説明

キャピラリーカラム接続部材及びエレクトロスプレーイオン源

【課題】
キャピラリーカラムとスプレーチップの間に溶液の滞留が生じにくい接続部材、及びエレクトロスプレーイオン源を提供する。
【解決手段】
液体クロマトグラフ質量分析装置の試料をイオン化するイオン源に配置され、試料を分離するキャピラリーカラムと試料をイオン源に噴霧するスプレーチップを接続するのに使用されるキャピラリーカラム接続部材であって、当該キャピラリーカラム接続部材は、筒状部材であり、両端に中央部よりも外径が小さな薄肉部を有し、内部に試料が通過する流路を備え、導電性部材からなるキャピラリーコネクタと、筒状部材であり、前記薄肉部外径以下の内径を有する弾性体からなる2つの支持部材とを有し、前記各支持部材を前記各薄肉部へ勘合接続し、前記各支持体の前記キャピラリーコネクタが接続されている端面の反対の端面から、前記キャピラリーカラム及びスプレーチップが勘合接続されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスプレーイオン化法を用いる液体クロマトグラフ質量分析装置において使用されるキャピラリーカラム接続部材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プロテオーム解析の分野において有効な手段として液体クロマトグラフ質量分析装置が注目を集めている。中でもエレクトロスプレーイオン化法を用いた液体クロマトグラフ質量分析装置は分子量10万程度以下の全分子量領域で測定が可能であり、生体関連物質、特にタンパク質や高分子量の複合糖質などの測定に有効な分析装置である。また、エレクトロスプレーイオン化法での測定に必要な試料量も数ピコモル(p mol)オーダーなので、生体由来の微量な試料に対しても大変有効である。
【0003】
エレクトロスプレーイオン化法は電気伝導性の液体を細管に通し、コネクタからスプレーノズル部に高電圧を印加することで生じた電位勾配により、帯電した均一で微細な液滴を噴霧させ、それらの液滴から溶媒を蒸発させることによって試料分子の多価イオンが生成するという原理に基づいている(参照:特許文献1,特許文献2)。
【0004】
近年、試料の微量化に伴い、液体クロマトグラフの分離カラムも低容量化が進んでいる。内容量の小さい分離カラムとして、キャピラリーカラムが一般的に用いられている。液体クロマトグラフの分離カラムとして、このキャピラリーカラムを用いた液体クロマトグラフ質量分析装置としては、例えば非特許文献1のような例が報告されている。
【0005】
現在、キャピラリーカラムとエレクトロスプレーイオン源のスプレーチップ(試料を噴霧する細管)を接続するコネクタの様式として、一般的にユニオン接続が用いられている。ユニオン接続とは、キャピラリーカラムおよびスプレーチップを金属性のユニオンの両端に、かしめて接続する方式をいう。
【0006】
【特許文献1】特開2003−203599号公報
【特許文献2】特開2004−139962号公報
【非特許文献1】Anal.Chem.2003,75,3596-3605 “High-Efficiency On-Line Solid-Phase Extraction Coupling to 15-150μm-i.d. Column Liquid Chromatography forProteomic Analysis”Richard.D.Smith et al.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ユニオン接続は、図1のようにキャピラリーカラム4の片端を樹脂製チューブ5内に挿入し、その上からフェラル2とナット1を用いてユニオンのボディ3に締めこむことで接続する。図1には図示しないが、スプレーチップも同様に、スプレーチップの片端を樹脂製チューブ5内に挿入し、その上からフェラル2とナット1を用いてユニオンのボディ3に締めこむことで接続する。キャピラリーカラム4やスプレーチップを樹脂製チューブ5内に挿入してから、ユニオンに挿入する理由は、低流量域向けのキャピラリーカラムおよびスプレーチップの外径と、ユニオンの孔径の大きさに差があるためである。
【0008】
また、市販されているユニオンのボディ3に設けられた孔径は、現在最も小さい孔径のものでもφ150μmであり、低流量域向けの内径数十μmのキャピラリーカラム4を用いると、キャピラリーカラム4およびスプレーチップの内径よりもユニオンの孔径が大きいことで、キャピラリーカラムとユニオンとの接合面の段差の部分において溶液の滞留がおこり易くなる。溶液の滞留は、特に微量な試料を測定する分析においては、分析精度に大きく影響する。液体クロマトグラフ質量分析装置の場合、具体的にはピーク幅の広がりにより信号強度が減少し、感度低下の直接原因となる。
