説明

キャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物

本発明は、2つ以上の化学的に連結されたエステル成分(そのうちの少なくとも1種が種子油又は植物油に由来する)を含む様々なポリエステルポリオール潤滑剤組成物(それらのいくつかがキャップ化される)及びそれらの調製に関する。本発明の組成物は、組成物が開始剤成分を含まないとき、又は、組成物が、樹枝状開始剤成分ではない開始剤を含むときのどちらかで、流動点降下剤を伴わない場合における摂氏−10°以下の流動点温度、及び、40センチポアズ(0.04パスカル秒)〜2000センチポアズ(2パスカル秒)の範囲内である摂氏25°での粘度を有し、また、組成物が樹枝状開始剤成分を含むとき、流動点降下剤を伴わない場合における摂氏−5°以下の流動点温度、及び、40センチポアズ(0.04パスカル秒)〜8000センチポアズ(8パスカル秒)の範囲内である摂氏25°での粘度を有する。本発明はまた、飽和物の少なくとも一部を前記組成物から除くためのプロセスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮特許出願第60/922,476号(2007年4月9日出願)の利益を主張する。
【0002】
本発明は一般にはキャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物に関する。本発明は、より具体的には、再生可能な原料源(例えば、遺伝子改変されようとも、又は、遺伝子改変されなくても、種子油又は植物油など)に基づくキャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物に関する。本発明は、さらにより具体的には、再生可能な原料源が、アルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油又は植物油であるキャップ化ポリエステルポリオール組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
「バイオ潤滑剤」、すなわち、石油又は天然ガスに由来するのではなく、むしろ、再生可能な資源(例えば、種子油又は植物油など)に基づく潤滑剤は、世界的な潤滑剤需要全体の小さいが、成長しつつある領域の1つである。バイオ潤滑剤は容易に生分解し、低い毒性を有し、また、水生生物及び周囲の植生に害を与えないようであるという観測結果のために、様々なバイオ潤滑剤が、環境に敏感な適用において、例えば、海洋用、林業用又は農業用の潤滑剤などにおいて特に支持される。そのような観測結果の少なくとも部分的な認識において、ドイツ及びオーストリアは全量喪失潤滑適用(例えば、チェーンソー潤滑など)における鉱油の使用を禁止し、ポルトガル及びベルギーは船外エンジンにおける生分解性潤滑剤の使用を命じている。石油又は天然ガスに由来する合成潤滑剤(例えば、ポリオールポリエステル、ポリアルキレングリコール及びポリ(α−オレフィン)など)と比較して、加水分解安定性、酸化安定性及び低温特性(流動点を含む)に関しての非修飾種子油の技術的な性能上の欠点は、バイオ潤滑剤としてのそのような種子油の成長を制限している。例えば、低温気候(摂氏−10°(℃)を下回る温度)において、植物油は、石油系製造物よりも容易に固化する傾向があり、従って、比較的高い(0℃〜−20℃の)流動点温度を有する。流動点降下剤を植物油に加えることにより、正味(添加剤非添加)の植物油の流動点温度よりも低い流動点温度を有する組成物が得られる。
【0004】
米国特許(USP)第5,335,471号は、メタクリラート及びスチレン/無水マレイン酸インターポリマーを種子油潤滑剤のための流動点降下添加剤として使用することを開示する。
【0005】
米国特許第5,413,725号は、同じインターポリマーを、高オレイン酸含有供給原料に由来する種子油潤滑剤のための流動点降下添加剤として使用することを教示する。
【0006】
米国特許第4,243,818号は、「ヒドロホルミル化」を、第5欄8行〜12行において、アルデヒドを触媒存在下における水素及び一酸化炭素との反応によって不飽和化合物から製造することとして定義する。好ましい不飽和化合物は、第5欄36行〜38行によれば、オレイルアルコールであるが、リノレイルアルコール又はリノレニルアルコールもまた、不飽和化合物として使用することができる。第9欄52行〜58行において、‘818号特許は、アルコールをその対応する不飽和エステル(例えば、アクリラート又はメタクリラート)に変換するために酸ハロゲン化物(例えば、アクリロイルクロリドなど)を使用することを教示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書を通して使用される場合、この段落において、又は、後続の段落において、又は、本明細書におけるどこか他のところで示される様々な定義は、最初に定義されたときにそれらに与えられる意味を有する。
【0008】
範囲が、2〜10の範囲でのように本明細書中で述べられるとき、別途具体的に除外される場合を除き、範囲の両方の端点(例えば、2及び10)がその範囲内に含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様はキャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物であり、本組成物は、必要に応じて、(a)直接的に、又は、(b)開始剤成分を介して間接的に、そのどちらかで互いに化学的に連結される少なくとも2つのエステル成分を含み、0.1重量パーセント〜2重量パーセントの範囲内であるヒドロキシル百分率(それぞれの重量パーセントが組成物重量に基づく)、及び、0重量パーセント〜32重量パーセントの範囲内である12炭素原子以上の炭素数の飽和炭化水素含有量(それぞれの重量パーセントが組成物重量に基づく)、40センチポアズ(cps)(0.04パスカル秒(Pa.s))〜2000cps(2Pa.s)の範囲内である摂氏25°での粘度、ならびに、摂氏−10°以下の流動点をも有する。
【0010】
本発明の第2の態様はポリエステルポリオール潤滑剤組成物であり、本組成物は、樹枝状開始剤成分を介して間接的に互いに化学的に連結される複数のエステル成分を含み、0.1重量パーセント〜31重量パーセントの範囲内であるヒドロキシル百分率(それぞれの重量パーセントが組成物重量に基づく)、及び、0重量パーセント〜32重量パーセントの範囲内である12炭素原子以上の炭素数の飽和炭化水素含有量(それぞれの重量パーセントが組成物重量に基づく)、40センチポアズ〜8000センチポアズの範囲内である摂氏25°での粘度、ならびに、摂氏−5°以下の流動点を有する。樹枝状開始剤成分は、好ましくは、樹枝状ベース生成物又はそのアルコキシル化体に由来する。
【0011】
本発明のポリエステルポリオール潤滑剤組成物は、キャップ化されようとも、又は、キャップ化されなくても、例えば、油圧油として有用性を有する。様々な油圧油が、林業設備及び海洋設備と同様に、採鉱、鋼、ダイカスティング及び食品加工を含む様々な産業分野に共通する様々な装置において使用される。さらに、そのような潤滑剤組成物はまた、例えば、エンジン油、トランスミッション液及びギア油として、あるいは、そのような油又は液の成分として、自動車分野における潜在的有用性を有する(様々な適用における流体、例えば、ギア油、トランスミッション液、エンジン油及びコンプレッサー液など)。潤滑剤組成物に携わる当業者は、本発明の潤滑剤組成物についての他の好適な最終用途適用を容易に理解する。
【0012】
本発明の第3の態様は、ポリエステルポリオール潤滑剤組成物、特に、第1の態様のキャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物を調製する方法であり、この方法は、
a.モノマー(好ましくは、アルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油)、キャップ剤、触媒、及び、必要な場合には開始剤を含む反応混合物を、摂氏170°〜摂氏200°の範囲内である高い温度に供して、反応混合物の少なくとも一部をキャップ化ポリエステルポリオール及び揮発性副生成物に変換すること;及び
b.揮発性副生成物の少なくとも一部を同時に除くこと
を含む。
【0013】
本発明の第4の態様は、ポリエステルポリオール潤滑剤組成物、特に、第2の態様のポリエステルポリオール潤滑剤組成物を調製する方法であり、この方法は、
a.モノマー(好ましくは、アルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油)、触媒、及び、必要な場合には開始剤を含む反応混合物を、摂氏170°〜摂氏200°の範囲内である高い温度に供して、反応混合物の少なくとも一部をポリエステルポリオール及び揮発性副生成物に変換すること;及び
b.揮発性副生成物の少なくとも一部を同時に除くこと
を含む。
【0014】
第3の態様又は第4の態様のどちらかの方法は、好ましくは、そのようなアルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油(モノマー)を調製するための複数の連続する前駆体工程をさらに含み、ただし、この連続する前駆体工程は、順に、
