キャップ
【課題】断面円形のキャップに可撓片を設けて相手側に係合させて取り付けるようにする場合に、可撓片を弾性変形しやすくするとともに、可撓片の成形精度をそれほど高めなくてもキャップの引抜力のばらつきを小さくできるようにする。
【解決手段】断面円形状のキャップ本体と、キャップ本体10から突出する可撓片14と、可撓片14の突出方向先端側に設けられた係合部14cとを備え、可撓片14は、平板状に形成されていることを特徴とする。
【解決手段】断面円形状のキャップ本体と、キャップ本体10から突出する可撓片14と、可撓片14の突出方向先端側に設けられた係合部14cとを備え、可撓片14は、平板状に形成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば各種容器や、医療用の導管等を封止するためのキャップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば容器のキャップとしては、特許文献1に開示されているように、円筒状のキャップ本体と、キャップ本体に設けられた可撓片とを備えたものが知られている。可撓片は、キャップ本体の天板部内面から容器側へ向けて突出しており、キャップ本体の形状に対応して円弧状に湾曲している。可撓片の突出方向先端部には、凸部が形成されている。一方、容器には、凸部が係合する凹部が形成されている。従って、キャップを容器に固定する際、キャップの可撓片を撓ませながら、凸部と凹部とを係合させ、可撓片の復元力によって凸部を凹部に押し付けてこれらの係合状態を維持するようにしている。
【0003】
また、キャップを外す際には、可撓片が撓むことで凸部と凹部との係合状態が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4−91847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1では、キャップ本体が断面円形に形成されていることから、このキャップ本体の形状に対応するように可撓片が円弧状に湾曲している。このため、キャップの着脱時には可撓片を円弧の径方向に撓ませることになるが、円弧状の可撓片は、そもそも剛性が高く、撓みにくいものとなっており、このような剛性の高い可撓片を径方向に撓ませると、無理な変形を伴って塑性変形を引き起こしやすく、その後の復元力が十分でなくなることが考えられる。
【0006】
また、キャップには製造上の避けられないばらつきがあり、特許文献1のような剛性の高い形状の可撓片であると、可撓片の厚みがわずかに違っても、そのことによる影響が大きく現れてしまいがちである。
【0007】
このことを図13に示す実験データに基づいて説明する。図13は、特許文献1の可撓片と同様な円弧状の可撓片をキャップに設け、このキャップを相手側の部材に固定した後、そのキャップを取り外す時に要する力を測定してグラフ化したものである。可撓片の肉厚は、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.85mm、0.9mmに変化させており、「滅菌後」というのは、キャップを所定温度まで加熱して常温まで冷却した場合の引抜力であり、「滅菌前」というのは、そのような温度変化を加えていない場合の引抜力である。引抜力はキャップを中心線方向に引っ張って相手側から外れるのに要する引抜力であり、単位はN(ニュートン)である。
【0008】
グラフ中の各縦線は、複数個のキャップで実験して生じたばらつきの範囲を示しており、例えば、肉厚が0.6mmで「滅菌前」の場合の抜き力は10.5N〜17.5Nであり、ばらつきの範囲としては7N程度である。
【0009】
このように引抜力のばらつきが大きいと、キャップによって不意に外れやすかったり、必要時に外れにくかったりする。このことを防止するためには、可撓片のばらつきが少なくなるように該可撓片を高精度に成形すればよいのであるが、コスト高となる。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、断面円形のキャップ本体に可撓片を設けて相手側に係合させて取り付けるようにする場合に、可撓片を弾性変形しやすくするとともに、成形精度をそれほど高めなくてもキャップの引抜力のばらつきを小さくできるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では、可撓片を平板状にして弾性変形しやすくし、肉厚のばらつきの影響が小さくなるようにした。
【0012】
第1の発明は、封止対象物に取り付けられるキャップにおいて、断面円形状のキャップ本体と、上記キャップ本体から封止対象物側へ突出する可撓片と、上記可撓片の突出方向先端側に設けられ、上記封止対象物に係合する係合部とを備え、上記可撓片は、上記キャップ本体の接線と略平行に延び、該キャップ本体の径方向に弾性変形する平板状に形成され、上記可撓片の復元力により上記係合部を上記封止対象物に係合させて該封止対象物に取り付けられる一方、取り付けられたキャップ本体を中心線方向に引っ張って上記可撓片を撓ませながら上記係合部の係合状態を解除して取り外し可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0013】
この構成によれば、封止対象物に取り付けられたキャップ本体を取り外す際、可撓片が平板状であるため、低剛性で変形しやすく、通常の成形誤差の範囲内で可撓片の厚みがわずかに違ったとしても、そのことによる影響が現れにくく、キャップの引抜力のばらつきが小さくなる。
【0014】
このことの実験結果を図11に示すグラフに基づいて説明する。このグラフの縦軸及び横軸は図13のものと同じであり、実験に使用したキャップの可撓片は、図7に示すように平板状である。この図11のグラフから明らかなように、全ての場合において従来の円弧状の可撓片に比べて引抜力のばらつき範囲が大幅に狭くなっていることが分かる。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、キャップ本体の可撓片を平板状にしたので、通常の成形誤差が生じたとしてもキャップの引抜力のばらつき範囲を小さくすることができ、特別に高精度な成形をせずに済む。これにより、不意に外れ難く、必要時には外れやすいキャップを低コストで得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】キャップ本体側から見た斜視図である。
【図2】雌コネクタをキャップで封止した状態の側面図である。
【図3】雌コネクタをキャップで封止した状態の中心線に沿う断面図である。
【図4】キャップを封止する前の図3相当図である。
【図5】キャップの正面図である。
【図6】キャップの側面図である。
【図7】キャップをキャップ本体側から見た図である。
【図8】図5のVIII−VIII線断面図である。
