂期において極めて重要な役割を果たすと思われる。これらの有糸分裂KRPは、癌治療薬の開発にとって特に重要である。
【0004】
キネシンスピンドルタンパク質(KSP)(Eg5、HsEg5、KNSL1、又はKIF11としても知られている)は、紡錘体に局在し、双極性紡錘体の形成及び/又は機能に必要であることが知られているいくつかのキネシン様モータータンパク質の1つである。
【0005】
1995年、KSPのC末端に対する抗体を用いるKSPの枯渇が、Hela細胞の有糸分裂を、モノアストラル(monoastral)微小管配列を有する状態で停止させることが示された(Blangyら、Cell 83、1159〜1169頁、1995年)。KSPの相同体と考えられるbimC及びcut7遺伝子の変異は、Aspergillus nidulans(Enos,A.P.及びN.R.Morris、Cell 60、1019〜1027頁、1990年)及びSchizosaccharomyces pombe(Hagan,I.及びM.Yanagida、Nature 347、563〜566頁、1990年)において中心体分離の失敗を引き起こす。タンパク質レベルでKSP発現を低下させるATRA(全トランス−レチノイン酸)、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いるKSPの枯渇による細胞処理により、DAN−G膵癌細胞が著しく増殖阻害されることが明らかとなり、KSPが全トランス−レチノイン酸の抗増殖作用に関与する可能性があることが示された(Kaiser,A.ら、J.Biol.Chem.274、18925〜18931頁、1999年)。興味深いことに、Xenopus laevisのAurora関連タンパク質キナーゼpEg2は、XIEg5と会合し、これをリン酸化することが示された(Giet,Rら、J.Biol.Chem.274、15005〜15013頁、1999年)。Aurora関連キナーゼの潜在的基質は、制癌剤の開発にとって特に重要である。例えば、Aurora 1及び2キナーゼは、タンパク質及びRNAレベルで過剰発現され、遺伝子は結腸癌(colon cancer)患者において増幅される。
【0006】
KSPに対する最初の細胞透過性小分子阻害剤「モノアストラル(monoastral)」は、タキサン及びビンカアルカロイドなどの従来の化学療法剤がなすように、微小管重合に影響を与えずに、単極性紡錘体の状態で細胞を停止させることが示された(Mayer,T.U.ら、Science 286:971〜974頁、1999年)。モナストロール(monastrol)は、表現型に基づくスクリーニングにおいて阻害剤として同定され、この化合物は抗癌剤の開発のリード化合物となり得ることが示唆された。この阻害は、アデノシン三リン酸のKSPとの相互作用に関して競合的でないことが確認され、急速な可逆性を示すことが判明した(DeBonis,S.ら、Biochemistry 42:338〜349頁、2003年、Kapoor,T.M.ら、J.Cell Biol.150:975〜988頁、2000年)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
化学療法剤の改善の重要性に鑑みて、KSP及びKSP関連タンパク質の効果的なインビボ阻害剤であるKSP阻害剤が必要とされている。KSPのいくつかの阻害剤が以前に報告されている。例えば、WO2006/002236及びPCT/US2006/031129は、KSPの阻害剤であることが示されたいくつかの種類の化合物を開示している。
【0008】
特定のキネシン阻害化合物は、下記化学構造
【0009】
【化1】

を有するN−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンジル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドである。
【0010】
しかし、特定の化合物は、医薬組成物中に使用するための有望な候補として同定された後に、固体状態及び/若しくは液体製剤における安定性、吸湿性、結晶性、毒性学的検討事項、融点又は水及び水性媒体への溶解度などの多数の重要なパラメーターに関してその特性を微調整することが依然として必要である。
【0011】
塩及び/又は結晶変態の型によって、医薬化合物の重要な特性が影響される。塩又は結晶変態の選択基準は、とりわけ、計画される投与経路(複数可)に左右される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
今回、意外なことに、ある種の条件下では、有利な実用性及び特性を有するN−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンジル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドの新規な塩を提供できることを発見した。
【0013】
更に、意外なことに、ある種の条件下では、結晶形D及びH並びに非晶形Aとして以下に説明する、有利な実用性及び特性を有する新規な固体形のN−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンジル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドを提供できることを発見した。