a1.種子油をアルカノール化して、種子油に存在するグリセリドを、直鎖構造又は分枝構造を有し、かつ、1個の炭素原子(C)から15個の炭素原子(C15)までを含有するアルカノールの飽和脂肪酸エステル及び不飽和脂肪酸エステルの混合物に変換すること;
a2.飽和脂肪酸エステル及び不飽和脂肪酸エステルの混合物をヒドロホルミル化して、前記混合物をアルデヒド又はアルデヒドの混合物に変換すること;及び
a3.アルデヒド又はアルデヒドの混合物を、水素化触媒の助けをかりて水素雰囲気において還元して、前記アルデヒド又はアルデヒドの前記混合物を、ヒドロキシメチル置換された脂肪酸又はヒドロキシメチル置換された脂肪酸エステルのアルコール組成物に変換すること
を含む。
【0015】
工程a2.は、好ましくは、可溶化されたVIII族遷移金属−有機ホスフィン配位子錯体触媒と一緒に、必要な場合には、可溶化された遊離有機ホスフィン金属塩配位子とともに、非水性の反応媒体において行われる。
【0016】
本明細書中で使用される場合、「モノマー」は、アルコール官能性と、酸官能性又はエステル官能性のどちらかとの両方を有する化合物を示す。好ましいモノマーには、アルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油が含まれる。
【0017】
本発明の第5の態様が、飽和物の少なくとも一部を第1の態様のキャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物又は第2の態様のポリエステルポリオール潤滑剤組成物から除くための方法であり、この場合、そのような方法は、キャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物又はポリエステルポリオール潤滑剤組成物である加熱された原料供給流を、飽和物濃縮部分及び飽和物減少残部に分離するために減圧下で運転されるワイプド薄膜エバポレーターに供給することを含む。原料供給流は、好ましくは、摂氏90度〜摂氏150度の範囲内である温度に加熱され、減圧は、好ましくは、0.01ミリメートル水銀〜1ミリメートル水銀の範囲内である。第5の態様の好ましい変形の1つにおいて、ワイプド薄膜エバポレーターの1回の通過から得られる飽和物減少流が、ワイプド薄膜エバポレーターの次回の通過のための加熱された原料供給流として使用され、それにより、飽和物減少流の飽和物含有量がさらに低下させられる。
【0018】
本明細書中で使用される場合、「キャップ剤」は、アルコール官能性を有しないエステル又はカルボン酸を示す。好適なキャップ剤には、6個〜12個の炭素原子のカルボン酸(C〜C12)の短鎖カルボン酸又は短鎖低級アルキルエステル、好ましくは、6個〜10個の炭素原子(C〜C10)のカルボン酸の短鎖カルボン酸又は短鎖低級アルキルエステル、より好ましくは、Cカルボン酸及びC10カルボン酸の短鎖カルボン酸又は短鎖低級アルキルエステル、そのようなカルボン酸又は低級アルキルエステルの2つ以上からなる混合物(例えば、Cカルボン酸及びC10カルボン酸の短鎖低級カルボン酸又は短鎖低級アルキルエステルからなる混合物)、一層より好ましくは、そのようなカルボン酸の1つ又はそれ以上のカルボン酸又はメチルエステルが含まれる。
【0019】
本明細書中における元素周期表に対する参照は、CRC Press,Inc.によって2003年に発行され、著作権がある元素周期表を参照しなければならない。同様に、族(1つ又はそれ以上)に対する何らかの参照は、族を番号表記するためのIUPACシステムを使用してこの元素周期表に反映される族(1つ又はそれ以上)に対するものとする。
【0020】
そうでないことが述べられる場合、又は、文脈から暗黙的である場合、又は、当分野において慣例的である場合を除き、すべての部及びパーセントは重量に基づく。米国特許実務のために、本明細書中で参照されるいずれかの特許、特許出願又は刊行物の内容は、特に合成技術、定義(本明細書中に提供されるいずれかの定義とも矛盾しない程度に)、及び、当分野における一般的知識の開示に関して、本明細書によりその全体において参照により組み込まれる(又は、その同等な米国対応物が参照によりそのように組み込まれる)。
【0021】
用語「含む」及びその派生形は、何らかのさらなる成分、工程又は手順が本明細書中に開示されるか否かによらず、何らかのさらなる成分、工程又は手順の存在を除外するために意図されない。何らかの疑念を避けるために、用語「含む」の使用により本明細書中で主張されるすべての組成物は、そうでないことが述べられる場合を除き、(ポリマー状であろうとも、又は、そうでない場合であろうとも)何らかのさらなる添加剤、補助剤又は化合物を含むことができる。対照的に、用語「から本質的になる」は、何らかの続く列挙の範囲から、何らかの他の成分、工程又は手順を、操作性に必須でないものを除いて除外する。用語「からなる」は、具体的に描写又は列挙されない何らかの成分、工程又は手順を除外する。用語「又は(あるいは、もしくは)」は、別途述べられる場合を除き、列挙されたものを個々に、同様にまた、列挙されたものを任意の組合せで示す。
【0022】
温度の表現は、摂氏度(℃)でのその同等値とともに華氏度(°F)、又は、より典型的には、単に摂氏度(℃)のどちらかによってであり得る。
【0023】
アルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油(これは時には「エステルアルコール」として示される)の調製は、3つの連続する工程、すなわち、アルカノリシス、ヒドロホルミル化及び還元を伴う。アルカノリシス(これはまた、エステル交換として公知である)は、種子油に存在するグリセリドをアルカノールの飽和脂肪酸エステル及び不飽和脂肪酸エステルの混合物に変換する。当業者は、グリセリドは、処理及び分離することが困難であり得ること、また、そのようなグリセリドのエステル交換は、化学的変換及び分離のためにより好適である混合物をもたらすことを理解している。
【0024】
アルカノール(これは時には「低級アルカノール」として示される)は直鎖構造又は分枝構造を有することができ、典型的には、1個〜約15個の炭素原子(C〜C15)を含有し、好ましくは1個〜8個の炭素原子(C〜C)を含有し、より好ましくは1個〜4個の炭素原子(C〜C)を含有する。特に好適なアルカノールには、メタノール、エタノール及びイソプロパノールが含まれ、メタノールが好ましい。アルカノールのアルコールセグメントにおける炭素原子は、そのような置換基が加工及び下流側の適用を妨害しないならば、様々な置換基により置換され得る。
【0025】
水を結果的には除きながら、1つの分子におけるアルコール部分と、異なる分子におけるカルボン酸部分とを縮合することによるいずれかの公知の直接的なエステル化方法、又は、公知のエステル交換方法論を選ぶことができ、メタノリシス及びエタノリシスが、例えば、特許協力条約出願(WO)第2001/012581号、独国特許出願公開(DE)第19908978号、ブラジル国特許出願公開(Br)第953081号及び米国特許第3,210,325号に記載される(これらの教示は、法によって許される最大限に本明細書中に組み込まれる)。典型的には、そのようなプロセスにおいて、低級アルカノールが、対応する金属アルコキシドを調製するために、約30℃〜約100℃の範囲内の温度でアルカリ金属、好ましくは、ナトリウム又はカリウムと接触させられる。その後、種子油が、反応混合物を形成するために金属アルコキシドに加えられ、反応混合物が、エステル交換を達成するために約30℃〜約100℃の範囲内の温度に加熱される。エステル交換された粗生成物の、反応混合物からの分離では、様々な標準的技術を伴うことができ、例えば、相分離、抽出、蒸留、又は、2つ以上の標準的技術の組合せを伴うことができる。
【0026】
脂肪酸エステルではなく、むしろ、脂肪酸の混合物を使用することが選ばれるならば、種子油を、従来の技術を使用してその構成脂肪酸に加水分解することができる。そのような酸は従来の技術によって容易にエステル化することができ、ただし、エステル化は水を副生成物としてもたらす。
【0027】
米国特許出願公開(USPAP)第2006/0193802号(その教示は参照により本明細書中に組み込まれる。特に段落[0037]〜段落[0042]における教示)は、非水下でのヒドロホルミル化を強調して、ヒドロホルミル化を議論する。米国特許出願公開第2006/0193802号はまた、米国特許第4,731,486号及び米国特許第4,633,021号(特に、米国特許第4,731,486号)を参照しており、それらの教示を参照により取り込む。
【0028】
概括的に言えば、ヒドロホルミル化は、本発明において実施される場合、脂肪酸エステル又は脂肪酸(好ましくは、種子油に由来する脂肪酸エステル又は脂肪酸)の混合物を、脂肪酸エステル又は脂肪酸をアルデヒド又はアルデヒドの混合物に変換するために十分な条件のもと、可溶化されたVIII族(元素周期表、表紙裏、CRC Handbook of Chemistry and Physics、77thEdition、1996〜1997)遷移金属−有機ホスフィン配位子錯体と一緒に、必要な場合には可溶化された遊離有機ホスフィン金属塩配位子とともに、非水性の反応媒体において一酸化炭素(CO)及び水素(H)と接触させることを含む。本明細書中で使用される「非水性の反応媒体」は、実質的に水を含まない反応媒体を意味する。言い換えれば、存在するかもしれない何らかの水が、ヒドロホルミル化が、有機相に加えて、別個の水相又は水性相を含むとして特徴づけられないような少量で存在する。「遊離有機ホスフィン金属塩配位子」は、有機ホスフィン金属配塩位子が錯体形成していないこと、すなわち、有機ホスフィン金属配塩位子がVIII族遷移金属に結合していないか、又は、拘束されていないことを意味する。
