説明

キャブマウント構造

【課題】キャブとフレームとが締結された状態において、マウントブラケットの車両前後方向の振動を抑制し、マウントブラケットの共振周波数を高くすることにより、フレーム側からキャブ側への振動伝達を効果的に抑制する。
【解決手段】車両のキャブ11を車両のフレーム14に対して分離可能に締結するキャブマウント構造10において、フレーム側マウントブラケット19の受部25に立設されたアーム27の前部27f及び後部27bに各々、防振用の第二弾性部材30が配設され、キャブ側マウントブラケット17の係合部22に、キャブ側マウントブラケット17の係合部22がフレーム側マウントブラケット19の受部25に係合された状態において第二弾性部材30と係合するガイド板31が立設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のキャブを車両のフレームに対して分離可能に締結するキャブマウント構造に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックのキャブマウントは、路面からキャブへの振動伝達やエンジンからキャブへの振動伝達を低減させるためのものであり、キャブに計4個(車両前側2個、車両後側2個)設けられている。そして、キャブの下にあるエンジンのメンテナンスが容易に行えるように、キャブは車両前側のキャブマウントを回転中心としてチルト可能な構造となっている。一方、車両後側のキャブマウントは、フレーム側とキャブ側とに分割可能な構造となっている。このようなキャブマウント構造は、特許文献1に記載されている。
【0003】
従来例に係るキャブマウント構造を図5に示す。図5に示す従来例に係るキャブマウント構造50では、車両後側のキャブマウント51は、車両のキャブ52に設けられ、略U字状に形成された係合部53を有するキャブ側マウントブラケット54と、車両のフレーム55に固定され、車両前後方向に沿って延びる筒状のマウントラバー56と、マウントラバー56に装着され、略U字状に形成されてキャブ側マウントブラケット54の係合部53を受ける受部57を有するフレーム側マウントブラケット58と、フレーム側マウントブラケット58の受部57の内側部に配設された防振用のクッションラバー59とを有している。キャブ側マウントブラケット54の係合部53をフレーム側マウントブラケット58の受部57に係合させた状態でキャブ52に設けられたフック60でフレーム側マウントブラケット58に設けられたアーム61を引き上げることで、キャブ側マウントブラケット54とフレーム側マウントブラケット58との間でクッションラバー59が押しつぶされ、キャブ側マウントブラケット54とフレーム側マウントブラケット58とが締結される。このようなキャブマウント51は、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−145115号公報
【特許文献2】特開2008−132834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5に示す従来例に係るキャブマウント構造50では、キャブ52とフレーム55とが締結された状態において、キャブ側マウントブラケット54とフレーム側マウントブラケット58との間にはクッションラバー59が挟まっているため、キャブ52とフレーム55とは剛に締結された状態になっておらず、特にキャブ52の車両前後方向の支持剛性が低い。そのため、車両前後方向の振動がマウントブラケット51(キャブ側マウントブラケット54、フレーム側マウントブラケット58)に特定の周波数で発生する。具体的には、キャブ側マウントブラケット54とフレーム側マウントブラケット58とが車両前後方向に相対的にずれるような振動が発生する。
【0006】
マウントブラケットが振動すると、その周波数で振動伝達率を増幅させてしまい、エンジンからの振動がキャブに伝わりやすくなり、キャブ内部の騒音悪化を招く。特に、マウントブラケットの共振周波数とエンジンの回転2次成分とが一致するエンジン回転域でキャブ内部の騒音悪化を招いていた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、キャブとフレームとが締結された状態において、マウントブラケットの車両前後方向の振動を抑制し、マウントブラケットの共振周波数を高くすることにより、フレーム側からキャブ側への振動伝達を効果的に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明は、車両のキャブを前記車両のフレームに対して分離可能に締結するキャブマウント構造であって、前記キャブに設けられ、車両正面視でU字状に形成された係合部を有するキャブ側マウントブラケットと