【0014】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、アニオンがメシル酸、トシル酸、馬尿酸、グリコール酸及び硫酸からなる群から選択されるN−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドの塩を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】結晶形DのXRDディフラクトグラムを示す図である。
【図2】結晶形HのXRDディフラクトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
好ましい一実施形態において、アニオンはメシル酸であり、塩は水和物として存在する。
【0017】
本発明との関連では、用語「水和物」は、一般に認められている意味に従って解釈すべきである。「水和物」は、水分子がホスト化合物の結晶構造中に組み入れられていることを意味し、化学量論水和物と非化学量論水和物とを包含する。
【0018】
好ましくは、メシル酸塩の水和物は、水を1wt%〜6wt%(熱重量分析で測定)の量で含む。
【0019】
好ましくは、メシル酸塩の水和物は、半水和物(N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドメシレート・0.5HO)、一水和物(N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドメシレート・1HO)、セスキ水和物(N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドメシレート・1.5HO)又は二水和物(N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドメシレート・2HO)である。
【0020】
更なる態様によれば、本発明は、塩を極性溶媒系から沈殿させる、上記で定義した塩の製造方法を提供する。
【0021】
前述したN−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドの塩は、当業者に知られた沈殿法によって製造できる。
【0022】
上記塩を製造するための出発化合物N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドは、当技術分野で周知の方法及び以下に詳述する方法によって入手できる。例えば、この化合物の製造方法は、PCT/US2005/022062(WO2006/002236)及び対応米国特許出願に記載されている。N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドの製造に適用できる更なる合成方法の例は、下記反応スキームで示される。
【0023】
【化2】

【0024】
化合物1.1と1.2とを、KIを含むアセトン中でKCOを用いて反応させた。KCOのコストがより低く且つ水の添加時にアセトン溶液から化合物1.3が沈殿し、1.3を抽出するための水性処理の必要性が取り除かれるので、KCO/アセトンの使用はCsCO/エタノールよりも優れていることが判明した。次に、ケトエステル1.3をトルエン中で酢酸アンモニウム(NHOAc)と共に還流させて、イミダゾール1.4を得た。Dean Starkトラップを用いたキシレン中での還流は反応混合物からトラップ中への酢酸アンモニウムの除去をもたらすので、このようなキシレン中での還流に比較して、トルエンの使用は、より高収率のイミダゾールが生成することが判明した。ジメチルホルムアミド中における1.4と臭化ベンジル及びKCOとの反応により、水の添加時に反応溶液から沈殿させることができる1.5を生成した。1.5をメタノール及び塩化アセチルで処理して1.6のHCl塩を得た。この塩は、その後、NaOH/メタノール溶液での滴定時にその遊離塩基に変換される。1.1及び1.2からの1.6の形成は、81%の収率並びに高い純度(HPLCによって測定した場合に>97%)及び高い光学純度(>99%e.e.)で進行することが判明した。
【0025】
スキーム2は、N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドを製造するための還元的アミノ化段階に使用できるアルデヒドの製造を示している。
【0026】
【化3】

【0027】
還元的アミノ化後、既知のアシル化剤及び条件を用いて、第2級アミンをアシル化させて、出発化合物N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドを生成する。スキーム3は、還元的アミノ化を示している。アミンのアシル化と、それに続くフタルイミドの脱保護及び遊離ヒドロキシル基上の保護基の除去により、N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドが得られる。ヒドロキシルに好適な保護基としては、例えば、水素化分解によって除去され得るベンジルエーテル、及びトリメチルシリルヨージドなどの試薬を用いて選択的に除去され得るアルキルカーボネートが挙げられる。
【0028】
【化4】

【0029】
上記で示される通り、前述したN−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドの塩は、基本的には当業者に知られている沈殿法によって製造できる。