【0029】
米国特許出願公開第2006/0193802号の段落[0038]は、VIII族遷移金属を、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)及びそれらの混合物からなる群と同じように扱う。好ましいVIII族遷移金属には、Rh、Ru、Co及びIrが含まれ、Rh及びCoがより好ましく、Rhが最も好ましい。VIII族遷移金属の好適な量が、遊離金属として計算されたとき、10重量部/百万重量部(ppm)から1000ppmにまで及び、約10ppm〜約800ppmの範囲内の量が、遊離金属として計算されるRhについて好ましい。
【0030】
米国特許出願公開第2006/0193802号の段落[0039]は、有機ホスフィン金属塩配位子に関する教示を含み、有機ホスフィン金属塩配位子が、モノスルホン化された第三級ホスフィンの金属塩を含むことを特筆する。段落[0039]は、そのような配位子の限定されない例について米国特許第4,731,486号を参照する。好ましい配位子の例には、トリフェニルホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、フェニルジシクロヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジフェニルイソプロピルホスフィン、フェニルジイソプロピルホスフィン、ジフェニル−t−ブチルホスフィン及びフェニル−ジ−t−ブチルホスフィンのモノスルホン化金属塩誘導体が含まれ、フェニルジシクロヘキシルホスフィンの誘導体が特に好ましい。
【0031】
米国特許出願公開第2006/0193802号の段落[0040]は好適な有機可溶化剤を開示しており、米国特許第5,180,854号及び米国特許第4,731,486号の教示を参照により取り込む。米国特許第5,180,854号は、アミド、グリコール、スルホキシド、スルホン及びそれらの混合物を含む有機可溶化剤を示す。米国特許第4,731,486号は、150〜10,000以上の平均分子量を有するアルキレンオキシドオリゴマー、同様にまた、少なくとも300の平均分子量を有する有機非イオン性界面活性モノオール、ならびに、水溶性(極性)基及び油溶性(非極性)基の両方を含有するアルコールアルコキシラート(これはTERGITOL(商標)の商品名で入手可能である)を示す。
【0032】
ヒドロホルミル化のさらなる参考文献(それらの教示は参照により本明細書中に組み込まれる)には、米国特許第4,243,818号が含まれる。使用されるとき、第2の態様の工程a.に先行する前駆体工程では、出発物質における不飽和のゼロパーセント超からそのような不飽和の100パーセントまでと官能基化するために、又は、反応するために十分なヒドロホルミル化が含まれる。ヒドロホルミル化は、不飽和の少なくとも(≧)20パーセント(%)と反応するために十分であることが好ましく、不飽和の≧50%と反応するために十分であることがより好ましく、不飽和の≧80%と反応するために十分であることが最も好ましい。
【0033】
ヒドロホルミル化を議論するさらに他の参考文献(それらの教示は、法によって許される最大限に本明細書中に組み込まれる)には、米国特許第4,423,162号(特に第3欄50行〜第4欄36行)、米国特許第4,723,047号、カナダ国特許出願(CA)第2,162,083号、国際公開第2004/096744号、米国特許第4,496,487号、米国特許第4,216,343号、米国特許第4,216,344号、米国特許第4,304,945号及び米国特許第4,229,562号が含まれる。
【0034】
米国特許出願公開第2006/0193802号(これは以前に参照により本明細書中に組み込まれる)は、例示的な植物油及び植物種子油を段落[0030]において列挙する。そのような油には、パーム油、パーム核油、ひまし油、ダイズ油、オリーブ油、ピーナッツ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、綿実油、カノーラ油、ベニバナ油、亜麻仁油、ヒマワリ油;高オレイン酸油、例えば、高オレイン酸ヒマワリ油、高オレイン酸ベニバナ油、高オレイン酸トウモロコシ油、高オレイン酸ナタネ油、高オレイン酸ダイズ油及び高オレイン酸綿実油など;この段落において記される油の遺伝子改変変化体、ならびに、それらの混合物が含まれる。好ましい油には、ダイズ油(天然ダイズ油及び遺伝子改変ダイズ油の両方)、ヒマワリ油(高オレイン酸ヒマワリ油を含む)、及び、カノーラ油(高オレイン酸カノーラ油を含む)が含まれる。高オレイン酸油、特に、12炭素原子以上の炭素数の飽和炭化水素含有量が0重量パーセント〜32重量パーセントの範囲内である高オレイン酸油、具体的には、12炭素原子以上の炭素数の飽和炭化水素含有量が10重量パーセント未満である高オレイン酸油は、その天然油対応体よりも大きい熱酸化安定性及び低い流動点を有する傾向がある(例えば、高オレイン酸ヒマワリ油対天然ヒマワリ油)。
【0035】
米国特許出願公開第2006/0193802号はまた、アルデヒド(ヒドロホルミル化又はホルミル置換された脂肪酸又は脂肪酸エステル)のアルコールへの還元又は水素化を段落[0047]において議論する。一般に、水素化では、ホルミル置換された脂肪酸及び/又はホルミル置換された脂肪酸エステルが、ホルミル置換された酸及び/又はエステルをヒドロキシメチル置換された脂肪酸又は脂肪酸エステルのアルコール組成物に変換するために十分な条件のもと、水素化触媒の存在下、水素の供給源との接触状態に置かれる。水素の供給源には、純水素、ならびに、非反応性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン又は飽和炭化水素など)により希釈される水素が含まれる。水素化触媒は典型的には、上記で記された元素周期表のVIII族、IB族又はIIB族から選択される金属を含む。例示的な金属には、Pd、Pt、Rh、Ni、銅(Cu)、亜鉛(Zn)及びそれらの混合物が含まれる。金属は、ラネー金属として、又は、好適な触媒担体(例えば、炭素又はシリカなど)における担持された金属として供給され得る。水素化温度は50℃から250℃にまで及ぶ。水素化圧力は好適には、50ポンド/平方インチゲージ(psig)(345キロパスカル(kPa))から1,000psig(6,895kPa)にまで及ぶ。
【0036】
本発明のキャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物は、直接的に、又は、開始剤成分(これはまた、キャップ化ポリエステルポリオールに取り込まれる開始剤のそのような部分として公知である)を介して間接的に、そのどちらかで互いに化学的に連結される少なくとも2つのエステル成分を含む。本発明のキャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物は、当業者がそのような組成物を所望の潤滑剤適用と一致させることを助けるいくつかの特徴又は性能パラメーターを有する。
【0037】
本発明のポリエステルポリオール潤滑剤組成物は、そのキャップ化類縁体と同様に、直接的に、又は、開始剤成分(これはまた、ポリエステルポリオールに取り込まれる開始剤のそのような部分として公知である)を介して間接的に、そのどちらかで互いに化学的に連結される少なくとも2つのエステル成分を含み、また、当業者がそのような組成物を所望の潤滑剤適用と一致させることを助けるいくつかの特徴又は性能パラメーターを有する。
【0038】
本発明の第1の態様の組成物は、キャップ化されようとも、又は、キャップ化されなくても、樹枝状開始剤成分とは異なる開始剤成分を含むことができ、好ましくは、樹枝状開始剤成分とは異なる開始剤成分を実際には含む。そのような組成物は、好ましくは0.1重量パーセント(wt%)〜2wt%の範囲内であるヒドロキシル百分率を有し、より好ましくは0.2wt%〜1wt%の範囲内であるヒドロキシル百分率を有し、さらにより好ましくは0.3wt%〜0.7wt%の範囲内であるヒドロキシル百分率を有する(それぞれのwt%が組成物重量に基づく)。本発明の第2の態様の組成物は、キャップ化されようとも、又は、キャップ化されなくても、好ましくはキャップ化されないが、樹枝状開始剤成分を含む。そのような組成物は、好ましくは0.1wt%〜31wt%の範囲内であるヒドロキシル百分率を有し、より好ましくは10wt%〜31wt%の範囲内であるヒドロキシル百分率を有する(それぞれのwt%が組成物重量に基づく)。0重量パーセントのヒドロキシ百分率を達成することは、技術的には可能である一方で、非常に費用がかかり、潤滑性の観点からは逆効果である。潤滑性は粘度及びヒドロキシル含有量の複雑な関数であり、同様に、粘度は分子量及びヒドロキシル百分率の関数である。そのようなものとして、上記範囲に含まれるヒドロキシル含有量が潤滑性及び粘度の両方に有利に影響し、妥当な費用でそのように影響する。
