説明

キャパシタ用電極体およびその製造方法とこのキャパシタ用電極体を用いたキャパシタ

【課題】キャパシタ電極体の集電体と分極性電極層との密着性を向上させることでキャパシタの内部抵抗を低減し、信頼性の高いキャパシタを提供する。
【解決手段】キャパシタ用電極体の集電体4aと分極性電極層5aとの間に、集電体4aの表面を改質させ、集電体4a上にオキシ水酸化物を含む表面改質部9と、導電性粒子を含み、表面改質部9上に形成されたアンカーコート層10とを設け、この表面改質部9の外表面の水に対する接触角が8°以上50°以下である。この結果、集電体4a上にペースト状のアンカーコート層10を塗る際に、生じ得るムラを低減させることができる。これにより、アンカーコート層10に含まれる導電性粒子の偏在化を抑制できるため、集電体4aの表面におけるアンカーコート層10による低抵抗化の効果が局所的になることを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器、電気機器、産業機器、自動車等に用いられるキャパシタ用電極体とその製造方法とこのキャパシタ用電極体を用いたキャパシタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点より車両や建設機械の駆動時の動力をアシストするキャパシタの開発がなされており、このような用途のキャパシタにおいては単位体積あたりの電気容量が高いとともに内部抵抗が低いというような高エネルギーおよび高出力密度を有することが要求される。
【0003】
かかる要求に関して、キャパシタの内部抵抗を小さくするためには、集電体と、活性炭等の良導電性の炭素系粉末粒子が一般に用いられる分極性電極材料との密着性が高い構造が重要となる。
【0004】
これら集電体と分極性電極材料との密着性に関して、これまでに例えば特許文献1のような構造のキャパシタ用電極体が提案されている。
【0005】
図7は特許文献1におけるキャパシタ用電極体の断面図である。
【0006】
図7のように、特許文献1のキャパシタ用電極体は、集電体101と、集電体101上に形成された分極性電極層102と、これら集電体101と分極性電極層102との間に設けられた導電性粒子(特許文献1においてはカーボンブラック)およびバインダで構成されるアンカーコート層103を有している。
【0007】
すなわち、特許文献1では集電体101と分極性電極層102との間にアンカーコート層103を設け、アンカーコート層103のカーボンブラックを分極性電極層102の微細な空孔に進入させていた。
【0008】
そして、この構成によって得られるアンカー効果により集電体101と分極性電極層102との接合強度を向上させていた。
【0009】
また、アンカーコート層103は集電体101と分極性電極層102との間に存在する空隙を埋めるように設けられているため、集電体101と分極性電極層102との間に介在する空気部の体積を小さくすることができる。
【0010】
これらの結果として特許文献1では集電体101と分極性電極層102との密着性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−227733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
確かに、上記従来のキャパシタ用電極体はアンカーコート層103を備えることで集電体101と分極性電極層102との密着性を高め、キャパシタ用電極体の内部抵抗を低減させることを可能としている。
【0013】
しかしながら、上記キャパシタ用電極体を用いても、内部抵抗の低減は十分であるとは言えず、車両や建設機器の動力アシスト用のキャパシタとして急速に膨大な電力を充放電するには、集電体101と分極性電極層102の間における更なる抵抗の低減が求められている。
【0014】
そこで、本発明はこのような課題に鑑み、キャパシタ用電極体の内部抵抗を低減させたキャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明のキャパシタ用電極体は、集電体と、集電体上に形成された導電材を含有するアンカーコート層と、アンカーコート層上に形成された分極性電極層とを備え、集電体の表面上に表面改質部を有し、この表面改質部の上に前記アンカーコート層が設けられ、この表面改質部の外表面は水に対する接触角が8°以上50°以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この構成により、本発明は、キャパシタ用電極体の集電体と分極性電極層の密着性を向上させることができ、内部抵抗が低く長寿命であるキャパシタを提供することができる。
【0017】
これは、集電体の表面上に水を分散媒としたアンカーコート層のペーストを塗工する場合、集電体の表面における水に対する接触角を上記範囲に制御することにより、集電体上において、塗工されたアンカーコート層にムラが生じにくくなるためである。このムラ抑制の効果により集電体の表面一帯へ、より均等に導電性粒子を分散させることができる。
【0018】
これにより、キャパシタ用電極体として抵抗の低減について信頼性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例におけるキャパシタ用電極体を用いたキャパシタの一部切り欠き斜視図
【図2】本発明の実施例におけるキャパシタ用電極体の断面模式図
【図3】本発明の実施例におけるキャパシタ用電極体の拡大断面図
【図4】本発明の実施例におけるキャパシタ用電極体の腐食の進行度合いを示すグラフ