【図9】図6のIX−IX線断面図である。
【図10】図5のX−X線断面図である。
【図11】実施形態にかかるキャップの取り外しに要する力と可撓片の肉厚との関係を示すグラフである。
【図12】比較例にかかる図7相当図である。
【図13】比較例にかかる図11相当図である。
【図14】変形例にかかる図5相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0018】
図1は、本発明の実施形態にかかるキャップ1を示すものである。このキャップ1は、図2及び図3に示すように、医療用導管100の先端に取り付けられた雌コネクタ101(封止対象物)の開口を封止するためのものである。医療用導管100の基端部は、透析液の薬液が充填された腹膜透析液バッグ(図示せず)に接続されている。雌コネクタ101は、患者の腹部側の導管(図示せず)が有する雄コネクタ(図示せず)に接続されるものである。
【0019】
尚、本発明は、上記したコネクタ101を封止する場合以外にも、医療現場で使用されている各種導管やコネクタの端部を封止する場合にも使用することができ、また、医療現場以外でも使用可能である。
【0020】
本実施形態の説明では、キャップ1の構造を説明する前に雌コネクタ101の概略構造について説明する。雌コネクタ101は、樹脂材を略円筒状に成形してなるものであり、その中心線方向一端部(図2及び図3の右側)に上記導管100が接続されている。雌コネクタ101の中心線方向他端部(図2及び図3の左側)は、雄コネクタが差し込まれる差し込み口101aとされている。この差し込み口101aには、透析開始直前に雄コネクタが差し込まれ、それ以前は図3に示すように上記キャップ1により封止されている。
【0021】
図4にも示すように、雌コネクタ101の内部には、その中心線と同心上に小径の管部102が一体成形されている。管部102の一端部に導管100が接続されており、薬液は管部102内を流れるようになっている。また、管部102の他端部は、雌コネクタ101内において中心線方向中央部近傍に位置している。管部102の外周面の導管100側は、導管100に近づくほど拡径するように形成されたテーパー面部102aで構成されている。
【0022】
雌コネクタ101は、樹脂製の内筒部材103を備えており、この内筒部材103は雌コネクタ101に挿入されている。内筒部材103の外周面は雌コネクタ101本体の内周面に沿うように形成され、該雌コネクタ101の内周面に固定されている。内筒部材103の周壁部には、キャップ1がそれぞれ係合する2つの係合孔104,104が貫通形成されている。係合孔104,104は、周方向に長いスリット形状とされ、互いに周方向に180゜離れている。
【0023】
次に、キャップ1の構造について説明する。図1にも示すように、キャップ1は、雌コネクタ101の開口を封止するキャップ本体10と、キャップ1を雌コネクタ101から取り外す際に引っ張るための引っ張り部20とを備えている。キャップ本体10と引っ張り部20とは、例えばポリプロピレンのような弾性を有する樹脂材により一体成形されている。ここで、樹脂材が備えている弾性とは、外力を作用させて変形させても、外力を取り除くと元の形状に復元する性質であり、完全に元の形状に復元しなくても元の形状に近づくように変形する性質も含むものとする。
【0024】
キャップ本体10は、図5や図6にも示すように、雌コネクタ101の差し込み口101aを覆うように形成された円形板部11と、円形板部11の中心部から突出する円筒部12と、円筒部12の外周面から径方向外方へ延出する延出板部13と、延出板部13に設けられた一対の可撓片14,14及び複数のリブ15,15とを備えている。
【0025】
円形板部11の周縁部には、雌コネクタ101の差し込み口101aの周縁部に嵌る段部11aが形成されている。この段部11aが差し込み口101aの周縁部に嵌ることで雌コネクタ101の内部が密閉される。
【0026】
円筒部12は、雌コネクタ101の管部102の外側を覆うように該管部102よりも大径に形成されている。図3に示すように、円筒部12の先端側には、管部102のテーパー面部102aが嵌合するようになっている。
【0027】
延出板部13は、円筒部12の基端部に近い部位に形成されており、図7に示すように、円筒部12の先端側から見たとき、円筒部12の周方向に連続する円形状となっている。延出板部13の外径は、円形板部11の外径よりも若干小さく設定されている。
【0028】
図1に示すように、可撓片14,14は、延出板部13における円形板部11とは反対側の面13aから円筒部12の中心線と略平行に突出しており、互いに周方向に180゜離れている。
【0029】
可撓片14は、図7に一点鎖線で示すように円筒部12の接線方向に真っ直ぐに延びる平板状とされている。すなわち、可撓片14をその突出方向先端側から見ると、円筒部12の外周面に沿う円弧状とはなっておらず、直線状をなしている。
【0030】
可撓片14における円筒部12側の側面(内側面)14aと、円筒部12の外周面との間には隙間が形成されている。各可撓片14は、突出方向先端側が円筒部12の径方向に変位するように弾性変形する、いわゆる可撓性を有している。
【0031】
図8にも示すように、可撓片14の円筒部12と反対側の面である外側面14bには、突出方向先端部に突起14cが設けられている。図1に示すように、突起14cは、可撓片14の幅方向両端近傍に亘って延びている。図3に示すように、この突起14cが雌コネクタ101の係合孔104に入って該係合孔104の周縁部と係合することによってキャップ1が取り付けられ、一方、係合孔104から離脱して係合状態が解除されることでキャップ1が外れる。つまり、可撓片14,14は雌コネクタ101に係脱するように構成されている。
【0032】
図1や図5に示すように、可撓片14の外側面14bには、3つの凸部14d,14d,14dが該可撓片14の幅方向に互いに間隔をあけて形成されている。これら凸部14dは、可撓片14の基端側約半分の領域に形成されており、延出板部13の面13aと連なっている。これら凸部14dの形成により、可撓片14の基端側の肉厚が厚くなって剛性が高まり、可撓片14の折れが抑制される。可撓片14の剛性は凸部14dの数や形状によって任意に変更できる。また、この凸部14dは、キャップ1を雌コネクタ101に取り付けた状態で、該雌コネクタ101の内面に接触し、これによってキャップ1のがたつきが防止されるようになっている。
【0033】
リブ15は、可撓片14と同様に延出板部13の面13aから突出しており、可撓片14,14の間に配置されている。図7に示すように、リブ15は、その突出方向先端側から見たとき、円筒部12の外周面に沿うように円弧状に湾曲している。
【0034】