【0039】
本発明の組成物はまた、好ましくは0wt%〜32wt%の範囲内である12炭素原子以上の炭素数の飽和炭化水素の含有量を有し、より好ましくは0.1wt%〜10wt%の範囲内である12炭素原子以上の炭素数の飽和炭化水素の含有量を有し、さらにより好ましくは0.2wt%〜2wt%の範囲内である12炭素原子以上の炭素数の飽和炭化水素の含有量を有する(それぞれのwt%が組成物重量に基づく)。一般則として、より低い飽和炭化水素含有量は、組成物の流動点が飽和炭化水素含有量の増大とともに増大する傾向があるので、より大きい飽和炭化水素含有量よりも良好である。
【0040】
加えて、第1の態様の組成物は、好ましくは少なくとも40センチポアズ(cps)(0.04パスカル秒(Pa.s))から、より好ましくは少なくとも50cps(0.05Pa.s)から、さらにより好ましくは少なくとも75cps(0.075Pa.s)から、一層より好ましくは少なくとも100cps(0.1Pa.s)から、2000cps(2Pa.s)まで、より好ましくは1500cps(1.5Pa.s)まで、さらにより好ましくは1000cps(1Pa.s)まで、一層より好ましくは800cps(0.8Pa.s)までである25℃での粘度を有する。さらに、第1の態様の組成物は、好ましくは−10℃以下である流動点を有し、より好ましくは−20℃以下である流動点を有し、さらにより好ましくは−25℃以下である流動点を有し、最も好ましくは−30℃以下である流動点を有する。表現「以下(or less)」は、温度においてより低いことを意味する。例えば、−15℃は−10℃未満である。
【0041】
対照として、第2の態様の組成物は、好ましくは40センチポアズ(cps)(0.04パスカル秒(Pa.s))〜8000cps(8Pa.s)の範囲内である25℃での粘度を有し、より好ましくは1000cps(1Pa.s)〜7800cps(7.8Pa.s)の範囲内である25℃での粘度を有し、さらにより好ましくは50cps(0.05Pa.s)〜7500cps(7.5Pa.s)の範囲内である25℃での粘度を有する。さらに、第1の態様の組成物は、好ましくは−5℃以下である流動点を有し、より好ましくは−7℃以下である流動点を有する。
【0042】
当業者は、組成物の流動点が、従来の流動点降下剤(例えば、ポリアルキルメタクリラート及びスチレン/無水マレイン酸インターポリマーなど)の添加によって変更され得ることを認識している。当業者はまた、組成物総重量(流動点降下剤を含む)に基づいて約2wt%を超える流動点降下剤の量は、典型的には、流動点における最小限のさらなる改善をもたらすが、実際には組成物の費用を増大させることもまた認識している。
【0043】
組成物は、好ましくは120超である、より好ましくは140超である、さらにより好ましくは150超である、下記で詳述されるように求められる粘度指数又はVIを有する。400を超えるVIは公知ではあるが、希である。当業者は、VIにより、潤滑剤の粘度が温度とともにどのように変化するかが示されることを認識している。例えば、低いVI(例えば、100)は、流体が、広範囲の温度(例えば、20℃〜100℃)にわたって運転される1つの設備を潤滑するために使用されるとき、流体の粘度が相当に変化することを示唆する。当業者はまた、VIが増大するにつれ、潤滑剤の性能もまた、改善する傾向があることを認識している。その認識に基づいて、当業者は、より低いVI値(例えば、100)よりも、より高いVI値(例えば、150)を好む。比較のために、典型的な潤滑剤のVI範囲は下記の通りである。鉱油=95〜105;ポリα−オレフィン=120〜140;合成エステル=120〜200、及び、ポリアルキレングリコール=170〜300。
【0044】
本発明のポリエステルポリオール潤滑剤組成物は、キャップ化されようとも、又は、キャップ化されなくても、少なくとも2つのエステル成分を連結する開始剤成分を含む必要はないが、好ましくは、少なくとも2つのエステル成分を連結する開始剤成分を実際には含む。本発明の第1の態様の組成物の開始剤成分は、本発明の第2の態様の方法において使用される開始剤に由来する。開始剤が存在するとき、開始剤は、アルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油の一部分(好ましくは、前記アルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油の反応性のエステル部分)と反応する少なくとも2つの反応性部位(好ましくは、ペンダント状ヒドロキシル基又は末端ヒドロキシル基)を有する。キャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物を作製するとき、キャップ剤が同様に、アルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油の同じ部分又は異なる部分と反応する。
【0045】
開始剤成分が由来する好適な開始剤は式R−(OH)によって表すことができ、式において、Rは、直鎖アルキル成分、分枝型アルキル成分又は環状アルキル成分であり、nは0〜64の範囲内の整数であり、好ましくは1〜64の範囲内の整数であり、非常に満足できる結果が、nが、2、3、6、12、16、32及び64からなる群より選択される整数であるときに得られる。特に好ましい結果が、nが1〜32の範囲内の整数であるときに生じ、好ましくは、第1の態様の組成物については、nが、2、3及び6からなる群より選択される整数であるときに、又は、第2の態様の組成物については、nが、12、16、32及び64からなる群より選択される整数であるときに生じる。Rは、好ましくは、1個〜6個の炭素原子(C〜C)を含有し、より好ましくは1個〜6個未満の炭素原子を含有する。
【0046】
式R−(OH)における「n」を、反応性部位の数を表すと見なすこともできる。開始剤成分が第1の態様のキャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物又は第2の態様のポリエステルポリオール潤滑剤組成物に存在せず、また、開始剤が第3又は第4の態様の方法において使用されないならば、nは事実上、ゼロに等しい。好適な開始剤には、ネオペンチルグリコール(NPG)、ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジオールの異性体、シクロヘキサンジメタノールの異性体、ヒドロキノンビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル、グリセリン、エトキシル化グリセリン(例えば、IP−625、これは、The Dow Chemical Companyから市販されている)、トリメチロールプロパン、ソルビトール、PerstorpからBOLTORN(登録商標)の取引名称で市販されている超分岐型生成物又は樹枝状ベース生成物の1つ又はそれ以上が含まれるが、これらに限定されない。例えば、BOLTORN(登録商標)H20は16のn値及び1,750の公称重量平均分子量(M)を有し、BOLTORN(登録商標)H2003は12のn値及び2,300のMを有し、BOLTORN(登録商標)H2004は6のn値及び3,100のMを有し、BOLTORN(登録商標)H30は32のn値及び3,600のMを有し、BOLTORN(登録商標)H40は64のn値及び7,300のMを有する。本発明は、いずれかの特定の開始剤に限定される必要はなく、当業者は、本明細書中において具体的に特定される開始剤に匹敵する性能をもたらす好適な開始剤を容易に選択することができる。
【0047】
第1欄21行〜55行において、米国特許第6,627,720号(Campbellら)は「超分岐ポリマー」を議論しており、超分岐ポリマーを、最終製造物を製造するためのさらなる反応のために有用であり得る非常に多数の反応基を多くの場合には含有する高度に枝分かれしたポリマー鎖からなる物質として記載する。超分岐ポリマーの重要な性質の1つが、類似する分子量のそれほど高度に枝分かれしていないポリマーと比較してその低い粘度である。
【0048】
Campbellらは、超分岐ポリマーがデンドリマー又はランダム超分岐ポリマーのどちらかとして分類され得ることを特に言及する。デンドリマーは、ポリマーが外側に向かって成長するにつれ、枝分かれが生じ、これにより、比較的高い対称性の構造をもたらす中心位置に起源を有する。反応条件及び化学的量論の厳しい制御が、デンドリマーを製造するために要求される。ランダム超分岐ポリマーは標準的な重合反応からより容易に得ることができる。Campbellらは、ランダム超分岐ポリマーの製造のために用いられる方法では通常、異なるポリマー鎖に存在する官能基を反応して、分岐を生じさせる別個の重合後工程が必要であることを教示する。
【0049】
所望されるならば、本発明のポリエステルポリオール潤滑剤組成物は、第1の態様でのようにキャップ化されようとも、又は、第2の態様でのようにキャップ化されなくても、本明細書中に開示される種子油又は植物油の1つ又はそれ以上の所定量によって強化され得る。潤滑剤組成物に存在するとき、そのような種子油又は植物油は典型的には、1wt%〜90wt%の範囲内の量を構成し、好ましくは、10wt%〜80wt%の範囲内の量を構成し、より好ましくは、30wt%〜70wt%の範囲内の量を構成する(それぞれの場合において、キャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物と、種子油又は植物油との総合重量に基づく)。
