説明

キノリンカルボン酸誘導体溶媒和物の結晶

6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸(化合物A)のIII型結晶を優先的に製造するための製造中間体(6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸・アセトニトリル溶媒和物(化合物B)の結晶を提供することを主な目的とする。 アセトニトリルを溶媒に用いた結晶化において、過飽和濃度を制御することにより化合物Bの結晶を優先的に晶出させることができる。続いて、該結晶を脱溶媒和させることにより、化合物AのIII型結晶を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸(以下、化合物Aという)のアセトニトリル溶媒和物(以下、化合物Bという)の結晶、化合物Bの結晶の製造方法、及び、化合物Bの結晶を用いた化合物AのIII型結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
化合物Aは優れた抗菌活性を有し(例えば、特許文献1参照。)、合成抗菌剤として上市されている。化合物Aには3種類の結晶形(I型、II型、III型)が存在することが知られており、示差走査熱量分析(以下、DSCという)測定における融解温度の高い順にI型、II型、III型と定められている(例えば、非特許文献1参照。)。また、各結晶の溶解性、吸収性、及び、治療効果等を考慮して、III型結晶のものが上市されている(例えば、非特許文献1参照。)。
化合物AのI型、II型、III型結晶は、アセトニトリルから結晶化することにより得られることが知られているが、その晶出条件等は不明であり、化合物Bの存在も知られていない(例えば、非特許文献1参照。)。
【特許文献1】 :特開平1−294680号公報
【非特許文献1】:掛見和郎、外7名,「Prulifloxacinの化学構造,物理的化学的性質及び安定性」,医薬品研究,1997年,第28巻,第1号,p1−11
【発明の開示】
本発明は、主として、優れた薬効薬理作用を有する化合物AのIII型結晶を製造するための原料、及び、その製造方法を提供することを目的とするものである。
従来、化合物AのIII型結晶は、I型やII型結晶と同様、化合物Aのアセトニトリル溶液から直接得られるものと考えられていた。しかし、本発明者らは、該III型結晶はI型やII型結晶のように再結晶により直接得られるものではなく、化合物Bの結晶を脱溶媒和することにより得られるものであるという知見を得た(後述する試験例1〜3参照)。本発明者らは、化合物Bの結晶が医薬品(化合物AのIII型結晶)の重要な製造中間体であることを見出した。
また、本発明者らは、化合物Bの結晶を優先的に晶出させる方法について鋭意研究を重ねた結果、過飽和濃度を制御することにより目的を達成することを見出した(後述する試験例1参照)。
総括すると、本発明者らは、アセトニトリルを溶媒に用いた結晶化において、過飽和濃度を制御することにより化合物Bの結晶を優先的に晶出させることができ、続いて、該結晶を脱溶媒和させることにより、化合物AのIII型結晶を製造できることを見出し、本発明を完成した。
本発明としては、例えば、
(1)粉末X線回折スペクトルにおいて、少なくとも7.3度、14.7度、19.2度、22.3度に回折ピークを示す、化合物Bの結晶、
(2)化合物Aのアセトニトリル溶液から、自然核発生時の過飽和濃度(g/100g)が2.15〜2.36になるように制御して結晶化することを特徴とする、化合物Bの結晶を製造する方法、
(3)化合物Aのアセトニトリル溶液から、種晶を接種する時の過飽和濃度(g/100g)が0.41〜2.36になるように制御して結晶化することを特徴とする、化合物Bの結晶を製造する方法、
(4)種晶を接種する時の溶液温度が70℃以下である、(3)記載の製造方法、を挙げることができる。
本発明において「自然核」とは、種晶を用いずに結晶化を行う際に自然に発生する結晶核をいう。
本発明において「過飽和濃度:Cx(g/100g)」とは、過飽和状態の度合いをいい、次式により表される。
Cx=C−Cs
ここで、C(g/100g)は、溶媒100g中に溶解している化合物Bの質量(無溶媒和物換算量)を意味する。
Cs(g/100g)は、自然核が発生するとき、又は、種晶を加えるときの温度下において、溶媒100g中に溶解する化合物Bの飽和溶解量(無溶媒和物換算量)を意味する。
すなわち、Cx>0の場合は過飽和状態にあることを表し、Cx<0の場合は飽和に達していない状態を表す。