【0009】
ここで、図2(A)に、ユニオン接続において、キャピラリーカラム4およびスプレーチップ8をかしめた場合の図を、また、図2(B)に、図2(A)のAの部分の拡大図を示す。ユニオン接続において、キャピラリーカラム4およびスプレーチップ8をかしめる際に用いられる樹脂製チューブ5は、作業者自らがパイプカッター等を用いて切断する場合が多いが、端面を凹凸無くフラットに切断するのは難しい。端面に凹凸のある状態でユニオンと接続した場合、図2(B)に示すように、Bの部分で、ボディ3内部端面と樹脂製チューブ5端面との接続面に隙間が生じ、その部分がデッドボリュームとなる。また、かしめる際にキャピラリーカラム4やスプレーチップ8の端面と樹脂製チューブ5の端面にずれ等が生じ易く、特に、キャピラリーカラム4やスプレーチップ8の端面が樹脂製チューブ5の端面よりも樹脂製チューブ5内部側にずれると、大きなデッドボリュームとなる。
【0010】
プロテオーム解析をはじめとする分析化学の分野において、サンプルの微小化や環境への配慮から、液体クロマトグラフに用いられる流量は低流量化してきている。そのためこれまでのマイクロリットルオーダーでは問題にならなかったデッドボリュームも溶液の滞留と共にナノリットルオーダーでは分析精度に深刻な影響を及ぼす。
【0011】
以上の様な背景から、液体クロマトグラフ質量分析装置において精度の良い分析を行うには、デッドボリュームや溶液の滞留が生じにくい接続部構造を有し、なおかつ電圧を印加することのできるキャピラリーコネクタが必要である。
【0012】
本発明の目的は、上記課題を解決し、キャピラリーカラムとスプレーチップの接続時にデッドボリュームや溶液の滞留が生じにくい接続部材、及びそれを用いた液体クロマトグラフ質量分析装置のエレクトロスプレーイオン源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を解決するための本発明の特徴は、液体クロマトグラフ質量分析装置の試料をイオン化するイオン源に配置され、試料を分離するキャピラリーカラムと試料をイオン源に噴霧するスプレーチップを接続するのに使用されるキャピラリーカラム接続部材であって、当該キャピラリーカラム接続部材は、筒状部材であり、両端に中央部よりも外径が小さな薄肉部を有し、内部に試料が通過する流路を備え、導電性部材からなるキャピラリーコネクタと、筒状部材であり、前記薄肉部外径以下の内径を有する弾性体からなる2つの支持部材とを有し、前記各支持部材を前記各薄肉部へ勘合接続し、前記各支持体の前記キャピラリーコネクタが接続されている端面の反対の端面から、前記キャピラリーカラム及びスプレーチップが勘合接続されることである。
【0014】
また、液体クロマトグラフ質量分析装置で用いられるエレクトロスプレーイオン源において、試料を噴霧するためのスプレーチップを固定するための移動可能な導電性部材からなるステージ台と、当該ステージ台に接続され、前記スプレーチップの固定位置を決めるための導電性部材からなる支持台と、当該支持台に接続される前記キャピラリーカラム接続部材と、前記ステージ台に対して電圧を印加する電圧印加手段と、を備え、前記支持台には、前記キャピラリーカラム接続部材の前記キャピラリーコネクタが接続されることである。
【0015】
前記構成によれば、キャピラリーカラムとスプレーチップの接続において、ねじ締めの作業が不要である簡便な接続を実現し、且つ、接続時のデッドボリュームおよび溶液の滞留を最小限に抑える構造を提供できる。更には、スプレーチップに対する電圧印加も容易に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の構成を用いることにより、キャピラリーコネクタとスプレーチップ間のデッドボリュームを低減でき、高感度な測定データを得ることが出来る。
【0017】
また、スプレーチップ直前で電圧を印加することが可能であるので、キャピラリーカラムの長さに関わらず安定した溶液の噴霧を実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の構造及び機能について詳細を述べる。
【0019】