次に、引っ張り部20の構造について説明する。図5に示すように、引っ張り部20は、正面視で略円環状(リング状)に形成されている。引っ張り部20は、キャップ本体10の円形板部11の外表面(雌コネクタ101外に臨む面)から該円形板部11の中心線方向に突出している。突出方向は図2の矢印Yで示す方向である。従って、引っ張り部20の突出方向は、雌コネクタ101に取り付けられたキャップ1を雌コネクタ101から抜く方向(雌コネクタ101の中心線方向)と略一致している。
【0035】
引っ張り部20の外径は、円形板部11の外径よりも大きく設定されている。また、図5及び図9に示すように、引っ張り部20の周方向の一端部20a及び他端部20bは、円形板部11と一体成形されている。一端部20a及び他端部20bは円形板部11の径方向に互いに離れており、それぞれ円形板部11の外側寄りに位置している。一端部20a及び他端部20bは、円形板部11の周方向について可撓片14,14の間に位置するようになっている。具体的には、図10に示すように、キャップ本体10を中心線方向に沿って見たとき、引っ張り部20の一端部20a及び他端部20bは可撓片14,14と重複しない範囲に位置している。
【0036】
図5に示すように、引っ張り部20の正面視では、一端部20a及び他端部20bの幅寸法は、引っ張り部20の他の部分の幅寸法に比べて若干広めに設定されている。
【0037】
引っ張り部20は、第1及び第2変形部20c,20dと、指をかけるための指接触部20eとを有している。第1及び第2変形部20c,20dは、引っ張り部20が該引っ張り部20の突出方向と交差する方向の外力(図2に白抜き矢印で示す)を受けた際に、該引っ張り部20の変形を許容するためのものであり、図5に示すように、引っ張り部20の周方向に互いに間隔をあけて設けられている。
【0038】
具体的には、第1変形部20cは、引っ張り部20のキャップ本体10からの突出方向中間部において一端部20a寄りに設けられている。また、第2変形部20dは、引っ張り部20の突出方向中間部において他端部20b寄りに設けられている。すなわち、第1変形部20cは、引っ張り部20の周方向の一部である第1部位(仮想線Aで囲んだ部位)に設けられ、第2変形部20dは、引っ張り部20の中心Xを通り、かつ、キャップ本体10の取り外し方向に延びる直線Zを対称の中心として第1部位Aと線対称の位置関係にある第2部位(仮想線Bで囲んだ部位)に設けられている。また、図10に示すように、第1及び第2変形部20c,20dは、引っ張り部20の突出方向先端側から見て、円形板部11の外縁よりも径方向外方に位置している。
【0039】
図6に示すように、第1及び第2変形部20c,20dは、引っ張り部20の側面視で、他の部位に比べて肉厚寸法が短くなるように形成されている。第1及び第2変形部20c,20dの肉厚寸法が他の部位に比べて短くされることによって第1及び第2変形部20c,20dが薄肉化し、これによって他の部位に比べて小さな外力で弾性変形するようになる。また、第1及び第2変形部20c,20dは全体が滑らかな曲面で構成されており、外力を受けた際に応力集中が起こらないようになっている。
【0040】
第1及び第2変形部20c,20dが変形し始める力は次のように設定されている。すなわち、外力によるキャップ本体10のこじり力が、キャップ本体10が雌コネクタ101から抜ける大きさとなる前に第1及び第2変形部20c,20dが変形し始めるようになっている。こじり力とは、キャップ本体10の中心線を雌コネクタ101の中心線に対し傾斜させる方向の力である。
【0041】
指接触部20eは、引っ張り部20の突出方向先端部に設けられている。指接触部20eは、引っ張り部20の他の部位よりも該引っ張り部20の中心線方向両側へそれぞれ延出しており、引っ張り部20を突出方向先端側から見たときに略円形の板状に形成されている。これにより指接触部20eにおける指との接触面積が増大し、指にかかる圧力を減少させることが可能になる。
【0042】
次に、上記のように構成されたキャップ1を用いて雌コネクタ101を封止する場合について説明する。まず、キャップ1の引っ張り部20を指で持ち、図4に示すように、キャップ本体10の円筒部12側を雌コネクタ101の差し込み口101aに対向させ、円筒部12を差し込み口101aに挿入していく。円筒部12を挿入していくと、雌コネクタ101の管部102が円筒部12内に入っていく。これとともに、キャップ1の可撓片14の突起14cが雌コネクタ101の内周面に当たり、突起14cが雌コネクタ101の内周面によって径方向内方へ押される。これにより、可撓片14が径方向内方へ撓む。
【0043】
このとき、可撓片14は平板形状であり、低剛性な形状となっているので、塑性変形は殆ど起こらず、弾性領域での変形となる。
【0044】
可撓片14が撓むと突起14cが径方向内方へ変位し、この状態で突起14cが雌コネクタ101の内周面を摺動する。キャップ1をさらに深く差し込んでいくと、図3に示すように、突起14cが雌コネクタ101の係合孔104に達し、これと同時に可撓片14の復元力によって突起14cが径方向外方へ変位して係合孔104に入り、係合孔104の周縁部と係合する。可撓片14は上述のように弾性変形しているので、十分に復元することになり、突起14cはしっかりと係合する。
【0045】
また、可撓片14が係合状態になると円筒部12が管部102のテーパー面部102aに嵌り、さらに、円形板部11の段部11aが雌コネクタ101の差し込み口101aに嵌る。以上のようにしてキャップ1が雌コネクタ101に係合すると雌コネクタ101が封止される(図2に示す)。
【0046】
尚、キャップ1で雌コネクタ101を封止する場合には、機械による自動組み付けで行うようにしてもよい。
【0047】
次に、雌コネクタ101を封止した状態にあるキャップ1を使用者が外す場合について説明する。この場合は、使用者が指を引っ張り部20に差し込んでキャップ本体10を雌コネクタ101から引き抜く方向(図2に矢印Yで示す方向)に引っ張る。このとき、引き抜く方向と引っ張り部20の突出方向とが一致しているので、引っ張り部20へ作用させた力を引き抜く力として確実に作用させることができる。また、指は引っ張り部20の指接触部20eに接触することになるが、この指接触部20eは幅が広いので、指にかかる圧力が低減され、使用者が痛み等を感じることは殆どない。
【0048】
キャップ1を使用者が取り外す際には、キャップ1の成形ばらつき等によって取り外しに要する力がある程度の範囲でばらつくことになる。この取り外しに要する力のばらつきについて、図11に示すグラフに基づいて説明する。
【0049】