本発明において、「無溶媒和物換算量」とは、化合物B(溶媒和物)の質量を無溶媒和物に換算した質量をいい、例えば、化合物Bが502.5gの場合、無溶媒和物換算量では461.5gとなる。
本発明において、「脱溶媒和」とは、溶媒和物中の溶媒を除去することをいう。例えば、溶媒が水である場合は、水和物を脱水して無水物にすることを例として挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、化合物AのI型結晶の粉末X線回折スペクトルチャートを示す。縦軸は強度(cps)を表し、横軸は回折角(2θ±0.2度)を表す。
第2図は、化合物AのII型結晶の粉末X線回折スペクトルチャートを示す。縦軸は強度(cps)を表し、横軸は回折角(2θ±0.2度)を表す。
第3図は、化合物Bの結晶の粉末X線回折スペクトルチャートを示す。縦軸は強度(cps)を表し、横軸は回折角(2θ±0.2度)を表す。
第4図は、化合物AのIII型結晶の粉末X線回折スペクトルチャートを示す。縦軸は強度(cps)を表し、横軸は回折角(2θ±0.2度)を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
化合物Bの結晶は、自然核発生時の過飽和濃度(g/100g)を2.15〜2.36に設定して、化合物Aのアセトニトリル溶液から結晶化することにより、化合物AのI型又はII型結晶の生成を抑制しながら製造することができる。
一方、種晶を接種する条件下で結晶化を行う場合、得られる結晶は種晶の結晶形に依存することとなる。従って、自然核発生による結晶化に比べて、種晶を接種する結晶化では、過飽和濃度(g/100g)が0.41〜2.36の状態であっても化合物Bの結晶を製造することができる。加える種晶は、通常用いられている量(0.004g未満/溶媒100g)に比べ、多量(0.004g以上/溶媒100g)に加える方が好ましい。種晶が少ない場合は、加えた種晶が刺激となって新たな自然核の産生が認められることになるが、多量に加えた場合は、加えた種晶の成長(二次結晶)が優先され、自然核の産生を抑え、化合物AのI型又はII型結晶の混入を極力避けることができる。
化合物Bの結晶は、溶媒媒介転移を起こすことから、自然核が発生するとき、及び、種晶を加えるときの溶液温度を70℃以下、好ましくは67℃以下、より好ましくは55℃以下に制御する。
本発明において、「溶媒媒介転移」とは、結晶が溶媒存在下で他の結晶形に転移することをいい、例えば、所定温度下において、化合物Bの結晶が溶媒中で化合物AのI型結晶に転移することをいう。
化合物AのIII型結晶は、化合物Bの結晶を脱溶媒和させることにより製造することができる。脱溶媒和は、常法通り、溶媒和物の結晶を乾燥させることにより行うことができるが、80℃以下で減圧下に行うことが好ましい。また、上述の通り、化合物AのIII型結晶は溶媒媒介転移を起こすため、乾燥するときの温度を70℃以下、好ましくは67℃以下、より好ましくは55℃以下に制御する。
化合物Bの結晶は、より具体的に、例えば次のように製造することができる。
(1)溶解工程
化合物Aをアセトニトリルに溶解する。用いる化合物A、及びアセトニトリルの量は、所定の過飽和濃度となるように設定する。該溶解は加熱して行う方が好ましい。加熱温度は特に問わないが、アセトニトリルの沸点付近で行うことが好ましい。また、本工程を窒素、アルゴンなどの不活性ガス気流下に行うことが好ましい。
不溶物を除去するために、該溶液をろ過してもよい。ろ過中の結晶析出を防ぐために、加圧下で加温装置付きろ過器を用いて行う方が好ましい。ろ液に結晶析出が認められる場合には、ろ過後に再加熱して再溶解することができる。
(2)冷却工程
該溶液を冷却して結晶を析出させる。結晶が析出し始める温度を制御する必要があるため、種晶を加えないで結晶化を行う場合には注意が必要である。結晶析出後の冷却速度は特に問わないが、約0.04℃/分以上で行うのが好ましく、約0.22℃/分以上で行うのがより好ましい。冷却温度(析出結晶を採取するときの温度)は特に問わないが、0〜45℃が好ましく、0〜25℃がより好ましい。冷却温度到達後の保持時間は特に問わないが、30分以上が好ましく、90分以上がより好ましい。また、本工程を窒素、アルゴンなどの不活性ガス気流下に行うことが好ましい。
(3)結晶採取工程
析出結晶を、ろ過、遠心分離など公知の手段によって採取し乾燥させることができる。析出結晶の乾燥は、常法により行うことができる。溶媒媒介転移を防ぐため、乾燥時の温度は70℃以下、好ましくは67℃以下、より好ましくは55℃以下に設定する。また、該結晶は、脱溶媒和を起こし易く脱溶媒和物の形成も確認される場合もある。脱溶媒和を防ぐには、常温以下、減圧下で乾燥させることが望ましい。なお、該結晶は化合物AのIII型結晶の原料に用いられるため、特に乾燥させることなく、後述する化合物AのIII型結晶の製造原料に用いればよい。