、前記フレームに設けられ、車両正面視でU字状に形成されて前記係合部を受ける受部を有するフレーム側マウントブラケットと、該フレーム側マウントブラケットの受部の内側部に配設された防振用の第一弾性部材と、前記フレーム側マウントブラケットの受部の底部に立設されたアームと、前記キャブに設けられ、前記キャブ側マウントブラケットの係合部が前記フレーム側マウントブラケットの受部に係合された状態で前記キャブ側マウントブラケットと前記フレーム側マウントブラケットとを締結すべく、前記アームを引き上げるためのフックとを備えたキャブマウント構造において、前記アームの前部及び後部に各々配設された防振用の第二弾性部材と、前記キャブ側マウントブラケットの係合部の底部に立設され、前記キャブ側マウントブラケットの係合部が前記フレーム側マウントブラケットの受部に係合された状態において前記第二弾性部材と係合するガイド板とを備えたものである。
【0009】
前記第二弾性部材と前記ガイド板との当接面が、車両前後方向に傾斜したテーパー状とされても良い。
【0010】
前記キャブ側マウントブラケットの係合部の底部に、前記キャブ側マウントブラケットと前記フレーム側マウントブラケットとの締結時に前記アームが挿通される挿通穴が貫通形成され、前記ガイド板が、前記キャブ側マウントブラケットの係合部の底部に前記挿通穴を車両前後方向に挟んで一対立設されるものであっても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キャブとフレームとが締結された状態において、マウントブラケットの車両前後方向の振動を抑制し、マウントブラケットの共振周波数を高くすることにより、フレーム側からキャブ側への振動伝達を効果的に抑制することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るキャブマウント構造の斜視図である。
【図2】(a)はフレーム側マウントブラケットの斜視図であり、(b)はキャブ側マウントブラケットの斜視図である。
【図3】図1のA−A線矢視断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るキャブマウント構造が適用されるトラックの概略図である。
【図5】従来例に係るキャブマウント構造の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0014】
なお、図1及び図2中、矢印xが車両前後方向を示し、矢印yが車両幅方向を示し、矢印zが車両高さ方向(上下方向)を示している。また、図3及び図4中、矢印Frが車両前方向を示している。
【0015】
図4に示すように、本実施形態に係るキャブマウント構造10は、車両(本実施形態では、トラック)のキャブ11の車両前端部に車両幅方向に間隔を隔てて配設された一対の車両前側のキャブマウント12と、キャブ11の車両後端部に車両幅方向に間隔を隔てて配設された一対の車両後側のキャブマウント13とを備えている。
【0016】
車両前側の各キャブマウント12は、トラックのフレーム14に固定され、車両幅方向に沿って延びる筒状のマウントラバー15を有している。マウントラバー15には、キャブ11に装着されたトーションバー16が挿通されている。この構成により、キャブ11は車両前側のキャブマウント12(トーションバー16)を回転中心としてフレーム14に対してチルト可能な構造となっている。
【0017】
車両後側の各キャブマウント13は、キャブ11に設けられたキャブ側マウントブラケット17と、フレーム14に固定され、車両前後方向に沿って延びる筒状のマウントラバー18と、マウントラバー18に装着されたフレーム側マウントブラケット19と、キャブ側マウントブラケット17とフレーム側マウントブラケット19との間に介設される防振用の第一クッションラバー(第一弾性部材)20(図1及び図2参照)と、キャブ側マウントブラケット17とフレーム側マウントブラケット19とを分離可能に締結する締結機構21(図1及び図3参照)とを有している。
【0018】
図1から図3に示すように、キャブ側マウントブラケット17は、車両正面視(車両背面視)で略U字状に形成された係合部22と、係合部22の上部に車両幅方向に間隔を隔てて設けられ、上方向に延びる一対の支持部23と、係合部22の底部に貫通形成され、キャブ側マウントブラケット17とフレーム側マウントブラケット19との締結時に後述するアーム27が挿通される挿通穴24とを有している。キャブ側マウントブラケット17の支持部23は、キャブ11の下面と繋がっている。本実施形態では、キャブ側マウントブラケット17の係合部22の外側部は、上方向に向かうにつれてキャブ側マウントブラケット17の幅方向中心側から幅方向外側に傾斜したテーパー状とされている。キャブ側マウントブラケット17は、例えば、スチール等の金属材料からなる。