本発明のキャピラリーコネクタの概要を図3に示す。キャピラリーコネクタ6は、大きさの異なる外径を有した中空の筒状構造を特徴とする。材質は導電性材料、例えば金属や導電性ポリマーが使用される。両端の径が細い部分の内径は30μmで、外径は0.375mm であり、この外径は一般的に用いられている低流量向けのキャピラリーカラムの外径と同程度である。また中心部の外径の太い部分は内径30μm、外径は1.58mm であり、この外径はチューブ状(筒状)の支持体7の外径と同程度である。
【0020】
キャピラリーコネクタ6の内径は、ここでは30μmとしたが、使用するキャピラリーカラムの内径の大きさに合わせたものを使用する。
【0021】
また、スプレーチップ8の内径は、噴霧の性能向上には、小さいほうが良いため、使用するキャピラリーカラムの内径と同等、またはそれ以下のものを用いる。材質は、加工のし易いガラスなどを用いる。
【0022】
上記のように、キャピラリーカラムの内径に、キャピラリーコネクタ6とスプレーチップ8の内径を合わせることで、溶液の滞留の要因を低減できる。また、低流量用のキャピラリーカラムは、その小ささから加工が困難であり、大きさの自由度は限られるが、キャピラリーコネクタ6とスプレーチップ8は中空であるため、加工がし易く、容易にキャピラリーカラムの大きさに合わせて作成することが可能となる。
【0023】
キャピラリーコネクタ6とキャピラリーカラム4及びスプレーチップ8を接続する際、チューブ状の支持体7を用いる。キャピラリーカラム4およびスプレーチップ8とキャピラリーコネクタ6を押しつぶすことなく、ある程度の強度をもって接続支持するために、このチューブ状支持体7は弾性体である必要がある。また、キャピラリーカラム4およびスプレーチップ8と、キャピラリーコネクタ6が隙間無く接続されていることを目視確認するために、この支持体は、透明もしくは半透明であることが望ましい。具体的な材質としては、入手のし易さおよび加工のし易さの面から汎用のフッ素樹脂が適している。また、支持体7内に形成される流路の内径は、キャピラリーコネクタ6の両端の径が細い部分の外径以下であり、弾性体であることと相まって、支持体7がキャピラリーコネクタ6にしっかり接続されるようにする。
【0024】
次に、接続の手順について述べる。樹脂製チューブを1cm程度に切断して作製した支持体7を2本用意する。キャピラリーカラム4およびスプレーチップ8の端面が平らでバリ等のないことを確認する。キャピラリーコネクタ6の外径の細い部分に、用意した2本の支持体7を図3のように挿入する。キャピラリーカラム4の片端を支持体7の一つに挿入する。このとき、先に挿入したキャピラリーコネクタ6と端面が合うまで挿入し、隙間の無いことを目視で確認する。スプレーチップ8に付いても同様に接続することで、図3の状態となる。
【0025】
本発明のキャピラリーコネクタ6を搭載した液体クロマトグラフ質量分析装置の概略図を図4に示す。移動相9は、送液ポンプ10によって送液され、インジェクター11より、移動相9に対して試料が注入される。注入された試料は、キャピラリーカラム4を通る間に成分毎に分離され、キャピラリーコネクタ6を経てスプレーチップ8によって噴霧され、イオン化される。キャピラリーコネクタ6へは、電圧印加部12より高電圧が印加される。イオン化された試料は、質量分析部13によって質量分析され、マススペクトルを与える。
【0026】
キャピラリーコネクタ6は、専用の部品を取り付けることにより、イオン源に組み込まれ、高電圧を印加することが可能である。イオン源の概略を図5に示す。キャピラリーコネクタ6は、固定ねじ14にて中空の金属部材15に固定される。この金属部材15をガイド板16とガイドホールダ18で形成される溝に嵌め込んでステージ17に固定する。ガイド板16には、スプレーチップ8側のチューブ状支持体7貫通するような開口部(孔または溝)が形成されている。ステージ17は、スプレーチップ8の位置決めを行うために、X,Y,Zの3方向に移動可能な移動台であり、導電性の部材で形成される。このステージ17に電圧印加部12より高電圧を印加することで、キャピラリーコネクタ6内に送液されている移動相および試料に高電圧が印加される。
【0027】
本発明のキャピラリーコネクタ6は、導電性材料を使用しているため、図5のような構成を採ることで、コネクタ内部を通過する試料溶液に電圧を印加することが出来、エレクトロスプレーイオン化法において安定した溶液の噴霧が実現できる。
【0028】