【0050】
本発明の第3及び第4の態様の方法では、触媒が反応混合物の一部として含まれる。触媒は、活性化エネルギーを低下させ、かつ、エステル化/エステル交換の反応速度を増大させる傾向がある。酸及び塩基の両方を触媒として使用することができる。例示的な触媒には、II価スズ触媒、例えば、ビス(エチルヘキサン酸)第一スズなど;IV価スズ系触媒、例えば、オクタン酸スズ、ジブチルスズジラウラート、ブチルスズ酸及びジブチルスズオキシドなど;可溶性の鉱酸;炭酸ナトリウム;金属アルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、チタンプロポキシド又はチタンイソプロポキシド);水酸化ナトリウム;水酸化カリウム;炭酸ナトリウム;炭酸カリウム;三フッ化ホウ素;及び二塩化亜鉛が含まれるが、これらに限定されない。直接的なポリエステル化のための他の周知の触媒は、より高い温度については特に、アンチモン、ゲルマニウム及びチタンに基づいている。
【0051】
分析手順
40℃及び100℃での動粘度(センチストークス(cSt)及びそのメートル法換算値(平方メートル/秒(m/秒)の単位で)を、Stabinger粘度計を、American Society for Testing and Materials(ASTM)D7042に従って使用して求める。動粘度を使用して、VIを、ASTM D2270に従って計算する。
【0052】
潤滑剤の流動点を、ASTM D97−87に従って測定する。
【0053】
熱重量分析(TGA)を使用して、潤滑剤物質の熱酸化安定性を評価する。TGA評価では、潤滑剤サンプルを気流中において10℃/分の速度で加熱すること、及び、潤滑剤の重量減少を、2パーセント(2%)の重量減少、5%の重量減少及び50%の重量減少について温度に対して記録することが含まれる。
【0054】
動摩擦係数を、スチールプレート及び振動するスチール球を含むOptimol SRV(Schwingungen Reibung Verschliess)摩擦装置を使用して測定する。3滴の候補潤滑剤流体をプレートに置き、球をプレートの上に置くが、球は3滴の候補液の中に配置される。1時間の試験時間にわたって、200ニュートン(N)の荷重を球に対して、また、直角にプレートに対して加え、50ヘルツの(プレート上の球の)振動周波数及び1ミリメートル(1mm)の振動距離を使用する。SRV摩擦係数を30℃及び60℃で求める。
【0055】
同じ装置、振動周波数、振動距離及び温度を使用するが、50Nの付加荷重から開始し、荷重を、破壊荷重に達するまで1分毎に100Nまで増大する。「破壊荷重」又は「破壊限界」は、候補流体が「壊れる」(摩擦係数における急激な増大を受ける)付加荷重に等しい。結果を、流体が壊れる前に球に加えられた最大荷重として報告する。
【0056】
FALEX(商標)4ボールスラストワッシャ試験装置(Model TW80)を使用して、候補流体を、ASTM D5183−95に従って、摩耗傷跡及び摩擦係数(COF)決定のために評価する。流体評価のための試験パラメーターには、60分の試験時間、1200回転/分(rpm)の速度、及び、90ポンド(40.9キログラム(kg))の付加荷重が含まれる。荷重セルを使用して、トルクを測定する。試験後、頂点接眼レンズ(eyepiece verticule)備える顕微鏡を使用して、摩耗傷跡の長さを測定する。摩擦係数(COF)を、5.67の装置依存定数に、測定されたトルクを付加荷重によって除することによって求められる商を乗じることによって計算する。
【実施例】
【0057】
下記の実施例は本発明を例示するが、本発明を限定しない。すべての部及び百分率は、別途述べられる場合を除き、重量に基づく。すべての温度が℃である。本発明の実施例(実施例)はアラビア数字によって示され、比較例(Comp 実施例)は大文字のアルファベット文字によって示される。本明細書中で別途述べられる場合を除き、「室温」及び「周囲温度」は名目的には25℃である。
【0058】
ヒドロホルミル化及び還元された脂肪酸メチルエステルを調製するための一般的手順
A.脂肪酸メチルエステルのヒドロホルミル化
触媒溶液を、撹拌を行いながら、0.078グラム(g)のジカルボニルアセトナトロジウム及び0.751gのジシクロヘキシル−(3−スルホニルフェニル)ホスフィンモノナトリウム塩を窒素雰囲気下で53.893gのn−メチル−2−ピロリジノンに溶解することによって調製する。
【0059】
11.06gの触媒溶液を、窒素パージされた100mlのステンレススチール製オートクレーブに移す。オートクレーブを合成ガス(ガス状の水素及び一酸化炭素の1:1のモル比)により200psig(1,379kPa)の圧力設定値に加圧し、オートクレーブの内容物を、700回転/分(rpm)の速度で運転する機械的撹拌装置を使用する撹拌とともに、90℃の温度に加熱し、その温度を15分間維持する。90℃の温度での撹拌を続けながら、38.98gのダイズメチルエステル混合物(11wt%のパルミチン酸メチル、4wt%のステアリン酸メチル、25wt%のオレイン酸メチル、52wt%のリノール酸メチル及び8wt%のリノレン酸メチル、それぞれの重量パーセントは混合物総重量に基づく)を加える。十分な新鮮な合成ガスを加えて、オートクレーブを400psig(2,758kPa)の圧力設定値に加圧する。反応装置の内容物を、撹拌を行いながら、400psig(2,758kPa)の圧力設定値のもとで22.5時間にわたって90℃の温度で維持して、アルデヒド生成物組成物を得る(アルデヒドへの混合メチルエステルの変換率、84%)。
【0060】
アルデヒド生成物組成物のサンプル量(ジグライムにおける1:1希釈物の1μlのサンプル注入体積)を、DB−5キャピラリーカラム及び水素炎イオン化検出器(FID)を備えるHP6890GCを使用してガスクロマトグラフィー(GC)によって内部標準物としてのジグライムに対して分析する。直接の較正(標準物質の既知濃度物の注入による)により、下記の成分についての応答係数がもたらされる。パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、リノール酸メチル、ホルミルステアリン酸メチル。アルデヒド生成物組成物のジアルデヒド成分及びトリアルデヒド成分についての応答係数を、不飽和脂肪酸メチルエステルの天然産物分布物の設定体積量をヒドロホルミル化することによって求める。(オレイン酸メチルをヒドロホルミル化することから得られる)既知のモノアルデヒド応答係数の応答係数を使用して、ジアルデヒド及びトリアルデヒドの応答係数を、既知のモノアルデヒドサンプル含有量とともにそれらのそれぞれの積分シグナル強度及び質量差に基づいて求める。この技術を使用する推定誤差は、ジアルデヒドについては±1%であり、トリアルデヒドについては±20%である。
【0061】
ダイマー及び重重量物の濃度を、アルデヒド生成物組成物のサンプル(ジグライムにおける1:1希釈物の1μlのサンプル注入体積)を希釈し、希釈されたサンプルを、40℃/分の温度上昇速度で100℃〜350℃の温度範囲にわたって操作されるHP6890GC及びZB−1キャピラリーカラムをFIDと併せて使用するGC分析に供することによって求める。GC分析からのクロマトグラムを2つの領域(生成物領域及び重重量物領域)に分け、その後、目的とする化合物のGC測定ピーク面積が、サンプルから生じるすべてのピーク面積の和によって除される「正規化面積パーセント」方法を使用する。本明細書中で使用される「重重量物」は、C20エステルの質量を超える質量を有する化合物を示す。
【0062】
オレイン酸メチル、リノール酸メチル及びリノレン酸メチルについてのGCピーク下面積の和をヒドロホルミル化前及びヒドロホルミル化後で比較して、パーセント変換率を求める。
【0063】
アルデヒド組成物は、14wt%の飽和物(パルミタート及びステアラート)、14wt%の不飽和物質(例えば、未反応のオレイン酸メチル及びリノール酸メチル)、40wt%のモノアルデヒド、30wt%のジアルデヒド、1.8wt%のトリアルデヒド及び0.2wt%の重量量物を含有する(それぞれのwt%がアルデヒド生成物組成物総重量に基づく)。
【0064】
B.水素化
アップフロー管状反応装置に市販の担持型ニッケル触媒(440ml、Sud−Chemie C46−8−03)を充填する。反応装置は、反応装置に入る前に一緒になる2つの液体供給物及び1つのガス供給物を含む入口を有する。第1の液体供給物は、ヒドロホルミル化されたダイズメチルエステル混合物(例えば、上記で詳述される「A.脂肪酸メチルエステルのヒドロホルミル化」に従って調製されるアルデヒド組成物、又は、15wt%の飽和物、36wt%のモノアルデヒド、46wt%のジアルデヒド及び2wt%のトリアルデヒド(それぞれのwt%が第1の液体供給物重量に基づく)を含む混合物)からなる。第2の液体供給物は、ヒドロホルミル化されたダイズメチルエステル混合物の水素化からの再循環流からなる。第1の液体供給物が5グラム/分(g/分)の流速で反応装置に入る。第2の液体供給物が19g/分の流速で反応装置に入る。これら2つの液体供給物は一緒になって、3.51hr−1の全体的な液体毎時空間速度を提供する。ガス状水素を2,000標準立方センチメートル/分(sccm)の速度(これは272hr−1のガス毎時空間速度と等価である)で反応装置に供給し、その後、反応装置の内容物を、得られるメチルヒドロキシル官能化脂肪酸エステルの所望される官能性によって決定される期間にわたって反応装置内の圧力を830ポンド/平方インチゲージ(psig)(5,723kPa)の設定点圧力で維持しながら143℃の設定点温度に加熱して、アルデヒド生成物組成物をアルコール生成物組成物に変換する。