【0019】
フレーム側マウントブラケット19は、車両正面視(車両背面視)で略U字状に形成されてキャブ側マウントブラケット17の係合部22を受ける受部25と、受部25の下面に車両前後方向に間隔を隔てて設けられ、下方向に延びる一対のフランジ部26と、受部25の底部に立設されたアーム27とを有している。フレーム側マウントブラケット19のフランジ部26は、マウントラバー18に装着された回動軸28に固定されている。本実施形態では、フレーム側マウントブラケット19の受部25の内側部は、上方向に向かうにつれてフレーム側マウントブラケット19の幅方向中心側から幅方向外側に傾斜したテーパー状とされている。フレーム側マウントブラケット19は、例えば、スチール等の金属材料からなる。
【0020】
第一クッションラバー20は、板状に形成されており、フレーム側マウントブラケット19の受部25の内側部に、ボルト及びナット(図示せず)によって取り付けられている。第一クッションラバー20は、例えば、天然ゴムや合成ゴム等のゴム材料からなる。
【0021】
締結機構21は、フレーム側マウントブラケット19の受部25の底部に立設されたアーム27と、キャブ11に設けられ、アーム27を引き上げるためのフック29とから構成されている。
【0022】
更に、車両後側の各キャブマウント13は、フレーム側マウントブラケット19に設けられたアーム27の前部27f前面及び後部27b後面に各々配設された防振用の第二クッションラバー(第二弾性部材)30と、キャブ側マウントブラケット17の係合部22の底部に立設され、キャブ側マウントブラケット17の係合部22がフレーム側マウントブラケット19の受部25に係合された状態において第二クッションラバー30と係合するガイド板31とを有している。
【0023】
第二クッションラバー30は、板状に形成されており、フレーム側マウントブラケット19に設けられたアーム27の前部27f及び後部27bに各々、ボルト及びナット(図示せず)によって取り付けられている。本実施形態では、第二クッションラバー30におけるガイド板31との当接面32(図3参照)は、上方向に向かうにつれてアーム27の前後方向外側から前後方向中心側(車両前後方向)に傾斜したテーパー状とされている。第二クッションラバー30は、例えば、天然ゴムや合成ゴム等のゴム材料からなる。
【0024】
ガイド板31は、キャブ側マウントブラケット17の係合部22の底部に挿通穴24を車両前後方向に挟んで一対立設されている。本実施形態では、ガイド板31における第二クッションラバー30との当接面33(図3参照)は、上方向に向かうにつれてアーム27の前後方向外側から前後方向中心側(車両前後方向)に傾斜したテーパー状とされている。また、本実施形態では、ガイド板31は、キャブ側マウントブラケット17と一体に形成されている。
【0025】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0026】
キャブ11とフレーム14との締結方法は、図5に示す従来例に係るキャブマウント構造50と同様である。即ち、キャブ側マウントブラケット17の係合部22がフレーム側マウントブラケット19の受部25に係合された状態で、キャブ11に設けられたフック29でフレーム側マウントブラケット19に設けられたアーム27を引き上げることで、キャブ側マウントブラケット17の係合部22の外側部とフレーム側マウントブラケット19の受部25の内側部との間で第一クッションラバー20が押しつぶされると共に、フレーム側マウントブラケット19に設けたアーム27とキャブ側マウントブラケット17に設けたガイド板31との間で第二クッションラバー30が押しつぶされ、キャブ側マウントブラケット17とフレーム側マウントブラケット19とが締結される。
【0027】
本実施形態に係るキャブマウント構造10では、キャブ側マウントブラケット17とフレーム側マウントブラケット19とが締結された状態において、第一クッションラバー20とキャブ側マウントブラケット17とが密着することにより、第一クッションラバー20によってマウントブラケット(キャブ側マウントブラケット17、フレーム側マウントブラケット19)の車両幅方向の振動が抑制される。
【0028】
また、本実施形態に係るキャブマウント構造10では、フレーム側マウントブラケット19側には第二クッションラバー30を設け、キャブ側マウントブラケット17側には第二クッションラバー30と係合するガイド板31を設けることで、キャブ側マウントブラケット17とフレーム側マウントブラケット19とが締結された状態において、第二クッションラバー30とガイド板31とが密着することにより、第二クッションラバー30によってマウントブラケット(キャブ側マウントブラケット17、フレーム側マウントブラケット19)の車両前後方向の振動が抑制される。