【図5】本発明の実施例におけるキャパシタ用電極体に用いられる集電体の表面改質部の状態をFT−IRを用いて測定したスペクトルを示したグラフ
【図6】本発明の実施例におけるキャパシタ用電極体の製造工程を示す図
【図7】従来のキャパシタ用電極体の断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施例)
以下、図面を用いながら全請求項に記載の発明および本実施例におけるキャパシタ用電極体について説明する。
【0021】
まず、図1を用いて本実施例のキャパシタ用電極体を用いたキャパシタの一例について説明する。ここで、図1は本実施例のキャパシタ用電極体を用いたキャパシタの一部切り欠き斜視図である。
【0022】
図1に示されるように、本実施例のキャパシタ用電極体を用いたキャパシタはキャパシタ素子1を電解液(図示せず)と共にアルミニウムからなる有底円筒状のケースである外装体2に収納し、さらに外装体2の開口部にゴム製の封口部材3を嵌め込んで封止された構成となっている。外装体2の開口端部付近は絞り加工されており、封口部材3が内側方向に圧縮されることで、外装体2の封止をより強固なものとしている。
【0023】
キャパシタ素子1は、金属箔からなる集電体4a、4b上に分極性電極を形成してこれらをそれぞれ分極性電極層5a、5bとし、さらにその間に短絡防止用のセパレータ6a、6bを介在させた状態で巻回することによって構成される。
【0024】
本実施例においては、正極を集電体4aおよび分極性電極層5aとからなるものとし、負極を集電体4bと分極性電極層5bとからなるものとしたが、逆に、負極を集電体4aおよび分極性電極層5aとからなるものとし、正極を集電体4bおよび分極性電極層5bとからなるものとしてもよい。
【0025】
上記集電体4a、4bはそれぞれリード線7a、7bと接続されており、これらリード線7a、7bを封口部材3に設けられた孔8a、8bにそれぞれ挿通させ外部に取り出すことでキャパシタ素子1と外部との電気的接続を可能としている。
【0026】
なお、電解液には例えば、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートを1:1で混合した溶媒に、溶質としてエチルジメチルイミダゾリウムテトラフルオロホスフェート(EDMI・BF4)を1.0mol/lの濃度で含有させたものを用いる。
【0027】
次に、本発明の技術的特徴であるキャパシタ用電極体、すなわち集電体4a、分極性電極層5a、およびこれらの界面部分の構成について図2および図3を用いて以下に詳述する。
【0028】
図2は本実施例のキャパシタ用電極体の構造の概観を示すための断面模式図であり、図3は本実施例のキャパシタ用電極体の拡大断面図である。因みに、図3においては本実施例のキャパシタ用電極体の状態をわかりやすく図示するため、活性炭13や導電性粒子11を実際とは異なった縮尺で示している。
【0029】
図2に示されるように、本実施例のキャパシタ用電極体は、上記の集電体4a、分極性電極層5aと、これらの間に介在する集電体4aの表面を改質させることで形成された表面改質部9と、アンカーコート層10から構成される。
【0030】
表面改質部9は、集電体4aの表面にコロナ放電処理を施すことにより形成され、この表面改質部9はその外表面が水に対する接触角が8°以上50°以下となっている。
【0031】
アンカーコート層10は導電性粒子11とバインダ12を含んだ状態で形成されている。
【0032】
導電性粒子11として高い電気伝導性を示すカーボンブラックを用いている。カーボンブラックとしては、特に構造的に安定し、かつ電気伝導性に優れたアセチレンブラックを用いることが望ましい。カーボンブラック以外にも黒鉛や熱分解黒鉛等、高い導電性を示すものであればこの限りでない。なお本実施例では導電性粒子の一例としてアセチレンブラックを用いている。
【0033】
本実施例のバインダ12は、アンカーコート層10内において分散した導電性粒子11どうしを物理的に繋ぎ止める役割を果たす。バインダ12を構成する材料としては、ペーストの分散媒に水を用いることから、水溶性樹脂が特に好ましく、セルロース誘導体、ゴム系高分子、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を用いるとよい。具体的には、カルボキシメチルセルロースや、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどが挙げられる。本実施例では一例としてカルボキシメチルセルロースを用いている。
【0034】
なお、本実施例では導電性粒子11とバインダ12の重量比率を導電性粒子11:バインダ12=10:1〜2:1、さらに好ましくは5:1〜3:1の範囲である。これは、10:1以上にバインダ12の重量比率が小さくなると、膜としての形態を保てなくなり、逆に2:1より多くなれば、粘性が高くなり、膜になりにくくなるためである。この重量比率の範囲であればアンカーコート層10内に導電性粒子11を適切に分散させることができ、また導電性粒子11により集電体4aと分極性電極層5aの導通も確保できる。なお、本実施例のアンカーコート層10の混合比は導電性粒子11:バインダ12=4:1となっている。
【0035】
図3において、導電性粒子11は、表面改質部9にその一部が埋没した状態となっている。
【0036】
なお、本実施例において、この導電性粒子11の平均粒径は35nm程度となっており、表面改質部9の厚みよりも大きい。したがって、大部分の導電性粒子11は図3で示すように一部のみが埋没し、それ以外の部分はアンカーコート層10側に露出した状態となっている。