【0065】
サンプル量(ジオキサンにおける1:20希釈物の10マイクロリットル(μl)の注入体積)を希釈し、希釈サンプル量を、アルデヒド生成物組成物の分析のために使用されたのと同じ装置を使用して内部のジグライム標準物に対して分析する。応答係数を、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、ホルミルステアリン酸メチル及びヒドロキシメチルステアリン酸メチルについては直接の較正によって求める。アルデヒド生成物組成物の他の成分(例えば、ジアルデヒド及びトリアルデヒド)についての応答係数を、上記においてA.ヒドロホルミル化のもとで概略されたのと同じ手順を使用して求める。
【0066】
パーセント変換率を、ホルミルステアリン酸メチルのピーク面積を水素化前及び水素化後で比較することによって計算する。
【0067】
ダイマー及び重重量物の濃度を、アルデヒド生成物組成物における同様な濃度の決定について上記で概略されたのと同じ手順を使用して求める。
【0068】
アルコール生成物組成物の分析により、アルコール生成物組成物が、19.2wt%の飽和物、35.6wt%のモノオール、38.8wt%のジオール、3.3wt%のトリオール、2.6wt%のダイマー重重量物、0.2wt%のラクトン及び0.3wt%のエーテルを含有することが示される(それぞれのwt%がアルコール生成物組成物総重量に基づく)。
【0069】
C.飽和物の除去
飽和物の少なくとも一部分を生成物から除くことが本発明の好ましい実施形態の1つを構成する。様々な飽和物除去技術を使用することができるが、好ましい手段の1つでは、生成物の流れをワイプド薄膜エバポレーターに供給することが伴う。当業者は、成分除去(この場合、飽和物除去)のレベルがいくつかの要因(主に、圧力、流速及びエバポレータージャケット温度)の相互作用を伴うことを認識している。当業者はまた、小規模又は実験室規模の装置では、商業的規模を含めて、はるかにより大きい規模の同じ汎用型タイプの装置(例えば、ワイプド薄膜エバポレーター)には存在しない操作上のパラメーター限界があるかもしれないこと、そして、多くの場合、そのような限界が実際にあることを認識している。2インチ(5.1センチメートル(cm))のワイプド薄膜エバポレーター(DSL−5 UIC GmbH)については、そのような要因には、90℃〜150℃のジャケット温度、好ましくは、110℃のジャケット温度、0.3キログラム/時間(kg/hr)の生成物流速、及び、0.01ミリメートル水銀(mmHg)〜1mmHgの減圧、好ましくは、0.1mmHg〜0.3mmHgの減圧が含まれる。より大きな規模の装置に関しては、装置内における生成物の熱履歴を、受け入れがたい量の望まれない副生成物(例えば、重重量物など)を生じさせるレベルよりも低いレベルに制限し、一方で、望ましいレベルの飽和物除去を依然として達成するために十分な様式で、装置への生成物の流速が増大させられ、及び/又は、圧力が変化させられるならば、ジャケット温度を300℃もの高い温度に上げることができる。当業者は、規模の変化に基づく要因を、過度な実験を行うことなく、どのように変更するかを容易に理解する。ワイプド薄膜エバポレーターからの産出物は、規模にかかわらず、ワイプド薄膜エバポレーターに供給された生成物流に見出される飽和物含有量と比較して低下した飽和物含有量を有する。飽和物含有量が、さらなる加工のために所望される含有量を超えたままであるならば、ワイプド薄膜エバポレーターの使用が1回又はそれ以上、単に繰り返されるが、ワイプド薄膜エバポレーターの前回の通過からの産出物が、飽和物含有量をさらに低下させるために、ワイプド薄膜エバポレーターに供給される加熱された流れとして使用される。所望されるならば、飽和物減少流からのモノヒドロキシル脂肪酸メチルエステルが、温度を150℃に上げることを除いて、同じ装置及び手順を使用して分離される。
【0070】
上記プロセスがたとえ、市販のメチルエステル製造物を用いて開始されるとしても、当業者は、アルキルエステルの混合物、好ましくは、低級アルキル(1個〜4個の炭素原子(C〜C))エステルの混合物、より好ましくは、メチルエステルの混合物が、種子油を、例えば、メタノールを使用する従来のアルカノリシス手法に供することによって製造され得ることを認識している。アルキルエステル(好ましくは、メチルエステル)のそのような混合物は、過度な実験を行うことなく、容易に市販の製造物の代用になる。
【0071】
実施例1〜実施例7
2リットル(L)の三口丸底ガラス製フラスコに、水冷凝縮カラムを1つの開口部又は口において取り付け、ガス状窒素(N)導入管を第2の開口部又は口において取り付ける。第3の開口部には気密シールの機械式撹拌装置を取り付けるか、又は、磁石撹拌装置を使用するときには栓を取り付ける。凝縮カラムの上部には、Nガスが、鉱油で満たされたバブラーを通って出て行くことを可能にし、かつ、フラスコを通過するスィープガスの流速のおおよその定量化をもたらすために合致するガス流出管をかぶせる。
【0072】
ポリオール開始剤、ヒドロホルミル化及び還元された種子油に由来する脂肪酸メチルエステル、ならびに、短鎖脂肪酸メチオルエステル又は短鎖脂肪酸を、所定量の触媒(表2を参照のこと)と一緒にフラスコに加える。触媒は、ジブチルスズジラウラート(DBTL)(IV価スズ(Sn(IV))触媒)又はオクタン酸スズ(Sn(II)触媒)のいずれかである。
【0073】
フラスコの内容物を、撹拌を行いながら、160℃〜200℃の範囲内の温度に加熱して、フラスコの内容物の間における反応を行わせる。加熱及び撹拌されたフラスコ内容物から生成するメタノール(短鎖脂肪酸メチルエステルを反応剤として使用するとき)又は水(短鎖脂肪酸を反応剤として使用するとき)を、冷却凝縮器を伴うオーバーヘッドアダプター(これは時には「短経路蒸留アダプターと呼ばれる」を介して、凝縮器と、バブラーとの間に直列で接続された受器フラスコにおいて捕集する。
【0074】
反応している混合物のサンプルを定期的に集め、生成物の分子量(数平均(M)、重量平均(M)及びz平均(M))をゲル浸透クロマトグラフィーによって測定し、分子量分布(MWD又はM/M)を計算する。(a)典型的な潤滑剤粘度をもたらすために決定された分子量範囲に達するサンプル分子量、及び、(b)0.5%/時よりも小さくなる分子量増大が最初に生じたとき、反応を停止させる。
【0075】
生成物のヒドロキシル(OH)含有量を、それらのOH含有量がASTM D4273−83に従って測定されている一連の類似するポリオールを用いて較正された、3300逆数センチメートル(cm−1)〜3600cm−1の間のOH共鳴吸収を使用してフーリエ変換赤外(FTIR)分光法によって求める。標準物ポリオールは下記のヒドロキシル百分率を有する。0.36%、0.75%、1.7%及び2.0%。FTIRの吸光度は、ASTM D4273−83に従って求められるとき、0.996を相関係数の二乗として使用する場合、前記のヒドロキシル百分率を含む範囲にわたって直線である。代替技術では、ヒドロキシル価をASTM D4274−05に従って滴定によって求めることが伴う(これは時には「無水フタル酸法」と呼ばれる)。
【0076】
生成物の粘度を2つの技術のうちの1つによって測定する。1つの技術では、#3ノズルを50rpmで使用するBrookfield粘度計が使用される。第2の技術では、標準ロート(52mmの上部内径(ID)、21mmの足の長さ、及び、標準シリコーン液に対して較正された8.0cps/秒の排液時間を有するNALGENE(商標)モデル4260−0020のポリエチレン製ロート)を通過する一定時間での流れが使用される。この方法についての排液時間に対する粘度の相関係数の二乗は=0.992である。
【0077】
下記の表1は、反応剤として使用される、アルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油についての組成情報を提供する。モノマー(アルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油)を、上記で記されるメタノリシス手法を上記で詳述される「ヒドロホルミル化及び還元された脂肪酸メチルエステルを調製するための一般的手順」と併せて使用して調製する。モノマーA、モノマーB、モノマーC及びモノマーFは、NATREON(商標)高オレイン酸ヒマワリ油を用いて開始され、これに対して、モノマーD及びモノマーGは、ダイズ油を用いて開始され、モノマーEは、NATREON(商標)高オレイン酸カノーラ油を用いて開始される。モノマーA、モノマーB、モノマーC、モノマーD及びモノマーGはすべて、上記で詳述される手順を使用する飽和物除去の結果として、低下した飽和物レベルを有する。モノマーE及びモノマーFは、飽和物除去工程の省略のために、低下していない飽和物レベルを有する。NATREONは、Dow AgroScienceの商品名である。