図6に、本発明のキャピラリーコネクタ6を用いて標準サンプルを質量分析部13で測定して得られたマススペクトルをトータルイオンクロマトグラムで示す。ピークの半値幅は0.2 分程度と、非常にシャープなピークになっている。図7には、図2のような従来のユニオンを使用して同様の標準サンプルを質量分析部13で測定して得られたトータルイオンクロマトグラムが示される。図7のクロマトグラムのピーク半値幅が0.9 分程度であるのと比べると、図6のクロマトグラムは、ピーク形状の良いクロマトグラムが得られることが分かる。
【0029】
以上、説明したように、本発明のキャピラリーコネクタを使用することで、従来必要であったユニオンと樹脂製チューブを使用すること無くキャピラリーカラムを接続することができるので、キャピラリーカラムとスプレーチップ間でデッドボリュームを生じる可能性を低減でき、例えば、ナノ流量の液体クロマトグラフ・質量分析計においても感度の良い高精度なデータを取得することが出来る。また、本発明のキャピラリーコネクタは導電性でありスプレーチップ直前で電圧を印加出来ることから、キャピラリーカラムの長さに関係なく安定した溶液の噴霧が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来のユニオン接続の断面図である。
【図2(A)】従来のユニオン接続の断面図である。
【図2(B)】従来のユニオン接続の一部拡大図である。
【図3】本発明の一実施例の断面図である。
【図4】液体クロマトグラフ質量分析装置の概略図である。
【図5】本発明のイオン源の概略図である。
【図6】本発明を用いて得られたマススペクトルである。
【図7】従来のユニオンを用いて得られたマススペクトルである。
【符号の説明】
【0031】
1…ナット、2…フェラル、3…ボディ、4…キャピラリーカラム、5…樹脂製チューブ、6…キャピラリーコネクタ、7…支持体、8…スプレーチップ、9…移動相、10…送液ポンプ、11…インジェクター、12…電圧印加部、13…質量分析部、14…固定ねじ、15…金属部材、16…ガイド板、17…ステージ、18…ガイドホールダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフ質量分析装置の試料をイオン化するイオン源に配置され、試料を分離するキャピラリーカラムと試料をイオン源に噴霧するスプレーチップを接続するのに使用されるキャピラリーカラム接続部材であって、
当該キャピラリーカラム接続部材は、筒状部材であり、両端に中央部よりも外径が小さな薄肉部を有し、内部に試料が通過する流路を備え、導電性部材からなるキャピラリーコネクタと、
筒状部材であり、前記薄肉部外径以下の内径を有する弾性体からなる2つの支持部材とを有し、
前記各支持部材を前記各薄肉部へ勘合接続し、前記各支持体の前記キャピラリーコネクタが接続されている端面の反対の端面から、前記キャピラリーカラム及びスプレーチップが勘合接続されることを特徴とするキャピラリーカラム接続部材。
【請求項2】
請求項1において、
前記支持部材は、透明または半透明の部材からなることを特徴とするキャピラリーカラム接続部材。
【請求項3】
請求項1において、
前記キャピラリーカラム接続部材と、前記キャピラリーカラムと、前記スプレーチップの内径は、同じ大きさであることを特徴とするキャピラリーカラム接続部材。
【請求項4】
液体クロマトグラフ質量分析装置で用いられるエレクトロスプレーイオン源において、
試料を噴霧するためのスプレーチップを固定するための移動可能な導電性部材からなるステージ台と、
当該ステージ台に接続され、前記スプレーチップの固定位置を決めるための導電性部材からなる支持台と、
当該支持台に接続される前記請求項1に記載されたキャピラリーカラム接続部材と、
前記ステージ台に対して電圧を印加する電圧印加手段と、を備え、
前記支持台には、前記キャピラリーカラム接続部材の前記キャピラリーコネクタが接続されることを特徴とするエレクトロスプレーイオン源。


【図1】
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【図2(A)】
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【図2(B)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−153603(P2006−153603A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−343271(P2004−343271)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】