(4)化合物AのIII型結晶の製造方法
化合物AのIII型結晶は、化合物Bの結晶を常法により脱溶媒和させることにより製造することができる。乾燥条件は溶媒和物の結晶から溶媒を除去することができれば特に問わないが、80℃以下、減圧下で乾燥させることが好ましい。また、溶媒媒介転移を防ぐため、乾燥時の温度を70℃以下、より好ましくは67℃以下、更に好ましくは55℃以下で数時間〜数十時間乾燥させる。
以下に、参考例、実施例、試験例を掲げて、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
なお、本明細書中において、熱分析(DSC測定、TG測定)は、(株)島津製作所製の熱流速示差熱量計DSC−50、熱重量測定装置TGA−50、熱分析システムTA−50を用いて、昇温10℃/分で行い、粉末X線回折の測定は、理学電気(株)製の粉末X線回折装置で行った。なお、該装置の測定誤差は±0.2度である。
参考例1
6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸(化合物A)のI型結晶
特許文献1の記載に基づき、化合物Aを得た。該化合物7.0gをアセトニトリル560gに加熱溶解した。該溶液を徐々に冷却し、溶液の温度が25℃になった時点で種晶としてI型結晶を0.022g加えて結晶化し、化合物AのI型結晶を1.80g得た。該結晶をDSC測定した結果、融解温度(吸熱ピーク)は、213〜225℃(分解)であった。
非特許文献1では、DSC測定で融解温度が高い順に、I型、II型、III型と規定している。参考例1、参考例2、実施例3で得られた結晶のDSC測定結果を比較したところ、本参考例により得られた結晶は、化合物AのI型結晶に該当した。
得られた結晶の粉末X線回折スペクトルデータを第1図に示す。化合物AのI型結晶は12.5度、16.5度、18.0度、24.0度に特有のピークを示す。
参考例2
6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸(化合物A)のII型結晶
特許文献1の記載に基づき、化合物Aを得た。該化合物14.4gをアセトニトリル560gに加熱溶解した。該溶液を徐々に冷却し、溶液の温度が25℃になった時点で種晶としてII型結晶を0.02g加えて結晶化し、化合物AのII型結晶を10.8g得た。該結晶をDSC測定した結果、融解温度(吸熱ピーク)は179〜189℃(I型結晶に転移)、及び、213〜225℃(分解)であった。
参考例1、参考例2、実施例3で得られた結晶のDSC測定結果を比較したところ、本参考例により得られた結晶は、化合物AのII型結晶に該当した。
得られた結晶の粉末X線回折スペクトルデータを第2図に示す。化合物AのII型結晶は9.9度、18.0度、20.3度、24.6度に特有のピークを示す。
【実施例1】
6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸・アセトニトリル溶媒和物(化合物B)の結晶
特許文献1の記載に基づき、化合物Aを得た。該化合物15.0gをアセトニトリル560gに加熱溶解し、種晶を加えずに結晶化を行い、化合物Bの結晶を無溶媒和物換算量で11.99g得た。該結晶をDSC測定した結果、融解温度(吸熱ピーク)は常温〜130℃(脱溶媒和)、134〜149℃(転移)、及び、213〜225℃(分解)であった。
▲1▼DSC測定、及び、TG測定した結果、脱溶媒和したときの質量減少量が化合物A1分子につきアセトニトリル1分子が溶媒和していることを示しており、質量減少後の結晶を粉末X線回折分析すると化合物AのIII型結晶のスペクトルと同一のチャートが得られ、▲2▼化合物AのIII型結晶をアセトニトリルの飽和蒸気中に放置した後にその結晶を粉末X線回折測定すると、実施例1の結晶のスペクトルデータと一致した。また、▲3▼十分に乾燥して付着溶媒を完全に排除した結晶をガスクロマトグラフィーにて測定した結果、アセトニトリルを検出したこと、さらに、▲4▼結晶化にはアセトニトリル以外の溶媒は用いていないことなどから、実施例1で得られた結晶は、化合物Aのアセトニトリル溶媒和物(化合物B)であることが判明した。