【0078】
下記の表2は、ぞれぞれの実施例についてフラスコの内容物に関する組成情報を提供する。実施例1及び実施例3〜実施例7では、NPGが開始剤として使用される。実施例2では、開始剤が使用されない。実施例1〜実施例2、及び、実施例4〜実施例7では、DBTLが触媒として使用され、実施例3では、オクタン酸スズが触媒として使用される。実施例1〜実施例2、及び、実施例5〜実施例7では、短鎖(C〜C10)メチルエステル(これらは、Peter Cremer NAから、ME C8−10の取引名称で市販されている)がキャップ剤として使用され、実施例3〜実施例4では、Peter Cremer NAから、FA C8−10の取引名称で市販されている短鎖(C〜C10)脂肪酸がキャップ剤として使用される。
【0079】
下記の表3では、実施例1〜実施例7のそれぞれについて、反応生成物の選ばれた物理的特性及び性能測定がまとめられる。表3は25℃での粘度測定値を示す。
【表1】


【表2】


【表3】

【0080】
表2及び表3に示されるデータは、本発明の潤滑剤組成物が、非常に良好な潤滑剤特性を有するベース流体として機能し得ることを示す。これらの潤滑剤組成物は、種子油源、及び、アルコール開始剤の存在又は非存在に依存しない非常に良好な特性を示す。実施例1〜実施例4及び実施例7は極めて低い流動点を示し、これは、典型的には流動点を0℃〜−20℃の範囲内に有する種子油又は植物油よりも著しく低い。−30℃以下の流動点(例えば、−36℃)は、−20℃未満の温度の長期間に及ぶ非常に低温の気候で運転される装置のための潤滑剤として特に有用である。さらに、データは、潤滑剤組成物の流動点温度が組成物の飽和ステアラート含有量の関数であること、及び、そのような飽和ステアラート含有量を低下させることによって、組成物の流動点温度もまた低下することを示す。加えて、実施例1〜実施例4は、160を超えるVI値を有する。他方で、典型的な鉱油製造物は典型的には、VI値を95〜105の範囲内に有する。上記で記されるように、当業者は、より低いVI値よりも、より大きいVI値を好む。当業者は、より大きいVI値を、産業用設備及び自動車用設備を操作するために特に望み、150を超える値が特に望ましいと見なす。
【0081】
表3における摩耗傷跡データもまた、これらの潤滑剤が、優れた薄膜形成性を有することを明らかにしており、0.70mm未満の摩耗傷跡をもたらす潤滑剤が良好な潤滑剤であると見なされる。COFデータは、良好な潤滑剤としての特徴づけを裏付けている(良好であるためには0.13未満のCOF、優れているためには0.10未満のCOF)。
【0082】
実施例8
12.08g(20ミリモル(mmol))のエトキシル化グリセリン(IP−625、The Dow Chemical Company)と、2.2g(20mmol)の、16の末端ヒドロキシル基を有するヒドロキシル末端樹枝状開始剤(これは、PerstropからBOLTORN(登録商標)H−20の取引名称で市販されているものである)との開始剤ブレンド配合物を、IP−625:BOLTORN H−20について16:1のモル比を使用して調製する。エトキシル化グリセリン及びヒドロキシル末端樹枝状開始剤を、磁石撹拌子及びゴムセプタムを備える清浄な乾燥した三口の250mlガラス製丸底フラスコに仕込む。フラスコの1つの口(名目的には「出口用の口」)には、飽和物の増加を防止するために、50℃の湯を再循環浴装置から流す短経路凝縮器を取り付ける。ニードルを使用して、窒素雰囲気を、セプタムを介してフラスコに導入する。フラスコをシールし、フラスコの内容物を50℃に加熱しながら、20Torr(266.6パスカル(Pa))の真空下で脱ガスする。フラスコの内容物を、撹拌を続けながら、ガス状窒素の一定した流量を維持しながら、温度調節された油浴を外部フィードバックとともに使用して150℃の温度に加熱し、フラスコの内容物をその温度で1時間保つ。
【0083】
1時間後、187gのダイズモノマー混合物(組成については下記の表4を参照のこと)を、窒素の流れを添加期間中維持して、滴下ロートを介して、加熱及び撹拌されたフラスコ内容物に加える。フラスコの内容物を、撹拌を続けながら、窒素流のもとで150℃の温度に加熱し、その温度をさらに30分間維持し、そして、0.1gのジブチルスズオキシド(DBTO)を触媒として加え、フラスコの内容物を、メタノール(MeOH)が急速に発生し始める190℃の温度に加熱する。
【0084】
フラスコの内容物を、190℃の温度での5時間、撹拌を続けながら窒素下で維持する。フラスコの内容物を50℃の温度に冷却する。フラスコからの蒸留物は、少量の白色固体を伴う透明な無色の液体(メタノール、すなわち、MeOH)である。フラスコの内容物は、30.2パーセントのヒドロキシル含有量及び3363のMを有する反応生成物を含む。
【表4】

【0085】
実施例9
実施例8を繰り返すが、IP−625:BOLTORN H20について8:1のモル比を与えるために、ヒドロキシル末端樹枝状開始剤の含有量を4.4g(2.5mmol)に増大する。反応生成物は、10.4パーセントのヒドロキシル含有量、5505のM、7428cps(7.4Pa.s)の(25℃での)粘度及び−8℃の流動点を有する。
【0086】
実施例10
実施例8を繰り返すが、IP−625:BOLTORN H20について4:1のモル比を与えるために、ヒドロキシル末端樹枝状開始剤の含有量を8.8g(5mmol)に増大する。反応生成物は、23.9パーセントのヒドロキシル含有量、4152のM、4316cps(4.3Pa.s)の(25℃での)粘度及び−7℃の流動点を有する。
【0087】
実施例11
実施例8を繰り返が、IP−625:BOLTORN H20について2:1のモル比を与えるために、ヒドロキシル末端樹枝状開始剤の含有量を8.8g(5mmol)に増大し、エトキシル化グリセリンの含有量を6.04g(10mmol)に減らす。反応生成物は、30.4パーセントのヒドロキシル含有量及び3179のMを有する。
【0088】
実施例8〜実施例11において示されるデータは、超分岐ポリオール開始剤(具体的には、PerstorpからBOLTORNの商品名で市販されている操作された分子)の使用に関する。実施例8〜実施例11の反応生成物は、流動点及び粘度について完全には最適化されていないが、ポリエステルポリオール潤滑剤組成物として機能し、また、そのような操作された分子は、相の相容化剤(例えば、IP−625など)との併用で使用されたとき、そのようなキャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物を作製することにおいて有用性を有することを明らかにする。
【0089】
実施例12
実施例1を、いくつかの変化とともに繰り返す。第1に、10torr(1333.2パスカル(Pa))を、フラスコ内容物の間での反応を達成するために加熱している期間中、フラスコの内容物に加える。この真空により、フラスコ内容物の間での反応の期間中に生じた揮発性の凝縮生成物(主に、メタノール)の除去が達成される。第2に、アルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油を、下記の表5に示されるような組成物に変更する。第3に、キャップ剤のタイプ及び量(580.26g)を変更する。キャップ剤は、4.29wt%のCメチルエステル、52.88wt%のCメチルエステル及び42.03wt%のC10メチルエステルの混合物(これは、Cremer N.A.からME810の取引名称で市販されているものである)である(それぞれのwt%が混合物重量に基づく)。第4に、733.8gのエトキシル化グリセリン(625の重量平均分子量、The Dow Chemical CompanyからIP(商標)625の取引名称で市販されているもの)を開始剤として加える。
【表5】

【0090】
生成物は、1200の重量平均分子量、207cps(0.21Pa.s)の室温(名目的には25℃)での粘度、0.36%の%OH、0.67mmの摩耗傷跡、0.024のCOF、−3℃の流動点、及び、179の粘度指数(VI)を有する。
【0091】
実施例12は、本発明を代表するキャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物が、小さい摩耗傷跡及び低いCOFに基づいて、望ましい潤滑性特性を提供することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要に応じて、(a)直接的に、又は、(b)開始剤成分を介して間接的に、そのどちらかで互いに化学的に連結される少なくとも2つのエステル成分を含み、0.1重量パーセント〜2重量パーセントの範囲内であるヒドロキシル百分率(それぞれの重量パーセントが組成物重量に基づく)、及び、0重量パーセント〜32重量パーセントの範囲内である12炭素原子以上の炭素数の飽和炭化水素含有量(それぞれの重量パーセントが組成物重量に基づく)、40センチポアズ〜2000センチポアズの範囲内である摂氏25°での粘度、ならびに、摂氏−10°以下の流動点を有するキャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物。
