説明

キャパシタモジュールのセル電圧均等化装置

【課題】蓄電装置として複数のキャパシタセルを直列接続することにより組成されるキャパシタモジュールのセル電圧均等化回路において、バイパスされる電気量を効率よく回収しえると共に、各セルの端子間電圧(セル電圧)を精度よく均等化しえるようにする。
【解決手段】各バイパス回路12(12a〜12d)をそれぞれバイパスON-OFFの信号に基づいて開閉するスイッチング手段Q1〜Q4、2つ並ぶキャパシタセル毎にセル間の平均電圧Vavgとモジュール電極の+側からの接続順位が下のセルの端子間電圧Vrefとの比較に基づいて、Vavg>Vrefのときのみ接続順位が上のセルに対応するスイッチング手段Q1〜Q4へバイパスONの信号を出力する電圧比較回路12、バイパス回路が閉成するとバイパス電流により起動する充電回路15(15a〜15d),16,17、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蓄電装置として複数のキャパシタセルを直列接続することにより組成されるキャパシタモジュールのセル電圧均等化回路に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の蓄電装置として急速充電が可能で充放電サイクル寿命も長い、電気二重層キャパシタ(以下、キャパシタと称する)の適用技術が注目される。キャパシタ単体(キャパシタセル)は、所要容量の蓄電装置(キャパシタモジュール)を構成する上から、モジュール電極の+側と−側との間に複数のキャパシタセルが直列接続される。このような蓄電装置においては、充電を効率よく行うため、各キャパシタセルの端子間電圧(セル電圧)を整列する必要があり、電圧均等化装置が備えられる(特許文献1,特許文献2)。
【特許文献1】特許第3491875号
【特許文献2】特許第3507384号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1、特許文献2の場合、各キャパシタの端子間電圧を検出し、これが第1の設定値(満充電電圧)に達したら、定電流充電を停止する一方で、キャパシタセルの端子間電圧が第1の設定値よりも低い第2の設定値(初期化電圧)に達したら、そのキャパシタのバイパス回路を閉成して充電電流の一部をバイパスさせるようになっている。これにより、早く初期化電圧に達するキャパシタセルの端子間電圧と、遅れて初期化電圧に達するキャパシタセルの端子間電圧と、の差が充電停止時に小さくなるのである。
【0004】
初期化電圧と満充電電圧との差を大きく設定すると、電圧均等化処理における、1充電あたりのズレの補償量を大きく取ることが可能となる。その反面、バイパス回路の閉成期間が長くなり、制限抵抗の発熱による電力ロスが大きくなってしまう。逆に初期化電圧と満充電電圧との差を小さく設定すると、1充電あたりのズレの補償量が小さくなり、電圧均等化が効率よく行かない。
【0005】
この発明は、このような従来技術を踏まえつつ、バイパスされる電気量を熱でロスするのでなく、これを効率よく回収しえると共に各キャパシタセルの端子間電圧(セル電圧)を精度よく均等化しえる手段の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、蓄電装置として複数のキャパシタセルを直列接続することにより組成されるキャパシタモジュールにおいて、キャパシタセル毎に並列接続されるバイパス回路、各バイパス回路に1個ずつ配置されると共にそれぞれバイパスON-バイパスOFFの信号に基づいてバイパス回路を開閉するスイッチング手段、2つ並ぶキャパシタセル毎にキャパシタセル間の平均電圧Vavgとモジュール電極の+側からの接続順位が下のキャパシタセルの端子間電圧Vrefとの比較に基づいて、Vavg>Vrefのときのみ接続順位が上のキャパシタセルに対応するバイパス回路のスイッチング手段へバイパスONの信号を出力する電圧比較回路、バイパス回路が閉成するとバイパス電流により起動する充電回路、を備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、第1の発明に係る充電回路は、充電回路は、各バイパス回路に1個ずつスイッチング手段と直列の接続状態に介装される絶縁型DC-DCコンバータ、このコンバータの出力に基づく電力を充電する蓄電要素、DC-DCコンバータの出力電圧を蓄電要素の端子間電圧よりも高く維持する昇圧回路、を備えることを特徴とする。
【0008】