グラフの縦軸は、キャップ引抜力、即ち、キャップ1の取り外しに要する力であり、単位はニュートン(N)である。また、横軸は、可撓片14の肉厚、即ち、可撓片14における突起14c及び凸部14dの形成されていない部位の厚みであり、単位はmmである。このグラフでは、滅菌前の引抜力と、滅菌後の引抜力とを記載しており、「滅菌前」とは、キャップ1で封止した後に所定温度まで加熱した後、常温に戻す処理(滅菌処理)を行う前の結果であり、「滅菌後」とは、キャップ1で封止した後に上記滅菌処理を行った後の結果である。尚、所定温度とは、一般に医療製造現場で行われている加熱滅菌処理時の温度である。
【0050】
各肉厚の可撓片14について複数個のサンプルを作製して実験を行い、生じたばらつきの範囲をそれぞれ縦棒の長さで示している。このグラフに示すように、キャップ引抜力は、最もばらつきの大きい場合の肉厚が1.1mmのときでも、そのばらつきの範囲が3ニュートン程度の低い値となっていることが分かる。また、可撓片14の肉厚が0.9mm以下であれば、ばらつきの範囲は2ニュートン以下であり、極めて小さい値となる。
【0051】
このキャップ引抜強度の比較例として、図12に示す湾曲した可撓片40の場合で実験した結果について図13を参照しながら説明する。可撓片40は、円筒部12の外周面に沿う円弧状となっており、突起40aを有している。この可撓片40は、湾曲している分、実施形態の可撓片14に比べて剛性が高い。
【0052】
図13に示すように、可撓片40の場合は、全ての結果でばらつきの範囲が5ニュートン以上となっていることが分かる。これば可撓片40の剛性が高い分、成形誤差等に起因して可倒片40の厚みがわずかに違っても、そのことによる影響が大きく現れてしまうからである。
【0053】
一方、医療用導管100の使用前には、キャップ1によって雌コネクタ101を封止した状態で、例えば袋等の包装材によって包装されて上記した滅菌処理が施されている。キャップ1の引っ張り部20が突出しているので、搬送時や包装材を開封する際に、引っ張り部20に対し、図2に白抜きの矢印で示すように引っ張り部20の突出方向と交差する方向に外力が作用することがある。この場合、第1及び第2変形部20c,20dが他の部位よりも低剛性であるため変形し、同図に仮想線で示すように引っ張り部20が第1及び第2変形部20c,20dを起点にして折れ曲がる。これは、第1及び第2変形部20c,20dが、直線Zを対称の中心とする線対称の位置関係にあるためである。この引っ張り部20の折れ曲がりによって外力が吸収されるので、キャップ本体10にかかるこじり力が低減される。
【0054】
引っ張り部20は弾性部材で構成されているので、外力が取り除かれると元の形状に復元する。よって、使用者がキャップ1を外すときに不具合が起こることはない。
【0055】
以上説明したように、この実施形態にかかるキャップ1によれば、キャップ本体10の可撓片14を平板状にしたので、成形誤差が生じたとしてもキャップ1の引抜力のばらつき範囲を小さくすることができ、高精度な成形をせずに済む。これにより、不意に外れ難く、必要時には外れやすいキャップ1を低コストで得ることができる。
【0056】
また、キャップ本体10に引っ張り部20を設け、引っ張り部20が、その突出方向と交差する方向の外力を受けた際に変形するようにしたので、必要時にはキャップ1に指を掛けて取り外しやすくしながら、不意に外力が作用した際にはキャップ1の外れや脱落を抑止することができる。
【0057】
また、引っ張り部20の中心Xを通る直線Zを対称の中心とする線対称の位置関係となるように第1及び第2変形部20c,20dをそれぞれ設けたので、外力が作用した際に引っ張り部20を折れるように変形させてキャップ本体10にかかるこじり力を確実に軽減することができ、これにより、キャップ1の外れや脱落を未然に防止できる。
【0058】
また、指接触部20eと変形部20c,20dとを離したので、キャップ1を外す際に指接触部20eの変形を抑制することができ、操作性を良好にすることができる。
【0059】
また、変形部20c,20dを弾性材料で構成したので、外力が作用した際に大きく変形させてキャップ1の脱落を未然に防止しながら、必要時には形状を復元させて引っ張り部20として機能させることができる。
【0060】
尚、上記実施形態では、可撓片14が2つである場合について説明したが、可撓片14の数は3つ以上であってもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、第1及び第2変形部20c,20dと、他の部分とを同じ樹脂材で成形しているが、これに限らず、例えば、第1及び第2変形部20c,20dと、他の部分とを異なる樹脂材で構成してもよく、この場合、第1及び第2変形部20c,20dを構成する樹脂材の方を、小さな力で変形する弾性材料とすればよい。また、成形方法としては、周知の2色成形技術を用いればよい。
【0062】
また、上記実施形態では、変形部を2つ設けているが、これに限らず、1つであっても外力を吸収することは可能であり、また、3つ以上設けてもよい。また、変形部を設ける位置は、例えば引っ張り部20の基端側であってもよい。
【0063】
また、上記実施形態では引っ張り部20の形状を略円環状にしているが、これに限らず、楕円形や多角形(三角形、四角形等)にしてもよい。
【0064】
また、図14に示す変形例のように、引っ張り部20が、その基端部にキャップ本体10と連なる連結部21を有するものとし、連結部21を変形部としてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、引っ張り部20の中心Xを通る直線Zを対称の中心とする線対称の位置関係となるように第1及び第2変形部20c,20dをそれぞれ設けているが、これに限らず、第1変形部20c及び第2変形部20dは、引っ張り部20の中心Xを対称の中心として点対称の位置関係となるように設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明にかかるキャップは、例えば、輸液用の導管や、導管の端部に接続するコネクタを封止するのに使用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 キャップ
10 キャップ本体
11 円形板部
12 円筒部
13 延出板部
14 可撓片
14c 突起
20 引っ張り部
100 医療用導管
101 雌コネクタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば各種容器や、医療用の導管等を封止するためのキャップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば容器のキャップとしては、特許文献1に開示されているように、円筒状のキャップ本体と、キャップ本体に設けられた可撓片とを備えたものが知られている。可撓片は、キャップ本体の天板部内面から容器側へ向けて突出しており、キャップ本体の形状に対応して円弧状に湾曲している。可撓片の突出方向先端部には、凸部が形成されている。一方、容器には、凸部が係合する凹部が形成されている。従って、キャップを容器に固定する際、キャップの可撓片を撓ませながら、凸部と凹部とを係合させ、可撓片の復元力によって凸部を凹部に押し付けてこれらの係合状態を維持するようにしている。