【0037】
アンカーコート層10の上に形成されている分極性電極層5aは、図3に示されるように、活性炭13の粒子を少なくとも含む。この分極性電極層5aは、本実施例では、活性炭13の他に活性炭13どうしの導電性を高めるためにカーボンブラックなどの導電助剤やバインダ(図示なし)を含んだ構成となっている。これら材料を水などの溶媒(図示なし)に分散させてペーストを作製し、このペーストを上記アンカーコート層10上へ塗工および乾燥させることにより形成される。活性炭としては、具体的にはヤシガラ炭、木炭などを水蒸気や二酸化炭素等のガスで賦活させたものを用いることができるが特に限定されない。本実施例では、この分極性電極層5aをフェノール樹脂系活性炭、導電助剤にアセチレンブラック、バインダにカルボキシメチルセルロースを用い、10:2:1の混合比になるように構成している。
【0038】
この活性炭13は平均粒径が例えば3μmであり、導電性粒子11の平均粒径(35nm)に比べ大きいものとなっている。この粒径の関係により、活性炭13の一つの粒子の表面を多数の導電性粒子11が囲う構成となるため、アンカーコート層10を設けた場合の活性炭13と導電性粒子11の接触点数は、集電体4aに分極性電極層5aを直接接合した場合の活性炭13と集電体4aの接触点数に比べて多くなる。これにより、分極性電極層5aと集電体4aとの間の界面抵抗を低減させることができる。
【0039】
そして、分極性電極層5aの内部において、活性炭13の粒子どうしによって形成される空隙には、導電性粒子11の粒が多く進入した状態となっている。これにより、活性炭13どうしの間の空隙の内周面と導電性粒子11の間にはアンカー効果が働き、アンカーコート層10と分極性電極層5aの接合強度が向上する。そして、このアンカー効果をより高めるためには、上記空隙が占める空間を、球状と見立てたときの径が導電性粒子11の平均粒径よりも大きいことが望ましい。これは、この大小関係により、導電性粒子11は上記空隙に進入が容易となるためである。従って、例えば本実施例の導電性粒子の平均粒径は35nmであるため、上記の空隙は35nmより大きい構成が好ましい。
【0040】
さらに、上記空隙だけでなく、導電性粒子11が、多孔質体である活性炭13の空孔の内部に進入することで、分極性電極層5aとアンカーコート層10との間でより接着密度を高めることができる。これは本実施例の導電性粒子11の平均粒子が数十nmという非常に小さい粒子により構成されているためである。これにより、分極性電極層5aとアンカーコート層10との界面における接触抵抗を低減させることができる。そのために、導電性粒子11の平均粒径は、上記活性炭の表面における空孔の孔径より小さい構成がより好ましい。
【0041】
本実施例のキャパシタ用電極体は、製造時において、アンカーコート層10のスラリー塗工時の圧力により、導電性粒子11が表面改質部9に圧入され、一部が埋没した導電性粒子11が多数存在した状態となっている。そのため、アンカー効果により、集電体4aとアンカーコート層10の間における接合強度、および、アンカーコート層10と分極性電極層5aの間の接合強度がそれぞれ高められた構成となっている。そのため、本実施例における集電体4aと分極性電極層5aの密着性は優れたものとなっている。
【0042】
なお、表面改質部9に圧入されて埋没した状態の導電性粒子11の一部は、直接集電体4aと接触しているため集電体4aと活性炭13の導通は十分に確保されている。かつ上記のように集電体4aと分極性電極層5aの密着性が向上したものであるため、長期的に上記導通した状態を維持することができる。そのため、集電体4aと分極性電極層5aとの界面抵抗を低減させることが可能である。これらより、本実施例のキャパシタ用電極体の内部抵抗を低減させることができる。
【0043】
なお、上記の説明では正極を用いて本発明のキャパシタ用電極体の構成を説明したが、当然ながら、負極についても同様の構成を用いてキャパシタを構成できるものとする。また、上記の説明ではキャパシタ用電極体の片面について説明したが、両面とも上記の構成としてもよい。
【0044】
以下、本発明のキャパシタ用電極体の効果について説明する。
【0045】
本実施例のキャパシタ用電極体は、上記のように、本発明におけるキャパシタ用電極体における内部抵抗を低減されることができる。これは、上記集電体4aの表面にコロナ放電処理により形成した表面改質部9として集電体4aの表面の水の接触角を8°以上50°以下としているためである。このように形成された表面改質部9を有した集電体4aの表面は、濡れ性が大幅に向上しているため、この集電体4a上に水を分散媒として用いたペースト状のアンカーコート層10を塗る際に、集電体4a上においてアンカーコート層10のムラの発生を抑制することができる。このムラの抑制により、集電体4a上において、アンカーコート層10に含まれる導電性粒子11の分布が偏在化することを抑制することができ、上記集電体4aのアンカーコート層10との対向面全体の低抵抗化を図ることができる。さらに、コロナ放電処理により集電体4aに残存する圧延時の油分を除去することで、さらに水を分散媒に用いたペーストの濡れ性が高まり、キャパシタ用電極体の抵抗を低減させることができる。
【0046】