【0030】
好ましくは、極性溶媒系は、アルコール、好ましくはイソプロパノール及び/若しくはtert−ブタノール、ニトリル、好ましくはアセトニトリル、アセトン又はそれらの任意の混合物から選択された極性溶媒を含む。極性溶媒系は水を更に含むことができる。
【0031】
静脈内(i.v.)適用の場合には、上記塩は、十分な安定性を有する液体製剤の形で提供される必要がある。
【0032】
したがって、更なる態様によれば、本発明は、上記で定義した塩を溶媒又は懸濁媒中に溶解又は懸濁させることによって調製される液体製剤を提供する。好ましくは、使用する塩は、以下で更に定義する水和物形D又は水和物形Hである。
【0033】
好ましくは、溶媒又は懸濁媒は、pHが7未満、より好ましくは6以下、さらに好ましくは5.5以下であり、任意選択で、水中に溶解する、医薬として許容され得る追加有機溶媒を更に含む水である。
【0034】
上記で示される通り、固体状態における安定性、吸湿性、加工性、溶解度などの、医薬化合物の関連する特性は、結晶変態の型によって影響され得る。
【0035】
更なる態様によれば、本発明は、結晶性水和物形DのN−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドを提供する。好ましい一実施形態において、結晶形Dは、図1に示されるX線回折図を示す。
【0036】
更なる態様によれば、本発明は、結晶性水和物形HのN−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドを提供する。好ましい一実施形態において、結晶形Hは、図2に示されるX線回折図を示す。
【0037】
好ましくは、結晶形Hは、例えば、実施例中に記載するように、アセトニトリル、好ましくは乾燥アセトニトリル中での結晶化とそれに続く湿潤空気中での単離とによって製造する。
【0038】
好ましくは、結晶形Dは、例えば、実施例中に記載するように、アセトニトリル/水溶媒系中で製造する。
【0039】
更なる態様によれば、本発明は、上記で定義されたような塩から選択される活性成分を含む医薬組成物を提供する。
【0040】
好ましくは、医薬組成物は、癌などの増殖性疾患の治療に使用される。
【0041】
より好ましくは、増殖性疾患は、哺乳動物の固形腫瘍又は血液癌から選択される。
【0042】
好ましくは、固形腫瘍は、肺癌、乳癌、卵巣癌、皮膚癌、結腸癌(colon carcinoma)、膀胱癌、肝癌、胃癌、前立腺癌、腎細胞癌、上咽頭癌、扁平上皮癌、甲状腺乳頭癌、子宮頚癌、小細胞肺癌(SCLC)、非小細胞肺癌、膵癌、頭頸部扁平上皮癌及び肉腫からなる群から選択される。
【0043】
次に、本発明を、以下の実施例によって更に詳細に説明する。
【0044】
(実施例)
結晶形のX線ディフラクトグラム(diffractogram)は、PANalytical X’Pert粉末回折計(銅Kα線)を用いて測定した。
【実施例1】
【0045】
トシル酸塩
N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドのトシル酸塩を、溶媒としてのアセトニトリル中で製造した。
【0046】
トシル酸塩は、207℃の融解温度Tm(DSCによって融解開始として測定)を有する。
【0047】
製造された塩の、熱重量分析によって測定された乾燥時の重量損失(%)は、1.12%であった。相対湿度92%に1日保持した場合には、重量損失は1.71%であった。これは、トシル酸塩が低吸湿性であることを明白に示している。
【実施例2】
【0048】
メシル酸塩非晶形
N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドのメシル酸塩を、溶媒としてのアセトニトリル中で製造する。
【0049】
製造された塩の、熱重量分析によって測定された乾燥時の重量損失(%)は、2.08%であった。相対湿度92%に1日保持した場合には、重量損失は2.21%であった。これは、メシル酸塩が低吸湿性であることを明白に示している。
【実施例3】
【0050】
馬尿酸塩
N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドの馬尿酸塩を、アセトン/水溶媒系中で製造した。馬尿酸塩は、80℃の融解温度Tm(DSCによって融解開始として測定)を有する。
【0051】
製造された塩の、熱重量分析によって測定された乾燥時の重量損失(%)は、1.76%であった。相対湿度92%に1日保持した場合には、重量損失は2.14%であった。これは、馬尿酸塩が低吸湿性であることを明白に示している。
【実施例4】
【0052】
硫酸塩
N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドの硫酸塩を、溶媒としてのイソプロパノール中で製造した。
【0053】
硫酸塩は、98℃の融解温度Tm(DSCによって融解開始として測定)を有する。
【実施例5】
【0054】
グリコール酸塩
N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドのグリコール酸塩を、溶媒としてのイソプロパノール中で製造した。
【実施例6】
【0055】
固体状態での塩の安定性