【0003】
また、キャップを外す際には、可撓片が撓むことで凸部と凹部との係合状態が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4−91847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1では、キャップ本体が断面円形に形成されていることから、このキャップ本体の形状に対応するように可撓片が円弧状に湾曲している。このため、キャップの着脱時には可撓片を円弧の径方向に撓ませることになるが、円弧状の可撓片は、そもそも剛性が高く、撓みにくいものとなっており、このような剛性の高い可撓片を径方向に撓ませると、無理な変形を伴って塑性変形を引き起こしやすく、その後の復元力が十分でなくなることが考えられる。
【0006】
また、キャップには製造上の避けられないばらつきがあり、特許文献1のような剛性の高い形状の可撓片であると、可撓片の厚みがわずかに違っても、そのことによる影響が大きく現れてしまいがちである。
【0007】
このことを図13に示す実験データに基づいて説明する。図13は、特許文献1の可撓片と同様な円弧状の可撓片をキャップに設け、このキャップを相手側の部材に固定した後、そのキャップを取り外す時に要する力を測定してグラフ化したものである。可撓片の肉厚は、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.85mm、0.9mmに変化させており、「滅菌後」というのは、キャップを所定温度まで加熱して常温まで冷却した場合の引抜力であり、「滅菌前」というのは、そのような温度変化を加えていない場合の引抜力である。引抜力はキャップを中心線方向に引っ張って相手側から外れるのに要する引抜力であり、単位はN(ニュートン)である。
【0008】
グラフ中の各縦線は、複数個のキャップで実験して生じたばらつきの範囲を示しており、例えば、肉厚が0.6mmで「滅菌前」の場合の抜き力は10.5N〜17.5Nであり、ばらつきの範囲としては7N程度である。
【0009】
このように引抜力のばらつきが大きいと、キャップによって不意に外れやすかったり、必要時に外れにくかったりする。このことを防止するためには、可撓片のばらつきが少なくなるように該可撓片を高精度に成形すればよいのであるが、コスト高となる。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、断面円形のキャップ本体に可撓片を設けて相手側に係合させて取り付けるようにする場合に、可撓片を弾性変形しやすくするとともに、成形精度をそれほど高めなくてもキャップの引抜力のばらつきを小さくできるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では、可撓片を平板状にして弾性変形しやすくし、肉厚のばらつきの影響が小さくなるようにした。
【0012】
第1の発明は、封止対象物に取り付けられるキャップにおいて、断面円形状のキャップ本体と、上記キャップ本体から封止対象物側へ突出する可撓片と、上記可撓片の突出方向先端側に設けられ、上記封止対象物に係合する係合部とを備え、上記可撓片は、上記キャップ本体の接線と略平行に延び、該キャップ本体の径方向に弾性変形する平板状に形成され、上記可撓片の復元力により上記係合部を上記封止対象物に係合させて該封止対象物に取り付けられる一方、取り付けられたキャップ本体を中心線方向に引っ張って上記可撓片を撓ませながら上記係合部の係合状態を解除して取り外し可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0013】
この構成によれば、封止対象物に取り付けられたキャップ本体を取り外す際、可撓片が平板状であるため、低剛性で変形しやすく、通常の成形誤差の範囲内で可撓片の厚みがわずかに違ったとしても、そのことによる影響が現れにくく、キャップの引抜力のばらつきが小さくなる。
【0014】
このことの実験結果を図11に示すグラフに基づいて説明する。このグラフの縦軸及び横軸は図13のものと同じであり、実験に使用したキャップの可撓片は、図7に示すように平板状である。この図11のグラフから明らかなように、全ての場合において従来の円弧状の可撓片に比べて引抜力のばらつき範囲が大幅に狭くなっていることが分かる。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、キャップ本体の可撓片を平板状にしたので、通常の成形誤差が生じたとしてもキャップの引抜力のばらつき範囲を小さくすることができ、特別に高精度な成形をせずに済む。これにより、不意に外れ難く、必要時には外れやすいキャップを低コストで得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】キャップ本体側から見た斜視図である。
【図2】雌コネクタをキャップで封止した状態の側面図である。
【図3】雌コネクタをキャップで封止した状態の中心線に沿う断面図である。
【図4】キャップを封止する前の図3相当図である。
【図5】キャップの正面図である。
【図6】キャップの側面図である。
【図7】キャップをキャップ本体側から見た図である。
【図8】図5のVIII−VIII線断面図である。
【図9】図6のIX−IX線断面図である。
【図10】図5のX−X線断面図である。
【図11】実施形態にかかるキャップの取り外しに要する力と可撓片の肉厚との関係を示すグラフである。
【図12】比較例にかかる図7相当図である。
【図13】比較例にかかる図11相当図である。
【図14】変形例にかかる図5相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0018】
図1は、本発明の実施形態にかかるキャップ1を示すものである。このキャップ1は、図2及び図3に示すように、医療用導管100の先端に取り付けられた雌コネクタ101(封止対象物)の開口を封止するためのものである。医療用導管100の基端部は、透析液の薬液が充填された腹膜透析液バッグ(図示せず)に接続されている。雌コネクタ101は、患者の腹部側の導管(図示せず)が有する雄コネクタ(図示せず)に接続されるものである。
【0019】
尚、本発明は、上記したコネクタ101を封止する場合以外にも、医療現場で使用されている各種導管やコネクタの端部を封止する場合にも使用することができ、また、医療現場以外でも使用可能である。
【0020】