以下に(表1)として、集電体4aの水に対する接触角とキャパシタ特性の関係を表したものを示す。なお、キャパシタ特性については、2cm×2cmの集電体4a、4bを用いたキャパシタ用電極体を正極および負極に用い、厚み15μmのアルミニウム製の集電体4a、4bを用い、分極性電極層5a、5bの厚みを40μm、セルロース製のセパレータ6a、6bの厚みが35μm、アンカーコート層10の厚みを0.6μmとし、電解液に含浸した状態でキャパシタを構成し、192時間経過、80℃、無負荷(正極および負極において電気二重層が形成されない状態)の条件における各接触角の集電体を用いたキャパシタ用電極体のDCR(直流抵抗)の増大率を測定した。この各DCRの測定方法は、上記キャパシタに対して1.5mA、2.5Vの電圧を印加して充電した後に、1.0mAで放電したときの抵抗を測定した。そして、実施例の接触角の測定には、θ/2法を用いた。θ/2法は、液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、固体表面に対する角度から接触角を求める。評価条件は1〜2μLの水滴を集電体4aの表面上に落とし、水滴の広がりがある程度安定化する30秒後の接触角を用いることとした。
【0047】
【表1】

【0048】
このように、8°から50°の間においては、経時変化は抑えられているが、その範囲から外れた58°、53°や4°においては、著しいDCRの増大が見られる。これは、50°を超えた場合はコロナ放電処理による油分除去の効果が不足しているためであり、8°を下回ったときにまたDCRが増加する理由は、この接触角に達するまでにコロナ放電処理の際の物理的な衝突によって、集電体4aの表面が粗面化したためであると考えられる。因みに、接触角4°では、塗ったペースト状のアンカーコート層10にピンホールが確認された。
【0049】
このことから、集電体4aの表面における水の接触角は8°以上50°以下が好ましいことがわかる。なお、本実施例のキャパシタ用電極体では一例として集電体4aの接触角を17°とした。
【0050】
さらに、この表面改質部9の上に形成するアンカーコート層の厚さは1.2μm以下であることが好ましい。また、0.3μm以上であることが好ましい。
【0051】
この理由については、以下に示す(表2)を用いて説明を行う。
【0052】
【表2】

【0053】
この(表2)はアンカーコート層10の厚さが異なるキャパシタ用電極体を用い、各アンカーコート層10の厚さと初期抵抗値の関係を、比較例であるアンカーコート層10および表面改質部9を設けないキャパシタ用電極体の初期抵抗値を100%として百分率で示したものである。各抵抗値の測定方法は、上記DCRの測定方法と同じである。
【0054】
(表2)より、アンカーコート層10の厚さが1.2μmより厚くなったとき、初期抵抗が増大していることがわかる。これは、アンカーコート層10の厚みが厚くなることにより、バインダ12の絶対量が増え分散しきれずアンカーコート層10内部での導電性が悪くなるためであると考えられる。また、アンカーコート層10の厚さが0.2μmより薄くなった場合、現行のコーターを用いて塗工することが困難であるため難しい。従って、実現性などを考慮すると厚みは0.3μm以上が好ましい。しかし、今後の技術進歩により、より薄い層を塗工可能なコーターがあればこれに限定されない。つまり、塗工技術の水準を考慮しなければ、導電性粒子11の平均粒子径程度の厚みが下限となる。
【0055】
また、このようにアンカーコート層10の厚みの範囲が決まる理由は、上記の集電体4aの表面の水に対する接触角が関わる。上記の範囲の厚みからなるアンカーコート層10のペーストを、上記範囲の低い接触角を有する集電体4aへ塗工することにより、このペーストは分散媒として水を用いているため、上記のような限られた量のペーストであっても集電体4aの表面上において、より均一に導電性粒子11およびバインダ12を分散させると共に広げることができる。これにより、薄層であり広い面積において導電性に優れたアンカーコート層10を得ることができる。また、薄層であることにより、キャパシタ用電極体として薄層化させることができるためキャパシタ素子1として容量密度が向上できる。言い換えれば、この低い接触角における効果は、本実施例のキャパシタ用電極体は薄いアンカーコート層10を形成する場合において、特に著しいものであることが言える。因みに、ムラを低減することだけを目的とするなら、アンカーコート層10を厚く形成することで改善されるが、この場合、アンカーコート層10の抵抗が上がるため、あえて本実施例では薄いアンカーコート層10を形成している。
【0056】
なお、本実施例のアンカーコート層10の平均密度は0.4g/cm3以上となっている。そして、導電性粒子11とバインダ12の混合比が上記のように4:1である場合、アンカーコート層の平均密度を約0.6g/cm3まで高められ、混合比が10:1のような場合は、約2.1g/cm3まで高めることができる。これは本実施例の集電体4aにコロナ放電処理を施すことで表面改質部9を形成したことによる。すなわち、本実施例の集電体4aはコロナ放電処理を施して表面改質部9を形成したことで濡れ性が向上するため、アンカーコート層10を塗工する際に用いるスラリーと集電体4aとの親和性が向上し(スラリーをはじく性質が低減され)、結果として密度が高い状態でアンカーコート層10を形成できるのである。なお、上記平均密度は、試料として抜き出した本実施例のキャパシタ用電極体の一部について重量を測定し、この試料の集電体の部分の重量を差し引いてアンカーコート層の重量を算出し、厚みと試料の面積から平均密度を算出することができる。
【0057】