得られた結晶の粉末X線回折スペクトルデータを第3図に示す。化合物Bの結晶は、7.3度、12.6度、14.7度、16.5度、19.2度、22.3度、25.8度に特有のピークを示す。特に、7.3度、14.7度、19.2度、22.3度のピークが特徴的である。
【実施例2】
6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸・アセトニトリル溶媒和物(化合物B)の結晶
特許文献1の記載に基づき、化合物Aを得た。該化合物3.93gをアセトニトリル561.5gに加熱溶解した。該溶液を徐々に冷却し、溶液の温度が25℃になった時点で種晶として化合物Bを無溶媒和物換算で0.449g加えて結晶化し、化合物Bの結晶を無溶媒和物換算量で0.70g得た。物性値(DSC測定値及びX線回折測定値)は、実施例1で得られた結晶と一致した。
【実施例3】
6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸(化合物A)のIII型結晶
化合物Bの結晶9.8gを、50℃で、減圧下(20mmHg)で24時間乾燥し、脱溶媒和した(収量9.0g)。該結晶をDSC測定した結果、融解温度(吸熱ピーク)は134〜149℃(転移)、及び、213〜225℃(分解)であった。
参考例1、参考例2、実施例3で得られた結晶のDSC測定結果を比較したところ、本参考例により得られた結晶は、化合物AのIII型結晶に該当する。
得られた粉末X線回折スペクトルデータを第4図に示す。化合物Bの結晶は、7.5度、8.1度、13.7度、17.5度、26.1度に特有のピークを示す。本スペクトルチャートは、非特許文献1における化合物AのIII型結晶のX線回折スペクトルと一致した。
試験例1 結晶化において過飽和濃度が及ぼす影響
所定量の化合物Aを所定量のアセトニトリルに溶解し、種々の過飽和濃度で結晶化を行い、得られた結晶を粉末X線回折測定装置で測定した。その結果を表1に示す。

表1中、Iは化合物AのI型結晶、IIは化合物AのII型結晶、IIIは化合物AのIII型結晶、Bは化合物Bの結晶を表す。
表1に示す通り、自然核発生による結晶化のみならず、化合物AのIII型結晶を種晶として接種した場合であっても、化合物AのIII型結晶は得られず、得られたのは、化合物AのI型、II型及び化合物Bの結晶のみであった。従って、化合物AのIII型結晶は、再結晶により直接得られないことが判明した。
また、種晶なしの場合は、自然核発生時の過飽和濃度(g/100g)が2.15〜2.36のときに化合物Bの結晶が得られたが、この範囲より高濃度のときは化合物AのII型結晶、低濃度のときは化合物AのI型結晶の混入が見られた。
また、化合物Bの結晶を種晶として加えた場合は、接種時の過飽和濃度(g/100g)が0.41〜2.12のときにおいても化合物Bの結晶が得られた。これは、種晶を加えることによって他の結晶核(化合物AのI型結晶)の産生が抑制されることにより、化合物Bの結晶が優先的に晶出したためと考えられる。
試験例2 化合物Bの結晶の脱溶媒和物
化合物Bの結晶を、80℃で24時間減圧乾燥することにより脱溶媒和し、得られた結晶を粉末X線回折測定装置で測定した。その結果、得られた結晶の物性値は、実施例3で得られた結晶のスペクトルと一致した。従って、化合物Bの結晶を脱溶媒和することにより、化合物AのIII型結晶が得られることが分かった。
試験例3 結晶化溶媒についての検討
(1)化合物A50mgに3mlの溶媒を加え、溶解するか否かを検討した。
(2)化合物Aの溶媒中における安定性を調べるべく、化合物Aに2倍容量(溶媒容積(ml)/溶質重量(g))の溶媒を加え、50℃で1000分間保持後、高速液体クロマトグラフィーにて該化合物の安定性を検討した。
上記(1)の結果は表2中*1の欄に、上記(2)の結果は表2中*2の欄に示す。

表2の*1欄中、○は沸点が130℃以上の溶媒の場合には130℃で化合物Aが溶解するもの、沸点が130℃以下の溶媒の場合にはその沸点で化合物Aが溶解するもの(結晶化溶媒として適当と思われる溶媒)を示し、△は常温で化合物Aが溶解するもの(結晶化溶媒として可能性のある溶媒)を示し、×は沸点が130℃以上の溶媒の場合には130℃で化合物Aが溶解しないもの、沸点が130℃以下の溶媒の場合にはその沸点で化合物Aが溶解しないもの(結晶化溶媒として不適当な溶媒)を示す。また、表2の*2欄中、○は化合物A以外のピークがなかったもの(分解物なし)を示し、、×は化合物A以外のピークがあったもの(分解物あり)を示し、−は未試験を示す。