本実施形態の説明では、キャップ1の構造を説明する前に雌コネクタ101の概略構造について説明する。雌コネクタ101は、樹脂材を略円筒状に成形してなるものであり、その中心線方向一端部(図2及び図3の右側)に上記導管100が接続されている。雌コネクタ101の中心線方向他端部(図2及び図3の左側)は、雄コネクタが差し込まれる差し込み口101aとされている。この差し込み口101aには、透析開始直前に雄コネクタが差し込まれ、それ以前は図3に示すように上記キャップ1により封止されている。
【0021】
図4にも示すように、雌コネクタ101の内部には、その中心線と同心上に小径の管部102が一体成形されている。管部102の一端部に導管100が接続されており、薬液は管部102内を流れるようになっている。また、管部102の他端部は、雌コネクタ101内において中心線方向中央部近傍に位置している。管部102の外周面の導管100側は、導管100に近づくほど拡径するように形成されたテーパー面部102aで構成されている。
【0022】
雌コネクタ101は、樹脂製の内筒部材103を備えており、この内筒部材103は雌コネクタ101に挿入されている。内筒部材103の外周面は雌コネクタ101本体の内周面に沿うように形成され、該雌コネクタ101の内周面に固定されている。内筒部材103の周壁部には、キャップ1がそれぞれ係合する2つの係合孔104,104が貫通形成されている。係合孔104,104は、周方向に長いスリット形状とされ、互いに周方向に180゜離れている。
【0023】
次に、キャップ1の構造について説明する。図1にも示すように、キャップ1は、雌コネクタ101の開口を封止するキャップ本体10と、キャップ1を雌コネクタ101から取り外す際に引っ張るための引っ張り部20とを備えている。キャップ本体10と引っ張り部20とは、例えばポリプロピレンのような弾性を有する樹脂材により一体成形されている。ここで、樹脂材が備えている弾性とは、外力を作用させて変形させても、外力を取り除くと元の形状に復元する性質であり、完全に元の形状に復元しなくても元の形状に近づくように変形する性質も含むものとする。
【0024】
キャップ本体10は、図5や図6にも示すように、雌コネクタ101の差し込み口101aを覆うように形成された円形板部11と、円形板部11の中心部から突出する円筒部12と、円筒部12の外周面から径方向外方へ延出する延出板部13と、延出板部13に設けられた一対の可撓片14,14及び複数のリブ15,15とを備えている。
【0025】
円形板部11の周縁部には、雌コネクタ101の差し込み口101aの周縁部に嵌る段部11aが形成されている。この段部11aが差し込み口101aの周縁部に嵌ることで雌コネクタ101の内部が密閉される。
【0026】
円筒部12は、雌コネクタ101の管部102の外側を覆うように該管部102よりも大径に形成されている。図3に示すように、円筒部12の先端側には、管部102のテーパー面部102aが嵌合するようになっている。
【0027】
延出板部13は、円筒部12の基端部に近い部位に形成されており、図7に示すように、円筒部12の先端側から見たとき、円筒部12の周方向に連続する円形状となっている。延出板部13の外径は、円形板部11の外径よりも若干小さく設定されている。
【0028】
図1に示すように、可撓片14,14は、延出板部13における円形板部11とは反対側の面13aから円筒部12の中心線と略平行に突出しており、互いに周方向に180゜離れている。
【0029】
可撓片14は、図7に一点鎖線で示すように円筒部12の接線方向に真っ直ぐに延びる平板状とされている。すなわち、可撓片14をその突出方向先端側から見ると、円筒部12の外周面に沿う円弧状とはなっておらず、直線状をなしている。
【0030】
可撓片14における円筒部12側の側面(内側面)14aと、円筒部12の外周面との間には隙間が形成されている。各可撓片14は、突出方向先端側が円筒部12の径方向に変位するように弾性変形する、いわゆる可撓性を有している。
【0031】
図8にも示すように、可撓片14の円筒部12と反対側の面である外側面14bには、突出方向先端部に突起14cが設けられている。図1に示すように、突起14cは、可撓片14の幅方向両端近傍に亘って延びている。図3に示すように、この突起14cが雌コネクタ101の係合孔104に入って該係合孔104の周縁部と係合することによってキャップ1が取り付けられ、一方、係合孔104から離脱して係合状態が解除されることでキャップ1が外れる。つまり、可撓片14,14は雌コネクタ101に係脱するように構成されている。
【0032】
図1や図5に示すように、可撓片14の外側面14bには、3つの凸部14d,14d,14dが該可撓片14の幅方向に互いに間隔をあけて形成されている。これら凸部14dは、可撓片14の基端側約半分の領域に形成されており、延出板部13の面13aと連なっている。これら凸部14dの形成により、可撓片14の基端側の肉厚が厚くなって剛性が高まり、可撓片14の折れが抑制される。可撓片14の剛性は凸部14dの数や形状によって任意に変更できる。また、この凸部14dは、キャップ1を雌コネクタ101に取り付けた状態で、該雌コネクタ101の内面に接触し、これによってキャップ1のがたつきが防止されるようになっている。
【0033】
リブ15は、可撓片14と同様に延出板部13の面13aから突出しており、可撓片14,14の間に配置されている。図7に示すように、リブ15は、その突出方向先端側から見たとき、円筒部12の外周面に沿うように円弧状に湾曲している。
【0034】
次に、引っ張り部20の構造について説明する。図5に示すように、引っ張り部20は、正面視で略円環状(リング状)に形成されている。引っ張り部20は、キャップ本体10の円形板部11の外表面(雌コネクタ101外に臨む面)から該円形板部11の中心線方向に突出している。突出方向は図2の矢印Yで示す方向である。従って、引っ張り部20の突出方向は、雌コネクタ101に取り付けられたキャップ1を雌コネクタ101から抜く方向(雌コネクタ101の中心線方向)と略一致している。
【0035】
引っ張り部20の外径は、円形板部11の外径よりも大きく設定されている。また、図5及び図9に示すように、引っ張り部20の周方向の一端部20a及び他端部20bは、円形板部11と一体成形されている。一端部20a及び他端部20bは円形板部11の径方向に互いに離れており、それぞれ円形板部11の外側寄りに位置している。一端部20a及び他端部20bは、円形板部11の周方向について可撓片14,14の間に位置するようになっている。具体的には、図10に示すように、キャップ本体10を中心線方向に沿って見たとき、引っ張り部20の一端部20a及び他端部20bは可撓片14,14と重複しない範囲に位置している。
【0036】
図5に示すように、引っ張り部20の正面視では、一端部20a及び他端部20bの幅寸法は、引っ張り部20の他の部分の幅寸法に比べて若干広めに設定されている。
【0037】