さらに、本実施例のキャパシタ用電極体は、上記表面改質部9の少なくとも一部にオキシ水酸化物が含まれた構成であることが好ましい。このオキシ水酸化物は、アルミニウムからなる集電体4aをコロナ放電処理によって改質させ、改質した状態のままこの集電体4aを水分と反応させることにより形成したものである。そのため、このオキシ水酸化物は、集電体4aを構成する金属から構成されたものであってもよい。
【0058】
集電体4aに用いられる金属体(特に弁金属体)には、元来、その表面に自然酸化皮膜などの金属化合物が設けられている。これに対し、本発明のオキシ水酸化物は、この金属化合物を構成する金属原子から酸素原子などの異なる原子や分子との結合を断ち、化学的に活性化した(不安定になった)状態の上記金属原子に水分を接触させることで形成させることができる。
【0059】
本実施例では、集電体4aの表面に、水分の接触方法として、すぐに水を溶媒としたアンカーコート層10のペーストと塗工することで表面改質部9の内部にオキシ水酸化物の形成を行った。
【0060】
このように形成された本実施例の表面改質部9の厚さは、例えば平均して20nmである。
【0061】
集電体4aがアルミニウムから成る本実施例においては、表面改質部9に含まれるオキシ水酸化物がAlX(OH)YZ、の組成式で表される化合物となり、この化合物が含まれた構成となる。このAlX(OH)YZの中で例えばAlO(OH)などが表面改質部9に含まれている。
【0062】
因みに、この化合物の存在の確認方法は、X線電子分光法(XPS)、オージェ電子分光、フーリエ変換赤外線分光法(FT−IR)などの表面分析にて検出することで確認できる。
【0063】
また、表面改質部9を形成した集電体4aの表面には、物理的形状として、分子レベルの細かい凹凸(図示せず)やくさび形の穴(図示せず)が多数存在した状態となっている。
【0064】
なお、集電体4aは例えば金属からなるプレーン箔を用い、特に本実施例ではアルミニウムにて形成されたプレーン箔を用いて説明する。これ以外にもニッケル、鉄、銅、ステンレス、チタン等の金属を用いてもよい。そのとき、表面改質部9に含まれるオキシ水酸化物は、集電体4aを構成する金属から生成される化合物となる。また、プレーン箔以外にも表面が粗面化された箔等を用いても本発明の効果は得られる。粗面化の方法としてはエッチング、サンドブラスト等が挙げられる。
【0065】
この構成により上記表面改質部9を集電体4aの表面全体に渡って形成しているため、本実施例のキャパシタ用電極体は耐腐食性が向上している。
【0066】
オキシ水酸化物を含有していない表面改質部9を有した集電体4aの場合、上記のように集電体4aの表面上に酸化被膜が発生する。これら酸化被膜は自然酸化によるものであるため、集電体4a上に部分的な発生または不均一な発生しかせず、集電体4aの酸化被膜にて被覆されていない部分にはキャパシタ素子1に含浸された電解液との化学反応により腐食が生じる恐れがある。
【0067】
一方、本実施例によるとオキシ水酸化物を含む表面改質部9が集電体4aの表面全体に渡って形成されているため、このオキシ水酸化物は、自然酸化皮膜などの酸化物に比べて酸やアルカリに対して反応しにくい化合物であるため電解液のpHが変動した際に生じる酸またはアルカリと集電体4aとの接触による腐食を抑制することができる。なお、上記の優れた耐腐食性を得るために表面改質部9は集電体4aの表面を特に電解液と接触し得る箇所はできる限り覆っていることが好ましい。例えばオキシ水酸化物が集電体4aの表面積の70%以上を覆っていると好ましい。
【0068】
図4は、キャパシタの腐食特性を示すグラフであり、縦軸は反応電流、横軸は腐食電位(参照電極を基準として測定された電位差)である。
【0069】
ここで、本実施例のキャパシタ用電極体について、表面改質部9による腐食低減の効果について図4を用いて説明する。
【0070】
なお、本実施例のキャパシタ用電極体の腐食特性の測定においては、電気化学測定方法を用いて計測している。本測定においては、3電極法を用い、参照電極として非水溶媒用の銀/銀イオン電極、対極としてコイル状のプラチナ材、作用極として2×2cmサイズの本実施例のキャパシタ用電極体の正極を用い、これら電極をポテンションスタットに接続すると共に電解液に浸漬して、一例として走査速度10mV/secの条件にて計測した。また、比較例として、作用極にプレーン箔を用いて腐食特性を測定した。
【0071】
図4のグラフの実線Aで示されるプレーン箔の腐食特性においては0.3V付近の腐食電位において反応電流が検出され、上昇し始めている。これは、プレーン箔はこの0.3V以降の腐食電位において腐食が進行してしまうことを示している。
【0072】
一方、実線Bで示される本実施例のキャパシタ用電極体の正極の反応電流は、プレーン箔の反応電流が検出された0.3V付近では検出されず、1.7V付近でようやく反応電流が検出されるとともに上昇し、腐食が進行していることがわかる。
【0073】
上記のことから、本実施例のキャパシタ用電極体の正極は、プレーン箔に比べ耐腐食性において大幅に向上していることがわかる。
【0074】
次に、本実施例における表面改質部9の状態を、上記FT−IRを用いて測定した。
【0075】
図5は、本実施例の集電体4aの表面改質部の状態をFT−IRを用いて測定したスペクトルを示したグラフである。
【0076】
図5において、本実施例のプレーン箔を用いたキャパシタ用電極体と比較例として表面改質部9を形成していないプレーン箔からなる集電体とを比較している。
【0077】