表2の*1欄に示す通り、化合物Bの結晶化に用いることができる可能性のある溶媒は、アセトニトリル以外には、ピリジン、ニトロメタン、クロロアセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ぎ酸、酢酸、アニリンの7種であった。しかし、ぎ酸、酢酸、アニリンの3種の溶媒中では、化合物Aの分解物が認められたため、上記3種の溶媒は、結晶化溶媒として不適当である。
そこで、他の4種の溶媒を用いて、所定量の溶媒中に所定量の化合物Aを加え、78℃以上に昇温して溶解させた後、25℃まで冷却した。析出した結晶をろ別し、粉末X線回折測定装置で測定した。その結果を表3に示す。

表3中、Iは化合物AのI型結晶、IIは化合物AのII型結晶を表す。
表3に示す通り、検討した4溶媒では、化合物AのI型、II型結晶以外の結晶は得られなかった。
試験例4 溶媒媒介転移についての検討
所定温度における飽和濃度以上となる量の化合物Bの結晶をアセトニトリルに加え(加えた結晶が全部溶解せず、結晶が存在する状態)、30分間攪拌した後に該結晶をろ取し、粉末X線回折測定装置で測定した。その結果を表4に示す。

表4に示す通り、67℃以下では、化合物Bの結晶から他の結晶への転移はみられなかったが、80℃においては、化合物Bの結晶の一部が、化合物AのI型結晶に転移することが分かった。
従って、化合物Bの結晶は、極力70℃以上のアセトニトリル中に存在させないように結晶化の条件を設定した方が好ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
本発明にかかる化合物Bの結晶は、化合物AのIII型結晶を製造するための重要な中間体である。化合物Bの結晶を製造することにより、化合物AのIII型結晶を優先的に製造することができる。
また、化合物Bの結晶は、過飽和濃度を制御することにより製造することが可能であるので、かかる製法は、高品質の医薬品原末(化合物AのIII型結晶)を提供するための優れた方法である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折スペクトルにおいて、少なくとも7.3度、14.7度、19.2度、22.3度に回折ピークを示す、6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸・アセトニトリル溶媒和物の結晶。
【請求項2】
粉末X線回折スペクトルにおいて、少なくとも7.3度、12.6度、14.7度、16.5度、19.2度、22.3度、25.8度に回折ピークを示す、請求項1記載の結晶。
【請求項3】
6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸のアセトニトリル溶液から、自然核発生時の過飽和濃度(g/100g)が2.15〜2.36になるように制御して結晶化することを特徴とする、6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸・アセトニトリル溶媒和物の結晶を製造する方法。
【請求項4】
6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸のアセトニトリル溶液から、種晶を接種する時の過飽和濃度(g/100g)が0.41〜2.36になるように制御して結晶化することを特徴とする、6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸・アセトニトリル溶媒和物の結晶を製造する方法。
【請求項5】
種晶を接種する時の溶液温度が70℃以下である、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸・アセトニトリル溶媒和物の結晶を脱溶媒和させることを特徴とする、6−フルオロ−1−メチル−7−[4−(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル−1−ピペラジニル]−4−オキソ−4H−[1,3]チアゼト[3,2−a]キノリン−3−カルボン酸のIII型結晶を製造する方法。

【国際公開番号】WO2004/096815
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505937(P2005−505937)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006216
【国際出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(000004156)日本新薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】