引っ張り部20は、第1及び第2変形部20c,20dと、指をかけるための指接触部20eとを有している。第1及び第2変形部20c,20dは、引っ張り部20が該引っ張り部20の突出方向と交差する方向の外力(図2に白抜き矢印で示す)を受けた際に、該引っ張り部20の変形を許容するためのものであり、図5に示すように、引っ張り部20の周方向に互いに間隔をあけて設けられている。
【0038】
具体的には、第1変形部20cは、引っ張り部20のキャップ本体10からの突出方向中間部において一端部20a寄りに設けられている。また、第2変形部20dは、引っ張り部20の突出方向中間部において他端部20b寄りに設けられている。すなわち、第1変形部20cは、引っ張り部20の周方向の一部である第1部位(仮想線Aで囲んだ部位)に設けられ、第2変形部20dは、引っ張り部20の中心Xを通り、かつ、キャップ本体10の取り外し方向に延びる直線Zを対称の中心として第1部位Aと線対称の位置関係にある第2部位(仮想線Bで囲んだ部位)に設けられている。また、図10に示すように、第1及び第2変形部20c,20dは、引っ張り部20の突出方向先端側から見て、円形板部11の外縁よりも径方向外方に位置している。
【0039】
図6に示すように、第1及び第2変形部20c,20dは、引っ張り部20の側面視で、他の部位に比べて肉厚寸法が短くなるように形成されている。第1及び第2変形部20c,20dの肉厚寸法が他の部位に比べて短くされることによって第1及び第2変形部20c,20dが薄肉化し、これによって他の部位に比べて小さな外力で弾性変形するようになる。また、第1及び第2変形部20c,20dは全体が滑らかな曲面で構成されており、外力を受けた際に応力集中が起こらないようになっている。
【0040】
第1及び第2変形部20c,20dが変形し始める力は次のように設定されている。すなわち、外力によるキャップ本体10のこじり力が、キャップ本体10が雌コネクタ101から抜ける大きさとなる前に第1及び第2変形部20c,20dが変形し始めるようになっている。こじり力とは、キャップ本体10の中心線を雌コネクタ101の中心線に対し傾斜させる方向の力である。
【0041】
指接触部20eは、引っ張り部20の突出方向先端部に設けられている。指接触部20eは、引っ張り部20の他の部位よりも該引っ張り部20の中心線方向両側へそれぞれ延出しており、引っ張り部20を突出方向先端側から見たときに略円形の板状に形成されている。これにより指接触部20eにおける指との接触面積が増大し、指にかかる圧力を減少させることが可能になる。
【0042】
次に、上記のように構成されたキャップ1を用いて雌コネクタ101を封止する場合について説明する。まず、キャップ1の引っ張り部20を指で持ち、図4に示すように、キャップ本体10の円筒部12側を雌コネクタ101の差し込み口101aに対向させ、円筒部12を差し込み口101aに挿入していく。円筒部12を挿入していくと、雌コネクタ101の管部102が円筒部12内に入っていく。これとともに、キャップ1の可撓片14の突起14cが雌コネクタ101の内周面に当たり、突起14cが雌コネクタ101の内周面によって径方向内方へ押される。これにより、可撓片14が径方向内方へ撓む。
【0043】
このとき、可撓片14は平板形状であり、低剛性な形状となっているので、塑性変形は殆ど起こらず、弾性領域での変形となる。
【0044】
可撓片14が撓むと突起14cが径方向内方へ変位し、この状態で突起14cが雌コネクタ101の内周面を摺動する。キャップ1をさらに深く差し込んでいくと、図3に示すように、突起14cが雌コネクタ101の係合孔104に達し、これと同時に可撓片14の復元力によって突起14cが径方向外方へ変位して係合孔104に入り、係合孔104の周縁部と係合する。可撓片14は上述のように弾性変形しているので、十分に復元することになり、突起14cはしっかりと係合する。
【0045】
また、可撓片14が係合状態になると円筒部12が管部102のテーパー面部102aに嵌り、さらに、円形板部11の段部11aが雌コネクタ101の差し込み口101aに嵌る。以上のようにしてキャップ1が雌コネクタ101に係合すると雌コネクタ101が封止される(図2に示す)。
【0046】
尚、キャップ1で雌コネクタ101を封止する場合には、機械による自動組み付けで行うようにしてもよい。
【0047】
次に、雌コネクタ101を封止した状態にあるキャップ1を使用者が外す場合について説明する。この場合は、使用者が指を引っ張り部20に差し込んでキャップ本体10を雌コネクタ101から引き抜く方向(図2に矢印Yで示す方向)に引っ張る。このとき、引き抜く方向と引っ張り部20の突出方向とが一致しているので、引っ張り部20へ作用させた力を引き抜く力として確実に作用させることができる。また、指は引っ張り部20の指接触部20eに接触することになるが、この指接触部20eは幅が広いので、指にかかる圧力が低減され、使用者が痛み等を感じることは殆どない。
【0048】
キャップ1を使用者が取り外す際には、キャップ1の成形ばらつき等によって取り外しに要する力がある程度の範囲でばらつくことになる。この取り外しに要する力のばらつきについて、図11に示すグラフに基づいて説明する。
【0049】
グラフの縦軸は、キャップ引抜力、即ち、キャップ1の取り外しに要する力であり、単位はニュートン(N)である。また、横軸は、可撓片14の肉厚、即ち、可撓片14における突起14c及び凸部14dの形成されていない部位の厚みであり、単位はmmである。このグラフでは、滅菌前の引抜力と、滅菌後の引抜力とを記載しており、「滅菌前」とは、キャップ1で封止した後に所定温度まで加熱した後、常温に戻す処理(滅菌処理)を行う前の結果であり、「滅菌後」とは、キャップ1で封止した後に上記滅菌処理を行った後の結果である。尚、所定温度とは、一般に医療製造現場で行われている加熱滅菌処理時の温度である。
【0050】
各肉厚の可撓片14について複数個のサンプルを作製して実験を行い、生じたばらつきの範囲をそれぞれ縦棒の長さで示している。このグラフに示すように、キャップ引抜力は、最もばらつきの大きい場合の肉厚が1.1mmのときでも、そのばらつきの範囲が3ニュートン程度の低い値となっていることが分かる。また、可撓片14の肉厚が0.9mm以下であれば、ばらつきの範囲は2ニュートン以下であり、極めて小さい値となる。
【0051】
このキャップ引抜強度の比較例として、図12に示す湾曲した可撓片40の場合で実験した結果について図13を参照しながら説明する。可撓片40は、円筒部12の外周面に沿う円弧状となっており、突起40aを有している。この可撓片40は、湾曲している分、実施形態の可撓片14に比べて剛性が高い。
【0052】
図13に示すように、可撓片40の場合は、全ての結果でばらつきの範囲が5ニュートン以上となっていることが分かる。これば可撓片40の剛性が高い分、成形誤差等に起因して可倒片40の厚みがわずかに違っても、そのことによる影響が大きく現れてしまうからである。