図5におけるスペクトルにおいて、本実施例の集電体4aでは、破線1の位置に当たるAl23の存在を表す930cm-1におけるピークAと、破線2の位置に当たるAlXY(OH)Z、特にγ−AlXY(OH)Zの存在を表す1100〜1200cm-1におけるピークBとの比B/Aが0.05〜0.8の範囲にあることが好ましい。これは、上記ピーク比B/Aがこの範囲に位置することにより、初期抵抗が小さく、かつ腐食性に優れた耐性を有したキャパシタ用電極体を得ることができるためである。因みに本実施例と比較例とでは、本実施例の方が酸化アルミニウムのピーク強度が約1.5倍高くなっている。
【0078】
以下、(表3)として上記ピーク比とキャパシタ特性に関する関連性を表したものを示す。因みにDCR劣化率は各条件における初期DCRから無負荷にて85℃200時間後のDCRの差分を比率で表したものであり、初期DCRは、比較例の初期DCRを100%としてそれぞれの条件の初期DCRを比較例との比で表している。なお、各DCRの測定方法については、上記測定方法と同じである。
【0079】
【表3】

【0080】
(表3)のように、ピーク比B/Aが0.05より小さくなると、腐食に対する耐性が弱まってしまい、0.8より大きくなると初期のDCRが大きくなってしまう。そのため、図5のように本実施例のキャパシタ用電極体ではピーク比B/Aが0.16となるようにした。因みに、このピーク比B/Aを制御する方法として、コロナ放電処理時の放電出力と下記の活性化工程と水分接触工程の間の時間などが関わる。出力が高い場合や上記時間が短い場合、上記ピーク比B/Aは高まる。
【0081】
なお、表面改質部9に含まれるオキシ水酸化物は、オキシ水酸化物であれば上記の効果を十分に達成することができる。しかし、キャパシタとして充放電を行う中で、本実施例の集電体4aが電解液と反応し、表面改質部9を構成する組成物の構成比率は経年的に変化していく。そのため、本実施例の集電体4aがキャパシタを長期使用した後は、電解液中のpH変動によりAlX(OH)Yや、電解液中のアニオンなどのフッ素源よりAlXYZ、AlXY(OH)Z、AlXY、AlXY(OH)ZWのいずれかの化合物が生成されていく。したがって、長期使用した後は、表面改質部9は上記AlXYZ、AlXY(OH)Z等の化合物のいずれかが含まれた構成となっていく。また、フッ化アルミニウム化合物は化学的に安定していることから、アンカーコート層10を形成する際、スラリーに予めフッ素原子を含んだ化合物を混ぜておいてもよい。この場合、表面改質部9はキャパシタを組み立てた当初や初期の時点からすでに上記AlX(OH)Y、AlXYZ、AlXY(OH)Z等の化合物のいずれかを含む構成となる。
【0082】
なお、本発明における集電体4a、4bの構成は本実施例のように金属体のみの構成に限定されず、基材の表面に金属膜を形成し、この金属膜の外表面に対して、コロナ放電処理を行い、金属膜を構成する金属の酸素原子との結合を断ってオキシ水酸化物を形成する構成でもよい。そのとき基材は、金属に限定されず、樹脂フィルムや炭素系シートなどでもよい。
【0083】
そして、表面改質部9が層状に形成される場合、その平均厚さを導電性粒子11の径より小さい構成とすると、集電体4aと分極性電極層5aの導通を確実に確保することで十分な静電容量を得られ、好ましい。これは、導電性粒子11の大きさが表面改質部9の厚さより大きいため、導電性粒子11が表面改質部9に埋没した際に表面改質部9の下方に配設されている集電体4aと比較的容易に接触できるからである。そのため、本実施例では上記したように表面改質部9の厚さの平均は20nm、導電性粒子11の平均粒径は35nmとなっている。
【0084】
ただし、表面改質部9の平均厚さが導電性粒子11の径の50%より大きい場合であっても、導電性粒子11を数珠状に連なった状態で表面改質部9に埋没させることで、集電体4aと分極性電極層5aの導通を確保し、またアンカー効果も合わせて得ることは可能である。
【0085】
さらに、この表面改質部9の平均厚さは10nm以上であることが望ましい。一般に大気中において集電体4a上に自然酸化によって形成される自然酸化被膜の平均厚さは数nm程度のものであるが、このような自然酸化被膜等の薄い不動態被膜に導電性粒子11を埋没させたとしても、導電性粒子11と不動態被膜との接触面積が小さいため効果的なアンカー効果を得ることができない。そこで、本実施例では表面改質部9の平均厚さを10nm以上(特に本実施例では20nm)として十分なアンカー効果を得ることで集電体4aと分極性電極層5aの密着性を向上させている。
【0086】
また、本実施例のキャパシタ用電極体は電気二重層キャパシタや電気化学キャパシタ等の各種キャパシタに採用し得るものであるが、例えば電気二重層キャパシタであれば集電体4aおよび集電体4bはともにアルミニウムにて形成され、分極性電極層5aおよび分極性電極層5bはともに活性炭を含む構成となる。一方、電気化学キャパシタであれば、正極には活性炭などのイオンを吸脱着可能な材料を用い、負極にはリチウムイオンを吸蔵および放出が可能である黒鉛などの炭素材料やリチウムイオンと合金化が可能である珪素化合物などを用い、さらに電解液にはリチウムイオンが含まれる構成となる。そして電気化学キャパシタの負極には電位降下を目的として、一定量のリチウムイオンが吸蔵された構成となっている。
【0087】
また、本実施例ではリード線7a、7bを用いてキャパシタ素子1の正極および負極を外部に取り出す構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、キャパシタ素子1の巻回軸方向の両端から引き出すようにして一方の電極を、金属などの導電性材料により形成された外装体2と電気的に接続して電極を引き出した構成としてもよい。この場合、他方の電極は、例えば外装体2の開口部から外装体2と絶縁しながら引き出される構成となる。