第3の発明は、第1の発明に係るモジュール電極の+側からの接続順位が最下位のキャパシタセルに対応するスイッチング手段については、接続順位が1つ上のキャパシタセルとの電圧比較回路のネガティブ信号により、Vavg>Vrefでないときのみ最下位のキャパシタセルに対応するバイパス回路を閉成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明においては、電圧比較回路からバイパスONの信号が出力されると、これを受けるスイッチング手段がONしてバイパス回路を閉成する。このバイパス回路を流れるバイパス電流により、充電回路が起動するため、バイパス電流を例えばバッテリに充電することが可能となる。また、2つ並ぶキャパシタセル毎にVavg>Vrefのときのみ接続順位が上のキャパシタセルに対応するバイパス回路を閉成する処理により、蓄電装置(キャパシタモジュール)を構成する各キャパシタセルの端子間電圧は、最も電位の低いキャパシタセルの端子間電圧に整列(均等化)されるのである。これらの結果、バイパスされる電気量を熱でロスするのでなく、これを充電回路により効率よく回収しえるほか、キャパシタセルの個々の電圧を測定するのでなく、電圧比較回路により、電圧の差を監視するので、僅かでも電圧が高くなると、バイパス回路が閉成するため、各キャパシタセルの端子間電圧(セル電圧)をVavg=Vrefに精度よく均等化しえる。
【0010】
第2の発明においては、スイッチング手段のONにより、バイパス回路が閉成すると、これを流れるバイパス電流により、絶縁型DC-DCコンバータが起動して入力側のバイパス電流を電源として出力側に電圧を発生させる。この出力電圧は、昇圧回路により、さらに蓄電要素の端子間電圧よりも高められ、蓄電要素を充電する。このため、バイパスされる電気量を蓄電要素に効率よく回収しえるのである。DC-DCコンバータを昇圧タイプとすれば、昇圧回路の負担が減り、大きな出力電流を取れる。
【0011】
第3の発明においては、最下位のキャパシタセルに対応するスイッチング手段は、電圧比較回路のネガティブ信号により動作するため、電圧比較回路からバイパスOFFの信号を受けると、その間(Vavg>Vrefでないとき)は、最下位のキャパシタセルに対応するバイパス回路を閉成するので、最下位のキャパシタセルの端子間電圧についても、接続順位が上のキャパシタセルの端子間電圧に揃えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に基づいて、この発明の実施形態に係るキャパシタモジュール(蓄電装置)のセル電圧均等化装置を説明する。
【0013】
蓄電装置10は、モジュール電極11a、11b(接続端子)の+側と−側との間に複数のキャパシタセルC1〜C4(電気二重層キャパシタ単体)が直列接続される。
【0014】
キャパシタセルC1〜C4毎にバイパス回路12(12a〜12d)が並列接続され、各バイパス回路12a〜12dに1個ずつスイッチング手段Q1〜Q4(トランジスタ)が介装される。スイッチング手段Q1〜Q4は、後述の電圧比較回路13からバイパス信号のON-OFFにより、バイパス回路12を開閉する。
【0015】
電圧比較回路13は、各スイッチング手段Q1〜Q4に対応するコンパレータU1〜U3と、2つ並ぶキャパシタセル毎にモジュール電極の+側から数える接続順位が上のキャパシタセルの+側と1つ接続順位が下のキャパシタセルの−側との間を接続する分圧回路14a〜14cと、を備える。
【0016】
各コンパレータU1〜U3は、2つ並ぶキャパシタセルの両端電圧を電源とし、分圧回路14a〜14cの抵抗R1−R2,R11−R12,R21−R22の中間電圧と、2つ並ぶキャパシタセルの中間電圧が入力される。分圧回路14a〜14cの抵抗は、値が同一の精密抵抗である。2つ並ぶキャパシタセルの中間電圧は、抵抗R3、R13、R23を介してコンパレータU1〜U3に入力される。R4,R14,R24は、スイッチング手段Q1〜Q4のベース保護抵抗である。
【0017】
コンパレータU1は、端子E1の電圧と端子E3の電圧を電源とし、分圧回路14aの抵抗R1−R2の中間電圧,端子E2の電圧に基づいて、キャパシタセルC1−C2間の平均電圧Vavg=(Vc1+Vc2)/2と、このうち接続順位が下のキャパシタセルC2の端子間電圧Vrefと、の比較により、Vavg>Vrefのときは、スイッチング手段Q1へのバイパスONの信号を出力する一方、Vavg>Vrefでないときは、スイッチング手段Q1へのバイパスOFFの信号を出力する。
【0018】
