説明

キャップ

【課題】シリンジ先端部への装着状態に発生するキックバック現象を緩和させ、嵌合力の低下を生じないキャップを提供すること。
【解決手段】シリンジ先端に装着する弾性体のキャップであって、基端が開口し、基端から先端に向かって縮径するテーパー状の嵌合部と、前記嵌合部の先端外周壁に形成された凹部とを含むキャップである。嵌合部の先端外周壁の先端に凹部を形成し、キャップにフレキシブルさを持たせることによって、キャップのキックバック現象を緩和するとともにキャップの復元力が適度にシリンジ先端にかかる。そのため、キャップとシリンジ先端との嵌合力が低下してキャップが緩むことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンジの先端に装着するキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
プレフィルドシリンジは、バレルに薬液を充填することで得られる。バレルに薬液を充填する際には、充填する液がバレルの開口部から漏れることのないよう、バレルの先端を密封する必要がある。バレルの先端を密封する方法としては様々であるが、容易に、確実に密封することが可能である弾性体のキャップが多く採用される。
【0003】
キャップの弾性力によってシリンジ先端が密封されるように、通常、キャップの嵌合部はテーパー状であって、且つ、シリンジの先端外形形状に比べ若干小さな寸法となっている(図3)。この嵌合部をシリンジ先端で押し広げるようにしてキャップをシリンジに装着させ、キャップの復元力の作用によって密封される。
【0004】
しかしながら、図3に挙げられたキャップは打栓性が良好であるとは言えず、図4に示すように装着状態において嵌合力の低下を招くこともしばしば起こることがある。キャップの嵌合力の低下は、キャップの脱落、シリンジ内からの液漏れ、雑菌の混入などを誘発しうる原因となるおそれがある。
【0005】
シリンジからの脱落を防止するキャップとして、次のものが開示されている(特許文献1)。このものは、ルアーノズル及びルアーロックを前端に備えたバレルに装着するものであって、キャップの装着時にルアーノズルとルアーロックの間に存在する空気が、ルアーノズルとルアーロックとキャップとで形成された空間に加圧封入されないように、キャップの装着部に空気の逃げ道となる溝を有する。この溝によって、空間と外界とは連通しているため、加圧された空気は排出されるというものである。
【0006】
【特許文献1】特開2002−210008
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記文献における、シリンジからのキャップの脱落が引き起こされる主な原因としては、打栓時にルアーとゴム栓との間に空気が加圧密封されることによって、若しくは、密封された空気が加熱滅菌時に膨張することによって、加圧密封された空気の膨張力であるとされている。しかし、本件における嵌合力の低下は、シリンジの先端形状が、ルアーロックを有さない通常のルアーノズルのみのもので生じることが確認されており、シリンジへのキャップの嵌合力の低下は加圧空気とは別の原因が存在すると考えられる。
【0008】
そこで本発明者は、まず、嵌合力の低減の原因について検討した。その結果、キャップの復元力による、所謂キックバック現象によって引き起こされるものであることを究明した。復元力が働きすぎることによってキャップが押し上げられてしまい、結果としてキャップが緩んでしまうのである。そこで、シリンジ先端から浮き上がらないよう、キックバック現象を緩和させることが可能なキャップが求められる。
【0009】
本発明の目的は、シリンジ先端部への装着状態に発生するキックバック現象を緩和させ、嵌合力の低下を生じないキャップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者は前記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に想到した。すなわち本発明は、シリンジ先端に装着する弾性体のキャップであって、
基端が開口し、基端から先端に向かって縮径するテーパー状の嵌合部と、前記嵌合部の先端外周壁に形成された凹部とを含むキャップである。このように、嵌合部の先端外周壁に凹部を設けることによって、嵌合部先端の内径が大きくなり、シリンジ先端の外径と嵌合部先端の内径との大きさの差が小さくなる。その結果、キャップの変形は小さくなるのでキャップのフレキシブルさが増し、キャップの復元力を適度に働く状態とすることができるため、キックバック現象を緩和することが可能である。また、復元力が適度に働くことによって、キャップのシリンジ先端からの緩みもなく、反対にしっかりと嵌合するため、シリンジ内から液が漏洩することもない。
【発明の効果】
【0011】