【請求項2】
直接的に、あるいは、樹枝状ベース生成物又はそのアルコキシル化体に由来する樹枝状開始剤成分を介して間接的に互いに化学的に連結される複数のエステル成分を含み、0.1重量パーセント〜31重量パーセントの範囲内であるヒドロキシル百分率(それぞれの重量パーセントが組成物重量に基づく)、及び、0重量パーセント〜32重量パーセントの範囲内である12炭素原子以上の炭素数の飽和炭化水素含有量(それぞれの重量パーセントが組成物重量に基づく)、40センチポアズ〜8000センチポアズの範囲内である摂氏25°での粘度、ならびに、摂氏−5°以下の流動点を有するポリエステルポリオール潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記開始剤成分が式R−(OH)(式中、Rは、n−アルキル成分、分枝型アルキル成分又は環状アルキル成分であり、nは1〜64の範囲内の整数である)によって表される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
nが、2、3、6、12、16、32及び64からなる群より選択される整数である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記アルキル成分が1個の炭素原子から6個の炭素原子までを含有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記開始剤成分が、ネオペンチルグリコール(NPG)、ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジオールの異性体、シクロヘキサンジメタノールの異性体、ヒドロキノンビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル、グリセリン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、樹枝状ベース生成物、及び、この群の要素のアルコキシル化体からなる群より選択される開始剤に由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記飽和炭化水素含有量が0.1重量パーセント〜10重量パーセントの範囲内である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項8】
前記エステル成分の1つがエステルアルコール又はキャップ剤であり、前記キャップ剤は短鎖(C〜C12)脂肪酸のメチルエステル又は短鎖(C〜C12)脂肪酸である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項9】
前記エステルアルコールが、アルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油であり、前記種子油は、ひまし油、ダイズ油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ピーナッツ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、綿実油、カノーラ油、ベニバナ油、亜麻仁油及びヒマワリ油からなる群より選択される天然油又は高オレイン酸油又は遺伝子改変油の少なくとも1種である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
a.アルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油、キャップ剤、触媒、ならびに、必要な場合には開始剤を含む反応混合物を、摂氏170°〜摂氏200°の範囲内である高い温度に供して、反応混合物の少なくとも一部をキャップ化ポリエステルポリオール及び揮発性副生成物に変換すること;及び
b.揮発性副生成物の少なくとも一部を同時に除くこと
を含む、ポリエステルポリオール潤滑剤組成物を調製する方法。
【請求項11】
前記アルカノール化、ヒドロホルミル化及び還元された種子油を調製するための複数の連続する前駆体工程をさらに含み、前記連続する前駆体工程は、順に、
a1.種子油をアルカノール化して、種子油に存在するグリセリドを、直鎖構造又は分枝構造を有し、かつ、1個〜15個の炭素原子を含有するアルカノールの飽和脂肪酸エステル及び不飽和脂肪酸エステルの混合物に変換すること;
a2.飽和脂肪酸エステル及び不飽和脂肪酸エステルの混合物をヒドロホルミル化して、前記混合物をアルデヒド又はアルデヒドの混合物に変換すること;及び
a3.アルデヒド又はアルデヒドの混合物を、水素化触媒の助けをかりて水素雰囲気において還元して、前記アルデヒド又はアルデヒドの前記混合物を、ヒドロキシメチル置換された脂肪酸又はヒドロキシメチル置換された脂肪酸エステルのアルコール組成物に変換すること
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程a2.が、可溶化されたVIII族遷移金属−有機ホスフィン配位子錯体触媒と一緒に、必要な場合には、可溶化された遊離有機ホスフィン金属塩配位子とともに、非水性の反応媒体において行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記キャップ剤が短鎖(C〜C12)脂肪酸のメチルエステル又は短鎖(C〜C12)脂肪酸である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記触媒が、ビス(エチルヘキサン酸)第一スズ、オクタン酸スズ、ジブチルスズジラウラート、ブチルスズ酸、ジブチルスズオキシド、金属アルコキシド、可溶性の鉱酸、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、三フッ化ホウ素及び二塩化亜鉛からなる群より選択され、前記金属アルコキシドは、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、チタンプロポキシド又はチタンイソプロポキシドからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記開始剤が式R−(OH)(式中、Rは、n−アルキル成分、分枝型アルキル成分又は環状アルキル成分であり、nは1〜64の範囲内の整数である)によって表される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記開始剤が、ネオペンチルグリコール(NPG)、ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジオールの異性体、シクロヘキサンジメタノールの異性体、ヒドロキノンビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル、グリセリン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、樹枝状ベース生成物、及び、上記物質のアルコキシル化体からなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記種子油が、ひまし油、ダイズ油、オリーブ油、ピーナッツ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、綿実油、カノーラ油、ベニバナ油、亜麻仁油及びヒマワリ油からなる群より選択される天然油又は高オレイン酸油又は遺伝子改変油の少なくとも1種である、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
飽和物の少なくとも一部を請求項1に記載されるキャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物又は請求項2に記載されるポリエステルポリオール潤滑剤組成物から除くための方法であって、キャップ化ポリエステルポリオール潤滑剤組成物又はポリエステルポリオール潤滑剤組成物である加熱された原料供給流を、原料供給流を飽和物濃縮部分及び飽和物減少部分に分離するために減圧下で運転されるワイプド薄膜エバポレーターに供給することを含む、方法。
【請求項19】
前記原料供給流が摂氏90度〜摂氏150度の範囲内の温度に加熱され、前記減圧が0.01ミリメートル水銀〜1ミリメートル水銀の範囲内である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ワイプド薄膜エバポレーターの1回の通過から得られる飽和物減少流が、ワイプド薄膜エバポレーターの次回の通過のための加熱された原料供給流として使用されることにより、飽和物減少流の飽和物含有量がさらに低下させられる、請求項18又は19に記載の方法。

【公表番号】特表2010−523797(P2010−523797A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503116(P2010−503116)
【出願日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/057569
【国際公開番号】WO2008/124265
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】