コンパレータU2は、端子E2の電圧と端子E4の電圧を電源とし、分圧回路14bの抵抗R11−R12の中間電圧,端子E3の電圧に基づいて、キャパシタセルC2−C3間の平均電圧Vavg=(Vc2+Vc3)/2と、このうち接続順位が下のキャパシタセルC3の端子間電圧Vrefと、の比較により、Vavg>Vrefのときは、スイッチング手段Q2へのバイパスONの信号を出力する一方、Vavg>Vrefでないときは、スイッチング手段Q2へのバイパスOFFの信号を出力する。
【0019】
コンパレータU3は、端子E3の電圧と端子E5の電圧を電源とし、分圧回路14cの抵抗R21−R22の中間電圧,端子E3の電圧に基づいて、キャパシタセルC3−C4間の平均電圧Vavg=(Vc3+Vc4)/2と、このうち接続順位が下のキャパシタセルC4の端子間電圧Vrefと、の比較により、Vavg>Vrefのときは、スイッチング手段Q3へのバイパスONの信号を出力する一方、Vavg>Vrefでないときは、スイッチング手段Q3へのバイパスOFFの信号を出力する。
【0020】
スイッチング手段Q1〜Q3は、コンパレータU1〜U3からバイパスONの信号を受けるとバイパス回路12a〜12cを閉成する一方、同じくバイパスOFFの信号を受けるとバイパス回路12(12a〜12c)を開成する。
【0021】
モジュール電極11a,11aの+側からの接続順位が最下位のキャパシタセルC4に対応するスイッチング手段Q4は、スイッチング手段Q3とコンパレータU3が共通のため、コンパレータU3からバイパスONの信号を受けるとバイパス回路12dを開成する一方、同じくバイパスOFFの信号を受けるとバイパス回路12dを閉成する。
【0022】
各バイパス回路12a〜12dに1個ずつ絶縁型DC-DCコンバータ15(15a〜15d)がスイッチング手段Q1〜Q4と直列に介装され、後述の昇圧回路16と共にバッテリ17(蓄電要素)の充電回路を構成する。
【0023】
DC-DCコンバータ15a〜15dは、おのおのバイパス回路12a〜12dが閉成すると、バイパス回路12を流れるバイパス電流により起動する(入出力間絶縁型の電源として機能する)ものであり、各出力側を昇圧回路16に並列接続できる。昇圧回路16(例えば、チャージポンプが考えられる)は、DC-DCコンバータ15(15a〜15d)の出力を電源にバッテリ17の充電電圧まで高め、バッテリ17を充電するのである。一般にキャパシタセルの充電電圧は2.5V〜3.6Vと低く、バッテリの充電電圧は12V〜24Vなので、DC-DCコンバータ15a〜15dを昇圧タイプとすれば、昇圧回路16の負担が減り、大きな出力電流を取れる。
【0024】
このような構成により、各キャパシタセルC1〜C4の端子間電圧(セル電圧)は、Vavg=Vrefに精度よく均等化しえる。例えば、キャパシタセルC2の端子間電圧が他のキャパシタセルC1,C3,C4の端子間電圧よりも高くなると、スイッチング手段Q2に対応するコンパレータU2において、Vavg>Vrefとなり、バイパスONの信号を出力する。これにより、キャパシタセルC2のバイパス回路12bが閉成されるため、余分な電荷はバイパス回路12bを流れ、キャパシタセルC2の端子間電圧(セル電圧)が基準電圧Vrefに低下する。また、キャパシタセルC1の端子間電圧がキャパシタセルC2の端子間電圧より高くなると、スイッチング手段Q1に対応するコンパレータU1において、Vavg>Vrefとなり、バイパスONの信号を出力する。今度は、キャパシタセルC1のバイパス回路12aが閉成されるため、余分な電荷がバイパス回路を流れ、キャパシタセルC1の端子間電圧(セル電圧)が基準電圧Vrefに低下する。このような処理により、蓄電装置10(キャパシタモジュール)を構成する各キャパシタセルC1〜C4の端子間電圧は、最も電位の低いキャパシタセルの端子間電圧に均等化されるのである。
【0025】
バイパス回路12を流れるバイパス電流により、絶縁型DC-DCコンバータ15a〜15dが起動して入力側のバイパス電流を電源として出力側に電圧を発生させる。DC-DCコンバータ15a〜15dが昇圧タイプの場合、キャパシタセルC1〜C4の端子間電圧よりも高い電圧を発生させる。この出力は、同期起動の昇圧型DC-DCコンバータ15a〜15d間において、電位が同一なので1つの昇圧回路16につなぐことができる。昇圧回路16により、さらにバッテリ電圧よりも高められ(この電圧を充電電圧とする)、バッテリ17を充電する。バッテリ17の充電回路は、昇圧型DC-DCコンバータ15a〜15dと昇圧回路16とから構成されるので、電力変換損失が小さく、バイパスされる電気量をバッテリ17に効率よく回収しえる。