本発明のキャップは、嵌合部の先端外周壁の先端に凹部を形成し、キャップにフレキシブルさを持たせることによって、キャップのキックバック現象を緩和するとともにキャップの復元力が適度にシリンジ先端にかかる。そのため、キャップとシリンジ先端との嵌合力が低下してキャップが緩むことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施態様例について、図面を用いて説明する。しかし、本願発明は、これら図面に記載した実施態様例に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明のキャップの一実施様態を示す縦断面図である。図2は、図1に示されたキャップのシリンジへの装着状態の縦断面図である。図3は、従来のキャップとシリンジ先端部との縦断面図である。図4は、図3に示されたキャップのシリンジへの装着時において、緩んだ状態を示す縦断面図である。
【0014】
本発明の実施態様を、図1を用いて説明する。本発明のキャップ1は、基端が開口し、基端から先端に向かって縮径するテーパー状の嵌合部2と、前記嵌合部の先端外周壁に形成された凹部3とを含むキャップである。嵌合部の先端外周壁に凹部が設けられることによって、キャップのフレキシブルさが向上し、かつ、キャップの復元力がシリンジ先端に対して適度にかかるため、キックバック現象を緩和するとともにキャップが緩むことなく嵌合する。なお、嵌合部の内径は従来のキャップ同様、シリンジ先端部外径に比べて若干小さな寸法とされ、凹部が形成されている嵌合部先端の内径は、シリンジ先端外径に比べ僅かに大きな寸法とされている。
【0015】
キャップ1は、ゴム弾性を示す材料であって、シリンジ内の薬剤に影響を及ぼさないものであれば、特に限定されない。例えば、ブチルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、熱可塑性エラストマー、シリコーンエラストマー、ハロゲン化ブチルゴム等を用いることができる。
【0016】
図2は、図1に示されたキャップをシリンジの先端に装着した図である。キャップの嵌合部の先端外周壁に凹部が設けられることによって、復元力を適度に下げる(適度に働く)ため、キックバック現象を抑えられ、キャップが上方へ押し上げられることなく、キャップとシリンジ先端とがしっかりと嵌合する。
【0017】
キャップの緩み防止について嵌合力からも比較するため、以下の実験により、キャップの耐圧性を測定した。シリンジに、本発明のキャップ(A)と、図3に示されるような従来のキャップ(B)をそれぞれシリンジ先端に嵌合させ、蒸留水を充填してガスケットを打栓した後、オートクレーブ滅菌をしてプレフィルドシリンジを組み立てた。1日間放置した後、プランジャーを前方へ50mm/minの速度で押し込み荷重を加え、キャップが外れたときの荷重値を万能材料試験器(インストロン5565型)で測定し最大荷重値とした。キャップの材料には塩素化ブチルゴムを用い、配合を変えることによって硬度をそれぞれ43、47とした。なお、キャップの硬度はゴム硬度計(Bareiss社製)で測定したものである。これを、従来のキャップ及び本発明のキャップを装着した場合それぞれ15回ずつ行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
先の表1及び表2より、硬度43及び硬度47のどちらの材質を用いた場合においても、本発明のキャップの最大荷重値の最小値は、ほぼ従来のキャップの最大荷重値の最大値を上回っており、最大荷重値の平均値も上昇していることが確認される。この結果からも、本発明のキャップは緩みが改善されたことがわかる。
【0021】
このように、本発明のキャップは、嵌合部の先端外周壁の先端に凹部を形成し、キャップにフレキシブルさを持たせることによって、キャップのキックバック現象を緩和するとともにキャップの復元力が適度にシリンジ先端にかかる。そのため、キャップとシリンジ先端との嵌合力が低下してキャップが緩むことがない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のキャップの一実施様態を示す縦断面図。
【図2】図1に示されたキャップのシリンジへの装着状態の縦断面図。
【図3】従来のキャップとシリンジ先端部との縦断面図。
【図4】図3に示されたキャップのシリンジへの装着時において、キャップが緩んだ状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 キャップ
2 嵌合部
3 凹部
4 シリンジ先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジ先端に装着する弾性体のキャップであって、
基端が開口し、基端から先端に向かって縮径するテーパー状の嵌合部と、
前記嵌合部の先端外周壁に形成された凹部と
を含むキャップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−112352(P2009−112352A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285587(P2007−285587)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】