【0053】
一方、医療用導管100の使用前には、キャップ1によって雌コネクタ101を封止した状態で、例えば袋等の包装材によって包装されて上記した滅菌処理が施されている。キャップ1の引っ張り部20が突出しているので、搬送時や包装材を開封する際に、引っ張り部20に対し、図2に白抜きの矢印で示すように引っ張り部20の突出方向と交差する方向に外力が作用することがある。この場合、第1及び第2変形部20c,20dが他の部位よりも低剛性であるため変形し、同図に仮想線で示すように引っ張り部20が第1及び第2変形部20c,20dを起点にして折れ曲がる。これは、第1及び第2変形部20c,20dが、直線Zを対称の中心とする線対称の位置関係にあるためである。この引っ張り部20の折れ曲がりによって外力が吸収されるので、キャップ本体10にかかるこじり力が低減される。
【0054】
引っ張り部20は弾性部材で構成されているので、外力が取り除かれると元の形状に復元する。よって、使用者がキャップ1を外すときに不具合が起こることはない。
【0055】
以上説明したように、この実施形態にかかるキャップ1によれば、キャップ本体10の可撓片14を平板状にしたので、成形誤差が生じたとしてもキャップ1の引抜力のばらつき範囲を小さくすることができ、高精度な成形をせずに済む。これにより、不意に外れ難く、必要時には外れやすいキャップ1を低コストで得ることができる。
【0056】
また、キャップ本体10に引っ張り部20を設け、引っ張り部20が、その突出方向と交差する方向の外力を受けた際に変形するようにしたので、必要時にはキャップ1に指を掛けて取り外しやすくしながら、不意に外力が作用した際にはキャップ1の外れや脱落を抑止することができる。
【0057】
また、引っ張り部20の中心Xを通る直線Zを対称の中心とする線対称の位置関係となるように第1及び第2変形部20c,20dをそれぞれ設けたので、外力が作用した際に引っ張り部20を折れるように変形させてキャップ本体10にかかるこじり力を確実に軽減することができ、これにより、キャップ1の外れや脱落を未然に防止できる。
【0058】
また、指接触部20eと変形部20c,20dとを離したので、キャップ1を外す際に指接触部20eの変形を抑制することができ、操作性を良好にすることができる。
【0059】
また、変形部20c,20dを弾性材料で構成したので、外力が作用した際に大きく変形させてキャップ1の脱落を未然に防止しながら、必要時には形状を復元させて引っ張り部20として機能させることができる。
【0060】
尚、上記実施形態では、可撓片14が2つである場合について説明したが、可撓片14の数は3つ以上であってもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、第1及び第2変形部20c,20dと、他の部分とを同じ樹脂材で成形しているが、これに限らず、例えば、第1及び第2変形部20c,20dと、他の部分とを異なる樹脂材で構成してもよく、この場合、第1及び第2変形部20c,20dを構成する樹脂材の方を、小さな力で変形する弾性材料とすればよい。また、成形方法としては、周知の2色成形技術を用いればよい。
【0062】
また、上記実施形態では、変形部を2つ設けているが、これに限らず、1つであっても外力を吸収することは可能であり、また、3つ以上設けてもよい。また、変形部を設ける位置は、例えば引っ張り部20の基端側であってもよい。
【0063】
また、上記実施形態では引っ張り部20の形状を略円環状にしているが、これに限らず、楕円形や多角形(三角形、四角形等)にしてもよい。
【0064】
また、図14に示す変形例のように、引っ張り部20が、その基端部にキャップ本体10と連なる連結部21を有するものとし、連結部21を変形部としてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、引っ張り部20の中心Xを通る直線Zを対称の中心とする線対称の位置関係となるように第1及び第2変形部20c,20dをそれぞれ設けているが、これに限らず、第1変形部20c及び第2変形部20dは、引っ張り部20の中心Xを対称の中心として点対称の位置関係となるように設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明にかかるキャップは、例えば、輸液用の導管や、導管の端部に接続するコネクタを封止するのに使用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 キャップ
10 キャップ本体
11 円形板部
12 円筒部
13 延出板部
14 可撓片
14c 突起
20 引っ張り部
100 医療用導管
101 雌コネクタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
封止対象物に取り付けられるキャップにおいて、
断面円形状のキャップ本体と、
上記キャップ本体から封止対象物側へ突出する可撓片と、
上記可撓片の突出方向先端側に設けられ、上記封止対象物に係合する係合部とを備え、
上記可撓片は、上記キャップ本体の接線と略平行に延び、該キャップ本体の径方向に弾性変形する平板状に形成され、
上記可撓片の復元力により上記係合部を上記封止対象物に係合させて該封止対象物に取り付けられる一方、取り付けられたキャップ本体を中心線方向に引っ張って上記可撓片を撓ませながら上記係合部の係合状態を解除して取り外し可能に構成されていることを特徴とするキャップ。
【請求項1】
封止対象物に取り付けられるキャップにおいて、
断面円形状のキャップ本体と、
上記キャップ本体から封止対象物側へ突出する可撓片と、
上記可撓片の突出方向先端側に設けられ、上記封止対象物に係合する係合部とを備え、
上記可撓片は、上記キャップ本体の接線と略平行に延び、該キャップ本体の径方向に弾性変形する平板状に形成され、
上記可撓片の復元力により上記係合部を上記封止対象物に係合させて該封止対象物に取り付けられる一方、取り付けられたキャップ本体を中心線方向に引っ張って上記可撓片を撓ませながら上記係合部の係合状態を解除して取り外し可能に構成されていることを特徴とするキャップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−35592(P2013−35592A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175357(P2011−175357)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】
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