【0026】
蓄電装置10においては、最下位のキャパシタセルC4のインピーダンスが高く、急激な充電のため、キャパシタセルC4の端子間電圧が他のキャパシタセルC1〜C3の端子間電圧より高くなった場合、スイッチング手段Q4に対応するコンパレータU3において、Vavg<Vrefとなり、バイパスOFFの信号を出力するが、スイッチング手段Q4はコンパレータU3のネガティブ信号により動作する(スイッチング手段Q4は、他のスイッチング手段Q1〜Q3と違いPNP型が用いられる)ので、Vavg<VrefでないときにキャパシタセルC4のバイパス回路12dが閉成され、最下位のキャパシタセルC4の端子間電圧を1つ接続順位が上のキャパシタセルC3の端子間電圧に揃えることができる。
【0027】
これらの結果、バイパスされる電気量を熱でロスするのでなく、これをバッテリ17に効率よく回収しえるので、放熱のための高価で大きな部品や材料が不要となるほか、キャパシタセルC1〜C4の個々の電圧を測定するのでなく、コンパレータU1〜U3により、電圧の差を監視するので、僅かでも電圧が高くなると、バイパス回路12a〜12dが閉成するため、各キャパシタセルC1〜C4の端子間電圧(セル電圧)をVavg=Vrefに精度よく安価に均等化しえるのである。
【0028】
蓄電装置10を構成するキャパシタセルの個数を増やす場合、図1のキャパシタセルC3とキャパシタセルC4との間に必要な個数のキャパシタセルを直列接続する一方、これら増加分の各キャパシタについても、キャパシタセルC1〜C3と同様の、バイパス回路12,電圧比較回路13,絶縁型DC-DCコンバータ15(昇圧タイプが望ましい)、を組み付けることになる。また、昇圧回路16の出力は、蓄電装置10の総電圧を昇圧しえる範囲なら、バッテリ17でなく、キャパシタセルC1〜C4に充電することも考えられる。
【0029】
この発明に係る蓄電装置10(キャパシタモジュール)のセル電圧均等化装置については、原動機を構成する回転電機と、回転電機の主電源を構成する蓄電装置と、を備える車両の電源装置に対しても、好適なものとなる。図1のバッテリ17は、車両の電装系電源を兼用すると良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明に係る装置を説明する構成図である。
【符号の説明】
【0031】
10 蓄電装置(キャパシタモジュール)
11a,11b モジュール電極
12(12a〜12d) バイパス回路
13 電圧比較回路
14a〜14c 分圧回路
15(15a〜15d) 絶縁型DC-DCコンバータ
16 昇圧回路
17 バッテリ(蓄電要素)
C1〜C4 キャパシタセル
U1〜U3 コンパレータ
Q1〜Q4 スイッチング手段(トランジスタ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置として複数のキャパシタセルを直列接続することにより組成されるキャパシタモジュールにおいて、キャパシタセル毎に並列接続されるバイパス回路、各バイパス回路に1個ずつ配置されると共にそれぞれバイパスON-バイパスOFFの信号に基づいてバイパス回路を開閉するスイッチング手段、2つ並ぶキャパシタセル毎にキャパシタセル間の平均電圧Vavgとモジュール電極の+側からの接続順位が下のキャパシタセルの端子間電圧Vrefとの比較に基づいて、Vavg>Vrefのときのみ接続順位が上のキャパシタセルに対応するバイパス回路のスイッチング手段へバイパスONの信号を出力する電圧比較回路、バイパス回路が閉成するとバイパス電流により起動する充電回路、を備えることを特徴とするキャパシタモジュールのセル電圧均等化装置。
【請求項2】
充電回路は、各バイパス回路に1個ずつスイッチング手段と直列の接続状態に介装される絶縁型DC-DCコンバータ、このコンバータの出力に基づく電力を充電する蓄電要素、DC-DCコンバータの出力電圧を蓄電要素の端子間電圧よりも高く維持する昇圧回路、を備えることを特徴とする請求項1に係るキャパシタモジュールのセル電圧均等化装置。
【請求項3】
モジュール電極の+側からの接続順位が最下位のキャパシタセルに対応するスイッチング手段については、接続順位が1つ上のキャパシタセルとの電圧比較回路のネガティブ信号により、Vavg>Vrefでないときのみ最下位のキャパシタセルに対応するバイパス回路を閉成することを特徴とする請求項1に係るキャパシタモジュールのセル電圧均等化装置。

【図1】
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