【0088】
加えて、電解液の構成も上記構成に限定されず、溶質はテトラエチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウムなどの窒素原子に複数の置換基を備えた第4級アンモニウム塩や、リン原子、硫黄原子などのオニウム塩、アミジン系塩、スピロ−(1,1')−ビピロリジニウムなどのスピロ型塩、溶媒は上記のエチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどのカーボネート類や、γ−ブチロラクトンなどのラクトン類など特に限定されない。
【0089】
図6は本実施例のキャパシタ用電極体の製造方法に用いる装置の概念図である。
【0090】
続いて、本実施例のキャパシタ用電極体の製造方法について図面を用いて説明する。なお、以下では本実施例のキャパシタ用電極体の正極の製造方法について説明するが、負極についても同様である。
【0091】
図6のように、この装置は、集電体4aを、ガイドローラ15を用いて送り出す巻き出しロール14と、送り出された集電体4aの表面へコロナ放電処理を行うコロナ放電処理部17と、コロナ放電処理された集電体4a上にアンカーコート層10となるスラリーを供給するアンカーコート層形成部18と、アンカーコート層10のスラリーを乾燥させる第1の乾燥部19と、アンカーコート層10の上に分極性電極層5aとなるスラリーを供給する分極性電極層形成部20と、分極性電極層5aのスラリーを乾燥させる第2の乾燥部21と、分極性電極層5aを乾燥させてできた正極を巻き取る巻き取りロール22から構成されている。
【0092】
巻き出しロール14は、ロール(図示なし)に箔状の集電体4aを巻きつけたものであり、ガイドローラ15によって所定の搬送経路16に所定の速度V(m/min)で搬送される。
【0093】
そして、コロナ放電処理部17において、表面改質部形成工程がとり行われる。
【0094】
コロナ放電処理部17では、2mmほどの間を開けて2つの電極(図示せず)が設けられており、これら2つの電極は電源(図示せず)と接続されることで交流高電圧が印加できるようになっている。この電源によって約1kV程度の電圧を印加すると、電離作用により、2つの電極間に微弱電流が流れてコロナ放電が始まる。本実施例の製造方法ではこのコロナ放電を集電体4aにあてるものである。
【0095】
特に、本実施例では集電体4aの両面に放電量20W・min/m2以上350W・min/m2以下、放電度2w/cm2以上350w/cm2以下でコロナ放電処理を施している。
【0096】
なお、放電量および放電度は、搬送経路と垂直な方向の電極幅をL(m)、放電電極の放電面積をS(cm2)、集電体4aの送り速度をV(m/min)、放電電力をP(W)とすると、次式で表される。
【0097】
放電量=P/(LV) (W・min/m2
放電度=P/S (w/cm2
このように、集電体4aはコロナ放電処理部17にて大気雰囲気下でコロナ放電処理を施されることにより、その表面がオゾンや活性酸素の影響により活性化される。
【0098】
なお、コロナ放電処理部17では2つの電極を備えるものとしたが、一方の電極をロール状とし、これを回転させることで集電体4aを搬送しながらコロナ放電処理を行う構成としてもよい。
【0099】
集電体4aの表面を改質した後、集電体4aはすぐにアンカーコート層形成部18に到達し、アンカーコート層形成工程がとり行われる。アンカーコート層形成部18では導電性粒子11とバインダ12に水を加え形成されたスラリー(図示せず)が集電体4aに塗工され、アンカーコート層10が形成される。
【0100】
このスラリーを構成する前に、導電性粒子11とバインダ12とをボールミルなどの分散媒体を用いないで分散を行うことが好ましい。この分散方法により、導電性粒子11が分散媒体によって破壊されることを抑制し、導電性粒子11の優れた導電性を保ったまま分散を行うことができる。分散媒体を用いない分散方法として、例えば、プラネタリーミキサーやジェットミル、圧力ホモジナイザーなどを導電性粒子11とバインダ12だけを入れて分散させる方法がある。
【0101】
また本実施例では、このアンカーコート層形成工程の中で、表面改質部形成工程のうち水分接触工程として、スラリーに含まれる水を、活性化工程にて化学的に活性になった集電体4aの表面と反応させ、集電体4aの表面にはオキシ水酸化物が含まれる表面改質部9を形成する。
【0102】
その際、前の活性化工程終了から間を置かずに行うことが好ましい。これは、酸素原子との結合を断たれた集電体の金属原子は化学的に不安定となり、結果的に化学的に活性化し、安定な状態に戻ろうと金属原子の近傍の原子、分子と結合しやすいためである。例えば酸素原子と結合して再度、金属酸化物を構成することが挙げられる。
【0103】
この結合を回避するために、例えば、活性化工程が終了した時点から1分以内に水分接触工程を行う。これにより、表面改質部形成工程が完了し、本実施例において、オキシ水酸化物である、AlO(OH)を含む表面改質部9を安定的に形成することができる。
【0104】