固体状態安定性の試験を、上記で製造したメシル酸塩、トシル酸塩及び馬尿酸塩について行った。結果を以下の表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
色:
A:変色なし、B:わずかな変色、C:中程度の変色、D:強い変色
【0058】
表1の結果は、塩が固体状態で安定であることを明白に示している。
【実施例7】
【0059】
塩の溶解/懸濁による液体製剤の調製
静脈内(i.v.)適用についても、液体製剤中の塩の安定性が同様に関連する。
【0060】
上記で製造したメシル酸塩、トシル酸塩及び馬尿酸塩から、これらの塩を溶媒/懸濁媒中に溶解/懸濁させることによって液体製剤を調製した。これらの液体製剤について、安定性試験を行った。分解生成物の量及び変色度を確認した。結果を、以下の表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
色:
A:変色なし、B:わずかな変色、C:中程度の変色、D:強い変色
【0063】
溶媒系のpHが7未満である場合には、安定性は十分に高いレベルに保つことができる。
【0064】
メタノール中では、メシル酸塩及びトシル酸塩は非常に安定である。DMSO中では、メシル酸塩、トシル酸塩及び馬尿酸塩は、希釈されていてもいなくても非常に安定である。
【実施例8】
【0065】
結晶形DのN−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドメシレートの製造
非晶質N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミド2.40gを、50℃において、0.6の水分活性を有する95:5v/vのアセトニトリル/水9ml中に溶解させ、撹拌した。約1分以内に、懸濁液が形成された。95:5v/vのアセトニトリル/水を更に6ml加えた。続いて、約1時間で懸濁液を室温まで冷却させ、14時間撹拌した。次いで、懸濁液を濾過し、約5分間風乾させた。収率1.82g(75%)。得られた物質をX線回折によって分析した(図1)。得られた物質の水への溶解度は4.4mg/mlであり、pH6.8の緩衝液中への溶解度は0.010mg/mlであり、0.1N HCl中への溶解度は1.4mg/mlである。
【実施例9】
【0066】
結晶形HのN−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドメシレートの製造
非晶質N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミド123mgをメタノール/水(1:1、v/v)0.5ml中に溶解させ、室温で1日撹拌した。得られた懸濁液を濾過し、約2分間風乾させた。得られた物質をX線回折によって分析した(図2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオンがメシル酸、トシル酸、馬尿酸、グリコール酸及び硫酸からなる群から選択される、N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドの塩。
【請求項2】
前記アニオンがメシル酸であり、塩が水和物である、請求項1に記載の塩。
【請求項3】
前記水和物が、半水和物(N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドメシレート・0.5HO)、一水和物(N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドメシレート・1HO)、セスキ水和物(N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドメシレート・1.5HO)又は二水和物(N−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドメシレート・2HO)である、請求項2に記載の塩。
【請求項4】
結晶性水和物形DのN−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドメシレート。
【請求項5】
結晶性水和物形HのN−((S)−3−アミノ−4−フルオロブチル)−N−((R)−1−(1−ベンズリル−4−(2,5−ジフルオロフェニル)−1H−イミダゾール−2−イル)−2,2−ジメチルプロピル)−2−ヒドロキシアセトアミドメシレート。
【請求項6】
結晶形を、アセトニトリル中での結晶化とそれに続く湿潤空気中での単離とによって製造する、請求項5に記載の結晶形Hの1つの製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載の少なくとも1種の塩を、pH7未満の水を含む溶媒又は懸濁媒中に溶解又は懸濁させることによって調製される液体製剤。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−515749(P2012−515749A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546803(P2011−546803)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050770
【国際公開番号】WO2010/084186
【国際公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】