【0029】
要するに、本実施形態に係るキャブマウント構造10では、キャブ側マウントブラケット17とフレーム側マウントブラケット19との締結時に、フレーム側マウントブラケット19に設けた第一クッションラバー20とキャブ側マウントブラケット17の係合部22とが密着し、キャブ側マウントブラケット17の車両幅方向の動きが拘束されると共に、フレーム側マウントブラケット19に設けた第二クッションラバー30とキャブ側マウントブラケット17に設けたガイド板31とが密着し、キャブ側マウントブラケット17の車両前後方向の動きが拘束されるため、マウントブラケット(キャブ側マウントブラケット17、フレーム側マウントブラケット19)の共振周波数をエンジンの回転2次成分よりも十分高くすることが可能となり、フレーム14側からキャブ11側への振動伝達を効果的に抑制することが可能となる。従って、本実施形態に係るキャブマウント構造10によれば、キャブ11内部の騒音悪化を抑制することが可能となる。
【0030】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【0031】
例えば、第一クッションラバー20を、フレーム側マウントブラケット19の受部25の内側部に接着等によって取り付けると共に、第二クッションラバー30を、アーム27の前部27f及び後部27bに接着等によって取り付けるようにしても良い。
【0032】
また、フレーム側マウントブラケット19をマウントラバー18を介してフレーム14に取り付けるとしたがこれには限定はされず、フレーム側マウントブラケット19をフレーム14に直接取り付けるようにしても良い。フレーム側マウントブラケット19に設けた第一クッションラバー20及び第二クッションラバー30によってキャブ11における所望の防振効果が得られるようにチューニングすることで、マウントラバー18を省略し得る。
【符号の説明】
【0033】
10 キャブマウント構造
11 キャブ
14 フレーム
17 キャブ側マウントブラケット
19 フレーム側マウントブラケット
20 第一クッションラバー(第一弾性部材)
21 締結機構
22 係合部
24 挿通穴
25 受部
27 アーム
29 フック
30 第二クッションラバー(第二弾性部材)
31 ガイド板
32 当接面(第二クッションラバー側)
33 当接面(ガイド板側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のキャブを前記車両のフレームに対して分離可能に締結するキャブマウント構造であって、
前記キャブに設けられ、車両正面視でU字状に形成された係合部を有するキャブ側マウントブラケットと、前記フレームに設けられ、車両正面視でU字状に形成されて前記係合部を受ける受部を有するフレーム側マウントブラケットと、該フレーム側マウントブラケットの受部の内側部に配設された防振用の第一弾性部材と、前記フレーム側マウントブラケットの受部の底部に立設されたアームと、前記キャブに設けられ、前記キャブ側マウントブラケットの係合部が前記フレーム側マウントブラケットの受部に係合された状態で前記キャブ側マウントブラケットと前記フレーム側マウントブラケットとを締結すべく、前記アームを引き上げるためのフックとを備えたキャブマウント構造において、
前記アームの前部及び後部に各々配設された防振用の第二弾性部材と、前記キャブ側マウントブラケットの係合部の底部に立設され、前記キャブ側マウントブラケットの係合部が前記フレーム側マウントブラケットの受部に係合された状態において前記第二弾性部材と係合するガイド板とを備えたことを特徴とするキャブマウント構造。
【請求項2】
前記第二弾性部材と前記ガイド板との当接面が、車両前後方向に傾斜したテーパー状とされる請求項1に記載のキャブマウント構造。
【請求項3】
前記キャブ側マウントブラケットの係合部の底部に、前記キャブ側マウントブラケットと前記フレーム側マウントブラケットとの締結時に前記アームが挿通される挿通穴が貫通形成され、
前記ガイド板が、前記キャブ側マウントブラケットの係合部の底部に前記挿通穴を車両前後方向に挟んで一対立設される
請求項1又は2に記載のキャブマウント構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−224276(P2012−224276A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95149(P2011−95149)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】