スラリーの塗工の方法としては、例えばスラリーを溜めたセル(図示せず)上に回転可能なロール(図示せず)を軸着し、このロールの下端面をセル内のスラリーに浸漬させ、上端面を搬送されてくる集電体4aの下面と当接するように配置させることが挙げられる。特に、集電体4aの搬送方向とは逆方向に回転させると効果的にスラリーを集電体4aに塗工することができる。なお、この方法では集電体4aの下面にしか塗工することができないが、上面に塗工する方法としては搬送経路の途中に折返し用のロールを設け、集電体4aの進行方向を逆方向とし、集電体4aを上下反転させればよい。これにより上記方法でスラリーを集電体4aに塗工することが可能である。また、このスラリーは上記構成以外にフッ素原子を含んだ化合物を混ぜた構成としてもよい。
【0105】
アンカーコート層形成部18を通過した集電体4aは第1の乾燥部19で乾燥される。
【0106】
さらに、第1の乾燥部19を通過した後、集電体4aは分極性電極層形成部20に到達し、分極性電極層形成工程がとり行われる。この分極性電極層形成工程では活性炭を含有する分極性電極が塗工され、アンカーコート層10上に分極性電極層5aが形成される。
【0107】
最後に、第2の乾燥部21にて再度乾燥された後、巻き取りロール22にて巻き取られて本実施例のキャパシタ用電極体の正極が完成する。
【0108】
上記製造方法によって得られた本実施例のキャパシタ用電極体は密着性に優れたものである。
【0109】
また、上記のごとくコロナ放電処理を行う際には放電量20W・min/m2以上350W・min/m2以下、放電度2w/cm2以上350w/cm2以下で行うことが好ましい。
【0110】
これは、放電量が20W・min/m2より小さく、また放電度が2w/cm2より小さい場合、コロナ放電処理による集電体4aの表面の活性化の効果が乏しいためである。また放電量が350W・min/m2より大きく、また放電度が350w/cm2より大きいとコロナ放電処理の際に集電体4aが熱せられ、集電体の強度が低下するためである。特に、コロナ放電処理後、アンカーコート層形成部18にてアンカーコート層10を形成するために集電体4aに圧力が加えられるため、放電量を350W・min/m2以下、放電度を350w/cm2以下として集電体4aの強度を保つことは重要である。
【0111】
その際、集電体4aが上記のように接触角8°以上50°以下となるように、上記コロナ放電処理を1回または複数回行うことにより確認しながら制御していくことが好ましい。
【0112】
なお、本実施例においては集電体4aの両面に表面改質部9やアンカーコート層10を形成する製造方法について説明したが、これに限ることなく集電体4aの片面のみに表面改質部9やアンカーコート層10を形成する際にも上記製造方法を適用することは可能である。
【0113】
また、本実施例では、水分接触工程とアンカーコート層形成工程とを同時に行う手順で本発明の説明を行ったが、本発明はこの方法に限定されず、水分接触工程は、アンカーコート層形成工程と別工程として行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明によるとキャパシタ用電極体の集電体と分極性電極層との密着性を向上させることができ、本発明によるキャパシタ用電極体を用いたキャパシタは内部抵抗が低減され、信頼性の高いものとなる。
【0115】
したがって、本発明によるキャパシタ用電極体は、キャパシタとして、自動車や各種電子機器、電気機器、産業機器に用いることに期待される。
【符号の説明】
【0116】
1 キャパシタ素子
2 外装体
3 封口部材
4a、4b 集電体
5a、5b 分極性電極層
6a、6b セパレータ
7a、7b リード線
8a、8b 孔
9 表面改質部
10 アンカーコート層
11 導電性粒子
12 バインダ
13 活性炭
14 巻き出しロール
15 ガイドローラ
16 搬送経路
17 コロナ放電処理部
18 アンカーコート層形成部
19 第1の乾燥部
20 分極性電極層形成部
21 第2の乾燥部
22 巻き取りロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体上に形成された導電材を含有するアンカーコート層と
前記アンカーコート層上に形成された分極性電極層とを備えたキャパシタ用電極体であり、
前記集電体はその表面に表面改質部を有し、この表面改質部の上に前記アンカーコート層が設けられ、この表面改質部の外表面は水に対する接触角が8°以上50°以下であるキャパシタ用電極体。
【請求項2】
前記アンカーコート層の厚みが1.2μm以下である請求項1に記載のキャパシタ用電極体。
【請求項3】
前記アンカーコート層の平均密度は0.4g/cm3以上である請求項1に記載のキャパシタ用電極体。
【請求項4】
前記集電体はプレーン箔である請求項1に記載のキャパシタ用電極体。
【請求項5】
前記アンカーコート層はバインダを含み、このバインダは水溶性樹脂である請求項1に記載のキャパシタ用電極体。
【請求項6】
正極および負極がセパレータを介して対向したキャパシタ素子と、
前記キャパシタ素子を電解液とともに収納する外装体とを少なくとも備えたキャパシタであって、
前記正極および負極の少なくとも一方は、
金属からなる集電体と、前記集電体上に形成されたアンカーコート層と、アンカーコート層上に形成された分極性電極層を備え、前記集電体はその表面に接触角が8°以上50°以下である表面改質部が設けられたキャパシタ。
【請求項7】
前記アンカーコート層形成工程において、塗工するスラリーを構成する前記導電性粒子と前記バインダとをスラリー作製前に分散媒体を用いずに分散する請求項6に記載のキャパシタ用電極体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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